2009年8月15日土曜日

8月15日だ。

   京橋フィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで 2007-2008
   54年大映東京西村元男監督『君待船(470)』
    港に佇み、海を眺める男(林成年)がいる。重い足取りで盛り場を歩く。船員と喧嘩をしている流し田崎義男(田端義男)。男は止めに入る。揉み合う内に、船員を殴ってしまう。警官たちにみな逮捕される。
   翌朝、警察署長の河原(見明凡太郎)と田崎の妹京子(南田洋子)が話していると、義男が連れられてくる。「京ちゃんが貰い下げに来てくれて、身元保証人になってくれたからだぞ」と義男に説教する署長。あの喧嘩を止めてくれた人は?と尋ねると中里って男は、無職、住所不定だから、直ぐには出せないのだと答える署長。署長は、中里を呼び、君は殺人で、3年服役していたんだなと言う。中里精一、25歳…、3年ねえ…、長いなあ。煙草を勧め、差し支えなかったら、事情を話して貰えないかと言う署長。
   遠い目で昔を思い出す中里。早くに両親を亡くした中里は、粟島の大野屋と言う船主の家に引き取られた。成長した中里は大野丸で、船員をしている。港に戻って来ると、明子(藤田佳子)が待っていた。家に戻る途中、明子は増田屋の息子が私を嫁に欲しいと言ってきたけど、どうしたらいい?と言う。増田辰吉(中条静夫)は、札付きの不良だが、母親は増田屋に借金もあり、悪くない話だと言っているのだ。もうすぐ忠士さんが帰って来るからと励ます精一。兄さんなら私の気持ちを分かってくれるわと言う明子。途中辰吉たちと出会う。東京から洋服の生地が届いたので、持って行くよと声を掛けるが、頼んだ覚えはないわとつれない明子。
    帰宅すると、忠士が明日帰ってくることになったと母の志乃(村田知英子)が言う。忠士が大野丸の船長になるので、私は店周りをやらせていただきますと精一。翌日精一と明子は、忠士(品川隆二)を迎えに出る。正は、明子が大人っぽくなった、早く精一に貰ってもらえと言う。照れる明子。忠士と志乃が明子の縁談のことで言い争っている。辰吉は、両親に明子と結婚出来たら心を入れ替えて働くと涙を零したと言う志乃。絶対反対だ。明子は想い合っている精一と結婚することが幸せなんだと忠士。
    しかし、数日後夏祭りの晩に事件が起こった。辰吉と忠士が、明子のことで決着をつけるんだと港の方に言ったと聞いて駆け付ける精一。止めに入り、揉み合ううちに辰吉を殴りつける。とうとう辰吉はナイフを取り出した。
   そして出所して粟島に帰ったが、忠士は大野丸の難破で命を落とし、大野屋は潰れ、志乃も明子も行方が知れず、東京に出たと噂を聞いたので、東京へ出て来て探し歩いているのだと答える。
   警察署を出て来た精一を田崎兄妹が待っていた。喧嘩を止めてくれた恩義があると言って、朝食を誘う。仕事を探していると言うが、今日泊まるところもない精一を心配して、自分の部屋にいろと言う義男。
   京子は、リリアンというバーをやっている。義男はこのあたりで評判の流しだ。リリアンの客の山田が、自分の勤める川西製菓の配達課の仕事を世話してくれた。
    初日、中里の運転するトラックの助手席に川西俊作(高松英郎)が乗り込んできた。川西はしきりと、お茶を飲まないかとか、アイスを食べないかと誘惑するが、主任さんに急いで届けるよう言われていますので、と乗ってこない中里。結局、途中の店の主人が川西の友人で、そのまま下車する川西。
   ボースン頭の権藤(江川宇礼雄)が道で、車を拾おうとするが、なかなか捕まらない。そこに中里の車が通り掛かる。新橋まで乗せてくれと助手席に乗り込む権藤。リリアンに行って京子と飲もうと言う権藤に、今日は店は休みですと中里。僕の就職祝いを家でやってくれるんですと言うと、そりゃ目出度い、自分も参加すると勝手な権藤。実際、就職祝いの食事も、一番飲んで盛り上がっているのは権藤だ。権藤の指名で、義男が「君待船」を歌う。自分の境遇にそっくりで、あまりに切ない歌に、部屋を出て物干し台でボーっとしている中里。京子が来て、何か気に障ったことがあったの?と尋ねる。いや、としか言わない中里に、涙を流して、いつも中里さんは何も言わない、言って貰わないと私たちだってどうしていいのか分からないわと叫んで走り去る。

