2010年12月25日土曜日

朝日新聞とTBS。

    ようやく、朝日新聞の購読を止めた。物心がついてから、少なくとも一般紙は、朝日以外取ったことはない。サラリーマン時代の後輩には、新聞を取れ、それもこの仕事なら朝日新聞だと言って、朝日でないと文化程度が疑われると冗談半分、本音は、エンタメ情報は記事も広告も他紙では取りこぼすと教えて来た。
  そんな朝日だが、この数年の記事のレベルの低下は酷い。現代のジャーナリズム云々を言うのではなくとも、今まで自分はエンタメ業界にいて、朝日の記者たちの露骨な選民意識に辟易し、嫌悪しながらも、文化面は他紙を圧倒し、朝日に取り上げられることのみがマーケットを動かすことを思い知らされてきたし、広告にしても、3面記事、社会面下の小枠でも、他紙に比べ割高でも、費用対効果は絶対的だった。今だから言うが、事務所対策のためと割り切って他紙に、はるかに安い料金で、大きなサイズの広告も打っていたのも事実だが、売上げに影響はなかった。
    しかし、今の朝日新聞の広告は、出版社と、中高年向けの通販ばかりだ。これなら、出版情報であれば、書店に行けば充分だ。中高年向けの健康通販には興味深深だが、今の財布と相談すると、衝動買いすることもできない(苦笑)。他紙を圧倒していた筈の社会面下のコンサート広告も、最近は費用対効果が低く、極端に減っている気がする。不動産の購入を検討したり、パチンコ屋の新台導入に関心のない自分には、折込チラシもいらなくなった。決定的だったのは、文化面の音楽と映画の今年の総括の記事だ。中学生、失礼、小学生の感想文だ。記者はよく署名記事で掲載したと感心する。
  とはいえ、新聞不要で、ネットがあれば済むと言う世代ではないのが面倒だ。しかたなしに、近くの図書館で各紙を丹念に読み比べた結果、今52歳の自分は、(少なくともハイハイして新聞紙を舐めたり、くしゃくしゃにしたり、破ったりするのがファーストコンタクトであろうから)半世紀に渡る朝日新聞から東京新聞に宗旨替えすることになったのだ。

  昨日帰宅してTVをつけると「小田和正 - クリスマスの約束-2010-」をやっている。横浜赤レンガでやっているライブ自体は悪くない。しかし、見ていて違和感を感じる。参加しているミュージシャンもアレンジも、好き嫌いは別にして悪くはない。むしろ、ここ数年の音楽番組の中では、良質で丁寧に企画されているものだろう。
    しかし、決定的なのは、ライブ収録そのものだ。かって、TBSは、「輝く!日本レコード大賞」、「TBS歌のグランプリ」、「ロッテ歌のアルバム」、「サウンド・イン“S”」、「東京音楽祭」、「ザ・ベストテン」・・・。ヤング720、オーケストラがやってきたまで入れると、少なくとも、音楽の中継番組には、録画であろうと生放送であろうと、他局を凌駕するレベルがあったと思う。
  しかし、この番組は何だ!?出演者に遠慮しているのか、中途半端なカメラ位置と妙なタイミングでのスイッチング。この番組は、小田和正のイベントを中継させてもらっているのではなく、TBSの音楽番組ではないのか?ディレクター、カメラマン・・・TBSの優秀な職人たちは、どこに行ってしまったのだ。少なくとも、TXを含めた民放各局、NHK・・・他局ではこれは無い気がする。まあ、無料放送だから、こういうレベルでオンエアし、有料チャンネルやペーパービューや有料パッケージ用に幾つかのカメラでの収録映像を取ってあるとでも言うのだろうか(苦笑)。出演者は、プレイバックをチェックしなかったのだろうか。
  あとは、レコ大だ。今年こそ、ようやく娑婆っけが抜けた非業界人として、生放送を見て、音楽番組として成立しているのか確かめよう。

2010年12月24日金曜日

今日も飽きもせず黒澤2本。

    午前中は、大門の睡眠障害クリニック。酒を飲んだ日以外は、割といい数値だと言われる。そりゃそうなんだが…。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明

