2009年7月11日土曜日

武士と町人。

    池袋新文芸坐で、本当に面白かった日本映画
    67年東宝/三船プロ小林正樹監督『上意討ち 拝領妻始末(395)』
     会津松平藩二十四万石、馬廻り支配笹原伊三郎(三船敏郎)が、刀の試し斬りで、藁人形を二つにした。馬廻り組頭の小谷庄屋兵衛(山形勲)に刀を改めさせる。小谷は、国廻り一ノ木戸支配浅野帯刀(仲代達矢)に、お主も改めるかと尋ねるが、同じ感想だろうと答える帯刀。藩内で、剣では突出した腕を持つ二人であったが、不思議とウマが合った。伊三郎は、家持ちのすが(大塚道子)に婿入りをして以来、苦労をしている。そろそろ長男の世五郎(加藤剛)に嫁をと考えているが、すがはあれこれと口うるさく納得する嫁候補は現れそうにない。
   帰宅した伊三郎は、門前に側用人高橋外記(神山繁)の籠があるのを見つける。すがは、お側用人さまを待たせるなんて、きっとまた、浅野帯刀と下らぬ世間話をしていたんでしょうとお冠である。慌てて客間に行くと、外記は、世五郎の縁談だと言う。しかし、相手は殿様の側室で、菊千代さまの御生母、塩見兵衛門(浜村純)の娘、お市の方様が宿下がりになるので、世五郎に拝領させると言うのだ。あまりの話に言葉を失う伊三郎。殿の御内意だと繰り返す外記。
    側用人が帰った後の家族会議では、すがが、なぜあなたは直ぐにお断りなさらなかったんですかと責め立てる。お市の方は、菊千代君をお産みになった後、産褥の静養に藩内の温泉に行き、城に戻った際に、新しい側室がいることに悋気して、側室を殴る引っ掻くした挙げ句、殿様を平手打ちし、そのために宿下がりになるんだと言うすが。自分が意にそぐわぬ結婚をしたことを後悔している伊三郎は、側用人に向かい、勿体ないお話でと断ろうとする。しかし殿の御内意だと押し切ろうとする外記との間で押し問答していると、世五郎が現れ、私は此度のお話有り難くお受けしますと頭を下げるのだった。
    身内だけの簡単な式が行われる。すがは、菊千代さまの御生母だろうが、かって殿様の側室であったろうが、あくまでも笹原家の嫁として、全てこの家のしきたりに従って貰いますと冷たく言い放つ。しかし、市(司葉子)は嫁として健気に頑張っていた。ある日、世五郎が勤めから戻り、姑の仕打ちは酷いだろうが、その妻との夫婦生活を耐えてきた父上を見習って努めてくれと声を掛ける。しかし市は、姑は早く家風を教え込もうと躾てくれているのだと思いますと言う。偶然その話を聞いた伊三郎は、鬼の居ぬ間に命の洗濯だと言って、市に夕食に酒をつけるよう言うのだった。
     伊三郎は、家老柳瀬三左衛門(三島雅夫)に、隠居によるお役御免と、世五郎に家督を継ぐことを願い出た。家老、側用人は市を拝領させたこともあり、願いを認める。世五郎と市の祝言から二年が経ち、二人に待望の子が産まれる。女子ではあったが、伊三郎と世五郎は、トミと名付けた。
   ある日、江戸屋敷から早駈けの使いが、会津にやってくる。嫡男の政基が急死したと言う。その知らせを聞いた家老と側用人は、菊千代があってお家安泰だと胸をなで下ろす。
    しかし、そうなると、世継ぎの生母が馬廻り役の妻であることは体面が悪い。

塩見兵右衛門(浜村純)笹原献物(佐々木孝丸)きく(市原悦子)おたま(南弘子)笠井三之丞の母(山岡久乃)いち文蔵(江原達治)
松平正容(松村達雄)
浅野帯刀(仲代達矢)すが(大塚道子)

   62年松竹小林正樹監督『切腹(396)』
   井伊家自慢の赤揃えの甲冑が飾られている。井伊家覚書につづられている記載である。
   寛永庚午七年十月十二日、江戸外桜田町井伊家上屋敷の門前に、芸州廣島、福島藩浪人の津雲半四郎(仲代達矢)と言う五十代の侍が現れた。出て来た使番に、自分は芸州廣島福島家元家臣の浪人津雲半四郎と名乗り、浪々の身も永くなり、これだけ平和が続くと仕官の口も無くなったので、軒先を借りて切腹させてくれと言う。ある時千石家で、そう申し出た浪人を、今時珍しい武士の誉だと気に入った千石家は、取り立てた事が広まって、腹を切る気もないくせに、いくばくかの銭欲しさのゆすりたかりのような浪人が湧いて出て、各藩は困っていた。井伊家江戸家老の斎藤勘解由(三國連太郎)は、芸州廣島福島家元家臣と聞いて、会うと言った。実は、少し前に、同じ芸州廣島福島家元家臣の千々岩求(石浜朗)と言う若い浪人が、やって来て、井伊家上屋敷の庭で切腹した事件が起き、何か関係があるかと思ったのだ。
   千々岩求女が、やって来た時に、武勇を誇る井伊家として、他藩のように、切腹される面倒を恐れ、銭を渡すのは面目が立たないと、若く剣に自信がある矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬介(青木義郎)、沢潟彦九郎(丹波哲郎)らは、切腹させようと画策する。世継ぎがお会いすると喜ばせて、湯に入らせ、着物を着替えさせる。そこに、彦九郎が、白装束を持ち、仕官を認めるなどと言う話ではなく、最近には珍しい侍の思うようにさせてやってくれと仰っているのだ。さあ介錯をするので、存分に腹を召せと言うのだ。はなから仕官への方便であった求女は、進退極まった。更に、求女の腰の大小は竹光だ。井伊家の家臣たちは悪し様に求女を誹り、1日待ってくれと言い出した求女に卑怯者と誹り、竹光での切腹を迫った。追い詰められた求女は竹光で腹を刺すが、なかなか死ねず舌を噛み、死に際も無様なものとなった。
   津雲半四郎は、介錯人として沢潟彦九郎を指名した。井伊家の小者が、彦九郎を呼びに言った間に、半四郎は、福島家の最期について話し始める。福島正勝(佐藤慶)は、関ヶ原の戦いで、東軍に参加したが、かっての信長秀吉の重臣であった正勝を警戒する家康によって江戸城を初めとする度重なる普請を命じられていた。更に廣島城の改築に関して謀叛と言う言いがかりをつけられた。芸州49万8200石を信濃の国川中島4万5千石に転封されることが決まった。半四郎の大親友であった普請奉行の千々岩陣内(稲葉義男)は、この城改築の罪を被って、半四郎に嫡男の求女を託し、殿様に先駆けて腹を切った。正勝は、一緒に腹を切ると言う半四郎に、主命として殉死を禁じた。かくて福島家は無くなり、家臣たちは散り散りになったのだ。
   半四郎は、傘を貼りながら、一人娘の美保(岩下志麻)と共に江戸の浪人暮らしを続けていた。十八になり美しく成長した美保を、大家の清兵衛(松村達雄)が、大名家の側室の縁談を持ち込んできた。しかし、半四郎は、親友の忘れ形見の求女を、美保の婿にと考えていたのだ。半四郎に美保を嫁にと言われ、願ってもないことだが、わずかな子供を相手に寺子屋を開いて糊口を塗している身を恥じる。しかし、相思相愛の二人を強引に結婚させる半四郎。二人に息子、金吾が産まれ貧しいながら幸福な生活が、訪れたかと思った。しかし、無理をしていた美保は吐血する。金吾が高熱を出しても、医者に診せる金もない求女。医者に診せたのかと半四郎に問われても何も言えない求女夫妻。求女は金を借りる目処がついたと言って出掛けたが、井伊家で切腹した骸だけが帰宅した。数日後、?が亡くなり、後を追うように美保も死んだ。半四郎の話が終わっても、介錯を頼む沢潟彦九郎は現れなかった。急病につき出所能わずと言う伝言のみが江戸家老斎藤勘解由のもとに伝えられた。
   実は、求女の復讐のために、半四郎は、事件に関わった三人剣客を襲っていた。裾物斬りが得意な矢崎隼人は旗本小路で、川辺右馬介は天空寺境内で、神道無念一流の達人沢潟彦九郎は千本ヶ原で、50代の半四郎は関ヶ原の戦い以来十七年降りの戦いだったが、武士の魂とも言える髷を切り取っていた。いくら道場で、剣術を磨いても、畳水練に過ぎず実戦的ではない。

