2009年12月19日土曜日

飲んで飲んで呑まれて飲んで

    早起きをして、同居人と築地市場に出掛け、場内で寿司を食いながら、朝からお銚子を3本空けて、鰹節やら海苔を買い、コーヒーを飲む。予想はしていたが、土曜の築地は場内、場外ともに凄い人出だ。

  京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
     53年新東宝田中絹代監督『恋文(714)』

    タクシーが停まる。真弓洋(道三重三)が降りる。女(関千恵子)に送って貰ったようだ。話をしたそうな?だったが、タクシーは急発進し、女はシートに転がり、顔をしかめる。洋は、自分の下宿に歩きながら、近所の主婦たちに「おはよう」「おはようございます」と明るく声を掛ける。「まあ、朝帰り?」「いえ、仕事の途中ですよ」
   下宿の表札には、「真弓洋」と並んで「真弓礼吉」と書かれている。
   「兄さんただいま」兄の礼吉(森雅之)が部屋の中に洗濯物を干している。「少し寝るかい?」「いや、またすぐ出掛けるよ。兄さん随分洗ったね。僕のシャツなんか洗濯屋に出すから良かったのに。それに、外に干せばいいのに」「いいんだよ、こうするとパリみたいだろ。」「どうして、兄さんは結婚しないんだい?兄さんほどの語学力があれば、受験講義録の添削なんてつまらない仕事でなくていくらでもあるだろう。」「コーヒーでも入れるか?」「もう時間がないからいいよ。兄さんが駅でぼーっと立っているのを見たことがあるよ。そうそう、これが兄さんの原稿と、原稿料3000円です。」慌しく着替え、髭を剃って洋は出かけていく。一人残った礼吉、財布からセーラー服姿の女学生(久我美子)の写真を取り出して、見つめる。
  銀座交差点、行き交う人々を目で追う礼吉の姿がある。渋谷ハチ公前に礼吉の姿がある。「真弓!!」突然声を掛けられる。「ああ山路か!!」兵学校時代の友人山路直人(宇野重吉)だ。「心配したぞ。」「会いたかったよ。お袋が死んで、弟と東京に出て来たんだ。」「四日市から出て来たのか。弟はどうしている?」「古本屋を回って、安く買って高く売っている。日に1000円稼ぐんだ。」「逞しいな。真弓!俺の仕事を手伝わないか? 英語フランス語は俺よりもお前の方ができるからな。」
  すずらん通りの自分の店に、礼吉を連れていく山路。「先生!!先生が帰って来たよ。」待っていたオンリーの女(?)の姿がある。女の米兵の恋人へのラブレターの代筆をしているのだ。近くの古本屋の看板娘保子(香川京子)が客の相手をしている。オンリーの女がアメリカのファッション誌を売りに来ている。「550円ね」「やっちゃん!これ、最新号よ」「もうあるわ」「あんた顔に似合わず、しっかりしているわね。」洋「これ下さい。」「えーと○○と○○と・・・1550円です。」保子の母親(沢村貞子)「1700円だろ、しっかりしておくれよ!!」洋「ここは随分アメリカの新しい雑誌がありますね。どこから売りに来るんですか?立川の女たちが売りに来るのさ。普通は一カ月だけど、飛行機で羽田にもってきた男が女に渡すけど、みんなパラパラ見たら売りに来るんだよ。」何事か思いついた風の洋。すずらん横丁のとんかつ屋の外壁を突然測り始める。通行人は洋が何をしているのかと興味津津だ。
   とんかつ屋の中に入り、女主人(花井蘭子)に「そこの壁を貸して欲しいんです」と声を掛ける。「あんなところ何に使うの?」「商売をしたいんです。月々1万円お支払いします」「えっ???」洋の申し出を理解できない女主人。


     神保町シアターで、女優 高峰秀子
    41年東宝/映画科学研究所山本嘉次郎監督『(715)』
    岩手県の馬市、大層賑わっている。競りが行われている。人混みの中から一人の少女が出てくる。小野田イネ(高峰秀子)だ。最前列で見ていると、同じ村の佐久間善蔵(小杉義男)の馬は、軍馬御用に選ばれ、450円の高値がついた。陸軍の軍馬購買官(真木順、大崎時一郎)は、最もいい場所で馬を選んでいるのだ。
   日も暮れて、小野田家、父の甚次郎(藤原鶏太→釜足)母さく(竹久千恵子)祖母えい(二葉かほる)長男豊一(平田武)次男金次郎(細井俊夫)妹つる(市川せつ子)たちが夕餉を囲んでいると、イネが帰って来た。さくは叱る「どこさ行ってただ」「馬市見に」「あんだ、おどちゃんもおがちゃも、1日働いて手足が棒みでになってるに、おめひとりかってにあそんでばがり …」「かっちゃ、腹減っだよ」「おめにぐわすもんはねっ!!」祖母のえいが「イネ、こっちゃ来う、こっちゃ来う」と声を掛けてくれるが、さくが「ありゃ、雨っこ降ってぎたべ。みんな手伝え。」甚次郎初め皆慌てて外に干してあった笊や筵を運び込む。「イネ、筵さ、厩さ入れろ。」空いた厩を見て、イネ再び「ごのあだりで、馬っこいねのはうぢだげだべ。」さく「ごの間、馬っこ死んだのを忘れてけつかる。馬っこ飼って得したひとは聞いだごどねっ!」「今日は農林大臣賞さ選ばれた馬っこは1200円、善蔵の家の馬っこは、軍馬御用で450円にもなっただ!!」「いいたって、金がねば馬っこ買えねえだ。」さくとイネの親子喧嘩が終わらないので、甚次郎は、豊一に「とよがず、おめ何やってるだ。暗い中でそっただことやってると、めえ悪くすっぞ。」「バスマッドだあ。学校のせんせえに言われで、県の品評会に出品するんだ。」「早よ、寝れ。」
   そこに、善蔵が一升瓶を下げてやってくる。「おばんでがす」「おばんでがす」「おっがちゃん、酒っこ買ってきたぞ」「善さん、軍馬御用で450円で売れたってな。」「んだっす」「あんだ、450円とはたいしたものだっすな。」「この佐久間善蔵の育てた馬に外れはねえのっす。さあ、飲んでけろ。飲んでけろっちゃ」甚次郎「いんや、おらあ、夜なべ仕事さあるがら・・。」「そっか、そっか、ぢゃ、おがっちゃん呑むか?」「でば、いだだぐっす。」「イネおめものむが?」「バガ言うでね。わらしっこに酒飲ましたら駄目だっぺ」と笑うさく。「おがっちゃ、さっぎ、馬っこ飼って得したひとなんかいねっていったでねえか、おがしいよ」イネは膨れっ面だ。
   翌日、学校の庭で、豊一たちは、藁細工を作っている。山下先生(丸山定夫)がそれぞれの作ったものを見て「オメの作っだ藁靴はでかいな。これじゃ、?さんの仁王さんが履くものだか?」みな笑う。「豊一、おめの作ってるのは、バスマットか。ほう、?の紋様を組みこんだのか、こりゃいい出来だ。」そこに、馬を連れた娘が通りかかる。山下「いい馬っこだなや」「花風って名前だで」「あんれ、お腹さ大きいでねが。サラブレットかい?」「いんや、アングロノルマンだべ」「ノルマンは足腰が強いので軍用にも向いとるからなあ」「冬の間面倒見てくれる人を探しとるだ。」豊一「うちで預からせてもらえねえべか?」
   甚次郎は、組合長に呼ばれる。冬の間花風の面倒をみてくれというのだった。甚次郎は前飼った馬を死なせているので躊躇するが、産まれた仔馬をくれるというので、預かることになった。さく「やっぱ、おら、馬っこ好かねえな・・・。」
   甚次郎が、春風に荷馬車を曳かせていると、向こうから花嫁行列がやってくる。この地方では、馬の上に俵を二つのせ、そこに花嫁を乗せて行くのだ。付き添いの村の衆が、甚次郎を見つけて走り寄る。「甚次郎さ、酒っこ呑め!」「目出度い日だ!飲んでけれ!飲んでけれ!」逃げるが、囲まれて皆からどんどん注がれて飲まされる甚次郎。
   家で甚次郎が寝込んでいる。無理矢理飲まされて酔っ払った甚次郎は後ずさりした花風に下敷きになったのだ。しきりと寒気を訴える甚次郎に布団を何枚も掛けるさく。幼い金次郎とつるは心配そうに見つめる。「だから言っだごどでね。あの馬は疫病神だ!」「おがっちゃ、花は何も悪ぐねっ、おどっちゃが、酒っこ飲まされで、酔っ払ったからいけねえのさ」医者を呼ぶ金がないので、祖母のえいが呼んできた拝み屋が「生霊がついとる。4つ足の生き物だ」「やっぱり馬っこだ・・・。だから、おらは嫌な気がしたんだ」と納得するさく。
  しかし、医師が来て甚次郎を見て、すぐに手術をすることになった。弟や妹を連れて外にいろと言われイネが遊んでいると、盥いっぱい血が出たという。しばらく寝ていれば良くなると医者は言ったが、なかなか甚次郎は起き上がれなかった。
  正月が近付いたが、医者代もかかり、借金が膨らみ小野田家は、正月の準備も出来ない。寝ている甚次郎とさくが困ったと話していると、郵便やが為替を届けに来る。借金の督促状じゃないかと怯える両親に、豊一は判こを貸してくれという。東京の駒澤民芸館というところからの封書を開けると、展示していたバスマットが評判になり、買いたいという注文が殺到し、3月1日までに100枚送ってほしいというのだ。手付け金として30円の為替が入っている。郵便為替など初めてみた一家は大喜びだ。正月を迎えられることになったのだ。

  天才子役高峰秀子が女優に生まれかわる瞬間のような作品だ。昨日観た「華岡青洲の妻」といい凄い女優だ。

  銀座で、N氏と1時間ほど打合せをして、
  京橋フィルムセンターに戻り、
  74年東京映画中村登監督『三婆(716)』
  昭和38年初夏、北沢にある武市家の屋敷、早朝に電話が鳴る。武市松子(三益愛子)起きて電話を取る「もしもし武市でございます。まあ、重助さん!!何です、こんな早く。えっ!!旦那さまが倒れた?どこで?ご不浄ですか」お手伝いの花子(小鹿ミキ)寝ぼけ眼でトイレに入ろうとしていたが騒ぎに振り返る。
  武市の妹のおタキ(田中絹代)「えっ兄さんが?北沢の家じゃなくて、あの妾のうちなの?」
  武市の遺体の前で、妾の富田駒代(木暮実千代)が泣いている。葬儀屋(細井利雄)が運び込んで来る祭壇などを押し止める瀬戸重肋(有島一郎)「こちらの奥様が、祭壇は松にと仰ったものですから…」「とにかく帰ってくれ!!」駒代に「世間の常識ってものがありますから…」「ああた、世間の常識って言っても、私は旦那さまとは、30年間お仕えして。月の半分はこちらにいらしていたんですよ。」
   社員が重助に「専務!!ご本宅の奥様がいらっしゃいました」突然君代立ち上がり?を出迎え「まあまあ奥様。この度は私が付いていながら…」「この度は、色々お世話になって、主人に変わってお礼を申し上げますわ。旦那さまは?」「こちらです。いえね、重助さんが慌てて葬儀屋さんに呼んでしまいまして…。私はご本宅でご葬儀を上げるのが、世間の常識だと、何度も申し上げたんですがね…。」唖然として、口をパクパクする重助。仏前でおタキが泣いている。「おタキさん!!」「お姉さん!お風呂に入る前に冷たいビールを飲んだのがいけなかったんですって!」「お風呂場で倒れたの?ご不浄じゃなかったの?重助さん!!」睨まれた重助肩をすぼめる。再び社員が「専務!!大変です」「あとにしなさい!!」「今事務所から電話で、社長が亡くなれば、会社は潰れるだろうから、今のうちにちゃんとしてくれと、債権者が押し掛けて大騒ぎになっているそうです」
   駒代「キミさん!!キミさん!!着替え手伝っておくれ」「喪服ですか」「喪服は通夜の時でいいわよ。奥さん、こんな時にあんないいお召し物着ていらして!!」
   武市の写真に向かって重助「社長!!ずっとお仕えして参りましたが、エラい時に亡くなりましたね。私お恨み申し上げます。あのお三方をどうしたらいいのか、見当もつきません…」
   3ヶ月後の夏。武市の屋敷、
   「本当に重助さんには、ずっとお世話になりっばなしで…」「結構なお庭でございますね。社長の唯一のご趣味でございましたから…」「もう一つありましたわ…」「はあ…」「しかし、渋谷と神楽坂と縁切り出来て、本当にスッキリしたわ。あの人が死んで1ヶ月。私1貫目も太ってしまったの。これから命の洗濯に温泉にでも行って、ゆっくりしながら、これからの自分の人生考えようと思うの」華やいでいる?に呆れながら、「私は、今日の夜行で鳥取に帰らせていただこうと思います。」「ああ娘さんがいたわね」「のんびり余生を過ごそうと思っております」

