2009年3月28日土曜日

桜は3分咲きだが、酒飲みにはあまり関係がない。

    花見。随分昔に宣伝会議のコピーライター養成講座の仲間と企画した、浜離宮を見て水上バスに乗り隅田川公園でという、ロード花見。好評と言うより、マメで面倒見のいいS氏が幹事となって、 延々と続いてるものだ。今回は出張居酒屋をやろうと、筑前煮やら、ヒジキ、秋刀魚梅煮、きんぴら、鶏挽き肉と白滝大根炒めやら、代わり映えのしない惣菜類を、朝から作り、リュックをしょって出発、途中、地元ソーセージ屋もぐもぐで、ハムやらアイスバインやら買ってしまう。
    年々、S氏の人徳で、参加者増え大盛況。40人位までは覚えているが、隅田川公園の中盤から、ベロベロに、後輩Sが来るまでて流していたが、限界に。涅槃仏と言うか、トドのように横たわって飲み続けることに。止めは、神谷バーで、電気ブラン。ちゃんと帰宅できたのは奇跡的だ(苦笑)。

2009年3月27日金曜日

新作3本。

     新宿武蔵野館で、繰上和美監督『ゼラチンシルバーLOVE(192)』。
     男(永瀬正敏)は、ある男(役所広司)から、ある女(宮沢りえ)の生活を撮り続ける仕事を受ける。女の家の向かいにあるビルの部屋にビデオカメラを置き、ビデオテープをひたすら差し替えながら、延々と撮影するだけだ。女が何者なのか、何の目的で撮影するのか全く不明だ。女の美しさは、次第に男の心を捉え始める。
     宮沢りえ美しいなあ。衣装やヘアメイクも次々に変わっていき、昔なら、浅丘ルリ子が演じていた役だろう。先日観た市川準監督の「トニー滝谷」が洋服、つまり衣の宮沢りえだとすると、ゆで卵だけだが、食の宮沢りえだ。住の宮沢りえはデビューCMのリハウスか(笑)

    イメージフォーラムシアターで、中田秀夫監督『ハリウッド監督学入門(193)』

    ヒューマン・トラスト・シネマ渋谷で、ユー・リクウァイ監督『プラスティック・シティ(194)』
    ブラジルの最北端の街オイアホア、1980年代ゴールドラッシュが起こった。日本人一家はアマゾンのジャングルの中で、撃ち殺され独り息子だけが生き残り、ユダ(アンソニー・ウォン)に助けられ、息子のように育てられる。サンパウロ市のリベルターデで、成人した少年・キリン(オダギリ・ジョー)は、アジア系のマフィア・ユダの片腕として、ユダが仕切るショピングモールで、密輸入したコピー商品の売買を
手伝っていた。

    夜は、中目黒で行われた、元同僚で出版社の映像担当役員の友人の50歳を祝う会に出席。映画配給会社の方々に挨拶して、今のプロジェクトの相談が出来て、参加した甲斐があったというものだ。しかし、やっぱり飲み過ぎたようだな。

2009年3月26日木曜日

街を歩くと、卒業式だ。

     午前中は、洗濯と買い物。丸の内OAZOで後輩Kに今立ち上げているプロジェクトの話、何とか前に進むといいのだが。そのまま、丸善に寄ると、なかなか映画系の珍しい書籍が・・・。大人買いというより、耄碌衝動買い。あの世に本は持って行けない筈だが。

    神保町シアターで、浪花の映画の物語
    64年大映東京増村保造監督『(190)』
    柿内園子(岸田今日子)が、先生(三津田健)に徳光光子(若尾文子)との不思議な恋愛について語っている。
    園子は、船場のいとはんだったが、弁護士の孝太郎と自由気ままな結婚生活を送っている。ある時、日本画を習いに専門学校に通い始める。裸婦をモデルに観音像を描いていると、校長(山茶花究)が、あなたの絵は、このモデルとは違う。心の中に思い浮かべている人を描いていますねと話し掛けてきた。私の心の中の理想像を描いていて、特にモデルはいませんと言っても、くどい校長と言い争いになった。そのやり取りは、学校内で、西洋画の教室にいる光子との同性愛が噂されることになった。直ぐに園子は、化粧室で光子と顔を合わせることになり、園子は、光子から噂の元は校長らしいことを聞く。光子に入れあげるボンボンとの縁談話があり、市会議員から娘との結婚を協力して欲しいと言われた校長の策略だと説明され、噂をされる位なら、いっそ仲良くなって、校長たちの鼻を明かそうと言う光子の提案を面白がる園子。
    二人は週末、仏像を見に奈良まで出掛ける。山道を手を繋いで歩きながら、光子の美しさに胸がときめく園子。帰宅し、夫に観音像の絵を見せ、興奮しながら光子の美しさを語る園子に、夫はこの絵を掛け軸にして、光子に見せたらどうだと言った。

    63年大映京都三隅研次監督『女系家族(191)』
    大阪船場の矢島商店四代目の嘉蔵が亡くなった。矢島商店は、代々女系相続で惣領娘が婿養子を迎えて継いできた。四代目も、番頭だったが婿養子となり、商売を盛り立てて来たのだ。相続人は、外に嫁に出たが離婚して戻ってきた長女の藤代(京マチ子)、番頭を婿にとった次女・千寿(鳳八千代)三女の雛子(高田美和)の三姉妹だ。本家のご隠居を始め、親類縁者集まって相続の話をすることになった。大番頭の宇一(中村鴈治郎)が、四代目から指示された通り、書き置き状を出し、各自に改めさせた上で、相続管理人として読み上げる。商売に関することは次女夫婦に相続させた上、利益の50%を3分割して各自に、近在に50軒ある借家と土地は長女に、株券と骨董品は三女にと、書いてある。惣領娘としてのプライドの高い藤代は不満顔だ。次女は自分は婿を取るのが嫌で自分に押し付けておいて、この時ばかり長女を振りかざす姉に腹を立てる。まだ若い三女の後見人として、叔母の芳子(浪花千栄子)がしゃしゃり出て、お互いの欲に、この内容は納得がいかないと言う藤代の言葉で、改めて話し合うことになる。
   いがみ合う姉妹達だが、もう一通、四年前から面倒を見ている女がいると言う書き置き状の存在には一斉にいきり立つ。


