2010年1月9日土曜日

曽根中生、映画の多額の借金で行方不明だったのか。

   シネマヴェーラ渋谷で、消えゆく曽根中生!?

   65年若松プロダクション若松孝二監督『壁の中の秘事(16)』
   とある団地。山部信子(藤野博子)は、かって共に平和運動を通じて知り合った永井敏夫(寺島幹夫)と交際していた。若い頃、スターリンの肖像の前で、永井に注射を打つ信子。「まだこだわっているのか?僕のケロイドに。」「あなたは広島の象徴よ、私たちの戦いの象徴だわ」永井の背中にあるケロイドに愛おしそうに唇を寄せる信子。それから何年も過ぎ、信子は人妻になっていたが再会し不倫関係を続けていた。
    団地の別の部屋、机に向かう浪人生の内田誠(安川洋一)、隣の部屋で姉の朝子(可能かず子)が美容体操をしている。「ウルサくて勉強が出来ないよ」「予備校に行けばいいじゃない。私は何で予備校に行かないのか知っているんだ」「交換台と団地の往復をしているだけでつまらない」朝子は、電話の交換手をしているようだ。ホットパンツと身体の線がぴったり出たスヤツの挑発的な服の姉は、鬱屈した弟にはかなり刺激的だ。
   望遠鏡で向かいの部屋を覗く誠。信子の部屋だ。永井「日本の女は幸せだよ」「あなた変わったわね」「別に変わらないよ」
その夜、信子は夫山部健男(吉沢京夫)と話している。「ああイライラする」「欲求不満のイライラだろ」「あなたは私を疑ったことはある?私、牛乳配達に興味を持っているのよ」「下らないことを言わないでくれよ」「こんな壁に囲まれた毎日は嫌だわ。私だって昔は平和活動をしていたのよ。団地だって、主婦だって活動できるかもしれない」
「俺が組合活動しているのを、家庭で支えてくれよ」「随分と封建的な考えね。組合で糾弾されたりしないの?」「そんなのは、何年も昔の話だよ」
誠の父親完治(鈴木通人)がテレビを見ている。母親みよ(峰阿矢)が向いたリンゴをつまみ食いする誠。「誠何です」「父さんが家にいる時は、必ず新聞かテレビを見ているんだな」「お父さんに失礼ですよ」見知らぬ男(野上正義)が、朝子のハンドバッグを届けに来る。
   信子の部屋のベランダに上の階の主婦宮子(槙伸子)の派手な下着が落ちてきた。届ける信子に、宮子はお茶でもと誘うが、断る信子。再び下着が落ちてくる。宮子がブザーを押し、また落としてしまったので、取らせてくれと言う。玄関に入ってきそうで、私が取ってきますと信子。下着を渡すと、宮子は、フランスにいる友人が下着を送ってくるのだと言う。
数日後、宮子は自殺する。


75年日活曽根中生監督『大人のオモチャダッチワイフレポート(17)』
   チープなテレビのニュース番組。「第6次極地観測隊の北氷船平和丸が氷に閉じ込められ、帰還できなくなりました。柳瀬隊長以下12名の隊員の安否が気遣われます・・。観測隊かBB5作戦を決行せりという無線が発信されましたが、意味は不明です。」
    北極(笑)観測隊基地。そこでは井上陽水の「氷の世界」が大音量で流されている。隊員は長い閉塞的な生活に限界を超えていた。ただただ米だけを食べ続ける隊員。ブルーフィルムを見続ける隊員。大森医師(益富信孝)は、隊長の柳瀬(木島一郎)に「連中を救えるのはBBだけです」「許せん!君は神を冒涜するつもりか!!」「隊長は、発情したオスの気持ちが分らないのですか!!」暫く後「悪く思わないで下さい。私は医師として、隊長が心神耗弱状態にあると診断します。暫くの間、眠っていて下さい。」柳瀬に睡眠薬を注射する大森。柳瀬が眠ったのを確認すると、大森は、隊員たちのところに行き、「よし!!!やりたまえ!!」と言う。小笠原(粟津號)や隊員(谷文太、佐藤了)の顔に笑顔が浮かぶ。
    小笠原が発電室に入る。「1、スイッチを押す・・・。」灯りがつくと、奥のベッドにダッチワイフが置いてある。「2、脱ぐ!・・・いや脱がす」ダッチワイフが動き始める。「私、BB(ベベ)よ・・・。外は寒かったでしょう・・・。あたし燃えてるの・・・。抱いて・・・。キスして・・・あなたってとても上手・・・。思い出すわ、あなたとの最初の夜のこと・・・。あっ、よして!・・・あぁ、いいわ、あ~ん。あなたが好き!!。あーあー、あーあー。アタシ幸せ。あなた、お休みなさい・・・。」キュルキュルキュル(テープが巻き戻す音)。放心したように、隊員たちの所に戻る小笠原。「おい!!バージンだったか?おいっ!おいっ!」
    東京、車が停まる。降りてくる大森。大人の玩具屋に入って行く。「あっ、大森先生!いらっしゃいませ」「社長は?」「3Fです」三階まで上がる大森、山本社長(長弘)が声を掛ける「いや例の娘が、お役に立ったと来て喜んでいるんですよ。いや、今のダッチワイフは、官費で作っているんで、べら棒な値段ですが、量産すれば、カラーテレビ位の値段になりますよ」「次回も、極秘でお願いしますよ。フィルムを見せてもらおうか」ブルーフィルムを上映する社長。「こりゃ72年頃の古典モノなんですが、なかなかいいもんです」電話を掛ける社長「おっ、久(きゅう)さんかい?例の人形の件で会わせたい人がいるんだ。いいかい?」社長は大森に尋ねる「あの娘の抱き心地はいかがでした?」「私は医者なので、故障を直したり、洗ってやったりしただけだ。」「今度の娘は、最初に先生が試してみて下さいよ」「そんなつもりは、毛頭ありはしない・・・」ピンサロにいる社長と大森、ピンサロ嬢「おしぼりお願いしま~す!!おしぼり一本千円よ・・・。ねえ、せんせえっ。先生って社長?学校の先生?お医者さん?」社長「国立医大の先生だよ。」「えーっ、先生すてきっ!!」「ベベのモデルは誰なんだい」「久さんの亡くなった奥さんって聞きましたが・・・」「そろそろ私は帰るよ」帰って行く大森。入れ違いに、人形師の久間(織田俊彦)が入ってくる。「久さん遅いよ。入れ違いだったよ。」「そうか、あそこですれ違ったのがそうだったのか。ありゃ、悪人面だ。」