   南田洋子可愛いなあ。

   56年大映齋藤寅次郎監督『弥次㐂多道中(471)』
   神田八丁堀、溝板横丁の長屋に人だかりがしている。噂好きな江戸っ子たちは何が起こったかと大騒ぎだが、借金取りが集まって、弥次郎兵衛(市川雷蔵)と喜多八(林成年)が溜めに溜めたツケを今日こそ取り立てようとやってきたのだ。酒屋(大国八郎)魚屋(越川一)米屋(石井富子)初め大騒ぎだ。戸をドンドン叩いていると、大家の佐兵衛(中村是好)は、ワシの地所なんだから止めてくれと言う。家賃も何か月も溜めているのだ。二人は困って中に籠る。表も裏も固められているのでどうしようと喜多八が言うとモグラ作戦だと弥次郎兵衛。二人は、床下に穴を掘り、隣の寺の墓地に出た。和尚(武田徳倫)は、墓石が揺れ始め、地面から手が出て来たので、腰を抜かして経を読む。

   銀座シネパトスで、日本映画レトロスペクティブーPART2ー」~戦争と人間 良心の重さ~
   59年松竹小林正樹監督『人間の條件 第3部(472)』

   59年松竹小林正樹監督『人間の條件 第4部(473)』

    子供の時分に映画館で見た後、幾度となくテレビの一挙上映で見てきた映画だ。今回第1部と第2部は、みられなかったが、自分の記憶しているストーリーはスタンダードサイズ。実際はシネスコだったんだ。満州の国境近くの寂寥感はやはりシネスコだな。テレビ放送のためにサイズを4:3にした人間の責任でもなく、そこで切られてしまう部分に大事なものが映っている。

   谷崎×エロス×アウ゛ァンギャルド 美の改革者 武智鉄二全集
   64年松竹/第三プロ武智鉄二監督『白日夢(474)』
   谷崎潤一郎と武智鉄二の前書きが出る。「初め、武智くんはこの作品をオペラにしたいと言って来た。・・・・・この映画になったが、武智君のシナリオは完ぺきにこの作品の世界を描いている。また、当時検閲などで書けなかった部分も、書き足してくれた気がする・・・。主演の路加奈子くんにも会ったが、原作のイメージ通りだ・・・。云々 谷崎潤一郎」協賛の一社消されている。
   歯医者。激しい金属音。老人(小林十九二)の歯型を取る助手の女(松井康子)。歯科医(花川蝶十郎)は女の患者の虫歯を削っている。倉橋純一(石浜朗)やってきて診察券を出し、待合室に座る。少し経って、葉室千枝子(路加奈子)やはり診察券を出し、斜め前の席に座る。まず葉室千枝子の名前が呼ばれ、次に倉橋の名前が呼ばれる。
    智恵子の口腔内を調べ治療する歯科医。千枝子の顔は苦痛に歪みレースのハンカチーフを握り締めた手は震え、豊かな胸と腹部は上下を繰り返している。フェチズムとサディズムが混じったエロチックな光景である。倉橋は隣の女が気になっている。倉橋の虫歯は悪く、抜歯をしようと歯科医は言う。麻酔を肩に注射される倉橋。遠くなる意識の中で、隣りの女が失神する。服を緩め、麻酔ガスを吸わせる助手。歯科医は、女の胸を露出させ、乳房の上を噛み歯型を付けている。倉橋は、完全に眠ってしまっている。ベンチを持った歯科医に抵抗しているようだが、簡単に歯を抜かれる。
    赤坂のナイトクラブ月世界で、千枝子が歌っている。客席にはだれもいない。油絵を持った倉橋が店にやって来て、この絵をマネージャーに届けに来たと言う。千枝子が歌っていることに気づく倉橋。いつの間にやら、客席に正装した歯科医がただ一人座っている。歌い終わり一人拍手をする歯科医。
    千枝子の楽屋、千枝子と歯科医がいる。天井から倉橋が覗いている。歯科医が言う「そう、いつものところに行くよ」「今夜は行けません」「あなたはきっと来ます」「ここてお話しをするだけではいけないんですか」「ただ顔を見るだけじゃつまらんじゃないか」「後生ですから、今夜は堪忍して」「車で待っていますよ」と言い残して先に部屋を出て行く歯科医。千枝子は泣いている。倉橋が降りてくる。倉橋の気配に気付いた千枝子が振り向く。「智恵子さん、僕はあなたを救いに来ました。さあ早く逃げましょう。」千枝子は涙を拭いて「あの人が待っています。どうか、そっとしておいて下さい」「あいつは悪魔なんだ。あいつに関わっていたらあなたは堕落するばかりだ。」「もう堕落してしまいましたわ」と言って出て行く千枝子。
    歯科医と千枝子の乗った車がホテルの前に着く。二人が中に入ると、車の屋根から倉橋が降りる。中に入るが、部屋がわからなかったのか、再び出てくる倉橋。4階位の部屋に明かりが点いている。ベランダに登って窓から中を見る倉橋。中では、歯科医が縄を出し、千枝子の手首を縛り、鴨居に掛けた縄を引く。腕を引き上げられ呻く千枝子の着衣を、鋭利なメスとハサミで切り始める歯科医。

