2008年11月22日土曜日

今村昌平2本。

    神保町シアターで、59年日活今村昌平監督『にあんちゃん(306)』。
    昭和28、29年朝鮮戦争の集結とともに石炭産業は未曽有の不況に陥り、休抗、廃坑が相次いでいる中、佐賀西端の鶴ノ鼻という小さな炭坑の町に、父親を無くした4人兄弟がいた。あんちゃん安本喜一(長門裕之)、妹の良子(松尾嘉代)、にあんちゃん次男高一(沖村武)次女末子(前田暁子)。
   既に母も亡く、炭坑の臨時雇いをしている喜一の稼ぎだけでは全く食べていけない。ベテラン抗夫の辺見(殿山泰司)が、労務課長の坂井(芦田伸介)に、正規雇いにしてもらうよう掛け合ってくれると言ってくれたが、今日食べる米に困るくらいだ。坂田の婆(北林谷栄)は、闇で近所に金貸しをしているが、香典から取り立てるほどだ。地元の運動会の徒競走を当て込んで、炭坑の風呂焚きの北村のおっちゃん(西村晃)から米を借りるが、当日は生憎の雨天、屋内の演芸大会にあんちゃんは炭坑節を歌う。にあんちゃんは、必死に盛り上げるが、浪曲を唸った金山春夫(小沢昭一)に、優勝を攫われる。
  器量良しの良子を長崎の料理屋に行かせると金になるという話を、坂田の婆が持って来たが、喜一は断る。都会から来た保健婦の堀かな子(吉行和子)は、逆に坂田の婆の店が人手が足りないと言うので良子を、坂田の婆の店で働かせることを約束させる。
  父親の四十九日になり、あんちゃんは、高一と末子に、ぼたもちを作るので早く帰って来いと言う。ぼたもちを作りに良子が帰ってくるというし、二人は大喜びだ。その日の昼、弁当を末子にやり、自分はぼたもちを食べるために腹を空かせているんだと言い水だけ飲む高一。しかし、その日、経営がさらに苦しくなった会社は、喜一を正規雇いにするどころか、解雇を言い渡す。激怒する辺見に、酒井は、もともと予算がなくなっていた臨時雇いを経費のやりくりと、最後には自分の賞与を無しにして継続していたのだと明かす。酒を飲み遅く帰った喜一に、高一は末子の教科書代くらいなんとかしろと言って、兄弟喧嘩になる。そこに、辺見がやってきて、喜一には他の町の工場への酒井からの紹介状を渡して、しならく自分の家で高一と末子を預かるというのだった。良子も、唐津の肉屋に住み込みで働きに行く。
   ますます会社の経営は悪化し、給料も現金よりも金券での支給が多くなり、組合の団交が続く。一家の隣に住んでいた西脇(浜村純)の妻せい(山岡久乃)が男と失踪、残った乳児が具合が悪くなった。保健婦のかな子が見ると赤痢だ。栄養失調で体調を崩していた末子を始め子供たち、鉱夫にまで感染は及ぶ。孤軍奮闘するかな子に、周囲はみな冷ややかだ。絶望した西脇が首を吊る。辺見も酔って余計なことをするので、休みの鉱夫が出てシフトが組めないし、西脇を殺したんはかな子やと毒づく。過労のためかな子が倒れる。東京からかな子の母(賀原夏子)と婚約者(二谷英明)がやってきて、東京に帰るよう促す。
  末子はようやく健康を取り戻す。唐津への遠足にも行けることになった。久し振りの姉との再会をとても楽しみにしていた末子。昼休みに姉の働く肉屋を訪ねて行くと、女将さんの使いで外出していると言う。競艇場やら訪ね歩くが結局姉には会えなかった。帰りのバスの出発直前に良子が現れる。一言二言話をし、手を握り合う姉妹にバスは出発する。炭鉱で事故があり、辺見のおっちゃんも怪我をした。更に労使交渉は激しくなる。坂井が辺見を訪ねてきて、労務課長ではなく友人として忠告するが、もう炭鉱はもたないので、希望退職に応募して追加の退職金を受け取れと話す。にあんちゃんと末子が、心配しているところに、喜一が現れる。あまりに安い賃金で働かされるので工場を辞めて帰って来たら、運動会の徒競争をやっていたので、参加しているのだと二人に告げる。
   結局喜一は、かな子の紹介で働きにでることになった。喜一は、弟たちを同胞の閔さんのところに預ける。明かりもない掘立小屋でとても辛い食事に二人は耐えられなくなり逃げ出す。鶴ノ鼻に戻って来たが、泊ることところがない。辺見のおっちゃんのところに行ってみるが、中での夫婦の会話を聞いていて、諦める二人。途方にくれ公民館で寝ていると、かな子が帰って来た二人を泊めてあげるかな子。翌朝、高一はかな子に、夏休み中、自分はいりこ屋に住み込みで働くので、しばらく末子を預かってくれないかと頼む。いりこ屋の仕事はきつかったが暑い中黙々と働く高一。かな子が東京に戻ることになった。末子は、風呂焚きの北村のおっちゃんのところに預けられる。夏休みが終わり夏のアルバイト代を持って末子の前に現れ、自分は東京に行くんだという高一。高一は東京駅に着く。何もかも高一の想像を超える都会だったが、自転車屋に働かせてくれと頼むと、九州から出てきて働きたいと言う小学生を不審に思った主人によって通報される。佐賀の駅には、あんちゃんと良子、末子の担任の桐野先生(穂積隆信)が待っていた。仕事に戻る兄姉を見送って、桐野先生と鶴の花に戻ってくる高一。桐野先生は、君は成績も一番なんだから、勉強を続けて立派な人間になれという。再会した末子とボタ山を登りながら、いつかこの町を出て行くんだと末子に話す高一。
  芸術祭参加作品なだからなのか、今村監督らしい人間の本心や性(さが)を掘り下げる部分は抑えて、筑豊の貧しい町の生活を丁寧に描いている。登場人物は、みな生き生きと人間的で、上からの目線で貧しい生活や卑しい人間を見るのではなく、地面に這い蹲った彼らと同じ目線で描くところは、全く揺らいでいない。
   61年日活今村昌平監督『豚と軍艦(307)』。
   欣太(長門裕之)は横須賀ドブ板のチンピラ。日森組の人斬り鉄次(丹波哲郎)の子分をしている。欣太は、春子(吉村実子)と付き合っている。春子の長姉勝代(南田洋子)は鉄次の情婦、次姉の弘美(中原早苗)はアメリカ軍属の日系2世の崎山(山内明)のオンリーをやっている。母のふみ(菅井きん)は、春子に米軍のゴードンのオンリーになれと言っていて、金も受け取ってしまっている。
   日森組は、鉄次が勝代にやらせていた米軍向けの売春宿が摘発されてシノギが無くなり困った末、米軍キャンプの残飯を崎山から、横流ししてもらって養豚業を始めようとしていた。欣太は、その担当を任せてもらって男を上げようと思っている。この汚い町を嫌悪している春子は、いつも欣太にこの町を出て、二人でちゃんとした家庭をもとうと言うが、聞く耳を持たない欣太。豚の金を払うために、鉄次、星野(大坂史郎)、大八(加藤武)、軍治(小沢昭一)たちは、組を辞めてタクシー会社を経営している矢島(西村晃)を締め上げて、新車の購入資金を寄付と称して巻き上げるのだ。日森(三島雅夫)と鉄次は、網走を出所してきた春駒(加原武門)をバラして海に捨てる手伝いを欣太にさせる。軍治は、やばくなった時に身代わりで自首すれば組の幹部にさせてやるとささやく。元海軍にいて職工をしていたが失業している欣太の父親寛一(東野英治郎)は、ある朝家の前に浮いている死体を発見、警官を呼んでくるが、間一髪のところで、鉄次と欣太は死体を隠す。しかし、狸寝入りをしている欣太の足が汚れていることで、寛一には気が付かれてしまう。結局死体は豚小屋に隠すことになったが、大八は埋めるのを面倒臭がって、豚の餌に混ぜて証拠隠滅する。
   欣太が、豚三匹をこっそり売ろうとしていたところを鉄次たちにみつかり、豚の予防注射代を春子の借金を払うためにネコババしたこともばれた。殴られる欣太。しかし、殺しの身代わりを日森と軍治が画策していたことを知ると、自分に内密にしたことを怒る鉄次。自分の家で、豚を焼いて食べようと鉄次は言い出し、丸焼きにした。食べ始めた鉄次が異物を感じて吐き出すと、春駒の入歯だった。大八が死体を豚に食わせたことを打ち明けると、皆吐き出すが、鉄次は倒れる。鉄次は、自分の胃の痛みが胃癌だと信じ込んでいる。医師や、勝代や弟の菊治(佐藤春夫)の言うことは信じられないと、欣太にレントゲン写真を盗ませて、他の医者に見せろという。欣太が何人かの医者に見せると、3日ももたないと言われ、鉄次に伝える。鉄次は、自殺しようとしたが、果たせず、華僑陳(殿山泰司)の手下の王(矢頭健男)に金を渡して、自分を殺してくれと頼んだ。
  崎山が残飯代の利権の値上げを言ってきた。日森は、陳に借金を依頼する。しかし、崎山は、日森組を見限って、先に陳に利権転売を持ちかけていた。同胞を裏切ることを中国人は絶対にしないと言う陳。
  春子は、再び母親がゴードンからお金を取ったことを知って、菊治が住む川崎に逃げて更生しようと 言うが、堅実な生活なんて嫌だと言う欣太に絶望して、米兵たちの前に身体を曝そうとする。しかし、彼らがシャワーを浴びている間にドルを盗んで逃げだす。しかしすぐに捕まった。
  いよいよ日森組のシノギが厳しくなってきた。大八と軍治は欣太に豚を横流しすれば分け前をやると言う。崎山は日森から受け取った金を持ったままハワイに帰国してしまった。更に残飯は今後入札制になると聞いて、慌てて、日森が崎山の家に行くと、既に別の米軍人が住んでいる。泣いているオンリーの弘美も捨てられたのだ。しかし、ちゃっかり新しい住人のオンリーになっている弘美。日森は養豚の商売を格安で陳に譲ろうとしたが、既に軍治たちから話が来ていると言う陳。養豚場に欣太が行くと、春子がいる。二人で横須賀を出ようと告げると、欣太は今晩のシノギが終わったら、金を貰えるので、足を洗うという。横須賀発の終電に待ち合わせることにした。
  その夜、養豚場にトラックがやってきた。軍治たちだと思った欣太が招き入れると日森たちだった。袋叩きにあう欣太。大八、軍治がトラックで養豚場に向かっていると、向こうから走って来たのは、日森たちのトラックの列。荷台には、豚と欣太が。トラックのチェイスとなり、そのままドブ板に突っ込んで止まる。警官たちもやってきたので、慌てて日森と大八・軍治は、分け前を決めて休戦する。しかし捕まった時に欣太が何か喋ったら水の泡だ。欣太を消そうとする日森たち。欣太は自分の横にマシンガンが隠してあるのに気が付く。乱射し始める欣太。日森たちは、正当防衛になると思い自分たちも撃ち始める。欣太は、豚を解き放つ。ドブ板界隈は無数の豚で溢れ返る。日森たちは、一人一人豚たちの下敷きに。撃たれた欣太は裏道を横須賀駅に向かう。しかし、ある店の裏口から便所に潜り込み、個室に隠れようとして、便器に顔を突っ込んで絶命する。いつまで待っても欣太が来ない。春子はタクシーの運転手たちが、ドブ板通りが豚で溢れて死人や怪我人が出たと言う噂を聞いて、ドブ板に走る。次々担架で運ばれる日森組の面々。最後に欣太が運ばれてきた。欣太の死体が乗せられて走り出す車に向かって、春子は馬鹿野郎と何度も叫ぶ。
  数日後、またアメリカの軍艦が横須賀港について、米兵で満載のハシケに手を振りながら日本人の女たちの集団が、横須賀駅から出てきた。母親の小銭を盗んで、横須賀駅に向かう春子。
  何度見ても刺激的な映画だなあ。この時代のドブ板通りなんて見たことは勿論ないが、すごいセットだ。更に、陳、王たちの中国語や、崎山、米兵たちの中国語、英語は、特に字幕があるわけではなく、出演している人物と同じように、観客にはわからない(分かる人も勿論多いだろうね(苦笑))。そうしたディテールが作り上げる世界は強烈だ。
  人斬り鉄次と言われながら、小心で鉄道への飛び込み自殺も出来ず(その線路の横には、日産生命のみんなにこにこ安心家族みたいな巨大な立て看板だ)、また、胃潰瘍だったことが分かった後に、以前殺してくれと頼んだ王が、鉄次から貰った金がニセドルで、ニセドルは駄目だよ~と追いかけてくるのを、殺しに来たと勘違いして、全速力で逃げていくシーン。かっての海軍の城下町が、アメリカの租界地のようになった横須賀を、逞しくしたたかに生きていく女たち。若き今村昌平の力技で、観る者を圧倒する傑作だ。
   神保町スヰートポーズで、餃子とビールで心地よい疲労感(映画みていただけだが(苦笑))を楽しんだ。