  邦画低迷期の作品だが、三益愛子、田中絹代、木暮実千代の三婆女優凄いなあ。唸るほど嫌みたっぷりの老醜を楽しんで演じているのは、気持ちがいいほどだ。ゲテモノのような大御所の怪演に、テレビドラマ風の清涼感を出しているのが小鹿ミキだ。原作は当時読んだが、50を過ぎてようやくフラットに笑えるようになった。実際の3人の晩年は三者三様のようだが、本人にとってどうだったかは、天国にいる三人にしか分らないだろう。老人がどこかに収容され集められるのでなく、こうして一緒に暮らす生活はいいなあ。人との口喧嘩も活力だろうし・・・。ただ、自分は我儘放題の三婆に仕える有島一郎的な役割しかできないだろうが(苦笑)

   その後、阿佐ヶ谷で、日本フリーランスクラブの忘年会。よく考えてみると、クラブの会費を払う訳でもなく、見本市に出展する訳でもない。よく言えば客分、まあ普通に言えば、ただ飲み会のみに参加して、人一倍飲む迷惑な奴だ。若いクリエイティブ系の人の名刺は、文字が小さくて本当に読めない。聞いた名前も、すぐ忘れてしまうので、本当に悲しい。もう一軒顔を出すつもりだったが、気がついたら家の近く。酒に溺れる初老のオヤジでしかないんだな(苦笑)

2009年12月18日金曜日

雷蔵4連発。

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭
   55年大映京都溝口健二監督『新・平家物語(710)』
   800年前、平安朝末期、一部の貴族や寺院に租税免除の領地、すなわち荘園を認めたことで、国の収入は減り、世は乱れた。正そうとした白河上皇は、そうした領地を召し上げようとしたが、貴族や寺院はまだ幼い帝を突き上げて、自分たちの利権を守ろうとしたため、権力は、帝と上皇の二重構造となった。保延六年、1137年京の都が舞台である。市が立っている。今日も米の値が上がり、女たちは、以前の値段で売ってくれと頼むが商人たちは聞く訳もない。戦が始まると刀や武具を売る者、ここの者はみな不安を感じているのだ。「西方征伐から、平家が帰ってきたぞ!!」と叫ぶ者があり、人の流れが変わった。西方で荒らし回っていた海賊を治めに行っていた平?の軍勢の行列だ。道の反対から、比叡山の僧兵たちの行列がやってくる。桓武以来の帝を安置し、また祈祷をする叡山はかなりの僧兵を組織し、権勢を欲しいままにしていた。当時、武士は地下人であり、公家、寺院の番犬と蔑まれていた。

   溝口らしからぬスペクタクルなモブシーンの数々。大作映画の醍醐味は、やはり大映にあったのか。決して歴史に残る傑作とは言えないかもしれないが、日本映画のスケールを認識する上で、凄い規模の作品だ。

   61年大映京都森一生監督『新源氏物語(711)』
   帝のお使いが出たと女御たちが騒いでいる。今宵の相手を呼びに行くのだ。「半年もお召しがない…。」「今宵も、藤壺の君だわ」「帝にあれだけ申し上げたのに…。」「あの女も女じゃ」「身分の卑しいくせに、わきまえもせず。」
   藤壺(寿美花代)が女御に伴われ、帝の寝所に出向く途中、異様に臭い部屋に閉じ込められる。腐った魚の油が撒かれた部屋で滑った藤壺は着物を汚す。心無い女たちからのイジメに泣く藤壺。
   それでも、藤壺への帝の寵愛は続き、帝の子を身ごもった。訪ねてきた母親に、こんな恐ろしいところで御子を産みたくないと泣いてら実家に帰る藤壺。珠のように美しい男子光の君を産んだ。帝は、光の君に、源氏と言う姓を与え臣下とした。しかし、産後の日立ち悪く藤壺は、光の君の行く末を案じなら亡くなった。
   宮中に、美しく成長した光源氏(市川雷蔵)の姿がある。女官、女御たちは、うっとりとその姿を見つめる。しかし、光源氏は、美しく女性の姿に目を奪われる。帝は、藤壺への想いを断ち切れず、藤壺に生き写しの桐壺の君(寿美花代)を寵愛していると言う。母の藤壺の生き写しと聞いて、桐壺に強い憧れを覚える光源氏。


   58年大映京都市川崑監督『炎上(712)』
   京都府警の取調室、「溝口吾一、21才、古谷大3年、京都市下京区究円寺。それなら、修閣寺の大事さわかっとるやろ。近くの裏山で、睡眠薬を飲み倒れているところを発見され病院で胃洗浄され、また胸に二カ所の刺し傷があったと…。究円寺の徒弟なら、国宝の驟閣を焼くことの大変さは分る筈だな。」何も喋らない溝口。「お前な、今日は、検事さんも刑事部長もいらっしゃるんだから、すっきりしてしまえ」検事(水原浩一)「黙秘権か?憲法が変わってからの制度だが、初犯なのに、どうして知っているんだ。誰かに聞いたのか?」
   数年前まだ戦中のこと、詰め襟を着た溝口が、究円寺の巨大な山門の前にやって来る。食事の支度をしていた典座(大崎四郎)が、出てくると手紙を渡す溝口。そこに副司(信欣二)が帰ってくる。典座「老師宛てのお客さんだっせ」副司は、その手紙を受け取り、老師さまには私から話をしようと言う。田山道詮老師(中村鴈治郎)は、化粧水を顔に塗り鏡を見ている。そこに、徒弟が食事を運んでくる。化粧用具一式を隠す道詮。その後、副司がやって来る。「この手紙が届きました」鋏で封筒を切り手紙を読む老師。「この者は?」「すぐそこに待たせてあります」「直ぐに呼びなさい」「そうか、溝口の息子か…。君のお父さんとは、修行を一緒にしたのだ。そうか…亡くなったとは知らなかった。胸の病か?」頷く溝口吾一。「この手紙が遺書になってしまったのか…。分かった。心配しなくてよい。君のこれからは私が責任を持つ。お父さんの願い通り、徒弟として、ここにいればよい。」深々と頭を下げる吾一。
   副司が吾一に「いつまでここにいるんだ。控えなさい」と退けた後、老師に詰め寄りまくし立てる。「この寺の細々したことは、本寺から私に任されていることではありませんか
。例え徒弟とはいえ、私に相談もなく、今の若者を取るとは、如何なものですか!!今日?に赤紙が来て、子供以外どんどんいなくなるこの寺の後継を考えなくてはなりません。先日私の倅を徒弟にとお話した時に老師は了解しなかった。それなのに父親が同拝と言うだけで決断されるとは納得が行きません!!」「確かにこのご時世、この寺は年寄りと子供だけになっている。しかし、知り合いの子供だからと言って後継になどと私は考えたこともない。適任者がいなければ、ご本山にお返しするだけです」副司落ち着いて、「お見苦しいところをお見せしました。こんなことで興奮する私は、人物が出来ていないのです。申し訳ありません。」

   67年大映京都増村保造監督『華岡青洲の妻(713)』
   加恵が初めて、於継(高峰秀子)の姿を見たのは8歳のことだった。乳母のたみ(浪花千栄子)と一緒だった。華岡家の嫁の於継は、美しいだけでなく世にも賢い女やとみな褒め称えていた。ところが、於継の夫で外科医の華岡直道(伊藤雄之助)は身だしなみに拘らず、腕はいいが変人だと思われていた。しかし、加恵の隠居した祖父(南部彰三)は、直道の法螺話を喜んできいていた。「ほんまにあんたと於継さんは月とすっぽんやな。」と祖父が言うと、直道は笑いながら「随分前からワシは於継に目をつけていたが、大地主の箱入り娘、貧乏医師のわしが貰える訳もなかった。しかし、あれが16の時、重い皮膚病になり、あらゆる医師に見せたが直すことはできなかった。そこでワシは紀ノ川を渡ったんや。もし、この病を治したら嫁にくれと言って乗り込んだ。もちろん、自分には大阪で学んだ南蛮医術を使えば治すことができると思っていた。自分の腕で、ワシはあれを手に入れたんだ。」豪快に笑う直道。「お前さんの自慢話を聞いているのが、私の体に一番いいようだ。」しかし、祖父は暫くして亡くなった。脳溢血だった。
   その祖父の葬式で私は再び於継を見た。焼香に現れた於継に見とれる加恵。じっと見ていると、眼が合ってしまい、眼を反らす加恵。
   それから、3年後の晩春、於継が、加恵の家を訪ねてきた。地侍を束ね、大庄屋を務める妹背さまとしては、身分違いだと思われるかもしれませんが、こちらの加恵様をうちの雲平の嫁に頂きたくお邪魔させていただきました。

紀伊国近郷地頭頭、大庄屋妹背佐次兵衛(内藤武敏)妻(丹阿弥谷津子)加恵(若尾文子)乳母(浪花千栄子)嫁雲平(市川雷蔵)妹於勝(原知佐子)