    93年大映/電通/黒澤プロ黒澤明監督『まあだだよ(159)』
    教室の青いドア。始業のベルが鳴っている。学生たちは騒がしい。ドアを開けて詰め襟の学生が「来た!」と叫びながら入って来て静かになる。先生(松村達郎)入ってくる。教壇の前に紫煙が漂っている。「誰か煙草を吸っていたな。教室で煙草を吸ってはいけない。しかし、いけないと言われることはやりなさい」歓声を上げる学生たち。「私も、教員室で、始業のベルが鳴ると、どうしても1本吸いたくなる。ついもう1本、2本と吸ってしまって遅れてしまうのだ」「今日はどうして?(早い?)」と言う声に、「私は先生と言われて、30数年が経った。しかし、今日をもって先生を辞める」「どうしてですか?」「私もどうやら、書いたものが売れるようになったからだ。もちろん私は、若い諸君と語り合うこの仕事は嫌いでなはい。しかし、二兎を追う者、一兎も得ずの例えもある。物書きとして、その位の覚悟は必要だとも思う」高山(吉岡秀隆)「先生!確かに先生は僕たちにドイツ語を教えてくれています。しかし、本校の卒業生である私の父も同じですが、今でも先生のことを先生先生と慕っています。そして先生は金無垢だって・・・」「ありがとう。30数年わたしの前を多くの学生が通り過ぎて行った。全ての学生の顔と名前を記憶している訳ではない。しかし、目を開けたまま、眠っていた学生の名前は、今でも忘れることは出来ない。高山!それは君のお父さんです」爆笑する学生たち、頭をかく高山。学生皆で“仰げば尊し”を歌う。目頭が熱くなり、ハンカチを出して鼻をかむ先生。
   東京、昭和18年。大きな荷物を一軒家に運び込む男たちがいる。先生のかっての教え子たちだ。高山(井川比佐志)桐山(油井昌由樹)沢村(寺尾聡)多田(平田満)古谷(渡辺哲)北村(頭師孝雄)三井(松井範雄)平野(杉崎昭彦)村山(冷泉公裕)太田(岡本信人)石川(竹之内啓喜)・・・。がやがやと荷物を持ち運ぶが、どうも落ち着かない先生が邪魔になっていると、甘木(所ジョージ)「奥さん!先生が一番邪魔なのでどこかにしまって下さい」爆笑する男たち。窓際に椅子を用意され座る先生。文机を見て「それは、玄関に置いてくれ。来客を断るために、そこで仕事をするのだと言う。
   荷物が片付き、引越し蕎麦を皆で食べていると、先生の奥さんが心配そうな顔で、「どうも、この家は構えの割にお家賃が安くて気になっていたのだけれど、このお蕎麦を頼みに行って、お店の方に聞いたけれど、どうもこの家は、泥棒に入られやすいのですって」「大丈夫だ。盗まれぬような物もない」安心しない奥さんに「泥棒に入られない方法を考えた」と言う先生。その晩、気になった高山と甘木が家の前に立っている。高木「先生はああ言ったが、心配だ」甘木「だからと言って、忍び込むと我々は本当の泥棒になってしまう」「だが、泥棒になった気持ちで忍び込んでみないと、本当にどうかはわからないものだ」「この潜り戸は閂が降りているが」「では、僕が塀を乗り越えて、潜り戸を開けるから入って来い」塀をよじ登り簡単に潜り戸を開ける高木。家の中はシンとしている。庭に廻ると雨戸が開いており「泥棒入口」と貼り紙がしている。忍び笑いをする二人。
    靴を脱いで、家に上がると、「泥棒通路」とあり、その先の部屋は「泥棒休憩所」という貼り紙と煙草と灰皿がある。そして視線を上げると「泥棒出口」だ。二人の忍び笑いは止まらない。これなら大丈夫だ。再び庭に出て、潜り戸から外にでる二人。甘木「どうしても潜り戸が気になるなあ。もう一度、閂を掛けてから塀を乗り越えて来たまえ」向うから巡査が歩いてくるのに気がついて、慌てて離れて歩きはじめる二人。すれ違う巡査(桜金造)に敬礼をして、暫くして離れたところで爆笑する二人。
   しばらくして、十数名の教え子たちは先生に呼ばれて集まった。玄関に「面会日1日、15日。他の日訪問無用」と貼り紙がある。先生は、玄関に文机を置いて、本を読んでいる。「今日お邪魔してよかったんですか」「まあ、上がりなさい」勝手知ったる他人の家で、多人数なので、襖を外し準備を始める男たち。「座布団は5枚しかないので、ワシだけ使うぞ」「今日は?」と先生に尋ねると「実は、私は還暦を迎えたのだ。自分の誕生日を忘れていたのを、親類から鹿の肉がお祝いとして贈られてきたので、思い出した位だ」「それはおめでとうございます」とみんな唱和する。「ということで、鹿肉を皆に振舞おうと思ったのだ」奥さん「何人いらっしゃるかしら」「17人です」「七輪とお鍋足りるかしら?」高山「足りなければ、買って来ますよ」宴会の支度が出来、皆が囲む「みんな足を崩したまえ。私はこの方が楽だから正坐をしているのだ」
    「おめでとうございます」「奥さんもご一緒に」「いや家内は、馬肉は駄目なんだ」「馬?」「そうだ。みんなに沢山食べてもらおうと、ひょっとして鹿肉だけでは足りないではないかと思って、肉屋に買いに行ったのだ。今日び、牛、豚、鶏肉は手に入らん。馬肉と鹿肉で、馬鹿鍋としゃれたわけだ。しかし、肉屋に行って馬肉を買っている時に・・・」肉屋(谷村昌彦)が肉を捌いているのを、先生が待っていると、馬方(都家歌六)に曳かれた馬が通りかかる。馬はふと立ち止まり、振り返って肉屋の前に立つ先生を大きな目で見つめる馬。心なしか哀しげな表情だ。「ということで、よもや陸軍士官学校教員時代の自分の馬に再会するとは・・・。馬の目は大きくて、参った・・・。さあ、そろそろいいだろう。どんどん食ってくれ」「いただきます」「うまい!!」鍋に箸を伸ばす男たち。甘木「しかし、空襲警報が鳴らないでくれるといいなあ。闇鍋になってしまう」「先生は暗闇がお嫌いでしたね」「そうだ。みんなは怖くないか。私は灯りを消すのが嫌で、電気をつけたまま、寝るので空襲警報は嫌いだ。みんなは暗闇は平気か?」「大丈夫ですよ」「平気ですよ」「それは勇気の問題ではなく、想像力の問題だ。暗闇に何かいるのではないか?と想像しだすと、本当に恐ろしい」しばらく経つと空襲警報が鳴り始める。街灯や近所の家庭の灯りが次々に消されていく。