   国立医大附属病院、大森研究室。看護婦とセックスをしながら、色々な性具を試す大森。時々、看護婦の膣内に体温計を挿入し、体温を測る。インターホンから「大森先生、回診のお時間です」「わかったすぐ行く」看護婦の股間に、ローターを差し込んで「いつもとどうかな?異物感はあるか?インターホン越しに盗み聞きしていた婦長(藤ひろ子)、看護婦が「先生!愛しています」と叫ぶのを聞いて、「馬鹿!」と吐き捨てる。回診の時に横にいる婦長が「先生ジッパーが開いています。異物の挟まった感じってどういうことですの?私俄然、興味を持ってしまいました。」「私の研究の一環で・・。」「ぜひ、私も協力させてください」「では、今度」部下の医師桑田(竹内伸志)に回診が終わったら、車を手配しておくように命じる大森。
   車をある一角に停め「このあたりに久尾ってウチがありませんか?」と尋ねる大森。ブザーを押す大森、家の横から出て来た久尾「あっ、この間の・・。先生どうぞ。」工房の中に若い男(西沢俊夫)が作業をしている。「こいつは哲ってんですよ」大森は鞄から、黒い分厚いノートを出して「これは、私の意見をまとめたものだ、検討してほしい。仕込みのテープは3パターンは欲しい。処女、年増、若妻タイプ。処女は腰を使うかね。ギヤを使って変化できるようにしてほしい。国家的なプロジェクトだ。いくら掛ってもいいんだ。」「哲、これに目を通しておきな」立ったまま眠っている娘に久尾は近づいて「おい!起きろよ」下半身には石膏が固まっているのを剥がす。「痛い!!」久尾、女の股間を見て「ああ、こりゃひでえな。風呂に入ってから軟膏を塗っておきな」気だるく動く女は眠そうだ。「先生は、幾人くらいカミさんをとっかえなすったね」
   連れ込み宿、男女が絡み合っている。二人が鏡だと思っているのは、マジックミラーで向こうの部屋には、久尾と大森がいる。「私の友人がこんな仕掛けをこしらえてね」「なんで、私をこんなところに連れて来たんだ。」「女っていうものを見て欲しくてね。女なんて浅ましいもんだ。本物の女とは違って、臭い息も屁もしねえ。それは理想の女だってことだ。先生のあの子を抱いてどうだった?」「あれは共同のものだから・・・」「俺は共同便所を作って、先生は便所の掃除だけするのか。共同便所か・・・」酒を呷る久尾。
   病院に戻った大森に婦長が寄って来て「桑田先生、あの秋元美沙子さんの妹の眞理子さんとお付き合いしているんですよ。」「秋元医院の・・・」
   北極観測隊の隊員に、ベベの後遺症が出た。「小笠原さん、内科的には全く問題はない。北極にいけるよ。」「先生、ベベが忘れられないんです」「ちょっと、私の研究室に行こう」「ベベと私は本当にうまくいっていました。帰国すると、かっての私の恋人で、同じ気象庁の西川三重子(丘奈保美)に会いました。三重子は私を誘って来ました。しかし、三重子の身体は、まるで腐った沼のようで、抱く気がなくなりました。帰ろうとする私を追いかけてくる三重子を突き飛ばすと、気絶してしまいました。気を失った三重子をベッドに運び、私は、ベベと私の二役を演じて、ようやく三重子を抱くことが出来たんです。今回再び、北極観測隊を志願したのは、ベベに逢いたかったからです」「救助隊が到着する直前に、ベベは焼いたじゃないか」ベベを燃やす前で、観測隊の隊員たちは「りんごの歌」の替え歌を歌っている。「でも、また新しいベベを持っていくんでしょう」「それは国家秘密だ」小笠原を帰し、電話を掛ける大森「第7次北極越冬隊の気象担当の小笠原ですが、心身耗弱状態で連れて行けませんね」
  帰宅する大森、何故かベベがベッドに寝かせてある。「あの時、私は偽物を燃やし、こっそりベベを持って帰国したのだ。ベベ、お前は、あの久尾の女房だったのか!!」「ええ、そうよあなた・・」「俺は前から知っていた。」「ええ、そうよあなた」「またお仕置きをしてやる」「いいわ、あなた」「くそっ!!!」大森もベベに溺れていたのだ。
  研究室に桑田を呼び「桑田くん水臭いなあ。婚約者がいるんだって?今度一緒に食事をしよう」大森と桑田、秋元眞理子(ひろみ麻耶)が会食している。下品にガツガツ食べ続ける桑田。大森は赤ワインを眞理子のグラスに注ぎ「君は、結婚するのかい」「まだ決めてはいないわ」「結婚相手の条件は?」「素晴らしい男よ」「素晴らしい男って、有名な男よ」眞理子のグラスからワインは喉を伝ってこぼれ、白い下着の股間を赤く染めている。眞理子と大森は帰りがけ「いやな男、あの先生、私の姉を追いかけ続けて振られたのよ・・・」
  数日後、眞理子は桑田に頼まれ、大森と二人で会う。その際、眞理子に飲ますワインに睡眠薬を混ぜている大森。眠くなった眞理子を連れ、久尾のところへ連れて行く大森。久男は哲に、「今から、あの先生モデルを連れてやってくるぜ。準備はいいな」何故か、トラバサミを持って笑う哲。大森が眞理子を連れてやってくる。眞理子の身体の型を取り、久尾は、粘土で顔を作り始める。
   「私あなたとの婚約を解消するわ」「そんな、君は、北極観測隊のダッチワイフのモデルになっただけじゃないか・・・!!」
   出来あがったベベ2号を受け取りに来た大森。「ベベの初めての男になってやって下さい。先生」「いや、私はあくまでも研究者なのだ」しかし、自宅に運んだ大森は、箱からベベ2号を取り出す。かって大森が恋していた秋元美沙子と瓜二つで、格段にリアリティの増したベベ2号の服を脱がし、抱きしめる大森。「ああ、素晴らしい」しかし、大森が自分のモノを挿入うすると、股間に仕掛けられていたトラバサミが閉じた「ギャー」逃げようとしてもガッチリ締まったトラバサミから逃れることはできない。「うう!!助けてくれ」逃げようとした大森の目の前のドアが開くと、隣の部屋には、ベベ1号が天を仰いで横たわっている。苦しむ大森。

  中原昌也と真魚八重子のトークショーもあり、会場は満員だ。二人は、何も起こらず、最後にオチのない、破綻している曽根映画を、愛情を込めて否定していた。しかし、一本、一本の完成度ということではなく、当時の3本立ての日活ロマンポルノ封切り形態での観賞には、いい意味で緩い割には、興奮させるだけでない曽根作品は、最高だったんだと手を挙げて言いたくなってしまった(笑)。今回の特集は楽しみだなあ。

2010年1月8日金曜日

沈没。

   午前中は赤坂のメンタルクリニック。

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭
   60年大映京都池広一夫監督『ひとり狼(13)』
    囲炉裏を囲む男たち、一人の渡世人、上松(あげまつ)の孫七(長門勇)が酒を飲みながら話している。「誰からお聞きになったんですかい?追分の伊三蔵さんですか…。俺は良く知っておりやすよ…。兄弟分だって?とんでもねえ!!同じヤクザモンですが、半端もんの俺とは違って、筋金入りと言うか、本当は、追分の…と言うより、人斬り伊佐と言う方が名前が通っていやすぜ。親分なしの乾分なし…、誰も寄せ付けない、一匹狼ですぜ…。初めて会ったのは信州の塩尻峠でした」
    雪の山道にいた孫七は、渡世人と浪人たちの斬り合いを目撃する。「逃げるか!?伊三蔵!!」「俺は新しい卒塔婆の夢など見たかねえ!」孫七「おめえさんは、有名な追分の伊三蔵さんかえ。助太刀するぜ!」「余計なことはしないでくれ。巻き添えにしたかねえ、行っておくんなせえ」孫七の見る前で、斬りつけてきた浪人多賀忠三郎(伊達三郎)の腕を斬り落とす伊三蔵。浪人「恩人の娘を手込めにするなんざ最低な奴だ」と言う言葉に、表情が曇る伊三蔵。孫七に、「さっ、行きなせえ、巻き添えを食うぞ」
  孫七、「翌年の冬、上州坂本宿の与左衛門親分のところで、二度目の巡り会いになりました。」孫七が歩いていると、突然、半次(長谷川明男)が追いかけてきて、、身延の半次とひどい仁義を切った。孫七「ひどい仁義の切り方だなあ」「ほんの駆け出しで・・」「そうか相乗り仁義か」与左衛門(原聖四郎)のところで仁義を切り草鞋を脱ぐ孫七と半次。翌朝顔を洗いに井戸端に行くと、先客がある。追分の伊三蔵だった。「誰です?」「お前、この稼業に入るんだったら、知らなきゃモグリだぜ。追分の伊三蔵、またの名を人斬り伊三。このあたりで出入りの場合には、伊三が加勢した方が必ず勝つと言ってどこの親分さんも草鞋を脱いで貰いたがるお人だぜ」「ふーん。あいつを斬ったら、俺の名前が関八州に響き渡るって寸法か。」「馬鹿なこと考えるんじゃねえぞ」朝食になる。半次がいきなり食べようとすると、伊三が「親分さん、おあねえさん、いただきやす」と言い孫七も繰り返す。伊三は、丼メシに数口箸をつけると、お櫃から少しよそい、黙々と食べる。半次は、お櫃から二膳目を取る。孫七は、少しだけお代わりをした。半次はお櫃が空になったのを見て、メシを貰って来ましょうかと言う。孫七「てめえ、渡世の義理は、メシは二膳、一汁一菜と決まっているんだ」伊三は、食べ後の言鰯(鯵?)の骨を懐紙に畳んで仕舞い、御馳走さまでござんしたと席を立った。

