シネマヴェーラ渋谷で、消えゆく曽根中生!?
65年若松プロダクション若松孝二監督『壁の中の秘事(16)』
とある団地。山部信子(藤野博子)は、かって共に平和運動を通じて知り合った永井敏夫(寺島幹夫)と交際していた。若い頃、スターリンの肖像の前で、永井に注射を打つ信子。「まだこだわっているのか?僕のケロイドに。」「あなたは広島の象徴よ、私たちの戦いの象徴だわ」永井の背中にあるケロイドに愛おしそうに唇を寄せる信子。それから何年も過ぎ、信子は人妻になっていたが再会し不倫関係を続けていた。
団地の別の部屋、机に向かう浪人生の内田誠(安川洋一)、隣の部屋で姉の朝子(可能かず子)が美容体操をしている。「ウルサくて勉強が出来ないよ」「予備校に行けばいいじゃない。私は何で予備校に行かないのか知っているんだ」「交換台と団地の往復をしているだけでつまらない」朝子は、電話の交換手をしているようだ。ホットパンツと身体の線がぴったり出たスヤツの挑発的な服の姉は、鬱屈した弟にはかなり刺激的だ。
望遠鏡で向かいの部屋を覗く誠。信子の部屋だ。永井「日本の女は幸せだよ」「あなた変わったわね」「別に変わらないよ」
その夜、信子は夫山部健男(吉沢京夫)と話している。「ああイライラする」「欲求不満のイライラだろ」「あなたは私を疑ったことはある?私、牛乳配達に興味を持っているのよ」「下らないことを言わないでくれよ」「こんな壁に囲まれた毎日は嫌だわ。私だって昔は平和活動をしていたのよ。団地だって、主婦だって活動できるかもしれない」
「俺が組合活動しているのを、家庭で支えてくれよ」「随分と封建的な考えね。組合で糾弾されたりしないの?」「そんなのは、何年も昔の話だよ」
誠の父親完治(鈴木通人)がテレビを見ている。母親みよ(峰阿矢)が向いたリンゴをつまみ食いする誠。「誠何です」「父さんが家にいる時は、必ず新聞かテレビを見ているんだな」「お父さんに失礼ですよ」見知らぬ男(野上正義)が、朝子のハンドバッグを届けに来る。
信子の部屋のベランダに上の階の主婦宮子(槙伸子)の派手な下着が落ちてきた。届ける信子に、宮子はお茶でもと誘うが、断る信子。再び下着が落ちてくる。宮子がブザーを押し、また落としてしまったので、取らせてくれと言う。玄関に入ってきそうで、私が取ってきますと信子。下着を渡すと、宮子は、フランスにいる友人が下着を送ってくるのだと言う。
数日後、宮子は自殺する。
75年日活曽根中生監督『大人のオモチャダッチワイフレポート(17)』
チープなテレビのニュース番組。「第6次極地観測隊の北氷船平和丸が氷に閉じ込められ、帰還できなくなりました。柳瀬隊長以下12名の隊員の安否が気遣われます・・。観測隊かBB5作戦を決行せりという無線が発信されましたが、意味は不明です。」
北極(笑)観測隊基地。そこでは井上陽水の「氷の世界」が大音量で流されている。隊員は長い閉塞的な生活に限界を超えていた。ただただ米だけを食べ続ける隊員。ブルーフィルムを見続ける隊員。大森医師(益富信孝)は、隊長の柳瀬(木島一郎)に「連中を救えるのはBBだけです」「許せん!君は神を冒涜するつもりか!!」「隊長は、発情したオスの気持ちが分らないのですか!!」暫く後「悪く思わないで下さい。私は医師として、隊長が心神耗弱状態にあると診断します。暫くの間、眠っていて下さい。」柳瀬に睡眠薬を注射する大森。柳瀬が眠ったのを確認すると、大森は、隊員たちのところに行き、「よし!!!やりたまえ!!」と言う。小笠原(粟津號)や隊員(谷文太、佐藤了)の顔に笑顔が浮かぶ。
小笠原が発電室に入る。「1、スイッチを押す・・・。」灯りがつくと、奥のベッドにダッチワイフが置いてある。「2、脱ぐ!・・・いや脱がす」ダッチワイフが動き始める。「私、BB(ベベ)よ・・・。外は寒かったでしょう・・・。あたし燃えてるの・・・。抱いて・・・。キスして・・・あなたってとても上手・・・。思い出すわ、あなたとの最初の夜のこと・・・。あっ、よして!・・・あぁ、いいわ、あ~ん。あなたが好き!!。あーあー、あーあー。アタシ幸せ。あなた、お休みなさい・・・。」キュルキュルキュル(テープが巻き戻す音)。放心したように、隊員たちの所に戻る小笠原。「おい!!バージンだったか?おいっ!おいっ!」
