2009年3月22日日曜日

やはり世の中は男と女だ。

    阿佐ヶ谷ラピュタで、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第46弾】嵯峨三智子
    56年東京映画木村恵吾監督『おしどりの間(169)』
     大衆旅館の鶴ノ井の玄関、女中が二足の靴を並べるとアベックが帰っていく。文子(加代君子)が、客の悪口を言うと、女将の鳶子が、陰口は絶対駄目だと言ったでしょうと叱り、うちはこんな温泉マークと呼ばれる連れ込み旅館だけど本当にいいの?と訊ねる。家出してきた葦子(嵯峨三智子)は、お客を取ったりしなくて良ければぜひ勤めさせて下さいと頭を下げる。同伴客が多いが、曖昧宿とは違うと言う。他の女中は忙しいので大歓迎だ。葦子と言う名は難しいので、タマ子と呼ぶことになり、その日の夜から働くことになった。
    一月が経ち、葦子も馴れ、客たちのあしらいもうまくなる。葦子は、父親から離婚された母の稲子(山田五十鈴)が、父の部下だった皆川(千秋実)と関係を持ち、妊娠したことを許せずに家出をしたのだ。散々夫に裏切られた母が、結局男を頼りにしか生きていけないことと、簡単に皆川に身体を許した母を不潔だと許せなかった。今でも、女中仲間がタマ子の母の話をすると許せない。
    ある日、タマ子は、おしどりの間の客が、一人で泊まった際のやり取りに好感を持つ。男の名は、越後(上原謙)。葦子は越後とドライブに行く。紳士的でスマートに接してくれた越後が好きになった。葦子は鶴ノ井の女中を辞め、アルサロのブルーボックスに勤め始める。越後は店に来て指名してくれ、閉店後、鶴ノ井のおしどりの間で結ばれる。それからしばらく葦子は楽しい日々が続いた。しかしある日、いつものように越後とおしどりの間で待ち合わせていた葦子は、楽しくなって飲みすぎて酔いつぶれ約束をキャンセルした。その日、鶴ノ井にはかっての越後の恋人の蝶子(淡路恵子)が来ていた。人気歌手を追い返した蝶子は、強引に越後を誘う。
    ブルーボックスのボーイの安藤(仲代達矢)は、葦子に好意を持っていたが、拒否し続ける葦子。久しぶりに店に越後が来た。あの日まで、本当にあなたを愛していたわと過去形で語る葦子に、安藤を通じて金を渡そうとしたが、拒否する葦子。葦子はスペイン風邪に掛かり40度の熱に苦しむ。安藤は駆けつけ、氷嚢の氷を変え、寝ずの看病をする。安藤の優しさに打たれ、受け入れる葦子。
    葦子が母稲子のもとを訪れる。実家は弟の恭一が産まれていたが、汚れ荒れていた。ピアノも電話も無くなっている。皆川を庇う稲子だが、満足に援助もしてくれていないことが分かる。皆川と別れるなら自分が頑張るので、母子3人で暮らそうと言う葦子。しかし、稲子は、男の後ろ盾がない人生は不安で堪らない。自分と子供を捨てた皆川を、まだ信じて安心しようとするのだ。
    葦子は皆川の経理事務所を訪ねる。10年位は養育費を払えと言うが1、2年がいいところだと開き直る皆川。葦子は安藤に相談し、100万くらい取れないかと言う。安藤は皆川を痛い目に遭わしてゆすり取ろうとするが、揉み合って大怪我をしたのだ。その事実を稲子に告げる葦子。稲子は、葦子の制止にも関わらず、皆川の病院へと飛び出して行く。葦子は、泣き叫ぶ恭一を抱いてあやしながら、馬鹿なお母ちゃんだけど、本当にいい人なの、許してあげてねと言い涙を流す。

    実際の母子である山田五十鈴と嵯峨三智子、本当に顔立ちは似ている。更に、詳しくは知らないが色々あっただろう親子だからこそ、この映画に妙なリアリティを感じて見入ってしまうんだろうな。そういう意味で、最後の母子のやり取りはなかなかだ。それと、前半の昭和の連れ込み旅館の風景も、なかなか素晴らしいものがある。しかし、それぞれが素晴らしいだけに、中盤の葦子が酒に溺れていくところと、チンピラの安藤との愛を経て、母親のもとに、訪ねていくところがはしょりすぎていて、中盤までのテンポが急にガタガタになっていく気がしてしまう。
   昨日の「白い魔魚」と言い、脇に回った時の上原謙は、2枚目で、紳士で、金持ちで、女遊びも派手で、嫌みな中年男だなあ(笑)。