2008年11月21日金曜日

日活文芸映画の世界を満喫。

    神保町シアター、58年日活鈴木清順監督『踏みはずした春(302)』。緑川奎子(左幸子)は、バスガイド。しかし、BBSという少年院を出た少年少女たちの更生支援の民間グループで活動している。初めて担当することになったのは、父親の殺人未遂などで2回少年院に入っている19歳の信夫(小林旭)。最初に会った時から、憎んでいる母親の下に帰りたくないと言って、いきなりジャズ喫茶に誘い、踊ってを酔わせ待合いに連れ込んだりする。早速元舎弟の塚本(野呂圭介)たちに誘われて昔の情婦の奈々子(車谷瑛子)の所な行く。奈々子はぞっこんだったが、信夫は幼馴染みで保育園の保母をしている和恵(浅丘ルリ子)のことが忘れられない。
    和江に会いたいと聞いて、和恵に信夫について気持ちを確かめに行く奎子。和恵は、信夫のことを想っているが、気持ちの整理がつかないと言う。奎子は、信夫の乱暴な態度の影にある、繊細な心を理解し、そんな奎子を徐々に受け入れる信夫。しかし、ライバルの梶田(宍戸錠)は、和恵に目を付けていることあり、信夫にも何かと絡んでくる。しかし少年院あがりの信夫に世間の風は冷たく、なかなか信夫の仕事は決まらない。母が清掃の仕事をしている会社の宮村専務(安倍徹)が面接をしてくれるということだったが、宮村や他の社員の蔑んだ目に途中で出てしまう信夫。奈々子の店で飲んでいるうちに、周りの客の顔が、昼間の会社の人間に見えてしまい、暴れて店を滅茶苦茶にしてしまい、逮捕される信夫。信夫を励まそうと信夫と和江を誘い、弟妹を連れて海に行く。集合場所に信夫は現れず、落胆するみんな。しかし、しばらく海で遊んでいると、信夫が現れた。奎子が走っていくと、和江と口づけをしている。ショックを受ける奎子、弟のつもりでいた信夫に違う感情を抱いていた自分に。
  似顔絵書きで生計を立てることを決意する信夫。しかし梶田たちは、信夫の大切な似顔絵描きの道具を叩き壊して信夫を叩きのめした上に、和江に信夫が怪我をしたと嘘をついておびき寄せ暴行しようとする。間一髪のところで、偶然に刑事(殿山泰司)が現れ、和江は助かるが、気絶してしまう。信夫の舎弟だったはずの塚本は、掏りを信夫に見つかって絶交したことを逆恨みして、和江の暴行未遂は、信夫の指示でやったものだと偽証する。警察は、信夫を逮捕する。信夫がいくら無実を主張しても信じてもらえない。奎子も何かの間違いだと言うが、少年院上がりは世間の誰も信用してくれないことに傷ついている信夫。刑事が証言の食い違いに、ようやく信夫と塚本を対決される。信夫を恐れて、梶田の指示でやったことを認める。
  翌朝、無罪放免となった信夫を迎えに行く奎子。しかしその手前で和江が信夫を待っている。二人の姿を見て、身を隠す奎子。逃げるように走り出した奎子だったが、靴ひもを結び直して、顔を上げた奎子には、迷いなどは消えていた。
旭、ルリ子、どちらもデビューから数年経っているとはいえ、まだまだ初々しい。鈴木清順監督の演出も非常にストレート。左幸子の演技が強すぎて、少し全体のバランスを崩している感じがするのは、このところ、左幸子の主演作を見過ぎているせいなのか。
   62年日活浦山桐郎監督『キューポラのある街(303)』。東京の北東、荒川を渡ると景色が一変して、川口の町となる。500を超える鋳物工場があり、独特な形をした煙突、キューポラのある街だ。
   そこに住む石黒ジュン(吉永小百合)は中学3年生。鋳物の職人だが、工場の事故で怪我をし、勤務先の工場がマルサンに買収されることでクビになるった父親辰五郎(東野栄次郎)と、4番目の子供の出産間近な母親トミ(杉山徳子)、悪ガキの弟タカユキ(市川好郎)含めた6人で一間の長屋で暮らしている。隣には、辰五郎と同じ工場で働く幼馴染みの塚本克巳(浜田光夫)が、母親のうめ(北林谷栄)と暮らしている。失業している辰五郎に克巳は、組合を通じて怪我の保障を要求しようと言い仲間からのカンパの金を渡すが、、昔気質の辰五郎は組合はアカだから付き合いたくないといい、金も受け取らない。
   ジュンは県立第1高校に進学したいが、とても家計的に言い出せる状況ではない。それどころか、修学旅行も朝鮮人のクラスメート金山ヨシエ(鈴木光子)と2人で不参加かと話し合っている。ヨシエが学校に内緒でやっているパチンコ屋のアルバイトを自分もやれないかと相談する。入学金位は自分で貯めようと思ったのだ。しかし初日から克巳に見つかってしまう。内緒にしてくれる克巳。ヨシエの家は北朝鮮への帰国事業に加わることになっていたが、父(浜村純)と別居している日本人の母(菅井きん)は行かないかもしれない。ヨシエの弟のサンキチは、タカユキの悪ガキ仲間。タカユキは、不良に伝書鳩の雛を売る約束をし前金を貰ったが、猫に殺されてしまう。ジュンはクラスメイトのカオリ(岡田可愛)に勉強を教えてくれと言われ、彼女の家に行く。ジュンの家とは正反対のカオリの家。優しく車で通勤する父(下元勉)、高価なステレオを持っている兄。勉強を教えてあげたお礼にカオリから口紅を貰うジュン。
  不良は、鳩のお金の返済の代わりに、クズ鉄泥をタカユキにやらせようとする。そこに、ヨシエから話を聞いて駆け付けたジュンが立ちはだかる。小学生に泥棒をさせることに文句を言い、もっと上の人間と話させろといいクラスメイトのリス(青木加代子)で不良のリーダーをしている兄の処に行って、自分が分割で返済するのだと言う。帰りにジュンとタカユキがラーメンを食べていると、そこにカオリの父親が、二人を励まし、シューマイを御馳走してくれた。更にカオリの父は、辰五郎に仕事の世話もしてくれた。最新式のシステムが導入されている大工場だ。ジュンの担任のスーパーマンこと野田先生(加藤武)は、ジュンが禁止されているパチンコ屋でのバイトをしていることを知る。それには目をつぶって、修学旅行のお金は市が援助してくれるから行きなさいと言ってくれる。
   修学旅行の出発の日、ジュンが用意をしていると、辰五郎が仕事を辞めると言い出す。昔堅気の職人にとて、オートメ化されボタンを押すだけの毎日は堪らないと言って朝から酒を飲みだすのだ。酔って、ダボハゼの子は所詮ダボハゼだ。中学出たら働けとわめく辰五郎。母に促されて集合場所に向かうが、迎えに来たカオリの姿を見かけて隠れる。結局荒川の土手でみんなが乗った電車を見送る。その時、ジュンは初潮を迎える。
   夕方あてもなく町を歩いていると飲み屋で酌婦として酔客の相手をしている母親の姿を見てしまう。嫌悪感に苛まれるジュン。繁華街で学校に来なくなっていたリスに会う。遊びに行こうと誘われてゴーゴー喫茶に行くジュン。ジュンとリスが踊っているのを見た不良達は、二人のアルコールに睡眠薬を入れる。その頃、修学旅行先から電報がジュンの家に届く、両親とも不在なので代わりに受け取った克巳は、初めてジュンが修学旅行に行っていないことを知る。睡眠薬で寝てしまったジュンを店の2階に連れて行き乱暴しようとする不良達。そこに、警官を連れた克巳が現れる。逃げだす不良達、リスはジュンと逃げる。店の裏で足をくじいて歩けなくなったジュン。ジュンの名を呼びながら探す克巳の声を聞きながら、答えることが出来ないジュン。その日からジュンは学校にも行かず、家に引き籠っていた。担任の野田が家に来て学校へ来いという。貧乏人は高校に行ってもしょうがないと言うジュン。野田は、勉強は全日制の高校に行くことだけではない。定時制でも、通信制でも、あるいは学校に行かなくとも職場で勉強することが出来ると諭す。学校に行けと言う母に酌婦をしている母は不潔だと言い、口紅を投げつける。絶句する母。
   そんな時、カオリがヨシエたちが今日北朝鮮に出発するので見送りに行こうと言いにきた。川口駅の前で見送る人の輪がある。野田はじめクラスメイトもジュンを迎える。ヨシエが心配していたと言い、一緒にパチンコ屋でバイトしたことが一番楽しかった思い出で、もっと色々なことを話し会いたかったと告げて、彼女が乗っていた自転車をくれる。タカユキとサンキチたちも別れを惜しんでいる。そこにヨシエたちの母が現れる。父もサンキチも弱い人間だから、意志が挫けるので会わないでくれと必死に頼むヨシエ。帰還事業の特別列車が出発した。
  翌日、タカユキがサンキチに預けて途中で飛ばすように託した伝書鳩が戻ってきた。ヨシエからジュンへの手紙とサンキチからの母に宜しくという手紙が付いていた。サンキチの母の勤める定食屋に走るタカユキ。店の前に行くと泣きじゃくるサンキチの姿が。驚くタカユキが聞くと、母親に会いたくなって一人戻ってきたが、母は、再婚のため店を辞め誰も行先を知らないと。知り合いの家に厄介になって、次の帰還船で出国することになった。
   元気を取り戻し、ユキエから貰った自転車で川口の町を走るジュン。新聞配達をしているタカユキとサンキチ。タカユキはサンキチの事情を話し、二人で新聞配達をしてお金を貯めると言う。ジュンが帰宅するとご機嫌な良心と克巳の姿が、克巳のおかげで仕事が決まったのだ。お礼を言う辰五郎に克巳は、組合のお陰だと克巳は言う。ようやく、その意味がわかった辰五郎。娘に酌をしてもらって涙ぐむ辰五郎。これで高校でも大学でもいかせてやれるぞという両親に、ジュンは、工場に勤めながら定時制に通うことに決めたという。全日制に拘る両親に、辰五郎たちも若くはないし、ちゃんと自立したいのだと言うジュン。
