2009年5月2日土曜日

土曜日に月曜日のユカ

   午前中は、昨日の疲れで、かなりの二度寝。
   昼から、阿佐ヶ谷ラピュタで、孤高のニッポン・モダニスト 映画監督中平康
   64年日活中平康監督『月曜日のユカ(282)』
   横浜のナイトクラブサンフランシスコ、そこに18歳のユカ(加賀まりこ)はいる。とてもキュートで、性格もよく、優しく、日曜日には教会に行き、望まれればキスは拒むが誰とでも寝る、しかし、汚れることはない、男たちにとって天使のような娘だ。
   彼女には荷役会社の社長をするパトロン(加藤武)がいる。パパは彼女の住む部屋に来ている。ユカは、隣の子供がジャマイカの混血児で、とても綺麗なコーヒー色の肌をしていると言う。パパはユカの白い肌がとても美しく愛していると言ってくれた。ユカは、パパが喜ぶためなら何でもしてあげたいと思っている。
    ユカには他にも若いボーイフレンドの修(中尾彬)がいる。修と会うときは、いつも横浜港の赤灯台でアオ姦だ。ユカは、修と、パパの家を見に行く。中で家族三人テーブルを囲み幸せそうな一家を見ながら、ここで抱き合おうと修に言うユカ。しかし、警察に公然猥褻罪だと捕まってしまう。取調室で、全て包み隠さず話すユカ。ユカは、教会の懺悔と同じことで、全てを告白し懺悔をすれば許されると思っていたので、警官たちとのやり取りはおかしい。
    月曜日になりパパが家に来ている。家計簿をつけて無駄使いをしないようにしているのと得意げなユカ。しかし、何故か収入が2000円とある。尋ねられて、何だか服から出てきたのと答えるユカ。
    ある日、クラブ・サンフランシスコのショーに、マジシャン(波多野憲)がやってくる。パパがなんとか契約を取り付けようと、貨物船サンフランシスコの船長を接待している。船長をステージに上げて、服を着たままワイシャツを脱がすマジシャン。楽屋で、メイクを落としているマジシャン。ユカが、何で黙って出て行ってしまったの?とても寂しかった、と話している。マジシャンは、ユカのかっての恋人だった。いや恋人だと思っていたのはユカだけかもしれない。ユカは、男に尽くし足りなかったので、出て行ってしまったのかと思っている。ユカは、今の男たちが自分に喜んで貰えていないのではないかと不安になり、かって横浜でパンパンをしていた母親(北林谷栄)に会いに行く。とにかく、男には尽くして喜んでもらおうと、みんなを心を込めて愛してあげた。だからこそ私も昔は本牧あたりでは、知らない男がいないくらい人気者だったと自慢する母親。ユカは、修の先輩で、トラベルビューローに勤めるフランクを訪ね、久し振りに抱かれた。
    ある日、修と街をぶらぶらしていると、妻娘と本牧で、パパが娘に人形を買ってあげているのを見かける、娘の喜ぶ顔を見るパパの顔も本当に嬉しそうだ。ユカは、自分もパパに人形を買って貰うとパパを喜ばせることができるのではないかと思う。月曜日、サンフランシスコの船長と会食をしようと言うパパとの待ち合わせに、精一杯着飾った母親を連れて、高級な会員クラブに出かける。パパと母親と自分の三人で、本牧に買い物に出かけ、人形を買ってもらおうと思ったのだ。しかし、外人客や、上流階級の日本人が集う昼間の会員クラブには、パンパン上がりの老婆は醜悪だ。好奇なというよりも、あまりに意外な醜悪の出現に店内の人々は凍りつく。パパは狼狽して、船長を連れクラブから逃げ出す。取り残されたユカと母親は立ち尽くしている。
    その夜、パパは何事もなかったように、ユカの部屋にやってきた。以前から、サンフランシスコの船長は、クラブでユカを見染めていたので、抱かれてやってくれないかと頼む。パパはこの仕事に命を賭けていると言うので、承諾するユカ。その話を修に話すユカ。その晩眠っていたユカはフランクに起こされる。修が死んだと言う。サンフランシスコ丸の船長を刺しに行ったが、船に上がろうとしたロープに絡まって死んでしまったと言う。修の死体が上がった港に行き、ムシロを掛けられた修と対面するユカ。ムシロを持ち上げ、修の死体に口づけをするユカ。
    サンフランシスコ丸のタラップを上がっていくパパとユカの姿がある。船長はご機嫌で、船長室を案内する。寝室のドアを開け、船長はユカをベッドに誘う。しかし、船長は強引にユカの唇を奪う。キスNO!!とユカの悲鳴が上がる。疲れ果てたユカが甲板にいるパパの所に戻ってくる。やさしく肩を抱き、パパは埠頭に連れて戻る。埠頭で、ユカは踊りましょうとパパを強引に誘う。ダンスというよりも、パパは振り回されている。しばらく踊り続けた末、ユカは手を放す。パパは、海に飛んでいく。しばらくもがいていたが、沈んでいく。その姿を見続けるユカは無表情だ。パパの姿が見えなくなると、ユカは、街に向かって歩き出す。

2009年5月1日金曜日

初陣大惨敗

   専門学校の非常勤講師の初日。90分2コマ。1コマ目は大惨敗。
どうも反応が薄いので、ネタを一方的に早口で話し続けたら、45分くらいで、マシンガントークが終了。そこから軌道修正のしようなく、ゲームオーバー。二コマ目のほうが、少しはマシではあったが、難しいなあ。自信喪失。
   燃え尽きてしまったが、
独身美人OLと新宿バルト9で、ジョン・ウー監督『レッドクリフⅡ(281)』
ファーストデーとGW重なって、バルト9、凄い人だ。1000円なら1950年代の昭和の映画館になるんだなあ。この方が、絶対映画館も、映画会社も収入増えると思うんだがなあ。
   レッドクリフは、相変わらず、本編とはレベルの違い過ぎる、三国志とはというオープニングCGと、いつまでも出続ける振り仮名など、何だかな日本版 の違和感はあるものの、前編より圧倒的に質量上回る合戦シーンは流石の迫力だ。「GOEMON」との差は、製作費だけではない筈だ。封印していた戦争好き の男子心が沸々と沸き起こる。そういう気分の時は、新宿三丁目で、ジンギスカン。

2009年4月30日木曜日

昨日も今日も晴れ、あした晴れるか

  明日の講義の準備をする筈が、参考資料にする筈の本をめくっているうちに、本気で読み始めてしまう。直接関係ないのに・・・。気が付くと、家を出ないといけない。途中で昼食べるつもりが、時間が無くなったので、途中で食べようと、ちゃちゃっとおにぎりを作る。形は悪い。炙った明太子、山椒昆布、オカカ、自画自賛したくなるほどの美味だ。こりゃいい。コンビニお握りよりも圧倒的に美味い。ちょっと、嵌りそうだ。
  中目黒に出て、ある映画の公開に関して手伝ってもらえないかという話。ちょっと、いくつかの偶然が重なって縁がある。お役に立てればいいなあ。そのあと、新宿に出て、ジュンク堂で本を仕入れ、
  