   松竹の富士山マークが出て驚く。更に、谷崎の推薦文、石浜朗まで出演だ。路加奈子がもう少しいい女であれば・・・。子供の頃、通っていた歯医者の苦痛と恐怖が甦ってきた。今の歯医者は随分変わったんだなあ。

2009年8月14日金曜日

成瀬巳喜男特集最終日。

     神保町シアターで、没後四十年 成瀬巳喜男の世界
     66年東宝成瀬巳喜男監督『ひき逃げ(467)』
     パチンコ屋で、這いつくばって玉を探す子供がいる。見つけた玉で打ったところを革ジャン姿の若い男に首根っこを掴まれ、タケシ!!駄目だろと連れて行かれる武(小宮康弘)は、五歳。近くの中華料理屋楓林で゛働く伴内国子(高峰秀子)の一人息子だ。革ジャン姿の男は国子の弟の林弘二(黒沢年男)だ。国子は女手一つで武を育てていた。武は幼稚園が嫌いですぐ逃げ出してパチンコ屋で遊んでいるのだ。
   テストコースで、新型バイクのテスト走行をしている。テストは大成功だ。ヤマノモータースの専務の柿沼久七郎(小沢栄太郎)、川島友敬(加東大介)、黒金周一(土屋嘉男)、重役(十朱久雄)らが、「これでライバルの極東モータースも、インターナショナルモータースも愕然とするだろう」と祝杯を上げる。川島が「ジェミニ・ブルースターでどうでしょう」と言う。上機嫌で自宅に電話をする柿沼。女中のふみ江(賀原夏子)が電話を受ける。「週末に、絹子と健一を連れて箱根にでも行こうと思っているのだが、絹子はいるか」「奥様は、学校の同窓会のバザーの打合せで外出なさっています。」
   名曲喫茶の同伴席に、柿沼の妻絹子(司葉子)と小笠原進(中山仁)の姿がある。絹子は、別れたくないと言うが、家庭は捨てられないのだ。小笠原は、NYへの転勤を期に、この関係を清算したいと言う。店に絹子宛ての電話が入る。万事心得た女中のふみ江からで、夫が帰宅するので、一時間ほどで帰宅してほしいとのことだ。絹子は、運転する車の中でも、別れたくないと言い続ける。自宅近くにまで戻り狭い視界の悪い道を走っているときに、武が飛び出して来て、はねてしまう。バックミラーに武が立ち上がろうとしたのを見て、車を出してしまう葉子。小笠原と一緒で厄介だという気持ちが勝ってしまったのだ。しかし帰宅して車のバンパーに武の血がべっとりとついていることに気がつき、夫に子供をはねてしまい、逃げてしまったと告白する。柿沼は、新車の発表直前に、会社の重役の妻がひき逃げしたとは、どうマスコミで叩かれると考え、身代りにお抱えの運転手の菅井清(佐田豊)