    四人が討ち死に、八人が重傷を負った。井伊家の武勇は江戸中に轟き、世継ぎ鶴公にあった。「治にいて乱を忘れず、この心掛けある限り、井伊家の御家運、御隆盛、益々、盛んならんと」

美保(岩下志麻)千々岩求女(石浜朗)陣内(稲葉義男)斎藤勘解由(三國連太郎)稲葉丹後(三島雅夫)沢潟彦九郎(丹波哲郎)矢崎隼人(中谷一郎)川辺右馬介(青木義郎)使い番(井川比佐志)使い番(小林昭二)若侍(武内亨)新免一郎(安住謙)福島正勝(佐藤慶)清兵衛(松村達雄)
   福島正勝は正則のことだろう。

   この2本、仲代達矢が、本当に素晴らしい。三船×仲代、丹波×仲代、生死を掛けた斬り合いの緊迫感、唸る。勿論小林正樹の演出、宮島義男のカメラ、

    船堀シネパレスで、映画と落語会・第一回
    60年東宝青柳信雄監督『落語天国紳士録(397)』
    清兵衛荘は質屋の伊勢屋清兵衛(榎本健一)が大家である。落語好きの清兵衛は、店子には、落語に出てくる名前ばかりを選んでいる。管理人をしている大工の山下八五郎(森健二)とお君(旭輝子)夫婦、清兵衛が経営する駅前の食堂の支配人の川上熊五郎(森川信)およし(水の也清美)夫婦、按摩の伊藤梅吉(有島一郎)お里(北川町子)夫婦、骨董屋の尾形源兵衛(柳家金語楼)とクラブ歌手をするツル子(柳川慶子)親子、倒産しそうな出版社を経営する細川徳三郎(益田キートン)、絹子(一の宮あつ子)夫婦、島田先生(逗子とんぼ)、小唄の師匠の吉川ひさ(坪内美詠子)住んでいる。一室空いており、借りに来る人(如月寛多、若水ヤエ子)は沢山いるが、なかなか清兵衛の気に入る人間はこない。
 

   紙切りの林家正楽、癒される、癒される。
   瀧川鯉昇初めて見たが、よかった。顔いいなあ。

   後輩Kと飯を食おうと、船堀駅の周りを探すが、都営新宿線の駅が出来て、作られた街らしく、何もない・・・。やっと見つけた八丈島料理の店で飲んで帰る。西荻まで戻ってくると、かっての会社の大先輩とばったり、更に阿佐ヶ谷のブルースシンガーにも・・・。奇遇だ。

2009年7月10日金曜日

小次郎敗れたり。

   10時に新丸ビルで、音声認識システムのデモ。元の会社の技術部長のS氏とF君が忙しい中、わざわざ来てくれて感謝。
   途中抜けて、学校へ。コピー機占拠してレジュメコピー。今日は、出版業界の話と、著作権に関するトピックで、「崖の上のポニョ」のドキュメンタリーDVD発売延期に関してで、二コマ。人に教えることは難しいと言うより、その前の段階で、コミュニケーションをすることが難しい。早く一旦夏休みに入って仕切り直したい気分だ(苦笑)。どうも難し過ぎるようだ。どのレベルの話で最大公約数的に拾えるのかが難問だ。

   池袋新文芸坐で、本当に面白かった日本映画たち
   64年東映京都内田吐夢監督『宮本武蔵一乗寺の決斗(393)
   宮本武蔵(中村錦之助)は、室町時代からの歴史のある吉岡道場の道場主、吉岡清十郎(江原真二郎)と決闘し、右肩を砕いて勝った。その右腕を、吉岡道場の客人であった佐々木小次郎(高倉健)は有無を言わせず切り落とす。門弟たちに戸板に載せられ道場に運ばれた清十郎を待っていたのは、弟の伝七郎(平幹二郎)と、叔父の壬生源左衛門(山形勲)からの誹りだった。伝七郎は道場の汚名を濯ぐために、武蔵を討つと言って、京の出口に門弟たちを差し向け見晴らせる。
   ある廃寺に、尺八を吹く虚無僧の姿がある。虚無僧は、青木丹左衛門(花沢徳衛)であった。丹左衛門は、窮地にあった本位田又八(木村功)と赤壁八十馬(谷啓)を救ったのだが、更に女が必死で逃げて来て匿ってくれと言う。又八は女の顔を見て驚く、朱実(丘さとみ)との再会だった。朱実は、小次郎に監禁されていた。小次郎は恐ろしい男だと言って身を震わす朱実。丹左衛門は、又八に朱実を匿うように言う。小次郎は現れたが、丹左衛門を一瞥して去った。寺に何事かを祈願する老婆の姿がある。丹左衛門は、ひょっとして、本位田のお杉婆さん(浪花千栄子)ではないかと思い、後をつける。お杉が入っていた宿屋には、病いで伏せるお通(入江若葉)と、自分の息子城太郎(竹内満)の姿がある。涙を溢れさせた丹左衛門は、尺八を吹きながら去って行った。
   一方武蔵は、あるせせらぎで草を摘む老婆(東山千栄子)に出会うが、老婆は武蔵の顔を見るなり激しく怯え、籠を置いて逃げ出した。老婆は、茶人であり、刀研ぎの名家でもある本阿弥光悦(千田是也)の母、妙秀だった。光悦は、妙秀が何か武蔵に失礼でもしたかと頭を下げたが、妙秀が籠を置き去りにしたので持参しただけだと聞いて、母に尋ねる。妙秀は、草藪から出て来た武蔵が、あたかも自分を斬り殺すかのような気配をしていたので、恐ろしくなって逃げたのだが、改めて見ると自分の思い過ごしだったんだろうと言って、武蔵に茶を立ててくれた。しかし、このことは、武蔵に少なからず動揺を与える。この風流を愛する光悦と妙秀の親子の屋敷にお世話になる武蔵。母子との会話は、武蔵の心を癒やす。
    吉岡道場の面々は、なかなか行方の知れない武蔵に苛立ちを感じていたが、ある晩、清十郎は、弟の伝七郎に道場を譲ると言い出した。しかし、その条件として武蔵と戦うことは諦めろと言うことだった。清十郎を臆病者と謗る伝七郎。門弟たちに、自分が道場を継ぐことになったと言う。武蔵との戦いを放棄しようと言う古い門弟を臆病者は去れと破門する伝七郎。更に、清十郎が、武蔵との戦いを断念するように厳命した書き置きを残して、失踪した。手助けした門弟の林彦二郎(河原崎長一郎)をも破門する伝七郎。
   やがて、伝七郎たちに、武蔵が、本阿弥家に滞在していることが知れる。その日、光悦は、文人仲間の灰屋紹由(東野英治郎)から島原遊郭への誘いを受け、武蔵を誘う。吉岡道場のことを気にする武蔵に、吉岡たちは自分が恐れる必要はないのだから、まずは、紹由の屋敷に行こうと事も無げにいう光悦。