    川崎市民ミュージアムで、生誕100年記念 松本清張 第1弾
    60年東宝堀川弘道監督『黒い画集 あるサラリーマンの証言(170)』
    丸の内にある東和毛織の管財課長の石野貞一郎(小林桂樹)は42歳。重役の武田部長(中村伸郎)の覚えもよく、次に引き立てられる可能性も高い。更に郊外に一戸建て住宅を持ち、妻の邦子(中北千枝子)長女の君子(平山瑛子)長男の忠夫(依田宣)の四人家族。順風満帆な人生といえた。更に部下の事務員の梅谷千恵子(原千佐子)と不倫関係にあり、新大久保の千恵子のアパートに通っている。妻への言い訳を考えながら、アパートを出ると、自宅の近所に住む保険の外交員をしている杉山孝三(織田正雄)に会い挨拶をされる。思わずいつものように会釈を返してしまい、千恵子に見られたかと尋ねる小心者の石野。帰宅し、とりあえず家族に、渋谷で映画を見ていたと嘘をつく石野。翌朝、新聞を見ると深川で若妻が殺された記事が出ている。物騒な事件が続き、不安がる妻に犬でも飼ったらどうかと言いながら、千恵子には気を付けるように言おうと考えている石野。
    数日後、仕事をしていると刑事(西村晃)がやって来る。杉山が殺人時刻の前後に被害者宅を訪問しており、重要参考人と考えているらしい。しかし、杉山は当日石野と新大久保で会ったと言っていると言う刑事。千恵子との不倫を隠したかった石野は、新大久保に行く用事はないし、その日は渋谷で映画を見ていたと言う。石野は千恵子に新大久保から引っ越せと言う。帰宅すると、杉山の家の前はマスコミや野次馬で大賑わいだ。良心の呵責を感じながらも、帰宅すると、昨晩のうちに杉山は刑事たちに連行されていたらしいと妻子たち。
   千恵子の引越先の隣室にはボンボンの大学生森下(児玉清)と友人の松崎(江原達治)がいて、引越を手伝ってくれた。石野は、改めて刑事の訪問を受ける。物証はなく状況証拠だけで、本当に新大久保にはいませんでしたねと念を押されるが、今更前言を撤回できない。ある日曜日、弁護士と杉山の妻みさえ(菅井きん)が家に訪れる。杉山は強く石野と会ったと主張しているが、本当に会っていませんねと言う。杉山の妻は、号泣し嘘でもいいので会ったと証言してほしいと懇願する。石野の妻にも、私にだけは本当のことを言ってくれと念を押される。その頃、千恵子は学生たちと江ノ島にドライブに出掛けていた。松崎は地元のチンピラ早川(小池朝雄)に賭け麻雀で3万円負けたらしい。いつ返すんだと袋叩きにされる。
   石野は、いよいよ法廷で証言することになった。渋谷で見た映画のストーリーを暗記して、証言のリハーサルをする石野。法廷で杉山からは本当のことを言ってくれと言われるが、冷たく偽証する石野。杉山は死刑を求刑された。ある日武田部長の友人の息子が千恵子を見初め、結婚したいと言い出し
た。武田に言われ、石野は千恵子と食事をして意志を確認する。どうしたいと千恵子に尋ねるズルい石野に、この機会に別れましょうと提案する千恵子。若い千恵子の身体は惜しいが、今の生活を守るには潮時かと石野も同意する。しかし、帰宅途中、千恵子への未練から再びアパートに行ってしまう石野。千恵子の部屋では、あきらかに慌てて身支度をする松崎の姿がある。
  翌日、会社に松崎がやってくる。千恵子との関係を黙っている代わりに5万円を貰えないかと脅す松崎。石野は、森下を呼び、金の受け渡しに必ず立ち会うことと、3万円に値切るよう頼む。石野はへそくりの株券を売却する。金が用意できた時点で、全てうまく片付いた気分になる。日曜日に、家族で動物園に行く約束をする。土曜日、半ドンで昼仕事が終わり、松崎との約束の7時まで時間をつぶすことにし、パチンコをし、ビアホールへ寄り、映画を見ることにする。大いに笑い、楽しんで、タクシーに乗るが、道が混んでいて、森下の下宿に着いたときには7時半になっていた。そこで石野が見た物は、ナイフでメッタ刺しにされた松崎の死体だった。

     シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪愛欲大決戦
     62年大映木村恵吾監督『瘋癲老人日記(171)』


     ユーロスペースで、市川準監督のこと
     05年WILCO市川準監督『トニー滝谷(172)』
     少年が、砂で精密な船を一心不乱に作っている。クラスで花瓶に差した花を写生している。一人葉っぱだけを細かく書き続けている少年。滝谷省三朗は、ジャズの楽団でトロンボーンを演奏していた。彼は戦争中上海に渡るが、敗戦とともに、いかがわしい仲間と一緒に逮捕され、日に日に銃殺刑で殺されていく生活を送り帰国した。相変わらずのいい加減な生活を送っていたが、親戚の紹介で結婚した。しかし男児を出産したが、三日後に妻は亡くなった。生まれた子供は、父親の友人の進駐軍の将校の名前を取ってトニーと名付けられた。演奏旅行でいつも家を空ける父親と、そのヘンテコな名前のせいで、トニーは孤独に育つ。
    彼(イッセー尾形)は一人絵を書くことだけが趣味で美大に進み、メカニック関係の緻密なイラストを得意としたイラストレーターになった。彼が独立した後、事務所に一人の女性A子(宮沢りえ)がやってくる。空気のように服を着こなすA子をトニーは愛するようになる。15歳の年齢差と彼女には恋人がいたがトニーは初めて一緒に生活をしたい女性が現れたことを確信して、プロポーズをした。
    A子は考えた末、トニーと一緒になった。彼女は家事なと主婦として完璧だった。しかし、彼女は、常に新しい服と靴を身にまとい、ヨーロッパ旅行の後は、歯止めが効かなくなった。ある日、トニーは、少し服を買うのを減らしたほうがいいんじゃないかと言う。彼女は、トニーを愛していたし、自分の服や靴への執着の異常さも理解していた。しばらく外出を控え我慢をしていたが、耐えられなくなり、コートとワンピースを買ってしまう。帰宅すると罪悪感に捕らわれ、返品しに出掛ける。しかし返品して貰い帰宅する途中、コートとワンピースのことが頭を離れなくなり、自動車で引き返そうとして事故死する。
  A子を失ったトニーは、A子と同じサイズの女性を事務所のアシスタントとして募集する。応募してきた13人の中で、最も体系がA子に近いB子(宮沢りえ)を選ぶ。そして、妻の死を認識するために、毎日A子の服を着てほしいのだと言う。この奇妙な提案をB子は受け入れ、トニーはA子のワードローブに案内する。美しい服が数百着納められた部屋に驚くB子。全ての服と靴は、彼女のために用意されたかのようにぴったりだった。B子は急に泣き出す。不思議に思ったトニーが訳を尋ねると、こんなにたくさん奇麗な服を見たのは初めてだったのでと答えるB子。トニーは、1週間分の服と靴を選ばせ帰す。
   しかし、妻のワードローブを見ていたトニーは、B子に電話をし、持って帰った服はすべて上げるので、今回の事はなかったことにしてほしいと連絡し、全て古着屋を呼んで処分した。更に父親の省三朗が亡くなった。トニーの元に残ったのは、省三朗の吹いていたトロンボーンと古いジャズのレコードだけだ。しばらくの間、黴臭いレコードのために、しばらくの間、部屋の空気を入れ替える必要があったが、やはり、思い立ってトニーは、中古レコード屋を呼んで処分をした。何もなくなったA子のワードローブは、トニーの孤独を象徴する。控えてあったB子の電話番号にかけるトニー。しかし、B子が受話器を取る前に、トニーは電話を切った・・・。
   村上春樹と市川準に対して、個人的にずっと覚えていた違和感の理由は、この映画を久し振りに見て、少し理解した気がするが、そのことは、改めて・・・。しかし、宮沢りえのため息の出るような美しさ。
うーん、ただ一人の映画女優かもしれないな。

       桃まつりpresents kiss! 篠原悦子監督『マコの敵(173)』、矢部真弓監督『月夜のバニー(174)』瀬田なつき監督『あとのまつり(175)』。
   満席だ。期待は嫌でも高まる。感想は、3人まとめて、もう少し頑張りましょうというところかな・・・。

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