  
    54年東宝成瀬巳喜男監督『晩菊(468)』
    倉橋きん(杉村春子)のところに、周旋屋の板谷(加東大介)が訪ねてくる。女中の静子(鏑木ハルナ)は聾唖者だ。おきんは、家の代金20万円を支払う。コツコツ貯め込んだおきんは、不動産を売買しながら、昔の芸者仲間に金貸しをしている。
   まずは、おでん屋をしている中田のぶ(沢村貞子)と仙太郎(沢村宗之助)夫婦を訪ねる。おきんは裏口から入り、おのぶに、いつものように逃げられるといけないと思ってねと嫌みを言う。おのぶは、神棚に上げてあったお金を渡す。これからたまえのところに回るが、いつもあの人には居留守使われてね、あの人の厚化粧、いい旦那でもいて貯め込んでいるんじゃないかと悪態をつくおきん。いやあの人は、息子さんの面倒で苦労されていてそれどころじゃないですよと庇うおのぶ。
    おきんはおたまが働く旅館に行く。玄関の掃除をしていた女中(出雲八枝子)が、おたまさんは体の具合が悪くて二日前から休んでいますよと答えるが、信用しないおきん。女中に水を撒きますがと言われて渋々引き揚げる。
  やはり芸者仲間だった鈴木とみ(望月優子)が、たまえの家に間借りしているので、おとみが掃除婦として働く下宿屋に行くおきん。

 杉村春子、望月優子、細川ちか子、ベテラン女優の手練手管が炸裂する。沢村貞子でさえ十両(失礼な言い方だが・・・。)、有馬稲子は序の口だ。役柄の問題だろうが、吝い屋で冷静な杉村春子よりも、だらしない望月優子、おっとりしてお人よしの細川ちか子の魅力が光る。それは、自分のだらしなさや無計画性を投影しているせいなのだろうな。

   67年東宝成瀬巳喜男監督『乱れ雲(469)』
    官舎の成城寮を出る江田由美子(司葉子)。通産省に勤める夫の宏(土屋嘉男)と待ち合わせだ。宏はアメリカの大使館の一等書記官の辞令を見せる。スピード出世で、いよいよ3週間後にはワシントン勤務だ。由美子の胎内には3カ月の命も宿っていた。二人は幸福の絶頂だった。宏は、部長のお供で、大臣の国会答弁用の原稿を作りに、箱根に行くと言う。由美子は、姉の石川文子(草笛光子)の団地を訪ねる。石川(藤木悠)と息子は自分のことのように祝ってくれた。
   由美子を駅まで送った文子が戻ったところに、由美子宛てに箱根から電話が入る。宏が交通事故で亡くなったと言う知らせだった。義兄に付き添われて、霊安室で、夫の亡骸と再会する由美子。局長(村上冬樹)と部長(伊藤久哉)が遺体に付き添っていた。
   官舎の集会所で、宏の告別式が行われている。明治貿易からひときわ大きな花輪が出ている。宏が、通産省輸出振興部の所属であり、加害者が商社だったことで気を使ったんだと噂をする宏の同僚たち。そこに、部長の藤原(中丸忠雄)と加害者の三島史郎(加山雄三)がやってくる。お前の過失ではないんだし、俺がお焼香すればいいんだと言う藤原に、それでは気が済まないのでと答える三島。果たして、京都から列席した宏の父親(竜岡晋)は、宏を殺したのはお前なのか、よく、顔を出せたものだと、烈しく罵られる三島。何も言わずに睨む由美子の眼差しが三島を責めた。
   帰りの車の中で、本当に武内常務に直接聞くのかと藤原に、頷く三島。武内(中村伸郎)は、無期限の自宅謹慎、裁判と補償が決まり次第、青森出張所に左遷と言う話を認めた。我々商事会社は通産省輸出振興部の顔色を窺わざるおえんのだと言う。実は三島は、武内の娘の淳子と交際していた。この件とは関係なく、淳子との婚約は私は認めんと言う武内。下宿に帰宅した三島を淳子(浜美枝)が待っていた。いつものように、部屋を掃除し洗濯をしてくれていたが、一緒に青森に来てくれと言う三島の言葉に、私は行けないと言う淳子。
   裁判が開かれ、今回の事故は、直前に起きたパンクによってハンドル操作が不可能になったことが原因であり、不可抗力によるものと認定され、無罪を言い渡される三島。その頃、役所の出納課で、死亡退職金の説明を受ける由美子と文子。胎児は5か月以上になると遺族年金の対象になるが、3か月なので、全く出ないとか、もし、再婚などで江田家の戸籍から抜けると、年金の受給権は無くなると、あくまでも事務的に説明をする係員。宏の死亡以来呆然自失の由美子は、文子に任せきりだ。
   その後、由美子が宏と待ち合わせた喫茶店で三島と待合せる文子と由美子。既に来ていた三島に、裁判はどうでしたかと尋ねる文子。無罪でしたと聞いて愕然とする姉妹。では慰謝料などは支払わないというのですかと尋ねる文子に、法律的にはそうでも、自分の気持ちとして支払います、ただ、サラリーマンなので分割にしてくださいと給与明細を出す三島。お金よりも、夫を返してという由美子に、先に帰りなさいと言う文子。月々1万5千円を10年間支払うことになったと、帰宅して石川に説明している文子。しかし、自分だったら支払わないかもしれないなと石川。お金なんていらなかったのにと由美子。
   由美子が中絶手術を受けている。麻酔が覚めると、病室の外に三島が立っていることに気が付き、目を背ける由美子。文子が戻ってくる。青森に転勤することになったので、連絡先をお伝えに来ましたと三島。帰ってもらって!2度と目の前に顔を出さないでと叫ぶ由美子。

