66年東映東京降旗康男監督『非行少女ヨーコ(295)』
ヨーコ(緑魔子)は家出をし、中学の先輩タケシ(荒木一郎)を訪ねてきた。田舎では東京で羽振りを利かせていると自慢していたタケシは、中華料理屋の皿洗い。キャベツの千切りさえろくに出来ず、先輩たちに百姓と馬鹿にされている。何の当てもないヨーコは、タケシの口利きで、住み込み店員になるが、直ぐに夢の東京生活とは正反対の毎日に嫌気がさす。女店員雑魚寝の二階に、夜中まで皿洗いをしていたタケシが忍び込んで来て、ヨーコに襲い掛かった。タケシは、昔からヨーコが好きだったし、田舎でズベ公をしていたヨーコが街の不良たちに輪姦されたと聞いていたので、思いを遂げられると思ったのだが、ヨーコは必死に抵抗し従業員全員が起きて、タケシをボコボコにした。
ヨーコは、店を出る。店の裏にいたノラの子犬を抱きかかえて。早朝の街を歩いていると、後ろに外車が止まり、運転していた紳士(岡田英次)が乗らないかと声を掛けてきた。男はファッションデザイナーの浅井潤、高級マンションに一人暮らしをしていた。窓の外に広がる東京の景色にヨーコは夢中になった。浅井はヨーコに朝食を食べさせてから、ヘアメイク、マニュキアなどを施し、外国のファッション雑誌のように完璧な女性に仕立てて、高級そうなクラブに連れて行く。田舎の不良やタケシたちのように、直ぐ自分を求めて来ない都会の男。しかし、帰宅すると浅井は、急に元の出会った時の格好をしろと命じた。そして家出娘姿のヨーコに、突然襲い掛かって陵辱する浅井。紳士然とした浅井の顔がサディスティックにおぞましく歪む。翌朝、浅井の部屋に都会の垢抜けた女(芳村真理)が訪ねてくる。浅井には何人も情婦がいる。女は、田舎臭いのが最近の趣味なのと浅井に皮肉をいい、どうせ家政婦替わりなんだからお茶でも入れろとヨーコに言うのだった。そして、子犬を野良犬と吐き捨て、放り投げた。ヨーコは、私は犬コロじゃないと言って飛び出す。
行き場も金もないヨーコがボーリング場でブラブラしていると、ハルミ(城野ゆき)が声を掛けてきた。ハルミは仲間の溜まり場の喫茶店に連れて行き、空腹のヨーコに食べ物を頼み、自分はトルコ嬢で仕事があるのでと、仲間のナロン(石橋蓮司)に紹介した。出掛けにハルミが薬を飲むのを見かけて、尋ねるが、ナロンは、マスターの矢吹(大辻志郎)の目を気にして後でゆっくりあげると言う。ナロンは、美容院の経営者の息子で、女のような言葉づかいをする。彼は、夜モダンジャズが大きな音で鳴らされ、紫煙で霞のかかったようなバー・ヘイゼルに連れていく。そこには、ナロン、ハルミたちの仲間で、大阪の金持ちの息子で浪人崩れのジロー(谷隼人)や、モデルのアコ(大原麗子)らがいる。彼らは、睡眠薬ハイミナールとビールを飲んでラリって毎晩騒いでいるのだ。ヨーコも貰って飲んでいるうちに、田舎での嫌な思い出を忘れ、盛り上がることができる。
翌朝、ヨーコはジローの部屋で目を覚ます。遊び歩いている割には、ジローはナイーブな青年だった。少し、ぼーっとしていたが、ジローに誘われて、フランス映画を見に行く。サントロペの海にいる恋人たちを見て、ヨーコはその音楽とフランスのサントロペの海を忘れられなくなった。ジローは、ヨーコにキスをしていいかいと尋ねるが、実行に起こすことはしなかった。