   夜は元会社の同僚たちと忘年会で、新宿手羽先。

2009年12月17日木曜日

子供は難しいなあ。

    ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第50弾】叶順子
    60年大映東京田中重雄監督『誰よりも君を愛す(706)』
    共立テレビKTVの本社前に局のハイヤーが停まり、ディレクターの半沢明人(本郷功次郎)が降りてくる。編成局では騒動が持ち上がっている。制作部員たち(早川雄三、杉田康)が騒いでいる。「野郎が盲腸で、番組飛ばすってのは聞いたことはないが、女はよくあるよな。下手すりゃ、盲腸なのに産婦人科に何度も入るのまでいるからな…。弱ったもんだ。半沢はまだ来ていないか?安藤!!」番組プロデューサーの安藤雄三(菅原謙二)「あっ今来ましたよ!!半沢!!江崎美恵子が盲腸で入院だ。」「えっ、盲腸なら薬で散らして…」「無駄だよ。」「あと、本番まで3時間半か。弱ったなあ」そこに、番組スポンサーの志摩化粧品の社長令嬢の志摩美加子(野添ひとみ)がやって来る。「今日のゲストの江崎美恵子が来なくなったんでしょ、局長から聞いたわよ。どう?ピンチヒッターとして私?局長さんにはOK貰ったわよ。」「いくらスポンサーの娘でも…」と半沢。「ねえ!!安藤くん、プロデューサーとして口を聞いてよ!!」既に半沢には心当たりがあるのか、受話器を取り「もしもし、羽田航空事務所?」
    羽田空港、スチュワーデスの森砂江子(叶順子)が同僚の木南優子(江波杏子)と、飛行機を降りてくると、半沢が「森砂江子さんですよね。今から一緒に来てくれませんか?」と突然声を掛ける。砂江子は驚いて「何でしょう?」「あなたはどなた」と優子に尋ねられ名刺を出す半沢。「テレビ局の人ね」「今からテレビの生放送に出て欲しいんです。勿論、会社の了解は貰っています。」「えっ私困るわ。」優子は「何だか知らないけど、行ってらっしゃい。面白そうじゃない。悪いことするような人には見えないし…。」と言って、砂江子の背中を押す。慌てて、砂江子を局のバイヤーに押し込み、局に向かう。「番組は、お色気禅問答というもので…」と説明を始める半沢。「お色気とか困ったわ。わたくし恋愛の経験もないし、そういうのとっても苦手なんです…」半沢、運転手(三角八郎)に「急いでくれよ!!」と声を掛けると、「半沢さんは美人と道行きだからいいけど、私は一人ですからね」と答える運転手。
   「お色気禅問答」の生放送中。スチュワーデスの制服姿の砂江子に西光和尚(左卜全)はご機嫌だ。「近頃イカスなんて言葉が流行っているが、色気とセックスアッピールとはちょっと違う。」「女だけではなく、男の方にも色気と言うのはありますか?」「2枚目と言うのとは少し違うな。では、私のように容姿の悪い年寄りでも、あなたには求愛できると言うことかな」「でも、私古い考え方かもしれませんが、結婚に繋がらない恋愛なんて意味がないと思ってしまうんです。だから、私にとって、恋愛は人生で一回限りです。もし、私の恋愛が破れた時には、一生恋愛とは関係のない生活を送ると思いますわ…。」安藤が「いいじゃないか!!」と独り言を言うと、隣に座っていた美加子が、安藤の腿をつねる。
   喫茶店、砂江子「本当に成功だったのかしら」半沢「お世辞抜きで、太鼓判を押しますよ。僕の目に狂いはなかった。」「そこまで言っていただければ、安心しました。でも、半沢さんは私のこと、どうしてご存知なんですか?」「僕を覚えていませんか?これでも三回お会いしていますよ。」「えっ、お客様だったんですか。」「ひどいなあ」「私、全然覚えてなくて、ごめんなさい。」「上着にコーヒーをこぼしてしまったら、一生懸命拭いて下さったんです。」「覚えていませんわ」「それが、二度目で、一回目からきれいな方だと思っていました。それから仕事で飛行機に乗る度に、あなたに会えないかと思っていました。」
   中村不動産、かね(沢村貞子)、正面のガラス戸に貼ってある物件の案内を張り替えている。砂江子「ただいま。」「遅いわね、さっきまで、進藤さんあんたを待っていたんだよ。」「仕事の後、お友達と銀座に行ったの。はい、お土産。」二階の自分の部屋に上がり、鼻歌を歌いながら、ラジオのスイッチを点ける。「誰よりも君を愛す」のメロディーが流れる。「うっふっふっふ」思い出し笑いをする砂江子。「コーヒーを上着に零して…」半沢の言葉を思い出して「おかしい人、うふふっ。」
   昼間のホテルの一室。進藤恭次郎(川崎敬三)と片桐のり子(左幸子)がベッドの中にいる。「いつまでも、こうしていたいわ」「親父にバレるとヤバいぜ」中村不動産に電話をし「では、今晩。必ず砂江子さんを連れてきて下さいよ」と話すのを聞いてのり子「砂江子さんって誰?」「スチュワーデスさ」「美人そうね」「スペシャル美人さ」服を着始めるのを見てのり子「ねえ、帰るの?」「君だって会社に帰らなきゃならないだろ。昼休みは終わったぜ。君に付いていられちゃ、俺の計画はパアだ。泣いてくれよ」札を放り投げ、「これでおしまいだ。じゃあな」
    進藤、長谷川宝石店に入る。マダムの池令子(角梨枝子)「この頃ちっとも来てくれないじゃないの」「マダムも体を持て余しているみたいだな」と体を弄る進藤。女店員たち、顔をしかめる。「お店の示しがつかないじゃないの」「もうバレちまったんだからいいじゃないか」と声を掛け抱き寄せ、キスをする進藤。令子を抱いている隙に、店に飾ってあった大振りのダイヤの指輪を自分のポケットに入れる進藤。
   ナイトクラブに、半沢が局長の遠山(北原義郎)に連れられやって来る。「君にとって悪い話ではないじゃないか。志摩化粧品の一人娘。君の前途は約束されたようなもんだ。結婚相手は大事だぞ。私なんか、つまらない恋愛で結婚してしまったから・・・。」別のテーブルに西光和尚がいて大勢のホステスに囲まれてご満悦だ。遠山は「ちょっと、ご機嫌伺いに行ってくる。」
   他のテーブルには進藤とかねがいる。かねは、テーブルの下で、靴を脱ぎ捨て、足が痒いのか、左右をこすりあわせている。「下田に鉄道が走るのは決まっていますから、値上がり確実な物件なんですよ…。」「砂江子さんは本当に来るんでしょうね。」「そりゃ勿論ですとも、勿論ですとも!」「で、幾ら必要なんです。」「5万6千坪ありますので、四千万を、お父様にご融資いただけますと…。」そこに砂江子がやってくる。「砂江子、遅かったじゃないか。いえ、この子は恥ずかしがっているだけですよ」進藤、いきなり指輪を出して、「君のために作らせたんです。」「いえ、こんな高いものいただけませんわ。」「あらあ、これはダイヤモンドじゃございませんですこと。素晴らしいわ!」自分の指に嵌め、うっとり眺めながら、「砂江子、頂戴しておきなさい。」「貰って下さい」「いただけません!」「では、あたくしが代わりに頂きますわ。いっいえ、あたくしがお預かりしておきますわ。」進藤は、強引に冴子をダンスに誘う。「僕はあなたを愛している。だから結婚して欲しい。」
   抱き寄せようとする進藤と必死に抵抗する砂江子。二人が踊る姿を見て、気が気でなかった半沢は「失敬じゃないか」と声を掛ける。「まあ」地獄に仏の砂江子、「失礼します。」と進藤に言って店を出て行ってしまう。砂江子を追って出ていく進藤と、不安になって後を追う半沢。車の行き交う道を渡る砂江子を追って車道に出る進藤。車に撥ねられそうになり、「危ない!!」と叫んだ半沢は、進藤を止めて歩道に転ぶ。「邪魔しやがって!」と忌ま忌ましそうに吐き棄て、進藤は去った。
  すると、砂江子が現れる。半沢「いたんですか?」「すいません、あたしのために・・・。」「君が誤ることないんです。」「あら血が・・」平気ですという半沢の怪我をした手に、ハンドバックから取り出した白いハンカチを捲く砂江子。「わたくし、感動しているんです。それなのに、あの人ったら助けていただいたのに、お礼も言わないで・・・。」「いいんです。それよりも歩きませんか?」一人取り残されたかねは帰ろうとするが、靴が見当たらない。ボーイに「私の靴がないんですよ。私の靴が」当惑するボーイ。
  スタジアムの裏のようなところで、「静かね。」「僕はここが好きで、仕事でむしゃくしゃするとここに来るんです。」「とても素敵なところね。」「僕は、学生の頃から人とうまく交流ができなくて孤独でした。“堅物”とあだ名をつけられた程です。同じ大学だった進藤は何かと僕を目の敵にしてからかうんです。」「人とうまく交流できないのは私も一緒ですわ」「そんなこと。」「両親を亡くして、叔母に育てられた私は、友達もいませんでした。いじめた同級生を見返してやろうと思って、スチュワーデスになったんです。私たち、似た者同士ですわね。」「あんな奴にあなたを渡せるものか!!! つい無理なことを言って、失敬しました」「いえ、私うれしいんです。」見つめあい、キスを交わす二人。
  自分の部屋で、砂江子がうっとり昨晩のことを考えていると、かねが上がってくる。「砂江ちゃん、進藤さんからまた届けものがあったよ、いい加減了解してあげなよ」「叔母さん、お金儲けのために、私を結婚させようというんでしょ」「違うよ、あんたの幸せを思って」「なら、お断りして。」「何を言うんだいこの子は。こんな高価なダイアモンドをくださったんだよ」「こんなものいりません」と投げる砂江子。「何をするんだい。ああもったいない」
そこに下から不動産屋の事務員が声を掛ける「お嬢さん!電話ですよ」「はーい。砂江子です。まあ半沢さん!!結構ですわ、私今日お休みなんです」「じゃあ、6時に例の喫茶店で」
電話を置いた半沢に、安藤が「女ってのはな・・」半沢「何度も聞かされていますよ、奥さんにプロポーズした時に、OKしてくれなければ、何をするかわからないっていったんでしょ」爆笑していると制作部員(杉田康)が「おい半沢!局長が呼んでいるぞ!」と声を掛ける。
  局長室「今、志摩さんから電話があって、お嬢さんの誕生日にパーティーがあるので、ぜひお前を招待したいと言ってるんだ」「いつですか?」「今夜だ。仕事なら他の奴に代わってもらって、今夜ののところは、とにかく行ってくれよ、俺の立場もあるし・・」と押し切られる。
  待ち合わせの時間を過ぎても現れない半沢に砂江子が不安になり始めると、ウエイトレスが声を掛ける「森砂江子さまですね。先ほど半沢さまからお電話があって、急用が出来てこれなくなったとのことです」その頃、志摩家を訪ねた半沢。屋敷には美加子しかいない。「パーティじゃなかったんですか?」「パパはお妾さんと箱根の別荘、お母さまも・・・。お客様はあなただけです」ステレオを流し、部屋の灯りを暗くする美加子。
   寂しく喫茶店を出て砂江子が街を歩いていると、「砂江子さ~ん」と呼ぶ声がする。振り返ると、オープンカーに乗った進藤だ。「お乗りになりませんか」「いいえ結構です。「お送りしますよ。半沢のことでお聞かせしたいことがあるんです。」半沢と聞いて、動揺した砂江子を無理やり助手席に乗せる進藤。「今日、半沢は来なかったでしょう。半沢は僕の従妹に呼ばれているんです。恋愛関係にあって、近々婚約することになるでしょう。そんないい加減な奴なんです半沢は!」ショックで呆然自失の砂江子が我に返って「どこを走っているんですか?道が違うわ。降ろしてください!!」「面白いところへご案内しますよ。すぐ近くです。僕の友人たち、怒れる若者たちではなく、イカレタ若者たちですよ。」
  とある屋敷の地下室のようなところに、楽器を演奏する者、ダンスを踊る者、壁にへんてこな絵を描く者など、男女が入り乱れて騒いでいる。進藤が「諸君!!スチュワーデスの森砂江子さん。どうぞ、こちらへ。」ヒューヒューと囃し立てる若者たち。「お酒でもお飲みになりませんか?」「いえ、私は飲めませんの・・」「じゃあ、ジュースでも」「ええ」進藤は、砂江子のコップのコーラに睡眠薬を混ぜて、渡す。若者たちはゲームをしている。「負けた人間は質問に本当のことを答えなければならないんです・・・・。」馴れない雰囲気に飲まれている砂江子。ゲームに負けた娘が真ん中に立っている。「あなたはバージンですか?」「いいえ」「失ったのはいつでしたか?」「16歳の時でした」囃し立てる若者たち。「相手は誰ですか?」「ママの知り合いの学生でした。」「どうでしたか、ママがとても怒って、私を寄宿舎にいれたので、その学生とはそれきりでした。」「次の相手は誰ですか?」「物理の先生です・・」呆れて声も出ない砂江子は、喉が渇きジュースを飲む。その姿を見て、ニヤリとする進藤。
  同じころ、半沢は、美加子に「好き!!」と抱きつかれていた。抵抗しながらも、スポンサーのお嬢さんに「今夜は泊って行って!!女の私に、ここまで言わせて平気なの」とまで言われて動揺する半沢に無理矢理キスをする美加子。すると突然灯りが点き、進藤と仲間たちが、歓声を上げて入ってくる。半沢は、その中に、砂江子の姿を見つけて愕然とする。進藤に「こんな茶番を考えたのは君だろう馬鹿にするな!!!」と怒鳴って家を出て行く。その時、既に砂江子は、進藤に飲まされた睡眠薬が効いてフラフラだった。怒りに燃えた半沢は気がつかなかった。気を失った砂江子を寝室に運び、鍵を閉める進藤。ベッドには、砂江子の着ていた服が散乱している。
  翌日、羽田の更衣室、鏡の前に立つ砂江子の顔色は青白く、苦悩に満ちている。外から入ってきた優子が「あんたの彼氏来てるわよ。どうしたの何かあったの?」会いたくはなかったが、半沢の前に立つ砂江子。「心配で、僕は眠れなかったよ。どうして君はあの場所にいたんだ。納得できるような話を聞きたいんだ。」「納得できるお話ができなくなってしまったの・・・。」泣く砂江子。「どうしたんだ。何があったんだ。」泣く砂江子を尚も問い詰める半沢。「わたし、喫茶店であなたの伝言を聞いたわ・・・。帰ろうとして歩いていたら、進藤さんに声を掛けられて・・・。そのあとは、何が何だか自分でもわからないの・・・」「それじゃ納得できないよ」「納得してもらえないわ。私には、あなたにあげられるものが何もなくなってしまったわ・・・」泣き崩れる砂江子。「後の祭りさ、いうことは何もないよ」半沢帰って行く。
  進藤コンツエルンの会長室、進藤が来ている。会長秘書ののり子が入ってくる。「久し振りだな」「妊娠したのよ、私」「本当か!!」「びっくりするのね、あなたでも」「冗談はやめろよ」「本当よ、今度は・・・」「じゃあ、これでいいだろ」とポケットから金を出し放り投げる。「今度は、私下ろさないわ、この4千円が父親の責任って訳?」「父親なんてそんなもんだろ」その時会長の進藤竜太(武田正憲)が入ってくる。「また小遣いのおねだりか」机に放り投げてあった金を慌てて隠す進藤。「いつまでもブラブラしていないで、ちゃんと働きなさい」「パパ、今日はいい話を持って来たんだ。今度、伊豆に鉄道が通る別荘地があるんだ・・・」
   酔った半沢を連れて例のクラブに連れてくる安藤。「彼女がそんな人だとは思えないけどなあ。」ホステス「何だか、こちら荒れてるわね。」「この店のサービスが悪いって文句を言っていたんだ。」「あらまあ、こっちにとばっちり?そうそうニューフェイスを紹介するわ。こちらのり子さん」「よろしくお願いします。」会長秘書だったのり子だった。
  タクシーが止まり、隅田川に駆け寄って苦しい息をする半沢。駆け寄ってきて「気分が悪いの?大丈夫」と背中をさするのり子。「帰れよ!」「心配だわ。」「臭い川だな。私の向島の出身なの。大川の臭い、懐かしいわ・・・。あなたの気持ち、私、判るわ・・・。私、進藤に捨てられたの・・・。子供が出来たからよ。進藤はそんな男、砂江子さんの体だけが目当てよ。傷つく砂江子さんかわいそうだわ。」「砂江子と進藤の話はやめてくれ」「私帰るわね。わたし・・・これでも元はタイピストよ、落ちたものね・・・」
   進藤が令子の宝石店に入ってくる。「駄目よ、駄目、お店じゃいけないわ」店内であからさまに令子を抱きながら進藤は「あーあ。この顔見飽きた。その点、砂江子は新鮮でいい・・・」と考えている。令子「ねえ今夜会えない?」「忙しいんだ。」真珠のネックレスをポケットに入れようとする進藤。「駄目よ、お店の品物よ。この間、大きなダイヤの指輪持って行ったでしょう。大変だったんだから。でも、そのネックレスをいいわ、あげるわ」「なんで?」「インビテーション!!」「何だ偽物か・・・。」