お沢(岩崎加根子)平沢清市郎(小池朝雄)由乃(小川真由美)上田吉馬(内田朝雄)秋尾(丹阿弥谷津子)新茶屋の吾六(浜村純)斉藤逸馬(新田昌玄)鬼頭一角(五味龍太郎)由之助(斎藤信也)お美代(行友圭子)荒神の岩松(遠藤辰雄)清滝徳兵衛(南部彰三)お松(外村昌子)伝七(守田学)石太郎(黒木現)


   新宿ピカデリーで、
   竹内英樹監督『のだめカンタービレ最終楽章前編(14)』
   パリに留学中ののだめこと野田恵(上原樹里)と千秋真一(玉木宏)。指揮者のコンテストでジャン・ドナウデュウ(ジリ・ヴァンソン)を破って一位となった千秋は、140年の伝統を持つルー・マルレ・オーケストラの常任指揮者に決まった。しかし、マルレ・オケは、頑固者のコンマス、シモン(マルフレッド・ヴォータルツ)によって内部抗争で1/3の楽団員が脱退し、残りのスタッフも生活に追われ碌にリハーサルも積んでいなく絶句するような技量だった。更に前任の指揮者が逃亡したため、突然千秋がピンチヒッターで指揮をすることになった定演は、酷い出来だった。

  分かりやすい選曲で、演奏も、ランランやロンドンフィルなどを使ったレコーディング、演奏会のシーンも、ちゃんと録っていて、音楽を大事にしている映画だと思うし、クラシック音楽の啓蒙に果たした意味は大変評価すべきだ。しかし、映画館でお金を払ってみる映画だとすると、言いたいことは随分ある。まず、録音だが、もっと高音質で収録出来なかったのだろうか。映画館の問題かもしれないが、何だか迫力に欠ける。ホームシアターで見るものなのかもしれない。
   そういう意味では、映画的な快感は味わえず、お金を掛けたテレビの特番を映画館の巨大スクリーンで見ている気分だ。邦画全般の傾向だが、ポストプロが本当に粗い。撮影現場でもそうだが、モニターでチェックをしながら作って行くので、小さな画面で十分なのかもしれないが、アニメなど合成するなら、もう少しちゃんと作って欲しいと思う。テレビ特番だと思えば十二分に手間を掛けていることになると思うが(苦笑)。日本でしか商売にならないと思うのだが…。

   神保町シアターで、女優・高峰秀子
   39年東宝京都石田民三監督『花つみ日記(15)』
     大阪郊外の女学校、女学生たちが歌を歌いながら、校庭をホウキで掃いている。5人一組が横に並び、5組3列で掃きながら動くさまは、マスゲームのようだ。その中に篠原栄子(高峰秀子)の姿がある。校舎の中から彼女たちの姿を眺める教師の梶山芙蓉(葦原邦子)と転校生の佐田みつる(清水美佐子)の姿がある。「明日からあなたも仲間入りよ。」掃除が終わり水飲み場に走り、押し合いへし合いしながら、うがいをする女学生たち。眼鏡を掛けた吉野和子(林喜美子)が栄子の頭を押したので、校庭を追い掛けっこする栄子と和子。
   校舎内に土足で上がったところに、梶山先生がやって来て、「今日のところは見なかったことにしておきます」と言い、「こちらは明日あなた方のクラスに入る佐田みつるさん」と紹介する。下校のバスを待つ間、栄子は「あの方誰かに似ているわね」と言う。「歌手の方?映画の方?とても綺麗ね。」「思い出したわ。今月号の中原淳一の絵だわ」
    友達が皆バスに乗って、栄子が一人、次のバスを待っていると佐田みつるがやって来た。同じ方向なので、一緒のバスに乗り、席を譲る栄子。「大阪のバスは随分感じがいいわ」とみつる。
    翌日栄子が学校に行くと、下駄箱の前で、みつるが困っていた。「まだ、あなたの下駄箱ないのね。私の所に入れればいいわ」遠慮するみつるの靴を自分の棚に入れ、「ほら、私たちより先に私たちの靴が仲良くなったわ」と笑顔の栄子。それから二人はとても仲良くなった。その日の下校時間、バスを待つ友達の吉野和子、東静江(御舟京子)、岡部とし子(松岡綾子)、太田勝子(三宅映子)の4人を残し、バスに乗らずに歩いてみつるに大阪の街を案内すると言う栄子に、影で「えーちゃん、転校生ばっかり」「新しモノ好きなだけよ!」と評判が悪い。
   「みつるさんは東京ではどこに住んでいたの?」「牛込よ」「神楽坂の近くね」「えーちゃんは、東京にいたの?」「小学校3年まで浅草にいたの」「だから東京弁と大阪弁が混ざるのね」「いえ、もう大阪っ子よ。でも仲見世の根山椒を食べたいわ」「今度兄さんに送ってもらうわ」教会から賛美歌が聞こえてくる。「あら懐かしいわ」「みつるさんはキリスト教なの?」「いえ、私は違うけれど、お母さんがキリスト教で、日曜学校に連れて行ってくれたわ」

   元の会社の辞め仲間と新年会。楽しい→飲みまくり→酔っ払うと言うことで、沈没。

2010年1月7日木曜日

大雷蔵祭。

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭
    
   66年大映京都田中徳三監督『大殺陣 雄呂血(11)』

    信州水無月藩井坂弥一郎道場に、隣藩の岩代藩供頭樫山伝七郎(五味竜太郎)がやって来て勝負をしろと言った。師範代の小布施拓馬(市川雷蔵)は、師匠が留守であり、稽古も終わっているので駄目だとはねつけた。小布施の貫禄に負け退かざる負えなかった伝七郎は、帰り掛け、道場帰りの二人連れに、水無月藩は腰抜け揃いだと侮辱をし、馬から突き落とした。争いの末、門弟の一人で、水無月藩家老嫡男片桐万之助(平泉征)が伝七郎を後ろから斬ってしまう。一緒にいたのは、御用人真壁半大夫(加藤嘉)の甥である十郎太(中谷一郎)であった。何者か一切不明な武士を背中から斬ったと言う武士にあるまじき行為に、十郎太は災いを恐れ、とどめを刺そうとしたが、通りがかった百姓の姿に身を隠し、その隙に、伝七郎は、自らの馬に乗って帰って行った。
   翌日、道場に伝七郎の兄、樫山又五郎(内藤武敏)が、弟を背中から斬り殺した下手人を出せとやってきた。伝七郎は馬上で死に帰藩したのだ。師匠の井坂弥一郎(内田朝雄)は、そんな卑怯者は門弟にはいないと突っぱねたが、一万六千石の小藩、水無月藩と十万石の大藩岩代藩では相手にならない。この話しは、水無月藩城代家老片桐太平(南部彰三)の頭を悩ませた。万之助は父太平に自分が下手人だと告白したが、家老の嫡男がそのような卑劣な振る舞いをしたとあっては藩の一大事であり、家老片桐太平は息子に固く口止めをする。
  片桐太平は、岩代藩城代家老高倉勘解由(荒木忍)を訪ね、穏便な処分をと頭を下げるが、十万石の岩代藩の面子がと、片桐家の家宝である光琳の掛け軸位貰ったとしても勘弁できるものではないとけんもほろろだ。
   小布施拓馬は、許嫁である御用人真壁半大夫の娘波江(八千草薫)のもとを訪ねる。二人は5月の節句に祝言を挙げることが決まっていた。雛祭りの人形を飾る幸せな拓馬と波江の前に沈痛な表情の半大夫が現れる。 今回の事件は、お家の一大事あり、下手人を岩代藩に差し出さねば、収まらないが、今の所全く手掛かりがない。こんなことを頼めるのは拓馬しかいないが、下手人として出奔してもらえないかと頭を下げた。一年身を隠して貰えば何とか家老と自分で岩代藩との和解をする。もし適わなかった場合には、腹を切って、拓馬の無実の証を立てると言うのだ。それではあんまりだと涙する波江に、私も武士だ、お家あってのものだと承諾する。拓馬に自分の櫛を渡し、今夜から拓馬さまの妻ですと言う波江。
   その夜、道場の門に頭を下げ、旅立とうとする拓馬に、十郎太は、話は全て聞いてしまった、一年など短いものだと励ました。
   翌日、水無月藩内は大騒ぎになった。一人師匠の井坂だけは、小布施は後ろから斬りつけるような者ではないが…と言うが、正式に、水無月藩より、岩代藩に下手人は小布施拓馬であり、出奔したと報告された。
   旅の途中、拓馬は溺れかけた子供を救うが、その隙に、渡世人風の男(藤岡琢也)が脱ぎ捨てた着物から拓馬な財布を盗む。路銀を無くした拓馬は、飲まず食わずで歩き続けるしかなかった。
    冬がやって来た。とある街道の人足宿、雨の中、代官がやって来て、街道整備の日程が遅れているので、今夜から深夜子の刻まで働いて貰うと命ずる。人足の中の拓馬の姿に目を止め、「お前は武士だな、武士が落ちぶれて人足か…、怪しい奴だなひっ捕らえろ!」しかし、取り押さえられそうになった時に懐から波江の櫛が落ちる。「なんだ女か」皆に散々打ち据えられ、雨の中水溜まりで這い蹲る拓馬の姿。
水無月藩では雪が降っている。波江は、父半大夫に「辛い思いをさせてすまんな」と言われ「もっとご苦労をされている拓馬さまのことを思えば何のこともありません。今拓馬さまはどちらに…。」「ご家老と一緒に岩代藩に掛け合っているが、なかなかよい返事を頂けないのだ。」