  成瀬巳喜男月間最終日ということもあり、満員札止め、猛暑の中やってきたシルバー層が肩を落として帰っていく。

  山城新伍さんの訃報。代表作が「白馬童子」「仁義なき戦い」「チョメチョメ」という報道を見て、いろいろ考える。。テレビ司会者や映画監督としての山城新伍を思い出すに、代表作がないのがバイプレイヤー山城新伍の魅力かもしれない。東映京都撮影所のプログラムピクチャーのバイプレイヤーには、どんな映画でも毎回クレジットに名前が出続けることが凄いことなんだと思う。

2009年8月13日木曜日

黒い雨の翌日は、黒い雪

   ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第48弾】星由里子
   64年東宝稲垣浩監督『がらくた(462)』
  室町時代末期、1500年頃、泉州堺の街は、自由都市として繁栄を極めていた。そこの泥棒市場に一人の青年(市川染五郎)が現れる。インチキ博打を見破って土廻りの連中から追い掛けられるが身軽に逃げる青年。彼の顔を見た老婆の占い師(五月藤江)は、とてつもない幸福を得るか、その反対かどっちかと言う。自分は今、銭がないが、ありがとうと礼を言う若者。若者の名前は勘三郎。水呑百姓で、土一揆を起こした土蜘蛛だった。
   千束屋の主人(左卜全)が、盗人から南蛮渡来の砂糖を買っている。その後、勘三郎がやってきて、5貫目で自分を買ってくれと言う。せいぜい一貫目だと言う主人に、砂糖のことを訴人すれば一貫目貰えるだろうと言って脅し、何とか話を聞いて貰う。どういう所で働きたいかと尋ねられて、あまり口を訊かないですむところがいいと答える勘三郎。主人は、勘三郎を店の奥に案内すると、脚がない男たちが、籠を編み、盲目の男たち(天本英世)が石臼を押している。みなそれぞれ相応しい働き場所があるのだと言う主人。働く者たちは、皆土一揆で不具になったことを知る
  主人は、勘三郎を、元海賊で飛ぶ鳥を落とす勢いの豪商黄旗屋に紹介してくれた。その日、黄旗屋は、娘の蒔絵(大空真弓)の花婿選びの宴会が行われていた。公卿の木辻中納言(有島一郎)と、細川家の重臣で管領職の猪谷兵馬(中丸忠雄)、博多の海賊の倅小次郎(早川恭二)五郎次(野村浩三)らが呼ばれている。現主人の庄兵衛(田中春男)は兵馬を、先代の庄左衛門(小川虎之助)は中納言を血縁にしようと考えていた。蒔絵は、小次郎を含めた3人を競わせて自分のプライドを満足させようとする高慢な娘だった。更にお抱えの狂言師の宮千代(平田昭彦)にも、私の夫にはなれないけれど、私の好きな人だと思わせ振りな色目を使う。宮千代は、黄旗屋の下女お京(中北千枝子)と関係がある。当時、使用人同士の関係は不義だった。
    黄旗屋は、めでたい日で、使用人たちも酒を振る舞われ無礼講だった。新入りの勘三郎は、薪割り、水くみなど寡黙によく働いた。井戸の前で、薪を割っていた勘三郎は、お京を探しに来た、黄旗屋の次女の緑(星由里子)に出会う。思わず平伏す勘三郎だったが、緑は自分が飼う鸚鵡のルリの番人を命ずる。蒔絵は、小次郎に誘われ、庭に出るが、押し倒すことしか出来ない小次郎を池に突き落とす。
   勘三郎は、船頭の