  池袋新文芸坐で、名匠清水宏
  59年大映東京清水宏監督『母のおもかげ(707)』
  隅田川沿いの公園。子供たち。鳩を飛ばす少年がいる。少年は走って家に戻る。家の向かいの大木豆腐店で豆腐を作っている細君ふで(村田知栄子)が、娘の慶子(南左斗子)に、もうご飯できているんだろ声を掛けな!という。そうねと向かい住む瀬川定夫(根上淳)の部屋を覗くと、定夫が掃除をしている。「私がするわよ。」「天下のファッションモデルにそんなことやらせられないよ。」「いつものことじゃない。ご飯出来てるわよ。お父ちゃんの話どうなの?4お兄さんを決めると30件目だと張り切っているわよ。」「うーん」「道夫ちゃん、早くしないと学校遅れるわよ!」豆腐屋で朝食をとる。定夫と道夫。一足先に済ませた定夫に、「お父ちゃん、待ってよ!!」橋を渡る定夫に追いつく道夫。「お前、お母ちゃん欲しいか?」「僕のお母ちゃんはいるじゃないか・・・」

  隅田川の水上バスの運転手の瀬川定夫(根上淳)は、半年前に妻を亡くし、息子の道夫(毛利光宏)と二人暮らし。向かいに住み、豆腐屋を営む叔父の大木恭介(見明凡太郎)と、ふで(村田知栄子)夫婦と娘でファッションモデルの慶子(南左斗子)に炊事洗濯掃除などやってもらっている。叔父は、定夫の後妻を、仲人30件目にしたいと張り切り、病院の炊事婦の高田園子(が、コブ付きだが、器量も性格もいいのでなんとか纏めたいと、無理矢理その日の夕方に見合いをセッティングする。
    仕方なしに会うだけだと言いながらも、定夫も床屋に行き、園子も一旦帰宅し着替えて喫茶店にやってくる。叔父は、二人でざっくばらんに話せと帰ってしまう。最初は気まずかったものの、おでんやで酒を飲み、寄席で、林家三平の落語を聞くうちに、お互い憎からず思うようになる。園子の家まで送る定夫。病院の調理場で世話になっているお藤夫婦(清川玉枝、南方伸夫)の二階に間借りしているのだ。園子の娘のエミ子(安本幸代)は既に眠っていたが、その寝顔を見て定夫の気持ちは固まる。
   問題は、息子の道夫の気持ちだ。道夫は、亡くなった母ちゃんの写真と、母ちゃんが買ってくれた伝書鳩をとても大事にしている。慶子は、両親から話を聞いて、子供同士の見合いをしたらどうだろうと提案する。自分が出演する最新モードのファッションショーが開かれるデパートに、道夫とエミ子を呼んで、お好み焼屋で食事をする慶子。

  58年大映東京清水宏監督『母の旅路(708)』
   タイガーサーカスのテント。楽隊が街に宣伝しに出掛けて行く。笹井京子(三益愛子)、「しっかりやって来ておくれよ!!」と声を掛ける。京子は、紅梅と言う名前で空中ブランコ乗りだった。娘の泰子(仁木多鶴子)がユリ(紺野ユカ)と空中ブランコをしている。有原清(伊沢一郎)が「やっぱり血は争えないな「父ちゃんいない?」京子「また、神経痛が痛むってさ。」
   考え事をしている晋吾(佐野周二)、京子の夫で、サーカスの団長である。京子「どうしたんだい?」「箱根を越えるのは初めてだ。明日が親父の命日だから、泰子を連れて墓参りをして来ようと思うんだ。」「そりゃいいよ。死に目にも会えなかったんだ。」
    笹井家の墓に行く。晋吾と泰子。「お線香を上げるのは父さんくらいしかいない筈なんだ。」しかし、花が手向けられ、きれいになっている。案内してきた老人は「ああ、命日の度に、伊吹さんの奥さんがいつもいらしています。」と説明する。驚きながらも「泰子、花を供えなさい」と晋吾。寺の本堂で、読経する住職の後ろに、伊吹和子(藤間紫)がいる。やって来た晋吾は和子に軽く会釈をする。
   伊吹邸、和子が晋吾に話している。「お父様が亡くなられてから、随分探したんですが、見つからなかったので、遺言に基づいて、わたくしが今までお預かりしてきましたが、やはり晋吾さんにお返ししなければならないと思うんです。」「いえ、私は放蕩の末、勘当された身の上ですから、今更…。」「しかし、そのことも、元はと言えば、わたくしが悪いのです。」「そんな昔のこと」「私は荒れて、満州の奥で病気になって死にかけていた時に今のサーカスの団長に助けられ、その後、団長の娘と結婚したんです。だから今更…」賑やかな声が聞こえてきて晋吾が隣室を覗くと、和子の娘の光代(金田一敦子)が弾くピアノの合わせて泰子が皿回しをして、光代の弟の春夫(鈴木義広)に見せている。思わず「泰子、止めなさい!」という晋吾。
  


三郎(柴田吾郎)国男(浜口喜博)信男(伊藤直保)かおる(南左斗子)佐吉老人(伊達正)里見(花布辰男)松木(大山健二)山村夫人(平井岐代子)田島夫人(耕田久鯉子)瀬長夫人(岡村文子)森田先生(丸山修)谷野先生(穂高のり子)令子(千早景以子)葉子(田中三津子)晶子(水木麗子)町子(三宅川和子)圭子(真中陽子)しげ(町田博子)きよ(本山雅子)みよ(小笠原まり子)来賓客(宮島城司、河原けん二)蕎麦屋のオヤジ(小杉光史)村のお偉方(酒井三郎、杉森麟、佐々木正時)サーカスの女(千歳恵美、西川紀久子)