   本物の雄呂血をスクリーンで未見なので、全く偉そうなことは言えないが、終盤の大殺陣、初めの捕り方に囲まれての立ち回りは、少し段取りが見えて、歌舞伎か新国劇のようでもある。しかし、武士たちとの斬り合いは手に汗握るなあ。

  四ノ橋近くのデザイン会社に、仕事の催促を兼ねて年賀の挨拶。

  銀座シネパトスで、「日本映画レトロスペクティブ-PART6-」~喜劇 みんなで笑い初め~。
   62年東京映画久松静児監督『喜劇 駅前飯店(12)』
   怪しげなチャイナドレスを着た女占い師紅生姜(森光子)の前に、周四方(フランキー堺)が座っている。店を出すのだが、どこがいいか占ってもらっているのだ。紅生姜「東北!!友達が大事、今の友達は悪い友達ばかり、いい友達紹介するョ」裏では不動産ブローカーの林奇根(山茶花究)がほくそ笑みながらBGMを流している。
  周が自分の会社の東方公司に戻ると待っていたのは、洋子(三原葉子)だ。チキンラーメンを生のまま食べている。服のお金を出してくれと纏わりついて来るが、ケチな周は一文も出さない。船員(米倉斉加年)が牡蠣油を買ってくれと会社にやってきた。1本300円で買い取る。

  「ワタシ○○アルコトヨ」という喋り方が中国人を侮蔑しているかどうか議論があるだろうか、そうしたインチキ中国人相手に、ちゃんとやりとりをしている若き王貞治のいい人さは格別だ。とはいえ、森繁のインチキ中国語は、タモリを上回るんではないだろうか。森繁、フランキー、伴淳、のり平、森光子、山茶花究・・

2010年1月6日水曜日

最近の映画をやっと。

   テアトル新宿で、押井守監督『アサルトガールズ(7)』
   夜のNY、第二次世界大戦以降の戦闘シーン、空母から飛び立つ戦闘機、戦車、潜水艦、軍用ヘリ、人類が戦いを捨てた近未来。しかし、停滞した現実の中で人間の本能には、闘争や暴力と言った消せない欲望がある。そのために、脳内に直接働きかける仮想空間アヴァロンは、無数のゲームを提供した。
  アヴァロン(f)
 荒野、蝸牛以外の生物はいないかのようだ。何故か一本の街灯が立っていて点滅を繰り返している。はるか向こうからこちらに歩いて来る影がある。大きな対戦車砲を担ぎ、背中のリュックサックには、パエリア鍋とフライパンがぶら下がっており、音を立てている。SYとマークの入った野球帽を被った男だ。イェーガー(藤木義勝)、地面に横たわり、地中に耳を当てる。コンパス

  うーん。映像美と言っても、どこかで見たことのある構図。今の漫画家が、実際の写真をトレースして背景を描くように、古今東西の映画のかっこいい構図を当てて作ったようなシーンばかりだ。それを悪いと言うわけでは無いが、見たことの無い映像を見てみたいのに叶わない。かっての日本映画には、普通の何でも無いストーリーの映画に、どうやって撮影したのだろう言うようなオープニングやエンディングが用意されていたと言い出しても詮無いことだなあ。ゲームをやらない人間なので、達成感など共感はないが、これからゲームが進化すると、仮想空間では、黒木メイサや佐伯日菜子や菊地凛子の姿になって参加出来るんだろうな。彼らの現実空間では、あんな美女でもなく、性別も違っていると考えると、なかなか気味悪いものではあるが(苦笑)。

   角川シネマ新宿で、犬童一心監督『ゼロの焦点(8)』
    昭和18年10月21日、神宮外苑での出陣学徒壮行会の映像。「そうですね、水泳は好きでした。」(広末NA)初めて自分のことを話した健一さんの言葉だった…。
   昭和32年8月、銀座のビルにあるレストランで、鵜原憲一(西島秀俊)と板根禎子(広末涼子)の見合いが行われている。憲一の兄宗太郎(杉本哲太)、禎子の母絹江(市毛良枝)と仲人の?夫妻が席に座っている。憲一は学徒出陣で出征し、右肩に銃弾を受けたらしい。あの時生き残ったのは、自分ともう一人しかいなかったので、生き残っただけで幸せですと鵜原。鵜原は、東洋第一広告と言う会社の金沢出張所に勤務し、月に何度か東京の本社に出張していた。禎子は、山之内商事の海外部で得意の英語を活かして活躍していると仲人。「そういえば、卒論はシャーロット・ブロンテだったね。」仲人は、禎子の女子大時代の担当教授のようだ。「ジェーン・エアが好きなんです。母がぜひ読めと勧めてくれたのですが、実は母は読んでいないんです。」「映画は、妻にせがまれて見に行きました。最後がなかなか感動的で…」鵜原の兄は、話し続けている。銀座のネオンを二人で眺めながら、自分のことを殆ど語らない鵜原に親しみを感ずる禎子。
   母は10歳という年の差を危ぶんだが、禎子は、落ち着きと安心を感じ鵜原に好意を抱いた。二人の結婚式。文金高島田の禎子の美しさに参列者は、みなこの夫婦の幸福を確信する。二人の結婚写真が撮影される。
   一週間後の昭和32年12月1日夜9時、上野駅なホーム、金沢行きの信越線、後輩の本多良雄(野間口徹)との引き継ぎのため、最後の金沢行きを見送りに禎子は来ていた。禎子の掌に、明治ミルクキャラメルを一粒乗せ、だった一週間、8日には戻るから安心しろと言う鵜原。しかし、 鵜原の姿を禎子が見たのはこれが最後だった…。
鵜原の帰宅予定の日、晩ご飯の支度をする禎子。カレンダーには、帰宅日に丸がつけられている。しかし、鵜原は帰って来なかった。

   歌い文句通り、女優で見せた。不幸せの女王木村多江は、泣かせるなあ。「沈まぬ太陽」のアル中主婦と併せて09年の気になった女優に追加表彰。中谷美紀も、顔の演技素晴らしい。その二人に比べると、大好きな筈の広末、もう一つ。ただ、主役というよりも、戦後の不幸から生まれ変われようとした男女の悲劇の狂言回しだと考えればこれでいいのかもしれない。映画自体は、エンディングテーマだけが、かなりミスマッチ。上野耕路の劇伴がかなり良かっただけに、最後いきなり「家なき子」かよと我に返ってしまう言う感じ。プロデューサーの発注の仕方が失敗だったんだろう。曲を貰ってから、いや違うタイプの曲をとは言えない中島みゆき(笑)。電通からの発注か(苦笑)丁寧に時代考証をしようとしているが、少し気になったのは、新婚家庭の病院の看板の電話番号、局番が4ケタだったような気がするのは気のせいだろうか。それが一番気になって、もう一回見るかと言う気持ちになった。
 