上田良平(香川良介)太田黒兵介(佐藤慶)御池十郎左衛門(鈴木金哉)横川勘助(国一太郎)南保余一兵衛(水野浩)壬生源左衛(山形勲)妻(松浦築枝)壬生源次郎(西本雄司)烏丸光広(徳大寺伸)花山院忠長(林彰太郎)徳大寺実久(那須伸太郎)墨菊太夫(霧島八千代)小菩薩太夫(暁冴子)唐琴太夫(八坂京子)引船(藤代佳子)りん弥(小野恵子)吉野太夫(岩崎加根子)佐々木小次郎(高倉健)

    65年東映京都内田吐夢監督『宮本武蔵巌流島の決斗(394)

    比叡山を追われた宮本武蔵は、宗影沢庵(三國連太郎)に連れてこられたお通に再会する。思わず抱擁する武蔵だが、許せと叫んで、お通を置き去りにして、滝に打たれる。ある村で、少年伊織(金子吉延)と出会う。少年の家を通りかかると、刃物を研ぎ、これで父親を切れるかと言われる。父親を切るのは人の道に反すると言うと、実は、父親が死んだが、子供の力では、墓に運ぶことができず、頭を切断すれば、持ちあげられるのではないかと思ったというのだ。武蔵は、伊織の父親の埋葬を手伝う。

一乗寺下り松の傍らで盲になった林吉次郎は親子地蔵を彫っていた

細川忠利(里見浩太郎)柳生但馬守(田村高広)林吉次郎(河原崎長一郎)岩間角兵衛(内田朝雄)小林太郎左衛門(清水元)妻(日高澄子)お光(三島ゆり子)厨子野耕介(中村是好)酒井忠勝(北竜二)川越の熊五郎(尾形伸之介)半瓦弥次兵ヱ(中村時之助)榊原康政(高松錦之助)縫殿介(神木真寿雄)佐助(嶋田景一郎)伊織長岡佐渡(片岡千恵蔵)

2009年7月9日木曜日

金ちゃん

  元の会社にお邪魔する。一時期よりも元同僚たちの表情が明るくなっている。同期が新社長になり、少し落ち着いたからだろう。
    その新社長に、友人N氏とビジネスの持ち込み、こちらの意図はすぐに理解してくれ、前向きに検討してくれると言う。実現して、会社や友人たちに恩返し出来るといいのだが。
  会社近くの寿司屋へ。宣伝部門時代には何かと使っていた、赤坂には古くからあるが、気取らない店だ。一年ぶりだったが、取っておいてくれた焼酎のボトルしこたま飲む。

2009年7月8日水曜日

パリスちゃん、よう頑張った。

   朝からテレビはマイケル告別イベント一色だ。
   3コマの講義。前期最後の一年生へのスキルアップ講座の相談を受け、安請け合いするが、よく考えると、来週、再来週は週末は体験入学で埋まっているし、忙しいなあ。とはいえ、一日1時間半しかない日も多いのだが・・・・。市川崑の「満員電車」の中で、主人公は、船越英二(役名は更利満から(失笑))から「健康が第一、怠けず休まず働かず」と言われていた。そんな更利満は、公認会計士の勉強を夜隠れてやっていて、過労死してしまうのだ。まあ、健康第一ということか・・・。
   

2009年7月7日火曜日

ブログタイトル変えましたが・・・。

   午前中は、大門歯医者から赤坂メンタルクリニック。

   昼から神保町シアターで、没後四十年 成瀬巳喜男の世界
   51年東宝成瀬巳喜男監督『めし(389)』
大阪市の南の外れ、小さいが、粗末ではない長屋が並んでいる一角、岡本三千代(原節子)は、周囲の反対を押し切って初之輔(上原謙)と結婚して4年、初之輔の勤めの都合でここに住んで?年が過ぎた。出勤の支度をした初之輔が、食卓に座り、めしはまだかい?と聞く。そのくせ、食事中初之輔は新聞の紙面に目を落としたままだ。戦時銘柄は堅調と言う。会社の皆さんは買っていらっしゃるの?証券会社に勤めていてやらないのはあなたくらいじゃなくて?と三千代が話し掛けても、初之輔は生返事だ。へそを曲げて、あなた食事中に新聞を読むのは止めて下さらないと怒る三千代。しかし、妻が何を怒っているの理解出来ないような初之輔。ハンカチと言って三千代から受け取り、出勤する初之輔。門の外まで見送り、溜め息をつく三千代。ちょうど、谷口家のしげ(浦辺粂子)が、息子の吉太郎(大泉滉)の就職試験の合格祈願に八幡さまに行くと言う。三千代の向かいの金澤りう(音羽久米子)が、欠伸をしながら、おはようございますと顔を出した。りうは、丸鍵の若旦那の二号で、飲み屋を出させて貰っているらしい。しげは、眉をしかめて、妾はこんな時間に起きてきて、いいご身分だと言う。
    その時、吉太郎に岡本さんのお住まいはどちらですかと尋ねる娘(島崎雪子)がある。垢抜けた美人に、ドギマギする吉太郎。三千代が、あら里子さん!と声をかける。しげに、主人の東京にいる姪ですのと答える三千代。里子を部屋に上げ、どうして急に大阪に来たの?と尋ねると、父親が勧める縁談が嫌で、家出をしてきたのと答える里子。 疲れたでしょうから昼寝をしたらと言うと、汽車の中で、ずっと眠っていたのと里子。初之輔さんは帰りは何時くらいなのと尋ねる里子に、三千代は早かったり遅かったりと答え、会社に電話をしておくわ、東京には電報を打っておくわね、ご心配でしょうからと三千代。