  阿佐ヶ谷ラピュタで、孤高のニッポン・モダニスト 映画監督中平康
  60年日活中平康監督『あした晴れるか(280)』
  神田秋葉原の青果市場(やっちゃば)で叔父の宮下満(三島雅夫)が専務をする青果卸の八百政を手伝う三杉耕平(石原裕次郎)がセリを仕切っている。吉田のおっちゃん(嵯峨善兵)がそろそろ時間だよというが、夢中な耕平は気が付かない。叔父が、後ろから時計を見ろと合図を出してやっと気が付く。家に戻り、カメラをまとめ、スーツやワイシャツ、ネクタイを抱えて、三輪トラックの荷台に乗る。   
   荷台の上で、着換え、サクラフィルム本社に到着する。しかし、走ってきたカメラを持った男と交錯すると、追いかけて来た娘(中原早苗)にネクタイ泥棒と捕まえられる。ネクタイ屋で、店主たちが、耕平に謝っている。そそっかしい娘が万引き犯と耕平を間違えたのだ。娘がお詫びのしるしに一本ネクタイを選ばせてと言う。何かいちゃもんをつけたみたいでタダで貰うのは嫌なので、お金を払うと言うが、900円と言われて驚く、耕平が付けていたネクタイは150円だったのだ。更に財布を持ってくるのを忘れていた。ポケットを探しまくり、やっとくしゃくしゃの1000円札を見つける。
   やっとサクラフィルムの宣伝部の部長室に飛び込む。しかし、中には眼鏡をかけた若い娘がいるだけだ。間違えたと思って一旦外にでるが、ここが部長室だと聞いて再び入ると、先程の娘が三杉耕平さんですねといい、プロフィールを確認し、更に小難しい写真理論を語り始める。耕平は何のことやらわからない。しかし、自分を宣伝部のニューフェースの矢巻みはる(芦川いずみ)と自己紹介するので、宇野部長はどちらですかと尋ねると、東京第一楼で昼食をご一緒するつもりでお待ちしていますと言う。宇野部長(西村晃)は、東京探検というテーマで写真を撮って欲しいと言う。
自由に撮って貰っていいと言われたが、助手として、みはるが同行すると聞いて、女は嫌だと耕平。泣きだすみはる。仕方なしに同意すると、宇野は、各社とタイアップしているので、挨拶廻りだ。トヨタとは、ニューコロナを提供して貰って、足代わりに使わせてもらい、他にもオーシャンウイスキー、森永製菓・・・。
   やっと、9社を回り30人位の人に会って、銀座のバー・ホブノブにやってくる。そこで、朝ネクタイ屋で泥棒扱いした娘が抱きついてきた。彼女の名前は、梶原節子。ネクタイ屋の店員より、こちらの方が見入りがいいので、前から移ることにしていたのだと言う。みはるは、耕平にベタベタする節子が気に入らない。結局、節子とみはるは、耕平を間に、喧嘩になってしまう。険悪な雰囲気に、宇野は、耕平に目配せをして、酔っ払ったので、帰ると言って、店を出る。
     宇野部長と一杯飲んで別れると、路地が騒がしい。みはるがチンピラ達に取り囲まれて、一緒に飲みに行こうと脅されているところだった。耕平は、機転を利かせ、みはるがチンピラに強烈なピンタをくらわしたところを、人混みの後ろからストロボを焚いた。チンピラ達が、耕平を追い掛けるが撒いて、みはるのところに戻る。金を10円しか持っていないと言うと、私が奢るから、飲みに行こうとみはる。みはるは酒豪だ。ウォッカなどの強い酒をぐいぐい飲む。いつのまにか、二人は、ご機嫌で酔っ払ってハシゴ酒た。実は、その光景を、チンピラ達は見ていた。〆てやろうとするところを、みはるの弟の大学生昌一(杉山俊夫)は、あのアベックの女は、自分の姉なので、代わりに殴られてやると止めに入る。5対1で、正一は殴る蹴るされて、泥だらけに。
    翌朝、耕平が目を覚ますと、知らない家のベッドに裸で寝ていた。そこに、みはるがやってきて、朝ご飯が出来たので、食堂に来いと言う。みはるを送ってきて、寝てしまったらしい。食堂には、東邦大学の数学の教授をしている、父親の矢巻泰助(信欣三)と母多加子(高野由美)がいた。弟の昌一は、今日も外泊だ。姉のしのぶ(渡辺美佐子)が起きてこないので、起こしに行った母の悲鳴が上がる。枕元には空になった睡眠薬の瓶が転がっている。驚いて救急車を呼ぼうとする耕平を、みはるは止める。悠々と目を覚ますしのぶ。睡眠薬が効いてよく眠れたわと言う。もともと瓶に2錠しか残っていなかったのだ。
   ようやく朝食を取り始めると、窓から泥だらけの昌一が顔を出す。どうしたの?とみんなが聞くと、姉を守るために、身代りにチンピラたちに袋叩きになったのだと言う。耕平を見て、美人局のような真似をして、写真のネガを貰わないと連中との収まりがつかないと言う。耕平は、カメラマンが撮影したフィルムを人に渡すことはできないと断る。耕平と昌一の間に緊迫感が高まった時に、しのぶの「あら触っていたら、蓋が開いてしまったわ」というのんびりした声がする。感光させてしまったのだ。これには、耕平も昌一も苦笑せざるを得なかった。
   やっちゃばに、一旦戻る耕平とみはる。八百政では、妻のお福から耕平の外泊について警察になんか届けるんじゃないと話している叔父の宮下の姿がある。そこに、みはるを連れた耕平がやってくる。みはるを家に送って、泊ってしまったのだと言う耕平の話を、全て分かったと言う顔をして、まあ、野暮なことは言わねえが、男としてちゃんと責任を取らなきゃならねえよと諭す宮下。時間がなく、家に向かった耕平たちに、お福に電話をする宮下。待ち構えていたお福(清川玉枝)は、支度をしに2階の部屋に上がる耕平ににっこり笑って、早く支度をしなさいと命じておいて、自分はみはるを相手に亭主操縦術を伝授し始めるのだ。
    それから、いつものように八百政の三輪トラックの荷台に乗り、サクラフィルムに目指す耕平とみはる。野菜と一緒に荷台に乗せられ怒っているみはるに、これが一番速いんだと宥める耕平だったが、交差点の真ん中でパンクをしてしまう三輪トラック。サクラフィルムの前では、ニューコロナを前に、三杉耕平の東京探検の出発を見送ろうと社員たちが集まっているが、肝心の耕平とみはるがやってこない。やきもきする宇野。ようやくやってきた二人をとにかくニューコロナに押し込んで、万歳三唱だ。どこに行けばという二人に、深川不動尊に行って、この東京探検の無事を祈ってもらえ、話は付いていると出発させる後ろのボンネットに掛けてあった蔽いを外して、にやりとする宇野。
    耕平は運転免許をもっていないので、ハンドルを握るみはると耕平が言い争いをしながら、走っていると、後ろから追い越す車から、おめでとうという声が掛かる。二人は気になりながら、口げんかを続けている。信号で止まった時に、後ろの車にぶつけられる。降りる二人に、気障な男が、いくら新婚だからって、ちゃんと運転に集中しろと文句を言って、修理代だと金を投げて、走り去る。「JUST MARRIED」と書いた大きな紙が車の後ろに貼られているのを見て、ようやく二人は他の車の反応に納得するが、それは、喧嘩を更にヒートアップさせただけだった。交差点に車を止めたまま、言い争う二人に、後ろに車が溜って、渋滞がおきている。
    深川不動尊で、車を前に、祈祷して貰っている間も、二人の口喧嘩は止まらない。坊主からも集中できないと怒られてしまう。東京探検の撮影の第一歩は、深川の近くということで、佃島に行く。撮影をしていると、向こうから節子がやってくる。気さくに声を掛ける耕平。しかし、再び、みはると節子の冷戦は、復活する。銀座まで行くという節子を送ってやるという耕平。車の中で、みはるに対し、運転手は黙っていて頂戴と節子は言って、耕平にベタベタする。みはるの眉がきりきり上がり、運転はどんどん乱暴になる。節子を落とした後に、そんなに女の人が好きならば、いいところに連れてってあげるとみはるが案内したのは、姉のしのぶが経営する近代書道教室だった。
    教室が終わり、しのぶは、耕平に婚約者の役をやってほしいと言う。見合い相手から、何度断っても、結婚を迫られ困っていると言う。今日、婚約者を連れてきたら人物鑑定をしてやると言われていたのだ。そこに、板倉茂夫(藤村有弘)がやって来る。耕平を婚約者だと紹介するしのぶに、こいつはとなりにいる女と今日新婚旅行中だったので、とんだペテン師だ、重婚だと言い出す。耕平も、こいつは人の車にぶつかっておいて、逃げ出すとんでもない野郎だと怒り出し、揉み合いの末、強烈なパンチをお見舞いして板倉を気絶させる。
   しのぶは胸がすっとしたわと言って銀座のバーホブノブに耕平とみはるを連れて行く。そこには、節子と話しをしている下田仁(庄司永健)の姿がある。しのぶは、下田を本当の恋人だと皆に紹介した。しかし、スノッブで女性的な話し方の下田を、耕平はどうしても好きになれない。更に、いつものように、みはると節子は喧嘩をはじめて騒々しい店を飛び出して銀座の街を歩いていると、愚連隊に絡まれている中年男(殿山泰司)に出会う。いらいらしていた耕平は、愚連隊を全員倒す。植松伊之助という中年男と、意気投合し、飲みまくる。植松は、女に苦しめられる古今東西の格言を上げ続けている。
   東京探検の撮影は順調に進む。スタイリッシュなシチュエーションを提案するみはるに対し、耕平は、歓楽街の立ちん坊の女や、夢の島のゴミの中で遊ぶ子供、野犬の処分場で必死に抵抗する捨て犬…斬新で、ショッキングな切り口の写真は、毎週、サクラフィルムの入り口前に掲げられ、人々の注目を集めた。
   変わったところが好きなんであればと、耕平をチャームスクールに連れていくみはる。淑女のたしなみとして、モデル歩きや、美しく見えるキスのやり方などを教える美容教室だ。キス教室の講師は、しのぶの恋人の筈の下田で、生徒とキスをしている。学校の校長室で、社長で、校長の植松クルミ(宮城千賀子)の話を聞いていると、専務の男が現れる。女の大変さで意気投合した植松伊之助だった。驚く耕平、飲み屋での話と仕事は別だと言う植松。そこに、下田が退職届を出しに来た。教師と生徒の恋愛は禁止なので辞めるのだと言う。耕平とみはるが追いかけて行って、下田に君はしのぶの恋人じゃないのかと聞くと、下田としのぶは契約恋愛で、お互いに他に好きな人間ができたら、いつ解消してもいいことになっていると言う。むかついて、一発でノックアウトする耕平。
   みはるの運転する車が、老人(東野栄治郎)が牽いている花を乗せたリヤカーに接触する。老人の表情がよくて写真を撮る耕平。老人が、空のリヤカーを牽いて、花のまちだという花屋に戻ってくる。老人は、車に接触されたが、自分には何もなく、しかし、車に乗っていた男女が全部花を買ってくれたので、大儲けだ。交通事故もたまにはいいものだと笑っている。花屋の主人の町田(宮坂将嘉)が、「清作さん、どうもあの人斬り根津が出所してきて、あんたに復讐しようと探しているという噂を聞いた。気をつけたほうがいい」と言う。
   