    恵比寿ガーデンシネマで、スティーブン・ソダーバーグ監督『ザ・インフォーマント!(9)』

    シアターN渋谷で、ロジャー・グロスマン監督『ジャームス 狂気の秘密(10)』
 
  LAパンクの最初期のバンドだと言うことだが、名前を聞いたことしかなかった。問題児ばかりを集めたハイスクールにいたポール・ビーム(ダービー・クラッシュ)が友人のパット・スミア(ジョージ・ルーセンバーグ)に、デヴィッド・ボウイのジギー・スターダストの中のFive Yearsに感化され、5年計画でバンドを成功させると話し、楽器も弾けず、持ってさえもいないまま結成し、ダムドのライブに出掛け、勢いでオフィウムシアターでライブをやってしまうが、石灰を撒き機材を壊して叩き出されるのが初ステージ。しかし、その破壊的なステージが噂を呼び、演奏ができるようになっても、自らを傷つけ、会場、機材を壊し、オーディエンスの間では暴動が起きて、LA中のライブハウスに出入り禁止になり、たった1枚のフルアルバムは聞けるが、ライブが見られないことで伝説のバンドとなった。
  そのアルバムのレコーディング中プロデューサーのジョーン・ジェットはアル中かヤク中でマグロ状態。結成当初のドラムスにベリンダ・カーライル、とは言ってもただのグルーピーみたいなものだったんだろうな。ヤク中で自滅的な行動が続き、バンドのメンバーとも距離が出来て、〝ジョン・ウォーターズの映画に出てくるような”母親とロンドンに行き、帰国後の新バンドは失敗、最後にジャームスの解散コンサートをやり盛り上がるものの、ライブが終わった後の孤独感から、ジョンレノンが暗殺されたその晩、オーバードーズで自殺。
  死んだから神格化された部分が多分にあるだろう。多分死ぬ前にボロカスに言っていた周囲や世間は、死んだ途端に手のひらを返して、いかに自分が彼の才能を愛していたかを争うように語ったんだろうな。先日読んだ沢島忠監督が著作の中で、美空ひばりに関して、生前言っていたことと正反対の絶賛をする世間について書いていたが、昨年のマイケル・ジャクソンもそうだろう。こんなことを書く自分だって、ジャクソン5から大好きだったものの、BAD以降どんどんサウンドにブラックミュージックの色が薄くなり、自分の顔まで変え始めて以降、マイケルは終わったと思っていたのだがら、どうもTHIS IS ITを無邪気に絶賛する気になれず、何だか自分の不明を恥じるばかりなのだ。
   とはいえ、ダービー・クラッシュは同級生。映画にも登場するベリンダ・カーライルは全く同じ生年月日、一日前がマドンナの誕生日。同じ時代の空気を吸っていたダービー・クラッシュの絶望は何だかわかる気がしてしまうのは、思い上がりだろうか。

