2009年2月14日土曜日

歌と踊り。

   シネマート六本木で、新東宝大全集
  51年新東宝成瀬巳喜男監督『銀座化粧(82)』
  銀座の街を男の子が歩いている。すれ違うサラリーマンたちに、時間を尋ねている男児。子供の名は春雄(西久保好汎)。銀座の女給津路雪子(田中絹代)が、かっての男だった藤村(三島雅夫)との間にできた子供だ。戦前はかなり羽振りがよかった藤村は、雪子を妾にしたが、人の好いだけの藤村は、戦後商売に失敗し、小遣いにも困る日々だ。時々金をせびりにくる藤村を邪険に出来ない雪子。新富町にある長唄師匠の杵屋佐久(清川玉枝)と清吉(柳永二郎)夫婦の2階を間借りしている。雪子は、銀座のバー、ベラミで働くが、古臭いベラミは最近の新しい店に客を取られて、閑古鳥が鳴いている。年増の雪子は、他に生計を立てる術はない。
  ある日、京子(香川京子)がついた客は、待ち合わせていた友人に奢ってもらう約束だったので、所持金がないと言う。本来だと担当した女給が、その客の支払を弁償しなければならない決まりだが、雪子は京子に自分に任せておけと言って、ひとりで、男が友人が常連だという店で待つことにする。しかたなしに、自分はビールを男には焼酎を頼んでやる。しかし、男はトイレを理由に店の外に出て、逃げてしまう。癪にさわった雪子は少し飲んで帰宅する。家が千葉の市川で、遅くなった時に泊めてやる京子が不安そうに待っている。客の支払いの件は、自分が何とかしてやると言う雪子。冬の夜空を眺める雪子。
   かっての女給仲間で、今では関西の葛西(小杉義男)の妾になっている静江(花井蘭子)が住む渋谷の家屋を訪ねる雪子。葛西も来ていた。葛西もかってベラミの客で、雪子とも顔見知りだ。そういえば藤村は相変わらずかねと言う。少し前に銀座で声を掛けられた時は、ルンペンみたいですぐには分からなかったという葛西。あの人は人がいいだけで、今の世の中は、少しくらい悪人でないと商人ではいられないのだとも言う。静江は、ここは貸家だけど、半月大阪、半月東京なので、家を建てる準備を葛西がしていると言う。愛しているのと聞く雪子に、勿論愛、恋じゃないけど、女の幸せは、まず金があることだと言い、雪子を囲いたいという男と一度会ってくれと頼む。 
   ある日、店に出ると、ママの幸子(津路清子)が閉店後、東華園で相談したいと言う伝言がある。店の借金がかさむので、25万円の金策が付かなければ、店を売らなければならないかもしれないと言われる。この店が無くなると、雪子たちベテランの女給は働く場所を失うかもしれない。
   葛西の知り合いで金持ちの菅野(東野栄治郎)と会う。待ち合わせをし、どこかで話をしようと言う菅野だが、金のかかる待合いや喫茶店を嫌って、静かでお金のかからないところに行こうと言う。少し歩いた先は、菅野の会社の倉庫だ。お茶を飲みなさいと言って、月5千円の手当でどうかと言いながら、強引に雪子に迫ってくる。電話で伝えたとおり、25万円の借金の相談ですがと言うが、誰が大事な金をと言う菅野から、やっとのことで逃げだす雪子。
   静江が、心の恋人だと呼ぶ、かって疎開していた田舎の素封家の息子が上京してくることになった。しかし、静江は葛西が東京にいるので、面倒を見られないので、雪子に頼みたいと言ってくる。地元の天文観測台で働く石川(堀雄二)を出迎える静江と雪子。静江は、雪子のことを、自分と同じ戦災未亡人で、女子大を出ていて、インテリだから話も合うでしょうと嘘八百を並べて紹介する。銀座の町を案内する。沢山の人出で、華やかな銀座に驚く石川。途中、いつぞやの無銭飲食男と遭遇し、逃げようとする男を泥棒と思わず叫んだことで、石川が捕まえ、野次馬も集まってくる。男は、酔って冗談のつもりだったと金を出すが、自分は泥棒ではない、自分の名誉のためにも、事情を説明してくれと迫ってくる。全てがばれてしまうので、慌てて逃げ出し、いぶかしがる石川には、あの人は頭が少しおかしくて、このあたりでは有名な人なんですと言う。宿に戻り、その夜、夜空の星の素晴らしさを語る石川。店に戻る雪子。
   翌日、芝居見物をする予定だったが、杵屋から、春雄がどこかに行ったきり戻ってこないとの報せが入る。雪子は、京子を呼び、自分の妹だと紹介し、一緒に芝居に言って貰う。京子には、何を聞かれても自分は知らない、存じませんと答えるように頼む。杵屋夫婦や、近所のみんなが探すが、なかなか見つからない。警察に届けようかとなった時に、春雄が帰ってくる。釣り船に乗せて貰っていたらしく。魚
入った空き缶を得意げに掲げる春雄。春雄を叩き、みんな心配するから誰かに言ってから出かけないといけないだろう言う。泣く春雄を抱きしめる雪子。
   その晩、京子は帰ってこない。実家の市川に帰ってんだろうと言う雪子。翌朝、石川の宿に出向くと、昨日女性の方と泊って、今朝早く田舎に帰ったと聞く。帰宅した京子に、あんたは、やっぱり初めて会った男と一夜を共にするような普通の銀座の女だったんだ。見損なったと言う雪子。しかし、京子は、あまり遅くなったので、雪子に迷惑をかけたくなかったので、泊ったが、そんなふしだらなことはしていないと言う。石川と話すうちに、誠実な人柄に嘘をついているのが苦しくなり、全てを打ち明け、星の話や田舎の話をしてもらううちに、石川は、改めて、東京に迎えに来るので結婚しようと言い、承諾したのだと言う。石川の誠実さに、久しぶりに恋愛感情のような気持ちになり、京子に嫉妬心を持っていたことに気が付き、京子を祝福する雪子。
   藤村が訪ねてくるが、忙しいのでと言って帰し、春雄に、今度の日曜日には、動物園に行こうと言う雪子。  
  54年新東宝久松静児監督『女の暦(83)』。上映前に、香川京子さんのトークショー。この半年、香川さんの出演作見まくっているので、初恋の女性に同窓会で再会した感じ。
  瀬戸内海の小豆島。浴衣姿で、庭で朝顔の種を蒔いているクニ子(杉葉子)。妹の実枝(香川京子)が出てくる。今年は15cmの朝顔の花を咲かせるんじゃというクニ子に、早くしないと学校おくれるでと言う実枝。隣家の嫁コノエ(新井麗子)が、嫁入り前の娘二人が寝巻きで、こんな時間に何をしているんじゃ。私は、もう畑仕事終えてきたで」と声を掛ける。隣家の舅のくしゃみと嫁の名を呼ぶ声が聞こえる。
  朝ごはんを食べながら、クニ子は、両親や婆ちゃんたちのちゃんとした法事を二人で開いて、姉たちを呼ばないかと言う。広島、大阪、東京で結婚している姉たちと、両親が実子と分け隔てなく育てた二人の里子も呼ぼうと話が弾む二人。クニ子は、自転車で学校に向かう。クニ子は、小学校で教員をしている。同僚の教師の青島(細川俊夫)が、文部省の東京での研修に、二人が派遣されることになったのだ。青島の妻は、クニ子の友達だったとよ子(大谷怜子)だ。また、クニ子を村長夫人(清川玉枝)が訪ねてくる。毎度のことながらクニ子の縁談だ。クニ子は、嫁いだ姉たちの苦労を見てなのか、独身を通している。
  帰宅したクニ子と夕食を取りながら、法事の打合せをする。貯金を見せ合う二人。両親には、10人の子供たちと、里子2人の12人の子供たちを育てた。しかし、実子10人のうち半分が亡くなり、クニ子、実枝を含め女5人のみになっている。東京に出張に行くクニ子は、東京にいる姉の高子(轟友起子)に会って直接話すので、広島のミチ(田中絹代)、大阪のカヤノ(花井蘭子)に手紙を出し、小豆島内にいる千吉(永井柳太郎)と大月(鳥羽陽之助)に話にいくのを実枝が担当することになる。
  宇部への船着場に、クニ子と実枝がやってくる。既に青島先生ととよ子は来ている。夫を誘惑しないでねと笑うとよ子。青島に何を話していたのと聞かれ、東京の女に誘惑されないか見張ってくれと頼まれたと笑うクニ子。船着き場の帰りに、自転車に乗り、桶屋をしている千吉の家と、醤油業を営み成功している大月の家を訪ねる実枝。二人とも、兄弟たちとの久しぶりの再会と、両親への法事に喜んで賛成し、出席してくれることになる。帰りに、三上農場の石田恭平(舟橋元)のもとを訪ねる実枝。豚舎にいると言われて走っていく実枝を、冷やかす農場の人たち。恭平と実枝は、交際していた。しかし、オールドミスの姉に気兼ねする実枝は、いつまでも経っても恭平のことを話せない。今度、姉達が集まるので、その時には、頑張って話すと言う実枝。
  東京で、研修を済ませたクニ子は、姉の高子の家を訪ねる。高子の夫の正明は、メーデーで火炎瓶を投げたと誤認逮捕され、公判中だ。貧しい生活の中でも、明るく前向きに生きている高子。帰りに、大阪駅のホームで、カヤノに会う。短い停車時間の中、法事の話をすると届いていないと言う。姉夫婦は、再婚同士だが、カヤノは口を開けば、吝嗇で口やかましい夫の愚痴ばかり涙を流している。広島にいるミチは、男ばかり5人の子沢山に年よりと、酒飲みでパチンコ好きなボンクラの夫(十朱幸雄)の世話に追いまくられている。破れ障子で畳も茣蓙か土間かと見まがうような、荒れ放題の一間の貸家。米の配給が来ても、金の代金を払えず、大家の人の好い未亡人に借金するほどだ。実枝からの手紙を読み、旅費なども妹達が手配すると聞いて、15年も帰っていない故郷を思うが、喧嘩ばかりの子供たちと年寄りの戦場のような家庭を思うと、一日でも家を空けられないと溜息をつく。しかし、ひとの好い未亡人は、私も面倒を見るし、行っていらっしゃいと言ってくれる。
  今日は、クニ子が戻ってくる日だが、実枝は、今日も、三上農場に行っている。二人で話をしていると、村長夫人が現れる。隠れる恭平。あの人縁談持ってきて困るんだという恭平に、拗ねてみせる実枝。クニ子と長嶋の乗った船がついても、とよ子のみで実枝の姿はない。怒りながら家路につくと、家で出迎える実枝。高子からのブローチとカヤノのお菓子、クニ子から高かったんだというナイロンの靴下を貰う。お土産を仏壇に上げる実枝。
  翌日、いきなりカヤノが5時の船で帰ってくると電報があったと、学校のクニ子のもとに、実枝から電話があった。やけに早いと驚きながら、船着場に出迎えるクニ子に、実枝からの手紙を勝手に読んで、法事では、金がかかると危ぶんで、隠していたのだと言う。クニ子から大阪駅で、手紙のことを知らされたと問い詰められると、渋々出したのだと言う。今朝も、前の女房は、前の女房はというので、大げんかをして家を出てきたと言う。実枝に沸かしてもらった風呂に入りながら、こんなに穏やかな気持ちになったのは、結婚以来初めてだと言う。
  広島では、ミチは出かける支度をしている。三日分の食費や、汲み取り代の集金、コロッケは近くの肉やではなく、マーケットの方が安い上に美味いのだとか、薬はこの引き出しだとか、パチンコばっかりするんじゃないと夫にこまごまと注意をし、子供たちにも、喧嘩をするな、寝小便をするなと口やかましい。長男がバスが来ると何度も注意しにくる。長男に手を引っ張られてバス停に走るミチ。船着き場で、15年振りにクニ子と再会したミチは、やはり、どこかに幼顔は残っているものじゃと言う。
  その夜、ミチも、クニ子も、婚家の愚痴と、結婚生活の苦労を競うように語り合う。独身で働くクニ子がうらやましいと言う。そんな雰囲気では、とっても恭平との結婚話を切り出すどころではない実枝。外で溜息をついていると、恭平が絞めた鶏を下げてくる。姉さんたちに食べてもらってという。家に戻り、もじもじしながら、私には愛してくれている人がいます。そして私もその人を愛していますと言う。あまりに緊張した実枝の突然の結婚宣言に、姉三人は大笑いをする。笑われて泣きだして、海まで走っていく実枝。姉たちは一しきり笑うと、誰か知っているかとクニ子に尋ねるが、クニ子にも全く心あたりはない。
   法事の日が来た。読経は始まるが、高子は現れない。やきもきと気が気でない姉妹たち。焼香が始まったところで、ようやく高子が現れる。坊さんそっちのけで話し始める姉妹たち。慌てて、焼香を続ける。実枝とカヤノが夜の宴席用の野菜を洗っていると、カヤノの夫の作太郎が現れる。大阪から迎えに来たのだ。夫婦の口争いに、いたたまれない実枝が、高子とミチのもとに行くと、夫婦なんかそんなものだから放っておけと言う。その夜、姉妹5人に、千吉、大月、カヤノの夫の作太郎で、鶏鍋を囲んでいる。カヤノ夫婦は、アツアツだ。釈然としないクニ子。両親の話、大家族の話、実枝が難産の末生まれた時の話など夜更けまで、話が途切れることはない。
   翌日、墓参りに行く途中で、高子とクニ子が話している。実枝の結婚話を聞いて、実枝を見た時に、とても綺麗になっていて、恋をしているんだと気がついていたと言う高子。嬉しそうなカヤノ夫婦を船着場で見送り、ミチも子供たちに食べさせたいと言って、鶏肉、野菜、素麺など山ほど担いで帰っていく。クニ子と実枝は、高子に残ってほしかったが、高明の面会日があると言って帰ってしまう。
  急に、クニ子と実枝は二人きりの生活に戻る。賑やかな姉たちが帰り、寂しさを感じるのと、実枝の結婚宣言以来、クニ子との間にわだかまりが出来ている実枝。今朝も喧嘩してしまった。学校に行ったクニ子に、村長夫人が、三上農場の石田恭平を知っているかと尋ねる。また縁談かと思い、面識はあるけどよく知らないと答えると、あなたの妹の実枝さんと、相思相愛の中で、縁談話を持って行っていっていた私は恥をかいたと夫人が言う。クニ子は、青島に、石田を知っているかと尋ねる。いや、なかなかいい青年ですと言われ、青島先生が太鼓判を押すなら心配ないと言うクニ子。
  しかし、クニ子が帰宅すると、実枝はいない。置き手紙には、クニ子が当てにならないので、東京の高子のもとに相談に行く、ひょっとすると東京よりもっと遠いところまでいくかもしれないと書いてあった。実枝の馬鹿!!と言うクニ子。東京へ向かう汽車の中で、不安そうな実枝が座っている。向いの席で、酒盛りをしている男たちが、酒を溢し、実枝の服に掛ける。靴下を拭きながら、この靴下は、姉が東京で買ってきてくれたものと思いだす。クニ子は、三上農場に行き、恭平が、種牛の引き取りで盛岡に出張していると聞く。とぼとぼと帰宅すると、実枝がいる。汽車に乗ったが、京都を過ぎたあたりで、ホームシックに罹り、米原で途中下車して戻って来たのだと言う。朝顔も蔓が延び出している。再びクニ子と実枝、仲の好い姉妹の生活が復活した。
   香川京子の自転車に乗る姿と走る姿にやられる(苦笑)。5人の姉妹たちのやりとり、これだけいい女優が揃えばということもあるが、久松静児の演出のうまさだろう。今日の3本の中では、断トツに気に入った一本。個人的には、クニ子と青島先生、不倫の恋に苦悩してほしい。
  49年新東宝島耕二監督『銀座カンカン娘(84)』。
  落語家の新笑(古今亭志ん生)は引退し、妻のおだい(浦辺粂子)と孫のような娘のヒヨ子(服部早苗)と甥の武助(灰田勝彦)と暮らしている。ある朝豆腐を買いに行ったヒヨ子が、いつまでも帰ってこない。実は、ポチという捨て犬と散歩していた武助とぶつかって豆腐を入れた鍋を落としてしまう。二階には、かっての恩人の娘のお秋(高峰秀子)とその友人のお春(笠置シズ子)が居候している。お秋は画学生、お春は声楽家の卵だが、着る服さえない貧乏で、交互に着替えないと朝ごはんも取れない。しかし、明るい二人は、何でも歌にしている。
  シーツを撒いたお秋は、デパートには公休だが合唱団の指導に行く武助と歌を歌い交わす。ポチは、座敷にもどんどん上がってきてしまうので、武助とヒヨ子が留守の間に捨てて来てくれとおだいに頼まれるお秋。しかし、豪邸の前や、公園などに捨てても、着いてきてしまうポチ。困り果てていると、近くで撮影している映画の助監督が、監督が急に犬を登場させろと言われているので、すぐ来てくれと言われる。結局、映画に出演することになるお秋。大女優の山田美恵(三村秀子)がどうしても池に飛び込むのがいやだと言って、吹き替えを探すことになり、お秋は、お春を呼んでくる。とりあえず、絵具は買えて喜ぶ二人。撮影現場のエクストラに来ていた白井(岸井明)と知り合い、銀座で一緒に流しをやらないかと誘われる。さっそく、お秋たちの下宿にくる白井。しかし、巨漢の白井が動くたびに、額は落ち、いろいろなものは倒れ、座った椅子はつぶれてしまう。さっそく練習する三人。
  その夜、三人は銀座のナイトクラブで歌って稼ぐ。特に、白井が作った銀座カンカン娘という歌は好評だ。二人は、ようやく一丁裏だった服の着替えや、絵の具を買うお金が手に入る。ある時、新笑のもとに大家がやってきて、今月末までに、滞納した家賃を払わないと出て貰うと宣告する。勿論、新笑夫婦にあてはない。ヒヨ子から、その話を聞き、銀座の流しをもっと頑張ろうと誓う三人・・・。
  肩の凝らないコメディだが、動いている志ん生と、笠置シズ子の動く姿が見られる映画と片付けると怒られるだろうか(苦笑)。
  新宿2丁目のタイニイアリスで、ジャパン・エンターティンメント・アカデミーという学校の生徒たちの公演で、「dub valentine~だれも興味のない ひげのおっさんの頭の中」。元会社同僚の姪が、出演していると言うので、六本木の花屋で花束を買って、見に行く。意外に面白かった。ストーリーよく出来ているし、生徒たちも頑張っている。欲をいえば、床着席は、50歳の親父にはかなり厳しいのと、各エピソードよく出来ているのに、それぞれ、最後の10分ほど余韻が欲しくて、引っ張りすぎな気がすることだ。
   終演後、女優の卵に花束を渡し、元同僚と、彼の出身校でミス○○だったという森下愛子と広田玲央奈さん似の美人と、三人で新宿三丁目のジンギスカン屋。劇場では暗いし、混んでいたのでよく分からなかったが、明るい店で拝見すると、いっ、いかん!!! 美人と飲むと緊張して、余分に飲み、余分にしゃべってドツボに入ってしまう。また、余計なこと言って、恥かいたんだろうと思いながら、思いだせない(苦笑)