   何だか疲れて、博華で餃子とビール。

2009年3月25日水曜日

恋は、遠い日の花火ではない

   ヒューマントラストシネマ渋谷で、品川ヒロシ監督『ドロップ(183)』
   狛江市の信濃川ヒロシ(成宮寛貴)は、不良に憧れ、中学3年で、公立中学に転校する。そこで、森木(浪岡一喜)たちに呼び出され、多摩川の河原に行くと、同じ中学の井口達也(水嶋ヒロ)が、他の中学のスミダを絞めていた。達也は金属バットでスミダを殴ろうとする。死んじまうじゃないかと言うヒロシに、人は簡単に死にゃしないと言う達也。事実、スミダはあっという間に片付く、生きている。次に、ヒロシとタイマンだという達也。何で?と尋ねても喧嘩に理由なんかいらねぇと答える達也。殴られ蹴られ、ボロボロになりながらも、ここで引いたら不良の道を諦めることになると必死で向かう内に、気に入られ、彼らとラーメン屋に行くことに。話を聞くと、この中学には、一緒にラーメンを食う達也と森木とワン公(若月徹)、ルパン(綾部祐二)の4人しかヤンキーはおらず、ヒロシは5人のメンバーだと言う。他の中学には沢山いて、達也が無茶をするせいで、常に狙われている。達也の彼女のみゆき(本仮谷ユイカ)が来た。みゆきの可愛さにヒロシはかなりやられる・・・。

   中学生か・・・。自分たちの時代も、総じて不良たちは老けていたが、中学生に見えるのは本仮谷ユイカくらいだ。しかし、今も昔も、15,6の男子 は、本当に馬鹿。自分も馬鹿だった。水曜日は1000円だし、春休み中だから中高生から20代前半で、満員の客席は、終始笑いが上がる。自分も不覚にも、 笑えてしまう。小説、コミック、映画という展開の中で、コミックのコマを、映画のフレームに置き換えて、ビスタサイズの映画にストーリーを定着させること には成功している。ただ、ハルの事故のあたりのお涙ちょうだいなところは、いささか甘ったるい。普通のドラマになってしまっている。中学時代の次に、撮影 するシナリオを品川監督は、持っているだろうか。

    渋谷シアターNで、08年西村喜廣監督『東京残酷警察(184)』
    近未来の東京、警察は民営化され、東京警察株式会社となっている。かって、民営化反対運動をのリーダーだった警察官の父親(堀部圭亮)は運動の最中狙撃され死ぬが、父の友人だった西東京支部の署長(菅田俊)に育てられルカ(しいなえいひ)は立派に前線で働いている。ある日、ビルの屋上に立てこもり、人肉を食らい、チェーンソーを振り回す凶悪犯(坂口拓)を処刑することになったが、機動隊のメンバーは次々にやられていく。出動命令が出たルカは、バズーカ砲を逆噴射させ、屋上に飛び上り、兇悪犯の目の前に立つ。チェーンソーを持った腕を斬り落とすと、腕がチェーンソーに変化する。しかし、熾烈な戦いの末、両手にチェーンソーを持ち、兇悪犯を倒すルカ。凶悪犯の肉体に鍵の形をした腫瘍を発見する。この腫瘍と肉体の一部を凶器に変化させることが、エンジニアと呼ばれる無差別殺人ミュータントの特徴だ・・・。

    ユーロスペースで、市川準監督のこと
    07年市川準監督『あしたの私のつくり方(185)』。
    大島寿梨(鳴海璃子)は、小学6年。クラスには、かわいくて頭のいい、学級委員をしている花田日南子(前田敦子)もいれば、クラス中から苛められている久保田マナミもいる。寿梨は、ちょっと自分に自信がなくて、目立つのが不安な普通の子だ。両親(石原良純&真理子)は最近喧嘩ばかりをしている。何とかカスガイになろうとして、寿梨は中学受験を頑張ったが、結果は失敗だった。普段無口な兄(柄本時生)は、あの人たちは、親の役割を演じたがるから、落ちて良かったんじゃないかとへんな慰め方をする。しかし、寿梨が入試で1週間休んでいる間に、苛められっ子だった久保田マナミは、寿梨が落ちた中学に合格し、対照的に日南子は、学級会での発言がもとで、ハチ(村八分)になっている。
    2ヶ月後、卒業式を迎える。式の後、図書室に本を返しに行った寿梨は、独り座っている日南子に会う。大島さんも逃げて来たの?と日南子は声を掛ける。あんなに輝いていた日南子は、一人だと無視しないんだと話しかけ、学級委員をやった自分も、ハブされていた自分もいた、次第にどっちが本当の自分か分からなくなった、久保田の代わりにハブの役をやっていた、この2か月の自分は偽物だと言う。寿梨も、私立中学なんか行きたくないのに、親が行かせたいだけなのに、嘘をついていると告白する寿梨。太宰治の「お前は嘘がうまいから、行いだけでもよくなさい」って知っていると話す日南子。
   二人は同じ中学に進んだが、日南子は相変わらず仲間外れで、それきり話すことはなかった。寿梨の家庭は、相変わらず怒鳴り合う両親の声が響き、結局離婚し、兄妹も別々に。寿梨は、母と二人暮らしになり、大谷寿梨に苗字が変わった。
   それから2年が経ち、寿梨は高校生になった。月一回、父と兄との食事も話は弾まず、毎日の母との生活も、母親に彼氏の影が見えるようになり、屈託がある寿梨。ある日、教室で、他のクラスメイトが花田日南子が山梨に引っ越すという話が出る。彼女たちの会話は決して好意的なものではなかったが、気になった寿梨は、日南子のメイルアドレスを聞く。
   山梨に日南子が引っ越した日に、寿梨は、「明日の準備は出来た?」とメールを出す。長い間友達のいない日南子は身構え、「あなたは誰?」と返す。「あなたの友達だよ」「私には友達はいない」というやり取りの後、「間違えたようです。でも、あなたと間違えた私の友達ヒナと、私コトリの物語を聞いて」と寿梨はメールを出した。そして、ヒナが、自分のクラスに転校してきた時の挨拶の仕方、みんなと友達になっていく方法などを打ち始める。人との付き合いにすっかり苦手になっていた日南子は、ヒナの物語を演じていくことで救われ、友達が出来ていく。寿梨も、父親と兄との会食も、母親との二人の生活も、高校での友達との関係もうまく演じ分けることができて、順調に進み始めた・・・。