   眼鏡を掛けた芦川いずみがめちゃくちゃキュートで可愛い。テンポもいいし、こりゃ面白いなあ。

2009年4月29日水曜日

昭和の日に、昭和の映画。

   午前中は、自宅居酒屋の残りも無くなっていたので、ヒジキの煮物と牛蒡人参蓮根のキンピラを作り、洗濯と読書と惰眠。早昼を、冷凍庫に鰻の蒲焼きが随分前から入っていたのを思い出し、鰻丼。

   神保町シアターで、昭和の原風景
   44年松竹大船川島雄三監督『還って来た男(278)』
   長い石段の上で子供たちが、馬跳びをしている。石段の下から新聞配達の少年が上がって来る。馬跳びを見た少年は転んでしまう。そこに国民学校の先生の小谷初枝(田中絹代)と尾形清子(草島競子)が現れ、怪我を治療してくれる。新聞配達の矢野新吉(辻照八)は、明日名古屋の軍事工場に少年工員として行くのに、怪我をしたことが父親にバレたら怒られるので、内緒にしておいてくれと言う。石段を新聞記者の蜂谷重吉(日守新一)が駆け上がってきて、清子に、何で逃げるんだ、自分は君の兄さんと中学からの親友で、兄さんが戦死して天涯孤独な君のことを心配しているのが、判らないのかと言う。私のことは放っておいて下さいとつれない清子。急に雨が降り始める。近くの屋敷の軒先で雨宿りをする。清子と初枝に、持っている蝙蝠傘を渡して、雨の中去っていく。清子は、悪い人ではないけれど、いつもつきまとってくるし、蜂谷さんが現れると必ず雨が降り出すからと初枝に言う。
    雨の中、新聞を配り終えた新吉が家に帰る。家に入る前に包帯を取って捨てる新吉。新吉の家は、 12歳から船員になった父親の鶴三(小堀誠)が、45歳で船を降りて、船で鍛えたコックの腕で始めた洋食屋を潰して、楽そうだと始めたレコード屋の矢野名曲堂だ。姉の葉子(文谷千代子)と3人暮らしだ。翌日、名古屋行きの東海道線の中で、鶴三は、新吉に、自分も12で船に乗った、若いうちから一生懸命働くことが大切だと傷ついたレコードみたいに繰り返す。
    米原駅で反対側の大阪行きの汽車に、中瀬古庄平(佐野周二)が弁当売りに大声を出している。ようやく手に入れ、席に座る。対面に一人の若い婦人が座って将棋盤を広げている。覗き込んで、声を掛ける。時間潰しに、では一局となったところで、車掌がお医者さんはいませんかと声を掛けている。中瀬古は、私は医者ですと立ち上がった。胃痙攣の乗客に速やかに治療をし、席に戻る。将棋を再開し、ご婦人で将棋は珍しいですなと話かけると、辻節子(三浦光子)と言う婦人は、父親が将棋好きだったが、ハワイに移住して相手がいないので、娘の私が仕込まれましたと言う。しかし、両親を亡くし、最後の交換船で帰国したのだと言う。あなたはお医者さまでしたかと尋ねられ、軍医として南方の方に行っていましたと中瀬古。二人とも、飛車角が反対になっていて怪しいものだ。
   将棋盤は、中瀬古の実家で父親の庄造(笠智衆)との対局になっている。外地に行っている間に随分と腕が落ちたものだと言う父に、いや親孝行ですよと庄平。財産をみなお前に譲るが、お前はもう一つ貰わなければならんものがあると父庄造。よって近々見合いをせいと言う。神戸の造船所の技師の娘だ。自分は見合いは一度きりにしたいので、土曜日にある人間に会ってからにしたいと庄平はいい、見合いは日曜日に決まった。庄平は、京都の恩師の大林先生に相談することがあると言って出掛ける。しかし、何故か、奈良の大仏殿にいる庄平。すると、汽車で一緒だった辻節子に再会する。節子は何か縁のようなものを感じて嬉しそうだが、庄平は、京阪電車に乗って京都に行くつもりが、近鉄に乗って奈良に来てしまったので、奈良の療養所に行くことにしたのだと説明すると、じゃあと言って去ってしまう。
   庄平がバスに乗っていると、中瀬古軍医殿、中瀬古軍医殿と声を掛けて追いかけてくる兵士がいる。庄平は、走るな走るなと大声を出し、次の停留所でバスを降りる。南方で治療をした般山上等兵(山路義人)だった。いくら治ったと言っても無理をしたらいかんではないかと庄平。懐かしい再会に、思い出話をしながら、踏切まで来ると、向こう側に節子が立っている。やあと声を掛けられ、本当に節子は嬉しそうだ。しかし、その後は、2本の汽車が通って、ほとんど会話にはならない。やっと踏切が開いて、やれやれと節子が渡ろうとすると、庄平と般山の姿は消えている。
   療養所で診察をする庄平、その後京都に向かう。名古屋の工場の寮、雨が降っているので、室内で少年工員たちは、ジェステャーをやっている。新吉の順番になり、新聞配達となる。直ぐに正解を出せるが、窓際に行き、雨を見ながら、かっての生活を思い出し、矢野名曲堂に帰ってきてしまう。鶴三に怒られて、名古屋に帰っていく新吉。
   庄平が、国民学校の生徒を引率している初枝に、この32番地の矢野和子さんのお宅を探していますという。22番地の間違いであった。そこに、節子が現れ、古美術の大河堂を探しているのですがと、初枝に声を掛ける。節子は、庄平との縁を感じずにはいられない。二軒とも近くなので、案内しますと初枝。
    庄平は、矢野名曲堂で、葉子と話している。庄平宛に慰問袋を送っていたのは、葉子の母和子だったが、去年亡くなり、その後は、葉子が送っていたのだと言う。そこに、鶴三が帰宅し、庄平に身体を見て貰う。少し胃拡張気味だが、健康体ですと庄平。鶴三は、自分が12歳で船乗りになってと話を始める。気が短い庄平は、しきりと話を打ち切ろうとするが、なかなか鶴三はしぶとい。急に庄平は、医者の不養生というが、自分は子供のころから麻疹以外、何の病気もしたことがない健康だ、マレーで現地の子供たちを見るうちに、これは帰国したら日本の虚弱児童を集めた施設を作ろうと思った。幸い、父親が財産を譲ってくれるというので、さっそく取り掛かろうと思っていると話し始める。さすがの鶴三も目を白黒させて聞いているだけだ。
   節子は、大河堂の主人に、話をしている。かって、父親がハワイに移住する際に、長野で処分した先祖代々の財産の中で仏像だけは、手放すのではなかったというのが父親の遺言なので、その仏像を探し歩いて、ようやくここにたどり着いたのだと言う。主人は、そういういわくがあったものですかといい、実際、仏像をこの店に持って帰る途中、汽車の中で胃痙攣を起こし死ぬ思いをしたので、気味が悪くて、すぐに売ってしまったのだと言う。肩を落とす節子に御得意さんなので、売り先を紹介しますよと主人。