2009年2月13日金曜日

松田優作、やっぱりカッコよすぎる!!

   渋谷シネマヴェーラで、東映セントラルフィルムの栄光。
   79年東映セントラルフィルム沢田幸弘監督『俺達に墓はない(80)』
    新宿の雑踏を島勝男(松田優作)が歩いている。デパートの婦人服売り場で、爆発物のようなものの導火線に火をつけ、叫ぶ「爆弾だ!!逃げろ!!」店内は大混乱になると、レジから金を盗み始める島。
ふと気がつくと、一人だけ女店員(竹田かほり)が逃げずにしゃがみこんでいる。どうして逃げないんだと聞くと、ねずみを指差し、ねずみが逃げないから爆発しないと言う。女のレジから金を盗んで逃げだす島に、泥棒!!と叫ぶが、他の店員や客は既に逃げ出している。デパートから逃走し、公園の水飲み場で、顔を洗う島。赤い派手な服を着た男(志賀勝)に気が付き、変な野郎だと呟く島。
    大人のおもちゃ屋トップポルノで、主人の中井(山谷初男)と話している島。奥からライフルと拳銃を出してくる。ご大層な道具を揃えて、どっかの銀行にでも押し入るのかと聞く中井に、梅川さんじゃあるまいし、トーシローは相手にしねーよと答える島。少年院仲間のヒコ(岩城滉一)がマスターをしているゴールデン街の阿邪馬に入り、ヒコと二人で、銃を確かめている。
    今度のシマは、都築興行だ。そこは十日会のフロント企業で、常に金庫には、2000万以上の金が入っている。ヒコと下見をし、近くのビルの屋上から双眼鏡で金庫のダイヤルをチェックする島。ふと気がつくと、近くのビルの屋上に、赤い服を着た謎の男が覗いている。島が阿邪馬に戻ると、デパートの女店員を抱いているヒコ。女店員の名前は、河村ミチ。島が起こした事件で、一人逃げなかったことで、取り調べられて、中卒なのに、短大卒と嘘をついていたことがバレた上、派遣店員だったので即刻クビだったと言う。また、全裸で身体検査をされたというミチ。87万3千円を返すか、警察に行って証言してという。うるさくて面倒くさくなり、ヒコは、シャブ漬けにして、2階に閉じ込めてきたと言う。
   翌日、トイレで覆面をし、都築興行に乗り込もうとした矢先、覆面をし拳銃を持った赤い服の謎の男がドアから飛び出してくる。先回りをして、2000万を強奪したのだ。追いかけてきた十日会の組員たちに、ライフルを持ったヒコは捕まったが、島は、赤服の男の乗った車を追いかける。激しいカーチェイスの結果、十日会の組員たちの乗った車は捲かれ、追跡しているのは島だけになる。競り合ううちに、2台の車は河に突っ込んだ。車から脱出した二人は、金の入ったバッグを取り合って、殴り合う。結局勝負はつかず、山分けにしようということになった。男が鞄を開けると、中の金は河に落ちた時に流れ出していて、6万円しか残っていない。二人は、一緒に組んで儲かることをしようという。男の名は、滝田。しかし、仕事をする前に、十日会に捕まったヒコを奪還することが先だと言う島。島が阿邪馬に戻るとカウンターの中にサチがおり、中は客でいっぱいだ。二階に上がった島に付いて来たサチは、寂しかったので、店を開けたら客が入って来ちゃってと言う。手慣れた手つきでジャブを打つサチに、お前初めてじゃないなと言う。中学の時にグレて、少女売春しながらやっていたと言うサチ。ジャブが効いたか、抱いてと寄ってくるサチを邪険に振り解く島。
    ヒコが監禁されているのが十日会の養豚場だと分かった。昼間下見し、夜島と滝田は襲撃した。まず事務所にダイナマイトを投げ込み、豚小屋の中に繋がれていたヒコを連れて逃げる。豚の糞まみれで、十日会に捕まれる原因になった奴をぶっ殺すと運転する滝田のことを知らずに叫ぶヒコ。阿邪馬で、サチに水をかけて貰うヒコ。何度洗っても豚の臭いが取れない。サチが用意した食事の中に豚肉があり、思わず吐くヒコ。
島と滝田が次のヤマの話をしている。俺を恨んでいるヒコは入れずに2人でやろうと言う滝田。今回は分かったと言う島。十日会が主催する東南アジア賭博ツアーを襲って、参加者の金を奪おうと言う話だ。1人所持金は平均300万で20人だから、6000万のゴツいヤマだ。ツアー参加者が乗るバスをジャックし、金の強奪に成功する。バスを降りて奪った車で逃げるが、車を盗んでパトカーに追われ非常線を張られる。金を持った滝田を下ろし、自分ひとりで非常線を突破すると言う島。金を全部預かるのはと言って、パスポートを島に預ける滝田。十日会に面が割れてしまったので、国外逃亡するしかないんだと言う滝田。1人になった島は、何度か、検問の突破を試みるが、うまくいかない。ドライブインにいたアベック(森下愛子)が二人乗りの自転車に乗っているのを見て男を脅し、二人乗りで非常線のすり抜けに成功する。
     ヒコは店の近くで、十日会のヤクザが人を捜しているのを見つけ、捕まえることに成功する。男は、6000万を盗んだ滝田という男を追っていると言う。阿邪馬に島が戻ってくると、何で自分を裏切って滝田と組んだんだと詰め寄るヒコ。おまけに昨夜サチに迫ったら断られ、自分が豚に囲われていた時に、島がサキをやっちまったからだと疑っている。滝田から電話がかかり、飛行場はヤバいので、船で逃げるので、沼津港町2丁目にあるバー,キングで金を分けたいと言う。電話番号をメモしたところで、ヒコが店の瓶で島の頭を殴りつけ、メモを奪って沼津に向かう。しばらく経って、気がついた島もヒコを追い掛ける。後ろをつけるサチ。
    キングでは、刑務所から三年ぶりに戻ってきた滝田とその愛人のつる子(岡本麗)が激しいSEXをしている。島は何度かキングに電話をするが、滝田たちは気がつかない。トイレから出てきたつる子に、ヒコは仲間がやってきたと伝えてくれと言う。島が来たと思って降りてきた滝田を撃つヒコ。倒れながらも、包丁を取り出し、取っ組み合いになる滝田とヒコ。金を持ち逃げようとするヒコを拳銃で、釘付けにする滝田。銃声を聞いて駆けつけた島に対し、全てお前が絵を書きやがったなと叫びながらピストルを撃ち続ける滝田。ヒコも島も金に手をのばすことはできない。そこにネズミのように現れたサチが金の入った鞄を盗んでいった。銃声への通報で警察がやって来て怪我を負った滝田は捕まった。病室で刑事たち(三谷昇)に尋問されるがとぼける滝田。数日後、看護婦(山科ゆり)が、十日会からの伝言を持ってくる。十日会の幹部の都築(内田稔)の下に連れて行かれ、金のありかを聞かれるが、島ではなく、女が持ち逃げしやがったんだと言う。
    金に困った島は、銀行で金を下ろした男(梅津栄)の後をつけ駐車場で奪おうとする。しかし、島たちの養豚場襲撃で大怪我を負った十日会の男(石橋蓮司)に挟みで腹を刺された。男を射殺する島。腹部の怪我はかなり重かったが、失神寸前に通りかかったサチに車に乗せられる。気がつくと、サチのマンションだ。大量出血の島を病院に運び自分の血を輸血してもらったらしい。直ぐに島は拳銃を出した金のありかを言えと脅すが、教えたら私を捨てて出て行ってしまうので、死んでも教えないと言うサキ。その時マンションのチャイムが鳴る。都築ジュエリーと言うが、真相は十日会のジャブの売人だ。あまりに派手な買い方なので、6000万をネコババしたのはサチではないかと目を付けられる。面通しに滝田はマンションに連れてこられたが、サチの顔を見て、全然違う女だと言う。十日会の事務所に戻される車の中で、滝田はヒコが歩いているのを見かける。いきなり車を飛び出し、ヒコを追い掛け始める滝田。慌てて滝田を追うが、見失ってしまう十日会の組員たち。滝田はヒコに追いついて叩きのめし、サチの居場所を教える。
    サチのマンションに、現れる滝田とヒコ。金の行方をめぐって、男たちの友情は断ち切られ、滝田とヒコは死ぬ。マンションの下では、十日会の連中が見張っている。島は中井に電話をして、拳銃の弾丸の在庫を尋ねるが無いと言うことなので、ダッチワイフにダイナマイトを隠してマンションまで持ってくるよう頼む。中井と入れ替わりに、十日会の連中がエレベーターに乗った。6階でエレベーターのドアが開くと、ダッチワイフが立っている。島は3発残った弾でエレベーターの中に釘付けにし、十日会の者たちを爆死させた。サチを連れ、サチの赤い117クーペで逃走する。サチを口説いて、後部座席のぬいぐるみに金が入っていることを聞き出すと、車を止め、サチを降ろす。サチはジャブが欲しくなっている。ジャブを捨て注射器を割る島。車を出そうとするとパンクしている。運のいい女だ、ジャブを止めれば連れて行ってやると島は言って、パンク修理材を注入すると、禁断症状で倒れているサチを注入抱え上げ、助手席に乗せ走り出す。
    田中陽三の脚本、沢田幸弘の演出、松田優作は勿論、志賀勝、岩城滉一、脇役も、岡本麗、十日会のチンピラたちも、高橋明、石橋蓮司、阿藤海・・・、竹田かほりもようやく女優の卵のような雰囲気を出しており俳優陣、三拍子揃った感じだ。個人的には、竹田かほりが6000万入りのバッグを手に、這って逃げていくのを見た松田優作が、「この桃尻むすめ~」と呟くのが嬉しい。
   78年東映セントラルフィルム村川透監督『最も危険な遊戯(81)』
   財界の要人たちの誘拐事件が多発している。東日電気社長南条も誘拐された。
    麻雀をしている男たち。1人の男がボロ負けだ。他の3人から300万払えと言われる。俺は麻雀では負け知らずだから、お前らグルになってイカサマしてるんじゃねえかと言いだすが、反撃されて直ぐに謝り出す男。靴下や、帽子の中に隠していた有り金全部巻き上げられて、叩き出される男。鳴海昌平(松田優作)である。
   東日電気会長の小日向(内田朝雄)の秘書と名乗る土橋(草野大悟)から鳴海に電話があり、3000万のギャラで、小日向の娘婿である南条の救出の依頼を受ける。最新防空警戒システム導入で五洋コンツェルンと東日グループの受注合戦の末、東日が勝ったので、五洋側が、日本の大物黒幕の足立精四郎(見明凡太朗)を抱きこんで、激しい巻き返し工作をしているので、他の要人は偽装で、犯人グループの本当の狙いは東日への攻撃ではないかと言うのだ。この事件には、居郷(名和宏)が絡んでいるらしい。仕事を受けた鳴海は早速、居郷の愛人の田坂杏子(田坂圭子)の部屋に押し入り、居郷の行き先を吐かせようとする鳴海。なかなか口を割らなかったが、自分のヤサに連れて行き杏子を抱く鳴海。居郷は、とある病院に潜んでいて、南条もそこに監禁されているらしい。鳴海は病院を急襲するが、激しい銃撃戦の末、南条は射殺され、鳴海も、射撃の名手桂木(荒木一郎)に撃たれる。やっとのことで、潰れたボーリング場にあるヤサに帰る。杏子がそこに居て、鳴海の腹の弾創の手当てをする。料理を作り女房気取りの杏子に帰れという鳴海。
   再び、小日向の元に呼び出される鳴海。金を返そうとした鳴海に、南條は亡くなったが、居郷たちの組織も叩き潰したことを評価して、足立を消してほしいと言う。足立の屋敷を偵察している鳴海。自分を監視している気配に気が付くが、4人組の男たちとの闘いの末、捕まる鳴海。男たちは、鳴海を城南警察署の地下に連れていく。桂木は、警察手帳を見せ、今回のことから手を引くよう痛めつけられる。桂木に病院で会いましたねと言う鳴海。
   しかし、解放された鳴海は、行方をくらましている足立の情婦が、銀座のクラブ綾のママ綾乃(市地洋子)であることを突き止める。安達邸を見下ろせるビルの屋上から安達の胸を銃撃する鳴海。しかし、鳴海のいるビルは、大人数の警官隊に包囲されている。ヘリコプターに乗っている桂木の指示により、雨霰のように降り注ぐ銃弾の中逃げる鳴海。何とかヤサに戻ると、杏子が桂木たちに連れ去られるところだった。桂木の車を追って、走り続ける鳴海。人気のない港に誘いこむ桂木たち。鳴海を轢き殺そうと向かってくる車に、運転手を撃つ鳴海。停止した車から降りて、向かってくる刑事達を一人ずつ仕留める鳴海。しかし、最後に残った桂木は、杏子を盾にし、鳴海の胸を撃つ。倒れる鳴海。気を失う杏子。ニヤリとした桂木の表情が固まる。鳴海の銃弾が額を撃ち抜いた。ゆっくり立ち上がり、胸から鉄板を抜く鳴海。海を見ている鳴海と杏子。杏子を残し立ち去ろうとする鳴海は足を止め、戻り、長いキスをする。再び、杏子を残し走り出す鳴海。
  綾乃の部屋に再び現れる鳴海。足立の居場所を尋ねる。あんたが殺したんでしょという綾乃に、あれは替え玉だと言い、殴って吐かせる鳴海。足立の屋敷に鳴海が現れる。ボディーガードたちを叩きのめし、和室に乗り込む。そこには、足立と小日向がいる。二人は手を握り、防空警戒システムは、五洋と東日が共同して受注することになったのだ。小日向に向かって、まずは依頼通りと言って足立を射殺する鳴海。小日向に謝礼金振り込んでもらいましたよねと確認してから、約束手形ですと言って、小日向の足を撃つ。襖の向こうから狙っていた土橋を殺し、小日向に「素敵なゲームをありがとう。これからもよろしく」と言葉を残し去る鳴海。
  明け方のストリップ小屋。酔いつぶれた鳴海しか客はいない。お姉ちゃん仕事終わったらどうだと尋ねる鳴海に、ストリッパー(岡本麗)は、早く帰れ、アタシは、草刈正雄みたいのが趣味なんだと毒づく。ストリップ小屋を出た鳴海の前を一台の高級車が走り抜ける。杏子やっぱり一緒に行かせてくれと言って、追いかけて走る鳴海。全く無人の明け方の渋谷の駅前をフラフラと歩く鳴海。
  ストリップ小屋(渋谷OS劇場)で流れる曲は、「蘇る金狼のテーマ」だろうか。杏子役の田坂圭子、美しく素晴らしいプロポーションだが、演技がまずいとかではなく、なんだか華がない。ハードボイルドは男たちの映画だが、美しく哀しいヒロインの存在は不可欠だ。
   夜は、元の会社の後輩で辞め同期のSが就職祝いをしてくれるというので。高円寺きよ香へ。調子にのって、泡盛飲みまくり。