煮え切らないジローに物足りなさを感じたヨーコに、男(東野孝彦)が声を掛けてきた。垢抜けない男だったが、ボーリング場に行く。男は、4回戦ボーイのボクサーだった。沖縄近くの小さな島から出て来たので、周りからオキと呼ばれているが、友達はいないと言う。ヨーコは、オキをヘイゼルに連れて行き、仲間に紹介する。オキは、試合前なので、コンディションを整えていると言ってハイミナールやアルコールを断って、帰って行った。ヨーコは仲間を連れて、オキの試合に出かけた。健闘虚しく、オキはKO負けを喫する。ヨーコは慰めようとしたが、負けは負けだし、トレーニングしにジムに戻ると帰っていくオキ。
ジローが、ヨーコの所に、来て急に大阪に帰らなければならなくなったと言う。帰って来なければ、仕送りを止めると父親に言われたのだう。だから一晩一緒に過ごしてくれと言うジロー。ジローの部屋でキスをし、身体を合わせる二人、しかし、ハイミナールを飲んでテンションを上げようとしてもナイーブになって、最後までジローは果たせなかった。泣くジローに優しくするヨーコ。翌日、東京駅で必ず戻ってくるので自分の部屋にいてくれといって、東海道線に乗るジロー。再び、ヨーコは虚しくなる。
ある時、ヒロミが死んだ。ヒロミは薬を止めて結婚するんだと言っていたが、男には妻がいたのだ。無理心中をしたのだという愛する男の遺体は妻が引き取って行った。ヒロミの死体に泣く仲間たちの中で、ヨーコは違和感を感じていた。ヒロミは負けたのだ。
そのまま、飲みに行ったバー・ブルーノートには、有名な画家中田(戸浦六宏)が来ていた。店内には中田が描いた大きな号数の抽象画が飾られている。ラリったヨーコは手がつけられなくなっていく。中田の友人の井村(寺山修司)は「何も面白いことなどない。こんな連中は、毎朝早く起こして、ラジオ体操をやらせればいいんだ」と呟いている。しまいに、ヨーコは、中田の絵に火をつけ、ナイフで切り刻み始め、止めようとする中田や店員や仲間たちともみ合いになっている。火が付いたので、スプリンクラーが作動したようだ。大混乱になり、ヨーコたちの仲間は警察に連行された。みな、親が保証人として引き取りにやってきた。家出人のヨーコの保証人には、ナロンの兄(相馬剛三)が一緒に引き受けてくれた。家族と帰宅する皆と別れて、ヨーコは再び彷徨う。
みな、それ以来お行儀がよくなってしまったようだ。ナロンでさえ、スーツとアタッシュケースで、自宅の美容院を手伝っているらしい。混血児のトミィ(関本太郎)も、自動車修理工になるべく真面目に働いているらしいヨーコは、それは負けだと思い納得できない。しかし、金がなくなり、薬も買えない。終いには身体を売るようになった。しかし、ヨーコは、全く感じず、横たわったままだ。そうして新宿西口をブラブラしているとタケシが声を掛けてきた。荒木組に入ったと言う。タケシはヨーコの面倒をみるといい、ジローの部屋に付いてきた。再び、ヨーコに襲いかかるタケシ。途中から抵抗する気も失せたヨーコは、呆然とされるがままだ。しかし、事が済んだタケシは、ここが男の部屋であることと、周りに転がるハイミナールの空き瓶に気が付く。クスリをやっているのかと言って、逃げていくタケシ(苦笑)。
何もかも面倒になったヨーコは、剃刀の刃で手首を切った。
ヨーコが気が付くと、病院のベッドの上だ。横に母親(中北千枝子)が座っている。お父さんも心配しているし、家に帰ろうと言う母親。ヨーコの瞳は虚ろなままだ。病室のドアを開けてジローが入ってきた。ヨーコの母親は、あなたがヨーコに睡眠薬をやらせるようにしたのかと咎め立てる。ジローは、ヨーコと一緒に暮らすために東京に戻って来たのだと言う。あきれ果てる母親に何も分からないくせにと言うヨーコ。病院の屋上で、ヨーコとジローが話している。結婚しようとジローが言う。真面目に働くんだというジローに、そうではなくてどこか外国に行け、そうだ一緒に観たフランス映画のサントロペの海に行けと言うヨーコ。一人では嫌だと言うジローに、私もお金を貯めていくから、別々に行ってもいいのだというヨーコ。突然、貨物船に乗せて貰っていけば、父親から巻き上げてきた三十万円で、二人揃っていけることをジローが思い出す。