   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
    57年歌舞伎座五所平之助監督『黄色いからす(709)』
    鎌倉鶴丘八幡宮~鎌倉の大仏。小学生たちが大仏を写生している。担任の芦原靖子(久我美子)が、吉田清(設楽幸嗣)の描く絵を見て、「あら、吉田くんよく見てご覧なさい。黒と黄色だけでなく、もっと他の色もあるでしょう」清から反応がないので考え直し「いいのよ、いいのよ、何でも自分の思い通りに自由に描いて。」
   生徒のいない教室で、芦原が同僚の村上(沼田曜一)に相談をしている。「どうでしょうか」「確かに変わっているね」「以前は、随分明るい色の絵を描いていたんですが…。」「児童心理学では、父親がいないとか、家庭に問題がある児童が、こうした絵を描く傾向があると書いてあるのを読んだことがあるよ」「でも、吉田清くんは二親が揃っていてそんなことはないんです。昨年お父さん中国から帰って来たんです。」「引き揚げ者か大変だなあ…。」
   前の年のこと、夫が乗った中国からの引き揚げ船が着くことを知り、吉田清と母親のマチ子(淡島千景)が港の近くの旅館に泊まっている。清、母親に甘えている。「お母さん。肩を叩くよ。」「清ちゃん、ありがとう。」「お父さんの船いつ着くの?」「船はもう着いたらしいけど、明日の朝降りて来るの…。」「お父さん、僕に会ったら喜ぶ?」「清ちゃんが、こんなにいい子になっているんですもの、喜んでくれるわよ」隣のおばさんが、「ボン賢いなあ」と声を掛ける。「さあ、清ちゃん寝ましょう」
   翌朝、朝靄の中を、次々と桟橋を歩いてくる引き揚げ者たち。出迎えの人々の中には、勿論、町子と清の姿がある。一郎(伊藤雄之助)の姿を見つけ、「清ちゃん!お父さんよ」と町子が駆け寄る。「あなた!!良かったわ…」と涙ぐむマチ子。「うん…」「大変だったでしょ…」町子我に帰り、「あなた!!清ですよ!!大きくなったでしょう!!」「お前いくつになった?」「あなたが、あっちに行って直ぐ生まれたから、9つですよ」「9つかあ…」「清ちゃん!!お父さんって言ってご覧!!」「…おとうさん…」照れているのか、初めて会う父親に戸惑っているのか小さな声の清。
   祭り囃子が聞こえている。「清!!お神輿担いだことがあるか?」どうも、話は続かない。そこにマチ子が葛餅を出す。「はい、これお父さんの分、もう少しお砂糖いる?」「そうだな。こういうものはあっちでは食べられなかった。」「はい、清ちゃんの分」「お母さん!!僕もお砂糖頂戴!!」「ねえあなた、清ちゃん年齢にしては体大きい方なのよ。あなたみたいに身長高くなるわね」「そうだ、清腕相撲するか?」「清ちゃんやって貰いなさい。」「うん…」「おっ、清はギッチョか?」「直らないのよ…」「そうか、じゃあ、お父さんも左手だ。」「ハッケヨイ、残った!!残った!!残った!」マチ子、夫に負けてあげてと目配せをする。最後は清が両手を使い勝った。「やった!!やった!!お父さんに勝った!!」「清ちゃん、そんなに大きな声でお父さんと言って」涙ぐむマチ子。

2009年12月16日水曜日

捨てたこの身の落ち行く先は、雪の北国港町。

  池袋新文芸坐で、名匠清水宏 その感動の世界へ
   33年松竹蒲田清水宏監督『泣き濡れた春の女よ(705)』
    
   青函連絡船、函館に向かう飛天丸に、貨物車が入って行く。乗客デッキに、スコップを担いだ男たちが上がっていく。看板では、人足頭のぐず安(大山健二)が乗り込む男たちの人数を確認している。その後に女たちが乗り込んで来る。二等船室に、男たちがいる。ぐず安が声を掛ける。「整列!!番号!!」「1」「2」「3」…「18」。ぐず安が首を傾げる。「一人足りないなあ」
   汽笛を鳴らし出港する飛天丸。デッキには、五人の女たちがいる。デッキに落ちている吸い殻を拾おうとする健二(大日方伝)。しかし、女ものの下駄が踏みつける。顔を上げると女(岡田嘉子)が煙草を差し出し「一本どう?」一本抜く健二。「ありがとうぐらい言ったらどうなの?」隣に座って大きな人形を抱いているいる少女(市村美津子)がキャラメルの箱を差し出す。「どうもありがとう。お母さんは?」顔で示したのは先ほどの女だ。「おとうちゃんは?」俯く少女。「気にしないでくれ」「おじちゃん遊んでくれない?」「おじちゃんは、お話が下手なんだ。」「じゃあ、あたしが話して上げる。むかしむかし、あるところに…」そこに、ぐず安が探しに来て、下まで来いと言う。健二は、お礼にこれをやろうと腹巻きから出した物を少女に渡す。「お姉ちゃん、これなあに?」「みっちゃん、メダルよ。」
   再び「整列!!番号!!」と号令を掛けるぐず安。ようやく人数が揃い満足したような顔で、「気をつけ!!休め!!今一度、炭坑の抗夫たちの心得を説明しておく。酒と女は慎むように!博打はいかん!上官の命令には絶対服従だ。では解散!!」健二は、弟分の忠公(小倉繁)に「上官って、あいつは兵隊上がりか?」「万年軍曹と言ったところでしょう」ぐず安が睨んでいるのに気がついて、二人はデッキに上がる。先ほどの母お浜とおみつたちはまだそこにいた。
    おみつ「おかあさん、おふじちゃんまた泣いているわ」お浜「ねえ、お藤さん、今更泣いたってしょうかないじゃない」お藤(千早晶子)「諦めているわ。でも涙が出て仕方がないんですもの…。」お秋「ほっときなさいよ。どうせ泣いて涙も出なくなるんだから…。あ~あ、あたしも泣いた時代に戻りたいわ…。」
   忠公がお浜に声を掛ける。「姉さんどっかで会ったんじゃないですか?」「どうせ渡り鳥だもの、どっかで会ったこともあると思うよ。♪流れ、流れて、落ち行く先は、雪の北国港町~♪」忠公「いい歌ですねえ。教えて貰えませんか」「いいわよ」「捨てた」手帳を出し、「捨てた」「この身の」「この身の」「落ち行く先は」「落ち行く先は…」
 
   馬橇で、雪の平原を進む抗夫たち。
   炭坑での仕事をしている健二と忠公に上官が声を掛ける。「今晩あたり、女のいる店に飲みに行かないか?」「酒と女は慎まないといけないんじゃ」「ある店で、今度お前さんを連れてきてくれと頼まれたんだ。」「兄貴を?」「たまには、白粉の匂いを嗅ぐのもいいもんだろう」
    馬橇を急がす健二。後ろに上官と忠公が乗っているが、ふとした拍子に二人揃って振り落とされる。慌てて雪の中、馬橇を追い掛ける二人。
    カフェーに入る三人。カフェーに入ると、女たちが化粧をしている。女給たちは、連絡船で一緒だった女たちだ。上官は、お浜に気があり通っていたようだ。「なーる程、娑婆の白粉の匂いは悪かないですねえ。」と忠公。奥でお藤が、酔客に、「そろそろ、いい返事を聞かせてくれよ。」と絡まれている。上官に「忠公、売り出すいい機会だぜ」と唆された忠公は、間に入り「おいおいお兄さん」と声を掛けるが、「おいおい、お前の出る幕じゃねえぜ」と頬を打たれ、頭を下げて、すごすご引き下がる。帰ってきた忠公に、上官は「健二行こうか」と言うと、健二は男に「ここでは埃が立つから、外に出よう」と連れ出す。女給たちが、不安そうに窓から外を見ると、男は呆気なくひっくり返っていて、ペコペコ頭を下げ、走って逃げる。
   戻ってきた健二にお浜が「あっぱれなお手並み。気に入ったわ」と声をかけるが、健二はお藤のもとに行き「お前さんだね、連絡船の甲板で泣いていたのは。言葉の訛からすると、国は関西だね。どうしてこんなところに流れて来たんだい?」「お互い、そんなこと聞くもんじゃないわ。」「煙草を吸えるようになったんだな」「ええ、ここに来て随分と経った気がするわ。お酒も飲めるようになったのよ」
  それを聞くと健二は、カウンターに行き、お浜に「あちらものの方がいいな。」とウィスキーのボトルとグラスを二つ貰う。それを見て上官は忠公に「あいつ、見かけによらない早いことやるな・・・。」お藤「私そんな強いお酒は、酔っ払ってしまうわ」「酔いつぶれたら、俺が介抱してやるよ」続けて飲む健二に 、お藤は「そんなに飲んだら酔っ払ってさまうわ」「酔いつぶれたら、お前さんに介抱して貰うさ。」「あたしが介抱してあげるわよ」と健二とお藤の間に割って入るお浜。
   健二がお藤に「上官に言付けたのはお前さんかい?」と声を掛けると、「あたしではないわ」とお藤。「連れてきてと言ったのはあたしかもしれなくてよ」とお浜が寄って来る。その時、二階から「私よ」と声がする。見ると、おみつだった。「おじちゃんに話の続きを聞かせてあげるって約束したでしょ・・・」お浜が、「降りて来ちゃだめと言ったでしょう」と言い、健二には「あたしの部屋に来ない。」「部屋に行くと面白いことあるの?」「お話をしてあげるわ」モテモテの健二に、愉快ではない上官。健二が乗ってこないので、「今日は、私が奢るわ!!お明!お鶴!お静!お酒をどんどん持ってきて頂戴!!」お鶴(雲井鶴子)お静(兵藤靜枝)お明(白石明子)お龍(富士龍子)お秋(村瀬幸子)ら女たちは嬌声を上げ、店の中は一気に盛り上がる。一方おみつは、独り三階の屋根裏部屋に上がり、寝間着に着替え、隣に人形を抜かせて布団に入る。
  健二が起きると、もう点呼が始まっている。再び寝たふりをする。健二と忠公がいないのに気がついた上官は、宿舎に戻ってきて寝ている二人を見つけ「起きねえか!!!」と怒鳴りつける。飛び起きた健二と忠公は「18!」「19!」。「ゆうべ女に奢ってもらったと思っていたら、大間違いだからな!!」と言い26円の領収書を見せる上官。二人頭を下げる。調子に乗って忠公「白粉の香りも悪くないですね」とにやついて、「馬鹿野郎!!」とどやしつけられる。
  カフェーの前で、お藤がおみつに「みっちゃんは、あのおじちゃんは好き?」頷いたおみつが「お姉ちゃんは?」と聞くと、お藤は微笑む。お浜が女給たちの部屋の前を通ると女たちが盛り上がっている。「お藤ちゃんも、海千山千の悪い人を相手にしたわね。」「今晩の取り組みは見ものね。」「若い力士のテッポウも勢いがあるわよ。」「四つ相撲になるわ。」うふふ皆大笑いをしているのをドアの外で聞いて眉をしかめるお浜。
  お藤は実家からの手紙を読んで暗い表情だ。お浜の部屋に行き、「お姉さん。国のお母さん、また具合が悪いと報せが来たんです。少し貸して貰えませんか。」「あなた、この間そういって借りたばかりでしょ。そんなに貸せないわ。」肩を落として部屋に戻ったお藤に「南はシンガポール、北は満州まで渡り歩いて、大龍お浜とまで呼ばれたのよ。あんた、お浜さんに睨まれないようにしないと駄目よ。」「わたし、お浜さんに睨まれるようなことはしていないわ。わたし、それどころじゃないんですもの・・・」
  おみつがお浜と話している。「おかあさん、あたいのこと好き?あのおじちゃん来るかしら?」「みっちゃん、あのおじちゃんのこと好き?」頷いておみつ「おかあさんは、おじちゃんのこと好き?」お浜微笑むと「さっき、お藤ねえちゃんに、同じことをいったら、やっぱり笑っていたわ。」お浜「子供はここに来るんじゃないよ!!」と自分の部屋に上がっているようきつく言う。
  その夜、健二がやってきた。しかし、お藤は国の母親のことが気が気でなく上の空である。「この前、また来てねと言っていたのは、お世辞か、商売の口癖だったのか。」と怒り「忠公!おりゃあ帰るわ」お藤が追ってきて「私がまた来てねと言ったのは、お世辞でも、商売の口癖でもないわ。」「何か心配ごとでもあるのか?」そこに上官がやってきて「おい健二!俺を出し抜くなよ!」と言う。お藤の話を聞いて、健二は上官のもとに行き、「上官!今月分の給金を貸してください!」「この間、今月分は前借りしただろ!」「では、来月分を貸してください!」上官は金を渡してやる。健二はお藤のところに行き「これを送ってやんな」と全部渡す。「それじゃあんまり・・・。」「金を儲けるつもりなら、こんな仕事をやっていないぜ。」嬉し涙を浮かべるお藤。「じゃあ、お礼にシャツを洗ってあげるわ。」忠公がうらやましそうに「俺のシャツも洗ってくれ」と脱ぎ始め、寒くてくしゃみをする。
  翌日、嬉しそうに二枚のシャツを干しているお藤。その姿を眺めながら、頬杖をつくお浜。夕方、お藤が物干しをみると、健二のシャツがなくなっている。不思議に思いながら、同輩に「アイロンを貸して」と声をかけると「お浜さんが使っていたわ」という。お藤がお浜の部屋に行くと、お浜は、アイロンが掛かった健二のシャツの繕いものをしている。針仕事が苦手なお藤は何も言えない。
  その夜、船員の工藤(石山龍児)がやってきてお藤と話している。お浜が声をかける「工藤さんごゆっくり。」
   