東京、車が停まる。降りてくる大森。大人の玩具屋に入って行く。「あっ、大森先生!いらっしゃいませ」「社長は?」「3Fです」三階まで上がる大森、山本社長(長弘)が声を掛ける「いや例の娘が、お役に立ったと来て喜んでいるんですよ。いや、今のダッチワイフは、官費で作っているんで、べら棒な値段ですが、量産すれば、カラーテレビ位の値段になりますよ」「次回も、極秘でお願いしますよ。フィルムを見せてもらおうか」ブルーフィルムを上映する社長。「こりゃ72年頃の古典モノなんですが、なかなかいいもんです」電話を掛ける社長「おっ、久(きゅう)さんかい?例の人形の件で会わせたい人がいるんだ。いいかい?」社長は大森に尋ねる「あの娘の抱き心地はいかがでした?」「私は医者なので、故障を直したり、洗ってやったりしただけだ。」「今度の娘は、最初に先生が試してみて下さいよ」「そんなつもりは、毛頭ありはしない・・・」ピンサロにいる社長と大森、ピンサロ嬢「おしぼりお願いしま~す!!おしぼり一本千円よ・・・。ねえ、せんせえっ。先生って社長?学校の先生?お医者さん?」社長「国立医大の先生だよ。」「えーっ、先生すてきっ!!」「ベベのモデルは誰なんだい」「久さんの亡くなった奥さんって聞きましたが・・・」「そろそろ私は帰るよ」帰って行く大森。入れ違いに、人形師の久間(織田俊彦)が入ってくる。「久さん遅いよ。入れ違いだったよ。」「そうか、あそこですれ違ったのがそうだったのか。ありゃ、悪人面だ。」
国立医大附属病院、大森研究室。看護婦とセックスをしながら、色々な性具を試す大森。時々、看護婦の膣内に体温計を挿入し、体温を測る。インターホンから「大森先生、回診のお時間です」「わかったすぐ行く」看護婦の股間に、ローターを差し込んで「いつもとどうかな?異物感はあるか?インターホン越しに盗み聞きしていた婦長(藤ひろ子)、看護婦が「先生!愛しています」と叫ぶのを聞いて、「馬鹿!」と吐き捨てる。回診の時に横にいる婦長が「先生ジッパーが開いています。異物の挟まった感じってどういうことですの?私俄然、興味を持ってしまいました。」「私の研究の一環で・・。」「ぜひ、私も協力させてください」「では、今度」部下の医師桑田(竹内伸志)に回診が終わったら、車を手配しておくように命じる大森。
車をある一角に停め「このあたりに久尾ってウチがありませんか?」と尋ねる大森。ブザーを押す大森、家の横から出て来た久尾「あっ、この間の・・。先生どうぞ。」工房の中に若い男(西沢俊夫)が作業をしている。「こいつは哲ってんですよ」大森は鞄から、黒い分厚いノートを出して「これは、私の意見をまとめたものだ、検討してほしい。仕込みのテープは3パターンは欲しい。処女、年増、若妻タイプ。処女は腰を使うかね。ギヤを使って変化できるようにしてほしい。国家的なプロジェクトだ。いくら掛ってもいいんだ。」「哲、これに目を通しておきな」立ったまま眠っている娘に久尾は近づいて「おい!起きろよ」下半身には石膏が固まっているのを剥がす。「痛い!!」久尾、女の股間を見て「ああ、こりゃひでえな。風呂に入ってから軟膏を塗っておきな」気だるく動く女は眠そうだ。「先生は、幾人くらいカミさんをとっかえなすったね」
連れ込み宿、男女が絡み合っている。二人が鏡だと思っているのは、マジックミラーで向こうの部屋には、久尾と大森がいる。「私の友人がこんな仕掛けをこしらえてね」「なんで、私をこんなところに連れて来たんだ。」「女っていうものを見て欲しくてね。女なんて浅ましいもんだ。本物の女とは違って、臭い息も屁もしねえ。それは理想の女だってことだ。先生のあの子を抱いてどうだった?」「あれは共同のものだから・・・」「俺は共同便所を作って、先生は便所の掃除だけするのか。共同便所か・・・」酒を呷る久尾。