   初見。女人養い難しを地で行くようなあれこれ考えるが、非常に感情的な女と、鈍感で空気が読めなず、情けない男。まあどっちもどっちではある。こうしたウジウジした話、本当にうまい!渡る世間と違って、痛さがないのは、テレビとスクリーンの違いなのか。

   京橋のフィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで 2007-2008
   45年東宝教育市川崑監督『娘道成寺(390)』
   人形劇とアニメーション。こんな作品をやっていたんだな。

   57年大映東京市川崑監督『満員電車(391)』
   東京で最高の、ということは日本で最高峰の平和大学、平大。明治9年の第1回卒業式での総長送辞から、大正1年、昭和元年と卒業生の数は飛躍的に増えていく。激しい雨の中、総長(浜村純)の送辞が行われている。誠に残念ながら昨夜講堂が焼失したため、野外での卒業式になったがと言う。埋め尽くされた雨傘、中に茂呂井民雄(川口浩)の姿もある。卒業証書を濡れないように大事そうに脇に抱える茂呂井。式が終わり、記念撮影だ。あまりの大人数にカメラマンは後ろに下がるが水溜まりに足を取られる。大声で、傘を閉じて下さい!と叫んで、撮影する。慌てて再び傘をさす。卒業生たち。更に雨脚が強くなるが、校庭に机が並べられ、ビール瓶と紙コップが置かれている。同級生(田宮二郎)に浮かない顔してるが、さっさと引き揚げろと言われるが、せっかくの祝杯だ。浮かない顔じゃなくて、ビールを飲んだら歯が痛くなったのだと茂呂井。
   下宿先で、荷物を纏め、詰め襟をスーツに着替えている。同室の若竹(入江洋佑)が、もう出発するんですかと尋ねると、今日の5時に会社に召集されてるんだと答える。ツンツルテンの学生服を着た若竹が、それいらないでしょう売ってくれませんかと頼む。ズボンは駄目だが、上着は古着屋に売ろうと思っていたのでいいよと茂呂井。古着屋より高く買わせたので、共同で買ったなべややかん、七輪は君に上げるよと言って下宿を出る。駅に向かって歩いていると、商店街では、バス同士がすれ違えずに、大騒ぎだ。虫歯がますます痛くなり、目の前の歯医者に入る。待合室は立錐の余地もないほど満員だ。昼飯抜きで治療をしていた医師(杉森燐)が診察室を出ると、まだ一人患者が残っていた。茂呂井だ。治療をしてもらっていると、歯科医の細君(響令子)が、保険診療をするから忙しくてしょうがないのに、一向に儲からないと愚痴を言う。茂呂井は、ここ痛みますよねと尋ねられるが、よく分からない。
デ   パートのネクタイ売り場でデパートガール(宮代恵子)に、いい加減なつもりで交際してきた訳ではないが、就職後、関西に赴任するので、一旦白紙にしたい、本来なら喫茶店でコーヒーを飲みながらゆっくりしたいが、残念ながら時間がないんだと言う。女は了解する。次に、キリマンジャロの雪を上映している映画館の切符売り場の女(久保田紀子)に先ほどと同じ話をしている茂呂井。平大裏と言うバス停で立っていると、壱岐留奈(小野道子)が声を掛けてくる。彼女は岩手の一関で、国語教師になるので、今から出発だと言う。デパガ、映画館と同じ話をし始めると、私もその方がいいと思うわと言ってキスをして、反対行きのバスに乗る壱岐。どちらのバスも満員だ。
   茂呂井が入社する大日本駱駝ビールの東京本社兼工場の通用門に到着すると、終業のサイレンが鳴り響く。社長室、総務部長(見明凡太郎)がやってくると、社長(山茶花究)は何で自分の許しもなく10人も新入社員を採ったのだ!自分は3名の採用は認めたが、あと7人は知らないと言う。総務部長は、定年などの10名の人員減の補充ですし、どれも各重役の皆様の縁故採用なのですと言って、それぞれどういった係累なのかを諳んじる。更に何日の会議で社長のご決裁もいただいていますと言う。社長は尚も、今の経営改善の課題は合理化による人員削減だと言っている。
    会議室に新卒採用者10名がいる。総務部長を先頭に重役たちが入ってくる。社長は、何事もなかったように、訓示を始める。4日間、社内各部門の話など、缶詰めだ。終わり次第、地方工場に配属されたものには、赴任地までの国鉄三等乗車券が配られる。釜ヶ崎工場に配属の室井と、札幌工場に赴任の同期の二人以外は、コネで入れてくれた重役と銀座に繰り出したらしい。コネ入社じゃないのは僕たちだけだったみたいだと言う同期の男は、一緒にビールを飲もうと言う。工場研修以来虫歯が痛むので、飲まないと答える茂呂井。サラリーマンになったんだなあと言う同期の男に、突然白墨を持って黒板に生涯賃金を書き始め、二千数百万を貰うからには、きちんと堅実に仕事をしたいんだと言う。
   茂呂井が乗った下りの東海道線特急列車が、小田原駅を通過する。室井の実家は、父親の権六(笠智衆)が、30年間自分の腕を信じて続けてきた時計屋だ。母親の乙女(杉村春子)は、下り列車が通過する度、今のに息子が乗っているかしら、初出勤の祝いに赤飯でも持たせてやりたかったと繰り返す。時計が狂うという客に、私が修繕した時計は絶対狂うことはありえないと断言する。
   茂呂井の初出勤の日、独身寮で身支度をして部屋を出ると、同時に、同じ格好の社員たちが沸き出てくる。通勤電車は超満員だ。最寄駅を降りて、会社に向かう道は、出勤する社員たちで埋め尽くされている。タイムカードを押すのも大行列だ。茂呂井が、こっちの列の方が早いかと変わると、機械の調子が悪くなる。始業時間だ。山のような発注伝票の山が茂呂井の席に積まれる。物凄いスピードで伝票の山を片付け始める茂呂井。30分ほどで終わってしまい、することもなくボーっとしていると、係長が廊下に呼び出す。君は体の具合が悪いのかと聞く。否定する茂呂井に、では何で仕事をしないんだと係長、いや終わってしまったのですと得意げに言う茂呂井に、君一人で会社が成り立って居る訳でない、君が流れを乱すと、会社全体の効率が悪くなるのだと叱られる。
    職場は、工場の中にあるので、物凄い騒音で、ほとんど会話が成り立たない。いつの間にか、歯が痛む茂呂井に、向かいの席に座る更利満(船越栄二)が、歯が痛いんですか?と尋ねる。社内の医務室に歯医者がいますよと教えてくれたので、医務室に行く茂呂井。女歯科医(新宮信子)は、どこも悪くはないわねと言って、医務室の担当医師の山居直(潮万太郎)が、ひょっとすると虫歯とかではなく工場の激しい騒音のストレスが歯に出ているのかもしれないと言う。どうしたら治るんですかという茂呂井に、治らないと言い放つ山居直。
      休日になっても、することもない茂呂井は、かっての三人のガールフレンドに、手紙を書く、周りのサラリーマンへの愚痴でしかない手紙を受け取った女 たちは、何の感慨もなく捨てる。デパートガールは、一瞥しただけで握りつぶし、映画館の女は破ってゴミ箱に捨て、壱岐留奈は答案の山の採点を続ける。その 返事が来ていないか、ポストを何度も見る茂呂井。当然、返事などない。そんな茂呂井に、独身寮の隣室に住む更利満が声を掛ける。自室に招き、お茶と甘いも のを出してくれる。サラリーマンの心得は、「健康が第一、怠けず休まず働かず」だと言う更利満に反発する茂呂井。しかし、更利満は、隣室のエリート社員が 自殺したのだと言う。窓の前をその隣人が飛び降りるのが見えたと淡々と話す更利満。よく考えると、自分の部屋の前の住人なのだ。部屋に戻ってもそんな痕跡 は、勿論ないのだが・・・。