2009年2月12日木曜日

お春は、江戸時代のモナなのか。いや、逆だ、平成好色一代女。

朝とてもいい天気にダッシュで洗濯し、干して、更に家中掃除機をかけ、燃えるゴミ出し。
シネマート新宿で、新東宝大全集
52年新東宝/児玉プロダクション溝口健二監督『西鶴一代女(77)』。
   奈良の外れにある荒れ寺で、客を引く年を取った夜鷹の姿がある。初見世なのにお茶ひきだと夜鷹仲間と話をしながら、寺院の境内の焚き火に当たっている。御所にまで上がったあんたがねえと言われる女。お春(田中絹代)は、読経の声に惹かれ本堂に入る。百羅漢を眺めるうちに一つの仏像に男の顔が重なる。勝之介(三船敏郎)。
   奥井春は御所に仕えている。ある日小女を連れ外出した折、公卿の菊小路(清水将夫)の若党、勝之助(三船敏郎)は、偽って主人の名を出し、茶店に呼び込んで、春への熱い想いを伝えた。身分違いの不心得を叱責しながらも、憎からず思っていた心の底に気が付き、勝之助を受け入れる。しかし、一度だけの逢瀬は、京都所司代が遊女の摘発に茶店に乗り込んできたことで発覚し、御所内に仕える女官が身分卑しいものとの不義密通をしたと言うことで、克之介は斬首、お春と、監督不行き届きとして責められた父丹波新左衛門(菅井一郎)、母とも(松浦築枝)とともに洛外へと追放され、山里深い田舎家で生活することになった。勝之介は遺言で、誠に愛する者と結ばれてほしいことといつか身分などとは関係なく愛する者同士が結ばれる世がくることを願うと残して死んだ。お春は、その言葉を母親から聞き、後を追おうとするが、果たせなかった。
   京都の笹屋嘉兵衛(進藤栄太郎)のもとに、松平家からの早駕籠がやってくる。使者の磯辺老人が言うには、松平清隆(近衛敏明)と奥方(山根寿子)との間に世継がなく、江戸では松平の気に入る側室も見つからないため、お取り潰しが噂されるほどのお家の危機だとのことだ。側室探しかと安堵した嘉兵衛だったが、磯辺が掛け軸を取り出し、そこに描かれた女に似た、年の頃15歳から18歳、顔は当世風な丸顔、眉は厚く、ほくろがなく、足は八文三分・・・・と数十項目に及ぶ細かい注文を読み上げるのを聞いて驚き顔だ。数十人の娘を京じゅうから集めても、どれも帯に短し、たすきに長し、殿様の希望をすべて満たす娘は見つかるわけがない。
   困り果てた磯辺と嘉兵衛が、茶屋で頭を抱えていると、若い娘たちが舞を舞っているらしいのに気がつく、駄目元で覗いてみると、そこの娘の一人にお春がいる。よく見ると掛け軸の娘に瓜二つではないか。ほくろの有無など聞けば、殿様の条件にぴたりと合う。さっそく嘉兵衛は、新左衛門ととものもとへ行き、お春を側室に上げたい旨を伝える。勝之助の遺言を思い出し、妾になるのはいやだというお春だが、側室とはいえ三万石の大名、世継を産めば女としてはこれ以上のことのない出世、更に支度金100両に目も眩み、新左衛門は、お前が起こした親不孝が、これでようやくチャラになると言うのだった。
  江戸に下り、松平家に輿入れをするお春。医師も子供を産める身体だと太鼓判を押した。奥方の激しい嫉妬の視線を感じながら、それでもお春は見事世継を出産した。お春の希望も空しく、世継は、生まれてすぐに、奥方とお局吉岡(浜田百合子)取り上げられて、乳も与えさせてもらえなかった。しかし、清隆は、お春を愛し、頻繁に通った。しかし、房事過度で殿様の健康を危ぶむ声もあり、世継を得た松平家は、お春を親元に帰す。娘が三万石大名の世継の生母となったことで左うちわを夢見ていた新左衛門は大いに落胆、更にたった5両しか下されなかったことを知って、泣きだすのであった。
   娘の出世で商売を始めようと高価な呉服を仕入れていた新左衛門の借財の形に京島原遊郭に売られるお春。島原一の由緒ある遊郭丸屋で太夫となった春。ある日、馬に酒樽を積んだ田舎ものの男(柳永二郎)がみせにやってきた。死ぬまでに一度こういうところで遊んでみたい と20年こつこつ金を貯め、はるばる越後からやってきたという。店の主人は、格式高い店なので、誰かの紹介がなければ、駄目だと言うが、男が懐中から大金を取り出して見せると手のひらを返すようなへつらい方だ。座敷に上がっても、男は金を派手にバラまき、皆に拾わせる。一人冷静な春。お前は金が欲しくないのかと男が尋ねると、私は乞食ではありませんと言うお春。慌てて主人は春を連れ出し、高い金で買われてきた自分の立場をわきまえているのかと凄まれる。しかし、金を欲しがらないあの太夫が気に入ったので身請けしたいと客が言い、早速手のひらを返す主人。春は男に身請けされたら、越後で贅沢を望まず、一生懸命尽くしますと言う春。しかし、男が贋金作りだと露見し、役人たちにその場で捕まった。
   年季が明け、迎えに来た母親と京の街を家路につく春。ある茶店で休もうとしていると、近くで女乞食が三味線を弾き歌っている。銭をやり、どこでこの歌を覚えなすったと尋ねる春。女乞食は、自分がかって少しは名のしれた太夫だったと告白する。他人事には思えない春。実家に戻った春に、笹屋での奉公の話が来た。うちから嫁にだしてやるので、自分の家のつもりでいろと言う主人夫婦。しかし、妻のお和佐(沢村貞子)は、春に他言無用と誓詞まで書かせ、自室に呼ぶ。お和佐は、重い病に罹った際髪が大量に抜け、自分の髪を密かに梳いてくれる女を探していたのだ。店の手代の太吉(大泉滉)が春に色目を使い何かと構ってくるが、春は相手にせず、主人夫婦に尽くした。しかしある時店を訪れた客(加藤大介)が、島原の遊女時代の客だったことから春の前職が露見する。春は夫が身請けした遊女ではないかと嫉妬したお和佐は、春の長く黒々と美しい髪を切ってしまう。また、主人も、今まで商売一途で、傾城遊び(女遊び)も出来なかったが、これからはタダで出来るのだと春に寄ってきた。主人夫婦の余りの仕打ちに怒った春は、ある夜、猫に自分の髪の匂いを覚えさせ、夫婦の寝屋に入らせた。思惑どおり、猫はお和佐の頭がら女将の頭から春の髪の毛を持ち去らせた。
   再び実家に戻った春に縁談の話が来た。よく働くことを認められ、暖簾訳を許された美扇屋の弥助(宇野重吉)が春を見初め、今までのことを全て知った上で、嫁に欲しいと申し込んできたのだ。苦労した娘の幸せに喜ぶ両親。しかし、幸せは一瞬だった。商いの帰り、春に約束した帯を求めて戻る途中、辻斬り強盗にあったのだ。帯を奪われまいと握り締めたままの亡骸にすがって泣く春。
   春は尼僧になろうとする。春の身の上話に同情し許す庵主妙海(東山千栄子)。ある時、笹屋では太吉が番頭の治平に売掛金があることで大層叱られている。反物は春に渡したと白状する。治平は尼寺を訪れ、反物を返せと言うが、春はもう仕立てたと答えた。では仕立てたものを返せと言う治平に、これだと言って、着ていた着物や帯を脱ぎ出す。治平は小僧に小遣いをやり、時間がかかるのでしばらく遊んでいろと命じて、春に襲いかかった。庵主が外出から戻り、治平と春の姿を目撃、直ぐに春は追い出される。
   尼寺の門外で呆然としていた春に太吉が声を掛ける。自分も店から暇をとらされ、腹いせに50貫の金を盗んできたと言う。一緒に逃げようと無理やり春を引っ張っていく太吉。しかし、道行きの途中で、追い掛けてきた治平たちに捕まえられ春をその場に残し太吉は連れて行かれた。
    どの位経っただろうか。荒れ寺の門前で女乞食に身を堕とし、三味線を弾き歌う春の姿がある。春の前の茶碗に銭を投げる人はなく、3日間何も口にしていない。そこにみすぼらしい身なりの女が2人通り掛かり、自分たちの塒に連れて行き、食事と酒をご馳走してくれた。女たちは夜鷹だった。着物などを借りてもらい、夜道に立つ春、しかし客はつかない。1人の老人が声を掛け、宿に連れて行く。しかし、老人は沢山の道連れの若者たちの前で、春の顔に灯りを当て、女遊びがしたいというが、こんなババアの化け猫がいいのかと言う。春は銭を受け取ると化け猫の真似をして、脅してから帰る春。
    そして冒頭のシーンに繋がる。羅漢の顔を眺めながら涙している春に夜鷹仲間が声を掛ける。自分を通って行った男たちによく似たヘンな顔があると言う春。春は倒れた。寺の部屋で介抱され意識を取り戻す春。母ともの姿がある。長い間春を探し歩き、このあたりで見かけたと聞いて訪ねてきたと言う。ともは、もうこんな苦労をしなくてよくなったのだと言う。松平の先の殿様が亡くなり、春の生んだ子が正式に継いだので、生母の春を江戸屋敷に迎えたいと言う使者が来たのだと。抱き合い泣く母娘と、良かったねと口々に言う夜鷹仲間たち。
    江戸屋敷に向かった春だが、実子である現殿とのお目通りはかなわなかった。更に、遊女にまで身を落としていたことが、先殿への恩義も忘れた不届きものだとの沙汰がおり、国表に連行し蟄居を命じられる。たった一つの恩情として、屋敷の渡り廊下を歩く殿の姿を庭から眺めることだけが認められた。静かに見ていた春だったが、これが最初で最後なのだと思うと、我が子の姿を追い始めた。必死にとめようとする家臣たち。しかし最後に春を見逃してしまい行方知れずになる春。
托鉢僧が門付けをしている。その顔は春である。
    新宿バルト9で、フィリダ・ロイド監督『マンマ・ミーア(78)』。