2010年1月5日火曜日

生誕百年、太宰治、田中絹代、松本清張。生誕51年はマイケル、マドンナ、プリンス、小室哲哉と自分

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭

   66年大映東京森一生監督『陸軍中野学校 雲一号指令(3)』
    昭和14年9月、夜の神戸港、出港したばかりの貨物船が突然、火の手が上がる。次々に起こる爆発音。激しく燃えて沈没する貨物船。その頃、椎名次郎(市川雷蔵)は、中野学校を卒業し、ある任務を命ぜられ、北京に向かって、朝鮮半島を汽車で北上中だった。車掌が、客車ないで、椎名のフルネームを呼んで回っている。椎名が手を挙げると、電報が届いていると言う。草薙中佐からの暗号電報だった。任務が変更になったので、至急引き返して来いと言うものだった。
    神戸の港を見渡す丘で、草薙は椎名に、爆破された貨物船には、北支に派遣予定の幹部士官が94名と、開発されたばかりで画期的な威力を持つ特三式砲弾5000発が積まれていたと言う。この捜査は雲一号と名付けられ、神戸憲兵隊と中野学校に指令されたのだ。開校したばかりの中野学校をアピールするために、草薙が軍令部に無理矢理押し込んだので、何とか成果を上げてくれと頭を下げる草薙。中野学校同期で神戸駐在の杉本と一緒に行動してくれと言う。
    草薙は近くに椎名次郎という表札が掛かる家を用意してくれていた。そこには女中のトメと巡査が待っていた。巡査による身元調査に、24才、兵役検査は第一乙、東亜経済研究所という政府の外郭団体の研究員だと説明した。研究所は、近くの大学の構内にあったが、杉本は現れなかった。神戸港の埠頭に行ってみると、憲兵隊は、港湾労働者たちを片っ端から逮捕していた。椎名も不審者扱いされて、憲兵隊分室に連行される。
    憲兵大尉の西田(佐藤慶)の尋問に「陸軍少尉椎名次郎」「嘘を言うな」「名簿を調べてみるといいだろう」神戸憲兵隊の隊長の山岡中佐(戸浦六宏)の部屋で、中野学校同期の杉本明(仲村隆)に「大変だったな」と迎えられる。「邪魔をするな」と釘を差す西田。憲兵隊を出た後、杉本は「すまない、就職活動に忙しかったのだ。今まで荷揚げの労働者に潜入していたのだが、集団で作業する彼らより、一人で工作が出来る倉庫の夜警のほうが怪しいと思って、欠員が出たので何とか潜り込んだのだ。」「で怪しい奴はいたか?」「元川一郎、38歳、独身という男をマークしている」「では、自分が元川を尾行しよう」
    さっそく元川一郎(越川一)を尾ける椎名。元川は、夜景の仕事から帰宅すると、下宿で眠り、昼に中華料理屋の万来軒で食事をし、午後2時に銭湯に行くという几帳面な毎日を繰り返した。しかし、ある日銭湯で、女湯から手が出て、何物かを元川に手渡すのを、見逃さない椎名。女湯の手に填められた指輪をした女が出て行こうとするのを、番台の主人(石原須磨男)が「梅香さん、お釣りだっせ」と声を掛けるのを聞いて、椎名は尾行を開始する。梅香(村松英子)が置屋明田中(あけたなか)に入るのを見届けた。その日、夜景の仕事に出かける前の杉本と打合せる椎名。「そりゃ、なかなか収穫だな。あの梅香は、三業地でピカイチな芸者だ。元川と繋がりがあるのは怪しいな」「梅香は、新潟出身で、半年前に神戸に流れて来たらしい」「どうする調べに行くか?」「いや、学校にいる久保田に頼もうと思う」「そりゃいい、中野学校の講師として残らされた久保田は相当溜まっているらしいからな。喜ぶぞ。そうだ、未確認の無線電波が出ていることが分かった。今度の日曜日に探しに行こう」
  夜警の宿直室で、杉本は元川にカマを掛ける。「元川さん!妹がいるのかい?」「えっ私に身寄りは一人もいませんよ」「あれ、この間、若い女と歩いていたのを見かけたんだ。あれは元川さんのいい女かい?」「そりゃないですよ。私は昔女にはエライ目に逢って、懲りたんだ。金輪際女には拘わらないことにしたんだ」尻尾を出さない元川。
  休日、神戸の街を見渡せる丘の上を歩く椎名と杉本。丘の上の公園で椎名は声を掛けられる。「やあ!三好くんじゃないか」「佐々木くんじゃないか!!」大学で友人だった佐々木(中野誠也)だ。佐々木は妻の邦子(香山恵子)と娘と一緒だった。「君は確か東日新聞に入ったんじゃなかったか」「そうだ、東日の特派員として上海に行った。その後、上海興明日報という中国系新聞の神戸支局にいる。君は、確か陸軍に入ったんだよな」「胸を悪くして、軍隊を辞めて、東亜経済研究所というところで研究員になった」「椎名と言ったな、君も結婚したのか?」「いや母方の姓を名乗ることになったんだ」佐々木の足許には、大きなシェパードがいる。「軍用犬協会から飼育を依頼されてな。食料代が掛って大変なんだ。また、会おう」
  佐々木と別れ、神戸の高台の洋館を眺め、「随分外国人が多いじゃないか」と椎名。暗号電波を発信している家はどこなのか、手掛かりはない。しかし、高台を下ったところにある教会の前で、ジョセフ神父(H・ジョンソン)と話している男を見て椎名は「あいつもクリスチャンなのか?おかしいな」その男は、元川が通っている中華料理屋の万来軒の主人だった。元川、万来軒、教会、梅香・・・すこしずつ手掛かりが見えて来た・・・。
   しかし、再び特三型砲弾を積んだ貨物船が爆発し沈没した。今回の輸送には、神戸憲兵隊も厳戒態勢を引き、極秘にしていただけに、山岡中佐、西田大尉は顔色を失った。
   椎名は、陸軍研究所の技師を装って、お茶屋に梅香を呼ぶ。売れっ子の梅香はなかなかお座敷に来ない。やっとのことやってきた梅香は、十八番を踊るが、軍隊っぽくて暗いから止めろと椎名。年増芸者(毛利郁子)は「そんなこと憲兵に聞かれたら、大変なことになりまっせ」と言うが、「憲兵がなんだ!俺を逮捕したら、逆に大変なことになるのは、あっちの方だ」と取り合わない。しかし、再び、梅香が他の座敷に呼ばれると、「梅香さんの御贔屓は、憲兵隊の隊長さんでっせ」と芸者。  
   ある夜の倉庫の宿直室、元川と杉本が眠っていると、元川がそっと起き上る。勿論、その気配に気が付き後を尾ける杉本。元川は、倉庫に入り、特三号砲弾の積荷を確認すると、何かの作業を始める。「元川!!何をしている!!」と杉本が大声を出すと、逃げる元川。何度か追いついて格闘するが、最後に、手に持った爆発物の発火装置のスイッチを押して、海に飛び込み、爆死する元川。
   翌日の憲兵隊分室、西田は「功を焦って、自決されたのは杉本の責任だ」と激しく非難した。元川のアジトに隠されていた爆発物は、煙管に擬装されていて、爆破実験をするとかなりの威力であることが分かる。そこに、久保田からの梅香に関する調査結果が届けられた。幼い頃に両親に死なれた梅香は、芸者になり苦労して、各地を転々としたらしい。田中正三という同じ境遇の幼馴染がおり、右腕に正の時の想い墨を右手に入れているということだ。さっそく、椎名は座敷に梅香を呼び、手相を見てやると言って、梅香の腕を確認する。梅香の手に三味線胝がないことに気がつき、梅香が神戸の前にいたという大津に調査に出掛ける椎名。
   大津の調査には大変苦労するが、ようやくかって一緒に芸者をしていて今は焼鳥屋のおかみ(近江輝子)を探し出す。梅香は去年の8月頃、相手のことを詮索しないでくれと言いながらも、かなりよい縁談があると、この街を出て行ったと言う。梅香の素性には謎が多い。
   その夜、佐々木は妻と寝ている寝室から下宿人の日本造船の設計部に勤める堺(木村玄)の国民服を盗む。堺の服を着て、守衛(尾上栄五郎)に重大な忘れ物をしたと言って、堂々と日本造船の構内に入った。鉄条網で厳重に警戒された高い塀際で、声を掛けると、犬が中に飛び込んで来る。犬の首輪に付けた超小型カメラを取ると、設計部内に入り、戦艦の設計図の撮影を始める。作業が終わると、再び犬の首輪にカメラをつけ、何食わぬ顔で門外に逃がし、自分は正門から堂々と出た。
   明田中を見張っていた杉本は、梅香が出て来たので尾行する。街中で、周王洋(伊達三郎)と待合わせ、教会に入って行く梅香。跡を追って、教会に入るが、梅香の姿はない。ある部屋の中で、梅香と周王洋の姿がある。「許婚の件について教えなかったのはこちらのミスだった。この自白剤を打たれても、自分の恋人は田中正三だと証言できれば大丈夫だろう」梅香に自白剤を注射して、尋問のテストをしている二人。その部屋の前で盗み聞きしようとした杉本は、佐々木の犬に吠えたてられて逃走する。
  再び、梅香を座敷に呼んだ椎名は、梅香に血液型がO型だと聞いたうえで、梅香の吸った煙草を、久保田に送り血液型の検査を依頼する。
  横浜港から出国しようとしたスパイを水際で逮捕したところ、日本造船の神戸造船所の軍艦の設計図の写真を持っていたことが判明し、神戸憲兵隊の面目を失う事件が起こった。佐々木が帰宅すると妻の邦子から離れを間貸ししていた堺がスパイ容疑で逮捕され、特高刑事が家宅捜索に来ていると言う。正門からの入構、出構したのが堺のみだという証言が守衛からあったというのだ。特高刑事に、「あの晩ですか・・・」と思わせぶりに証言する。
  憲兵隊に逮捕され、西田に執拗に尋問され憔悴しきった堺の前に、佐々木が証言者として呼ばれ「あの晩、僕は、君が出掛けて行くのを見てしまったのだ」と言うのを聞いて愕然として、「あの日、不眠症だという僕に、ドイツ製のよく効くという睡眠薬を飲ませてくれたのは佐々木さんだったじゃないですか!!」と抗弁するが、西田には全く聞いてもらえず肩を落とす堺。
   椎名は日本造船の構内を隈なく調べる。壁に犬が蹴ったような跡があり、梯子を登って鉄条網を調べると犬の毛が引っ掛かっていたことを発見する。佐々木の務める新聞社に憲兵隊が急襲し、佐々木は逮捕される。

久保田(森矢雄二)医師(原聖四郎)

    67年大映東京田中徳三監督『陸軍中野学校 竜三号指令(4)』
    中国の荒野を、日本陸軍のサイドカー付きバイクと乗用車が疾走している。小屋から、ワルサーの自動小銃が乗用車のタイヤを狙撃する。急停止する車とバイク。そこにトラックがやってきて、ダイナマイトを投げる。全員が死亡した。
   草薙中佐(加東大介)に呼び出された椎名次郎(市川雷蔵)。膠着した中国戦線を打開するため、重慶政府との和平交渉に向かった日高大佐たちと、出迎えの兵士?人が全滅された事件は、上海の軍ルートからの機密情報の漏洩が原因だと考えられ、椎名には、上海憲兵隊と共に徹底的に調査することが命じられた。竜三号指令と名付けられた。このテロ団の規模は大きく、乗り捨てられたトラックには、口径7.63mmのモーゼルの薬莢と、何故か078と刻印が打たれた1$銀貨が残されていた。南京に行っている杉本と行動を共にしろと言う草薙。また登戸の研究所で開発された新兵器を渡された。
椎名は、指令を受けた3日目の午後には上海の日本人租界にいた。日本人経営のホテルに旅の荷をほどき、

