2010年12月24日金曜日

今日も飽きもせず黒澤2本。

    午前中は、大門の睡眠障害クリニック。酒を飲んだ日以外は、割といい数値だと言われる。そりゃそうなんだが…。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明

    93年大映/電通/黒澤プロ黒澤明監督『まあだだよ(159)』
    教室の青いドア。始業のベルが鳴っている。学生たちは騒がしい。ドアを開けて詰め襟の学生が「来た!」と叫びながら入って来て静かになる。先生(松村達郎)入ってくる。教壇の前に紫煙が漂っている。「誰か煙草を吸っていたな。教室で煙草を吸ってはいけない。しかし、いけないと言われることはやりなさい」歓声を上げる学生たち。「私も、教員室で、始業のベルが鳴ると、どうしても1本吸いたくなる。ついもう1本、2本と吸ってしまって遅れてしまうのだ」「今日はどうして?(早い?)」と言う声に、「私は先生と言われて、30数年が経った。しかし、今日をもって先生を辞める」「どうしてですか?」「私もどうやら、書いたものが売れるようになったからだ。もちろん私は、若い諸君と語り合うこの仕事は嫌いでなはい。しかし、二兎を追う者、一兎も得ずの例えもある。物書きとして、その位の覚悟は必要だとも思う」高山(吉岡秀隆)「先生!確かに先生は僕たちにドイツ語を教えてくれています。しかし、本校の卒業生である私の父も同じですが、今でも先生のことを先生先生と慕っています。そして先生は金無垢だって・・・」「ありがとう。30数年わたしの前を多くの学生が通り過ぎて行った。全ての学生の顔と名前を記憶している訳ではない。しかし、目を開けたまま、眠っていた学生の名前は、今でも忘れることは出来ない。高山!それは君のお父さんです」爆笑する学生たち、頭をかく高山。学生皆で“仰げば尊し”を歌う。目頭が熱くなり、ハンカチを出して鼻をかむ先生。
   東京、昭和18年。大きな荷物を一軒家に運び込む男たちがいる。先生のかっての教え子たちだ。高山(井川比佐志)桐山(油井昌由樹)沢村(寺尾聡)多田(平田満)古谷(渡辺哲)北村(頭師孝雄)三井(松井範雄)平野(杉崎昭彦)村山(冷泉公裕)太田(岡本信人)石川(竹之内啓喜)・・・。がやがやと荷物を持ち運ぶが、どうも落ち着かない先生が邪魔になっていると、甘木(所ジョージ)「奥さん!先生が一番邪魔なのでどこかにしまって下さい」爆笑する男たち。窓際に椅子を用意され座る先生。文机を見て「それは、玄関に置いてくれ。来客を断るために、そこで仕事をするのだと言う。
   荷物が片付き、引越し蕎麦を皆で食べていると、先生の奥さんが心配そうな顔で、「どうも、この家は構えの割にお家賃が安くて気になっていたのだけれど、このお蕎麦を頼みに行って、お店の方に聞いたけれど、どうもこの家は、泥棒に入られやすいのですって」「大丈夫だ。盗まれぬような物もない」安心しない奥さんに「泥棒に入られない方法を考えた」と言う先生。その晩、気になった高山と甘木が家の前に立っている。高木「先生はああ言ったが、心配だ」甘木「だからと言って、忍び込むと我々は本当の泥棒になってしまう」「だが、泥棒になった気持ちで忍び込んでみないと、本当にどうかはわからないものだ」「この潜り戸は閂が降りているが」「では、僕が塀を乗り越えて、潜り戸を開けるから入って来い」塀をよじ登り簡単に潜り戸を開ける高木。家の中はシンとしている。庭に廻ると雨戸が開いており「泥棒入口」と貼り紙がしている。忍び笑いをする二人。
    靴を脱いで、家に上がると、「泥棒通路」とあり、その先の部屋は「泥棒休憩所」という貼り紙と煙草と灰皿がある。そして視線を上げると「泥棒出口」だ。二人の忍び笑いは止まらない。これなら大丈夫だ。再び庭に出て、潜り戸から外にでる二人。甘木「どうしても潜り戸が気になるなあ。もう一度、閂を掛けてから塀を乗り越えて来たまえ」向うから巡査が歩いてくるのに気がついて、慌てて離れて歩きはじめる二人。すれ違う巡査(桜金造)に敬礼をして、暫くして離れたところで爆笑する二人。
   しばらくして、十数名の教え子たちは先生に呼ばれて集まった。玄関に「面会日1日、15日。他の日訪問無用」と貼り紙がある。先生は、玄関に文机を置いて、本を読んでいる。「今日お邪魔してよかったんですか」「まあ、上がりなさい」勝手知ったる他人の家で、多人数なので、襖を外し準備を始める男たち。「座布団は5枚しかないので、ワシだけ使うぞ」「今日は?」と先生に尋ねると「実は、私は還暦を迎えたのだ。自分の誕生日を忘れていたのを、親類から鹿の肉がお祝いとして贈られてきたので、思い出した位だ」「それはおめでとうございます」とみんな唱和する。「ということで、鹿肉を皆に振舞おうと思ったのだ」奥さん「何人いらっしゃるかしら」「17人です」「七輪とお鍋足りるかしら?」高山「足りなければ、買って来ますよ」宴会の支度が出来、皆が囲む「みんな足を崩したまえ。私はこの方が楽だから正坐をしているのだ」