    シネマート六本木で、日活シネマクラシックVol.2 継承 川島雄三~今村昌平
    55年日活川島雄三監督『あした来る人(463)』


   東宝平川雄一朗監督『ROOKIES-卒業(464)』
    2009年3月二子玉川学園高校の卒業証書授与式が行われている。私語、携帯メール、全く落ち着かない雰囲気だ。

    アートポート ジョー・マ監督『さそり(465)』
    刑務所の中を、失神した松島ナミ(水野美紀)を運ぶ看守たち。所内の庭に鎖で吊り下げられるナミ。明かりが消され、温度も下がっていく中、自らの死を確信するナミ。ナミの追想、大学の構内にいるナミの携帯が鳴る。恋人のタイペイからのメールだ。今日のパーティーの服装について尋ねるメールに、裸は?と返信するナミ。ナミと恋人のタイペイ(ディラン・クォ)が愛し合っている。今から父親と妹を迎えに行ってくる。パーティーの前に一緒に食事をしたいので、手料理を頼むと言い残して出掛けるタイペイ。カクテルドレスに着替えたナミが食事の支度をしている。そこにサディスストの鉄人と、ミニドレスがエロチックな星愁、メガネにスーツの男蒼狼(サム・りー)、赤城が現れ、タイペイの父親のラム教授を殺すのだと言う。更に彼らは、ナミがタイペイの妹を殺さなければ、ナミの前でタイペイを殺すと言う。タイペイたちが戻るまで、脅迫され続けたナミは、思考力が停止し妹を殺してしまう。タイペイは、ナミを逃がそうとしたため共犯者と疑われ、嘘発見器に掛けられた。釈放されたものの
愛するナミが父と妹を殺したと言う現実を受け入れることが出来ない。
    ナミの刑務所生活は地獄のようなものだった。雑居房に入れられた初日には、新入りへの挨拶として、激しいリンチを受ける。牢名主のダイユー(夏目ナナ)は圧倒的な腕力で恐怖支配していた。さっそく半殺しの目に遭わされるナミ。同室にロボトミー手術を受けた女がいる。彼女にひなげしの花を握らせるナミ。鬼のような刑務所長(ラム・シュ)は、恋人のタイペイに会わせてやるとナミの身体を弄る。所内での生殺与奪を持つ男だ。せっかく再会したタイペイは、ナミの首を絞めた。
    所内では、ジャック・ダニエルのボトルを賭けた女囚レスリングが行われている。所長たちの博打の対象だ。そこでもダイユーは圧倒的な力を持っている。ロボトミー女が、倒し方を覚えないとここでは生きてはいけないと呟くのを聞いて、腕や脚の動きを見つめるナミ。ダイユーの妹分は敗れ失神する。その夜、ナミはダイユーに復讐する。妹分の女を絞殺したのだ。荒れ狂うダイユーは、看病を命じていた女囚を殺害し、懲罰房に入れられる。激しい拷問を受けたダイユーに、所長は手を下したのがナミだと告げた。シャワー室にいるナミを、ダイユーと彼女の子分たちが襲い掛かる。死闘の末、ダイユー以外の女囚は倒したものの、ダイユーは強い。水の入ったドラム缶に押し込まれ、遂に窒息するナミ。助けようとしたロボトミー娘も同じドラム缶に押し込まれる。窒息死した娘の手からひなげしの花が落ちた瞬間、ナミの意識は戻り、娘の頭頂部を塞いでいる金属板を剥ぎ取りダイユーの首を掻き切るナミ。そしてナミは、刑務所の空き地のクレーンに吊り下げられたのだ。意識が遠くなりながらナミは「このまま死んだら、私のことなんて忘れ去られるだけ。まだ死ねない。恨みを晴らすまでは…。」翌朝、ナミの遺体は、看守たちによって、シートに梱包され、刑務所から運び出され、山の森の中に棄てられた。
   ナミの死体が入った包みを担いで、廃屋に運び込む男の姿がある。地獄から蘇った奴は、最強の武道家になると呟く男。

日本語吹替だと思い込んでいたら、広東語だった。シネパトスが日本語版、シネマートが広東語だったんだな。予告編の日本語吹替の違和感が気になっていたので、字幕でよかった気がするが、広東語も全編アフレコなので、水野真紀、石橋凌、夏目ナナもきれいに吹替られている。みんな香港の俳優のようだ。英語版もあるのだろうか(笑)。ともかく、日本語版と広東語版、どっちを見たかによって、少し印象は変わるかもしれない。シネパトスでも見るかどうか、少し考えてしまうが・・・。
   「さそり」は何度も作られてきたが、伊藤俊也・梶芽衣子版の凄さに自滅したものが多いと思う。そうした意味で、日本の映画ファン的な過度の思い入れのない香港映画人による換骨奪胎は少し成功していると思う。しかし、日本出資の香港映画。出来は決してよくはない・・。