   鳴海璃子やっぱりいいなあ。同じころに公開された「神童」での彼女を絶賛した記憶があるが、こっちの方がいい。NTTドコモの特別協賛は、携帯メール、TV電話などが、当時は微妙なビジネス臭に反発され、興行的には決して、成功とは言えなかったと思うが、コミュニケーションツールとしての携帯の違和感は、今では逆に少し古臭いぐらいだろう。自分にはちょうどいいくらいだ(苦笑)。そういう意味では、現代の2年という時間が気が遠くなるほど長いんだろうな。そして、当時たぶん14歳だった鳴海璃子にとっての2年という時間も残酷だ。「罪とか?罰とか?」では、成長してしまった思春期の彼女の姿がある。もう少し経って、大人のいい女になるのを、おじさんは待っているぞー(笑)。

    96年衛星劇場市川準監督『東京夜曲(186)』

    江戸川沿いの街上宿、そこの商店街の、浜中電気店の息子の康一(長塚京三)が数年振りに帰ってきた。顔に青痣を作り、片足を骨折し松葉杖を ついている。50近くになって戻ってきた康一の居場所は、年老いた両親と妻久子(倍賞美津子)と息子のいる家庭にも、父親と店員が2人いて閑古鳥がないて いる店にもない。浜中電気店の向かいにある、碁喫茶・大沢は、康一と曰くがあったタミ(桃井かおり)がやっている。かって大沢はタミが好きだった。ずっと 江戸川病院に入院し、日々やつれていく大沢からの求愛をタミは受け入れて結婚したのだ。しかし、大沢が死亡し、程なくして康一は、初めてこの街を出た。そ れ以来、この街を出たり入ったり、落ち着かない。

  久子に回覧板を持ってくる朝倉(上川隆也)は、物書き志望だが食べるために翻訳の仕事をしている。朝子に惚れている朝倉は、3人の微妙な関係を知りたくなってしまい、事情をよく知る商店街の人々に話を聞いて回るのだ。

   康一は、借金のある電気店を商売替えすることにする。当節流行りのテレビゲーム屋だ。開店当初は近在の子供たちで大盛況だ。しかし、康一の父親の行動は 徐々におかしくなって行った。朝倉の友人で、電気店に勤める野村は、大沢のバイトの松永(八反田勝就)とよく行く中古レコード屋の娘智美(安部聡子)と付 き合っていたが、大沢でバイトをし、朝倉に中国語を教えていた中国人のニンさん(前田昌代)に恋をし、結婚することになる。大沢で祝う会を開いてやるタ ミ。商店街の人々が集まっている。その式の最中、寂しそうな智美に声を掛けてやる康一。

    久子と帰る朝倉は、康一とタミの 話を尋ねる。久子は、自分と康一があまりに勝手に暮らし過ぎたから、こうなってしまったんじゃないかと言う。ずっと大沢を慕っていた女性というのは久子さ んではないんですかとぶつけた。動揺した久子は、怒って帰って行った。康一とタミは「あらかじめ失われた恋人たち」を観ている。帰ろうとしていた康一を、 タミはお茶漬けでも食べていかないかと引き留める。大沢の2階で、抱き合いながら、大沢のことを思い出している二人。「俺なんか、死んでもどうということ ないんだろうな」と言って大沢は死んでいった。しかし、あいつは、死んでからいろんな余計なことをやってくれると呟く康一。

    タエは、年老いた両親の暮す岡山へ行った。大沢のカウンターの中には、野村が入り、ニンさんと松永で店は続いている。朝倉も、川の向こう側に小さなアパートを借りて引っ越していった。

    康一が、昼ごはんを食べに家に戻ると、タミから宅急便で桃が届いている。入院している父親の見舞いに行く母親に2個桃を持たせる久子。久子の背中に、一度岡山に旅行をしようか、タミのいる岡山に、と声を掛ける康一。

    これも未見だった。よく考えると、本当に何本かしか観ていないんだなあ。でも、50歳になったから今だからこそ味わい深い映画だ。更に、この特集は市川準が演出したCFがオープニングに流れる。今日はサントリーのウィスキー。長塚京三のオールドと、小雪の角(石川さゆりの♪ウィスキーはお好きでしょう~♪)。いいなあ。特にオールドは、当時は少し甘ったるいと思ったが、「恋は、遠い日の花火ではない」小野田さんの名コピー、今は本当に来るなあ。部下のOLとの、課長の背中編‥、サラリーマンの時に言われたかったなあ。サントリーのウィスキーならこのシリーズも。

    桃まつりpresents kiss!
    竹本直美監督『地蔵ノ辻(187)』長島良江監督『それを何と呼ぶ?(188)』別府裕美子監督『クシコスポスト(189)』
    弐のkiss!よりも今回の方が少しだけ、安心して見られた気がする。技術と言うより役者が安定していたからだろう。こうなったら壱のkiss!見ておきたかったな。 彼女たちの次の映画に出会えることを期待して‥…。