    「おめでとうございます」「奥さんもご一緒に」「いや家内は、馬肉は駄目なんだ」「馬?」「そうだ。みんなに沢山食べてもらおうと、ひょっとして鹿肉だけでは足りないではないかと思って、肉屋に買いに行ったのだ。今日び、牛、豚、鶏肉は手に入らん。馬肉と鹿肉で、馬鹿鍋としゃれたわけだ。しかし、肉屋に行って馬肉を買っている時に・・・」肉屋(谷村昌彦)が肉を捌いているのを、先生が待っていると、馬方(都家歌六)に曳かれた馬が通りかかる。馬はふと立ち止まり、振り返って肉屋の前に立つ先生を大きな目で見つめる馬。心なしか哀しげな表情だ。「ということで、よもや陸軍士官学校教員時代の自分の馬に再会するとは・・・。馬の目は大きくて、参った・・・。さあ、そろそろいいだろう。どんどん食ってくれ」「いただきます」「うまい!!」鍋に箸を伸ばす男たち。甘木「しかし、空襲警報が鳴らないでくれるといいなあ。闇鍋になってしまう」「先生は暗闇がお嫌いでしたね」「そうだ。みんなは怖くないか。私は灯りを消すのが嫌で、電気をつけたまま、寝るので空襲警報は嫌いだ。みんなは暗闇は平気か?」「大丈夫ですよ」「平気ですよ」「それは勇気の問題ではなく、想像力の問題だ。暗闇に何かいるのではないか?と想像しだすと、本当に恐ろしい」しばらく経つと空襲警報が鳴り始める。街灯や近所の家庭の灯りが次々に消されていく。
   しかし、その先生の家も空襲で焼けてしまった。瓦礫の山、物置小屋のようなところに先生と奥さんが住んでいる。梅雨の雨の中、リヤカーを押して先生の小屋に家財道具や酒を運んでくる高山、甘木、桐山、沢村の4人。奥さんが頭を下げる。「上がってくれと言いたいが、私と家内で一杯だ」「いや、必要なものがあれば言って下さい。何でも持ってきますから」「とりあえず、傘をくれないか」高山「この傘を差し上げますよ」「うちの洗面所は新築だが、屋根がないので、今日のような日は困ったものなのだ」焼けたトタン板で四方を囲んだだけの便所がある。「空襲で自宅を焼け出されて、この近くまで来て、この小屋で休んでいると、バロンがやってきたのだ」「バロン?」「男爵じゃよ。この焼けた家の持ち主だ」「男爵がここに住んでいたんですか?」「いや、その門番が住んでいたそうだ。一族・・・」「全て焼けてしまった。私のこの好きな方丈記だけを何とか持って逃げた。鴨長明も都の災厄により、日野山に一丈四方の庵を建て暮らして、この日記を書いたのだ。思えば、この小屋も鴨長明の庵じゃよ。まあ、向こうは風流な水音がしたらしいが、ここは酔っ払いの立ち小便の音しか聞こえないが・・。しかし、立ち小便というのは、幾ら注意をしても、同じ場所にするのが人間の心理らしい」高山「鳥居を描いてもご利益はないようですからね」「そこで、私は工夫をしたんじゃよ。あの壁の向こうだ」4人が雨の中、確かめに行くと、「立ち小便無用」という文字の下に鋏の絵が書かれている。「こりゃ愉快だ」「これは縮みあがるというものだ」大笑いをする4人。突然雷鳴が聞こえる。小屋に戻ると先生の姿がない。奥さんは「こんな時でも、雷よけのまじないの線香が必要なんですよ」と線香に火をつけている。先生は、夏掛け布団を頭から被って震えている。甘木「ようやく、梅雨も明けるようだな・・・」
      いつの間にか、季節は夏になっている。MPが乗ったジープが焼け跡を走って行く。日本は敗戦したようだ。汗を拭きながら、高山たち4人が先生を訪ねて来ている。汗を拭きながら、「人間生きていると物が増えるものだねえ。空襲で全てを失った筈が、気がつくと、こんなに手狭になった」ジョニ黒の瓶「これは、近所の薬屋が作ったものだが、薬用アルコールに色々なものを混ぜてあるのだ」甘木「これは効くなあ」「いつまでも、先生をこんなところに住まわせておく訳にはいかない。我々で何とかしますよ」「おいおい君それはいけないよ」「本当にそうですわ」
   しかし、酒を飲むうちに、珍しく先生は弱気になった。「いや、乏しいながら、戦争中は食糧の配給はあったが、今は全く手に入らない・・・それに、こんな1畳足らずのところで暮らして、つくづく嫌になったよ」高山が「先生!!止めて下さい。先生は仰ったではありませんか。ここは鴨長明の庵だと・・・・」「すまん、年寄りの愚痴だ」思いがけず、弱気な先生の姿に顔を見合わせる4人。小屋で暮らす先生夫婦、四季が移って行く。その光景は美しい。