   庄造の前に節子がいる。わしは、人には5分しか会わないことにしている。1分で説明してくれと庄造。節子の話を聞くなり、そういう仏像でしたか、気に入っていたのだが、お渡ししましょうと言う。どうせ、三日後に息子の見合いがあり、そうすると全財産は息子にやってしまうので、ただで差し上げましょうという。そうですか、息子さんのお見合いでと節子が言うと、人に上げるのが好きな人らしいから貰っておきなさいと息子の声がする。顔を上げると庄平だった。驚き笑顔になる節子だったが、三日後に見合いという話を思い出して、切ない表情に。
   国民学校の教室で、初枝が、近畿地方についての授業をしている。校庭では、尾形清子が薙刀の授業中だ。授業を終えて、校舎に入ってきた清子に、峰谷が待っていた。新聞記事を差し出し、あなたは、南方への派遣教員の募集に応募していたのですね、合格者のリストにあなたの名前があったので、早刷りを会社から持ってきましたよと峰谷。南方であれば、かって自分は報道班員として派遣されていたのだから、相談してくれればよかったのに、頼りない男かもしれないが・・と峰谷。しかし、清子は、誰の力も借りずに、兄が戦死した南方で働きたかったのだと答える。そこに、初枝が通りかかり、先日お借りした蝙蝠傘をお返ししなければと言うと、今日は別の傘を持っているので、大丈夫ですと言って去る峰谷。初枝が、清子に、峰谷さんひげを剃ったのねと言う。
    峰谷が歩いていると、矢野鶴三の顔馴染の夜店屋が慌てて引き返してくる。矢野名曲堂の軒先から葉子が、どうしたのと尋ねると、あの新聞記者が歩いていると必ず雨になるので、商売上がったりだと言う。事実雨が降り出す。矢野名曲堂に、峰谷が来ている。葉子に「雨だれ」のレコードを掛けてくれと言って聞き惚れる。そこに、新吉が帰ってくる。鶴三は、お前が雨が降るたびに寂しくなって休んでいたら、それだけ飛行機の増産が遅れるのだ。自分も付き添ってやるから直ぐに名古屋へ戻ろうと鶴三。
   神戸の工場で働く、般山上等兵を診察し、健康だと太鼓判を押して、工場を出て歩いていると、節子に会う。節子は、父親の遺言の仏像をお寺に納めて、ようやくすっきりしたので、神戸の工場で働くことにしたのだと言う。庄平は、戦地で一番辛かったのは、中学の友人に再会したが、治療の甲斐もなく亡くなってしまった。友人には、たった一人の身寄りの妹がいる筈なので、明日の命日、その妹に会ってから、見合いをすることにしたのですと言う。昼休みの終了のサイレンがなり、節子は仕事に戻って行った。
   国民学校で運動会が行われている。初枝が、場内アナウンスをしている。庄平が、尾形清子と言う人を探しているんですと先生らしい男性に尋ねると、マラソン大会の出場者が足りないので出場してくれと頼まれる。その先生からゲートルを借り、足に巻く庄平。ビリからスタートした庄平だったが、最後には1位でゴールする。マラソン競争の結果のアナウンスをしようとした初枝が、優勝者が中瀬古昌平と書いていあるのを見て驚く。翌日の見合いの相手だったからだ。
   レース後、庄平は、ようやく尾形清子を見つける。清子のとても前向きに生活している姿を見て安心する庄平。その時、急に雨が降り始める。果たして峰谷がやってくる。峰谷と庄平は、中学が一緒だったのだ。10年ぶりの再会に喜ぶ二人。尾形の思い出から、中瀬古家に場所を移して、庄平は、虚弱児童の施設の開設の話を熱弁している。メモを取っている峰吉に気が付いて、新聞には書くなよと釘を刺す庄平。そこに、庄平の母の寿子(吉川満子)が酒を持ってきて、あなた脚絆巻いているのねと言う。運動会で借りて返し忘れたと庄平。庄平と峰吉は飲み、妻を娶らばさいたけて~と歌う。
  その雨の夜、葉子が、中瀬古が明日見合いをするという話を思い出して、切なくレコードを掛けていると、やはり、新吉が帰ってきてしまう。鶴三は、新ぼうは、そんなにおとっつあんや姉ちゃんの側が恋しいのか・・。それなら、父ちゃんも姉ちゃんも、一緒に名古屋に行って働こうと言う。葉子は、中瀬古先生が、薬を持ってきてくれるっていっているのに、というが、鶴三は、お国のためだからわかってもらえるだろうと聞く耳を持たない。
   翌日の日曜日、庄平は国民学校にゲートルを返しに行く。木下先生はいらっしゃいますかと、職員室に声を掛けると、初枝が宿直でいるだけだ。初枝は古瀬古のことを知っているが、庄平は分からない。昨日マラソン大会の時に、借りたゲートルを返していないことに帰宅してから気が付いて、ゲートルに清水と書いてあったので、たぶん清水先生のものだろうと思って返しに来ましたと言う。初枝が話しかけようとすると、せっかちな庄平はすぐに帰ってしまった。ゲートルを見て、初枝は楽しそうに笑う。
   帰宅した庄平に、母親が今日あなたの見合いなのに、そんなままでいいのと声を掛ける。明日ではなかったでしたっけと庄平。休日、学校に顔を出した清子に、峰谷がやってくる。再び報道班員として、南方にいくことになった。これは、あなたとは関係ない、いや、あなたが南方に行くと聞いて志願したと思って貰ってもいいと言う。清子は、初めて笑顔で、向こうでも会いましょうねと言う。南方では、始終雨が降るから、雨男とはいわせないぞと言う。
   庄平が矢野名曲堂に、鶴三の胃拡張の薬を持っていくと、「廃業のお知らせ」が貼ってある。名古屋に向かう汽車に乗る家族。そこに、夜店屋のおやじが声を掛けてくる。夜店屋も、雨や槍が降っても出来て、お国のために名古屋の工場に行くのだ。神戸の工場、節子は、今日が庄平の見合いの日曜日だと思いだしている。機械油で、顔を汚して仕事に励む節子。
   庄平に庄造が、お前の虚弱児童向けの施設の話が新聞に出ていたぞと言う。峰吉に、書くなと言っていたのに、と文句を言おうと、電話に向かうと、電話が鳴る。庄平宛に、初枝からだ。ここに及んでいくら鈍感な庄平でも、小谷初枝という見合い相手の名前は知っている。さっき学校に持って行ってゲートルには、中瀬古と書いてあったというのだ。こんなせっかちで、そそっかしい男ですが、さっき会ったことは見合いではなかったとしてくださいと言いながら、私は、落第ですか、及第ですかと問い詰めるうちに電話は切れている。母親に見合い写真を始めて見せて貰い、庄平は、国民学校に走っていく。校門前の石段に、初枝が出て来ている。自分のゲートルを受け取って、庄平は、僕は、落第ですか、及第ですか、と尋ねる。あなたは、さぞかし、点の辛い先生でしょうねと言う庄平に、初枝は、国民学校には、落第はありませんと答え、微笑んだ。石段に立ったまま、庄平は、虚弱児童の施設作りを一緒に手伝ってほしいと、自分の夢を滔々と語りだし、止まらない。  