   しかし、その先生の家も空襲で焼けてしまった。瓦礫の山、物置小屋のようなところに先生と奥さんが住んでいる。梅雨の雨の中、リヤカーを押して先生の小屋に家財道具や酒を運んでくる高山、甘木、桐山、沢村の4人。奥さんが頭を下げる。「上がってくれと言いたいが、私と家内で一杯だ」「いや、必要なものがあれば言って下さい。何でも持ってきますから」「とりあえず、傘をくれないか」高山「この傘を差し上げますよ」「うちの洗面所は新築だが、屋根がないので、今日のような日は困ったものなのだ」焼けたトタン板で四方を囲んだだけの便所がある。「空襲で自宅を焼け出されて、この近くまで来て、この小屋で休んでいると、バロンがやってきたのだ」「バロン?」「男爵じゃよ。この焼けた家の持ち主だ」「男爵がここに住んでいたんですか?」「いや、その門番が住んでいたそうだ。一族・・・」「全て焼けてしまった。私のこの好きな方丈記だけを何とか持って逃げた。鴨長明も都の災厄により、日野山に一丈四方の庵を建て暮らして、この日記を書いたのだ。思えば、この小屋も鴨長明の庵じゃよ。まあ、向こうは風流な水音がしたらしいが、ここは酔っ払いの立ち小便の音しか聞こえないが・・。しかし、立ち小便というのは、幾ら注意をしても、同じ場所にするのが人間の心理らしい」高山「鳥居を描いてもご利益はないようですからね」「そこで、私は工夫をしたんじゃよ。あの壁の向こうだ」4人が雨の中、確かめに行くと、「立ち小便無用」という文字の下に鋏の絵が書かれている。「こりゃ愉快だ」「これは縮みあがるというものだ」大笑いをする4人。突然雷鳴が聞こえる。小屋に戻ると先生の姿がない。奥さんは「こんな時でも、雷よけのまじないの線香が必要なんですよ」と線香に火をつけている。先生は、夏掛け布団を頭から被って震えている。甘木「ようやく、梅雨も明けるようだな・・・」
      いつの間にか、季節は夏になっている。MPが乗ったジープが焼け跡を走って行く。日本は敗戦したようだ。汗を拭きながら、高山たち4人が先生を訪ねて来ている。汗を拭きながら、「人間生きていると物が増えるものだねえ。空襲で全てを失った筈が、気がつくと、こんなに手狭になった」ジョニ黒の瓶「これは、近所の薬屋が作ったものだが、薬用アルコールに色々なものを混ぜてあるのだ」甘木「これは効くなあ」「いつまでも、先生をこんなところに住まわせておく訳にはいかない。我々で何とかしますよ」「おいおい君それはいけないよ」「本当にそうですわ」
   しかし、酒を飲むうちに、珍しく先生は弱気になった。「いや、乏しいながら、戦争中は食糧の配給はあったが、今は全く手に入らない・・・それに、こんな1畳足らずのところで暮らして、つくづく嫌になったよ」高山が「先生!!止めて下さい。先生は仰ったではありませんか。ここは鴨長明の庵だと・・・・」「すまん、年寄りの愚痴だ」思いがけず、弱気な先生の姿に顔を見合わせる4人。小屋で暮らす先生夫婦、四季が移って行く。その光景は美しい。
   4人が再び先生のもとを訪ねている。甘木「先生を囲む会を作ります。先生の還暦から1年。そろそろ亡くなるのかと思っているが、もう1年。まあだかい?まあだだよ、まあだかい?まあだだよ?もういいかい?まあだだよ。いつまでも死なない先生に、そろそろかい?と呼び掛けることで、摩阿陀会と名付けました」
   先生が、背広姿で靴を履いている。「では、行ってくるよ」「行ってらっしゃい」
   ビアホール、先生が座る後ろには「第1回摩阿陀会」という看板が下がっている。数十名の教え子たちが先生を温かい眼差しで見つめている。幹事の高山「還暦の誕生日から1年。毎年、この会を開催して、先生にまあだかい?と呼び掛けましょう」高山「物資厳しい中、諸君のお陰で、色々な物があつまった。今日は大いに飲もう。まずは、乾杯の前に、そこにある大コップのビールを先生に一息で飲みほしていただこう」先生うれしそうに「右隣に座っていらっしゃるのは、私の主治医の小林先生(日下武史)。左に座っていらっしゃるのは、私の葬式を上げてくれる坊さんの亀山さんだ。」小林(日下武史)亀山(小林亜星) も、にこにこと先生を見つめている。「準備万端だというところだが、諸君のもういいかいと言う問いかけに、私はまあだだよと応える」ぐびぐびと大ジョッキのビールを飲む先生。ついには飲み干した。高山「では、乾杯!!!」一同唱和「おめでとうございます!!!」
     高山「では、みんな、酔って訳がわからなくなってしまう前に、一言ずつスピーチを頼む。ただし手短に」北村(頭師孝雄)「スピーチは短い方がいいので・・・先生!ばんさーいい!!」ヤジるものも「おいおい!!いくら短いのがいいと言ってもそれだけか!!」「短いから祝辞だ。長いと弔辞になる」一同爆笑。?「私は口下手なので、気の効いたことを喋れないので、稚内から鹿児島までの駅名を全ていいます。稚内、○○・・・・・・」相当な変わり者だが、みな慣れているようで、駅名を読み上げ続ける?を無視して、次々に挨拶に立つ、教え子たち。「先生は太陽だ!みんなを照らしている」「持ち上げ過ぎだ!!」「いや、だったら月だ。月だから、まん丸い時もあれば、半分になったり、細くなったり、時には無くなったりする・・・」一同爆笑。「出~た。出~た。月が。まあるい、まあるい、まん丸い、ぼーんのような月が・・・」大皿を掲げた甘木が出てくる。歌詞に合わせ、高山、桐山、沢村が背広の上着が雲だ。最後に先生の後ろに立ち、後光が差しているようにかざす甘木。勿論、その間にも、駅名は続いている。
   みんな手に手にビール瓶やお銚子を持って先生にお酌をしようと集まって来る。「一人でこんなに相手をするのは無理だ。ここで、もう一度乾杯をして、あとは各自やろうじゃないか」
    甘木「おいちにをやろう!!」「そうだ!そうだ!」沢村が手風琴を持って前に出る。全員が立ち上がって、並び、前の者の方に両手を掛ける。和尚も急いで立ち上がって行列に加わる。おいちにの歌を先生歌う。みな本当に楽しそうだ。
    小林先生が、先生にビールを注ぐ。駅名は、ようやく「南鹿児島、鹿児島!!終わりました!!」拍手する先生。気がつくと3人を残して、ホールには誰もいなくなっている。不審顔の先生。すると、和尚を先頭に、高山たちが担いだ棺桶(テーブルの上に、テーブルクロスを掛けた人間が横たわっているもの)、みなの行列が入って来る「おお、私の葬式か?!」先生の前まで歩いてくると止まって、棺桶を下す。突然、遺体が立ち上がる。甘木だ。「まああだかい!!?」先生「まあだだよ」全員「まああだかい!!!」「まああだだよ~」その繰り返しはどんどん大きくなっていく。何だろうと道行く通行人が店の入口から覗いている。しまいには、サイレンを鳴らしたMPのジープまでやってきた。あまりの騒ぎに誰かが通報したのだろうか。険しい表情のMPたちは、中を覗き、いい年齢をした男たちの大宴会を苦笑して眺め、笑いながら帰って行った。次々に何事だろうと、入って来る通行人、浮浪者、パンパン・・・。
   再び、高山たちがやってきて、土地が見つかったので、先生の家を建てると言う。恐縮する先生に、戦後の未払いの印税を支払うことで出版社の同意も取り付けたと説明する高山。どういう家がいいですか?という甘木に、先生は庭に池が欲しいと言う。池には魚を多数飼いたい、しかし魚は一方向に泳ぐ習性があるので、小さい池ではグルグル廻らざるをえず、背骨が曲がってしまうと可哀想なので、大きな池が欲しいという先生。敷地の関係で、あまり広い池は作れないかもというと、ドーナツ型の池にして、その上に家を建てればよいという。思案顔の男たち。すまなそうな奥さん。
   いよいよ新居が建った。高山たちに、嬉しそうに庭を案内する先生。ドーナツ型の池を造るために、建物は狭くなったが、「1畳で暮らしていた生活を思うと、ここはまさに“金殿玉楼”だよ」