東京か横浜か、港の貨物船を前に、ナロン、アコ、トミィたち仲間と、ヨーコの母親が見送りに来ている。喫茶店のマスターの矢吹もいる。そこに、車でジローとジローの父親(佐野周二)がやってきた。ジローの父親は、腰の座らない息子を頼むと言ってヨーコに餞別を渡した。二人が乗った貨物船は静かに埠頭を離れて進んでいく。新しい生活がこれから待っているのだ。
「にっぽん泥棒物語」では、前科者の兄のせいで縁談が決まらない娘役だった緑魔子が、その眼力が別人のように変わっていき、その後のみんなが知っている緑魔子の焦点が定まらないが目を離せなくなる哀しい眼差しに変わっていく経過のような映画だな。しかし、スレンダーだけど、まだ健康的でスタイルは本当にいい。今の女の子と比較しても引けを取らないのは凄いことだな。
それと、この映画の隠れた魅力は、六本木野獣会の不良少女だった大原麗子が、そのまま不良少女役で出演しているのが中々興味深い。センセーショナルに登場した加賀まりこに比べて、取り立ててインパクトがある存在ではないし芝居もまずいが、既にあのハスキーな声は完成しているし、黒目がちな眼がかわいい。しかし、不良少女が不良少女役で女優になり、ある時期のテレビドラマ、CMで一世風靡する存在に女を上げていく出発点がここにある。今更ながら、この緑魔子伝説に出ている筈の大原麗子何本か見逃したのが悔やまれる。
77年芽璃懺堂あがた森魚監督『僕は天使ぢゃないよ(296)』
森永プロダクションというアニメスタジオの試写室。10人ほどの人間がバラバラとやって来て、椅子に座る。最後に森永社長(長井勝一)が真ん中に座ると映写機が回る。「乙女の浪漫」と言うタイトルの作品のオールラッシュのようだ。林静一の絵が、荒く動き終わる。試写室にいた中沢一郎(あがた森魚)、荒川(横尾忠則)、大滝(大瀧詠一)が、世間話をしながら商店街を歩いている。しばらくして、小料理屋らしい和室に上がる三人。そこには、内縁の妻の山口幸子(斎藤沙稚子)と名前がよく似た名前の倖子(ユキコ)(緑魔子)と悠紀(ユキ)(桃井かおり)という二人の姉妹のような酌婦がいる。二人はアヤトリや影絵をしている。ラムを頼もうとしたが、勿論なく、日本酒を呑む。
一郎が街を歩いていると、ハムレットの一座に出会う。ハムレット(大村文史)レアティーズ(下田逸郎)墓堀り人(古川ガン)道化師(山本コウタロー)オフェリア(斎藤沙稚子)王妃(三条泰子)ボロニアス(坂本長利)らに導かれるようにフラフラと着いていく一郎。酔って四畳半のアパートに帰ってくる一郎。幸子と一郎は、かって同じアニメスタジオで知り合い、一緒に暮すようになったのだ。
幸子の会社はストライキ中だ。希望退職の告知が張り出されている。退職に応募すると20万円の退職金がもらえるらしいが、中卒と20歳未満(?)は除外されている。幸子たちは該当しないので、組合闘争を頑張ろうと言い合う。組合の事務所にいると、幸子宛に電話があった。退社後、姉(安藤純子)と会う幸子。姉は、父親も反省して縁談を無理強いしないので、実家に帰ってこいと言う。