 日本中が貧しい時代。その中に、健康的に悩んで成長していく吉永小百合の姿に、みんな明るい光のようなものを見たんだろうな。今昔を強く感じることは勿論多いが、再び格差社会が進行している今、
新しい吉永小百合が生まれるとしたら、何の分野なのだろうか。
    63年日活浦山桐郎監督『非行少女(303)』。北若枝(和泉雅子)は、中学生だが、父の長吉(浜村純)が(佐々木すみ江)を妾にしたことで母が死に、そのまま後添えになったことで、家庭では酷い扱いをされ、また学校の金も出して貰えないので、学校にも行かず金沢の夜の町を彷徨いていた。
  一方、沢田三郎(浜田光夫)は、東京で失業し郷里に戻ってきたが仕事がない。兄の太郎(小池朝雄)は、町会議員選挙の真っ最中だ。そんな居場所のない幼なじみの2人が出会う。町でスカートを買ってやり、学校の勉強を教えてやり、PTAの会費も出してやる。生まれて初めて自分に親切にしてくれる人間に会ったと涙する。しかし、若枝の不良仲間は、彼女を襲おうとした挙げ句、次郎がせっかくくれた金を奪う。若枝は困って学校に深夜忍び込んで盗もうとしたが、用務員(小沢昭一)に見つかる。お金を握らせ襲われそうになって逃げ出した若枝を、用務員は、盗みをしようとした挙句俺を誘惑しようとした不良娘だと言いふらす。 裏切られた気持ちで三郎は二人の思い出の弾薬庫に別れの手紙を置く。若枝は、金沢の叔母マス(沢村貞子)の経営する旅館で働かされている。マスは、若枝を芸者に仕込もうと思っている。
  その後、三郎は、豪農の北静江(北林谷栄)と娘幾子(佐藤オリエ)の家で、住込みで養鶏を手伝っていた。幾子は学生だが、三郎のことを心憎く思っているようだ。ある夜、三郎のもとに若枝が現れる。
三郎は、養鶏場に案内し、もう会うことはない帰ってくれという。泣きながら彷徨い歩いた若枝だが、結局養鶏場に戻って、三郎からの手紙を燃やす。呆然としていたら、手紙の燃えカスが藁に燃え移って火事になっていた。数日後、義姉のへそくりを盗んで、三郎は家出をして、金沢のジャズ喫茶でウェイターをしていたが、ある日、やくざとケンカ、金沢にいられなくなって、実家に戻る。
  逮捕され感化院に送られる若枝。最初情緒不安定だったが、相談所で集団生活をするうちに、落ち着いてくる若枝。あるとき施設の徒競争で町内を走ったときに、地元の子供たちや用務員から火付け女とか泥棒などと心無い言葉を投げつけられる若枝。その時、施設の仲間たちが庇ってくれた。釣りをしていた三郎は、その一部始終を影から見る。年末年始は、みな実家に帰っていく。残ったのは若枝ともう一人しかいない。雪が降り始めた。若枝は三郎の姿をみつけ驚く。今までしてきたことを泣きながら謝罪した若枝に、三郎は、自分もちゃんと働きながら若枝の退所をいつまでも待っていると告げ、キスをする。
  ようやく退所日が来た。しかし、若枝は、施設の所長夫妻にも父にも口止めをして、大阪の縫製工場へと旅立つ。仕事を早びけしてきた三郎は、その事実を知り、慌てて金沢駅に向かう。すんでのところで若枝を捕まえ、駅の喫茶店で向き合う三郎。若枝は、号泣しながら自分は弱い人間で、三郎に迷惑をかけてしまう。その自信がないので、一人大阪に行って自分を鍛えたいと言う。一緒に問題を解決しようという三郎に、若枝は泣きじゃくるばかり。喫茶店のテレビでは、おりしも美人コンテストを放送しており、北陸代表が優勝している。大阪行きのベルがなった。急に若枝の手を引いて、飛び乗る三郎。
隣の駅まで送ると言い、若枝の考えていることを分かった。二人それぞれ働きながら、立派に自分になるべく努力しよう。三年たって、もし二人の気持ちが変わっていなかったら、結婚しよう。もし、万が一、二人が別々の家庭を持ったとして、二人が町で会った時に、お互い恥ずかしくない人間になっていようと言う。次の駅で三郎は下車して見送る。
   うーん。切ないのう。何度見ても思うが、浦山桐郎の1作目と2作目である「キューポラ~」と「不良少女」は、対になっているような気がする(続けて観たのは初めてだが・・)。キューポラと同じく、一つ一つ丁寧にきちんと整理され組み立てられた映像は、今村監督の熱病的なカオスとは対照的だが、この2本が最高傑作だ。
   57年日活中平康監督『美徳のよろめき(304)』。男爵令嬢節子(月丘夢路)は、倉持一郎(三國連太郎)と結婚し、一子をもうけ、鎌倉の豪邸に住んでいる。彼女は、学生時代、避暑地でテニスの後、土屋(葉山良二)と口づけした秘めた思い出がある。何度か、町ですれ違うが、葉山の畏れているかのように慎み深い視線が気になっている。母の葬儀の際に、弔問に訪れた土屋は、鎌倉の寺での待ち合わせを一方的に告げてさる。その日、節子は胸をときめかせながらも、自ら出掛けることはなかった。土屋が自宅に押し掛けてくることを密かに期待しながら。
   翌日、友人の牧田夫人の与志子(宮城千賀子)にその話をする。与志子は、奔放に不倫を楽しんでおり、現在はプロレスラーの飯田(安倍徹)を情夫にしている。とうとう土屋に連絡をし食事を共にする。紳士な土屋との交際を道徳的恋愛と呼び、次第に自宅近くの海岸で口づけを交わすようになるが、それ以上を強いない土屋に、節子は満足し、自分を正当化している。夫は仕事が忙しいのか、直ぐに就寝し、節子に無関心であるかのようだ。ある時、与志子は2人での旅行をけしかけ、夫へのアリバイ作りを協力する。節子から誘われ、天にも登る気持ちの土屋。ホテルに入り、結ばれるつもりの土屋に、節子は拒絶し号泣する。呆然としながらも、別に部屋を取り、悶々とする土屋。帰宅して寝ている夫に求める節子。夫婦は久方振りに関係を持つ。
   しばらくして、節子は、土屋を誘う。食事のあと、銀座のバーに行く。土屋はかなり酔っていた。そこに、夫が現れる。土屋は、店を出て、泣きながら去っていく。夫婦は二人で鎌倉に帰り、新婚時代以来久し振りに海岸を歩きながら帰宅する。
  節子は、自分の妊娠を知る。しかし、夫に同窓会で与志子の家に泊まると嘘をついて、彼女に教えてもらった産院で中絶手術を受ける。病室に与志子から教えてもらったといって土屋が現れる。そこに、与志子の夫から節子に、妻が飯田橋の病院で重体だとの電話があった。与志子にお手遊ばれたと思った飯田に刺されたのだ。与志子は、夫に詫びて亡くなった。与志子の事件はスキャンダルになる。父親と会食の際に、もし、自分の娘がこんな事件を起こしたらどうするかと聞く。父は、公にならなくとも、自分が知った時点で、全ての職を辞するだろうと言う。
   節子は、土屋に別れを告げる。鎌倉まで送ってきた土屋が最後のキスをしようとすると拒む節子。
平穏な日常が戻ってきた筈だが、通勤する夫の表情は浮かない。また、節子は、大阪へ去った土屋に手紙を書きはじめる。土屋が別れたことが自分に与えた苦痛は想像以上のものだと。書き終えた後、破り捨てる節子。
  庶民には窺い知れない上流階級の人妻のよろめきを、覗き見したい気持ちというのは誰にもあることだろう。そこを三島由紀夫は、卓越した筆力で、シズル感たっぷりに文学にしたということか。再び、格差社会が広がると、再びこういうハイソ覗き見趣味は復活するんだろうか。事実、昼ドラは、ここ数年ドロドロしたの多いもんな。好きか嫌いかに分けると嫌いなので、コメントはしたくない。まあ、正直な話、勿論面前に節子が現れてよろめかれたら、我を忘れて取り乱すようなつまらない男だが(苦笑)。
   中平康のクールな映像美に救われているが、三島由紀夫の厭味なくらいのスノッブな小説と、新藤兼人の脚本には少しギャップがあるのではないか。殆どの映画サイトは、ストーリーを三島に基づいて、土屋と節子は伊豆の旅行で肉体関係をもったと記しているが、もし、自分が居眠りしていたのでなければ(まあ、しばしばあるので今回も可能性が高いが(苦笑))、土屋は、血の滴るステーキを舐めさせておいて、お預けをくらってしまった筈だ。
面倒なのでコピーペイストしてしまうが、
    小説も映画も冒頭は
『いきなり慎みのない話題からはじめることはどうかと思われるが、倉越婦人はまだ二十八歳でありながら、、まことに官能の天賦にめぐまれていた。非常に躾のきびしい、門地の高い家に育って、節子は探究心や理論や洒脱な会話や文学や、そういう官能の代りになるものと一切無縁であったので、ゆくゆくはただ素直にきまじめに、官能の海に漂うように宿命づけられていた、と云ったほうがよい。こういう婦人に愛された男こそ仕合せである。』
から始るが、この映画では、全く逆な結論だと思うのだが・・・。
    しかし、さすが、中平康監督。唇やのどの超アップなど、肉体の官能的な表現は素晴らしい。個人的には、三面鏡を使った映像が2度出てくるが、1度目は、3面とも化粧の違うステップを、2度目は、普通に、正面は反対に、右の鏡面は正対に写っているのが、何か違和感があって刺激的だった。
  