「みんな、自分の本当に好きなことを見つけて下さい。本当に自分にとって大切なものを見つけるといい。見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。きっとそれは君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう」

    

    48年東宝黒澤明監督『酔いどれ天使(160)』
    黒く澱んだどぶ。メタンガスの泡が浮かんでいる。ギターを爪弾く男が一人。ドブ池に、石を投げるチンピラが二人。
    おんぼろな診療所がある。そこの医師の真田(志村喬)「どうしたんだ!?」ヤクザの男松永(三船敏郎)苦痛に顔を歪めながら「ドアに手を挟まれたんだ。で、釘が出ていたんで…」「ふーん、釘がね…」腕に巻いたネッカチーフを解いて、消毒をしてやる真田。「少し痛いよ…」「うっ!」ヒンセットで、傷口から弾丸を取り出し「つまり、これが釘ってわけか…」「迷惑はかけねえ!つまらねえ出入りがあって…」いきがる松永「駅前のマーケットで松永って言やあ、誰でも知ってるぜ。若けえ者が、時々世話になってるそうだな…」真田「おーい!婆さん!蚊取り線香持って来てくれねえか!……しょうがねえなあ、寝ちまったか…」暑い診療室に風を入れようと、ドアを開けっ放しにしようとするが、なかなか思い通りにならず苛つく真田。「前もって言っておくが、治療代は高いよ。無駄飯食っている奴らからむしり取ることにしてるんだ」「痛えなあ!麻酔薬ねえのか!?」「おめえたちに使う麻酔薬なんかねえ」乱暴に傷口を縫い合わせる真田。松永空咳をする。「風邪だよ…」「一度ちゃんとレントゲンを撮ってみろ。結核の可能性もある」「診てくんねえのか」「」聴診器当てたり、胸を指でトントンやったりしても分かりゃしない。でも医者がもったい付けるためにやるんだ。でも、一応やってやろう」松永の胸を叩き、聴診器を当て、「うーん」「分かんねーのか」「いや、分かる。胸にこれ位の穴が開いているぞ」

    南新町マーケット

2010年12月23日木曜日

今日も、またまたまた黒澤2本。

      京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明
      62年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『椿三十郎(157)』
     鄙びたお堂がある。そこに井坂伊織(加山雄三)が駆け込んでくる。寺田文治(平田昭彦)「駄目か!?やっぱり」伊織「うん。とにかく叔父貴は話にならん。我々の決意を述べて奸物粛清の意見書を渡すと、ざっと目を通して"これでも城代家老だ。これくらいのことはお前達に言われないでも分かっている」寺田「馬鹿な! じゃ、なぜ今まで・・・」伊織「殿様ご出府中、その留守を預かる城代家老が、次席家老と国許用人の汚職を知りながら、なぜ今日まで見逃していたのか。すると、にやにや笑って"おい。俺がその汚職の黒幕かもしれないぞ。お前達はこの俺を少し薄のろのお人よしだと思って、案山子代わりにかつぎ出すつもりらしいが、人は見かけによらないよ。危ない危ない。第一、一番悪い奴はとんでもない所にいる。危ない危ない" そう言うと、いきなり意見書をびりびりだ」
    寺田「で、大目付菊井さまの所へ行ったのか?」伊織「そうだ。菊井さんはやっぱり話が分かる。初めのうちは困った顔をして、ご城代と相談の上でと逃げを打ってたが、俺が今の伯父の話をするとびっくりしてね。菊井殿は、お主らの忠義はよく分かった、直ぐに同志の者たちを集めよと仰有って下さった」保川邦衛(田中邦衛)「やっぱり大目付さまだ。うすのろのお人好しを、案山子を担ぐのとは訳が違う!」9人の若侍、守島隼人(久保明)守島広之進(波里達彦)河原晋(太刀川寛)関口信伍(江原達怡)広瀬俊平(土屋嘉男)八田覚蔵(松井鍵三)らは口々に熱い思いを語り合っていると、裏から大欠伸が聞こえ、薄汚れた素浪人(三船敏郎)が伸びをしながら現れた。身構え、刀に手をやる若侍たち。「おめえたちの話を聞いていると全く下らねえなあ」「盗み聞いてたのか!?」「ここは旅籠賃取られないからな。おれが眠っていたら、おめえたちが勝手に話しだしたんじゃねえか。しかし、知らねえから、話してる奴よりも話しが分かる。おれはどっちの面(つら)も知らねえが、城代家老はつまらねえ面をしてるだろ、やっぱり話せる、やっぱり本物だなんてところを見ると見かけだけは十分な大目付。危ねえ、危ねえ、城代家老が本物で、大目付が偽物だぜ。城代家老が言う通り、一番悪い奴が、とんでもねえところかもしれねえぞ。大目付の役目は何事も揉め事を起こさねえ筈なのに、おめえたちの義挙を後押しするてえのはおかしいぜ。岡目八目もいいところだ」伊織「確かに!しかし、今晩ここで落ち合うことに!?」
    浪人、御堂の外の様子を見て、「見な、蟻の這い出る隙間もねえや」若侍たちが覗くと、沢山の侍たちが、御堂を取り囲もうと押し寄せて来るところだった。「大目付菊井殿の手の者である。十重二十重に取り囲んでいる。神妙にしろ」若侍たち顔を見合わせ「こうなったら、生きるも死ぬも、我らが九人!」飛び出して斬り込もうとする青大将。浪人「待て!俺も入れて十人だ。おめえたちを見ていると、危なっかしくてしょうがねえ」
    突然御堂の戸が開き、浪人一人が出てくる。「うるせえな!俺がいい気持ちで眠っていたら…、気をつけろ、俺は機嫌が悪いんだ」捕り方たちが、御堂に入ろうとすると「てめえら、俺の寝床に、勝手に土足で上がるんじゃねえ!」