    ギリシャの地中海に浮かぶ島でホテルを経営しているドナ(メリル・ストリーブ)の20歳になる一人娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)がスカイ(ドミニク・クーパー)と結婚することになる。ソフィの友達2人、ドナとかってドナ&スーパー・ダイナモズを組んでいた、独身主義者で料理本のベストセラー作家のロージー(ジュリー・ウォルターズ)と全身整形で4度目の結婚相手募集中のターニャ(クリスティーン・バランスキー)もお祝いに駆けつけた。しかし、ソフィはドナに内緒で、昔の日記を読んで、自分の父親の可能性のある男3人にドナ名で招待状を出して出席の返事を貰っていた。自分の父親に会いたかったことと母親へのサプライズのためだ。NYで建築家として活躍するサム(ピアース・ブロスナン)、ロンドンの銀行家ハリー(コリン・ファース)、スウェーデンの冒険小説家のビル(ステラン・スカルスガルド)。3人は偶然島に向かう途中一緒になり、ビルのヨットで島にやってくる。お互いが同じ夏にドナと恋に落ち、皆ソフィの父親の可能性があるとは知らない・・・・。
   うーん、女性のための映画だなあ。二十歳の娘と親の話だから、自分の世代だと思うが、もし自分にソフィのような娘がいることが分かったら、幸せだろうなと妄想は膨らむが、すっぴんのメリル・ストリープが現れて、気持ちが変わらずにいるかときかれても、君は変わらないねと本心からは絶対言えない。自分の娘でなければ、ソフィと恋をやり直したいと叶わないことを夢見てしまう駄目な私。万が一、かって愛したドナをブロスナンのようなイケメン同世代に取られたからと言って、ドナの友達のロージーに私はフリーとパーティーで迫られて、“試しに”付き合うことになってしまうビルは悲し過ぎる。おめでたい席だからあまり無粋なことも出来ないし位の優柔不断さを持った自分には確実に存在する危険だ。ああ。    
  ABBAは、パート・バカラック、カーベンターズと並んで、ポップスの世界ではハズレのない曲ばかりなので、どれもこれも懐かしさいっぱいだが、最後にアマンダ・セイフライドのサンキュー・フォー・ザ・ミュージックがJPOP風味のアコースティックアレンジで歌われるのがいい。
   神保町シアターで東宝文芸映画の世界38年東宝山本嘉次郎監督『綴方教室(79)』。
   葛飾区四ツ木に住む本田尋常小学校六年生女二組の豊田正子(高峰秀子)は、ブリキ屋の父ちゃん(徳川夢声)、母ちゃん(清川虹子)、弟で六年生の実と五歳になる光雄の五人家族。景気が悪いので父ちゃんの仕事は少なくとっても貧乏だ。綴り方の授業で、正子は弟について書いたものを読んでいる。読み終わり、先生(滝沢修)が質問のある人と尋ねると、級友たちは競って手を挙げた。どっちの弟のことかとか、ちゃーが重いとはどう言う意味かとか。先生は、綴り方は他人に読んで貰うものだから、誰にもわかるように、独り善がりではいけないと注意して、次の授業までに、よく考えて直してくるようにと言った。
     家に帰る途中で、団子売りがいた。1本1銭。家に帰ると、父ちゃんと光雄が1通の手紙を前に深刻な顔をしている。母ちゃんに団子を買いたいので、1銭おくれと言うが、金なんか無い、父ちゃんに頼みなと言う。父ちゃんは、手紙を見せ、何でも裁判所からのもので、家賃が溜まっているので、この家を出て引っ越さなければならないらしいと言う。これを読んでみろと父ちゃんは言うが、裁判所からの手紙なんか難しくて読めない。読めないよと言うと、6年にもなってなんだと怒られてしまった。母ちゃんから金のことを言われて父ちゃんは布団を引っ張り出して、まだ3時半なのに、ふて寝してしまう。正子は実と光雄を連れて外に遊びに出る。馬車が轍を泥道にとられて困っていたので、お馬さん頑張れと声を掛ける子供たち。
    次の綴り方の授業で、弟についての文章を読み上げる正子。とても分かり易い文章になったと先生に褒められて、綴り方がとても好きになる正子。夏休みになる。隣の丹野さん(三島雅夫)の奥さん(本間敦子)は娘を連れて田舎に帰ることになった。夫では世話をしないだろうからと、つがいのウサギを正子にくれた。子供が生まれたら、1匹20銭で売れるらしい。早速弟たちを連れて荒川の土手で餌の草を取る正子。
    二学期が始まった。正子が書いたウサギについての綴り方が雑誌の赤い鳥に掲載された。正子は走って帰り、母ちゃんに見せた。褒美に服を買ってくれる母ちゃん。しかし、思わぬところから問題が起きた。綴り方の中で、丹野のおばさんが言った「梅本さんに兎をあげてもいいが、あの人はお大尽のくせにケチだから」と言った話を、そのまま正子が書き、雑誌に乗ったことで、梅本さんちの子供が学校でいじめられたと、文句を言いに来たのだ。梅本さんは地元の顔役で、父ちゃんの仕事の差配もする偉い人なのだ。先生は責任を感じて、正子の家に来て、両親に頭を下げる。両親は恐縮するが、先生に出す座布団もない。また先生は、梅本さんのところに謝りに行く。子供の綴り方ぐらいで、仕事を干すようなことはしないとしながら、他の職人たちへの手前、黙って見過ごす訳にはいかないと言われる先生。
     隣の丹野さんは、とても若い後添えを貰った。今日は父ちゃんが給金を貰ってくる日だ。お腹が空くが、父ちゃんが帰ってこないと食べるものがない。母ちゃんは、寝ていろと正子や稔に言う。しかし、遅くに帰ってきた父ちゃんは、大変なことになった。自転車が盗まれたという。先方で1時間くらい世間話をしていて、帰る時に無くなっていたことに気がついたと言う。あんなボロ自転車と父ちゃんは言うが、大赤字だ。
     雨が続き、父ちゃんはブリキ職人の仕事が無くなり、日雇い派遣の登録人夫になった。しかし、毎日仕事がある訳ではない。仕事にあぶれた時は米の配給切符を貰ってくる。朝、米屋に引き換えに行くときに、通学途中の級友に会うのが恥ずかしい正子は、友達に糠漬けの糠を貰いに言ったと嘘をつく。辰吉さんから仕事が来た。年末急ぎなので少し割がいい仕事らしい。大晦日給金が出る。正子は、着物を買って貰うことに。小学校2年生の時以来なので、正子の着物はつんつるてんだ。正子は、父ちゃんは、酒を飲んでいる時は嫌な父ちゃんだけど、酒を飲まなければいい父ちゃんだと母ちゃんに言う。家の外に、丹野さんの前の奥さんと娘が立っている。丹野さんは留守だ。母ちゃんは家に入れてやる。奥さんは、田舎の暮らしがうまくいかず、娘を丹野さんのもとに連れて来たらしい。奥さんは、キリスト教を信仰しているらしい。何か言うたびに、アーメンとかイエスさまと言うので、正子と稔は可笑しくなったが、我慢をする。丹野さんが帰って来たので、奥さんたちは出て行った。除夜の鐘が鳴り始めた。ようやく父ちゃんが帰ってきたが、酔っ払っている。騙されて勘定が貰えなかった。タダ働きだ。辰吉の野郎ぶっ殺してやると言う。
    食うや食わずの正月が過ぎて、三学期が始まった。雨や雪が続いて、家計は更に厳しくなった。ご飯と沢庵だけの食事だ。父ちゃんが鰹節か醤油はないかと聞くがどちらも切らしてから随分たっている。
    13歳(数え年なんだな)になり、もうすぐ卒業だ。 母ちゃんが、芸者になれば綺麗な着物を着て、美味しいものを腹いっぱい食べられるという。その話を聞いて、正子の箸が止まった。母ちゃんは、お前もういいのかい。いつもだったら、4杯や5杯食うじゃないか、おかしな子だねえと言う。家族が寝静まってから、学校の休み時間に、正子はちびた鉛筆を舐め舐め、綴り方を書き続けている。教室で書いていると先生が声を掛けてきた。「豊田さんは、最近いつも綴り方を書いているが、先生に見せてくれなくなったね。何か心配事があったら、遠慮なく先生に言いなさい。卒業してもいつまでも先生は相談にのるよ」と言う優しい言葉に、正子は窓際に走って行って泣く。先生は、正子の書いていたものに目を落とし、言葉に詰まる。
   先生は家で、奥さん(赤木蘭子)と話している。奥さんは、「娘を芸者にするというのは、よっぽどのことでしょう。何とか、芸者にならずともすむようにしてあげたいですね」と先生に話している。その時、正子の母親が先生を訪ねてくる。父ちゃんが本所の建築現場の常雇いになったので、ようやく生活の不安が減ることになったと言って、以前先生が貸してくれた米代を返すと言う。いいですよ、子供に何か買ってあげてくださいと言う先生に、いや借りたままだと、義理を欠くのでと言って、お金を返した。
   いよいよ卒業だ。みんなで記念撮影をした。先生や級友たちと一緒に帰る正子。みんなの進路を言う先生。正子は、ここから見える煙突がある工場で働くことになっている。最初は、ひと月70銭だけど、頑張れば1円50銭になるので頑張るんだ、新しいことを体験して、どんどん綴り方を書くんだと言う正子。
   膝までしかないつんつるてんの着物姿で、明るく前向きに生きている正子を演じる高峰秀子、素晴らしい。正子が活き活きと綴り方(作文)として、ありのまま正直に書いた当時の貧しい庶民の生活を、ありのまま映画にした山本嘉次郎監督と、徳川夢声、清川虹子ら役者の演技。唸る。
   夜は、かって同じ会社の先輩が転職した同業会社の退職をすることになったので、お祝いを外苑前の粥屋喜々で。まあ喜々をやっている後輩も含め、元の会社の同窓会のようなものだ。