2008年11月20日木曜日

300超えました。

テアトル新宿で、62年大映三隅研次監督『座頭市物語(298)』。
シネマート六本木の映画音楽家・林光の世界で62年松竹吉田喜重監督・脚本『秋津温泉(299)』。敗戦の色濃い太平洋戦争末期、胸を病んで東京の大学から周作(長門裕之)が郷里の岡山の叔母の所へ戻って来たが、空襲で丸焼けに。疎開先の鳥取に向かおうとするが、無蓋貸車で長旅をするには体力が限界だ。車内で知り合った親切な女は山あいにある秋津温泉の秋津荘の女中だった。秋津荘に連れて行ってもらうが、軍医たちの合宿所だった。布団部屋でうずくまっていると、宴会の軍人の機嫌を損ねた、若く美しい娘新子(岡田茉莉子)が逃げ込んで来た。彼女は横浜の女学校を出たが実父が死亡、母親の再婚先のこの旅館に疎開してきたのだ。継父も亡くなり、母親が女将になっている。新子は、閉塞した秋津を嫌っており、周作の出現に喜んだが、彼は死に場所としてここに来たのであり、当初、明るく健康的な新子を敬遠していたが、日本敗戦の日、泣き続ける姿に何か希望を見た。献身的な新子の看病もあり、周作は次第に体力を取り戻しつつあった。周作を愛する新子の気持ちに母親は、彼女に見合いをさせ、その不在の間に周作を岡山に向かわせた。
   数年のち周作は、岡山で文学の同人として活動しているが、未だ治らぬ肺病に再び厭世的になっており酒浸りの毎日である。新子が現れ止めようとするが、鬱々とした周作は新子を拒絶する。しかし、その後、再び秋津を訪れ、一緒に死んでくれと新子に告げる。お互いの体を縛りつけはじめたが、新子はくすぐったくなり笑いだす新子に釣られて、久し振りに大笑いする周作。
   元新聞記者の同人、松宮謙吉(宇野重吉 )の妹を抱き、結婚する。義兄は文学の新人賞を受賞、周作の屈折は更に酷くなっている。流行作家となった義兄の世話で東京の出版社で働くことになり、最後のつもりで秋津を訪ねる幸平。2人は一線を越えてしまうが、翌朝姿を消す幸平、新子は、タクシーを飛ばしてバスに追いつき、津山まで向かう。岡山行きの汽車を待っていると、急に新子は周作を連れて近くの旅館へ導く。翌日、周作は妻子の待つ岡山に帰っていく。
    東京で働きながら、売店の若い娘陽子(芳村真理)を執拗に口説いている幸平。社に戻ると、編集長(山村聰)と義兄がおり、作家が故郷を訪れる企画で義兄と岡山に行くよう命じられる。取材を終え、二度と来ないと思っていた秋津にやってくる幸平。新子は秋津荘を売却し、解体中だった。懐かしい離れも明日には取り壊される。一夜が明け、新子は、一緒に死んでくれという。周作は、東京に帰らなければならないとつれない。昨夜周作が使った剃刀を出して迫る。周作の拒絶に、手首を切り秋津の河原で倒れる新子。新子を抱きながら、涙を流す周作。
   岡田茉莉子100作品出演記念映画。藤原審璽原作。28歳で100本記念というのは凄いな。しかも、眩しいほど健康的な10代の娘から、すっかり生気を秋津荘に吸い取られてしまったかの30代後半の姿まで、演じきっている。周作を見つめる真っ直ぐな眼差し、本当に美しい。
   神保町シアターで、58年日活今村昌平監督『テント劇場より 盗まれた欲情300)』。今東光原作。千日前で芝居をはる山村民之助一座。ストリップダンスの時には入っていたお客も、肝心の芝居になった途端、客はぞろぞろ帰り始め、子供たちはチャンバラごっこを始め、双眼鏡で見る不思議な客(小沢昭一)を除くと誰も見てやしない。また給料もしばらく払われておらず、高田勘次(西村晃)たちは、芝居を止め舞台上は大混乱になる。座長民之助(滝沢修)と、業欲な後妻お仙(菅井きん)も手に負えない。製作の国田信吉(長門裕之)も止めに入る。
    小屋の前で殴り合っていると、一人の男に声を掛けられる。大学の同窓の立花(仲谷昇)だった。テレビ局に勤める彼は通天閣に誘い、同窓の連中はみな文学や演劇で活躍しているのに、信吉が乞食芝居に関わっているのは才能の無駄遣いだといい、テレビ局の演出部への推薦状を渡すのだ。泥酔して芝居小屋に戻ってきた信吉は、一座の座長の長女の山村千鳥(南田洋子)に、辞めるかもしれないという。実は信吉は千鳥に対して秘めた想いがあるが、千鳥は、一座の看板役者の山村栄三郎(柳沢真一)の妻なのだ。次女の千草(喜多道枝)は信吉に惚れている。翌朝、一座の惰眠を破ったのは、いきなり小屋を解体する作業によってだ。あまりの不入りに、興行主が興業を取りやめたのだ。解散しそうになった一座だが、給金が払われるまで辞めないと皆が言いだす。基本的に芝居が三度の飯よりもすきな連中なのだ。
     河内の八尾に一座はやってきた。再びドサ廻りで稼ごうというのだ。一座来るの話に村中が盛り上がる。何と言っても河内は芸事の本場なのだ。テントを借りに行くと、藤四郎(小沢昭一)だった。彼は、吝薔な藤四郎はコツコツ小金を貯めていたのだ。いよいよ初日は満員御礼になる。歓声ばかりかお捻りも飛ぶ。久し振りの反応に一座はご満悦だ。その日暮らしの役者達は、飲んで馬鹿騒ぎ、辟易した信吉は、小屋の外に出て川を眺めていると、千草が追ってきた。彼女に迫られて、信吉は一夜を共にする。一方、富八郎(小笠原章二郎)は、雑貨屋の後家のもとに、さっそくしけ込む。
  二日目は、終日雨になった。テント小屋では、雨が降れば芝居をやれない。信吉は、自分の新しい解釈を入れた新作を掛けようと一座に掛け合うが、みな稽古などせずにも出来る、いつもの題目をやりたいと思って、新作の稽古の声をかけても誰も集まらない。信吉はいよいよ一座を抜けようと、最後に千鳥に思いを告げようと夜会って欲しいと頼む。一方勘治は、藤四郎の工場に住み込みで働くみさ子(香月美奈子)の藤四郎から迫られる生活から抜け出したいという相談にかこつけてテントに連れ込む。役者になるための試験と称して服を脱がす。しかし、それは村の若者の反発を買う。村一番の美人のみさ子を取るのだったら、自分たちも一座の女をということだ。いきなり千草を攫う。しかし、追ってきた信吉や勘治たちがなんとか助ける。その夜遅く、テントで不貞寝する信吉のもとに千鳥が現れる。強引に千鳥と関係を持つ信吉。翌朝、信吉のテントをふらふらと出てきた千鳥を千草は見てしまう。
  翌朝、勘治とみさ子のことがバレて、踊り子の一人とみさ子はつかみ合いの喧嘩になっているところに、座長の民之助が帰ってくる。誰も止められなかった争いを一喝、浮いた話もない役者はいらないが、自分の播いた種くらい自分で始末しろと勘治に怒った末、みさ子の根性に一座に入ることを認めるのだ。次の興行地も決まって最終日の三日目のステージは再び盛り上がった。
  翌朝、民之助に、信吉は千鳥と共に一座を抜けることを告げる。民之助は千鳥の夫の栄三郎に話したのかと聞く。信吉が舞台に行くと、栄三郎が舞を踊っている。あまりの見事さに息をのむ信吉。終わったところで、声をかける。
  片付けが始まっている一方で、民之助、栄三郎、千鳥、信吉が楽屋にいる。栄三郎は、自分が一座を抜ければいいと言う。しかし、千鳥は、泣き崩れながらこの一座を抜けることはできないというのだった。思いがけない話に呆然自失する信吉に、民之助は、大学出なのに、役者たちを見下げたりしない信吉が気に入っていたと言ってくれた。最後の撤収を横目にフラフラと去っていく信吉。民之助は、娘の千草に、信吉を追いかけろと金と彼女の荷物を渡すのだった。座り込んでいる信吉に追いついた千草は、信吉と一緒にどこでも行くと言うのだった。
   村中の人間が集まって手を振る中を、一座のトラックが出発した。次の巡業地に向かって。
   今村昌平、監督デビューとは思えない直球だ。主演は勿論信吉なのだが、群像劇というか、役者たち、観客たちそれぞれが本当に活き活きと動いている。低俗で、地ベタで這いずり回る人間の生命力や、力強さを観客にぶつけてくる、その後の今村監督の映画に共通するテーマがここにも存在している力作だ。
   しかし、長門裕之、というより長門裕之の演じる二人の人物は、必ずしもインテリの屈折と一括りでは言えないが、不本意だと思っている現状に対して、自ら何もせず、女と関係を持つことで、女の行動力で自分の道が変わることを期待しているようなところがある。卑怯だ!ずるい!と思いつつ、しかし、結局モテモテなことに激しい嫉妬を覚えてしまうのだ。彼らよりも、ずっとちっぽけで情けない自分・・・。
   阿佐ヶ谷ラピュタで69年東映京都山下耕作監督『昭和残侠伝 人斬り唐獅子(301)』。
   昭和の初め玉ノ井、元々シマとしていた香川組を、下川辺重蔵(須賀不二男)率いる東雲組が虎視眈々と狙っている。そんな玉ノ井、浅草に花田秀次郎(高倉健)が7年ぶりに出所して戻ってきた。兄弟分の風間重吉(池部良)は東雲一家の代貸しをしており、東雲組に草鞋を脱いだ。秀次郎のかっての情婦雅代(小山明子)は、香川組の香川巖(大木実)の後添えになっていた。下川辺は、右翼山村(内田朝雄)から、上海、ハルビンに娼婦を慰安婦として送り飛ばそうとして玉ノ井の女郎に目をつけていたのだ。
   香川の実子、誠吾(長谷川明男)は、シマを荒らす東雲組に腹をたて、いきなり下川辺を襲って捕えられた。受取に向かった香川組代貸し梶五郎(葉山良二)を袋叩きにしようとしたところを、預からせてくれと客分秀次郎。渋々同意した下川辺だが、代貸しの重吉を呼んで、秀次郎に香川を斬らせろと言う。重吉は、秀次郎に草鞋を履けと言ったが、逆に昨晩二人の話を聞いてしまった自分は兄弟を不利な立場には出来ないという秀次郎。その晩、梶を伴った香川の前に秀次郎が現れる。相手をしようとする梶を制止し、花田秀次郎なら相手をしてみたいとドスを受け取る。そして秀次郎は斬る。香川は急所を外してことを指摘、秀次郎の思いは俺には分かっていると言って、梶を抑える。そこに菊の鉢植えを持った雅代が通りかかる。香川と秀次郎を見て菊を落とす雅代。人殺しと叫ぶ雅代を、香川は止めるのだ。
   旅に出る前に秀次郎は、近辺の大親分剣一家の、剣持光造(片岡千恵蔵)のもとを訪れ、香川組と東雲組の手打ちの仲立ちをして欲しいと頼む。剣持は、まず香川を見舞い、下川辺のもとを訪ねて、
手打ちを申し入れる。手打ち式は無事済むが、無理をした香川は命を落とす。今わの際に、くれぐれも実子の誠吾を頼むと、代貸しと雅代に言い残す。玉ノ井の入れあげた女郎に居続けをしていた誠吾は死に目にも会えなかった。下川辺を斬ると息巻くが、梶たちに止められる。
  しばらく草鞋を履いていた秀次郎が帰って来た。その頃、誠吾は、女郎を見受けしようと、後見をしてくれている剣一家の賭場に行き、イカサマをして捕まる。また秀次郎に助けられたが、面白くない。斬りかかって逆に殴られる誠吾。香川の墓参りした秀次郎は雅代と再会、そこに拳銃を持った誠吾が現れ秀次郎を撃つ。止める雅代。更に代貸しが現れ、誠吾を叱る。そもそも、香川が亡くなったのは、誠吾が下川辺を襲ったことの仕返しで、自分が親を殺したのだということが分からないのかと、涙を流しながら殴る代貸しに、目が覚める誠吾。
   跡目の話で、剣持が香川組を訪ね、誠吾にどうだと言う。しかし誠吾は、まだ自分がそんな器ではない、秀次郎に後見になってもらえないかと答える。一度は断るが、剣持からも頼まれ承諾する秀次郎。その頃、女郎たちの中国に送り込む計画が進まないことに、大山は、関東一円の親分衆に侠客の団体を作って協力させようと図った。しかし、剣持は、おんなを不幸にすることに侠客として賛成しかねると断った。いよいよ大山は、下川辺に武器を提供するので剣一家と皆川組をぶっ潰せと指示する。
   いきなり、ダイナマイトを皆川組系の遊郭に投げ込んで、主人、女郎、客を皆殺しにする東雲一家。誠吾と代貸しは、二人で東雲組に申し入れに行くが、袋叩き合い、誠吾は重傷、代貸しは命を落とす。剣持は二人を貰い下げに行く。組に戻り次第、仁義に則って、喧嘩状をしたため、若頭に持っていかせるが、それを読んだ下川辺は、鼻で笑って、若頭を斬り捨てろと宣言した。東雲一家代貸しの重吉は、そんな仁義に外れたことは止めてくれと言う。このところ自分に意見ばかりする重吉が目障りになっていた下川辺は破門にする。剣の若頭を守って、剣組に届ける重吉。喧嘩支度をしている剣組に、軽機関銃を持った東雲組の殴り込みが、ドスと機関銃では戦いにならず、倒れていく剣一家。最後に
剣持は絶命する。堂々たる博徒の最期である。
   その一報が皆川組に届く。殴り込みだと息巻く一家に、秀次郎は言う。悔しいだろうが、代貸しの通夜と、今重傷の誠吾を盛りたてて組の再興するのが、子分であるお前らの仕事だと。悔し涙で泣き崩れる子分たちを横目に、一人支度を始める秀次郎。雅代は、こうして送るのは2度目だと言って、止めるが、勿論止まられないことを知っている。東雲組に向かう秀次郎の前に、重吉が現れた。兄弟の杯を返すと言う秀次郎に、自分の破門になったので助太刀をするぜという重吉。かくて、二人は東雲組に切り込む。下川辺、大山も斬ったが、途中秀次郎を守ろうと重吉は手傷を負う。死なねえと言った筈だぜと言って、重傷の重吉に肩を貸し、雪の中を歩き続ける秀次郎。