    川島雄三の処女作。なかなかいいテンポのライトコメディ。戦時中なのに、戦意高揚とは言い難い。一応、航空機を増産するために、工場に行ってお国の為に頑張るんだと言うが、少年工員の新吉は、父親と姉と離れて暮らすのが寂しくて何度言っても帰ってきてしまう。銃後の厳しい生活と言うより、2枚目の佐野周二を見る女たちの目にはハートマークが出ているし、国民学校の運動会の父兄マラソン大会やら、なんだかのどかな雰囲気だ。まだ、制空権を奪われてB29が来襲するようになる前で、まだ戦争が、遠い北支や南方で行われていた気分だったのか、本土決戦という緊迫感はない。

   結構お客さんが入っているが、やっぱりこういう監督で引きの映画のお客さんは、圧倒的に男だな。勿論、後期高齢者が中心。

    阿佐ヶ谷ラピュタで、孤高のニッポン・モダニスト 映画監督中平康
    60年日活中平康監督『地図のない町(279)』
   青年医師の戸崎慎介(葉山良二)は、急患を死なせてしまったことが心の傷となり、病院を辞め、昼間は競輪場、夜は怪しげな酒場で荒んだ生活を送っていた。ただ一人の血縁である妹の佐紀子(吉行和子)は、そんな兄が立ち直るのを待っていた。しかし、咲子は婚約者の梶原五郎(梅野泰靖)とテニスをした帰り道、梓組の半被を着た5人組に襲われ暴行を受けてしまう。翌日睡眠薬自殺を図った佐紀子は、すんでの所を兄妹の亡父と友人であった医師の笠間雄策(宇野重吉)に救われた。悔い改めた戸崎は、佐紀子の婚約者の梶原を役所に訪ねるが、町のボスの梓米吉(滝沢修)に目を付けられることを恐れた梶原は、佐紀子のためにそっとしておいた方がいいと言う。結婚に対しても考え直したいとの発言に、戸崎は梶原を殴ってしまう。
    その頃、歓楽街で客を引いていた幼なじみの小室加代子(南田洋子)と再会する。加代子の一家が住むスラム街の東雲町に、妹と住むことを決意し、加代子の父親の養七(浜村純)の家の二階に間借りをする。あの事件以来、佐紀子は心を閉ざし、ミシンを踏み続ける毎日だ。戸崎は、笠間の診療所を手伝うことになる。笠間は貧しい東雲の住人たちのために、診療代も取らずに治療するため、高利の金を借りていた。
    戸崎は、妹を強姦した梓組の破落戸たちを許すまいと、警察に通い、最後には、梓建設の社長と市会議員が表の顔である梓米吉を訪ねるが、全く相手にされない。更に、ある日、加代子が、米吉の妾になることになった。打ち明けられた戸崎は、自分の無力さに歯軋りをするばかりだった
   東雲一帯を、整理して市営団地を建てる計画が明らかになる。このスラム街は、戦後のどさくさに勝手に家を建て出来あがったのだ。市会議員で更に市の土木委員会の委員長となった梓は、市営住宅の建設だけでなく、住民たちの立ち退き、整地など、この事業の全てを独占した。スラム街の人間たちに、そもそも市有地に無断で家を建てて住んでいるお前らには、1万円の立ち退き料しか払わないと脅される。
   笠倉診療所を借りて、住人たちの集会が行われる。江田兼造(小沢昭一)、小室養七(浜村純)、川西辰次(嵯峨善兵)たちは、笠間診療所で笠間に代表になってくれと頼むが、診療所は自分の土地として登記しているので、支援はするが、自分が代表になるのは問題だと言った。集会が終わり、腕を撃たれた持田政雄(山内明)が治療をしてくれとやってきた。持田は、傷マサと呼ばれる梓組の幹部だったが、人を射殺して刑務所に入っていたが出所してきたのだ。さっそく、撃たれて診療所にやってきた。梓組の人間と聞いて治療をしないと戸崎は言うが、医師として治療してやれと笠間に言われ、仕方なしに麻酔を使わずに、弾丸を摘出してやる。戦地を思い出すなあ、この荒っぽい治療の借りは必ず返すと持田は言って去る。
   なかなか長屋の住人がうんと言わないので、梓組の破落戸たちが、長屋衆を見かけると路地に引き込んで殴る蹴る、商売の邪魔をすると嫌がらせを始める。更に、笠間診療所が丸一に借金があることを嗅ぎつけ、その債権を無理矢理買い取って、期日まで40万を払わなかったら、担保になっている診療所の土地建物を引き渡せと通知してきた。笠間は、丸一と梓建設の顧問弁護士のもとに赴くがらちは開かない。実は、診療所の土地に市営住宅向けのスーパーマーケットを建てようとしていたのだ。慎介は、梓は街の疾患なのだから、無理にでも取り除かないと駄目なんじゃないかと言うが、笠間は、我々は医者何だから、医者のやり方しかないのだと答える笠間。慎介は、納得出来ない。
   慎介は、加代子から、加代子の住まわされている妾宅の風呂が改装しているので、毎晩10時頃加代子が銭湯に行く間、米吉が一人でいると聞く。妾宅は、映画館の裏だ。二階から中が見える。加代子が銭湯に出て行くと、米吉は、射的の鉄砲で、加代子の飼い猫を撃っている。その残虐な顔をぶち殺したいと思うが、加代子の家に向かう路地の入り口には、待田が見張っていて、慎介を見てにやりと笑う。仕方なしに家に帰ると、一階の雄七の所に長屋の連中が酒盛りをしている。立ち退き祝いだと自嘲気味に盛り上がって騒いでいる。間借りしている二階に上がると、佐紀子が箪笥の引き出しから預金通帳とハンコを出し、更に、母親の片見の指輪も対した金額にならないだろうけれど、まだ負けた訳じゃないと差し出した。それを見ていた長屋の連中も、梓組の破落戸に強姦されて以来心を閉ざしていた佐紀子の気持ちに心を打たれる。その輪は広がり、町内や町外からも、少しずつ寄付が集まり始める。治療代を溜めていた患者たちも、苦しい生活の中から、何とか診療所を守ろうとお金を払い始めた。
    貧者の一灯、返済の目処が立ちそうになったことを焦った梓は、笠間を待ち伏せして半死半生の目に合わせる。更に一人で、乗り込んで行った養七も袋叩きだ。慎介は、今晩こそ、梓米吉を刺そうと出掛ける。映画館の二階から梓が来ていることと加代子が銭湯に行ったことを確認するが、やはり待田が見張っている。
   しばらく時間を潰そうと近くの飲み屋に入ると新聞記者の中塚(佐野浅夫)が声を掛けてくる。梓のやり口はいつも最低だが、今度の市営住宅は必ずしも悪いことだとは言えないと話し掛けてくるが、暫くして酔いつぶれて寝てしまう。再び慎介は、米吉の下に戻る。今度は待田はいない。玄関を静かに開け、二階に上がる。階段から猫が駆け降りて来た。病院から隠し持ってきたメスを握りなおして、二階の部屋を覗いた慎介の目に入ったものは、血だらけで倒れている米吉だった。息が止まるほど驚いた慎介が、死体を見ると、自分が持ってきたのと、全く同じメスだ。殺したのは俺じゃない。頭が混乱した慎介は、転げ落ちるように階段を降り、外に走り出す。死ぬほど走って、用水路に持っていたメスを投げ捨てる。誰が殺したのか、考えても解らない。ふと我に帰り、梓米吉に刺さったメスと電灯に指紋を残してきたことを思い出し、勇気を振り絞って再び戻ると、メスが消えている。電灯の指紋と畳の自分の足跡を消す。
   梓が殺されているのを発見した加代子は、長屋に走って戻る。大怪我をして寝ている筈の父親の養七も、慎介もいない。胸騒ぎがして、倒れている養七を見つけると、血だらけの手で、慎介が梓を殺してしまった。メスが残されていたので、必死で抜いて、川に捨てたのだと言う養七。
   加代子は、川沿いに、横になっている慎介を見つける。自分の金を渡して、とにかく逃げてと言うと、慎介は自分も殺していないと言う。傷マサが見張っていて、殺せなかったのだと言うと、傷マサは梓のために刑務所に入ったのに、知らん顔されて怒っている、傷マサの腕を撃ったのも梓よと加代子から聞いて、メスを使って、自分の犯行に見せかけたのは、自分の処置を恨んでのことだったのだと言う慎介。
    加代子が、嫌がる慎介を引っ張って、警察に行くと、今立て込んでいるのでと相手にしてもらえない。市会議員の梓の殺人事件だと聞こえたので、梓米吉の妾と、笠間診療所の医師だと言うと、なぜそれを早く言わない、なんで、梓の死体を見つけたのに警察に通報しなかったのだと加代子は、見つけたのなぜ治療をしなかったんだと慎介は怒られる。
    実は、笠間が梓を殺し、大変なことをしてしまったと診療所に電話をしてきたのだが、その後、笠間は行方不明になっており、自殺の可能性が高く必死に探しているのだと聞かされる。青酸カリ自殺をした笠間の死体が発見される。中塚が、精誠実で正直な医師が、悪徳な市会議員を殺したという話には、ならないのだと言う。実際、立ち退き問題を逆恨みした医師が、寄りによって商売道具のメスで、市の有力者を殺したとスキャンダラスな記事が新聞を賑わせた。市営住宅の建設も、梓建設は、専務の竹林半次(安部徹)が社長に昇格して、事業を継続することになったと報じられている。
  地元の大きな寺院で、梓米吉の葬儀が盛大に行われている。弔問客の中に、戸崎慎介の姿がある。梓組の人間たちの中にざわめきが起こる。焼香し、竹林に、「善良で正直な人間は、普段何も言わないが、馬鹿にしたり、追い詰めた時の恐ろしさは分かったでしょう。僕は、診療所を引き継ぐことにしました。この世で一番怖いもののの仲間入りを仲間入りをします。」と静かに言う慎介。