幸子が帰宅すると、一郎は眠っている。幸子が話したくても、お天道様の高いうちから酒を飲んでいるか、眠っているかの一郎。森永プロダクションにいた野田(岡崎二郎)が明治プロダクションを作ろうと動いている。一郎は、動画アニメーターだが、ギャラが上がる原画アニメーターに昇格しようと原稿を、社長の森永や、東山(泉谷しげる)に見せるが、実力的に無理だと却下される。一郎の屈折は高まる。家でも昼間からラムを飲み、いつまでも結婚しようと言いださない一郎に物足りなく感じながらも、組合活動を頑張ろうとする幸子とすれ違い始める。
ある日、組合に出かけると言う幸子を無理矢理誘って、高原にハイキングに出かける。幸子のバスケットの中は、手作りのサンドイッチだ。しかし、そこでは、ハムレットが演じられている・・・・。
一郎のところに、姉(内田ひろ子)から電話がある。事業を何度も失敗させ、家族を苦しめてきた父親が・・・・。
ラム亭の主人(鈴木慶一)一郎の父(鈴木昭王)母(緑魔子)姉(内田ひろ子)妹(安田のぞみ) 森永社長(長井勝一)出版社不二家の社長(岡本喜八)黒川(石原信一)
1991年完全復刻公開のときには観ないままだったので、ようやく観ることができた映画だ。思っていたよりも、悪くない。
行き場も金もないヨーコがボーリング場でブラブラしていると、ハルミ(城野ゆき)が声を掛けてきた。ハルミは仲間の溜まり場の喫茶店に連れて行き、空腹のヨーコに食べ物を頼み、自分はトルコ嬢で仕事があるのでと、仲間のナロン(石橋蓮司)に紹介した。出掛けにハルミが薬を飲むのを見かけて、尋ねるが、ナロンは、マスターの矢吹(大辻志郎)の目を気にして後でゆっくりあげると言う。ナロンは、美容院の経営者の息子で、女のような言葉づかいをする。彼は、夜モダンジャズが大きな音で鳴らされ、紫煙で霞のかかったようなバー・ヘイゼルに連れていく。そこには、ナロン、ハルミたちの仲間で、大阪の金持ちの息子で浪人崩れのジロー(谷隼人)
翌朝、ヨーコはジローの部屋で目を覚ます。遊び歩いている割には、ジローはナイーブな青年だった。少し、ぼーっとしていたが、ジローに誘われて、フランス映画を見に行く。サントロペの海にいる恋人たちを見て、ヨーコはその音楽とフランスのサントロペの海を忘れられなくなった。ジローは、ヨーコにキスをしていいかいと尋ねるが、実行に起こすことはしなかった。
煮え切らないジローに物足りなさを感じたヨーコに、男(東野孝彦)が声を掛けてきた。垢抜けない男だったが、ボーリング場に行く。男は、4回戦ボーイのボクサーだった。沖縄近くの小さな島から出て来たので、周りからオキと呼ばれているが、友達はいないと言う。ヨーコは、オキをヘイゼルに連れて行き、仲間に紹介する。オキは、試合前なので、コンディションを整えていると言ってハイミナールやアルコールを断って、帰って行った。ヨーコは仲間を連れて、オキの試合に出かけた。健闘虚しく、オキはKO負けを喫する。ヨーコは慰めようとしたが、負けは負けだし、トレーニングしにジムに戻ると帰っていくオキ。
ジローが、ヨーコの所に、来て急に大阪に帰らなければならなくなったと言う。帰って来なければ、仕送りを止めると父親に言われたのだう。だから一晩一緒に過ごしてくれと言うジロー。ジローの部屋でキスをし、身体を合わせる二人、しかし、ハイミナールを飲んでテンションを上げようとしてもナイーブになって、最後までジローは果たせなかった。泣くジローに優しくするヨーコ。翌日、東京駅で必ず戻ってくるので自分の部屋にいてくれといって、東海道線に乗るジロー。再び、ヨーコは虚しくなる。