   銀座シネパトスで、谷崎×エロス×アウ゛ァンギャルド 美の改革者 武智鉄二全集
   65年国映/第三プロ武智鉄二監督『黒い雪(466)』
   横田基地の前にある売春宿、英子(松井康子)の上に乗ったままの黒人兵(リカド・ヘモサ)。英子は手を影絵のキツネの形にして天井に映している。隣の部屋の天井の隙間から覗いている若者がいる。売春宿の女主人の息子の崎山次郎(花ノ本寿)だ。次郎は、宿の前の駐車場にあるタクシー乗り場にいつものように若い娘が立っていることに気がつく。娘の父親はタクシーの運転手で、毎日弁当を渡しにここへ来るのだ。娘が助手席に乗り込んでしまったので、売春宿に戻る次郎。
   英子が、「ちょっと!あんたさっき覗いていたでしょう。妬いてんのね、坊や」と言う。母親の弥須(村田知栄子)が「病気の雪枝ちゃんの代わりの若い女の子をおばさんが連れてきてくれたわ」と言う。おばの由美(水町圭子)は、米軍将校のオンリーでえらく羽振りがいいのだ。おばさんが雪枝に、あんたの病気はどの位かかるんだい?と尋ねる。口の中におできが出来たのだと雪枝。変わりに連れてこられた娘は皆子(滝まり子)と言った。幸江は、母親の部屋に移ることになり、幸江の部屋に、皆子の荷物を運んでやる次郎。「俺のことどう思う?」「最初は怖かったけど、イカすと思うわ」次郎と皆子がディープキスをしていると、自分の日本人形を取りにくる雪枝。腋の下に大量の天花粉をはたく雪枝。

2009年8月12日水曜日

戦争を知らないコド~モ、たっち~さ~♪

   渋谷シアターNで、34年レニ・リーフェンシュタール監督『意志の勝利(459)』
   1934年9月4日ニュールンベルグで、国家社会主義ドイツ労働党(ナチ党)の党大会が開かれた。ヒトラーの乗った飛行機が雲の上を飛び着陸、ドイツ国民の熱狂の中ヒトラーは降り立つ。ホテル・ドイッチャー・ホーフに向かう車はハイル・ヒトラーの歓声を浴びながら進む。第一次世界大戦で敗北したドイツが、二十年近い間に復興され、遂に民族的誇りを復活させる時が来たのだ。ヒトラーユーゲントたちのキャンプ場、農民たちの民族衣装による収穫祭、国家労働奉仕団、親衛隊、突撃隊……。ヒトラーは、ドイツ人は平和を愛し、従順で、勇敢であれと演説をする。政権交代の時代は終わり、優れた指導者のもと、民族を国家を統一し、全ての自由と平等を実現するのだと言う。6日間の党大会の最終日は、ヒトラーの演説の後、ヒトラー万歳、ヒトラー万歳という大歓声に包まれる。ルドルフ・ヘス副総裁の、うわずった「ヒトラーがドイツだ、ヒトラー万歳、勝利万歳」と言う叫びを延々と繰り返すドイツ人たち。
    単にプロパガンダ映画と言うレッテルを貼るのではなく、ドキュメンタリー、ドラマ問わず映画は、いや、ジャーナリズム、アート、全て人間が作り出すものは、作者の手を離れてメッセージを持ち、プロパガンダの道具になる。作品に罪があるか否か、作者に罪があるか否かと言った二元論ではなく、受け手のリテラシーの問題だろう。そう考えると、不完全で、進歩のない我々は、過去の沢山の事例を見て学習する必要があるが、果たして判断できるようになるんだろうか。
   今更のような禁断の映像の教科書と言うより、テレビで流されている日常的な、既視感のあるただのニュース映画。民族、国家、国民、一体感、誇り、屈辱、威信、忠誠、周りに溢れている言葉の数々だ。誰もが、いつでも、どこでも作れてしまう映像時代。その映像を見ている時の自分が、高揚感を感じていないとは自信を持って断言出来ない。