   4人が再び先生のもとを訪ねている。甘木「先生を囲む会を作ります。先生の還暦から1年。そろそろ亡くなるのかと思っているが、もう1年。まあだかい?まあだだよ、まあだかい?まあだだよ?もういいかい?まあだだよ。いつまでも死なない先生に、そろそろかい?と呼び掛けることで、摩阿陀会と名付けました」
   先生が、背広姿で靴を履いている。「では、行ってくるよ」「行ってらっしゃい」
   ビアホール、先生が座る後ろには「第1回摩阿陀会」という看板が下がっている。数十名の教え子たちが先生を温かい眼差しで見つめている。幹事の高山「還暦の誕生日から1年。毎年、この会を開催して、先生にまあだかい?と呼び掛けましょう」高山「物資厳しい中、諸君のお陰で、色々な物があつまった。今日は大いに飲もう。まずは、乾杯の前に、そこにある大コップのビールを先生に一息で飲みほしていただこう」先生うれしそうに「右隣に座っていらっしゃるのは、私の主治医の小林先生(日下武史)。左に座っていらっしゃるのは、私の葬式を上げてくれる坊さんの亀山さんだ。」小林(日下武史)亀山(小林亜星) も、にこにこと先生を見つめている。「準備万端だというところだが、諸君のもういいかいと言う問いかけに、私はまあだだよと応える」ぐびぐびと大ジョッキのビールを飲む先生。ついには飲み干した。高山「では、乾杯!!!」一同唱和「おめでとうございます!!!」
     高山「では、みんな、酔って訳がわからなくなってしまう前に、一言ずつスピーチを頼む。ただし手短に」北村(頭師孝雄)「スピーチは短い方がいいので・・・先生!ばんさーいい!!」ヤジるものも「おいおい!!いくら短いのがいいと言ってもそれだけか!!」「短いから祝辞だ。長いと弔辞になる」一同爆笑。?「私は口下手なので、気の効いたことを喋れないので、稚内から鹿児島までの駅名を全ていいます。稚内、○○・・・・・・」相当な変わり者だが、みな慣れているようで、駅名を読み上げ続ける?を無視して、次々に挨拶に立つ、教え子たち。「先生は太陽だ!みんなを照らしている」「持ち上げ過ぎだ!!」「いや、だったら月だ。月だから、まん丸い時もあれば、半分になったり、細くなったり、時には無くなったりする・・・」一同爆笑。「出~た。出~た。月が。まあるい、まあるい、まん丸い、ぼーんのような月が・・・」大皿を掲げた甘木が出てくる。歌詞に合わせ、高山、桐山、沢村が背広の上着が雲だ。最後に先生の後ろに立ち、後光が差しているようにかざす甘木。勿論、その間にも、駅名は続いている。
   みんな手に手にビール瓶やお銚子を持って先生にお酌をしようと集まって来る。「一人でこんなに相手をするのは無理だ。ここで、もう一度乾杯をして、あとは各自やろうじゃないか」
    甘木「おいちにをやろう!!」「そうだ!そうだ!」沢村が手風琴を持って前に出る。全員が立ち上がって、並び、前の者の方に両手を掛ける。和尚も急いで立ち上がって行列に加わる。おいちにの歌を先生歌う。みな本当に楽しそうだ。
    小林先生が、先生にビールを注ぐ。駅名は、ようやく「南鹿児島、鹿児島!!終わりました!!」拍手する先生。気がつくと3人を残して、ホールには誰もいなくなっている。不審顔の先生。すると、和尚を先頭に、高山たちが担いだ棺桶(テーブルの上に、テーブルクロスを掛けた人間が横たわっているもの)、みなの行列が入って来る「おお、私の葬式か?!」先生の前まで歩いてくると止まって、棺桶を下す。突然、遺体が立ち上がる。甘木だ。「まああだかい!!?」先生「まあだだよ」全員「まああだかい!!!」「まああだだよ~」その繰り返しはどんどん大きくなっていく。何だろうと道行く通行人が店の入口から覗いている。しまいには、サイレンを鳴らしたMPのジープまでやってきた。あまりの騒ぎに誰かが通報したのだろうか。険しい表情のMPたちは、中を覗き、いい年齢をした男たちの大宴会を苦笑して眺め、笑いながら帰って行った。次々に何事だろうと、入って来る通行人、浮浪者、パンパン・・・。
   再び、高山たちがやってきて、土地が見つかったので、先生の家を建てると言う。恐縮する先生に、戦後の未払いの印税を支払うことで出版社の同意も取り付けたと説明する高山。どういう家がいいですか?という甘木に、先生は庭に池が欲しいと言う。池には魚を多数飼いたい、しかし魚は一方向に泳ぐ習性があるので、小さい池ではグルグル廻らざるをえず、背骨が曲がってしまうと可哀想なので、大きな池が欲しいという先生。敷地の関係で、あまり広い池は作れないかもというと、ドーナツ型の池にして、その上に家を建てればよいという。思案顔の男たち。すまなそうな奥さん。
   いよいよ新居が建った。高山たちに、嬉しそうに庭を案内する先生。ドーナツ型の池を造るために、建物は狭くなったが、「1畳で暮らしていた生活を思うと、ここはまさに“金殿玉楼”だよ」