   59年大映東京市川崑監督『野火(392)』
   フィリピンレイテ島、分隊長(伊達信)、お前はこの部隊にいても何も出来ないので、病院に行かせたのに、言われた通りに帰ってくる奴があるか、大事な食糧を5日分渡したのに、それも3日で戻ってくるとは、ガキの使いかと怒っている。食糧と手榴弾を渡すので、この部隊に帰って来ると思うなと命じた。曹長(潮万太郎)は、戦況は絶望的で、この島に上陸する段階で、既に半減している部隊は米軍からも相手にされていない、ここにいても塹壕掘りしかすることはない。隊長が何も言わないのは、言いようがないからだ、無駄死にだけはするなよと言う。田村(船越栄二)は、分隊長の言葉を復唱し、部隊を出発する。田村の姿を見て、塹壕堀りをする仲間たちは目を逸らす。田村は部隊のお荷物なのだ。

2009年7月6日月曜日

夏祭り。

    朝から大門の歯医者。地下鉄に乗っていたら、今日の16時以降でないと届かないと留守電が…。大門の駅に着いてしまっており、明日に変更して、新宿に戻り、せっかくなので、ジュンク堂へ。面倒だなあ。

    神保町シアターで、没後四十年成瀬巳喜男の世界
    66年東宝成瀬巳喜男監督『女の中にいる他人(386)』
    田代勲(小林桂樹)が赤坂のビアホールでジョッキを前に浮かない顔をしている。そこに、杉本(三橋達也)が通り掛かり、一人か?と指で挨拶をして入ってくる。田代は、東京に用事があったのか?と尋ねると、近くの弁護士事務所で打合せがあったんだと言って、ジョッキを頼む。田代が会社に戻らないと聞いて、杉本は、妻のさゆりを誘ってみようともう一度会社に電話をしてみるがいなかったと杉本。
    一緒に鎌倉まで戻り、馴染みのバー並木に入る。マスター(加東大介)が電話を取り、杉本宛てだと言う。さゆりが事故に遭ったようだ。赤坂三幸町のアパートと言うから、どうも君と会ったビアホールのすぐ近くらしいな、とにかく今から行ってみると杉本。
     田代が帰宅する。妻の雅子(新珠三千代)が玄関に出迎える。今まで杉本と一緒だったが、妻のさゆりさんが事件に…、いや事故に遭ったらしく東京に戻ったと言う田代。田代の家庭は母親の栄子(長岡輝子)と、息子の広志(稲吉千春)と娘のまり子(塩崎景子)の5人家族だ。
    赤坂のアパートに着いた杉本を出迎えたのは、妻の友人でアパートの部屋の住人の加藤弓子(草笛光子)と刑事だっだ。事故ではなく、事件で絞殺されたのだと言う。変わり果てたさゆり(若林映子)を確認した杉本に、刑事は、お住まいは鎌倉でお仕事は横浜でしたねと言う。今日はと聞かれ、弁護士事務所で打合せがあり、東京に来ていたが、さゆりの勤め先の化粧品会社に何度か電話をし、不在だったと説明をする。
   翌朝、田代が食堂に行くと、雅子が杉本さんから連絡がなかったわねと言う。険しい表情で新聞を読んでいた?が、杉本さんの奥さんのことが出ていると言う。赤坂のアパートで杉本さゆりが絞殺されたと出ている新聞を母親から受け取る田代。
  出勤前に杉本さんのうちに顔を出すでしょと雅子に言われ、複雑な表情の田代。杉本の家に行った時も変わらなかった。早く犯人が捕まるといいなと声を掛け、やって来た刑事たちと入れ替わりに杉本家を出る田代。
    田代は勤め先の新世紀書房に遅れて出勤した。社員たちが、噂をしている。呼んでいると言われ社長(十朱久雄)のところに行くと、新聞に出ていた被害者の杉本って、以前君に紹介された杉本さんの奥さんかい?と聞かれ肯く田代。秘密にする訳ではないが、社内では黙っていてくれと頭を下げる。社長室を出ると、社員たちが事件の噂をしている。女子社員が、自分の近所に事件が起きたアパートの加藤弓子の姉が住んでいて、こんな怖いところには眠れないと言ってやってきて話を聞いたと言う。新聞を読んでいた黒岩(藤木悠)が、被害者の家って田代さんのご近所じゃないですかと声を掛ける。夫の杉本さんはよく知っている人なんだと田代。
   田代家では、嫁姑が事件について話している。とても綺麗で明るい人でしたと言う雅子に、あたしはどうも気に入らなかったと言う栄子。以前夫婦でウチに来た時、杉本が孫たちと遊んでいる時に、さゆりさんが、勇夫を見るときの視線がいやらしかったと言うのだ。勇夫も、さゆりのタバコに火を点けたりして、気が気でなかったわとも付け加える。雅子は全く気付いていなかったし、そんな人じゃありませんよと否定した。

   成瀬巳喜男としては、サスペンスタッチの異色作だが、サスペンス的な盛り上がりには全く関心がないかのように、家庭劇に落とし込んでいる。情事の最中に首を絞め誤って殺してしまっても、編集部員が会社の金を横領し、長崎まで女と逃げても、まあ大したことじゃないんだろうな。むしろファムファタールさゆり役の若林映子と家庭を守る貞淑な妻の筈の正子役新珠三千代の女対決の前に、小林桂樹と三橋達也は影が薄い。そのせいか、実際の尺よりも長く感じた。