   お藤(千早晶子)おみつ(市村美津子)

   新宿ジュンク堂カフェに、美人映画プロデューサーから相談があると言われていたのでいそいそと出かける。珍しくはないが、珍しく直球の音楽青春映画。1時間のつもりが、2時間半話し、見ようと思っていた大雷蔵祭を断念。
   博華で、餃子とビール。

2009年12月15日火曜日

街は忘年会

   池袋新文芸坐で、名匠清水宏
   40年松竹大船清水宏監督『信子(702)』
  大きな荷物を抱えた小宮山信子(高峰三枝子)が、家を探しながら歩いている。一軒の家の玄関に掃除をしている娘チャー子(三谷幸子)がいる。信子が娘に声をかける「尾張町の服部さんは違ったわ。18番地の服部さんってどこかしら。」「番地はここですけど・・・。変ねえ。お母さん、18番地の服部さんって知っている?」「うちじゃないの。」「えっ?うちは巴屋でしょう。」「巴屋は屋号で、服部佳子ってあたしだよ!!!」「うちだったんです」「あらまあ」「じゃあ、お信ちゃんかい?大きくなったねえ。お上がりよ。電報でも寄こせば迎えにいったのに。」
   芸者見習いのチャー子は2階に上がり、眠っていた二人の芸者駒勇(草香田鶴子)君香(東山光子)に声を掛ける。「姉さん、姉さん来たわよ。来たわよ。ねえ起きて。」「手紙が来たの?」「手紙じゃないわ。」「ああ、信子さんが来たのね。どういう人?」「じゃけん、じゃけん。」「何言っているの?」「洋装でかっこいいわ。」「とにかくモダンな人なのね。」「そうよ、田舎モダン。」
  下の居間では、お佳(飯田蝶子)と信子が話している。「大きくなったねえ。お信ちゃんが、女学校の先生になるんだもの。あたしがお婆ちゃんになる訳だね。」「お婆ちゃんだなんて・・・。そうやって白髪を染めていれば、40代に見えるですけ。」「あたしゃ、まだ40代だよ。白髪染めもしていないし。」「お父さんの従兄だっていうから、もっと年を取っていると思っていましたたい。」
  女学校の職員室で、校長の関口(岡村文子)の前に立つ信子。「では、お給料は32円差し上げます。」「・・・」「ご不満ですか。」「結構でございますヶ。」「そこから、校友会費1円、積立金1円を引いて、30円になります。」「校友会費と積立金を引いて、30円ですか・・・。」「それから・・」「まだ、何か引かれるのでごわすか。」「いえ、良家の子女をお預かりして、女は女らしくというのが、私たちの指導方針です。」「結構ですヶ。」「最近の人は、君、僕と言ったりしますが、持ってのほかです。あなたのお国の女学生はなんと言いますか?」「あたしの国では、ワシ、アンタといいますヶ。」「ワシも、アンタもいけません。それに、あなたの〝ケ"がいけません。終わりにつける〝ケ"がいけません。」「承知しましたケ。あっ、承知いたしました。」「あなたは、国語を受け持っていただく予定でしたが、体操を受け持ってもらいます。ご不満ですか?」「結構でございますヶ。あっ!結構でございます。」「では、保坂先生、小宮山さんを先生方にご紹介をお願いいたします。」

  教頭の保坂(森川まさみ)が次々に紹介していく。吉岡ふさ子先生(高松栄子)、手塚保子先生(忍節子)、山口花子先生(青木しのぶ)・・・。「よろしくお願いしますヶ。あっ!よろしくお願いいたします。」を繰り返す。山口先生は咳をし、「喘息なものですから。」信子「私の国では、阿蘇の蝦蟇を生け捕りにして、黒砂糖で煮詰めて、適当に湯呑に入れて薄めて、お茶代わりに飲むといいと聞きますヶ」山口熱心にメモを取り始める。「蝦蟇を生け捕りにして・・・。」
  保坂が「では、教室を案内しますわ。」「よろしくお願いしますヶ。あっ、よろしくお願いします。」廊下で出会った教師を紹介する。「こちら、岩崎三千子先生(大塚君代)、渡辺真知子先生(三笠朱実)梅沢豪子先生(出雲八重子)秋山先生(雲井ツル子)」「よろしくお願いしますヶ。あっ!よろしくお願いします。」
  音楽室では、松原操(松原操・特別出演)がピアノを弾いている。「こちら松原操先生。」「よろしくお願いします。」「あたしは、国語を受け持つ予定だったんですが、体操を受け持つことになって、少し戸惑っているですヶ。じゃっどん、がんばりますヶ。」「私が、体操を受け持って、小宮山さんには唱歌を受け持っていただこうかしら。うふふ。」「あはは。」
  さっそく、体操の時間になった。体操をキビキビと指揮する信子。「集合!こん可笑しな運動をやるっちゅう訳ば、人間は唯一二足歩行をするという可笑しな動物ちゅうこんに原因しておりますけん・・・」九州弁丸出しの信子の話に笑いだす生徒たち。
  
細川頼子(三浦光子)岩崎松原(松原操)梅沢()
細川源十郎(奈良真養)細川夫人(吉川満子)児玉初枝(春日英子)近藤ミチ子(なぎさ陽子)泥棒(日守新一)

    41年松竹大船清水宏監督『暁の合唱(703)』
    秋田女子高等専門学校、三日間の入学試験の2日目、教師たちが、国語の採点をしている。一人の教師が傑作を発見しましたぞと言い「春の海、ひねもすのたりのたりかな。の意味を書けに、春の海にひねもすと言う魚がのたりのたりと泳いでいる。房州でよく採れ、皮はハンドバッグにされる。いや傑作だ(笑)」
   「こちらもいい作文です。本当に傑作だ・・・・。」子供の時の怪我がもとで、一本の指が不自由になっていると言う。今までの試験は上手く行っているものの、決して裕福ではない親のことや、本来この学校の身体検査では、彼女の障害はいくら学科試験がよくても不合格になると聞いたことなどを考えると、果たして受験したことがいいことだったのかと悩んでいると、現在の率直な気持ちを、ウイットに富んだ表現で綴られた作文だ。
   この作文を書いたのは齋村朋子(木暮実千代)。あと1日残した試験の帰り、ふと朋子は、小出自動車と言うパス会社に、車掌募集と出ているのを見かけ、中にはいる。中では男二人が将棋をしている。事務所から和装の小出米子(川崎弘子)が、御用は?と声を掛ける。朋子は、この会社に入りたいと言う。将棋をしていた男(佐分利信)は、浮田兼輔と言う運転手の責任者だった。女子専門学校の受験を止めて、将来は運転手になりたいと言う朋子に、まずは両親の承諾を貰いなさいと言う浮田。あとで、連絡すると言う浮田に、名前も住所も言っていないので、連絡のしようもないと思うわと指摘する朋子。浮田の将棋の相手の小出三郎(近衛敏明)は、近くにある映画館の支配人をしながら、小出自動車を経営する兄が亡くなったので、姉の経理を手伝っている。横手の実家に帰る朋子。父・兵吉(坂本武)も継母・美代(吉川満子)も、異母弟の銀二郎(沖田儀一)ともとても良い家族を築いている。上の学校に進学せず、将来はパスの運転手になると言う朋子の話を承諾する兵吉。
    小出自動車に入社した朋子に、浮田はまず車掌をやらせる。初乗車には、浮田自ら運転手となった。朋子に興味のある三郎も、パスに飛び乗った。物怖じせず、愛想もいい朋子は、少し気が散りやすいのと、思ったままを口に出すのがたまに傷だ。いつも三郎は、バスにタダで乗っていたが、三郎さんの切符はどうします?と尋ねる朋子に、浮田はバスを持っていない客は誰でも運賃を貰わなければ駄目だと答えたことで、三郎から運賃を取る朋子。バスは終点に着く。折り返しの出発の時に、三郎は停留所前の茶屋の軒先で、昼寝をしている。結局三郎を置き去りにして、バスを出す浮田と朋子。

作文を書いている?(木暮実千代)。

「最終学歴は?」「横手の女学校を出ました。今日は女子高等専門学校の受験に来ました。」「さては落ちたな…」「サブちゃんひどいわね」「出来はよかったんですが、気が変ったんです。家は決して裕福ではありませんし。働きたいんです。」
  横手市横手町

   角川シネマ新宿で、大雷蔵祭
   62年大映京都三隅研次監督『斬る(704)』


   学校で、学生とイベントの打合せ。さすがに今日は皆顔を見せる。
   何人かの先輩の先生方と飲みに行く。初めてお話をさせていただいた方も多くて、面白いなあ。地元の飲み会にちょっと顔を出したが、既に撃沈気味で、すぐに帰る。