2009年2月11日水曜日

お化け煙突ってあったなあ。

  昼は、父親の78歳の誕生日で会食。この年になって、ようやくこういう世間並みのことに恥ずかしくなくなった気がする。50になった不肖の息子だから遅すぎることこの上ない(苦笑)。
    六本木に出て、シネマート六本木で新東宝大全集
    53年新東宝/スタジオ8五所平之助監督『煙突の見える場所(75)』
   北千住に見る場所によって4本にも3本、2本、1本にも見える、おばけ煙突と呼ばれている煙突がある。日本橋の問屋に勤める緒方隆吉(上原謙)は、荒川沿いの2階建ての借家に妻の弘子(田中絹代)と住み、2階の2部屋を役所で税金の取り立て係をする久保健三(芥川比呂志)と、上野の商店街の街頭放送でアナウンス嬢をしている東仙子(高峰秀子)に格安で貸している。大家は隣家に住む梅干し法華婆さん。その隣は7人の子沢山の北ラジオ商会だ。妻の弘子は終戦前の空襲で夫を亡くした戦災未亡人で、3年前に結婚。貧しいながら夫婦仲はいい。緒方と弘子がキスをしているところに仙子が帰ってくる。仙子は、見られる方も困るだろうが、見ている方がもっと困ると健三に言う。襖一枚しか隔てていない二間だが、健三の書いた「仙子さんに気を取られずに、勉強に専心せよ」という貼り紙を見て微笑み、割と上手い字ねと言う仙子。これでも役所での毛筆は僕が頼まれるんですと自慢する健三だが、
んたも出世しないわねと返されてしまう。税金の滞納者の取り立て先で買った鯛焼きを仙子に渡す健三。
   弘子は、夫に内緒で競艇場の車券の立ち売りのアルバイトをしていて、緒方の勤め先の川村に会ってしまう。お互いに緒方には黙っていようと話す。ある日、緒方が帰宅すると、弘子が外出している。仙子に聞くと医者に行くと言って出たと言う。懐妊したのかと、帰宅した弘子に尋ねると、歯医者だと言う。痛み止めの薬を取ってあげようと言って弘子のカバンを探すと、緒方名の預金通帳がある。自分に内緒でアルバイトをしていたことで、少なからずショックを受ける緒方。
   ある日、競輪場の仕事を紹介してくれた野島加代子(浦辺粂子)が、弘子の住所を聞いている40歳位の赤ん坊をおぶった男がいたので、用心した方がいいと教えてくれる。その日も、捨て子の場内放送が競輪場であるような時代である。川向こうに肉屋が開店セールをやっていて、肉を買いにいくと、健三に会う。そこから見た煙突は2本である。
    帰宅すると赤ん坊が泣いている。先に帰っていた緒方も、弘子が預かったのかと思っていた。交番に届けようとすると、塚原忠次郎(田中春男)と名前がある手紙を見つける。塚原は弘子の死んだ筈の前夫の名前だ。中には、「これは重子と言い、弘子の子供だ。証拠に戸籍謄本を添付する」と書いてある。確かに、夫が塚原忠次郎、妻弘子、娘重子とある。緒方は混乱し、君は僕を騙していたのかと言いながら、家に2人の戸籍謄本があったことを思い出す。比べて見ても、どちらも正式なものだ。緒方が六法全書を括ると、刑法184条重婚罪だ。お前が悪いんだ、あたしを責めるのと2人は言い争いになる。赤ん坊は火のついたように泣き続けている。泣き声に、ラジオ屋の亭主が家を覗く。とりあえずミルクを買いに行く弘子。隣の法華婆は、不信心な緒方家に神様が忠告しに来たのだと夫(浜村純)言って念仏を唱える。
   重子は夜泣きが酷く、皆完全に寝不足だ。特に緒方はことあるごとに弘子を責め立てる。ただ共に眠れない健三と仙子の距離は近付いて行く。ある日、一晩子守をし続けて、ノイローゼのようになった弘子が、家を出ると言って亡霊のように歩いていく。緒方、健三、仙子が追うと、川に入っていく。必死に引き止めると、我に返って泣き出す弘子。健三は、仕事を休んでも塚原を探し出すと言ってしまう。
    塚原の本籍地から転居先を訪ねて歩く健三。なかなか見つからない。疲れ果てて戻ってくると、弘子と顔を合わせたくないのでパチンコをしているんですと景品の山を持った緒方に会い、こんな無意味なことを引き受けるんじゃなかったと仙子に愚痴る健三。しかし無意味なことは無いと言われて再び探し始める。
   苦労の末、ようやく塚原に会う。塚原は、子供と自分を捨てて出て行った妻の勝子(花井蘭子)に、子供を引き取るように言ってくれないかと言う。小料理屋で働く勝子に会うと、だらしなくて最低の塚原に騙されて暮すようになり、生みたくない子を妊娠し、中絶費用さえ競輪につぎこんでしまうような男の子は嫌なのだと言う。帰宅した健三は、仙子に、赤ん坊の両親は見つかったが、最低の親だ、あんな親に返しても子供が幸せになるとは思えないと言う。あなたは、裁判官のようにこの人間は駄目だとか言っているが、そんなことはないと言う。
   しかし、その時、重子は高熱を出していた。緒方が連れてきた医者は、自分の子供をこんなになるまで放置しておく二人には、親の資格はないと言う。医者としての良心の限りの治療はしたが、もう手遅れだと言われる。弱っていく重子を前に、呆然としている緒方と弘子。仙子に聞かれて、もう手遅れだと医者からも見放された可哀そうな子だと言う二人に、仙子は怒りだす。この子が一生懸命病気と闘っているのだから、できる限りのことをするべきだと言い、健三に氷を買いに行かせ、自分は、別の医者を探しに行く。
   翌朝、うたた寝をしている弘子は、重子の熱が下がっていることに気がつく。隣で寝ていた緒方も、泣き始めた重子を見て安心する。そこに客がある。重子の母親の勝子が、子供を返してもらいに来たのだ。看病しているうちに、愛着がわいてきた緒方と弘子は、健三から聞いていた塚原と勝子の話では自分の子供ではないと言ったそうだがと言う。重子を置いて家を出れば、心を改めるかと思ったが、塚原は前妻の所に捨て子をするような最悪な男だ。嫌いな男の欲しくもなかった子供でも、愛してしまう女の悲しみは分かるかと言う勝子。結局、勝子に子供を返すことにする。緒方と弘子の間に平穏が戻った。また、健三と仙子は結婚し、二階で一緒に住むと言う。家賃を下げてあげようと話し合う緒方と弘子。
   お化け煙突のように、物事はいろいろな角度で見え方が変わってくるということだろう。個人的には、花井蘭子の、「女の一生」での京都の芸妓上がりの妾、「細雪」の本家を継いだ長女、「生きている画像」の貧乏画家を支える妻、この映画でのたくましく生きる貧しく品がない酌婦、という全く異なる4つの顔がインパクト大だ。この映画では、健三と塚原を前に啖呵を切るところと、子供を取りに行ったが、追い返され、片足の鼻緒が切れて、怒りながら土手を歩いて行く姿が素晴らしい。
   銀座シネパトスで、燃やせ!俺たちの70'sジャパニーズ・グラインドハウス魂!
   69年日活長谷部安春監督『野獣を消せ76)』
   大型の米軍軍用輸送機がひっきりなしに離着陸する基地の街、ジープとバイクの男たちが、一人の娘を追いかけている。獲物を狩ることを楽しむ獣のように。娘を殴り気絶させ、暴行する男たち。笑いながら去る男たち。涙をこらえ、コーラの瓶を叩きつけて割り、手首を切り自殺する娘。米兵と、舶来ウイスキーの横流しをしている男たち。
   羽田空港にライフルを抱えた男が降り立つ。入国審査で、プロハンターですねと聞かれる。男の名は浅井徹也(渡哲也)。基地のある街に戻ってきた。伯父の小野田信造(鶴丸睦彦)が経営するオノダモータースの二階。レイプされ自殺した妹の里子(吉岡まり)と自分が写った写真を見ている徹也。犯人たちは捕まっていないのかと尋ねる徹也に、この街では、女を回すような奴らは、アメ公から不良たちまでいくらでもいるからと言う信造。ひどい街だ、昔と少しも変わっていないと呟く徹也。タロウ(ケン・サンダース)は、徹也のバイクをずっと手入れをしてくれていたらしい。バイクで街を流す。里子が死んだ現場に行き、ライフルを出す。銃声がしてコカコーラの古い看板が倒れる。
   不良たちの溜まり場に、緑と白のシトロエンが止まり、同色の服をきた山室恭子(藤本三重子)が降りる。店に入りコーラを注文する。不良たちに絡まれる。そこに徹也が現れ、逃がしてやる。ライフルの射撃場に行く徹也に恭子はついてくる。バーにいる二人。徹也は、ずっとアラスカの雪と氷の中で独り、トナカイなどの動物の個体数の調整などのためにハンターをしていたと言う。厭な結婚を強いる父親に反発して家出をしてきたという恭子。
   不良たちが、その店の裏口から入ってくる。リーダーの矢田(藤竜也)とその情婦マリ(集三枝子)、黒い革の上下の佐土(川地民夫)、ナイフを出す野呂(尾藤イサオ)、マル(鈴木俊夫)ビル(山野俊夫)。支配人(長弘)を暴行し、米軍横流しのウィスキーを高額で売りつける。店に出て、それまでジャズを演奏していたバンドに合図を出し、R&Bに切り替えさせるマル。マリは音楽に合わせ踊りだし、革ジャンを脱ぎ、上半身裸になる。カウンターに座るマリに中年の客(玉村駿太郎)が声を掛けてくる。野呂、マル、佐土は、取り囲み、財布を取り上げる。矢田と佐土が、徹也と恭子がいることに気がつく。絡んでくる野呂を叩きのめし、恭子を逃がす。オノダ・モータースに戻り、恭子には家に帰れと言う。夜更け恭子の車は消えている。徹也とタロウは気になり探しに出かける。
  恭子は、閉店しているガソリンスタンドで、無理に給油しようとクラクションを鳴らす。しかし、集まってきたのは、矢田たちだ。徹也たちは、恭子のシトロエンを捨てようとしている給油所の親父を見つける。矢田たちに命じられただけで何も知らないと言う。矢田たちのアジトに連れ込まれた恭子は、父親への復讐で、自分の父親は大室剛平(清水将夫)という大物代議士なので、身代金を取ったらどうだと言う。徹也は矢田たちのアジトを突き止め、ライフルを持って乗り込む。しかし、恭子の首にナイフを突き付けられているのを見て銃を捨てる。
  大室剛平に1時間以内に1000万を用意しろという脅迫電話をする。警察にも通報し、逆探知もし、警官たちが見張る中、トランシーバーを渡して、金の強奪に成功する矢田たち。しかし、アジトに戻ってきた矢田たちは、鞄に入っていたのは、囮の10万円だけで、残りは古新聞だった。お前の親父は、娘の値段を10万と付けたのだと言って、子分達に暴行させる。その後、酒盛りを始める矢田たち。明け方、付近を自転車でパトロールしていた警官が、矢田たちの車やバイクを見つける。アジトのドアを叩く警官。野呂はナイフで警官を刺殺する。マリに徹也と恭子を見張らせ、矢田たちは、警官の死体と自転車を埋めに行く。スキをついて、マリを気絶させ、逃走する徹也と恭子。
   オノダモータースに戻り、徹也は、武器を自作している。あいつらは野獣なんだから、関わらないほうがいいという伯父に、「おじさん、俺の獲物は獣なんだぜ」という徹也。恭子はシャワーを浴びている。恭子に眠って全てを忘れてしまえという徹也。何もかも忘れたいので私を抱いてという恭子。翌朝、一緒に連れて行ってほしいという恭子を連れ、矢田たちのアジトに向かう。
   矢田たちは、完全武装をしている。徹也のライフルの音に色めき立つ矢田たち。野呂とマルとビルを表に誘き出す。ビルは徹也が仕掛けた罠に足を挟まれる。野呂とマルは慌てて、小屋の中に戻るが、野呂が乱射したピストルでマルは射殺される。野呂を確実に仕留める徹也。外に置いてあった佐土のバイクが燃え上がる。罠だという矢田にかまわず興奮して外に走り出る佐土。一発で倒される。マリは泣き続け、矢田を苛立たせる。矢田は、マリを引きずってジープに乗り、アジトの小屋に突っ込もうとする、その際、罠にはまって動けなくなっていたビルを轢き殺す。運転席の矢田の額を打ち抜く。そのまま暴走し。突っ込んだジープの客席で動かない矢田とマリ。
   小屋から這い出てきた徹也とマリ。そこに米軍のMPがサイレンを鳴らしやってくる。ライフを上げ投降する徹也。私は、父のもとに帰って闘うわと言う恭子。
   高校時代に見たときには、非常に興奮して長谷部安春は、日活アクションの正しい承継者だと思ったきがするが、改めて見ると、やはり69年の邦画界の敗戦濃厚な時代を反映してアラが目立つ。脚本のブラッシュアップが足りない上に、代議士令嬢のはずの、藤本三重子どうも安っぽい。川地民夫、尾藤イサオたちは、不良少年というには、少し若さ足りなくなっているんじゃないか(苦笑)。藤竜也は、かっこいいんだけど・・・。ストーリー、キャスト60年前後の蔵原惟膳監督とかのノアール作品に比べると、制作現場の金と時間の制約大きくなっていたのかと痛感する。あと音楽も!!。もったいないなあ。