     シネマヴェーラ渋谷で、神代辰巳監督レトロスペクティブ
     81年にっかつ神代辰巳監督『嗚呼!おんなたち猥歌(387)』
   新宿ロフトでアナーキーのライブをやっている。後ろで見ているジョージ(内田裕也)。ジョージは売れないロック歌手だ。激しい雨が降る中、ジョージの運転する車の助手席に佳江(角ゆり子)が乗っている。良枝はファンだったが、トルコで働かせ同棲している。ジョージには妻子がいるが、月に一回生活費を振り込むだけだ。勿論その金も佳江が出しているのだ。佳江は子供が欲しいと言うがジョージは許さない。こんな生活に疲れたと佳江は、横からハンドルを切った。崖から落ち横転している車。ジョージは気がつき横を見ると佳江は血だらけで気を失っている。
     病室に包帯を巻かれた佳江が運ばれてくる。呻き声を上げているが薬で眠っているらしい。妙に色っぽい看護婦(中村れい子)が、ジョージに今度のライブはいつですか?何かあったら呼んでくださいと言って出て行こうとするのに絡むジョージ。やっと看護婦は出て行くが、ナースコールを鳴らし続けるジョージ。やってきた看護婦を殴りつける。泣き出す看護婦に強引にキスをしてのしかかるジョージ。看護婦は感じ始めている。隣で何も知らずに呻きながら眠っている佳江。
     パンを食いながらシャワーを浴びるジョージ。マネージャーのユタカ(安岡力哉)から電話がある。俺は大丈夫だったが、あっちは入院したと答える。駅に行くと、ポスターやカラオケセットなどキャンペーン道具一式を持っているユタカ。俺が何年ロッカーやってるのか知ってんのか。そこらのガキみたいに、今更レコード屋まわりとか演歌歌手みたいなことを俺にやらせるのかとジョージ。でもレコード売れなきゃしょうがないんです。穴が開いてるし、ギザギザだから下敷きにもならないんです。今度の曲はこういう売り方がいいんですと言うユタカ。
    上野駅前のレコード屋、中でメイクをしているジョージ、ポスターを田原俊彦の上に貼るユタカ。カラオケで歌い始めるが、足を止める人はいない。しかし、きちんと歌いきるジョージ。レコード屋の気だるそうな女店員(いずみ由香)がサインをくれと言う。夜は場末のクラブで営業だ。地元のチンピラのような客たちは、ウルサい!与作を歌え!と野次ばかりだ。ジョージは途中で自分のカラオケテープ(8トラック!?)を引っこ抜いて、与作に差し替え歌い始める。ジョージは、客のグラスを頭から掛け、喧嘩に、腕に覚えのあるユタカと暴れまくり、店から逃げ出す。その夜、レコード屋の女店員を抱くジョージ。
    花束を抱えたジョージが病院にやって来た。いつぞやの看護婦が、患者さんは?に退院しましたよと言う。花束を看護婦に渡すが嫌な顔をされたので、そのままゴミ箱に捨てる。
看護婦の名札を取り、鈴木さん電話番号を教えて下さいと言う。聞いても覚えられなかったので、薬の袋に書いて貰う。
    数日後、佳江が、家で鏡を見ながら絆創膏を剥がす。腕に包帯は巻かれているが、顔の怪我は目立たなくなった。ジョージの服などの洗濯を始める。シャツのポケットに電話番号が書かれた薬袋を見つけ、形相が変わる。
   ジョージがいくつかの箱を持って、いそいそと歩いている。とあるアパートを訪ねる。中には妻の恵子(絵沢萌子)がいる。息子の勇介はと尋ねるジョージ。もうすぐ帰ってくるわよと答える恵子。今日は勇介の誕生日なのだ。ケーキにロウソクを立て、誕生プレゼントのリモコンカーを走らすジョージに、恵子はもう別れて、月に一度生活費を送れば夫だと、勇介の誕生日だけくれば父親だと思っているの?こんな蛇の生殺しみたいな人生は嫌だと言う。来年勇介は小学校、父兄参観に来れる父親を探すはと吐き捨てる恵子。ジョージは、勇介だけは離したくないのだ。いきなり恵子を抱こうと襲いかかるジョージ。そこに勇介が帰ってくる。お兄ちゃんにローラースケート買って貰ったと嬉しそうだ。後ろにユタカがいる。そういうことだったのかとジョージ。ユタカさんは、あんたなんかと全然違うと恵子が言うが、ジョージには聞こえていない。
    2丁目あたりのスナックで飲みつぶれているジョージ。ママに、しきりと有線でワンナイトララバイはまだかからないかと言う。あまりに五月蠅いので、隣で飲んでいた客(石橋蓮司、高橋明)がいい加減にしろと言う。そこに、ジョージのワンナイトララバイが掛かるが、結局、客と喧嘩になるジョージ、一方的にやられるジョージ。
   血だらけのジョージが電話ボックスで、急患ですと、電話をしている。あの看護婦の部屋で、血を拭い手当てしてもらっているジョージ。女の名前は、羊子。うちには薬はないのよと言う。血を舐めるうちに、布団一組しかないのよと羊子。ジョージの上にのしかかり、首を締めながら求める羊子。翌朝、ユタカが、佳江の部屋を訪ねる。ジョージがいないことを知ってしまったと言う顔をするユタカ。慌てて、ライブハウスの仕事で昨日自分は動いていたので、ジョージさんが帰ったら電話するように言ってくださいと言って逃げるようにドアを閉める。佳江は、羊子の部屋に電話をする。ジョージがそこにいるでしょとヒステリックに叫ぶ佳江の声が聞こえないかのように、羊子は、受話器をジョージの首に巻き締める。号泣する佳江の声が聞こえる。
   佳江が羊子の部屋にやってきた。今ジョージは出かけたわよと冷たく言う全裸の羊子。二人は罵り合い、叩きあうが、相手を罵れば罵るほど、自分も同じことを感じて傷つくだけだった。トルコで働かせるのは酷いわよねと言う羊子。泣くことしかできない二人。その頃、ジョージは雀荘でボロ負けし、49万円の借用書を書いている。佳江との部屋に帰ってくるジョージ。佳江は、田舎の母親と電話しているところだった、心配する母親に弁解している佳江。ジョージを見て泣きながら殴ろうとする佳江。されるままのジョージ。なんで奥さんじゃなくて、あの看護婦なのよと叩き続ける佳江。ジョージの服を脱がせるが、あの女の匂いがすると叫んで、バスルームに引っ張って行き、シャワーを浴びながら、ジョージを求める佳江。
   新宿LOFTライブのリハーサルだ。内海利勝(元キャロル)たちバンドは最高だ。佳江が陰毛を線香で焼き切っていると、ジョージが帰ってくる。ジョージの身体を求める佳江。そこに、羊子がやってくる。なんであんたとしているのと形相が変わった羊子は、台所から包丁を持って来て、ジョージの足を刺す。ジョージの血を舐め、身体を求める羊子。隣で、なんでジョージを取るんだと泣き喚く佳江。
  LOFTのライブは満員で盛り上がっている。ステージを降りたジョージに、ユタカが、有線チャート30位以内に入りましたよと言う。俺が何枚レコード出したと思っているんだと信じようとしないジョージに、ピンク電話で有線に電話し、ワンナイトララバイは今何位ですかと尋ね、受話器をジョージの耳に当てる。29位か・・・としみじみするジョージに、嬉し泣きするユタカ。