   婚約者とテニスをする溌剌とした娘が、不幸な出来事で、黙々とミシンを踏み続けるようになってしまう吉行和子がいい。小沢昭一、浜村純、三崎千恵子らスラム街の住人たち、気持ちいいくらいのヒール役の滝沢修は勿論、宇野重吉、葉山良二、南田洋子、山内明・・・、役者は十分すぎるくらいに揃っているのだが、梓米吉を殺したのは誰だというサスペンス的な演出でスピードアップする筈の後半が、どうも煮え切らないのは何だろうか。

    久し振りに、同居人と地元のイタ飯屋に。店主が最近来ていないなあと思っていたと言う。ここのポテトサラダと、蛸と茗荷のサラダが大好きで、自己流で作っていたのだが、久し振りに食べて、何だか全く違うものになっていたことに気が付く(苦笑)。

2009年4月28日火曜日

駄目な男と馬鹿な女

     阿佐ヶ谷ラピュタで、孤高のニッポン・モダニスト 映画監督中平康
     56年日活中平康監督『夏の嵐(274)』
     浅井家の次女、良子(北原三枝)は、骨董趣味で浅井家を没落させた父義孝(汐見洋)と、主婦友の会の理事をしていて口喧しい母親みつ(北林谷榮)と、母のコピーのような姉の妙子(小園蓉子)、浪人中の弟の明(津川雅彦)と洋館で暮らしている。気ままに勤め先の葵学園に遅刻して出勤だ。職員室には、教頭(清水将夫)と教師の城戸(金子信雄)しか残っていない。女性は朝の準備など大変ですからなあと教頭に言われ、悪びれもせず、今朝は寝坊しましたと答える良子。城戸は、浅井先生のクラスは私が大人しく自習をさせていますよと言うが、特殊教育を行っている葵学園の教室は大騒ぎだ。何とか落ち着かせて、教科書を開かせ、lesson5 Summer Stormと板書する。
   休み時間、教頭が、良子の母が理事をしている主婦友の会の会館建設に、弟の建設会社に発注して貰ったら、建設費の5%をキックバックするので、母に紹介して貰えないかと言う。何がしかの賄賂が貰えるのですねと言う良子に、教頭は、寄付金ですと訂正する。その時、小使いが浅井先生のお母様と仰有る方がいらしていますと言う。教頭は大喜びで、迎え入れると別人だ。良子は、こちらは養母ですと言う。がっかりして席を外す教頭。良子は、養母牧(藤代鮎子)に何の用があって突然訪ねて来たのですか?と冷たく言う。屋敷の方に電話をしても出てくれないじゃないのと言い訳する養母。かって良子は浅井家から金沢に養女に出されたのだ。財産目当ての養女が、財産が無くなった途端縁を切っておいて、今更何の頼み事ですかと言う良子に、養母は、再婚先相手の先妻の子供が知恵遅れで、葵学園の教育を受けさせたいのだと言う。冷たく断る良子。
   良子が帰宅する。母は学校に養母が来たことを知っていた。金沢の家の躾が悪すぎたので、良子は我が儘で乱暴な性格になってしまったのだと言う。更に姉の妙子の見合い相手がウチにやってくるので、夕食を一緒にしろと言う。良子は嫌がったが、何度も言われ仕方なしに、食堂に行くと、妙子の結婚相手の男秋元啓司(三橋達也)の顔を見て驚く、秋元も良子の顔を見続けていた。食前の祈りの最中であったため、この光景に気がついたのは明だけであった。
    昨年の夏女学校時代の友達と山に出掛けた際に、寝付かれない良子が、夜湖畔を散歩していると、口笛が聞こえてきた。口笛を吹いていたのは秋元だった。2人は、暫くの間見つめ合っていたが、良子が湖に足を取られ、助けた秋元と二人は抱き合い口づけを交わした。
    
  
   神保町シアターで、昭和の原風景
    34年松竹蒲田島津保次郎監督『隣の八重ちゃん(275)』
    新海家と服部家は隣同士、新海家の長男で帝大生の恵太郎(大日方伝)と次男で甲子園を目指す精二(磯野秋雄)が両家の間にある空き地でキャッチボールをしている。恵太郎の返球が逸れ、精二のグローブを弾いて、服部家の硝子を割ってしまう。中から八重子(逢初夢子)が、また割ったのねと笑いながら出てくる。精二はコントロール悪いからなと弟のせいにして、精二にガラス屋に走らせる。そこに、八重子の母浜子(飯田蝶子)が銭湯から帰ってくる。
    八重子と恵太郎は銭湯に行くことに、ガラス屋から戻ってきた精二が追いかけてきた。ガラス屋の小僧が、新海家に来る。壊れたのは隣だけど、支払いはうちにと、母の杉子(葛城文子)。しかし、修理が終わって声を掛けると、浜子がウチで払うからと、15銭を10銭に負けさせた。新海家の主人幾造(水島亮太郎)が帰宅する。銭湯に行きがてら、服部家に息子たちのことを謝罪する。浜子も主人の昌作(岩田祐吉)も、気にするなと言う。それよりも、今晩主人同士一杯やりましょうと言うことに、さすがに会社の愚痴やら下世話な話を息子たちの前でするのは差し障りがあるだろうと、服部家で飲むことに。
    数日後、恵太郎が早い時間に帰宅する。服部家を覗くと、浜子が「早かったのね、おかあさんでかけたわよ、うちで待っていなさい」と声を掛ける。お腹が空いているんだという恵太郎に、おひつと、おかずを出して、買い物に行ってくるので留守番をしていてと出かける。恵太郎が食事をしていると、八重子が同級生の真鍋悦子(高杉早苗)を連れて帰宅する。女学生二人にドキドキした恵太郎は、急須を蒲団の上にひっくり返してしまう。気軽に声を掛ける八重子に対し、悦子は恥ずかしがっていた。靴下に大きな穴が開いていて、繕ってやると八重子は脱がすと、足が汚い。洗ってから繕ってあげると言う。ようやく、母親が帰宅したので、家に戻る。悦子は恵太郎がフレデリック・マーチに似ているわねと言う。
   その夜、新海家で、杉子と精二を前に、靴下の繕い器を実演して見せる八重子の姿がある。服部家では、両主人がご機嫌で出来上がっている。職場のビジネスガールの話まで脱線しがちだ。