2009年2月10日火曜日

瓢人先生になりたいなあ。

    シネマート六本木で新東宝大全集
    53年新東宝新藤兼人監督『女の一生(72)』。京都の千住院の娘白川藤子(乙羽信子)は、すき焼き屋の老舗山崎亭の若旦那真太郎(山内明)と好きあっていた。父の教信(千田是也)は格式をとやかく言うつもりはないが、本山や檀家にとやかく言われるのはなあと反対する。しかし母親満枝(英百合子)と、三高から京大に進んだ兄政夫(宇野重吉)の後押しもあり、結婚は認められた。
   ある日、姑の玉恵(杉村春子)に、お中元の使いに行ってくれと頼まれる。松月楼の春江(花井蘭子)は、一緒に出かけた女中のゆき(日高澄子)の話では舅の徳平(進藤栄太郎)の2号だと言う。本妻が妾に中元を贈るのかとびっくりする藤子。続いて3号の菊粹の菊勇(轟夕起子)のもとにも。そこには、徳平がいてお灸をしてもらっている。春江も、菊勇も、売れっ子の芸妓だったが、徳平が牽かして、店を持たせたのだ。
   藤子は妊娠し、舅、姑、真太郎初め山崎家は皆喜んだ。その年の夏、松月楼の鴨川の床で、大文字の送り火を見ながら宴会をしている。徳平を囲んで、妹夫婦、姑、春江、菊勇に混じり、お腹がかなり目立つようになった藤子がいる。春江は、玉恵を呼び、改装した家を披露している。勿論この援助も玉恵がしたものだ。藤子がゆっくり歩いて帰宅すると言う。予定よりも早く帰宅した藤子が目撃したのは、布団部屋で女中のゆきを抱く真太郎の姿だった。半狂乱になる藤子。徳平も玉恵も、たかが女中に手をつけただけだし、すぐに暇を取らせるなり藤子の気の済むよう取り計らうのでと宥めるが、ゆきは既に妊娠7か月、藤子との挙式の前から関係があったと知って、真太郎を許す気になれない。しまいには、不貞腐れる真太郎。
   実家に戻っている藤子に、仲人の立花夫人(清川玉枝)が、縁なのだから私の顔に免じて今回は山崎家に戻ってほしいと頭を下げる。父の教信は、悪い縁だったら、早めに切った方がいいと言う。その千住院を特高警察がやってくる。藤子の兄の、政夫をアカの容疑で逮捕にきたのだ。心配しなくていいと言って連行される政夫。
   ゆきの父親吉松(菅井一郎)と母親のとら(北林谷栄)は、腹ボテで、奉公先を首になったゆきの相手が若旦那だと聞いて驚く。吉松は、徳平と玉恵のもとを訪ね、もう少し何か誠意を見せて欲しいと頭を下げる。強請りたかりだと激する徳平。そこに現れた、婚家に戻っていた藤子は、真太郎の子供なのだからもう少しちゃんとしてあげてほしいと言う。お前の兄さんがアカで捕まったと言われてどんだけ迷惑しとると思っているんだと言いながら、それでも、ゆきの嫁ぎ先を世話してやることになった。
   藤子は太郎という男の子を産んだ。山崎家の人々は心から跡取りの誕生を喜ぶ。藤子は、数日後にゆきも男の子を出産し、里子に出すという話を聞いて、自分が育てると宣言する。ゆきのもとを訪ね、この子も真太郎の子供だから、次郎と名づけて太郎と分け隔てなく育てるつもりだと言う。涙を流して頭を下げるゆき。藤子は、家の奥と店を切り盛りし、立派な女将となっている。玉枝は、二人の孫に首ったけで甘やかして、藤子から叱られている。徳平は相変わらず2号、3号に入り浸り、真太郎はまたぞろ浮気の虫が起き始めている。しかし、真太郎は手を出した女と一緒に殺される。女の情夫の仕業だった。その殺害現場に、その時ちょうど店を訪れていたゆきと駆けつけた。真太郎の亡骸を前に、呆然と手を握り合って眺める藤子とゆき。成長した太郎と次郎は、共に三高に進むが、学徒出陣で出征する。見送る藤子。
   物資の統制で、店を閉めなければならなくなった。暖簾は畳まずに、あくまで休むだけだと徳平に伝える。姑の三回忌もやってくる。徳平にお灸をしてやり、春江と菊勇への今月分の手当を持たせてやる。その夜、特高警察がやってきて、結核で寝込んでいる政夫を連行していく。その時、春江から電話があり、脳溢血で徳平が倒れたと言う。藤子が駆けつけると、既に舅は事切れていた。徳平にすがって泣く春江と菊勇。
   戦争は終わった。店を締め、息子達が戻るのを待っている藤子をゆきが訪ねてくる。夫は戦死したと言う。闇市に行けば何でも手に入るので、店を復活させようと言うゆき。人目を避け、夜中に大八車を引く藤子とゆき。牛肉だ。貯蔵庫に入れながら、これで店を開けると興奮する二人。暇を出していた従業員を呼び戻し、再び活気が戻った山崎屋。藤子は女将として、きよは仲居として、切り盛りをしている。一人戦地から戻った太郎は、屈折し、二階でパイプをいじっている。太郎が、女中の八重(奈良岡朋子)を呼ぶ。胸騒ぎを覚え二階で太郎を探す。八重の櫛が落ちている。かって夫の真太郎がゆきを抱いていた布団部屋で、太郎は八重を抱いていた。何をするのという藤子に、戦地で死ぬ思いをして帰って来たのだから女の一人や二人どうでもいいかないかという太郎の頬を打つ藤子。出て行ってやると言う太郎を必死で止める藤子。しかし、藤子を突き飛ばして、太郎は家を出ていく。呆然と立ちすくむ藤子。
    10代から45歳までの(45歳なのか・・・。自分よりずっと年上の設定かと思っていた)藤子を演じる乙羽信子が素晴らしい。特に10代の恋をしている娘時代と初々しい花嫁姿の美しいこと。
   50年新東宝阿部豊監督『細雪(73)』。
   昭和12年、上本町九丁目に豪商蒔岡家の屋敷がある。蒔岡家には、美しい4姉妹がいる。
   長女の鶴子(花井蘭子)が貞之助を入り婿にして本家を継いでいる。提之助は銀行に勤めている。子供も多く、広い屋敷の維持費もかかり、生活は楽ではない。しかし、家柄、格式、体面などにとても気遣っている。
   次女の幸子(轟夕起子)は、神戸芦屋に嫁いでいる。三女雪子(山根寿子)は、日本的な美人だが、なかなか結婚が出来ない。四女妙子(高峰秀子)は、人形制作や洋裁をしながら、日本舞踊なども稽古している現代っ子。
雪子が、幸子を訪ねる。義兄の貞之助が骨を折った豊橋の名家との縁談が気が進まないので、鶴子に断ってほしいと頼む。幸子は、こんな損な役回りばかりだ。本家を訪ね、姉夫婦に頭を下げる。どうも、雪子にも妙子にも嫌われてしまったなと言う貞之助。しかし、独身の娘が家にいないのは、外聞が悪いので、帰ってきてほしいと言う。
  妙子の個展が開かれる。高額の人形も売れている。幸子は、女学校の同級生と再会する。彼女は、前回も妙子の人形を買ってくれたらしい。そこに、奥畑商会のけいボンが、カメラマンの板倉を連れてくる。板倉は、かって奥畑家で丁稚をしていたが、苦労の末、6年間アメリカで写真術を習得して帰国、神戸に写真館を開いていると言う。人形を撮影して、プログラムを作るために連れて来てくれたのだ。けいボンは、かって妙子と駆け落ちをして、世間を騒がせた。そのために、当時進んでいた雪子の縁談が壊れ、蒔岡家は大変迷惑した。もし、妙子が今でもけいボンと付き合いがあることが本家に知れたらと思い悩む幸子。しかし、同級生が雪子の縁談の話を持ってきてくれたので、喜ぶ。
  縁談を進めていいかという幸子に、見合いをする前に、相手の人物をよく調べてほしいという雪子。急に貞之助に勤務する銀行の東京への転勤話がある。丸の内支店長としての悪い話ではないのだが、住み慣れた大阪から引っ越すことに気が進まなく、泣く鶴子。しかし、世間体を大事にする貞之助と鶴子にとって単身赴任という選択肢は一切ない。また、本家が東京に転勤するということは、雪子と妙子も、東京に行くことを意味する。二人とも、芦屋の幸子たちとの気安い生活を続けないのだ。またしても幸子が、本家に交渉にいくこととなる。帰宅した幸子は、妙子は人形制作のこともあるので、落ち着いてからでいいが、雪子には、貞之助と一緒に鶴子や子供たちより、一足早く東京に出かけて、家探しまでしてほしいと言うのだ。私の顔をたてて、今回だけは、東京に行ってほしいと、雪子に頭を下げる幸子。
  東京に行っていた雪子が、3月3日の桃の節句に、幸子の家にやってくる。幸子の娘の悦子は、大喜びだ。今回は、幸子がセッティングした見合いが目的だった。見合い相手の野村は、兵庫県庁の役人だ。しかし、見合いの席で、急に変調をきたす野村。勿論破談になった。幸子が雪子を慰めている。雪子に向こうから断られたんではなくこっちから断ったことしかないだろうと言うが、周りの人間は、私がまたダメだったんだろうと噂をしているに決まっていると外聞を気にしている。
   雪子が東京に戻り、妙子の日本舞踊の発表会がある。楽屋に妙子の写真を撮りに来る板倉。その年の夏、大雨で、六甲から鉄砲水が置き、芦屋川と住吉川が氾濫して、神戸中に死者、行方不明者が沢山でる大災害となった。その日、妙子は洋裁学校にいっている。そのあたりは特に被害が大きいらしい。娘の悦子をおぶって帰宅した幸子の夫は、妙子を探しに、戻っていく。そこに、けいボンが、白いスーツにパナマ帽でやってくる。妙子を心配しながら、津波見物にきたというような無神経な態度に幸子は顔をしかめる。ずいぶん時間が経ち、夫と、妙子を背負った板倉が戻ってくる。板倉は店と妹が心配なのでと、すぐに帰って行った。妙子が幸子たちに語るのには、玉置洋裁学院にいたら急に水が流れ込んできた。もう死んでしまうと思った時に、流れてくる木材などの中を泳いで、助けに来る板倉の姿が見えた。妙子を励ましながら、写真館まで連れて行き、妹の着物を貸してくれたのだと言う。
    洪水から数日たって、妙子は、板倉の写真館を訪ねる。美しい妹(香川京子)が受付をしている。着物は解いて洗い張りしてから返すと言う妙子。妙子は自分の命も顧みず助けてくれた板倉を愛し始めていた。しかし、同じような境遇で育ち、価値観も近く、家の商売道具のダイヤモンドなどを盗んでプレゼントしたり、高価な服を作ってくれるけいボンとの交際も清算できない。家柄も、学問もない板倉との結婚を勿論反対する幸子と雪子。