    80年にっかつ神代辰巳監督『快楽学園 禁じられた遊び(388)』
    都立第一高等学校、女教師(山科ゆり)が3年B組の教室に入ると、突然生徒たちは、土下座をする。ヒステリックに激怒する女教師は、他の教師たちを呼んでくる。神聖な学校を冒涜するこんなことを企んだのは、誰だと問い詰める教師たち。学級委員のみちお(池田光隆)が首謀者として連れ去られそうになった時に、みちおを慕う鈴木幸子(太田あや子)は、みちおを救おうと私が首謀者ですと名乗った。
    職員会議室では、首謀者の鈴木幸子の処分で意見が割れていた。退学を断固主張する女教師に、もっと教育的見地から穏便な処分がいいのではないかという校長(高橋明)。首謀者の鈴木幸子はどうしていると尋ねると、教頭(野上正義)が化学実験室で器具の掃除をさせていると言う。その頃、鈴木幸子は、試験管を試験管ブラシで洗浄しているうちに、何か興奮してきて、自分の股間に試験管ブラシを当て、自らを慰めている。会議が長引き、トイレに行った教師は、化学実験室で声を上げる幸子を発見する。神聖な教室で、なにをやっているのだといいながら、代わる代わる幸子を辱める。?先生、岩波先生、教頭、校長とキリがない教師たち。しまいには、トイレに行きたいという女教師を失禁させ、のしかかる。一人、佐藤先生(北見敏行)のみが、この風紀紊乱な学園を憂慮するのであった。


    いつもの散髪屋に寄ってから、
    クラブクアトロへ、デビュー当時担当していたJというバンドが、少年ナイフと一緒に出演。しかし、クアトロビル、ブックオフになっていて驚く、更にクラブクアトロの内装も変わり、喫煙ルームが出来ている。いつからなのか(苦笑)。デビュー20周年だったのか…。継続は力なりと言うか、100メートル走のスプリンターのように走り抜け、気がついたら自分たちのペースで今も気ままに走り続けている彼ら。昔を懐かしむと言うよりも、ライブそのものを楽しんだ。少年ナイフ、10年振りくらいだろうか、メンバーも変わっているような気もする。やっぱりいいなあ。

2009年7月5日日曜日

調子に乗って観過ぎた映画

    ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン[第47弾]吉永小百合
   66年日活蔵原惟繕監督『愛と死の記録(380)』
    沢山の鳩がいる。大きな音を立てて飛び立つが、二羽だけ残っている。
    広島の中本総合印刷の印刷工場、三原幸雄(渡哲也)が親友の藤井(中尾彬)にレコードを弁償しなければならないので、二千円貸してくれと言う。ガールフレンドがレコード屋にいるので、原価で手に入るぞと藤井は言うが、訳あってそうはいかないんだと幸雄。終業時間になりバイクで会社を出る。橋のたもとにバイクを停め、橋を渡ってくる娘(吉永小百合)に、これと言ってお金を渡す。お店の品だから、これでは多すぎると答える娘に、多い分は慰謝料じゃと言うと、返そうとするので、男が一度出した金を引っ込められないとぶっきらばうに言って走り去る幸雄。
    会社の独身寮に帰り、藤井に金を返すと、若い女の子に慰謝料とかって言う言い方はいけないなと言う。驚く幸雄に、バイクの前方不注意で、レコードを割ったので、二千円弁償したんだろと全て知っている。レコード屋にガールフレンドがいるって言っていただろう。俺と付き合っていると知って、がっかりしたかと藤井は言う。
      翌日会社で、幸雄は上司の岩井(佐野浅夫)に、技術を誉められる。幸雄は、写真製版工なのだ。藤井は、会社で電話をしている。相手はレコード屋の店員のガールフレンドのふみ子(浜川智子)だ。昼時、幸雄が社員食堂で食事をしていると、藤井が、彼女がどうしてもお金を返したいので、昨日の場所に一人で来てくれと言っていると言う。幸雄が出掛けると、娘がやって来た。どうも話が噛み合わない。娘は、幸雄のことを同じレコード屋で働くふみ子の彼氏の藤井だと思っていたのだ。二人は彼らに担がれたこてを知って笑い出す。喫茶店で話をしている二人。娘の名は松井和江。みんなにバンビと呼ばれていると言う。十字屋楽器店で働き、母親と兄夫婦と弟で暮らしていると言う。兄は市役所に勤めているが、最近うまく言っていないとか、音楽のこと、禁じられた遊びの映画について話は尽きなかった。
     翌日、店で遠い目をする和江に、幸雄さんのことをまた考えていたなとふみ子。ふみ子の頬を抓る和江。私たちが二人のキューピットなことを忘れたかとふみ子。藤井が、ふみ子から今度の休み4人でドライブに行こうと誘う。岩井さんのウチを訪ねる約束だったが、夜にすると幸雄。
    次の週末、瀬戸内海沿いの道を走る二台のバイクがある。ノーヘル、二人乗りで、有料道路も走る。二組のカップルは一緒に弁当を食べる。そこから二組は別行動になった。海沿いの堤防に、幸雄と和江がいる。今日のことは永遠に忘れないと言う和江に、10年後の二人がそれぞれ今日のことをどう思い出すだろうかとへんなことを言い出す幸雄。10年後、私たちは別れてしまっていると言い出すのと気色ばむ和江。しかし、何か屈託がある幸雄。雨が降り出し、雨の中バイクを走らせる。途中乱暴に和江を下ろし、バイクを出す幸雄。しかし、少し離れたところにバイクを停め走っ、和江を追い掛けてくる。強く抱き締め、キスをする二人。


     京橋フィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで 2007-2008

     60年岩波映画黒木和雄監督『ルポルタージュ 炎(381)』
     激しく燃え上がる炎の前で踊り狂う女たちのシルエット。東京電力の火力発電所建設のドキュメンタリー。