     城代家老睦田弥兵衛(伊藤雄之助)の役宅。広間に睦田と奥方(入江たか子)やって来る。若侍九人が待っている。「あのお方は?」「あなた、命の恩人のお名前をお忘れですか、椿さまですよ」「千鳥お呼びしなさい、今回のことを話しておく。残念ながら、菊井は自害してしまったが、本当はわしは、竹林や黒藤のように、隠居のような穏便な処置をしたかった。わしの不徳とするところじゃ」
    
    椿「こいつは俺と似ている。抜き身だ。でも、あの奥方が言ったように、本当にいい刀は鞘に入っている。お前らは、ちゃんと鞘に入っていろよ!来るな!!叩っ斬るぞ!!あばよ!」手をついて平伏する若侍たちを残して去って行く三十郎。

室戸半兵衛(仲代達矢)見張りの侍木村(小林桂樹)腰元こいそ(樋口年子)千鳥(団令子)次席家老黒藤(志村喬)用人竹林(藤原釜足)大目付菊井六郎兵衛(清水将夫)

     70年四騎の会/東宝黒澤明監督『どですかでん(158)』
    都電が走っている。線路すれすれに建っているボロい店。てんぷらと書いてある。都電を眺めている少年六ちゃん(図師佳孝)。中で仏壇に向かい、必死にお題目を唱える母親おくに(菅井きん)。一間しかない小さな家の中は、六ちゃんが描いた電車の絵で一杯だ。壁、ガラス戸の夥しい数の絵はカラフルだ。おくにの隣に座り、仏壇に深々と頭をさげ「ご僧主さま、毎度のことですが、かあちゃんの頭がよくなるよう、よろしくお願いいたします。ナンミョウレンソ、ナンミョウレンソ」と拝む六ちゃん。悲しい目のおくにを見て「どうして、そんな顔をするのさ、かあちゃん、何か心配なのかい?」「何もないよ」「かあちゃんは、何も心配しなくてもいいよ」おくにの顔を覗き込み、再び深深と頭を下げ、「お僧主さま。毎度毎度で、飽き飽きするかもしれませんが、かあちゃんのことよろしくお願いいたします。柱時計が鳴る。慌てて立ち上がり、柱にかかった都電の操縦棒を手に取り帽子を被るような動作をし、軍手を手にはめ、「それじゃ、行って来ます。今日は8往復して、昼休みしてまた8往復だから、帰りは夕方になるよ」腰に弁当箱を入れた風呂敷を縛り付け、家の外に出て、目の前の瓦礫の山を登って行く六ちゃん。泣きながら立ち上がるおくに。家中に描かれた電車の絵を眺め、再び泣きだし座りこむ。
   六ちゃんは塵の山を歩き、少し開けた石が敷き詰められた場所に出る。ここは六ちゃんの操車場だ。そこに電車が停まっているかのように、一つ一つの箇所を点検する。「しょうがねえな、整備の野郎。何やってやがる。いくら古いからと言ってもなっちゃいねえな」圧力弁やドアの開閉、パンタグラフの操作など一つ一つの動作でほんものの音はするが、勿論電車は、六ちゃんの頭の中にしかない。「さあ!発車進行!・・・ど・で・す・か・で・ん・・・ど・で・す・か・で・ん・・どですかで・ん・・どですかでん・どですかでん・どですかでんどですかでん」瓦礫の中に一本通った道を力強く進む六ちゃん。「どですかでん、どですかでん」と駆ける六ちゃん。
    近所の子供たちが「電車きちがい!!電車きちがい!!」と囃し立て、石を投げるが、六ちゃんの耳には届かない。六ちゃんは突き当たりにある白い家の前で停まる。ここが終点のようだ。六ちゃんは中に入り、たんばさん(渡辺篤)に声を掛ける。「たんばさんおはよう」「かあちゃんは、信心しているか」「うん、朝晩しているよ」「今日の電車の調子はどうだい?」「整備の連中が手を抜きやがって」「そうかい・・。かあちゃんによろしく」「うん、ありがとう」出て行く六ちゃん。たんばさんは、調金職人のようだ。
   このスラム街の真ん中に、水道の蛇口があり、女たち(園佳也子、新村礼子、牧よし子、桜井とし子、小野松枝)が日がな炊事の支度や、洗濯で集まり、噂話をしている。水道を挿んで、黄色いバラック小屋と赤いバラック小屋があり、黄色い家から黄色い作業着を来た益夫(井川比佐志)が出て来て、送って出た妻のたつ(沖山秀子)が「今日こそ、酒飲んでくるんじゃないよ」とドヤしつけている。向かいの赤い家からは、赤い作業ズボンを穿いた初太郎(田中邦衛)が出てくる。同じように見送る良江(吉村実子)。「あにき!!」益男「ようでかけるぜ!今日は天気がよさそうだ」小声になり「今日も終わったら、いっぱいひっかけようぜ」二人とも昨日の酒が残っているのか、千鳥足で出掛けて行く。たつと美江「男ってどうして、あんななんだろうねええ」
   少し先の家からきちんと三つ揃いの背広と中折れ帽を被った島悠吉(伴淳三郎)が出て来て、水道の女たちに挨拶をする「おはようございます」おんなたち「おはようございます」小声になって「あたしゃ、島さんはいい人だけど、あの顔の麻痺と奥さんにだけは馴染めないよ」跛をひき歩く島、くしゃみをしそうになり、ズルズルと鼻を鳴らしたかと思うと、一旦顔を止め、弛緩する。これが島の顔の麻痺らしい。島が去ると、不機嫌な表情の妻(丹下キヨ子)が咥え煙草で、買い物籠を下げ出てくる。おんなたちの前を素通りし、屋台の八百屋の前に立つ。嫌な顔をする八百屋(谷村昌彦)。おもむろにキャベツを手に取り、外側から毟り始め「ここの野菜はひどい品なのに、高い」「そんなことはないよ、中通りのスーパーに比べたら2,3割は安いとみんな言っているよ」「あんた、客を嘘つき呼ばわりするのかい?このキャベツ目方計っておくれ」「きゃべつは目方じゃなくて、一個で売るもんだよ」「こんな萎びた葉っぱまで売りつけるのかい?」やれやれと言う顔でキャベツを量る八百屋。しかし、女は毟って剥がしたキャベツの外葉を買い物籠に押し込んでいる。
   近くのバラックから平さん(芥川比呂志)が出てくる。平さんの顔は青白く、その瞳は宙を睨んでいるが光はない。女たち「平さんは、若い頃は、ずいぶんいい男だったろうね」抱えて来た古着の歯切れをドラム缶に突っ込んでいる平さん。女たちの中の渋皮のむけた女(根岸明美)に「あんた、狙った男は外したことはないと、いつも自慢しているけど、平さんのところに忍んでいったのをあたしはしっているんだよ」「そうさ、私はあの晩忍んで行って、眠っている平さんの布団に入ろうとしたら、恐ろしい声で啜り泣いていて、お蝶と言っているのを聞いてしまったんだ。何かとても恐ろしい体験をしたみたいだね」くまん蜂の吉(ジェリー藤尾)が洗面器を持って出てくる。