2008年11月19日水曜日

温故知新

   午前中大門の歯科で、抜けた差し歯入れ。渋谷に出て、
   シネセゾン渋谷東京テアトル長澤雅彦監督『天国はまだ遠く(295)』。都会のOL山田千鶴(加藤ローサ)は、自殺しようと京都の北、天橋立がある宮津までやって来た。何でも自殺の名所メガネ橋というものがあるらしい。駅からタクシーに乗って運転手(宮川大助)に、人がいない、とにかく北の方まで行ってくれと頼む。運転手は、「絶景の宿 民宿たむら」に車を付けた。そこには、田村遙(チュートリアル徳井)が独りで、鶏を飼い、畑を耕し、漁をし自給自足で暮らしている。その夜、千鶴は大量の睡眠薬を飲んだ。ふと目が覚めると昼だった。36時間眠っていたのだ。死ぬことも出来ずに落ち込む千鶴。
   しかし、ゆっくりと時間が過ぎていく宮津の生活と、フランクな話し方の中に優しさのある田村によって、癒されていく。
   何だか、みんな誰かに癒して貰いたがっているんだなあ。主演の二人のストーリーを分かりやすくするために、シチュエーションや脇役は平坦に極めて分かりやすく観念的になっている。何だか歯がゆい感じがする。田村の亡くなった恋人ゆかりが、そのまま千鶴に重なる合成の完璧さには、妙に感心してしまったが(苦笑)。加藤ローサでローザじゃなくてローサだったんだなあ(苦笑)。散髪して、
   ユーロスペースで深川栄洋監督『真木栗ノ穴(296)』。鎌倉の切通しを抜けた先にあるボロアパートに住む作家の真木栗勉(西島秀俊)は、連載小説が終わり困窮していた。ある日中華料理屋で夕食を取り銭湯に行こうとすると年増の店員(キムラ緑子)が声をかけてきた。自分の部屋の風呂に入らないかと言うのだ。真木栗が狭いユニットバスに浸かっていると女が入ってくる。実は、女は独り者の男を誘惑している間に、相棒の男が独り者の部屋で盗みを働くという窃盗グループだった。帰宅してぐちゃぐちゃになった部屋に驚く真木栗。しかし、積み上げた本が崩されたことで、部屋の壁に穴があることに気が付く。片方の部屋は無人だったが、他方には若いボクサー姿の男がいる。他人の生活を盗み見することで興奮を覚える真木栗。
   数日後、馴染みの中華料理屋で、窃盗団の取材に来た週刊リベラの編集長(利重剛)と部下浅香(木下あゆ美)に出くわす。嫌がりながら仕方なしに取材を受ける。しかし、編集長は、作家が失踪して穴が開いた官能小説の執筆依頼をするのだ。慣れぬ官能小説に苦悩する真木栗。しかし、ある日アパートを見上げる長い髪の女を見かけ、女宛の宅急便が届いたことで、真木栗のペンは動き始める。
   古いアパートに住む男が、壁に開いた穴から隣室の美しい女の生活を覗き見する連載小説は、読者たちの評判を呼ぶ。しかし、真木栗が書いた内容が、隣室で現実のものとなりはじめる・・・・。
    乱歩の「屋根裏の散歩者」か。しかし、加藤泰の「陰獣」観た翌日では分が悪い。乱歩や夢野久作を彷彿させるというより、彼らの文章の一部を取り出してまとめた感。矮小化というとあまりに、酷い言い方か・・。ロケ先も、なかなか、味のあるアパートを見つけてきたと思うが、其処に積み上げる古書の山。古びたハードカバーを集めたようだが、こだわりはそこまでなのか。意味ありげにアップにするのが、角川書店文庫版の江戸川乱歩、横溝正史では、ネタばらしなのではないか。隣室の女を演じる粟田麗は、何だか不幸な山口智子といった感じ。傴儘の不動産屋の主人も悪趣味だ。
   何だか、2作品とも悪い訳ではないのだが、全く物足りない。バランスよく作られているのだが、突出した感じがない。製作費のバジェットが少ないのを苦心してカバーしているのだが、全ての経費を平均的に削って、そこそこの映画を作るノウハウのみが、邦画バブルを支えているような気がして複雑な心境に。
    神保町シアターで54年日活山村聰監督『黒い霧(297)』。井上靖原作、菊島隆三脚本を、山村總が、主演・監督。
   国鉄総裁の秋山が、行方不明の翌日、綾瀬で轢断死体で発見された。他殺、自殺両説が渦巻く中、各新聞社が他殺説をセンセーショナルに書き立てる中で、かって妻が人気歌手と心中した後、マスコミのあることないこと興味本位の報道に心に傷を負った毎朝新聞社会部デスクの速水卓夫(山村總)は、無責任に断定して煽り立てるのでなく、捜査本部の刑事たちと自分たちが掴んできた事実だけを記事にしようとする。
   当時の政府は、秋山が国鉄の10万人近い大量首切りを決定したことに対する労働組合や左翼勢力による赤色テロであるとした方が都合がいい。唯一他殺説に与しない毎朝社会部長山名(滝沢修)と担当デスク速水に対する内外の圧力は強まる。更に三鷹駅で無人の車両が暴走して大惨事が発生することで、更に左翼陰謀説が決定的になったかに見える。そんな中、真夏の暑い日差しの下で死に物狂いの社会部員たちの取材によって、捜査本部が自殺説と断定し、記者発表することに決まったという特ダネを掴み、速水たちは勝ったと思われた。しかし、当日巨大な権力によって、捜査本部の発表は中止、速水も福岡支局に飛ばされることになった。
   下山事件の時の毎日新聞の記者たちの話が元になっているらしい。自分も松本清張の「日本の黒い霧」を子供のころに読んだので、アメリカの特務機関陰謀説を今まで信じていたが(苦笑)。なんと真実を知るということの困難なことか。大事件の新聞社の社会部記者たちの話は、今夏公開された「クライマーズハイ」を連想する。事実、その新聞の方向性を決定する担当デスクの苦悩など同じだ。変わらないものなんだろうな。
   夜は、外苑前の粥屋喜々で自分の企画の飲み会。20名以上集まり、久々の人も多数来てくれたのでご機嫌に酔っぱらった。