2009年3月24日火曜日

六本木~八丁堀~渋谷

   シネマート六本木で、新東宝大全集
   55年伊藤大輔監督『下郎の首(180)』。
   ある川沿いに藤ノ木地蔵が立っている。徳川末期の頃、東北のとある温泉場で、湯治とは名ばかり、囲碁相手を探すために長逗留している大旦那結城新兵衛(高田稔)と息子新太郎(片山明彦)がいた。大旦那は、そこでやはり碁好きの作州津山藩の元家臣、磯貝某と言う好敵手を得たが、金打してまで、待ったなしを約したが、諍いを起こし新兵衛は斬られ、磯貝某は遁走した。顔にある9つの大きな黒子と、争いの際に落とした左手の人差し指を頼りに、新太郎と下郎の奴の訥平(田崎潤)は仇討ちの旅に出る。
   しかし三年に渡る旅は路銀も尽き、新太郎は病で手足の自由が利かなくなり、橋の下の乞食宿で寝込むようになった。訥平は、大道芸人として、街中や寺の境内で奴踊りをして、主人の薬代を稼いで口糊をしのいでいる。ある日激しい俄雨に雨宿りをしていると借りた軒下の主が、ご当家の槍持ち奴かと間違えて、家の中に呼び入れる。主は、ある侍の妾のお市(嵯峨三智子)だった。お市は主人への忠義の厚い訥平を気に入り、傘を貸す。
  訥平が家から出てきたのを見つけた偽いざりの銀五郎は、あんないい玉は、金になるから山分けしようと持ち掛けるが、真面目な忠義者の訥平は全く相手にしない。
   乞食小屋に戻ると、若旦那が尺八を吹いている。お前のお陰で、手がここまで動くようになったと言われ嬉しい訥平。翌日訥平は、お市のもとに傘を返しにいくと、ばあや(浦辺粂子)が鳥籠の雲雀を逃がしてしまい途方に暮れている。訥平は、鳥笛を作り、雲雀を呼び戻してやる。しかし、お市は、籠の鳥の自分か鳥を籠で買うのは道理に遭わないと言って、逃がすように頼む。そして、要らなくなった鳥籠を、鳥好きな主人に差し上げてと渡す。
    鳥籠を下げて家を出てきた訥平を銀五郎は待ち伏せしていた。くどく付きまとう銀五郎を押しやる際に槍は銀五郎の目を突き、片目を失明させる訥平。覚えてやがれと捨て台詞を吐く銀五郎。しかし鳥籠を新太郎は喜ばなかった。大道芸をするおまえのお陰でこうしていられるが、乞食になれと言うのかと詰め寄られ、ただただ謝罪をする訥平。
   翌日鳥籠を返しに行く。お市は風邪気味で伏せっていたが、二階の寝間に訥平を上げる。家に入ったのを見て、銀五郎はお市の旦那のもとにいざって行き、下郎が間男をしていると注進した。訥平が涙ながらに主人と話をしていると、不意にお市の旦那がやってくる。藩の兵法顧問の須藤巌(小沢栄太郎)だ。慌てて逃がそうとするが、足が痺れて思うように歩けない。何とか押し入れに隠れるが、そもそも間男が潜んでいることを知る巌雪には通用しない。どんな弁明も通用しない相手に、お市は腹を括った。姦通は4つに斬る。巖雪は刀を抜くが、屋内のことゆえ、なかなか訥平を斬れない。命が惜しいと言うよりも、ここで死んだら主人の面倒を見られなくなるという忠義一心で必死で逃げまくる訥平。夢中で揉み合ううちに、訥平は巖雪を討つ。落ち着いてよく見ると、巖雪は、顔に9つの黒子があり人差し指もない。主の新太郎の仇討を下郎の分際で、果たしてしまったことに困惑しながらも、巖雪の顔を改めて貰おうと乞食小屋に走り、おぶって戻ってくる訥平。新太郎は、下郎の分際で自分の仇を討った訥平を殴る。しかし、巖雪の門弟たちが来れば、新太郎も訥平もお手打ちになりかねない。お市は、逃げることを提案、女も一緒だと目立つので、主従とお市別々に逃げようと、路銀も用意し、落ちあう宿屋も決めた。
  隣の宿場の一文字屋に、何とか着き、新太郎を寝かし、薬屋に向かう訥平。その前に、向かいの国分屋に入ったお新を訪ねる。お新は、訥平に、国に帰ったら妻にして欲しいと言う。主人に代って仇を討ったのだから下郎の身分から取り立てられるのではないかというお新に、この度の仇討は自分でなく、新太郎が果たしたことであり、自分が手を掛けたなどと死んでも口に出来ない、しかし、主人のために命を賭けて尽くすことが下郎の喜びなのだと言う。しかし、夫婦になることは承諾する。
   その後に回った薬屋で巖雪の門下の追っ手たちに姿を見られ、一文字屋に主人共々泊っていることを突き止められたのだ。巖雪門下よりの手紙が、新太郎のもとに届く。巖雪の仇討のために、訥平を差し出せというものだった。仇討を訥平に横取りされ、もし訥平を差し出さなければ、主従ともに討つという内容に、鬱屈した気分に囚われていた新太郎は、下郎の訥平を自由にしろという返事を書き、先方からの指示通りの、藤ノ木地蔵前に、そこにいる友人宛の文を持って行くよう訥平に偽りの指示をして向かわせる。訥平は藤ノ木地蔵に行くが、そこは河原しかなく、言われた屋敷などありはしない。巖雪の門下たちに捕まり、文を取り上げられる。その内容を読まれても、新太郎が自分を売ったとは信じない訥平。字が読めない訥平が、その文を持って野次馬たちに読んでくれと頼む姿は哀れだ。結局、尋常な勝負と刀を持たされ、10人ほどの武士と、巖雪の息子たちと闘う訥平。
   後ろめたさに、国へ旅立った新太郎。お市は、新太郎と訥平が宿から消えたと聞いて不安になる。河原で仇討だという声に、慌てて駕籠を走らせるお市。相手の槍を奪って大暴れもしたが、所詮多勢に無勢、徐々に傷ついて行く。河原にお市の駕籠が着く。訥平の元に走らずにはいられない。勿論、巖雪を裏切った妾のお市。お市と訥平は4つに重ねて斬られた。新太郎は、不自由な手足で仇討の河原に戻る。巖雪の門下に、下郎の仇と言うが、自分の下郎を売った卑怯者を斬るのは武芸の恥だと相手にされない。嘲笑され川面を泣きながら見つめる新太郎。訥平とお市の手は固く握られていた。
    
   奴の訥平は、すぐに足が痺れる(苦笑)。足の痺れが、訥平を、危機に遭わせ、また救いもするんだが・・・。

    八丁堀のオフィスに、今立ち上げを手伝っているプロジェクトのオフィス準備室で打合せ。文字通り準備室というか準備中という感じ。まあWBCを携帯ワンセグで見ながら打合せ。

    シネマヴェーラ渋谷で昭和文豪愛欲大決戦!
     65年大映田中重雄監督『帯をとく夏子(181)』
上岡夏子(若尾文子)は、佐久間(船越英二)の2号をしている。先代社長が温泉芸者をしていた夏子を挽いたが、3ヶ月で亡くなり、会社や財産ともに佐久間が継いで5年になる。