    52年大映東京成瀬巳喜男監督『稲妻(276)』
    はとバスのバスガイド小森清子(高峰秀子)が銀座通りをアナウンスしていると交差点に、姉の光子(三浦光子)の夫が女連れで歩いているのを見かける。清子は、光子たち姉夫婦が営む洋品店に間借りしている。清子の帰宅前に長姉の縫子(村田知栄子)が光子の店に来ている。縫子は、清子の縁談に両国のパン屋の後藤綱吉(小沢榮太郎)との話を持って来ている。35歳だが手広く商いをしているし、何よりも戦争のせいで、男一人に女23人と言う厳しい時代なのだ。縫子は、売り物のブラウスを原価で譲れと言う。光子は、姉さんからはお金を取れないと言う。
    その頃、清子は、母のおせい(浦辺粂子)のもとを訪ねていた。長男の嘉助(丸山修)は、南方から戻ってきたが、働きもせず、ぶらぶらしていて、最近はパチンコ屋に入り浸っていると言う。おせいには、女3人男1人の子があるが、全員父親が違う。おせいは、あんたが一番マトモな子だと言って、清子の父親から貰ったルビーの指輪を清子に渡す。硝子玉じゃないのと言う清子に、あんたのお父さんは嘘をつくような人じゃなかったとおせい。
    清子が帰宅すると、光子が夫が帰ってこないと言う。銀座で女連れを見かけたとも言い出せず、まだ早い時間じゃないのと言う清子。しかし、心配した光子は、店番を頼み、探しに出掛ける。そこに縫子の夫の龍三(植村謙二郎)がやってくる。縫子は来ていないかと尋ね、酒をコップ一杯くれと頼む・・・to be continued.

  駄目な男と馬鹿な女ばかりの、家族に嫌気がさして、清子は家を出る。下町から世田谷に、そこには、人形作りが趣味で、商売っ気が全くない貸し間の大家と、隣には、妹(香山美子)をピアニストにするために、仕事の他にアルバイトまでして、洗濯で手を荒してはいけないと自分で家事をやり、更に自分でも妹に教わって、時間があれば、ピアノの練習をしているイケメンの兄(根上淳)が住んでいて、恋の予感が。しかし、その下町のせこく、品のない男たちや、男なしでは生きていけない姉たちを決して軽蔑しきっていない成瀬巳喜男監督の視線。癒されるなあ。
  しかし、高峰秀子のバスガイドが多い気がするのは、当時の花形職業婦人がバスガイドだったんだろうか。少し前のCAのように・・。

    37年松竹大船島津保次郎監督『婚約三羽烏(277)』
   タバコ屋の二階に、加村週二(佐野周二)がいる。憂鬱そうに外を眺めていると、順子(三宅邦子)が戻ってくる。順子はダンサー、週二は失業中だが、気がつくとヒモのような生活に 甘んじている。このままでは週二のためにならないと、順子が別れを切り出したのだ。最後の朝食を用意する順子。ああでもないこうでもないと未練がましい週二。繊維会社の面接の案内状を取り出し、今日これが合格すれば、別れる必要はないと言うが、今まで何度もあったでしょうと順子に言われ渋々朝ご飯を食べ電車賃を順子から借りて面接に向かう。繊維会社は、人絹製品のアピールのために銀座にサービスステーションと言うアンテナショップをオープンさせるので、その立ち上げのための人員募集だった。面接では、店頭で女性客に接客した時の応対をさせられる。加村は入社候補者の部屋に通される。すると、18番と呼ばれて、俺にはちゃんと名前がある。番号で呼ばれるのは囚人だけだと怒鳴っている男がいる。おとこは面接室に入り、人絹について説明してくれと言われると、滔々と人絹の発明の歴史と製法について語り始める。圧倒された試験官たちは、その男も入社候補者の部屋に入れる。残ったのは、3人。週二と、大声を出していた三木信(佐分利信)と、奇術のうまいスマートな男谷山健(上原謙)だ。
     週二は、意気揚々と帰宅すると、順子は家を出てしまったと言う。タバコ屋のおばさんに、1ヶ月分の家賃と生活費を預け、ダンスホールも辞め、田舎に暫く帰ると言って去って行ったと言う。谷山は、帰宅し、ホルンを吹いている。妹の春子(大塚君代)が部屋に入ってきて、就職祝で、銀座に連れて行って食事を奢れと言う。ちょうど、健の婚約者の栄子(森川まさみ)が来ていることをいいことに押し切る春子。おでん屋で失意の加村が飲んでいると、偶然三木が現れる。金も持たないくせに、加村の酒を飲む三木。泥酔した三木と加村が、加村の部屋に帰ってくる。酔っ払ってどこにいるのか分からなくなっている加村をよそに、図々しく加村の布団に入って寝ようとしている三木。

    前の会社、同期の友人が社長になってしまう。やっと自分たちの世代がトップに立った。音楽業界はパラダイムシフトのタイミングで、舵取りは、本当に大変だと思うが、頑張って欲しいなあ。
もう一本レイトショーを見ようかと考えていたが、これから自分が経験したこともない荒海に漕ぎだす友人を思って一人乾杯したく、博華で餃子とビール。

2009年4月27日月曜日

昭和の原風景

   午前中は赤坂でメンクリ。独身美人OLに自宅居酒屋の残りの惣菜と、その時頂いた菓子を差し入れる。

   池袋新文芸坐で、芸能生活70年 淡島千景の歩み
   59年東宝豊田四郎監督『花のれん(271)』大正末、大阪船場の河島呉服店。ごりょんはんの河島多加(淡島千景)は、節季だが、主人の吉三郎(森繁久彌)が出たきり戻らないため、京都から売掛金を回収にきた織京の主人(山茶花究)を4時間待たせて恐縮している。せめて汽車賃をと差し出すと今回はどうしても払って貰うつもりで、出された茶も飲まなかったのだと断られた。織京の主人がやっと帰ると、新町の茶屋の座敷に上がっているので、迎えにこいと連絡が入る。慌てて茶屋に行くと、芸者だけでなく、寄席から連れてきた芸人たちも上げていて、祝儀を払ってやれと吉三郎は言う。手持ちの金など少ししか無い多加は、茶屋の座敷代だけ払って、花代と祝儀は立て替えて貰った。帰宅すると、更に吉三郎が株に手を出し大損を出していたことがわかる。
  幼い息子の久雄がありながら、商売を全く省みない吉三郎に、温和しい多加もさすがにキレた。
呉服店を畳んで、吉三郎が道楽三昧でご祝儀をバラまいてきた寄席を始めることを思いつく。店の身代を、高利貸しの石川きん(浪花千栄子)に買い手を探してもらい、身売り話が出ていた天満亭をまずは買った。場末の粗末な寄席で、吉三郎は嫌がったが、客が少なくともサクラで賑やかし芸人にはギャラをケチらず、夏場は店の前で冷やし飴を売って客を釣り、客席で売ったミカンの皮を集めて日に干して化粧品屋に売るなど、多加が知恵を絞っての経営が軌道に乗り始めた。また、番頭のガマ口(花菱アチャコ)も、よく支えた。
    しかし、そうなると吉三郎の浮気の虫が疼いて、おしの(環三千世)という妾を作る。吉三郎は妾宅で、心臓麻痺で亡くなってしまう。本家へ運んでの通夜の席、多加は、船場に嫁入りした際に持たされた船場のごりょんさんだけが着ることの出来る白い喪服を着る。これは、商人の未亡人が、終生商売一筋で、二夫にまみえないとい う決意を表すものだった。それからの多加は、寄席商い一途だった。格が落ちる天満亭には、看板落語家たちが上がってくれないのを、一人一人口説き落とし、法善寺の名席の金沢亭を買い取り花菱亭と名前を変え、十三の寄席を経営するに至る。しかし、一方で息子の久雄は、女中のお梅(乙羽信子)に任せきりだった。
   ある日、下足番の権やん(田村楽太)が履き物を紛失したと報告に来た。多加は、ガマ口に一番高い下駄を買いに走らせ、下足番の失策は自分の責任だと頭を下げ続けた。その客は、市会議員の伊藤友衛(佐分利信)だった。伊藤は、それ以来、多加のよき相談相手となる。関西で突然安来節の大ブームが起こる。多加は、ガマ口を連れ出雲に急ぎ、3日間連続で、安来節コンクールを開催する。そこに集まった若い娘たちをスカウトしまくり、美声のお種婆さん(飯田蝶子)を大阪に連れ帰り、安来節お種と銘打って寄席に上げたところ、大ヒット!!!
  また、ある日は、笑福亭松鶴(曽我廼家明蝶)が十八番の天王寺詣りを忘れたと言って大混乱になる。実は、十八番のネタを質入れしていたのだ。客席にいた伊藤が訳を知って、質札を出してくれたので、事なきを得る。
  更に26軒の寄席を持ち、通天閣まで手に入れた多加。通天閣に久雄を連れて行こうとお梅に言うと、久雄は大学受験に東京に行ったと言う。字もろくに読めない芸人相手の寄席商いに学はいらないと聞く耳を持たない多加に無断で東京に行ってしまったのだ。結局、ガマ口と二人で、通天閣の展望台に上り、紙吹雪を撒いて、新聞社の取材を受ける。そこに、桂春団治が、独占契約を破って他の寄席に出演しようとしているという情報が入る。ガマ口と、春団治(渋谷天外)の家に出かける。妾(酒井光子)と一緒にいる春団治の口に差し押さえの札を貼る多加。その姿は新聞にまで取り上げられた。今日の高座は、春団治が現れなければ客とはひと悶着あるだろうと、肩を落として戻ってきた多加とガマ口の二人に、花菱亭のお政(万代峰子)が、口に差し押さえ札を貼ったまま春団治が高座にあがり、何も話さないのを、訳を知っている客たちは大喜びだと告げる。