2009年12月14日月曜日

雷蔵VS勝新。最近大映ばかり見ている気がする。

   角川シネマ新宿で大雷蔵祭
   59年大映京都森一生監督『薄桜記(701)』
   赤穂浪士吉良家討ち入りの雪の降る夜、吉良邸に向かう隊列の中で、堀部安兵衛(勝新太郎)は、丹下典膳(市川雷蔵)のことを思い出していた。
   自分が典膳に初めて会ったのは、義伯父の菅野六郎左衛門(葛木香一)と村上兄弟との決闘を知り、高田馬場に走る途中だった…。旗本の典膳は御用の旅に向かう途中だ。走る中山安兵衛に、騎乗から「襷の結び目が解けている」と声を掛ける典膳だったが、駆ける安兵衛に伝わらなかったのではと、行列をそのまま進ませ、自分は安兵衛の後を追った。
   高田馬場に着いた安兵衛は、村上兄弟に多勢に無勢で、取り囲まれ窮地に追い込まれていた義叔父菅野六郎左衛門たちを救い、村上勢を次々に斬ってすてる。そこに駆け付けた播州赤穂藩浅野家江戸留守居役の堀部弥兵衛(荒木忍)は、娘お幸(浅野寿々子)の帯を襷に使えと安兵衛に投げた。決闘の場を見た典膳は、村上兄弟は同門の知心流であり、お役目もあったので、その場を離れた。
   最後に安兵衛は、村上庄左衛門(須賀不二夫)と弟の中津川祐見(光岡龍三郎)を討つ。傷ついた叔父の手当てをと、近くの武家屋敷の門前を貸して貰えぬかと、安兵衛は申し入れるが、どの屋敷かも知らず、自ら名乗りもしない申し入れに一度は拒絶される。その屋敷は米沢藩上杉家江戸屋敷だった。腹を立てて去ろうとした安兵衛に、上杉家江戸家老千坂兵部(香川良介)は、名代の長尾竜之進(北原義郎)に命じて門内での治療を許した。
    この高田馬場の一件は、中山安兵衛の名を世に轟かせたが、村上兄弟の真伝知心流の評判は地に落ちた。
   典膳は、道場に呼ばれ、高田馬場での決闘の場にいながら助太刀もせず立ち去ったことを責められる。典膳は、自分は御用の途中で、その時にはまだ村上兄弟は存命だった。目撃した門弟は何をしていたのだと反論する。「自分たちは人に向けて刀を抜いたことはない」などと意気地のないくせに典膳を責めるだけの連中だ。師範代が、仇を討って貰えぬかと頭を下げるが、御用で回った各地で、村上兄弟の悪い評判を聞いているので断ると答える典膳に、門弟たちは抜刀する。しかし、素手のまま、次々と門弟を倒す典膳。その騒ぎに師の知心斎が人に支えられ見台に現れ、典膳に破門を言い渡した。
    一方、安兵衛も、直心影流の師堀内源太佐衛門(嵐三右衛門)から、知心斎が典膳を破門にしたのは互いの遺恨になり余計な争いを避けるための配慮であり、その気持ちを知った以上、自分も安兵衛を破門せざるおえないと言って、一門のものにも、そのことを肝に命ぜよとと念を押した。
   道場には、噂の安兵衛を一目見ようと町娘たちが押し寄せている。源太佐衛門は、安兵衛を呼び、町娘だけでなく、縁談、お召し抱えの話があまた来ているだろうと言う。源太佐衛門のところに、上杉藩千坂兵部より話があると言う。ちょうど、千坂の家臣長尾竜之進が妹の千春(真城千都世)を連れ、源太佐衛門の娘浪乃(三田登喜子)のもとに来ていると言う。茶室に案内され、千春を見た安兵衛の心はときめいた。
   安兵衛が長屋に帰ると、やはり沢山の町娘に取り囲まれる。何とか自分の部屋に入ると、内職の筆作りの筆屋の娘お志津(加茂良子)が来ていた。健気にもお志津は、材料を届けがてら安兵衛の食事の仕度までしているのだが、先ほど会った千春のことが頭から離れない安兵衛は上の空だ。お志津についてやってきた三重(大和七海路)は「お嬢様、そんなことでは想いは伝わりません!!」と、とても歯痒い。娘たちだけでなく、堀部弥兵衛と武家の使者物部(沖時男)も仕官の返事を聞きにやってきて鉢合わせし、長屋の前で譲り合っている。
  その時子犬が現れ、野次馬たちの姿が消えた。時代は正に犬公方綱吉の時代、生類憐みの令により、犬猫はおろか、鳥虫に至るまで殺してはならぬとのことで、極刑まで下されていたのだ。
  ある日、安兵衛が、筆を納めに出かけた際、七面山千春院を通りかかると、想い人千春が野犬の群れに襲われていた。安兵衛が助けようとする間もなく、編み笠を被った武士が千春を庇い、犬を斬った。その武士は典膳だった。犬役人が近づいてくることに気がついた安兵衛は、高田馬場の借りを返そうと、自分は浪人であり、旗本である典膳よりも身軽だと言って、典膳を逃がす。とっさの判断で、安兵衛は、千春院に舞を奉納している風を装い犬役人の目を欺いた。千春は、ここが自分の母の菩提寺であり、そもそも、母親が兄竜之進の次に娘が生まれるようにと祈念しに通ったところ自分が生まれたので、千春という名前を貰ったのだと話す。
  安兵衛が橋の上から密かに犬の死骸を捨てると、真伝知心流の門弟たちが現れた。村上兄弟の仇討だと抜刀する門弟たち。堀内源太佐衛門からの言付けもあり、安兵衛が逡巡していると、そこに、典膳が現れ、安兵衛に借りがあるのだと言って、間に入った。数には圧倒的な差はあったが、腕に優る典膳は門弟たちに手傷を負わせ、退けた。
  安兵衛の気持ちは固まった。上杉藩に仕官して、千春を娶ろうと・・・。堀内源太佐衛門のもとを訪れ、報告しようとした矢先、師の思いがけない言葉に打ちのめされる安兵衛。かねてより相思相愛であった千春と典膳の祝言が決まったという。茶室からは、千春と浪乃が典膳の話しで華やいだ嬌声を上げている。二人はかねてより、七面山千春院で会っていたという。一人合点に気がついた安兵衛は、暫く気儘な浪人生活を続けると師に伝える。
  雨の中、ずぶ濡れで呆然としている安兵衛に、傘を差しかける者があった。堀部弥兵衛である。既に仕官の話は断っていたが、熱心に通う弥兵衛の気持ちに打たれ、婿養子となることを承諾する安兵衛。
  典膳と千春は祝言を上げ幸せな生活を送っていたが、典膳はお役目で京都に赴くことになった、翌年の雛祭りまで離れ離れに暮らさなければならない。千春は幼いころに作った夫婦雛の女雛を典膳に自分だと思って持っていてくれと渡す。雛祭りが近づき、典膳が京都から送ってくれた雛人形と自分が作った男雛相手に、独り芝居で典膳と語り合っていた千春だったが、真伝知心流の門弟5人に買収された下女が痺れ薬を入れた白酒を飲み倒れる。五人の門弟たちは、手引きした下女を斬り捨て、千春を攫い凌辱した。
   江戸への帰参の途中、出迎えた下男嘉次平(寺島雄作)から、下女が今わの際に下手人は真伝知心流の門弟五人だと告白したこと、更に、千春が典膳の留守中に、赤穂藩家臣堀部安兵衛と不義密通をしているという悪質な噂が流されていることを告げる。しかし、その疑いは、偶然安兵衛と出会ったことで、これも真伝知心流の門弟たちが流していることを知る。
   屋敷に帰った典膳の前に、憔悴しきった千春の姿がある。町人、農民であればともかく武士であれば例え強姦にせよ、他の男と関係をもった妻は斬り捨てなければならない。またそうしなければ武士としての面目が立たない。自害するよりも典膳に斬られるためにおめおめと生きておりましたと泣く千春に、お前には罪はない、どんなことがあっても死ぬなと言いながら、卑劣な男たちに切歯扼腕する典膳。
   千春を殺さず、不義密通の汚名を雪ぐために一計を案じる典膳。江戸帰参の祝宴を義父長尾権兵衛(清水元)ら身内の者を集め開く。宴の半ば、典膳が謡いを披露していると、障子を狐の影が奔り、典膳は抜刀し、障子越しに狐を刺す。権兵衛たちが、血の跡をつけると井戸の中に大狐の死骸がある。典膳は、一同に、妻の不義密通の噂の正体はこの大狐だった、しかし、生類憐みの令の手前、この話は各自の胸に仕舞っておくよう話をする。この大狐の正体は、典膳が嘉次平にももんじ屋に密かに用意させたものだったが、千春の身内の人間は、「さすが典膳、真伝知心流の腕前だ」と言い、不義密通の疑いは晴れた。
  その上で、「そちの罪ではないから咎めはせぬ。咎めはせぬが、そちの体をわしは赦すことが出来ないのだ。理屈で、頭で、赦していて、わしの体が赦そうとせぬのだ」と言って、千春との縁を切り、実家に帰す。千春を実家に帰した上で、お役御免を申し出て、卑劣な5人に復讐をしようと考えていたのだ。義父である権兵衛は、不義密通の疑いが晴れたのに離縁するとはと納得できない。しかし、夫婦お互い納得しているのだとしか言わない典膳に、千春の兄である竜之進は激高して、典膳の右手を斬り落とす。
  その日は、正に京からの勅使の江戸城登城の日であった。傷ついた典膳を運ぶ駕籠からの血を警備役から咎められたのを救ったのは千坂兵部だった。その日以来典膳の姿は江戸から消えた。しかし、城内松の廊下で、播磨赤穂藩主の浅野内匠頭長矩が吉良上野介義央に刃傷に及ぶという事件が起こり、典膳、安兵衛、千春の運命を更に動かすことになる。
  安兵衛は、大高源吾(島田竜三)友成造酒之助(千葉敏郎)神崎与五郎(舟木洋一)戸谷兵馬(伊沢一郎)らと仇討の計画を練っていた。吉良邸の前で見張っていると、茶道指南の女が出てきたというので、安兵衛が覗くと、千春であった。跡をつけると四方庵字編流茶道指南という看板の掛った庵で独り暮らしをしているようだ。 
  不審に思った安兵衛が数日後、典膳の屋敷を訪ねると荒れ果て無人となった屋敷に千春が佇んでいた。典膳との経緯を聞いて、何故か胸のときめきを感じてしまう安兵衛。
 ある日、千春は病の床にある千坂兵部に呼ばれ、傷ついた典膳を上杉藩の温泉に送って静養させていたという。上杉家家臣として吉良家に用心棒として送り込んだ浪人たちを指揮する役目を典膳に頼みたいので、千春に迎えに行ってほしい、浪人たちの中には斬って捨ててよい五人が含まれていると言う。あの五人への復讐を暗示しているのだ。
  江戸に戻った典膳たちを待っていたのは、千坂兵部の訃報だった。吉良家に入る手立てと、生活の糧を失ったという典膳に、私が生活費を出しますと千春が言う。典膳は、我々は離縁したのだ、そのために長尾家に右腕を差し出したのだと答え、嘉次平に今後この家には上げるなと命ずる。泣くしかない千春。典膳は、五文叩きの大道芸を始める。さっそく五人の仇の一人、三田四郎五郎(伊達三郎)が典膳の姿に気が付き、残りの4人大迫源内(志摩靖彦)壱岐練太郎(浜田雄史)友成造酒之助(千葉敏郎)戸谷兵馬(伊沢一郎)に告げる。
   四郎五郎と?は、片手を失っており笠を被っているので顔もわからないため跡をつける。誘い出しに成功した典膳は、卑劣なお前らに使う刀はないと竹棒で二人を倒すが、心配して後を追ってきた?の銃弾を足に受ける。偶然七面山に参詣の帰りの千春の駕籠が通りかかる。倒れていた典膳を駕籠に乗せ七面山千春院に運び応急処置をする。知合いの医師への手紙をしたため嘉次平に往診を頼みに行かせる。心配そうに付き添う千春は、典膳が自分の渡した女雛を持っていることに気がつく。自分の男雛を出し、「持っていて下さったのですね」「そなたに罪はないと言っていたではないか・・・。」
   二人だけのときはすぐに破られた。後をつけていた知心流門弟と助太刀の浪人たちが襲いかかる。右手を失い、左足が使えない典膳は、尋常な勝負をしろと言い、自分を広場に運ばせる。横たわったままの典膳であったが、襲いかかる浪人たちを斬り続ける。しかし、あと二人というところで気絶をする。走り寄ろうとした千春は撃たれてしまう。そこに、安兵衛が駆け付ける。安兵衛は残った浪人を倒すが、千春は安兵衛に「吉良さまの年忘れの茶会は明日の夜です。」と言い残して絶命する。最後に手を握り合って死んだ典膳と千春の姿に雪が降り積もる。
   その夜、堀部家では、安兵衛とお幸の祝言が行われた。
   翌日、吉良邸に向かう赤穂浪士の隊列の中に安兵衛の姿がある。吉良家の大きな門の前に並ぶ赤穂浪士。そして討ち入りが始まった・・・。