   自活するんだと言って、本家に親が自分名義で残してくれている筈の結婚資金を返してもらうよう連絡を幸子に頼む妙子。しかし、貞次郎の返事は、そんな妙子名義の財産は一切預かっていないという。怒った妙子は東京の姉夫婦を訪ねる。おろおろしながら同行する幸子。貞次郎と鶴子は、板倉の話は聞いていないので、妙子が洋裁店をやる費用が欲しいのだと思って、蒔岡家の娘が自ら店に立つなんて外聞が悪いので反対だと言う。そこに、板倉の妹から電話が入る。板橋が危篤だと言う。
   慌てて、姉夫婦の家を後にして、夜行列車に飛び乗る妙子。病院に駆けつけると、急性盲腸炎の手術をした際に、菌が体内に入ってしまったと言う。激しい痛みに悶絶する板倉。医師は手術を勧めたが、田舎から出てきた無教養な両親が、手術に尻込みしていると妹から聞いて、手術を頼む妙子。先程までの苦痛が嘘のように無くなった板倉。しかし、板倉は視界が急に暗くなったと言う。慌てて医師を呼ぶが、板倉は亡くなった。
   医師の橋田と、競馬場の貴賓室で競馬を楽しみ会食する雪子。こんどの見合いはかなりいい感触だ。しかし、ある日、直接雪子宛に橋田から電話がかかり、これから会って食事でもしませんかという誘いを受ける。しかし、殿方から電話を受けたことのない雪子は激しくうろたえて電話にでることも出来ずに、やっと出てもろくに会話も出来ない。その後、橋田から、電話をかけたら、家にいるのに電話口にでることもしないで、やっとでたと思ったら、よく分からない対応をした挙句会えないと言いだすような、人を馬鹿にした娘との縁談はお断りだと言ってくる。妙子は、雪子に、自分の全てを理解して許してくれる人間を待つだけで、努力もなにもしない以上、結婚なんて不可能だと言う。
   板倉の死以来、妙子は、毎夜酒を飲み遊び歩いていた。妙子の為の放蕩で、いよいよ勘当されたけいボンが、アパートを訪ねてくるが居留守を使う妙子。窓か家に入ってきたけいボンが、金の切れ目が縁の切れ目かと言う。たちの悪いバーテンの三好と毎晩飲み歩いているのは止めろと言うが、余計な御世話だと追い出す妙子。その日、けいボンの婆や(浦辺粂子)が幸子と雪子を訪ねてくる。けいボンが店の金を使って、作りまくった服の受け取りを見せながら、文句をつけるというより、ここまで尽くすけいボンと結婚するように妙子に頼んで欲しいと言って頭を下げる。
   帰ってきた妙子に、自分の稼ぎで作ったと言っていた服は、けいボンから貢いでもらったんではないのかと問い詰める雪子。自分は、バーテンをしている三好と言う男と交際中で、既に妊娠しており、一緒になるのだと答える雪子。結局妙子は勘当された。急に雪子の縁談が決まった。上本町の屋敷で、雪子の花嫁道具を確認している鶴子と幸子。鶴子は、実は妙子宛の財産は自分が預かっていたが、子供たちが次々と病気になった時に、手を付けてしまったのだと告白する。このことは、一切夫は死らないのだという。二人の間にあるお茶に白蟻が浮いている。この家に白蟻がいるのだと言う幸子。妙子は雪子に幸せになってくれと言って、新しい生活のために出て行った。
   48年新東宝千葉泰樹監督『生きている画像(74)』。
  瓢人先生(大河内伝次郎)は、高名な洋画家だが、世俗を嫌い、酒を伴侶として花ばかり描いて暮らしている。しかし、そんな瓢人を慕う門下生は多い。ある日、絵の品評をしているところに、門下生の安斎(藤田進)が酔って乱入し、瓢人が特選だと言った絵を最低だと言い、ナイフで切り裂いてしまう。その絵は安斎が描いたものだった。瓢人は、特選の賞金だと言って自分の財布を安斎に渡し「安い酒を飲んで目を傷めるな」と言う。安斎と同期の田西麦太(笠置衆)は、今回も落選だ。彼は帝展に14回落ち、他の展覧会も含めれば、20回以上落選し続け、師匠の瓢人からは落選と呼ばれている。
瓢人は、品評会の後、芒銀介(江川宇礼雄)鶴井長太郎(杉寛)らを連れて、主人(河村黎吉)が偏屈者のすし徳に行く。自分で燗をつけながら、主人が出したものを食べてこれはなかなかのものだと言う。数日後、すし徳は、芒、鶴井だけでなく、瓢人の話を聞いてやってきた文人や学者たちでいっぱいだ。主人は忙しくてえらい迷惑だと毒づいている。最後に入ってきた瓢人の幼馴染みの大学教授の竜巻(古川緑波)は、もうネタがないと言われながら、他人の握りをつまみながら、これは…と唸って食いまくっている。
     ある日弟子の一人鯉沼(田中春男)が、瓢人を訪ね仲人の依頼をする。自分は独り者だし、挨拶とかやらない主義だと言って竜巻教授に押し付ける。帝展に今年も落選した田西は、モデルになってもらっている青貝美砂子(花井蘭子)に、モデル料をしばらく待って欲しいと頭を下げている。別にプロのモデルではないんだからと言い、田西を励ます美砂子。ある日、自室で美砂子を描く田西。そこに安斎が現れ、美砂子を美しい人だと誉め、田西の芸術ために裸になってくれないかと言い出す。田西も美砂子も断ると、田西に10円貸してくれないかと頼む。5円しかない田西。酒代かと聞くと細君の薬代だと答える安斎。美砂子が5円ならありますと言うと2人から金を借りて出て行く安斎。
     数日後、田西が瓢人のもとを訪ねる。頭を下げる田西に借金かと聞くと仲人だと答える。瓢人は田西に結婚はするなしたら破門だと言う。恩師のあまりの言葉にショックを受ける田西。美砂子が頼みに行くが、あの下手な田西は画家としてモノにはなるまい、結婚しても2人は不幸になるだけだと言われる。海を見つめながら思い詰めた表情の田西と美砂子。尊敬する瓢人から破門されたら生きていられないと言う田西。しかし、死ぬのは嫌だ、結婚しないのも嫌だと言う美砂子。自分の父親は落選の神様だと自称する仏像彫刻家で、死ぬまで評価されず貧乏だった。父は、美砂子の子供を優れた芸術家にしてくれと言い残したのだと言う美砂子。
    数日後、田西は瓢人に呼ばれる。俯いて破門ですねと言う田西に、意外にも、一度だけ仲人をしてやるという瓢人。披露宴が行われる。田西が落選の神様と言われていることや画才がないことを言いながら、田西にとても愛情に溢れた、人生ただ一回のスピーチをする瓢人。祝辞で瓢人のスピーチの含蓄への賛美を述べてから、竜巻と瓢人は、おかめとひょっとこの面をかぶり、お神楽を舞う。それを見ながら涙する田西と美砂子。
    すし徳は、瓢人の近くに越してくる。こんな辺鄙なところじゃ客も来んだろうと皆が言うが、忙しいのが嫌なんだと答えるすし徳。すし徳は酒の肴を差し入れるのが日課になっていたが、美砂子が気を使って、食事の支度や洗い物をするようになり、不機嫌になる。美砂子に田西に尽くしてあげなさいと優しく言う瓢人。すし徳は、何やら自分でも絵を書くようになったらしい。店に下手な絵を飾り、スケッチに出掛けて数日留守にすることもある。商売に身を入れないので、細君(清川虹子)は瓢人に愚痴る。
    ある日、瓢人を刑事が訪ねてくる。安斎が瓢人の絵を持ち出し、金に換え、大金を持っていたので、不審尋問に引っかかって、上野署に留置されていると言う。自分の弟子だと言い、釈放には身元保証人が必要だと言うので、上野署まで、引き取りに行ってやる。東京一鍋の旨い店でご馳走してやり、女に入れあげるのもいいが、悪い病気にでもなって君の大切な目を悪くすることは気をつけなさいと言って金を置いて出て行く瓢人。酒をあおり、偽善者めと金を投げる安斎。
   すし徳の酒屋の払いが滞っていると聞いて、内緒で払ってやる瓢人。夫のペンキ塗りを止めさせてもらえないかというすし徳の女将には自分の絵を八枚やる。いくらになるんだいとすし徳に聞いて、一枚売っただけで借金返したうえ1年遊んで暮らせるだろうと言うすし徳に、ただ驚く女将。
   いつものように美砂子の絵を描いていて、少し顔が変わったようだと言う田西。美砂子は夫の目の確かさを誉める。妊娠を告げる美砂子。次の帝展の出品に張り切る田西。
   帝展の発表の晩、芒がすし徳に行くとしょげ返っている。今宵、あまたの画家が泣いているだろうと言う。すし徳も出展していたのだ。田西はやはり落選する。失意で肩を落とす田西に、美砂子は酒とつまみを用意する。私は自分の子が帝展の審査員をしている夢を見たと言う美砂子。しかし、その頃から美砂子は腎臓を患い寝たきりになる。弟子総代の芒が、田西の為に奉加帳を持って、瓢人のところにやってくる。しかし、瓢人は、田西は意外にあれで頑固な男だからプライドを傷つけるようなことは止めなさいと言う。
   数日後、芒は瓢人からの贈り物だと言って、瓢人が描いた一点もののベビー服とベビー布団を持参する。瓢人からの子供だけは落選させるなと言う伝言とともに。ある日、1人の紳士が田西を訪ねてくる。田西の絵を見せてくれと言って、2点買ってくれた。田西の絵が初めて売れたのだ。すし徳が葬式を出すので来てくれと誘う。出掛けるとすし徳は女将が貰った8枚の絵を屏風にしていた。一応香典だよと言われ、包みを開けると、瓢人がすし徳の代わりに払った酒屋の受け取りだった。
    酒を飲み始めると青い顔をした田西がやってくる。美砂子が危ないと言う。医者が母体を守るために胎児を諦めようと言うのに、美砂子は自分の命に代えても赤ん坊を産みたいと言い、無事出産はしたが、美砂子は今晩が峠だと言う。枕元の瓢人に、美砂子は落選させませんでしたと言う。そして瓢人に名前を付けて欲しいと言う。瓢人は、すし徳に紙と硯を借りてきてくれと言う。瓢人は「瓢太」と書き、特選だと言う。うれしそうに、瓢太と声を掛け息を引き取る美砂子。瓢太をおぶりながら、一心不乱にキャンパスに向かう田西。田西の視線の先には、美砂子が座っているかのようだ。
  帝展の発表の日、瓢人を竜巻が訪ねてくる。我が意を得たりという新聞記事が載っていたと言って、記事を読む竜巻。その夜、帝展の会場に酒に酔った安斎がやってくるが、表は既に閉まっている。裏に回り、警備員に止められる安斎。無理矢理中に入り、田西の絵を探す。田西の絵の前には、瓢太をあやす瓢人先生と自分の絵の記事を読んでいる田西がいる。下手くそな絵だと言う第一印象だったが、モデルが語り掛けてくる力強さを絶賛している。安斎は、「おめでとう、自分が探し求め到達できなかったものはこれだ。そして自分が一番恐れていたのは田西お前だ」と言う。筆を折ると言う安斎に、全てを失ったところから、また始めればいいのだ、と言う瓢人。キャンパスの美砂子と彼女の姿が重なっていく。