くまん蜂の女房(園佳也子)絵描き(加藤和夫)野本(下川辰平)沢上良太郎(三波伸介)小供(石井聖孝、貝塚みほこ)沢上みさお(楠侑子)みさおに纏わりつく男たち(人見明、二瓶正也、江波多寛児、市村昌治、伊吹新)お蝶(奈良岡朋子)乞食の親子(三谷昇、川瀬裕之)綿中京太(松村達雄)姪のかつ子(山崎知子)妻のおたね(辻伊万里酒屋伊勢屋の御用聞き岡部少年(亀谷雅彦)死にたい老人(藤原釜足)屋台のおやじ(三井弘次)小料理屋の女将(荒木道子)レストランの主人(桑山正一)ウェイトレス(塩沢とき)泥棒(小島三児)刑事(江角英明)

どですかでん予告編youtube


   本当は、「どですかでん」と、その次に上映予定の「夢」を黒澤カラー映画2本立てと、美人画家1.5を誘っていたのだが、まあ、1.5状態なのでこれなくなったのだが、よかった。高校時代以来、「どですかでん」を見て、やっぱりどう考えても、0.5には胎教的に悪影響があったのでは(苦笑)と思ったのと、自分自身「どですかでん」で脳味噌掻きまわされて2本観終わって疲労困憊、息も絶え絶えだった。黒澤3本は、やっぱり無理だわ。青山スパイラルで友人がやっているイベントに顔を出し帰宅。

2010年12月22日水曜日

今日も黒澤2本。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明
    60年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『悪い奴ほどよく眠る(155)』
    都内の高級ホテルのバンケットルーム。西家、岩渕家式、披露宴会場と案内が出ている。結婚式の最中のようだ。受付にいた男女がエレベーター前に駆け寄り頭を下げる。出席者が出て来る。再びエレベーターのドアが開くと、満員の乗客は、新聞記者とカメラマンたちだ。受付に駆け寄り、「大竜建設の社長と専務は来てますか」「披露宴前に、ほんの1、2分でいいんだけど」と無遠慮に話しかける。係員(佐田豊)「すみません!道を広げて下さい。今、新郎新婦がいらっしゃいます。」広がった参列者と記者たちの間を通る。新郎西幸一(三船敏郎)と新婦岩淵佳子(香川京子)たち。新婦は足が不自由なようだ。着物の裾から見える草履の高さが左右とても違っている。転びそうになった新婦を支える男は佳子の兄で幸一の親友の岩淵辰夫(三橋達也)だった。
   披露宴の開始早々、係員に呼ばれ出てきた日本未利用土地開発公団の契約課長補佐の和田(藤原釜足)に二人の刑事が警察手帳を見せる。戸惑った表情の和田に近寄る契約課長の白井(西村晃)。「僕は式次第が分からないんだから困るよ」と声を掛けるが、式次第の紙を渡され耳打ちをされると顔色が変わる。慌てて白井が式場に戻ると、和田は連行されていき、無数のフラッシュが焚かれた。
   披露宴は始まり、記者たち((三井弘次、田島義文、近藤準、横森久、小玉清(→児玉清))は式場の最後部にあるテーブルに座りながら高みの見物を決め込んでいる。
    媒酌人は有村総裁夫妻(三津田健、一の宮あつ子)が新郎新婦を紹介する「西幸一君は、わが公団の岩渕副総裁の秘書をしております。戦災孤児で身寄りはありませんが、優秀な男です。岩渕くんは父親として認めたくはなかったようですが、新婦佳子さんの気持ちには逆らえなかったようです(笑)新婦よし子さんは京浜女子出身の才媛で…」
    和田の逮捕を白井から耳打ちされて以来、落ち着かない管理部長の守山(志村喬)