   高田馬場での安兵衛18人斬りも、片腕片足での典膳の殺陣も、勿論最高だ。更に勝新の舞と雷蔵の謡をさりげなく見せる。時代劇ってこれだよなあ、と前の晩に見たTBS時代劇ドラマを思い出し悲しくなるものだ。
  



神谷町の元会社で、打合せ。年内どこまで詰められるか。
学校で、講義は終わっているが、冬休みに入る前に、来年のイベントのことで詰めることは山のようにある筈が誰もいない。終業式の明日に順延だが(苦笑)。

2009年12月13日日曜日

今年の700本目、会社を辞めてから1100本目は京都モノ。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代
    57年宝塚映画稲垣浩監督『太夫(こったい)さんより 女体は哀しく(698)』
    終戦から三年経った初夏。京都島原の廓。電柱に、下京区西陣下屋敷島原町と住居表示がある。
    とある朝、「ほな、出掛けて来るで…。」島原遊廓の組合長の輪違家のご隠居善助(小沢栄太郎)が出て来ると、何やら街が騒がしい。人だかりの中に声を掛ける。「おくにさん、どうしたんや」「何でもガス会社がストライキやらで、あっちはエラい騒ぎでっせ」「ストライキかね、ワシが生きている間に見られるとは思わなかったで。ちょっと見て来たろ…」と走り出す善助。
    老舗の宝永楼から、玉袖太夫(乙羽信子)が客の光太郎(伊藤久哉)と出て来る。「じゃあ太夫のストライキ頑張りや。今日3時に会えへんか?丹波口駅の前で待っとるで。映画でも見にいこ」頷く玉袖。玉袖にあのお客さん、何か大丈夫なんかと仲居頭お初(浪江千栄子)。「ガス会社のストライキを指導している共産党の人です。」「共産党!?」と目を回すお初。
    中では、仲居達は、朝の支度に忙しい。みな、ガス会社のストライキの騒ぎが気になるようだ。お千代(植田裕子)「大変だっせ。日本にも革命が起こるかもしれまへん」「金持ちは、殺されるかもしれん」「金持ちなお倉さん危ないで…」お倉(千石規子)は腹巻きの中にコツコツ貯めた小金を人に貸しているのだ。当たりを伺うお倉。「そんなことは、天子さまがいてる限り変わる訳あらしません」とお初が言って、ようやく話は終わる。
    そこに歯を磨きながら、宝永楼の女将おえい(田中絹代)がやって来る。「うるさいな、どこぞで運動会でもやってるんか」「違いまっせ、ガス会社でストライキだっせ」「ウチとこは、ガス引いてないし、関係ないわ。それよりも、あっこ、水道の蛇口ちゃんと閉まってないで…。へっついの神さんに灯明上がってないで…。ほら時計も止まっとるで…」あれこれ目に付くおえい。「昨日玉袖はんのお客、共産党でしたんや」「えーっ、そんな人上げたらあかんやないか」「赤い旗持ってる訳でもないんで、分からしません」「玉袖の部屋、消毒しておいてや」
   満員の市電から、善助と光太郎がやっとのことで降りてくる。車掌は完全に外にしがみついている。光太郎は、バラック街の部屋に入る。「お前、玉袖に共産党やって言っとるんやろ。」と盗人仲間の安吉(田中春男)。「ストライキさせたらおもろいし、そのどさくさに、玉袖を足抜きさせようと思っとるんや。そうでもせんと玉袖は自分のもんにはならんさかい…。」
    バラックの外では、吐き気を訴える喜美子(淡路恵子)に、隣に住むおたま(中北千枝子)が「あんたでけたんや」「何が出来たん?」喜美子は、少し頭が足りないのだ。「やや子がでけたんや」「やや子が…。」
    バラックに入り安吉に「やや子がでけた」と告げる喜美子。びっくりする安吉に、「絶対産む」「堕ろせ」と言い争いに。お腹を蹴ろうとする安吉に、泣いて抵抗する。
宝永楼の太夫たちの部屋では、玉袖が、女郎たちにオルグしている。「ワタシら虫けらのように搾取されてるんや。」古株の美吉野(東郷晴子)は「こんなにお世話になってるのに…、恩を仇で返すんか…。」と意見するが、「恩も何も、当然の権利やで、深雪はんは体が弱いのに、三国人やらボケた年寄りとかの旦那を取らされて可哀想や」
   深雪(扇千景)は涙を見せ、「うちには、酒飲みのおかあはんと、弟や妹も沢山いてるから…。」九重(清川はやみ)矢車(環三千世)も乗せられて、おえいとお初の前に出る。玉袖が、要求書を出す。「一つ、今日までの借金を帳消しにすること、一つ、収入の八割は太夫に渡すこと、一つ、好きでない客を拒む権利を与えること…」途中まで読んだお初は、「阿呆らしくなったわ…」と言って要求書を破り、おえいの方に向き直り、「この件はあてに任せといておくれやす」と言って太夫に「部屋に言ってゆっくり話をしよやないか」と促す。みなが行った後に美吉野が一人残っている。「あんた何をしとるんや」「あては脱退します。」「今更何を言ってまんねんな、あんたみたいに長くいるんが、ちゃんと仕切らなあかんやないか、あんたもおいで」すごすごと、お初に連れられ、部屋に戻る美吉野。

太夫たち
   長屋で、夜鳴きうどん屋の
喜美子(淡路恵子)禿、和枝(岡田貴美子)照代(橘美津子)仲居お初(浪花千栄子)お千代(植田裕子)お倉(千石規子)おまつ(山田和子)
玉袖の情夫光太郎(伊藤久哉)喜美子の情夫安吉(田中春男)ちりめん問屋番頭佐七(平田昭彦)大番頭伝助(寺島雄作)うどん屋の五助(谷晃)かやく飯屋おくに(万代峯子)前宝永楼の薄雪太夫(宮脇よし)尾上(衣笠淳子)安吉の情婦おたま(中北千枝子)喜美子の子供の里親(汐風亮子)ジープ主人(山茶花究)ジープ抱妓べに子(宇野美子)チェリー(平原小夜美)まゆみ(森昭子)深雪の母お為(千代田綾子)幇間かん八(松葉家奴)

   脳膜炎で足りない娘だが男を信じ子供を愛する淡路恵子(いつもとは正反対の不細工振りだ!!)と、家族のため健気に働く病弱な太夫振りで、皆を騙す扇千景が素晴らしい。

  体験入学講師

   池袋新文芸坐で、名匠・清水宏 その感動の世界へ
   36年松竹大船清水宏監督『有りがたうさん(699)』
    伊豆天城街道の乗合バス。道路工事人夫、荷馬車、薪を背負った農夫、鶏でさえ追い越す時に「有りがたう」と声を掛ける運転手(上原謙)。だから彼を有りがたうさんと呼ぶ。
毎日、下田との間を一往復するのだ。茶屋、有りがたうさんが横になって休んでいる。母親(二葉かほる)と娘(築地まゆみ)二人連れに、茶屋のおかみさん(高松栄子)が声を掛ける。娘は東京に行く。村を出たことが無いので、下田までは見送りに行くと母親。「東京の奉公先は、大きなお屋敷かい。」返事がない。女中奉公と言うよりも、売られて行くのだろう。同情した女将は、峠を2つも越えるのだから、バスの中で食べろと二本の羊羹を差し出す。出発の3時になった。一番奥に座った母娘に「おかあさん、一番前が揺れないですよ」と声を掛けるが、偉そうな髭を生やした男(石山竜嗣)が座ってしまう。運転席の後ろには、黒衿の酌婦(桑野通子)が座る。酌婦仲間(和田登志子、雲井ツル子)が、もし景気が良さそうなら、誘っておくれと言う。バスが出発すると、居眠りをしていた老人(青野清)が、茶店の女将にバスに乗るんじゃなかったの?と言われ慌てて追い掛ける。

    37年松竹大船清水宏監督『風の中の子供(700)
   一学期の終業式帰りらしい小学生たちが掛けている。目の前に空の荷馬車がある。一年生の三平(爆弾小僧)は座って、二年生の金太郎(アメリカ小僧)と通信簿の話をしている。荷馬車引きに見つかって怒られ逃げ出す子供たち。三平を母親(吉川満子)が怒っている。「甲が一つもないじゃないの…。善太の通信簿を見なさい。甲ばっかりよ。金ちゃんと遊んでばかりいるからよ。勉強しなさい。」
    外から金太郎たちが、「三ちゃん遊ぼう!!」と声が聞こえる。飛び出そうとする三平に、「駄目!!勉強をしなさい!!」と怒る母。5年生の兄の善太(葉山正雄)と二人で机に向かっている。「善ちゃんは贔屓して貰って成績がいいのか」「違うよ」「いつも先生の後を追っかけてるじゃないか」「ロビンソンの続きを聞きたいからだい」「ロビンソンよりターザンの方が面白いよ。今度オリンピックにターザンが出場するんだよ」「するわけないよ。馬鹿馬鹿馬鹿!!」「馬鹿じゃないよ」「あんたたちはいつも喧嘩ばかりして!!善ちゃん、お父さんにお弁当を持って行っておくれ」三平「僕が行くよ」「あんたは勉強してなさい」「ちえっ」
一人残された三平は、桃太郎を大声で読み始める。母親の様子を伺い、気がつくといなくなっている。「あ~ああ~」とターザンを真似て雄叫びを上げると近所から続々と友達が駆け寄って来る。
   通信簿を見た父親(河村リョウ吉)は、「男の子たからいいじゃないか。外を元気に駆け回っているくらいがいいんだ。当人も成績なんか気にしていないんだし…」「あなたが、そうやって甘やかすからいけないんです。どんな大人になってしまうか…」
    翌日も、勉強を始めても直ぐに飽きて善太と兄弟喧嘩をする三平。今日も父親の弁当届けを善太に取られると、遊びに出掛けてしまう。今日は川遊びだ。褌姿で川に掛けて行く。金太郎は服を脱ぎ始めるが、褌がないので、嫌だと言う。からかってやるつもりで、みんなで追い掛けると、金太郎は、三平の家の前で、「三ちゃんが苛めるんです」と大声を出す。金太郎の家の前まで追い詰めると、「三ちゃんのお父さんは、悪いことをしているので、会社をクビになって、お巡りさんに連れて行かれるとウチのお父さんが言っていた!!」と言う。大好きなお父さんの悪口に三平はかっとして、棒で金太郎の頭を叩く。善太がやって来て「金ちゃん、乱暴はやめろ!!」と注意するが、訳を聞いて、善太も金太郎に詰め寄る。金太郎は家に逃げ込み、友達も皆帰ってしまった。
   善太と三平は、母親に金太郎が言っていた話を伝える。母親は勿論否定する。善太と三平が眠っている深夜、母親が、「金ちゃんがそう言うのは、佐山さんが家で話していると言うことよね。何か企んでいるんじゃないかしら」「株主たちは腹黒い策略を用意しているのかもしれないな」翌朝、子供たちに「お父さんは会社を立派な会社にしようとしているんだよ」と言った。

おじさん(坂武木おばさん(岡村文子)幸介(末松孝行)美代子(長船タヅコ)佐山(石山隆司)赤沢(長尾寛)曲馬団の正太(突貫小僧)親方(若林広雄)