ある時、ヒロミが死んだ。ヒロミは薬を止めて結婚するんだと言っていたが、男には妻がいたのだ。無理心中をしたのだという愛する男の遺体は妻が引き取って行った。ヒロミの死体に泣く仲間たちの中で、ヨーコは違和感を感じていた。ヒロミは負けたのだ。
そのまま、飲みに行ったバー・ブルーノートには、有名な画家中田(戸浦六宏)が来ていた。店内には中田が描いた大きな号数の抽象画が飾られている。ラリったヨーコは手がつけられなくなっていく。中田の友人の井村(寺山修司)は「何も面白いことなどない。こんな連中は、毎朝早く起こして、ラジオ体操をやらせればいいんだ」と呟いている。しまいに、ヨーコは、中田の絵に火をつけ、ナイフで切り刻み始め、止めようとする中田や店員や仲間たちともみ合いになっている。火が付いたので、スプリンクラーが作動したようだ。大混乱になり、ヨーコたちの仲間は警察に連行された。みな、親が保証人として引き取りにやってきた。家出人のヨーコの保証人には、ナロンの兄(相馬剛三)が一緒に引き受けてくれた。家族と帰宅する皆と別れて、ヨーコは再び彷徨う。
みな、それ以来お行儀がよくなってしまったようだ。ナロンでさえ、スーツとアタッシュケースで、自宅の美容院を手伝っているらしい。混血児のトミィ(関本太郎)も、自動車修理工になるべく真面目に働いているらしいヨーコは、それは負けだと思い納得できない。しかし、金がなくなり、薬も買えない。終いには身体を売るようになった。しかし、ヨーコは、全く感じず、横たわったままだ。そうして新宿西口をブラブラしているとタケシが声を掛けてきた。荒木組に入ったと言う。タケシはヨーコの面倒をみるといい、ジローの部屋に付いてきた。再び、ヨーコに襲いかかるタケシ。途中から抵抗する気も失せたヨーコは、呆然とされるがままだ。しかし、事が済んだタケシは、ここが男の部屋であることと、周りに転がるハイミナールの空き瓶に気が付く。クスリをやっているのかと言って、逃げていくタケシ(苦笑)。
何もかも面倒になったヨーコは、剃刀の刃で手首を切った。
ヨーコが気が付くと、病院のベッドの上だ。横に母親(中北千枝子)が座っている。お父さんも心配しているし、家に帰ろうと言う母親。ヨーコの瞳は虚ろなままだ。病室のドアを開けてジローが入ってきた。ヨーコの母親は、あなたがヨーコに睡眠薬をやらせるようにしたのかと咎め立てる。ジローは、ヨーコと一緒に暮らすために東京に戻って来たのだと言う。あきれ果てる母親に何も分からないくせにと言うヨーコ。病院の屋上で、ヨーコとジローが話している。結婚しようとジローが言う。真面目に働くんだというジローに、そうではなくてどこか外国に行け、そうだ一緒に観たフランス映画のサントロペの海に行けと言うヨーコ。一人では嫌だと言うジローに、私もお金を貯めていくから、別々に行ってもいいのだというヨーコ。突然、貨物船に乗せて貰っていけば、父親から巻き上げてきた三十万円で、二人揃っていけることをジローが思い出す。
東京か横浜か、港の貨物船を前に、ナロン、アコ、トミィたち仲間と、ヨーコの母親が見送りに来ている。喫茶店のマスターの矢吹もいる。そこに、車でジローとジローの父親(佐野周二)がやってきた。ジローの父親は、腰の座らない息子を頼むと言ってヨーコに餞別を渡した。二人が乗った貨物船は静かに埠頭を離れて進んでいく。新しい生活がこれから待っているのだ。
「にっぽん泥棒物語」では、前科者の兄のせいで縁談が決まらない娘役だった緑魔子が、その眼力が別人のように変わっていき、その後のみんなが知っている緑魔子の焦点が定まらないが目を離せなくなる哀しい眼差しに変わっていく経過のような映画だな。しかし、スレンダーだけど、まだ健康的でスタイルは本当にいい。今の女の子と比較しても引けを取らないのは凄いことだな。