     54年東宝成瀬巳喜男監督『山の音(182)』
     尾形信吾(山村聡)は、妻の保子(長岡輝子)と長男夫婦秀一(上原謙)と菊子(原節子)と鎌倉に暮らしている。尾形は、幼いころ亡くなった姉に面影の似た菊子を可愛がっている。しかし、息子の秀一は、尾形が専務を務める会社で働いているが、毎晩、社長秘書の谷崎英子(杉葉子)とダンスホールに行き、遅くならないと帰ってこない。菊子は、よく出来た嫁で、舅姑によく仕えている。今日も、尾形が家に帰る途中の魚屋でサザエを買って帰る。菊子は伊勢海老を買っており、江ノ島の出店みたいですねと笑う菊子。尾形が買ってきたサザエが3個しかなかったので、秀一の分を取って置こうと舅姑には、半分ずつにして、お年寄りには、堅いかと思ってと言って笑う菊子に、保子は、あなたが3個しか買ってこなかったのが、悪いんです。本当に気が利かないんだから、と言うが、この2人と嫁の菊子は、こんなことも言い合える仲なのだ。しかし、遅くに帰ってきた夫の秀一は、疲れたと言って、風呂にも入らず、服を脱ぐや横になる。濡れたタオルを絞って、顔だけでもお拭きになったらというがいいと言う。秀一菊子との間はうまく行っていないのだ。秀一には女がいるらしい。長い間、商売女と遊んできた秀一には、菊子が子供にしか思えないのだ。
   嫁に行った房子(中北千栄子)が娘の幸子と乳飲み子を連れて帰ってくる。子供のころ、尾形が修一ばかり可愛がって、房子を邪険にしたせいか、何につけても房子は僻みっぽい。房子の娘の幸子は親の喧嘩をするのを見ながら育ったためか、いつも房子の影に隠れている内気な子で、大人の顔色を窺い、嘘泣きをする。

コミック雑誌なんかいらない・・か。

  朝、惣菜4品作って、独身美人OLに差し入れ、元同僚とわざわざ昔の社屋の近くまで歩き、中華ランチ。

   神保町シアターで、浪花の映画の物語

   55年東京映画杉江敏男監督『忘れじの人(176)』
   喫茶店に、葉子(安西郷子)を探して、島村(小泉博)がやってくる。母親と文楽を見に行っていると聞いて、困っている。その頃、葉子は、母親の雪子(岸恵子)が涙を流しているのを見て苦笑する。休憩時間、堂島の叔母・勝子(浪花千栄子)が雪子と涙を拭いていると、葉子が二人に手拭いを買ってくる。あまりに泣くので、ハンカチでは足りないだろうと言う。葉子を呼び出すアナウンスがある。雪子と勝子に、島村が大至急相談があるので、先に抜けていいかと言って帰宅する、
   夜遅く、雪子が帰宅すると、葉子が泣いている。芸者の娘を、長男の嫁には出来ないと言われたのだ。母親の商売を恥じたことは無いが、島村と結婚出来ないことは耐えられないと言う葉子。雪子は、一生話すことはないと思っていたが、この機会にあんたに話しておこうと言いながら問わず語りで、自分の半生を話し始める。
    かって雪子は、西横堀の瀬戸物卸商伊吹屋のとうはんだった。18歳になった雪子には多くの縁談が持ち込まれていたが、北浜の井村家のボン・君夫(金子朝雄)との話には母親も前向きだった。しかし、雪子は、店の小番頭秀吉(山内明)を慕っていた、

   54年大映東京伊藤大輔監督『春琴物語(177)』

   57年大映東京伊藤大輔監督『いとはん物語(178)』
   京マチ子の強力なブスメイク。今の特殊メイクでなく、ただの化粧だけで、一本前の春琴とおかめ顔のお勝さま、同一人物には思えない。ということは、お勝さまも春琴になると言う逆もまた真なり。映画製作から50年を経て、世の中に美人が増えたのも道理だなあ。