「みんな、自分の本当に好きなことを見つけて下さい。本当に自分にとって大切なものを見つけるといい。見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。きっとそれは君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう」

    

    48年東宝黒澤明監督『酔いどれ天使(160)』
    黒く澱んだどぶ。メタンガスの泡が浮かんでいる。ギターを爪弾く男が一人。ドブ池に、石を投げるチンピラが二人。
    おんぼろな診療所がある。そこの医師の真田(志村喬)「どうしたんだ!?」ヤクザの男松永(三船敏郎)苦痛に顔を歪めながら「ドアに手を挟まれたんだ。で、釘が出ていたんで…」「ふーん、釘がね…」腕に巻いたネッカチーフを解いて、消毒をしてやる真田。「少し痛いよ…」「うっ!」ヒンセットで、傷口から弾丸を取り出し「つまり、これが釘ってわけか…」「迷惑はかけねえ!つまらねえ出入りがあって…」いきがる松永「駅前のマーケットで松永って言やあ、誰でも知ってるぜ。若けえ者が、時々世話になってるそうだな…」真田「おーい!婆さん!蚊取り線香持って来てくれねえか!……しょうがねえなあ、寝ちまったか…」暑い診療室に風を入れようと、ドアを開けっ放しにしようとするが、なかなか思い通りにならず苛つく真田。「前もって言っておくが、治療代は高いよ。無駄飯食っている奴らからむしり取ることにしてるんだ」「痛えなあ!麻酔薬ねえのか!?」「おめえたちに使う麻酔薬なんかねえ」乱暴に傷口を縫い合わせる真田。松永空咳をする。「風邪だよ…」「一度ちゃんとレントゲンを撮ってみろ。結核の可能性もある」「診てくんねえのか」「」聴診器当てたり、胸を指でトントンやったりしても分かりゃしない。でも医者がもったい付けるためにやるんだ。でも、一応やってやろう」松永の胸を叩き、聴診器を当て、「うーん」「分かんねーのか」「いや、分かる。胸にこれ位の穴が開いているぞ」

    南新町マーケット

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