     60年日活若杉光夫監督『ガラスの中の少女(382)』
     霧が掛かった湖を見ていた地元の男たちが女の子が浮いていると叫びあっている。もう助からないだろう、金にならない面倒を起こして最近の娘は困ったものだといいながら、船で引き揚げに向かう。仰向けに浮かぶ少女。
    高校生の沖中靖代(吉永小百合)は、四ツ谷駅で、中学時代の同級生の広田陽一(浜田光曠→光夫)に出会う。陽一に誘われ、靖代はみつ豆屋に行く。中学時代に陽一は靖代にラブレターを出したのは、友達と賭けに負けたがらだと言う。当時靖代はラブレターのことを家庭で話したために、大学教師の父親が腹を立てて、人間としていかがかと思うと叱られ陽一はかなり懲りたと言う。陽一は中学を出て玩具製造の町工場で働いているが、時々取引先に納品に来るようがあると言う。靖代に会いたい時は四ツ谷駅で待ち伏せすることにすると言う。
     帰宅した靖代に、母親の里子(轟夕起子)と、大学の助教授をする杉太郎(信欽三)が出迎える。オープンな何でも語り合う家族だったが、実は靖代の本当の父親の吉田は学徒出陣で出征し戦死した。万が一の場合は、恩師の?を訪ねよと里子に言っていたので、再婚し、実の娘以上に靖代を可愛がってきたのだ。しかし、あまりに女子の純潔と、結婚して幸せにすると口うるさい父親に、靖代は少し疑問を感じ始めていた。

   88年に製作された出目昌伸の同作は、吉永、浜田コンビ第1作のリメイクだと聞いていたので、まったく違うストーリーにびっくりだ。というか、この話を後藤久美子と吉田栄作(デビュー)コンビの映画化で、エンターテイメント性を高めたというのか、トンデモ映画にしてしまった88年版に、原作の有馬頼義は草葉の陰で泣いただろう(苦笑)。とはいえ、この映画も、確かに吉永・浜田コンビのフレッシュさは光っているが、65分の尺に纏めるためなのか、せっかくの民芸の役者陣や丁寧なロケ、セットなどもったいない使い方になっている。

      63年大映東京増村保造監督『黒の報告書(383)』
      殺人現場、資産家の柿本が殺されたのだ。凶器は青銅の壺だ。総武地方検察庁の検察官城戸明(宇津井健)は、河東署の捜査一係長の須藤警部補(中条静夫)や瀬川刑事(山中雄司)やベテラン刑事の津田進作(殿山泰司)らと、出動する。死亡推定時刻は午後10時過ぎ、第一発見者は被害者の息子で演出家の富美夫(仲村隆)が午前1時に帰宅して通報したのだ。富美夫曰わく、被害者の妻みゆき(近藤美恵子)とは夫婦仲が悪く毎晩夜中の2時過ぎの帰宅だと言う。その晩も、捜査中に帰宅した。みゆきの浮気の相手は、かって柿本の下で働いていた高利貸しの人見十郎。その日も来ていたようだ。


     シネマヴェーラ渋谷で、神代辰巳レトロスペクティブ
     94年ユニタリー映画/ティーエム・シー/エクセレント・フィルムズ
     神代辰巳監督『棒の哀しみ(384)』
      カジノバーで酔って管を巻いている男(奥田瑛二)がいる。そこに女の客(桃井かおり)がやって来て、バーテン(竹中直人)にブラッディーマリーを頼む。そのカウンターに男がふらふらと来て、ジンフィズのお代わりを頼むが氷や炭酸などに次々と因縁をつける。終いには、客を殴りつけ、ボーイと一緒に警察に連行される。女はバーテンに、男は酔っていなかった、多分本職だと思うと言う。今時、みかじめ代とか流行らないですよと答える。何か、店の営業を妨害するだけじゃないのと言われて、あっ連れて行かれたボーイは高校生だと言い、下手すれば営業停止じゃないのと言われる。
   警察の取調室で、手荒に扱われている男。彼の名は田中。大村組の組員で、刑務所にも4度、8年入っていた。翌日警察から出て来た田中は、自宅に戻り、部屋の掃除を始める。組長(平泉成)から電話がある。松川組とシャブの縄張りで小競り合いが起きて出入りだと騒いでいると言う。組長の大村は、若い女の所にしけこんで隠れているらしい。田中は、自分が話をつけるので、一人で出歩かないようにしてくれとだけ伝える。組長は、組のために何度も危ない橋を渡ってきた田中よりも、金勘定の上手い倉内(白竜)に目をかけ代貸にしていることが気に食わない。しかし他の組との諍いになると、組長は田中に頼るのだ。倉内は戦争の仕方を知らないのだ。
   情婦の亜弓に、出入りがありそうだとサツにたれ込めと電話をする田中。誰がこんな喧嘩でム所に入らなければならないんだからと独り言ちる。それから亜弓(高島礼子)のマンションに行く。どうした?と聞くと、私は大村組の田中の情婦だけど、田中に足を洗わせたいのでと言ったわと亜弓。満足そうに笑い、お前はいい女になったなと言う田中。田中の服を脱がせ、自分も裸になる亜弓。
    亜弓のマンションを出て田中が歩いていると鉄砲玉のチンピラが二人ドスを振り回して襲ってきた。叩きのめすが、足を刺される。今回の抗争のうまい絵を思いついた田中は、とりあえず止血だけして、舎弟の吉岡の所に行く。吉岡には、元大川組のチンピラだった梶田という弟分がいる。吉岡のアパートに行き、出入りだと言って上がり込んだ。杉本(哀川翔)にこっちに来いと電話をしてから、倉内には、鉄砲玉に足を刺された。全面戦争になるぞと脅かす。武器は木刀しかなかったが、杉本たちが来るといきなり梶田を殴りつけ、沈めろと拉致させる。田中は、梶田に、お前たちは大川組の内情を探りに、寝返ったふりをしようとしていたんだよなと言う。何のことか理解出来ない吉岡に繰り返した上で、大川をバラせと言う。仕返しに大川のタマ取らせたことにしたのだ。吉岡は見事、大川の腹に弾丸を数発打ち込み、自首した。
   田中は、大川組との手打ちに成功し、大村に呼ばれる。ロマネコンティを飲みながら、フォアグラを食べ、ヤクザと一緒でフォアグラは辞められないと言う大村。跡目の話かと貧乏揺すりをしながら話を聞く田中に、大村は、お前はいつまでも若いモンがやるような仕事でなく、直系を連れて自分の組を作れと言う。
    その晩、田中は自宅に杉本を呼び、組を作ることになったと言う。おめでとうございますと頭を下げる杉本に、自分の組と言っても、お前を含めてだった8人を連れて出るだけだ。上納金をしこたま奪われるだけなのだと吐き捨てる。
   田中には少し前から気になっている花屋の娘がいる。


   出だしはぬるいし、気が付くとVシネになっている。山中貞雄の「人情紙風船」じゃないが、これが神代辰巳の遺作なのかと考え始めると、色々と感慨が湧いてきたが、帰宅後、偶然撮影監督の書いたものを見つけて、邦画どん底時代(今、そこから何も変わっていないと思うが・・)の産みの苦しみを知って、休肝日のつもりがダラダラと飲み始めてしまう。


      74年日活神代辰巳監督『赤線玉の井 ぬけられます(385)』
      昭和30年頃、まだ赤線が廃止される前の話。玉の井の小福、ある年の正月のこと、直子(丘奈保美)が小さないびきをかきながら眠っている。隣に寝ていた客が、