2008年11月18日火曜日

かっての個性的な男優たちと、魔性の女たち。

   阿佐ヶ谷ラピュタで、77年松竹加藤泰監督『江戸川乱歩の陰獣(291)』。
   正統派の探偵小説家寒川光一郎(あおい輝彦)は、伝奇的な要素の強い大江春泥という作家を批判していたが、ある時自分の愛読者だという小山田静子(香山美子)という美しい人妻と知り合った。彼女の夫、六郎(大友柳太郎)は、六々商会という会社を経営しており、2年程ロンドンにいて1年前に帰国したらしい。彼女から同級生でかって恋人だった春泥から脅迫状が来ているとの相談を受ける。担当の編集者の本田達雄(若山富三郎)によれば、奇人の春泥の顔を見たものは殆どいなく、原稿を渡すのも妻らしい。更に最近は、失踪しているようだ。
   六郎は、しばしば碁を打ちに友人の植草河太郎(仲谷昇)京子(野際陽子)夫妻の家に赴くが、碁の相手は、夫妻ではなく英国から六郎が連れてきたヘレン・クリスティ(田口久美)で、碁を打つ音は、鞭を打つ音のようであり、夫妻も含め倒錯の趣がある。ある時、春泥がピエロの扮装で浅草に現れたという情報に、本田、寒川、静子は出掛けるが、静子は春泥ではないと言う。男は市川荒丸(川津祐介)という貧しい前衛役者のようだ。静子は、自分の寝室を覗く者がいると言い出し、天井裏を調べると金釦が見つかった。
   2通目の脅迫状の通りの惨劇が起こった。隅田川の吾妻橋に六郎の全裸死体が上がったのだ。背中の数ヶ所の刺し傷が死因で、何故かカツラをかぶっていた。女中の佐々木初代(任田順仔)は事件当日のアリバイがなく、糸崎検事(中山仁)たちに締め上げられる。実は運転手の青木民蔵(尾藤いさお)と上野の待合いで逢い引きしていたのだ。六郎の服は乞食が死体から剥ぎ取って古着屋に売ったようだ。六郎の通夜に寒川は駆け付ける。いきなりヘレンが現れて焼香もせずに帰る。
    怯える静子に、寒川は春泥が自分に挑戦しているのだと言い、静子を必ず守ると言う。しかし、天井からの覗き以降、部屋を変えたが、昨夜窓の外から春泥が覗いていたという。部屋を調べると、何故か鞭がある。寒川が柱を叩き出すと、急に高ぶって寒川に抱きついてくる静子。
    寒川は、ヘレンと植草京子を尾行して横浜グランドホテルまで行く。ヘレンの手袋の釦は、天井裏で見つけたものと一緒だった。誘われて部屋に行くと、六郎に贈られたお揃いの手袋だと言い、急に全裸になって鞭を打てと寒川に言う。六郎はロンドンでヘレンと嗜虐趣味を持ったのだ。
  一方、本田は、春泥の書籍の奥付にある本名平田一郎と著者近影の人物を知るという、静岡に住む増田芙美子(加賀まりこ)を苦心して探し当てた。彼女は平田の同級生だったといい、大学生の時に、親の事業が失敗して彦根に越して行った同級生の女と別れて死んだと思っていたと証言する。写真は本人だと断言するが、本田の知る春泥の人相とは似ても似つかない。
   寒川の作品である「パノラマ島奇談」の上演が歌舞伎座で行われた。寒川は静子と初江と3人で観劇していると、静岡帰りの本田が寒川に耳打ちをする。ステージで展開される奇妙な前衛舞踏。急にステージ上の市川荒丸が血を吐いて倒れ、劇は中止となった。帰りの車の中で運転手青木の手袋に目を留める。 果たして、ボタンが取れた手袋を、
六郎から貰ったのだ。
  寒川と静子は、雨の降る中、吾妻橋で下車し、寒川は、自分が信じたくなかった最後の推理を語り始める。静子は、一軒の土蔵に案内した。そこは、寒川と暮らす為に静子が借りたものだ。二階に案内されると、全て赤く塗られ、鏡と一脚の椅子のみが置いてあった。寒川は、春泥の正体を静子に告げる。
  他に、前衛舞踏家(花柳幻舟)女優宮島すみ子(倍賞美津子)スタア(中野英治)活動写真館の主(汐路章)女性写真記者(桜町弘子)女ピエロ(石井富子)一銭蒸気の係員(藤岡琢也)お婆ちゃん(菅井きん)らが出演。
   乱歩×加藤泰という過剰にエログロな世界と相まって、香山美子の匂い立つような色気に惑わされる怪作。こだわった映像で十二分に掛かっている製作費と、あおい輝彦と香山美子というメインキャストがどれだけ観客を呼び込めたのか、余計な御世話だが心配になってしまう。
   シネマート六本木で映画音楽家・林光の世界66年創造社大島渚監督『白昼の通り魔(292)』。ある家のお手伝いの篠原シノ(川口小枝)が洗濯をしていると、同郷の英助(佐藤慶)が包丁を持って押し入ってきた。英助は、シノの首を絞めて強姦するだけでなく、家の夫人を強姦殺人して逃げた。今各地で犯行を重ねる白昼の通り魔の犯行だろうと警察は言う。家の主人(観世栄夫)は、取り乱すが、シノは刑事(渡辺文雄)に、冷静に状況を説明するが、犯人が英助であることは明かさなかった。その代わり、英治の妻で郷里の村の中学で教師をしている松子(小山明子)には、真実記した手紙を出す。     村には、かって村長の息子の源治(戸浦六宏)と中学教師の松子が中心になって村の若者たちが共同農場を経営していた。しかしある年台風で、豚や鶏が全滅、またそこの土地が流されたことで、他の村民の土地が駄目になり、共同農場は続けられなくなった。英助は農地がない水呑百姓で、他の村民の農作業を手伝って生計を立て、共同農場も出資出来ないため豚や鶏の糞尿の始末などを進んでやっていた。共同体の集まりで、松子は、恋愛とは無償の行為だと教えている。英助やシノは彼女の教え子で、自由、人権、人類愛などを教えていた。
  シノの父親(小松方正)は、田が駄目になってから、働きもせず酒ばかり呑み、娘に注意されると一家心中すると言いだすが、祖母に毒薬だと頓服を出されると真っ先に逃げ出す情け無い男だ。シノは源治にニジマスの養殖とホップ栽培の元手の借金を申し込む。源治はシノを愛していると言って承諾し、関係を持つ。狭い村で2人の関係はたちまち知れ渡った。源治は村会議員選挙に出馬することになった。一生が見通せてしまったようで源治は厭世的になる。シノに愛し合っているのだから一緒に死んでくれと言い、裏山で2人は首を吊る。源治は死んだが、シノは英助によって助けられる。しかし、意識のないシノを英治は犯すのだ。
   シノは何度も松子に手紙を出す。栄次の妻であり共同体の指導者であった松子にどうするか判断してもらおうと思ったのだ。しかし、松子からの返事は来ない。いつの間にやらシノは刑事と一緒に通り魔の被害者に会うようになっていた。しかしある時、シノ→英助→先生という三角の表を刑事に見咎められる。修学旅行の引率で大阪にいる松子の前に現れたシノ。東京に向かう新幹線の中でも現れるシノ。答えを求めるシノのまっすぐな目に、ついに東京駅で、松子は、教師としての立場を捨て、生徒たちを置き去りに走り出す。追いかけるシノ。銀座の真ん中で倒れた松子を介抱するシノ。裁判で、30数名を手に掛けた英助は、シノとの出来事がその後の犯行の引き金になったと証言する。英助の判決の日。二人は汽車に乗っていた。駅弁を勧めるシノだが、松子は手をつけない。松子の分の釜めしをシノは食べる。二人は郷里の村に戻り、英助に死刑判決が出たことが有線放送で流されているのを聞きながら、源治の心中の現場を訪れ自殺を図る。しかし、しばらくしてシノは、毒を吐いて生き残る。松子は死んでいる。また生き残ってしまったと呟きながら、松子の死体を背負って山を降りるシノ。
  シノを演じる川口小夜は、健康で伸びやかな肢体を持ち、その大きく強く光る瞳を持っているが、けっして上手くはない。しかし、大島渚は素人の演技に意味を持たせることが本当にうまい。「夏の妹」しかり「少年」しかり。こちらをまっすぐ見る力強いまなざしと、はっきり聞き取れるセリフ(それが棒読みだとしても)があれば、確実に大島のメッセージが伝わってくる。勿論、佐藤慶、渡辺文雄、戸浦六宏、小山明子といったプロフェッショナルな役者と対峙させることと、激しい演技指導で、高い緊張感を維持しているのだろうが。
   気高く美しい女教師松子は、田舎の村社会に、新しい自由と正義を普及させたが、教え子だったシノと英助の生命力の前には無力だ。この無力さは、自分の無力さでもある。悲しいなあ。
   00年近代映画協会新藤兼人監督『三文役者(293)』。殿山泰司の役者人生。タイちゃん(竹中直人)36歳の時、京都の喫茶店フランソワの17歳のウエイトレスきみえ(荻野目慶子)に一目惚れ、縄手の定宿に連れ込んだ。きみえの父(桂南光?)に結婚の申し込みに行くが、独身だろうなと聞かれて口ごもる。内縁だが、鎌倉に鯛次という店をやっているあさこ(吉田日出子)がいる。あさこに別れてくれと言いに出掛けるが、戦中から戦後食わせたのは誰だと言われ何も言えないタイちゃん。あさこには昔から弱いのだ。結局、きみえの父には何とかしますと調子のいいことを言って、二人で東京赤坂で生活を始め、鎌倉の本妻に対して、赤坂の側近と言われるようになった。
  あさこにバレる前に、自分で話した方がいいかと鎌倉に行くと、あさこは、既に結婚届けを提出、更によしこという娘と養子縁組を済ませている。きみえは当然怒って子供を産むと言うが、タイちゃんは中学時代ひどい淋病に罹って子種がないのだ。タイちゃんが監督と言う新藤兼人、乙羽信子らと作った近代映画協会は赤字続きだったが、タイちゃんと乙羽信子の2人のみの出演で台詞無し、必要最小限のスタッフで撮影した「裸の島」がモスクワ映画祭でグランプリを受賞。世界中に売れて10年の借金を返した。次の「人間」で泰司は助演男優賞を受賞。新藤は次々に合宿制の集団創造システムで製作を続ける。
   順調に見えるが、タイちゃんは相変わらず酒と女にだらしない。きみえを泣かせ、怒らせることもシしばしばだ。実は裸の島も重度の肝硬変でドクターストップが掛かったが、無視して参加。逆に酒屋もない瀬戸内海の島での合宿生活で健康的な毎日を送ることで、全治したのだ。しかし、他のロケ地では、そんな訳にはいかず監督から再三禁酒を言い渡されても夜になると他の共演者や助監督たちと酒盛りだ。三文役者だからといい、どんな役でもやってきたタイちゃんだが、60を越えると仕事が減ってきた。役者は電話の前で依頼が来るのを待つしかないと言うタイちゃんだが、きみえから近所の手前家にいるなと言われ、毎日仕事だと言いながら、新宿や銀座、浅草などへ出掛けるのだ。
   ある時乙羽信子から言われ胃カメラを飲むとあと半年の命だと言われる。きみえはタイちゃんに内緒にするよう頼む。そうした矢先、今村昌平監督の「黒い雨」など3本の仕事が来て喜ぶ。しかし、毎日身体が弱っていき、全ての出番を撮り終えた後、タイちゃんは入院する。
  竹中直人頑張っている。今、個性派俳優というと、竹中や、泉谷しげる、ビートたけし、柄本明あたりだろうか。しかし、殿山泰司のような、あの誰にも似ていない個性的な顔だが、どんな役も演じ、どんな人間にもなりおおせる役者は、今どこにもいなくなった。かっての日本のスクリーンには、そうした役者は沢山いた。そうした役者を使いこなせる監督がいなくなったのか。そうした脇役を出すと食われてしまう主役たちばかりになったのか。そもそも、そうした役者はいなくなったのか。魔性の女、荻野目慶子と吉田日出子。二人ともいいなあ。特に荻野目慶子、カッコ付きの女優とかではなくて、全身役者だなあ。何か切なく感じてしまうのだった。
   70年大映増村保造監督『やくざ絶唱(294)』。立松実(勝新太郎)は、石川組のやくざで狂犬のような男。彼には溺愛する高3の妹あかね(大谷直子)がいる。2人の母は大丸(加藤嘉)の妾で実は連れ子だったが、苦労の末早くになくなり、実は中学を出てヤクザ稼業であかねを育ててきたのだ。実の妹への溺愛は度を過ぎており、もし付き合う男が出来たら殺しかねない。情婦のかなえ(太地喜和子)が関係の異常さを指摘すると狂ったように殴り、あかねの面前で無理矢理犯そうとする。
   ある日、あかねは学校の教師貝塚(川津祐介)を誘惑し、処女を捨て、実に男と寝てきたと告げる。あかねを殴り相手の男を知ろうとする実だったが、お互い勝手に生きるのだと言い、かの子が勤めるバーへ。東風会の連中がかなえに絡むのを見て、叩きのめした上に、警官まで殴り倒して逮捕される。面会に来たあかねに保釈金も弁護士もいらないと言って仏壇に預金通帳があると教えるのだった。実が逮捕されたと聞いて、いつも、実に門前払いされていた大丸と養子の裕二(田村正和)がやってくる。一緒に暮らそうという父に1人で働いて生活していくと言うあかね。
   学校を辞め、働き始めたあかねを裕二が訪ねてくる。大丸が危篤だと告げ、あかねを一目会わせようとするが、大丸は亡くなり、死に顔も本妻里枝(荒木道子)の拒絶で見られなかった。あかねに頭を下げる裕二。それを見ていた実の舎弟が面会に行き、あかねと裕二が怪しいという話と、今回の実の事件は東風会の男を殺せという指令にビビったからだと組中が噂をしていると告げる。急に保釈金を出してくれと言い出す実。保釈された実を出迎える石川(内田朝雄)は、直ぐに東風会の殿山をバラせと言う。一件片付けたらと約束する実。
   まず本妻里枝を訪ね、妹への遺産を聞く。冷たく拒絶する里枝に、裕二のスキャンダルをバラすと1000万円の小切手を脅し取る。裕二を愛し始めていたあかねは、その話を聞いて実を問い詰めるが、兄に頼らず妾にでもなると家を飛び出す。勤め先の社長にホテルを取らせて、その気になった社長に襲い掛かられると、兄に教えると脅し、裕二を呼び寄せ結ばれる。翌日、実の前に現れる2人。結婚したいという2人に、言葉を失う実。あかねは、兄からはどうしても逃れることは出来ないのだと絶望し、裕二に愛していないのだと偽りを言って無理矢理帰した後に、実を刺して自分も死のうとする。
   妹の本心を知った実は、家の外にいる裕二にあかねを幸せにしろと言って、やくざとして死のうと殿村を探しに街に向かうのだった。
   殺陣だけでなく、人をぶちのめすシーンも、勝新、実にうまい。あんなアンチヒーローを演じられる役者も、どんどんいなくなってきた気がする。
   しかし、この映画は見ようによっては、不幸な育ち方をした18歳の娘のエキセントリックな言動に、周りの男たちも、どんどん不幸になっていくようで、そうした魔性の女に大谷直子はぴったりだ。まあ、自分も含めて、男が哀しい習性で自己破滅するトリガーなんだろうな。