   銀座シネパトスで、滝田洋二郎PINK&BLACK
   86年滝田洋二郎監督『コミック雑誌なんかいらない(179)』
   成田空港、桃井かおりにマイクを突き付け、放送作家の高平哲郎とのスキャンダルを問う芸能リポーター木滑敏明(内田裕也)。桃井は何も答えない。木滑は、東亜テレビのズームアップTODAYの突撃レポートで話題を呼んでいた。番組のキャスターは小松方正、番組プロデューサーは原田芳雄だ。
    夜の六本木を歩く木滑。WAVE、スクエアビル、ロアビル、ハードロックカフェ…。バーに入る。ママは村上里佳子。店にいた安岡力也、桑名正広が、絡んで来る。大手事務所に所属しないロックミュージシャンは不祥事を起こした時だけ取り上げ糾弾するので、蛇蝎のように嫌われている。他の客は長友啓典、川村光生、篠原正之など、結構恐ろしい店だ。店を出る木滑。夜の野球場(川崎球場か?)、マウンドに立つ木滑は玉を投げる。その姿を見ている少女・麻生祐未。
    朝電話が鳴り起こされる。金の先物取引の金城商事のセールスだ。電話を切る木滑。目が覚めてしまい、起き出す木滑。冷蔵庫からグレープフルーツジュースを出し、食卓の上に出ているパンとジャムを取り、居間に行く、6台あるテレビのスイッチを全部入れ、パンにジャムとビタミン剤を挟んで食べ始める。食べながら、リモコンを使い、各局の音声を順番に上げる。妻(渡辺えり子)が、桃屋のめんつゆの生コマーシャルに出演している。家を出る木滑。マンションの前で、隣の老人・兵藤(殿山泰司)が独りでゲートボールの練習をしている。再び成田空港、今日はロス疑惑の三浦和義だ。到着ロビーはマスコミがごった返している。しかし混乱の中、三浦は何も話さずに車に乗った。マスコミが取り囲む三浦の店(フルハムロード?)のドアにクローズドの札が下がっているが、マイクを手に店に入る木滑。いきなり三浦にマイクを突き付け、インタビューをしようとして拒否される木滑。木滑より、三浦の方が圧倒的に滑舌がよく、話す内容も理路整然としている。
   石原真理子の自宅のインターホンを押し、安全地帯の玉置浩二との交際の真偽と今後の展開について質問する木滑。勿論答えが返る訳ではない。島大輔が若い女とマンションから出てくる。止まっていた宅配便の車から木滑とクルーが飛び出す。女を庇い、木滑を殴る島大輔。サングラスを掛け、レポーターの若い女(小田かおる)と車に乗っている木滑。きれいな奥さんがいるし、遊びでもいいと言う女。ラブホテルで関係する2人。ポケベルが鳴るが、取らない木滑。帰宅すると妻が寝ている。ダブルベッドに入ると妻がくっ付いてくるが、背を向ける木滑。
   神戸ではユニバーシアードの開催中は山口組と一和会の抗争が停戦になっているのを突撃レポートする木滑。局のディレクターは完全に及び腰になっているが、木滑はマイクを向ける。山口組幹部の小学生の息子にもインタビューをする。関西の小学生は、世慣れしている。孤独な老人の部屋に、金城商事のセールスウーマン(橘雪子)が上がっている。豊満な肉体を利用して、色仕掛けで籠絡する。
   木滑の留守番電話には、いつものように芸能人のファンや取材先からの罵詈雑言でいっぱいだ。その中に、映画を見ませんかというメッセージが残っている。情報屋(蛍雪次朗)からで、ドライビングシアターに木滑が車を入れると、情報屋の車が隣に停まる。マッチと明菜、さんまのマンションに研ナオコ、阪神の岡田とカルーセル麻紀、ジュリーの宿泊先で、松本カオリが待っていたという話に食いつきかけたが、松本カオリはダンプ松本の本名だと聞いて車を出す木滑。局のトイレの個室にいると、木滑の番組の視聴率が落ちてきたと噂をする局員たちの会話を聞く。夕焼けニャンニャンの収録現場に木滑がいる。放送後、メンバーにインタビューする木滑。番組プロデューサーの原田の指示で、歌舞伎町の連れ込みホテルで殺害された女子中学生の告別式に突撃し、母親に娘が少女買春をしていたという事実の感想を問い、連れ出される木滑。再び、球場のマウンドにいる木滑。少女がバッタボックスでバットを振る。
   松田聖子の自宅を張るマスコミたち。もちろん木滑の姿もある。コメントは取れないが、帰宅後、「お嫁サンバ」を口ずさむ聖子の歌声の録音に成功する(笑)。雨の中、門前にクリーニング屋が来たところに、金を出すので変わってくれと迫る。しかし、そのクリーング屋は、フォーカスの記者が既に金を出して変わってもらった姿だった。更に、自宅前の電柱に電話局員を装って、登っているところにパトカーが来る。家の敷地内から各社が逃げ出す。木滑は逮捕される。原田Pが貰い受けにやってきた。神田正輝・松田聖子の世紀の結婚式の会場に突撃する木滑。石原プロの人間に包囲され排除される木滑。原田Pに、しばらくの間、23時台の番組の体験レポーターをやってくれないかと切り出される。新宿歌舞伎町の風俗街の体験レポートだ。ノーパン喫茶、店のママも客も全員見事な刺青姿のスナック「モンモン」、ピンク映画の撮影現場など、歌舞伎町に突撃する木滑。
  八百屋の店頭でメロンを買う兵頭。木滑の部屋で、北海道の息子が送ってくれたメロンだと言って、二人で食べている。金の話をし始め、2000万投資したという兵頭。今夜は、ホストクラブでのホスト体験レポートだ。ホストたち(片岡鶴太郎、久保新二、港雄一)らの話を聞いている木滑。店のNO.1のジョージ(郷ひろみ)を目当てに来ている和装の女(片桐はいり)。出張ホストとして喫茶店で待ち合せる木滑。現れた女とラブホテルに行く。女は、夫に内緒で、300万金の先物取引で、換金できない証書しかなくなったと言う。帰宅し、兵頭の家のブザーを押すが応答はない。金城商事について調べ始める木滑。被害者の老人たちのコメントを丹念に集める。しかし、どの番組も無関心で企画を受けてくれる番組はない。フォーカスに木滑の交際が取り上げられている。フィリピーナのジャパゆきたちを取材に行く。インタビューをしていると、やくざが現れ、おれたちには生活があるんだ。芸能人のケツでも追っかけていろと言われ、暴行を受ける。女たちから助けてくれと言われても、無力な木滑。御巣鷹山のジャンボ機の墜落事故の現場に行く木滑。酒を飲み、徐々に壊れ始める木滑。金城商事の金城が潜伏するマンションの前にマスコミが集まっている。そこに二人組の男(ビートたけし、スティービー原田)がやってくる。報道陣の中を通り、ドアを叩きドアが開かないと分かると、台所の窓を割り、部屋の中に入る。金城を持ってきた刀で刺し殺す。その経緯を、報道陣は取りつかれたように撮影を続ける。木滑は部屋の中に入り、二人の男の犯行を止めようとするが、腹を刺される。金城を殺害した二人は、報道陣の前に顔を曝し、堂々と帰っていく。追いかけていくマスコミ。倒れたままだった木滑が腹を押さえて、ドアから出てくる。マスコミたちは戻ってきて、木滑を取り囲む。無言を続けた木滑は、一言 I Can't Speak Fuckin' Japanese.
マウンドに立つ木滑。ズボンの股間からマイクを取り出し投げる。
   

  正直な話、内田裕也の芝居は、台詞かみかみ、アドリブが利かないので三浦和義を前に言っていることは滅茶苦茶だ。しかし、では今、この木滑に誰をキャスティングするかと考えると、思いつかない。こんな面構えの人間は、農業か漁業従事者か土木現場、プロ野球選手か・・。そう考えると、内田裕也だからこそ成立しているのかもしれない。ピンク映画の現場叩き上げの滝田洋二郎だからこそのゲリラ的、ドキュメンタリー的撮影も成功している。