 「神よ、与えよ万難、我に。」

  池袋新文芸坐で、生誕100年 文豪・松本清張と映画

  63年松竹大船川頭義郎監督『風の視線(5)』
    冬の雪原で三脚を立て撮影する男(園井啓介)。タクシーに戻って来ると、作家の富永弘吉(松本清張)と編集者の角谷(矢野宣)が待っている。「奈津井くん。先生がびっくりしているんだ。結婚式を挙げて、花嫁を置いて、こんな所まで撮影に来て…」「花嫁さんとは浅虫温泉で落ち合うんだろ」タクシーの運転手が「写真さ撮るなら、十三潟さ、行くといいべ。何にもない」「いいですね。行ってみたいな」と奈津井。富永が「若い人は気が短いなあ」角谷は「もういい加減にしないと奥さんが可哀想だ。勿論、家庭にうつつを抜かして貰っちゃ困るんだ。新進写真家としての君を評価して、この作家と旅の企画を頼んでいるんだから…。しかし、今回は流石に新婚旅行の最中なんだから」「いや、僕は仕事を優先しますよ」
   青森駅前でタクシーから降りる奈津井久夫。浅虫温泉の旅館に一人待つ千佳子(岩下志麻)がいる。女中「ご主人様がお見えになりました」千佳子「お帰りなさい」何だか他人行儀な千佳子。新妻だからと言うだけではなさそうだ。女中「お食事になさいますか」「いや、風呂を先にしたい」浴衣を用意しながら女中が「奥様もご一緒に」「私は後からにします」支度をしに女中が出ると、奈津井「君は食事は?」「いえまだです」「僕の仕事は普通の人とは違うので、気を使わないで下さい。待っていられると恐縮だ。」「分かりました」風呂から出た奈津井が、千佳子と膳を囲んでいる。「君もビール飲むかい」「いいえ、私はジュースを…」「おめでとう!!」と奈津井はコップを掲げるが、千佳子はまだジュースを自分のコップに注いでいる。「君は僕の写真を見たことはあるかい?」「いいえ」「写真に興味はあるかい?」「特には…」弾まない会話。千佳子が風呂から部屋に戻って来ると、奈津井は既に眠ってしまっていた。
奈津井久夫(園井啓介)千佳子(岩下志麻)龍崎重隆(山内明)亜矢子(新珠三千代)姑聡子(毛利菊枝)妹啓子(中村たつ)夫義昭?久世俊介(佐田啓二)英子(奈良岡朋子)山岡ミチ(小林トシ子)作家富永弘吉(松本清張)写真家長沖保(滝田裕介)編集長窪田清人(野々村潔)文化部長(加藤嘉)望洋閣番頭(遠山文雄)

   61年ニュー東映石井輝男監督『黄色い風土(6)』
   東京駅、東海道線のホームに、週刊東都の記者、若宮四郎(鶴田浩二)がやってくる。ホームには、熱海に新婚旅行に出かける二人を祝福する人々で溢れている。「成程、文字通り新婚列車だ」と思いながら若宮は乗り込む。「おっ、いい匂いがする。カトレアの香水だろうか。」カップルだらけの座席に、一人、女(佐久間良子)が座っている。「そこ空いてますか」頷く女。発車間際に男女が乗り込んでくる。服装は新婚だが、見送りが一人もいないことが若宮は気になった。発車する。横に座ったカトレアの匂いのする女は、原書で哲学書を読んでいる。「列車の中で、哲学書を読むなんて、何者だろう。カトレア・・・。カトレアの女だ。」
  熱海で下車し、東都新聞の熱海通信局の村田(春日俊二)とつるやホテルに行く。このホテルに泊っている評論家の島内輝明(柳永二郎)にコメントを取りに来たのだ。フロントの春田(増田順司)は満室だと答えたが、村田が島内先生に会いに来たんだと告げると、部屋を用意する。列車の中で気になった新婚夫婦がチェックインするのを目撃する。
  若宮が618号室で待っていると、島内から、今晩は遅くなるので、翌朝8時に屋上の喫茶室で会おうという伝言が入る。突然、大きな洋服の箱を持った男が入って来て、「洋服の用意が出来た」と言うが、心当たりのない若宮がその旨を伝えると、男は慌てて出て行った。部屋を間違えたようだ。

木谷編集長(丹波哲郎)奥田正一(内藤勝次郎)妻(吉川満子)田原(曽根晴美)珠美(小林裕子)児玉(須藤健)野村(若杉瑛二)村田の妻(藤里まゆみ)谷川由美(八代万智子)島内夫人(故里やよい)岩淵安男(北川恵一)倉田敏夫(大東良)桜井(神田隆)

2010年1月4日月曜日

仕事初めというか、映画初めというか…。

 旗の台の事務所まで、年賀の挨拶。その後、超遅昼御飯を食べながら、N氏と作戦会議。

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭。         
    67年大映東京井上昭監督『陸軍中野学校 密命(1)』
   昭和15年初夏上海。椎名次郎(市川雷蔵)は、中国人の姿をした憲兵隊員に逮捕された。辻井機関に所属する特務将校だと名乗っても全く弁明を許されず、東京憲兵隊に護送された。
   特高課長(久米明)は、重慶側のスパイに軍の機密情報を金で売った嫌疑が掛かっていると言う。陸軍省兵務局の草薙中佐に連絡をしてもらえば、そのような人物ではないと証言してくれると言うが、取調官から電話を受けた草薙(加東大介)は「お前が、国を売るような奴だとは思わなかった」と取り付くしまもない。後は、白状しろと、終日竹刀によって、問い詰められるだけの毎日だが、全く心当たりの無い椎名には、喋りようがないまま、一週間が過ぎる。
  同房の初老の男は、元外務大臣の高倉秀英(山形勲)だった。親英米派で、戦争拡大を防ごうと動いている高倉の言動と行動は軍部にとって目障りだったのだ。紳士的で理知的な高倉と椎名との間に、信頼関係が生まれる。神経痛の高倉の背中と腰を揉んでやり、小便が近い高倉の為に、看守(黒木現)に意見をする椎名。
   ある日、椎名は中尉から一等兵に降格を命じられ、更に一週間経った時に、突然不起訴となり、更に原隊に復帰することなく、召集解除と申し渡され釈放された。高倉からは、また会おうと声を掛けられた。不思議なことに、全く心当たりがない三平と名乗る男が、叔父さんの代理でもらい下げに来たという。取り敢えず、三平に話を合わせて、釈放される椎名。「そろそろもう良いだろう。本当のことを言えよ」と椎名は声を掛けるが、男はとあるアパートの二階の部屋に入っていく。そこには、草薙中佐がいた。「少々荒っぽい呼び出しで申し訳なかった」と頭を下げる草薙。三平と名乗った男は椎名の後輩の中野学校三期生狩谷三吉(山下洵一郎)。 
   今回の任務には同房の高倉に関係があった。政界上層部にキャッツアイと言うスパイが潜入し、機密情報がイギリスに漏れていて大問題になっていた。キャッツアイとは、シンガポールにある英国諜報部のキャップだ。昨年の10月に入国した形跡があるが、一切招待が分からなかった。椎名と同期の久保田に探らせていたところ、高倉の近くにいるのではとの情報を掴み絞り込んで特定するに至ったが、草薙に報告をする直前、多摩川河原に死体で発見されたと言う。久保田の手帳には、あまりに意外な人物なので、もう少し証拠を掴もうとしていたことが書かれている。
   さっそく、椎名は、箱根の高倉邸に出向く。近くの道で自転車のチェーンが外れて困っている娘(高田美和)がいる。椎名は声を掛け直してあげる。喜んで去っていく娘に手を振る椎名。玄関に出て来た女中のまつ(橘公子)は、椎名を怪しんで中々入れてくれない。先ほどの自転車の娘が椎名に気がつく。彼女は、高倉の一人娘美鈴だった。右翼からの脅迫が続き、まつは過敏になっていると美鈴は言う。しかし、高倉は警察の警備などはいらないと断ってしまうので、椎名に警護をして欲しいと美鈴は頼んだ。高倉も、2,3日温泉に入って行きたまえと言い、椎名は高倉邸に潜り込むことに成功する。
  翌日、釈放されたばかりの高倉の慰労を兼ねたパーティが開かれる。参加者は、リーマン英国大使夫妻、カールソン米国大使夫妻、マニエル仏大使夫妻。更に、久保田が怪しんでマークしていた、ロジャース神父、ヘイドン特派員、クラーク?、日本タイムスの坂上武(北龍二)、ウィーン大使の未亡人浅井夫人(野際陽子)も参加している。流暢な英語による会話とスマートなダンスで出席者に近づく椎名の姿を見て、高倉は怪しむ。酔い潰れた浅井夫人の代りに運転して送って行ったと聞いて、美鈴に「随分沢山の海外駐留武官を見て来たが、あんなに英語が流暢な男はいなかった。ひょっとすると椎名は、自分に何か意図があって近づいてきたのかもしれない」と言うが、椎名に好意を抱いている美鈴は否定する。
   浅井夫人を家まで送った椎名は、誘われて同衾する。浅井夫人はモルヒネ中毒になっている。高倉邸に戻った椎名に、高倉は、若い娘がいる家なので、近所への手前もあり遠慮してくれないかと出て行かせる。言われるまま引き下がる椎名。傷つき追おうとする美鈴を止める高倉。
   椎名は、久保田のリストで最も弱い浅井夫人をマークする。浅井夫人と一緒に出掛けたダンスクラブ・キャバーンで踊っていると、楽団のクラリネットを吹く男が、かって上海の共同租界で椎名を執拗に尾行してきた男と似ていることに気がつく。浅井夫人と飲みに行く途中、狩谷に電話をして正体を掴めと指令する。そのあと、飲みに行った椎名は、浅井の注射跡に、モヒだろうと問い詰め、どこから手に入れているのかと問い詰める。浅井夫人は、ドイツ大使館に情報を売っているのだと告白する。
   狩谷は、クラリネット吹きの男が、小柳(千波丈太郎)という男で、キャバーンには昨年の10月頃やってきたことを掴んだ。丁度キャッツアイが日本に潜入した時期と重なっている。小柳は自転車で安アパートとクラブを往復するだけだが、何故かアパートの前にオースチンの車が止めてあるのだ。更に何故かコーヒー屋のサエグサに週一度通っていることが判明する。更に、サエグサは英国大使館に、コーヒーを頻繁に届けているのだ。
   ある日、ドイツ大使館の武官ウィンクラー大佐(フランツ・グルーベル)が、重大な情報が英米に漏れているという忠告が入る。大庭次官(内田朝雄)は草薙を呼び出し叱責する。更に草薙はウィンクラーに、キャッツアイをいつまでも捕まえられないのは、日本の諜報機関は何をやっているのだと罵倒され、切歯扼腕し帰ってきた草薙に、2週間で、キャッツアイを捕まえましょうと言う椎名。そのために、小柳を徹底的にマークしろと狩谷に命ずる椎名。
   狩谷は小柳の留守に、部屋に忍び込む。しかし、小柳は戻って来て、銃撃戦になる。小柳は逃走してしまった。椎名は、拙速の末唯一の手掛かりを失った狩谷を責める。「一人のスパイは一個師団に相当する。死をもって失策を償え。遺書を書いて自決せよ」と言う。「どうすれば?」という狩谷に「死んでお詫びいたしますと一筆書いて署名だけすればいいんだ」と言って、手帳と万年筆を渡し、コップの一杯の水に数滴の薬品を垂らし、飲めと言う。震えながらコップの水を飲む狩谷に、「よし、これで中野学校は卒業だ。ただの水だ。とにかく、サエグサを全力で見張れ。」と言う椎名。
   椎名は、高倉を訪ね、自分が諜報機関の人間であり、英国のスパイ。キャッツアイを追跡しているのだと告白する。高倉は、スパイは最低の人間であり、自分は一切信用しないと言って、椎名を罵倒する。しかし、高倉邸を去った椎名を追いかけて来た美鈴は、自分が椎名を信用し、椎名の為に、父親を裏切っても、情報を流すと言う。 
  