2008年11月17日月曜日

少年大奥万引き団

   午前中赤坂メンクリに行き、元同僚とフィッシュでチキン&キーマカレー。
   シネマート六本木で、69年創造社大島渚監督『少年(288)』。少年(阿部哲夫)は、父(渡辺文雄)と継母(小山明子)とチビちゃんという弟の4人で当たり屋をしている。父親は、戦争中に銃撃された傷を理由に定職にもつかず、前科四犯のどうしようもない男。一家は高知を振り出しに、尾道、松江、福井、富山と転々としている。基本的に車に当たるのは継母と少年の“仕事”である。詰め襟で学生帽姿の少年が車に当たると、幼子をおぶった母親が「坊や!坊や!」と半狂乱になり、父親が駆け付けて「お前がちゃんと見てないからや!」と言って母親を殴りかかり、びっくりしている運転手から示談金を貰うのだ。一カ所何件か“仕事”をすると別の場所に移動していく。あるとき継母は少年に読売巨人軍の黄色い野球帽を買ってくれる。継母は、自分が継母を恨んでいたので、少年もそうだと思っているが、暴力を振るって脅すことしかしない父親より“仕事”をすると百円小遣いをくれる継母を慕っている。
  父親が、逃げても無駄だ、高知にお前の居場所はとうに無いと脅した時に、貯めたお金で、少年は高知にいる祖母の下に逃げようとする。高知までは切符を買えない。中学生は子供料金しゃないから駄目だと駅員に言われ天橋立まで行くが、独りきりで寝る段になって泣き出して、家族のもとに戻る。  福井で継母が中絶することになった時も、父親に済ませたと嘘をつく継母の味方をして、腕時計を買って貰った。少年は時々独り言を言う。異母弟のチビちゃんしか話し相手がいないからだ。高崎で当たった相手が車の整備工で警察を呼ばれた時には写真を撮られて、父親は直ぐに逃げ出す。
   それ以降父親は、4人の家族連れでマークされるのを嫌い、自分だけ、ビジネスホテルに泊まり、継母と子ども達は、安い商人宿だ。父親抜きで、2人は“仕事”を始める。秋田では、継母は、父親と喧嘩をし妊娠4か月なことをバラす。そして秋田から北海道に飛行機で渡った。稚内や札幌を経て小樽に行った時に事件は起こった。父親は継母を殴り、血が雪を染める。少年は何故か継母に貰った腕時計で自分の腕に傷をつける。父親は怒り腕時計を取り上げて投げ捨てる。その腕時計を取りに車道に出たチビちゃんを避けようとしてジープが街路樹に激突。運転手と助手席の少女が亡くなった。その模様を少年は見続け、少女の赤い長靴を持って宿に帰ると、父親は少年と継母を殴った。少年は不思議な形の雪だるまを作り、チビちゃんにこれは宇宙人だと言う。
  その後一家は大阪の文化住宅で暮らし始めた。しかし、警官がやってくる。継母が手錠をかけられたのち、父親が帰ってくると、少年は「父ちゃん、逃げろ!」と叫んだ。
    ニュープリントなのか、画像がとてもきれいだ。このところ凄いプリントを見る機会が多く、改めて消耗するものなんだと実感する。
   家族をテーマにした映画だが、一家の誰にも固有名詞はない。最後の逮捕のシーンで逮捕状の両親の姓名は読み上げられるが、大した意味も持たず、少年に至っては、少年と呼ぶしかない。
   なによりも、少年の顔が、目が強烈だ。少年という総称で呼ぶことしかできない。特徴のない少年の顔は、次に会った時に思い出せないかもしれないが、彼の何も写していないかのような瞳は一生忘れることはできないだろう。
   SPO/ジェリーロジャー山本清史監督『大奥百花繚乱(289)』。将軍家光(鈴木裕樹)と大奥の女たち(笑)。家光以外は、春日局(小林かおり)、側室お玉(滝沢乃南)、お春(弥香)、お鈴(南かおり)という4人が全キャストという冒険作というか野心作というか(苦笑)。百花繚乱どころか四花繚乱である。ノークレジットで出したくとも、現代劇と違って時代劇、衣装や鬘に金かかるもんな。でもストーリーは一作目の『男女逆転吉原遊郭』よりはまだましなのは、ドラマ『大奥』をよく研究したからなのか。しかし、根本的に日本語がヘン。敬語には、尊敬語、丁寧語、謙譲語などがあってと教えてあげたくなる。そういう意味では、前作が“江戸風俗間違い探し”だとすると“日本語間違い探し”ビデオだな。
    68年松竹野村芳太郎監督『白昼堂々(290)』。筑豊の廃坑になった町に掏摸、万引きなど泥棒が集まる川又という集落がある。13家族40人の生活を支えるのは、渡勝親分こと渡辺勝次(渥美清)。そこに昔の掏摸仲間、桶銀こと富田銀三(藤岡琢也)がやってきた。彼は、2人が昔よく世話になった警視庁掏摸係の森沢の世話で、娘のために足を洗って丸急デパートの保安係をしている。捕まった人間の弁護士費用などで愚痴をこぼす渡勝に、つい昔のよしみでデパートで反物や高級婦人服などを万引きすればいいとアドバイスしてしまう。
   東京に戻り保安係をしている桶銀の前に、教えた通りに万引きをしている川又の連中の姿が。文句を言う桶銀に、逆に盗品の処分など手伝ってくれと頼む渡勝。一度は断るものの、古い友人の頼みに、渡勝たちの旅館に行き宴会に参加してアドバイスをしてしまう桶銀。森沢が定年を前に退職すると聞いて、桶銀は渡勝を誘い森沢の自宅を訪ねる。2人とも更正していると思っている森沢は喜ぶ。しかし酔って盛り上がっているうちに、森沢はやはり警察官を続ける決意をする。困った顔の桶銀。
   ある日和装の美人輿石よし子(倍賞千恵子)が万引きをしたのを捕らえたが、初犯というので放免すると、財布を掏られており、鮮やかな手並みに唸る。集団万引き団の切り札によし子をスカウトしようと桶銀は言い出す。渡勝は半信半疑だったが一目惚れ。
   渡勝たちの商売は関西、名古屋などかなり上手く行った。しかし、ある時丸急デパートに、森沢がやってきて、関西で起きている集団万引き団を摘発するといい、若い刑事の寺井(新克利)の教育係を桶銀にやって欲しいと頼む。彼を連れ店内を見て回ると、間が悪く、渡勝の配下の八百橋ユキ(生田悦子)と野田(佐藤蛾次郎)が万引きをするところに出くわす。寺井がユキを捕まえると、盗品は出てこず、ユキにステーキを御馳走する羽目に。しかし、寺井が常磐炭鉱出身だと聞いて、ユキは寺井に親近感を覚える。森沢は、清水豊代(桜京美)を捕まえる。あまりに早く弁護士の坂下(フランキー堺)が接見を求めたので、不審に思う。豊代は、よし子と張り合って無理をしたのだ。豊代は保釈中に逃走する。よし子と川又の連中の板挟みに悩む渡勝。実は、渡勝は、よし子に惚れて仕事も手に付かなくなっていたのだ。渡勝を連れ、よし子の自宅を尋ねる桶銀。渡勝一人で家に入り告白する。藪から棒な話に怒りだすよし子。しかし結局1年後との契約ならば結婚してもいいと言うよし子。川又で結婚の宴会をしていると、森沢と寺井が現れる。渡勝が自分を裏切っていたことに激怒する森沢。その後マーチ(田中邦衛)など次々に逮捕され、よし子も名古屋で逮捕。弁護費用や、川又の人々の生活費に苦悩した渡勝は、丸急デパートの売上金を強奪することを考えた。協力しろと言われ娘のために断った桶銀だが、結局手伝うことに。途中まで計画通り進んだかに見えたが、渡勝の前に森沢が現れた・・・。
  渥美清の切れのある動きが凄い。更に、その後寅さんシリーズで兄妹となる倍賞千恵子って、寅さんの前なのか・・・。何だか、寅さんシリーズって有史以来ずっと続いているような気がしてたからなあ(苦笑)。この作品の渥美清が、「忍者パパ」の主人公に見えてしょうがなかったことだけ付け加えておく。