   55年東宝黒澤明監督『いきものの記録(156)』
    都心の交差点。横断歩道を渡る群集。行き交うバス、都電。都電が走る通りの二階に歯科がある。
    マスクをして診察台に座る男の子に向かう原田(志村喬)。隣りの診察台には息子の進(加藤和夫)がいる。嫁の澄子(大久保豊子)が赤ん坊を背負って診察室に入ってくる。「お父さん。電話です」「どこから?」「裁判所からです」「坊や、ちょっと待ってね」隣りの診察台の患者「裁判所?何かあったんですか」「いや、かの間から、家庭裁判所の調停委員を引き受けちまったんですよ。道楽みたいなもんですな」原田戻ってきて「やれやれ、今日は1時から呼び出しだ。これで午後は丸潰れだ」しかし、表情はどこか嬉しそうだ。
東京家庭裁判所家事審判部。ある審判室の前では、ごった返し騒然としている。中島二郎(千秋實)に栗林(上田吉二郎)が「この子たちにも大旦那の血が流れているんですから…。良一さんも、妙子さんも一緒ですよ。」「僕はいいんだけど」須山良一(立刀川洋一)不満そうな妾の里子(水の也清美)とその娘妙子(米村佐保子)に、仕切りと話しかける栗林。原田が調停室に入ろうとすると二郎、「とにかく、親父の問題ですから、他人の口出すことではないので」「いや、私は調停委員ですから」間違いに気がつき平身低頭の二郎。
   調停室内も騒然としている。70才になる中島家の家長の喜一(三船敏郎)を準禁治産者として欲しいと言う申立だ。申立人は妻のとよ(三好榮子)と長男の一郎(佐田豊)、二郎、長女のよし(東郷晴子)。よしの夫の山崎隆雄(清水将夫)は、栗林たちと廊下に出された。
  審判側は、判事の荒木(三津田健)と原田と同じ調停委員の弁護士会の堀(小川虎之助)家裁書記の田宮(宮田芳子)

2010年12月19日日曜日

黒澤2本。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督黒澤明

   49年新東宝/映画芸術協会黒澤明監督『野良犬(153)』
   荒い息をする野良犬の顔のアップ。その日は恐ろしく暑かった。「何!?ビストルを摺られた?」「すみません!」「コルトだったな」「弾は7発入っています」係長中島主任警部(清水元)を前に固まっている村上(三船敏郎)。
   警視庁殺人課の新人刑事の村上は、徹夜明けでとても疲れていた。ピストルの射撃訓練が終わり、同僚たちから「早く帰って今日はよく眠れよ」と声を掛けられながら、一人帰宅する。超満員のバス車中、ぴったりくっ付いた中年女の安物の香水の強烈な匂いに辟易する村上。停留所に停まり、多数の乗客が降りる。ふと背広のポケットに入れたビストルが無いことに気づき、慌てて下車する村上。一人の男が村上に気づき、走りだしたのを、追跡する。炎天下の中、走る二人の男。間は縮まってきたものの、未舗装の道路に足を取られ転倒する村上。直ぐに立ち上がったものの男を見失い肩を落とす村上。
   殺人課の場面に戻る。「自分は、どんな処分も受けます。自分は…」「自分はばっかり繰り返しやがって、ここは軍隊じゃねえ」「取り敢えず、餅は餅屋だ。掏摸担当の刑事に聞きに行け」捜査三課の市川(河村黎吉)を訪ねる村上。「顔を覚えたって言ったな。鑑識に行ってハコ師のリスト見せてもらいな」「ハコ師!?」「乗り物の中でやる奴をそう言うんだ」
   