それと、この映画の隠れた魅力は、六本木野獣会の不良少女だった大原麗子が、そのまま不良少女役で出演しているのが中々興味深い。センセーショナルに登場した加賀まりこに比べて、取り立ててインパクトがある存在ではないし芝居もまずいが、既にあのハスキーな声は完成しているし、黒目がちな眼がかわいい。しかし、不良少女が不良少女役で女優になり、ある時期のテレビドラマ、CMで一世風靡する存在に女を上げていく出発点がここにある。今更ながら、この緑魔子伝説に出ている筈の大原麗子何本か見逃したのが悔やまれる。
77年芽璃懺堂あがた森魚監督『僕は天使ぢゃないよ(296)』
森永プロダクションというアニメスタジオの試写室。10人ほどの人間がバラバラとやって来て、椅子に座る。最後に森永社長(長井勝一)が真ん中に座ると映写機が回る。「乙女の浪漫」と言うタイトルの作品のオールラッシュのようだ。林静一の絵が、荒く動き終わる。試写室にいた中沢一郎(あがた森魚)、荒川(横尾忠則)、大滝(大瀧詠一)が、世間話をしながら商店街を歩いている。しばらくして、小料理屋らしい和室に上がる三人。そこには、内縁の妻の山口幸子(斎藤沙稚子)と名前がよく似た名前の倖子(ユキコ)(緑魔子)と悠紀(ユキ)(桃井かおり)という二人の姉妹のような酌婦がいる。二人はアヤトリや影絵をしている。ラムを頼もうとしたが、勿論なく、日本酒を呑む。
一郎が街を歩いていると、ハムレットの一座に出会う。ハムレット(大村文史)レアティーズ(下田逸郎)墓堀り人(古川ガン)道化師(山本コウタロー)オフェリア(斎藤沙稚子)王妃(三条泰子)ボロニアス(坂本長利)らに導かれるようにフラフラと着いていく一郎。酔って四畳半のアパートに帰ってくる一郎。幸子と一郎は、かって同じアニメスタジオで知り合い、一緒に暮すようになったのだ。
幸子の会社はストライキ中だ。希望退職の告知が張り出されている。退職に応募すると20万円の退職金がもらえるらしいが、中卒と20歳未満(?)は除外されている。幸子たちは該当しないので、組合闘争を頑張ろうと言い合う。組合の事務所にいると、幸子宛に電話があった。退社後、姉(安藤純子)と会う幸子。姉は、父親も反省して縁談を無理強いしないので、実家に帰ってこいと言う。
幸子が帰宅すると、一郎は眠っている。幸子が話したくても、お天道様の高いうちから酒を飲んでいるか、眠っているかの一郎。森永プロダクションにいた野田(岡崎二郎)が明治プロダクションを作ろうと動いている。一郎は、動画アニメーターだが、ギャラが上がる原画アニメーターに昇格しようと原稿を、社長の森永や、東山(泉谷しげる)に見せるが、実力的に無理だと却下される。一郎の屈折は高まる。家でも昼間からラムを飲み、いつまでも結婚しようと言いださない一郎に物足りなく感じながらも、組合活動を頑張ろうとする幸子とすれ違い始める。
ある日、組合に出かけると言う幸子を無理矢理誘って、高原にハイキングに出かける。幸子のバスケットの中は、手作りのサンドイッチだ。しかし、そこでは、ハムレットが演じられている・・・・。
一郎のところに、姉(内田ひろ子)から電話がある。事業を何度も失敗させ、家族を苦しめてきた父親が・・・・。
ラム亭の主人(鈴木慶一)一郎の父(鈴木昭王)母(
1991年完全復刻公開のときには観ないままだったので、ようやく観ることができた映画だ。思っていたよりも、悪くない。