2009年3月22日日曜日

やはり世の中は男と女だ。

    阿佐ヶ谷ラピュタで、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第46弾】嵯峨三智子
    56年東京映画木村恵吾監督『おしどりの間(169)』
     大衆旅館の鶴ノ井の玄関、女中が二足の靴を並べるとアベックが帰っていく。文子(加代君子)が、客の悪口を言うと、女将の鳶子が、陰口は絶対駄目だと言ったでしょうと叱り、うちはこんな温泉マークと呼ばれる連れ込み旅館だけど本当にいいの?と訊ねる。家出してきた葦子(嵯峨三智子)は、お客を取ったりしなくて良ければぜひ勤めさせて下さいと頭を下げる。同伴客が多いが、曖昧宿とは違うと言う。他の女中は忙しいので大歓迎だ。葦子と言う名は難しいので、タマ子と呼ぶことになり、その日の夜から働くことになった。
    一月が経ち、葦子も馴れ、客たちのあしらいもうまくなる。葦子は、父親から離婚された母の稲子(山田五十鈴)が、父の部下だった皆川(千秋実)と関係を持ち、妊娠したことを許せずに家出をしたのだ。散々夫に裏切られた母が、結局男を頼りにしか生きていけないことと、簡単に皆川に身体を許した母を不潔だと許せなかった。今でも、女中仲間がタマ子の母の話をすると許せない。
    ある日、タマ子は、おしどりの間の客が、一人で泊まった際のやり取りに好感を持つ。男の名は、越後(上原謙)。葦子は越後とドライブに行く。紳士的でスマートに接してくれた越後が好きになった。葦子は鶴ノ井の女中を辞め、アルサロのブルーボックスに勤め始める。越後は店に来て指名してくれ、閉店後、鶴ノ井のおしどりの間で結ばれる。それからしばらく葦子は楽しい日々が続いた。しかしある日、いつものように越後とおしどりの間で待ち合わせていた葦子は、楽しくなって飲みすぎて酔いつぶれ約束をキャンセルした。その日、鶴ノ井にはかっての越後の恋人の蝶子(淡路恵子)が来ていた。人気歌手を追い返した蝶子は、強引に越後を誘う。
    ブルーボックスのボーイの安藤(仲代達矢)は、葦子に好意を持っていたが、拒否し続ける葦子。久しぶりに店に越後が来た。あの日まで、本当にあなたを愛していたわと過去形で語る葦子に、安藤を通じて金を渡そうとしたが、拒否する葦子。葦子はスペイン風邪に掛かり40度の熱に苦しむ。安藤は駆けつけ、氷嚢の氷を変え、寝ずの看病をする。安藤の優しさに打たれ、受け入れる葦子。
    葦子が母稲子のもとを訪れる。実家は弟の恭一が産まれていたが、汚れ荒れていた。ピアノも電話も無くなっている。皆川を庇う稲子だが、満足に援助もしてくれていないことが分かる。皆川と別れるなら自分が頑張るので、母子3人で暮らそうと言う葦子。しかし、稲子は、男の後ろ盾がない人生は不安で堪らない。自分と子供を捨てた皆川を、まだ信じて安心しようとするのだ。
    葦子は皆川の経理事務所を訪ねる。10年位は養育費を払えと言うが1、2年がいいところだと開き直る皆川。葦子は安藤に相談し、100万くらい取れないかと言う。安藤は皆川を痛い目に遭わしてゆすり取ろうとするが、揉み合って大怪我をしたのだ。その事実を稲子に告げる葦子。稲子は、葦子の制止にも関わらず、皆川の病院へと飛び出して行く。葦子は、泣き叫ぶ恭一を抱いてあやしながら、馬鹿なお母ちゃんだけど、本当にいい人なの、許してあげてねと言い涙を流す。

    実際の母子である山田五十鈴と嵯峨三智子、本当に顔立ちは似ている。更に、詳しくは知らないが色々あっただろう親子だからこそ、この映画に妙なリアリティを感じて見入ってしまうんだろうな。そういう意味で、最後の母子のやり取りはなかなかだ。それと、前半の昭和の連れ込み旅館の風景も、なかなか素晴らしいものがある。しかし、それぞれが素晴らしいだけに、中盤の葦子が酒に溺れていくところと、チンピラの安藤との愛を経て、母親のもとに、訪ねていくところがはしょりすぎていて、中盤までのテンポが急にガタガタになっていく気がしてしまう。
   昨日の「白い魔魚」と言い、脇に回った時の上原謙は、2枚目で、紳士で、金持ちで、女遊びも派手で、嫌みな中年男だなあ(笑)。

    川崎市民ミュージアムで、生誕100年記念 松本清張 第1弾
    60年東宝堀川弘道監督『黒い画集 あるサラリーマンの証言(170)』
    丸の内にある東和毛織の管財課長の石野貞一郎(小林桂樹)は42歳。重役の武田部長(中村伸郎)の覚えもよく、次に引き立てられる可能性も高い。更に郊外に一戸建て住宅を持ち、妻の邦子(中北千枝子)長女の君子(平山瑛子)長男の忠夫(依田宣)の四人家族。順風満帆な人生といえた。更に部下の事務員の梅谷千恵子(原千佐子)と不倫関係にあり、新大久保の千恵子のアパートに通っている。妻への言い訳を考えながら、アパートを出ると、自宅の近所に住む保険の外交員をしている杉山孝三(織田正雄)に会い挨拶をされる。思わずいつものように会釈を返してしまい、千恵子に見られたかと尋ねる小心者の石野。帰宅し、とりあえず家族に、渋谷で映画を見ていたと嘘をつく石野。翌朝、新聞を見ると深川で若妻が殺された記事が出ている。物騒な事件が続き、不安がる妻に犬でも飼ったらどうかと言いながら、千恵子には気を付けるように言おうと考えている石野。
    数日後、仕事をしていると刑事(西村晃)がやって来る。杉山が殺人時刻の前後に被害者宅を訪問しており、重要参考人と考えているらしい。しかし、杉山は当日石野と新大久保で会ったと言っていると言う刑事。千恵子との不倫を隠したかった石野は、新大久保に行く用事はないし、その日は渋谷で映画を見ていたと言う。石野は千恵子に新大久保から引っ越せと言う。帰宅すると、杉山の家の前はマスコミや野次馬で大賑わいだ。良心の呵責を感じながらも、帰宅すると、昨晩のうちに杉山は刑事たちに連行されていたらしいと妻子たち。
   千恵子の引越先の隣室にはボンボンの大学生森下(児玉清)と友人の松崎(江原達治)がいて、引越を手伝ってくれた。石野は、改めて刑事の訪問を受ける。物証はなく状況証拠だけで、本当に新大久保にはいませんでしたねと念を押されるが、今更前言を撤回できない。ある日曜日、弁護士と杉山の妻みさえ(菅井きん)が家に訪れる。杉山は強く石野と会ったと主張しているが、本当に会っていませんねと言う。杉山の妻は、号泣し嘘でもいいので会ったと証言してほしいと懇願する。石野の妻にも、私にだけは本当のことを言ってくれと念を押される。その頃、千恵子は学生たちと江ノ島にドライブに出掛けていた。松崎は地元のチンピラ早川(小池朝雄)に賭け麻雀で3万円負けたらしい。いつ返すんだと袋叩きにされる。
   石野は、いよいよ法廷で証言することになった。渋谷で見た映画のストーリーを暗記して、証言のリハーサルをする石野。法廷で杉山からは本当のことを言ってくれと言われるが、冷たく偽証する石野。杉山は死刑を求刑された。ある日武田部長の友人の息子が千恵子を見初め、結婚したいと言い出し
た。武田に言われ、石野は千恵子と食事をして意志を確認する。どうしたいと千恵子に尋ねるズルい石野に、この機会に別れましょうと提案する千恵子。若い千恵子の身体は惜しいが、今の生活を守るには潮時かと石野も同意する。しかし、帰宅途中、千恵子への未練から再びアパートに行ってしまう石野。千恵子の部屋では、あきらかに慌てて身支度をする松崎の姿がある。
  翌日、会社に松崎がやってくる。千恵子との関係を黙っている代わりに5万円を貰えないかと脅す松崎。石野は、森下を呼び、金の受け渡しに必ず立ち会うことと、3万円に値切るよう頼む。石野はへそくりの株券を売却する。金が用意できた時点で、全てうまく片付いた気分になる。日曜日に、家族で動物園に行く約束をする。土曜日、半ドンで昼仕事が終わり、松崎との約束の7時まで時間をつぶすことにし、パチンコをし、ビアホールへ寄り、映画を見ることにする。大いに笑い、楽しんで、タクシーに乗るが、道が混んでいて、森下の下宿に着いたときには7時半になっていた。そこで石野が見た物は、ナイフでメッタ刺しにされた松崎の死体だった。

     シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪愛欲大決戦
     62年大映木村恵吾監督『瘋癲老人日記(171)』


     ユーロスペースで、市川準監督のこと
     05年WILCO市川準監督『トニー滝谷(172)』
     少年が、砂で精密な船を一心不乱に作っている。クラスで花瓶に差した花を写生している。一人葉っぱだけを細かく書き続けている少年。滝谷省三朗は、ジャズの楽団でトロンボーンを演奏していた。彼は戦争中上海に渡るが、敗戦とともに、いかがわしい仲間と一緒に逮捕され、日に日に銃殺刑で殺されていく生活を送り帰国した。相変わらずのいい加減な生活を送っていたが、親戚の紹介で結婚した。しかし男児を出産したが、三日後に妻は亡くなった。生まれた子供は、父親の友人の進駐軍の将校の名前を取ってトニーと名付けられた。演奏旅行でいつも家を空ける父親と、そのヘンテコな名前のせいで、トニーは孤独に育つ。
    彼(イッセー尾形)は一人絵を書くことだけが趣味で美大に進み、メカニック関係の緻密なイラストを得意としたイラストレーターになった。彼が独立した後、事務所に一人の女性A子(宮沢りえ)がやってくる。空気のように服を着こなすA子をトニーは愛するようになる。15歳の年齢差と彼女には恋人がいたがトニーは初めて一緒に生活をしたい女性が現れたことを確信して、プロポーズをした。
    A子は考えた末、トニーと一緒になった。彼女は家事なと主婦として完璧だった。しかし、彼女は、常に新しい服と靴を身にまとい、ヨーロッパ旅行の後は、歯止めが効かなくなった。ある日、トニーは、少し服を買うのを減らしたほうがいいんじゃないかと言う。彼女は、トニーを愛していたし、自分の服や靴への執着の異常さも理解していた。しばらく外出を控え我慢をしていたが、耐えられなくなり、コートとワンピースを買ってしまう。帰宅すると罪悪感に捕らわれ、返品しに出掛ける。しかし返品して貰い帰宅する途中、コートとワンピースのことが頭を離れなくなり、自動車で引き返そうとして事故死する。
  A子を失ったトニーは、A子と同じサイズの女性を事務所のアシスタントとして募集する。応募してきた13人の中で、最も体系がA子に近いB子(宮沢りえ)を選ぶ。そして、妻の死を認識するために、毎日A子の服を着てほしいのだと言う。この奇妙な提案をB子は受け入れ、トニーはA子のワードローブに案内する。美しい服が数百着納められた部屋に驚くB子。全ての服と靴は、彼女のために用意されたかのようにぴったりだった。B子は急に泣き出す。不思議に思ったトニーが訳を尋ねると、こんなにたくさん奇麗な服を見たのは初めてだったのでと答えるB子。トニーは、1週間分の服と靴を選ばせ帰す。
   しかし、妻のワードローブを見ていたトニーは、B子に電話をし、持って帰った服はすべて上げるので、今回の事はなかったことにしてほしいと連絡し、全て古着屋を呼んで処分した。更に父親の省三朗が亡くなった。トニーの元に残ったのは、省三朗の吹いていたトロンボーンと古いジャズのレコードだけだ。しばらくの間、黴臭いレコードのために、しばらくの間、部屋の空気を入れ替える必要があったが、やはり、思い立ってトニーは、中古レコード屋を呼んで処分をした。何もなくなったA子のワードローブは、トニーの孤独を象徴する。控えてあったB子の電話番号にかけるトニー。しかし、B子が受話器を取る前に、トニーは電話を切った・・・。
   村上春樹と市川準に対して、個人的にずっと覚えていた違和感の理由は、この映画を久し振りに見て、少し理解した気がするが、そのことは、改めて・・・。しかし、宮沢りえのため息の出るような美しさ。
うーん、ただ一人の映画女優かもしれないな。

       桃まつりpresents kiss! 篠原悦子監督『マコの敵(173)』、矢部真弓監督『月夜のバニー(174)』瀬田なつき監督『あとのまつり(175)』。
   満席だ。期待は嫌でも高まる。感想は、3人まとめて、もう少し頑張りましょうというところかな・・・。