   61年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『用心棒(154)』
   山脈(赤城山らしい)を眺める懐手の素浪人(三船敏郎)。荒野の街道を歩いている。道が分かれている。思案顔の末、路傍の枝を投げ、向いた方向に再び歩き始める。男の前に、百姓親子が喧嘩をしながら転がり出る。宿場の博打打ちたちの出入りに加わり名を挙げるんだと言う若者(夏木陽介)は、親(寄山弘)の話しに聞く耳を持たない。男「とっつあん!一杯水を貰うぞ」結局息子を止められなかった父親は、「おっかあ!何でおめえは止めねえだ」機を織りながら母親(本間文子)「今の若いもんたちは、気が違っちまっただ。」………
  「造り酒屋が糸を買い始めたらしい」「だども、絹市が立たなきゃ糸も売れやしないだぞ」「血の臭いに、腹を空かせた野良犬たちが集まってきやがった」男を冷たい目で睨む親父。
   宿場に入る男。人気のない辻。宿場女郎たちの視線。手首を加えた野良犬が通り過ぎる。番屋の番太郎の半助(沢村いき雄)が声を掛ける「金が欲しいなら、女郎屋の馬目の清兵衛か、新田の丑寅のどっちかの用心棒になるがいいぜ。必ず番太郎の半助の紹介だと言っておくんな!紹介料は一朱だ。半助の紹介だって忘れるなよ」
   男は宿場の両端を眺め、番屋の向かいにある飯屋に入る。飯屋の親父権爺(東野英治郎)「酒か?」「いや飯だ」「金は持っているのかい」「いや、これから稼ぐ」「止めとくれ。」この馬目の宿は、女郎屋の馬目の清兵衛(河津清三郎)と、その一の子分の博徒、新田の丑寅(山茶花究)が纏めていた。しかし、駄目な息子が可愛い清兵衛は、その倅与一郎(太刀川寛)に跡目を譲ろうとしたから、我慢の出来ない丑寅は反目、兇状持ちを集めて一色即発なのだ。金目当てで、食い詰めもののチンピラや浪人が野良犬のように集まってくる。更に絹問屋を営む名主多左衛門(藤原釜足)に対し、造酒屋徳右衛門(志村喬)が名主の座を狙って丑寅についた為、代理戦争でもあるのだ。どちらかの用心棒になって金を払うという男に、出て行ってくれと言う権爺。
   隣から桶を打つ音がする。死人が続出するこの宿では、隣の桶屋(渡辺篤)が棺桶作りで儲かってしょうが無いのだ。儲かるのは桶屋だけだと罵る権爺。そこに新しい助っ人を二人連れた丑寅の弟の亥之吉(加東大介)が戻って来た。少し頭は足りないが猪のように暴れたら手が付けられないと説明する権爺。亥之吉が桶屋に声を掛ける「もうかっているか」「へえ、お宅から二つ注文もらいやした」「えっ?!」声を荒げる亥之吉に「でも、清兵衛からは三つ」手の指で比べていたが、どうやら、向こうが多く死人が出ているらしいと分かって喜ぶ亥之吉。飯を食いながら、考えていた男は飯屋を出て行った。
   新田の丑寅の所に行くと、破落戸たちがぞろぞろ出て来た。大男のかんぬき(羅生門綱五郎)亀(谷晃)賽の目の六(ジェリー藤尾)熊(西村晃)瘤八(加藤武)子分(広瀬正一、西条竜介)。凄む破落戸たち。男はあっという間に賽の目の六の腕を斬り落とし、更に二人の凶状持(中谷一郎、大橋史典)を斬った。「いてえ!!!」転げまわる六。
   男は、その足で、宿場の反対側の清兵衛の女郎屋に行き、自分を雇わないかと言う。清兵衛は二階に上げ、「一両でどうだ?」と言う。首を振らない男に、結局50両を出すことになる。半金25両を差しだし、子分を紹介する清兵衛。子分四天王の孫太郎(清水元)孫吉(佐田豊)弥八(天本英世)助十(大木正司)に、馬の雲助(大友伸)、子分たち(桐野洋雄、草川直也、津田光男)。
   しかし、清兵衛の女房おりん(山田五十鈴)は、清兵衛を連れて別の部屋に行ってしまった。男が、女郎たちに静かにしているよう、口に人差し指をあて、盗み聞きしていると、おりんは、50両なんてもったいないので、丑寅一家をやったら、倅の与一郎に「男をやってしまえ」と言う。「殺すのかい?」とびびる与一郎に、「一人も百人も、獄門に上がるのは一緒だ。その位しないと、子分たちになめられる」と言い聞かすのだ。
   そしらぬ顔で、部屋に戻った男に、酒を勧める清兵衛、おりん夫婦。おりん「先生のお名前は?」「うーん、そうだな」窓の外の風景を眺め「桑畑・・・三十郎だ。いや、間もなく四十郎だがな」男はアラ40だった(笑)。そこに、もう一人の用心棒の浪人本間(藤田進)が呼ばれてくるが、屈託ありげに横を向いて座る。清兵衛「本間先生も、ご一緒に」「いや五十両のご仁と、一両二分の拙者では格が違い過ぎるでな」苦笑する桑畑(笑)。「じゃあ、今直ぐに丑寅一家に出入りしましょう」清兵衛が言いだし、子分は皆ためらうが、二人の用心棒で急襲すれば、先ほど3人斬られ怖気づいている丑寅一家は一網打尽だと言う清兵衛。
  へっぴり腰で列び、長ドスを手に手に気勢を上げる清兵衛の子分たち。おりんは、女郎たちを棒で叩きながら蔵に連れて行き、外から鍵を掛け閉じ込める。二階から外を男が眺めていると、先ほどの本間が、塀を乗り越え、逃げ出そうというところだった。男が見ていることに気がつき、笑顔で手を上げる本間。男が笑顔で応えると、走りだした。一両二分では安い命だ。男が清兵衛の子分に呼ばれ、外に出る。男の姿を見て、怖気づく丑寅一家と気勢が上がる清兵衛一家。清兵衛がふと気がついて「あれ本間先生はどうした?呼んで来い」と子分に命じると、男は「あの浪人は逃げた。昼逃げだ」悔しがる清兵衛に「俺も気が変わった。丑寅をやっつけたところで、殺されちゃかなわねえからな。ほら金は返すぜ」25両をおりんに渡し、スタスタと飯屋に入って高見の見物だ。
   
 
   
  卯之助『三ピン、いるか…。地獄の入り口で待ってるぜ』『最期まで向こう見ずのままで死んで逝きやがったぜ。オヤジ、これでここも静かになったぜ』
二人に背を向け去って行く男。

   桑畑三十郎(三船敏郎)新田の卯之助(仲代達矢)小平の女房ぬい(司葉子)用百姓小平(土屋嘉男)八州廻りの足軽(堺左千夫、千葉一郎)八州廻りの小者(大村千吉)

  やっぱり、黒澤の映画は何度見ても新鮮な発見がある。それどころか、50過ぎて、記憶が曖昧な部分がどんどん出て来て、これからは同じことでも“何度でも”発見できるから益々お得だ。老人力バンザイ!!。
   今回は、卯之助の着流しの着物の裾から見える裏地がいい。マフラーとピストルは皆指摘することだが、走る時に裾をまくると見える柄、お洒落だ。表裏どういう色の生地なのか、どこかに記録残っていないのだろうか。