   68年大映東京井上昭監督『陸軍中野学校 開戦前夜(2)』
   汽笛が鳴り出港する船の甲板に椎名次郎(市川雷蔵)の姿がある。これは前作密命のラストシーンである。昭和16年11月、支那大陸での戦闘は膠着し、英米との開戦も回避出来ない感が強まって来ていた。椎名の今回の任務地は、英領香港。香港の夜の街外れを歩く椎名。後を付ける影があるが、椎名は巻く。
   昭和貿易公司の看板が出ている。椎名に柏木陸軍中佐(内藤武敏) 「そうか、付けられたか」「おそらく、P機関でしょう」「そうだろう、連中は日本人と見れば、観光客でも誰でもつきまとっているからな。紹介しておこう。海軍の情報将校の磯村君だ。表向きは、山本物産香港支社員だ。」磯村宏(細川俊之)「何でもお手伝いさせて貰いますよ」
   マレー駐在の米軍のダイク大佐が、11月5日から10日まで、プラザホテルの433号室に宿泊している。その目的は、フィリピン、マレーなど、米英の参謀たちが集まる防衛会議だが、9日の内に、ダイク大佐が纏めた報告書をコピーすることが、今回の椎名の使命なのだ。磯村は、プラザホテルのダイク大佐のすぐ近くの432号室を椎名の為に取ってくれていた。
   磯村は、山本物産の支店長令嬢の中田昌子(織田利枝子)と彼女の友人の女医の一の瀬秋子(小山明子)と食事をしようと言う。プラザホテルのラウンジで、昌子と磯村がダンスをしている間、椎名は秋子と話をし、惹かれていく自分に気がついていた。ダイク大佐は、必ず決まって、午後8時にバーに現れ、30分過ごすのだ。9日の夜、椎名は、ダイク大佐が部屋を出るなり、鍵を開けて忍び込む。ダイク大佐は侵入者対策に、ドアに自分の髪の毛を貼り付けておいたが、ドアの下部の隙間から見ていた椎名はそのトラップを簡単に見破った。
   忍び込み、ダイクの部屋を調べる椎名。最後にシャンデリアの上に隠された資料を発見し、撮影する。ダイクが1Fラウンジで酒を飲んでいるカウンターの隣には、磯辺と昌子がいる。いつもより短い時間で、切上げて部屋に戻ろうとするダイクに、磯辺はグラスを倒して、昌子に拭かせ、時を稼いだ。磯辺がダイクの部屋に電話をすることで、危険を知らせ、間一髪、椎名はダイクが戻る直前に、髪の毛のトラップも含め偽装し、逃げることに成功する。しかし、一流の軍人であるダイクは、何事かの気配を感じて、P機関に椎名の調査を依頼する。
  椎名は、1Fのラウンジに降り、磯村と会話をする振りをして、磯村のズボンの折り返しに、直前に撮影した連合軍の報告書のフィルムを忍ばせる。翌日、任務を無事済ませた椎名が、ホテルを出て歩いていると、路地から出て来た若い中国娘(川崎あかね)が、麻酔薬を椎名に刺す。そして、椎名は拉致される。
 

2010年1月3日日曜日

帰省とテレビ。

  1日2日と実家に。帰省といっても、日野なので、1時間も掛らないのだが、会社員の頃は、正月くらいしか帰宅しない親不孝者。
  年末から何かをしながらテレビを見ていたが、NHK の中国残留孤児を扱った「遥かなる絆」よかったなあ。こうした丁寧なドラマは、国内ではNHKにしか出来なくなってしまったのではないか・・・。先のクールで絶賛されたTBSの「JIN」にしたって、コミック原作、江戸の設定なのにオープンセットはお粗末だった。まあ、見ている人は誰もそんなことを気にしていないのかもしれないが・・・。
  NHKついでに、紅白歌合戦もブログを書きながら見ていたが、サプライズをさせよう、見た目を派手に演出しようという作り手側の気持ちが勝ち過ぎて、「歌の力無限大」という割に、バラエティに終始していたと思う。「竜馬伝」の番宣番組の合間に、歌手が出演する感じというと言い過ぎかもしれないが(苦笑)。途中で、本を読み始めて、気がついたら終わっていた。同じNHKのドラマでも「とびはね」は、書道漫画のドラマ化だが、番宣を見る限り、コミックの実写化に過ぎない気がする。
  実家はソニーブラヴィアの40inchを年の瀬に買ったということで、更にテレビ三昧。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートの衛星中継よかった。まさみとあさみの「女二人自転車旅」まさみカワイイ。歴史ものを見て、結局、箱根駅伝とラグビーの大学選手権、このままでは、テレビっ子に戻ってしまうと思って帰宅。民放各局の年末のスポットは、番宣ばかりだったが、NHKも番宣ばかり。
  お陰で、読み返していた沢島忠の「沢島忠全仕事 ボンゆっくり落ちやいね」面白い、面白い。箱根駅伝の沿道の人出を見ても、テレビの大晦日、正月の時代は終わったんだなあ。