2008年11月16日日曜日

日曜日だったんだな。

    テアトル新宿で、73年東宝増村保造監督『御用牙 かみそり半蔵地獄責め(285)』。
北町奉行所隠密廻り同心伊丹半蔵(勝新太郎)は、相変わらず、北町奉行所一の切れ者としてかみそり半蔵として活躍し、役宅では男の武器を鍛える日々を送っている。ある日自分の姿を見て逃げ出した2人連れを追いかけて、侍の行列に突っ込んだ。行列の主は、勘定奉行大久保山城守(小松方正)。傍若無人な振る舞いに山城守は、剣の達人御子柴重内(黒沢年男)をけしかけるが、引き分けた。
   2人連れの持ち物を調べると若い娘の着物が。追い剥ぎかと問い詰めると、水車小屋に死んでいた娘から盗ったと自供。死体を改めると、堕胎の後、死んだことが分かる。近くを調べると祈祷師の女が堕胎を請け負っており、更に娘は近くの尼寺と関係があるようだ。寺社奉行の管轄だが、お構い無しに乗り込むと、嗜虐趣味のある大店の主人たちを相手にいかがわしい商売をしていることが分かる。さっそく尼僧を攫って、自慢の男の武器で吐かせると、裏に山城守が関わっていることが判明する。
   そんな時に北町奉行と筆頭与力大西から呼び出しがあり、勘定奉行の行列への無礼を咎められ、しかし今江戸で暗躍する極悪非道な浜島正兵衛(佐藤慶)の一味を捕まえろという命が下った。次に金座を狙うという情報を得て、金座を女だてらに取り仕切るりき()を訪ねる。主のりきの寝所の物置で見晴らせろと言い出して驚かす。それどころか、後家の操を守るりきに正兵衛に陵辱されるのかと言ってモノにしてしまう(苦笑)。心の落ち着きを取り戻したりくを山城守が訪ね、小判の改鋳を行い、金の含有率を半分に落とし更に一部を自らの懐に入れよと指示する。勿論押入の中で半蔵は聞いていた。更に筆頭与力大西が現れ、警護をするかわりに袖の下を要求、半蔵に追い返される。
    最後に火盗改めが泊まり込みで警護をすると申し入れ、りくに受け入れるよう指示をした。果たして火盗改めは浜島正兵衛の一味だった。まず、りくを陵辱しようと寝所にやってきた正兵衛が、布団を剥ぐと中には半蔵が。一人一人斬り捨てる半蔵。大勢の捕り方に包囲され、追い詰められた正兵衛は、少女を人質に。半蔵の命と引き換えに解放するとの話に半蔵は棺桶を背負い刀を捨て一味のもとに。しかし卑劣な正兵衛は、少女に襲いかかった。それを見て半蔵は棺桶に仕込んだ武器で一味を倒す。引き立てられていく正兵衛たち。北町奉行と山城守から褒美を取らすとの言葉に、山城守の首だと答える。驚く皆に、山城守の悪行を暴露する。
    フライヤーに「増村監督がイタリア留学中に体験したP・パゾリーニ作品の影響大?」という惹句に惹かれて、ちょっと期待大きすぎてガッカリ。カメラも宮川一夫だし、かっこいいシーンも多いが、パゾリーニの影響云々は、増村保造監督に失礼だろう。巨匠増村保造も晩年にはこんな作品を撮っていたということで・・・。
    阿佐ヶ谷ラピュタで山下耕作監督特集。66年東映京都『続兄弟仁義(286)』。大正時代、上州前崎という町に、梅原利三郎(大木実)が率いる梅原組と岩佐時蔵(小松方正)の岩佐組が対立していた。梅原は河川の護岸工事を請け土建屋に転身しようとしていたが、ある時人夫たちを賭場に誘い工事を妨害したことで争うことになった。助っ人を数百人集めている岩佐組に比べて資金力のない梅原組。そこに浅草の菊水満吉親分の添え状持参で草鞋を脱いだ桜井清次(北島三郎)と、汽車の中で出会い付いて来た小川健太通称鉄砲玉の健(小島慶四郎)。しかし余りの戦力差にすぐ逃げ出す健。梅原と妻せい(宮園純子)は、長吉という子供を育てている。実は、長吉が長次郎おじちゃんと呼ぶ、人斬り長次郎こそが実の父親なのだ。
   話を聞いて単身岩佐組に殴り込む清次。岩佐組代貸の勝又竜吉(里見浩太郎)を傷つけたところで、仲裁にやってきた稲上長次郎(鶴田浩二)に止められ、また、武州の大親分藤ヶ谷初太郎(村田英雄)が岩佐と梅原の喧嘩を買うことでひとまず落ち着いた。傷ついた竜吉を清次が見舞うと、病で寝込んだ父親の借金に健気に働く飲み屋の酌婦きく(小川知子)が必死に看病していた。手打ち式は無事に終わったが、初太郎が梅原に肩入れしているようで面白くない岩佐は、花会をすっぽかして帰り、代貸の竜吉に任せた上に花代も相場の三分の一しか渡さなかった。受付にいた清次は、竜吉の顔を潰さないよう金額を増やして言う。
   しかし、それでも懲りない岩佐は、侠客の筋を説く叔父貴分初太郎がうるさくなり、竜二に斬れと命じた。苦悩しながらも、組を破門して貰い向かう。その頃初太郎、長二郎、清次たちは、南原が堅気になりシマを岩佐に譲る話を纏めた。そこに竜二が現れ、初太郎に切りかかるが、長二郎に斬られた。最期に清次と兄弟分に成りたかったという竜二に堅めの杯をさせてやる初太郎たち。亡骸を清次たちが岩佐組に運ぶと破門した人間の葬式などしないと岩佐は足蹴にする。竜二の弔いを済ますと、長二郎と清次は2人連れ立って岩佐組に向かったのだった。
  主題歌に合わせて歌ってしまう。北島三郎も若い。村田英雄の貫禄が凄い。二人ともちゃんと芝居している。
  69年東映京都『緋牡丹博徒鉄火場列伝(287)』。明治中頃、竜子は徳島の鑑別所まで、矢野組の子分櫓の清吉(高宮敬二)が出所になるので迎えに来た。しかし清吉は病で伏せっている。竜子は看守たちに病院を紹介してくれと頼むが、ヤクザは死んだ方がいいとけんもほろろ。仕方なしに夜の雨の中人力車で移動するが、車夫も持て余し竜子は途方に暮れる。そこに通りかかった運送屋マル興の親分江口幸平(待田京介)と農民たちが、自分の家に連れて行き医者も呼び、とても親切に面倒を見てくれたが清吉は亡くなった。今わの際に小城組との諍いの原因は、緋牡丹のお竜は博徒として一人前の顔をしているが、女としてはカタワだと貶したからだと打ち明けられる。
   農民たちは人情に厚く葬式も出してくれた。竜子は江口に四十九日の法要まで何か働かせてもらえないかと頼むと、元侠客だったらしい江口は、渡世人としてではなければよいと言う。この村では、藍の生産で生計を立てていたが、昨今の米代などの高騰で、江口を通じて小作料の値下げを地主に申し入れ、小作争議が起こっていた。実は江口は徳政一家の二代目だったが、ある不始末で跡目を竹井勇吉(名和宏)に継いでいた。阿波踊りを控えており、そこで恒例の大名盆を開くには、地主衆たちの参加が必要なため、小作争議を止めさせるように勇吉は四国の顔役の道明寺親分(河津清三郎)から強く言われていた。
   竹井と兄弟の杯を交わしていた鳴門川(天津敏)は徳島の色街をシマとしていたが、非情で狡猾な男。ある時、マル興にイチャモンを付けに来た時、江口と竜子を助けたのはお加代という子供連れの渡世人江藤三治(鶴田浩二)通称、仏壇の三治。彼はかって渡世の義理で斬った地蔵安の子供を母親に会わすために旅をしていたのだ。しかし、ある遊郭で、うめは一年前に亡くなっていた。江口は、三治にお加代を預かる代わりに三代目の面倒を見てやってくれと頭を下げる。
   竜子が世話になった百姓茂作(中村錦司)の娘花恵(榊浩子) が、兄猪之吉(五十嵐義弘)の借金のカタに鳴門川一家に連れて行かれた。花恵は徳政一家の仙吉(里見浩太郎)の許嫁だった。三百円の証文に鳴門川一家の賭場で稼いだ金で花恵を取り戻したが、江口からは侠客としての面を出さない約束だったから出て行ってくれと言われる。承諾したすぐ後に、鳴門川一家の者に江口は刺される。
 更に仙吉は鳴門川に竜子を斬れと言われ、断ったため命を落とした。その亡骸を受け取りに徳政一家に乗り込む。あわやの所で三治が博徒なら盆で決めろと言い、竜子と三治が対戦し、竜子が勝つが、実は三治はワザと負けたのだ。見破った三代目に博徒は義のために身体をはるものじゃないかと三次は説く。三代目は、江口に頭を下げ、これからは百姓のために動くと約束した。
  しかし、道明寺から三代目を斬って、徳政の跡目を継げと唆された鳴門川は、三代目を待ち伏せて惨殺する。その頃、竜子は道後の熊虎を訪ね、熊虎の兄弟分である道明寺とのとりなしを頼んでいた。三治は、鳴門川を斬りに行くが、多勢に無勢、逆に斬られる。しかし、そこを取り成したのは小城英三郎(丹波哲郎)。彼は、道明寺と鳴門川の二人のあまりの汚さに怒っていた。阿波踊りの夜、竜子は、勇吉の墓の前で刀を持つ江口に、三次、千吉、勇吉、三人が死んだのは、江口のためだと言い、
殴り込みを思い留まらせる。そして、阿波踊りの列にいる鳴門川に拳銃を突きつけ、人気のない場所に連れて行く。
  熊虎が、道明寺一家で暴れている一方、竜子は、鳴門川一家と闘っていた。小城が現れ、鳴門川に男なら竜子と1対1で勝負しろという。鳴門川を倒す竜子。小城は、後始末は自分がやるので去れと言うのだった。
  シリーズ第5作。鬼虎一家の不死身の富士松の待田京介が、お竜の相手役。鬼虎親分と絡むわけではないが、まあ、プログラムピクチャーには、こうした例はいくらでもあるが、不死身の富士松ファンとしては、少し微妙である。まして、君香の三島ゆり子が、妹役なんて・・・。しかし、お竜の、スローモーションを多用した鳴門川との殺陣、軽やかで、かっこいいなあ。