   ラピュタ阿佐ヶ谷で、武満徹の映画音楽
   68年東京映画小林正樹監督『日本の青春(460)』
   井の頭線が渋谷に着く。吐き出される沢山の人々。ラッシュアワーの通勤客の中に、主人公の中年男向坂善作(藤田まこと)がいる。女性インタビュアーが、あなたは蒸発したいと思ったことはありませんか?とマイクを向ける。向坂は左耳が全く聴こえず、右耳も補聴器が無ければ聴こえない。補聴器のイヤホンを耳にはめ直して、逃げ出したいと思ったことはないと答える。結婚生活と家族構成を尋ねられて、結婚20年、妻に一男一女の4人暮らしだと答える向坂。朝から、肩を丸め、重い足取りで歩く向坂。ナレーション(三島雅夫)に突っ込まれ続けている。
   向坂は、小さな特許事務所を開いている。事務員の金子和夫(橋本功)と平山妙子(水木梨恵)の二人は、所長の耳が悪いのをいいことに勤務時間中にも関わらず、応接室で抱き合っており、5時前には帰ってしまう。結局向坂一人残って仕事をしている。
    戦時中大学生だった向坂は、友人の大野久太郎(田中邦衛)と、神宮で学徒出陣式に出席し、下宿先に帰ってきた。そこの娘の芳子(新珠三千代)を二人とも好きだった。詩を読む大野。そこに郵便屋がやって来る。大野への赤紙だった。国家って何なんだと頭をかきむしる大野。
    あれから23年が経った。帰宅した向坂を待っているのは、食事をしてくるのであれば、電話して下さいと文句をくどくど言う妻の美代(奈良岡朋子)だ。妻の切りがない愚痴に、時々補聴器のイヤホンを外す向坂だ。長男の廉二(黒沢年男)が、予備校生のくせに大学に進むのを止めようと言い出したので、お父さんからピシッと言って下さいと言っている。廉二も、妹の咲子(菊容子)とも会話は噛み合わない。
    廉二が、予備校で模擬テストを受けているが、何も書いていない。横の女(酒井和歌子)が、落とした消しゴムを拾って貰えないかと声を掛けてくる。廉二は無視をし続けた上に、自分で落としたんだから、自分で拾えと言う。言ってから、言い過ぎたと反省して答案用紙に謝罪の言葉を書いて投げる廉二。休み時間、改めて謝ると、鈴木真理子だと名乗った。同じ一浪だと分かり、親しくなる二人。
     ある日、外出先から向坂が事務所に戻ると、発明家の遠山正介(花沢徳衛)が、痴漢撃退用の女性下着を持ち込んで、金子と平山に説明している。痴漢に遭った際に、ボタンを押すと強力な悪臭が出ると言う。向坂が、君は使うかいと尋ねると、痴漢と交際したほうがいいですと平山。
    金子が、そういえばお客さんに連れていかれた銀座のバーのマダムが、事務所の名前を出したら、所長の向坂さんが知り合いかもしれないと言っていたが心当たりはないかと言うが、英芳子に記憶はない。ひょっとして、この詩を読めば思い出すかもと言ってメモを読み出すが青臭い詩を聞き流す向坂。しかし、突然大野が読んだ詩であることを思い出す向坂。
   続いて向坂にも赤紙は届く。下宿最後の夜、空襲警報が鳴り、向坂と芳子は二人になった。向坂は、芳子に、高槻に入隊する前に、名古屋の大野の母親を尋ねるが、実は米軍機が撒いたビラに名古屋の空襲予告が出ていたので、死亡偽装して入隊しないのだと告白し、接吻をする。

    京橋フィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで2007-2008
    89年今村プロダクション/林原グループ今村昌平監督『黒い雨(461)』
    この映画のストーリーは、改めてきちんと書きたい。モノクロの映画で、広島原爆投下後に降った黒い雨を浴びた高丸矢須子(田中好子)と叔父の閑間重松(北村和夫)シゲ子(市原悦子)夫婦、最後の重松の言葉「あの山に虹が。不幸の象徴の白い虹ではなく、5色のきれいな虹が出たら奇跡は起きる。矢須子の病気は治る。」。
   普段なら、人間の皮膚の毛穴や、汗や垢や目脂、耳糞鼻糞をこれでもかと見せる今村昌平が、淡々と描く人の生き死に、打ちのされるのだった。キャンディーズ美樹ちゃんファンの自分にも田中好子、スーちゃん切ない。