河島多加(淡島千景)吉三郎(森繁久彌)久雄(石浜朗)ガマ口(花菱アチャコ)お梅(乙羽信子)伊藤友衛(佐分利信)石川きん(浪花千栄子)安来節お種(飯田蝶子)京子(司葉子)お政(万代峰子)
下足番権やん(田村楽太)織京の主人(山茶花究)巳之助(頭師孝雄)おしの金沢亭席主(曽我廼家五郎八)桂春団治(渋谷天外)その妾(酒井光子)桂文次(芦の家雁玉)米助(福山博寿)おみつ(橘美津子)


   61年東宝豊田四郎監督『東京夜話(272)』
   渋谷の裏街のバー・ケルン、そこに帝都大学の大学生バイトのバーテン伸一(山崎努)が、洋酒の闇屋をしている健ちゃん(フランキー堺)の紹介でやってくる。今まで、銀座のオセロにいたと言う。マダムの近江仙子(淡島千景)と女給のマリイ(団令子)が尋ねると、こういう気楽な店の方がいいと言うのだ。地元を仕切る笹森組の二郎(丹波哲郎)が、情婦の蘭子(岸田今日子)が逃げ出したが、ここに来ていないかとやって来た。仙子は、うまく言って追い返した。


元華族の立石良作(芥川比呂志)伸一(山崎努)ケルンのマダム近江仙子(淡島千景)銀座のバー、オセロのマダムゆかり(乙羽信子)ケルン女給マリイ(団令子)らん子(岸田今日子)松子(富田恵子)笹森組のヤクザ二郎(丹波哲郎)畳屋の紙子恭助(中村伸郎)息子の久造(名古屋章)妻おこと(原知佐子)流しの芸人佐々木(中原成男)尾松(松村達雄)学生の加田(高橋昌也)井森(本郷淳)木田(笈田勝弘)タヌキ食堂の主人(織田政雄)パチンコ屋(松本染井)焼き鳥屋(都家かつ江)植木屋(若宮忠三郎)オセロの女給お京(馬渕晴子)闇洋酒屋健ちゃん(フランキー堺)三路重工の重役の春海(有島一郎)花菱銀行の重役宗田(森繁久彌)

   神保町シアターで、昭和の原風景
   52年松竹大船川島雄三監督『とんかつ大将(273)』
隅田川沿いの道路を走っていた車が急停車する。リヤカーと接触し、積んであった達磨が転がっている。車に乗っていた娘(津島恵子)が、駄目じゃないのと言って運転手から金を渡させようとする。そこに、下駄履きの男(佐野周二)が通りかかり、謝罪の仕方くらいあるだろうといい、君は、こんな高いハイヒールを履いているから地面を歩けないのかと皮肉を言う。女は、車から降りてきて、リヤカーを牽いていた職人の大平(坂本武)に謝罪する。差し出した金をこれじゃ多すぎると言って半分を大平に渡し、残りを女に返す。大平は男に大将と呼びかけている。女は、自分に非があると思って男に従ったのだが、男が去るとゴロツキ!!と悔しそうだ。
   男の名は、荒木勇作。荒木が、歩いていると、演歌師の吟月(三井弘次)がバイオリンを弾きながら歌っている。稀代の音楽家松田吟月の楽譜1円と言いだすと、聞いていたのは子供ばかりなので、誰もいなくなる。荒木が吟月に声をかける。原稿料が入ったので、飯を食いに行こうと言う。大将そりゃいいね。やっぱりとんかつだろ。うまいところを知っているんだと、路地に連れていく。しかし、その目指すとんかつ屋一直は閉まっている。吟月が困っていると、女将の菊江(角梨枝子)が戻ってくる。どうしたんだいと聞くと、電熱器が壊れてしまっていてと答える。そういうのは、大将が直すよと吟月。店に入り、電熱器を直し始める荒木。
    すると、よろよろと、男が一直に入ってくる。菊江がいる二階に上がっていき倒れる。菊江の弟の周二(高橋貞二)だ。酔っているかと思った菊江が抱き起こすと、腕から大量に出血している。声を上げる菊江。吟月と荒木が来る。何だテメエはと周二が言うが、自分は医者だと言って吟月になるべくアルコール度数の高い酒を持ってこいと命じる荒木。傷口を見ると弾創だ。手術をしないと駄目だと言って、車を拾い近くの佐田病院に担ぎ込む。外科の先生がいないと言われ、自分は医師なのでと言い院長に許可をもらってくれと言って、手術室に連れていく。婦長は、院長先生がご自分で治療されるそうですと答える。
    やってきた院長先生は、今朝、車に乗っていた女の佐田真弓だった。執刀する真弓、しかし弾丸の摘出は馴れていないのか、苦戦している。途中から、荒木が変わって無事摘出に成功する。
真弓に、どこに勤務されているんですかと尋ねられ、勤務も、開業もしていないと答える荒木。であれば、この病院で働いていただけませんかと頭を下げるが、つれない返事をする荒木。
    荒木は、病院のすぐ裏手にある亀の子横丁に住んでいる。医学書の翻訳のアルバイトで生計を立てながら、医術だけではなく、ヨロズ相談を引き受け、とんかつに目がないので、とんかつ大将と亀の子横丁のみなから愛されているのだ。達磨職人の大平と、盲目の娘お艶(小園蓉子)親子の隣に吟月と暮している。食事の支度など家事は、お艶に頼りきりだ。お艶の目を再び直してやると約束している。荒木と吟月は、ハバロフスクでの抑留以来の縁だ。近所のひかり保育園の子供たちと一緒に散歩、体操をしている荒木を、真弓は車の中から見かけ、好意を持つ。
    夜、医学書の翻訳をしていると、眠っていた吟月が、大声で笑いだす。声を掛けると菊江の夢を見ていたらしい、40男の初恋だ。片思いは切ないなあと荒木がつぶやく。荒木には、多美という婚約者がいたのだが、どこにいるのか、生きているのかもわからないのだ。
    ある日、保育園の子供たちにクリスマスプレゼントを買おうとデパートの玩具売り場で、機関車の玩具が欲しいと駄々をこねる子供に目が停まる。その母親は、夢にまで見た多美(幾野道子)だ。声を掛ける。子供が自分の名前を丹羽利春(設楽幸嗣)と聞いて、丹羽と結婚していたのかと言葉を失う荒木。丹羽と荒木は親友だった。学徒出陣で出征する際に、内省勤務の海軍軍人だった丹羽に、婚約者の多美を託していたのだ。敗戦に拳銃自殺をしようとした丹羽を必死に止めた多美は、お互い希望を失ったもの同士、結ばれたのだ。しかし、丹羽は事業を失敗してから、酒に溺れ、多美に暴力を振るう荒んだ生活を送っているという。

2009年4月26日日曜日

にちようび

終日読書と惰眠。残った料理と酒に手をつけながら、少しずつ昨夜の片付け。