病院に戻った大森に婦長が寄って来て「桑田先生、あの秋元美沙子さんの妹の眞理子さんとお付き合いしているんですよ。」「秋元医院の・・・」
北極観測隊の隊員に、ベベの後遺症が出た。「小笠原さん、内科的には全く問題はない。北極にいけるよ。」「先生、ベベが忘れられないんです」「ちょっと、私の研究室に行こう」「ベベと私は本当にうまくいっていました。帰国すると、かっての私の恋人で、同じ気象庁の西川三重子(丘奈保美)に会いました。三重子は私を誘って来ました。しかし、三重子の身体は、まるで腐った沼のようで、抱く気がなくなりました。帰ろうとする私を追いかけてくる三重子を突き飛ばすと、気絶してしまいました。気を失った三重子をベッドに運び、私は、ベベと私の二役を演じて、ようやく三重子を抱くことが出来たんです。今回再び、北極観測隊を志願したのは、ベベに逢いたかったからです」「救助隊が到着する直前に、ベベは焼いたじゃないか」ベベを燃やす前で、観測隊の隊員たちは「りんごの歌」の替え歌を歌っている。「でも、また新しいベベを持っていくんでしょう」「それは国家秘密だ」小笠原を帰し、電話を掛ける大森「第7次北極越冬隊の気象担当の小笠原ですが、心身耗弱状態で連れて行けませんね」
帰宅する大森、何故かベベがベッドに寝かせてある。「あの時、私は偽物を燃やし、こっそりベベを持って帰国したのだ。ベベ、お前は、あの久尾の女房だったのか!!」「ええ、そうよあなた・・」「俺は前から知っていた。」「ええ、そうよあなた」「またお仕置きをしてやる」「いいわ、あなた」「くそっ!!!」大森もベベに溺れていたのだ。
研究室に桑田を呼び「桑田くん水臭いなあ。婚約者がいるんだって?今度一緒に食事をしよう」大森と桑田、秋元眞理子(ひろみ麻耶)が会食している。下品にガツガツ食べ続ける桑田。大森は赤ワインを眞理子のグラスに注ぎ「君は、結婚するのかい」「まだ決めてはいないわ」「結婚相手の条件は?」「素晴らしい男よ」「素晴らしい男って、有名な男よ」眞理子のグラスからワインは喉を伝ってこぼれ、白い下着の股間を赤く染めている。眞理子と大森は帰りがけ「いやな男、あの先生、私の姉を追いかけ続けて振られたのよ・・・」
数日後、眞理子は桑田に頼まれ、大森と二人で会う。その際、眞理子に飲ますワインに睡眠薬を混ぜている大森。眠くなった眞理子を連れ、久尾のところへ連れて行く大森。久男は哲に、「今から、あの先生モデルを連れてやってくるぜ。準備はいいな」何故か、トラバサミを持って笑う哲。大森が眞理子を連れてやってくる。眞理子の身体の型を取り、久尾は、粘土で顔を作り始める。
「私あなたとの婚約を解消するわ」「そんな、君は、北極観測隊のダッチワイフのモデルになっただけじゃないか・・・!!」
出来あがったベベ2号を受け取りに来た大森。「ベベの初めての男になってやって下さい。先生」「いや、私はあくまでも研究者なのだ」しかし、自宅に運んだ大森は、箱からベベ2号を取り出す。かって大森が恋していた秋元美沙子と瓜二つで、格段にリアリティの増したベベ2号の服を脱がし、抱きしめる大森。「ああ、素晴らしい」しかし、大森が自分のモノを挿入うすると、股間に仕掛けられていたトラバサミが閉じた「ギャー」逃げようとしてもガッチリ締まったトラバサミから逃れることはできない。「うう!!助けてくれ」逃げようとした大森の目の前のドアが開くと、隣の部屋には、ベベ1号が天を仰いで横たわっている。苦しむ大森。
中原昌也と真魚八重子のトークショーもあり、会場は満員だ。二人は、何も起こらず、最後にオチのない、破綻している曽根映画を、愛情を込めて否定していた。しかし、一本、一本の完成度ということではなく、当時の3本立ての日活ロマンポルノ封切り形態での観賞には、いい意味で緩い割には、興奮させるだけでない曽根作品は、最高だったんだと手を挙げて言いたくなってしまった(笑)。今回の特集は楽しみだなあ。
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