2009年2月9日月曜日

職安と銀行強盗

   午前中新宿の職安の認定日。職業安定させるのが、おまえ等の仕事だろと心の中で毒づく(苦笑)。失業手当ては施しではなく、二十数年間払い続けてきた失業保険のほんの一部を返して貰っているだけなんだから(笑)。この日の為に、あんたらの給料や、スパウザなんちゃらや私の仕事館やらの莫大な建設費を払ってきたんじゃないかと、あと残り僅かになった支給に思う。デンマークは四年間前職の給料の80だか90%支払われ、職業カウンセラーによる、再就職支援が行われるらしい。官僚自ら職安では仕事が見つからないと思って特別扱いを望んでいるらしいが、彼らも、一度こっち側に並んで見るといいと思う。そうすると、介護や第一次産業など仕事はあるのに、文句だけ言っている失業者たちとは言わないだろう。ここの空気を吸っていると気持ちが荒んで、マルクス的プロレタリアート社会観にリセットされるので、社会的な意義はあるのかもしれない(笑)。
    時間が少し空いたので、赤坂の銀行で先延ばしにしたままだった手続きをする。奇跡的に殆ど待たずに終了。気のせいか月曜午前中でも人が少ない。銀行も閑古鳥がないている感じ。不景気でローン借りる人がいないのか、貸し渋りで借り手がいなくなったのか。独身美人OLに惣菜を差し入れ、元同僚とフィッシュでチキン・キーマカレー。
    何の映画を観ようか悩んだ末、神保町シアター東宝文芸映画の世界
    49年東宝/49年プロ谷口千吉監督『ジャコ万と鉄(68)』。昭和23年北海道、ニシン漁の漁夫として東北から沢山の出稼ぎが集まってくる。網元 九兵衛(進藤栄太郎)の漁場も、その一つ。ケチな九兵衛の娘マサ(清川虹子)も、飯の盛りが多いだの、沢庵を沢山切れば飯の量が増えるだのと賄い婦たちに文句を言っている。娘婿の宗太郎(藤原釜足)が、九兵衛に、賃料が安いので人手が集まらないと言って、どやされている。街に行って流れ者を集めて来いと言う九兵衛。前科者や氏素性の知れないものなど多いので、番屋が仕切れないのではと怯える宗太郎に、俺が仕切るから大丈夫だ、後ろ暗いところのある連中の賃料は、叩けるだけ叩けばいいのだと言う九兵衛。
   しかし、ジャコ万と言う隻眼の荒くれ者が北から九兵衛を追ってきたという噂を聞いて怯えだす。かって、敗戦のドサクサで、樺太から逃げる時に、ジャコ万の姿が見えないのをいいことに、彼の船を盗んで逃げ出したのだ。宗太郎が集めて来た男たちの中に、ジャコ万(月形龍之介)の姿を見つけて驚く九兵衛。そこに海軍に徴用され死んだと言われていた九兵衛の息子の鉄(三船敏郎)が帰ってくる。鉄の母のタカ(英百合子)は大喜びだ。マタギをしているジャコ万は、ライフルを持っているので、強くは言えない九兵衛だが、ジャコ万は何か魂胆があるらしく、毎日酒を飲むだけだ。しかし、何かと鉄は、ジャコ万に立て付いて取っ組み合いの喧嘩ばかりしている。
   ニシン漁は、いつ鰊がやってくるかだ。九兵衛は気がきでなく、朝晩と漁夫を叩き起こして働かせている。人使いが荒いくせに、他の漁場よりも賃料が安く、みな不満が起きている。鉄は、毎週土曜日になると、夜通し犬橇を飛ばして函館に行き、教会のミサに出席している。鉄は、そこでオルガンを弾く少女(久我美子)に思いを寄せている。しかし、声を掛けるわけでもなくオルガンを弾いている姿を眺めているだけだ。鉄は行き帰りに、馬橇に乗る鋭い目を持つ娘ユキ(浜田百合子)に出会う。ユキは、ジャコ万を慕って、函館から通うが相手にされない。ある時は、暴走する馬に牽かれているユキを見つけ、追跡し、助ける。橇の上でユキは縄で縛られている。そうされてもジャコ万を愛しているというユキを見送る鉄。ある夜、番屋の戸を叩くものがいる。鉄がまた街に遊びに行って帰って来たのだろうと戸を開けてやる家族はいない。タカが可哀そうだと戸を開けると、銃を持ったユキがいる。命がけでジャコ万のもとに現れたユキだが、顧みないジャコ万。タカが自分の布団に入れてやる。翌朝帰ってきた鉄は、姉のマサに女中として置いてやってくれと頼む。
   ある日、大時化がやってくる。九兵衛一生のお願いだ。割り増し金を払うので、沖に出て網を引き揚げてくれと漁夫たちを海にやる九兵衛。漁夫たちの命がけの働きで、なんとか網を回収することが出来たが、割り増し金の話などなかったかのような九兵衛の態度に、漁夫たちの不満は爆発する。九兵衛の話には全く信用が置けないというのだ。漁夫たちはストライキを始める。その時大船頭(島田敬一)が鰊がやってきたと言う。30分以内に網を上げないとカズノコが出て、駄目になってしまう。九兵衛は、一生のお願いだと言うが、仏の顔も三度までだと、誰も立ち上がらない。
   その時、身体が弱く九兵衛からは、唯飯食らいだと罵られていた大学(松本光男)が病床から出てきた。ニシンは、九兵衛のものではなく、日本のものだ、日本人の食生活を豊かにするため、日本の漁業を振興するために、鰊を取るのだと言う。一人また一人と立ち上がった時に、ジャコ万がライフルを撃つ。「この時を待っていたのだ。網を上げられなければ九兵衛は悔し涙を流すだろう。自分の船を盗まれ、ソ連に抑留された自分の苦しみを味わえ」と叫ぶジャコ万。鉄は止めに入り格闘になる。しまいに網を切ってやると言うジャコ万に、「そうすれば、九兵衛は悲しむだろう。しかし、鰊が取れなければ、出稼ぎに出た父親や夫の稼ぎを待っている妻や子供に、一文も持って帰れなくなったら、皆が悲しむのだ」と説く鉄。ジャコ万は、隻眼から涙を流した。
   鰊が懸った網を上げる漁夫たち。その中には、鉄もジャコ万もいる。大漁だ。ユキはふと大学の姿が見えないことに気がつく。鰊の山の隅で息絶えている大学。名前も何も自分のことを語らず横文字の本を静かに読んでいることで大学と漁夫たちに呼ばれていた大学。本に一通宛名のない手紙がある。読もうかという鉄に、知られたくないからこそこんな処に流れて来たんだろうから、止めてやれと言うジャコ万。そうだなと言って手紙を囲炉裏にくべる鉄。春が来て、出稼ぎは皆帰っていく。給金を渡す九兵衛。ちゃんと払っただろう、来年も来てくれと頼む。大学の分の給金を懐にいれようとする九兵衛から取り上げる鉄。ジャコ万は、マタギの仕事に戻ろうとしている。大学の墓の前から旅立とうとしているジャコ万に、忘れ物があるぞと言う鉄。そこには、大きな荷物を持ったユキの姿がある。ユキに大学の給金を押し付け、これだけあれば掘立小屋くらい建つだろう。お前が連れて行かないならおれの嫁にすると言う鉄。ジャコ万は何も言わないが、戻ってきてユキの荷物を持つ。嬉しそうにジャコ万の後を追うユキ。
   鉄が身支度をしている。姉夫婦は、長男の鉄がこの仕事を引き継ぐものだと思っていただけに驚く。鉄は、「俺は船乗りだから、クジラを追っかけている方がいいのさ」と言って、後を姉夫婦に託して去っていく。鉄は協会でオルガンを弾く少女を見つめて笑顔になり、函館の街を歩いて行く。
    62年東京映画堀川弘通監督『娘と私(69)』。
    雨の中、ホテルには招待客が次々と訪れる。なかなか現れない新婦と新婦の父親に苛立つ叔母の北川キヨ(杉村春子)は「志郎さんは、こういうところ心配だから」とやきもきしているところに現れる2人。新婦の父で小説家の岩谷志郎(山村聡)を新聞記者たちが囲む。花嫁の父の感想を聞かれ、ようやく解放された感じだよと答える岩谷。窓の外の雨を見ながら回想する岩谷。
   貧乏作家の岩谷は、フランスでエレーヌ(フランソワーズ・モレシャン)と恋に落ち、小さな田舎町で結婚、日本に連れて帰国する。
  大正14年8月26日、雨が降る夜、麻理が生まれる。しかし、6年後、エレーヌは身体を壊し一次帰国することになった。幼い娘を育てる為にも、中野の叔母(杉村春子)に同居する。アイの子とからかう男の子を泥だらけで馬乗りになって喧嘩をする麻理(小橋玲子)。就職も決まらず、子育てとの両立に疲れた岩谷は8歳になった麻理を、寄宿舎のある白薔薇学院にいれることにする。入舎の前夜、麻理は、寂しくないかという岩谷に、へっちゃらさーと明るく答える。しかし、ママがやってきて、自分を笑顔で見つめている夢を見たと言う。
  娘を寄宿舎に入れたことで、肩の荷が降りた気がし、精力的に仕事を始める。しかし、ある日、フランスから手紙が届き、エレーヌが10月15日に死去したことを知る岩谷。岩谷は麻理を連れて遊園地に出かける。遊具に乗りはしゃぐ麻理。ガルガンチュアという孤独な巨人の逸話を話す岩谷。結局その日、エレーヌの死を伝えられないまま寄宿舎に送り届ける。
   ある日、岩谷は友人の作家渡辺(小沢栄太郎)と酒を飲む。渡辺は処女作を出版していた。取り残された気分に酔い帰宅すると、麻理が肺炎で重体だと言う。慌てて寄宿舎に向かうと医師は非常に深刻な状態で絶対安静だと言う。しかし、修道女のリシェール(ジャンヌ・キャランドロウ)は、他の生徒にうつるといけないので、入院させろと言う。怒りに震えて、寄宿舎に入れたのは間違いだったと、麻理を抱き抱え運ぶ岩谷。入院しても厳しい容態が続く。リシェールがやってきて、静かに聖書を読みながら看病をする。岩谷も介護婦が疲れ果て眠ってしまった時も、不眠不休のリシェール。静かに岩谷を起こし、熱が下がってきたと体温計を示すリシェール。リシェールは、麻理は、ママの死に耐え、毎朝教会で祈りを捧げていますよという。岩谷が言えなかった大切なことを、リシェールは伝えてくれたのだ。それが私の仕事だと言い、もう大丈夫、仕事が待っていると学園に帰っていくリシェール、。心から彼女に感謝する岩谷。
  麻理の病気は、皮肉なことに、岩谷に生きる勇気を与え、仕事も徐々に安定していく。翌年の夏、雑誌の連載小説を書いている岩谷。叔母のきよが、連日のように見合い話を持ってくる。麻理に母親は必要だと思いながらも気が進まない岩谷。しかし、ある日強引にきよが自宅に呼んできた千鶴子(原節子)には、好感を持つ。千鶴子は夫と死に別れた物静かな佇まいの女性だ。11月4日ささやかな式を挙げ、雑司ヶ谷の貸家に一家三人で暮らすことに。
  麻理と千鶴子はすぐに親しくなる。一緒に遊ぶ二人を見てきよは、「麻理は不思議な子だねえ。小さい時から人に揉まれて苦労してきたからかねえ」と言う。しかし、徐々に千鶴子にはストレスが溜まる。原稿を遅くまで書いている岩谷に付き合って翌朝寝坊した千鶴子が謝っても麻理はぐずっている。学校まで一緒に行って先生に謝るという千鶴子に、甘やかすなと言って、麻理を叩いて学校に行かせる岩谷。遅くまで付き合わなくていいと気遣ったつもりの岩谷だが、夫婦の寝室は別々になる。麻理は一生大事にするので、岩谷の子供を産みたいという千鶴子に、自分は子供を作らないつもりだと言う岩谷。
   翌年正月、岩谷と麻理は外出し、駄菓子を買って帰ると、「菓子なんて私が買うのに」と泣き出す。怒った岩谷は駄菓子を庭に叩きつける。何か不満があるなら言ってくれと問い詰める岩谷に、「私みたいな馬鹿な女は、田舎に帰ってほうがいいのです」とい言いだし、家を出て行ってしまう。置き手紙に、寝室がずっと別なことの哀しさをウィットに富んだ書き方で書いてある。笑い始める岩谷。数日後、千鶴子が帰ってくる。一転して明るくなった千鶴子に、初めて女を感じる岩谷。しかし千鶴子は友人の夫の産婦人科医に診断してもらうと、不妊症だと診断され、ふっきれたと明るく言う千鶴子。
   女学生に成長した麻理(星由里子)の姿がある。女友達を家に招き、誕生日だ。岩谷も千鶴子も追い出されて苦笑する。そんな明るい日々は、しかしその年の12月8日に太平洋戦争が起きたことで、急速に暗い影が覆う。リシェールがフランスに帰国する挨拶にやってくる。自分の聖書を麻理に渡すリシェール。小説家は、いちいち情報省に行って、事前検閲を受けなければ書くことも出来ない。世渡りの上手い渡辺は、戦意高揚のための従軍作家になっているらしい。ある日、岩谷のもとを刑事がやってくる。千鶴子に勧められて始めた習い事をサボって、無届集会で取調べ中の教師アンリー・ユゲットというフランス人の元に通っていると言うのだ。ちゃんとしたフランス語を習いたかったという麻理に、こういうご時世だから行動を慎め、フランス語が習いたいのであれば、自分が紹介してやると言う岩谷。日仏混血の麻理を守ろうと強く思う岩谷と千鶴子。近所の防空訓練に、弱い心臓を酷使して参加する千鶴子は倒れてしまう。警戒警報が鳴り自宅の防空壕に三人で潜んでいると、庭で飼っていた鶏が、銃撃されるのを見て、疎開を決意する岩谷。四国愛媛の千鶴子の実家しか頼るところは無い。しかし東京を離れても、恐怖と食糧難から解放されることはない。
    暑い夏の盛りに、買出しに出かけた三人が歩いていると、老人(東野英治郎)が、彼岸花に囲まれて座っている。沢山の人が死ぬとこの花は咲き誇る。だから極道花と言うんじゃ。あんたたちは敗戦の放送を聞いとらんのかと言う。戦争は終わったのだ。終戦となって1年が経っても、岩谷は、義父(三津田健)と、毎日釣りをしている。そこに古くからの友人の編集者の植村(松村達雄)が、はるばる東京から書き始めないかといいにやってくる。渡辺は、エログロ小説を書いて売れっ子らしい。まだ、書く気にはなれないという岩谷。書斎には、疎開してきた時のまま、蔵書は解かれないまま積み上げてある。いつものように釣りから帰宅すると、書斎が片付いている。麻理と千鶴子が、一日掛けて大掃除したのだ。物を書かないのかという麻理に、不本意でも戦争に協力した文章を書いていた自分は、文章を書くことしか自分には出来なくとも、戦争に負けてすぐに宗旨替えをすることはできないと言うのだ。
   しばらく後、麻理は東京に出て学びたいという。アテネフランスも再開しており、植村の所に下宿して通いたいと言うのだ。麻理は東京に旅立った。一人娘の上京を心配して落ち着かない岩谷。ようやく麻理から電報が届く。「ブジツイタ。イイイエミツケタ」驚く岩谷に、一緒に上京しましょうという千鶴子。思いがけず、しばらく実父と暮らせたので、幸せな疎開暮らしだったという千鶴子。終戦から1年廃墟となった東京の復興を進めるスピードは、岩谷の文学的好奇心を刺激した。書き上げた原稿を読む植村。こんな短期間でまとめた割に出来はいいと言う。復活の手ごたえを感じる岩谷。
   麻理は22歳になっている。大学の友人たちと、岩谷の書斎から原書を探して、読書会などをしている。ようやく、小田原に家を買うことになり、千鶴子は内装に張り切っている。その日も麻理と一緒に下見に出かける。一方、岩谷は、自作の文学賞の受賞パーティに向かう。植村に祝福されているところに、渡辺が現れる。本を読んで嫉妬したと告白する渡辺。岩谷の長い屈託は、ようやく解消される。ホテルに麻理から電話が入る。急に千鶴子が倒れ、危篤状態だと言う。駆け付けた岩谷に医師は。脳血栓だと告げる。結局その夜千鶴子は亡くなった。海に向かって慟哭する岩谷。
   千鶴子があれだけ楽しみしにていた海辺の家に引っ越す。腑抜けのようになり、朝麻理が外出すると酒を飲み海を眺めている岩谷。フランスからエレーネの弟のフランソワから手紙が届く。フランスに行きたいと言いだす麻理。お嫁にいかずにフランスに行くのかという岩谷に、お嫁に行ってフランスに行くことになるかもしれないと言い、一人の男に会ってみてほしいという麻理。
   外務省の研修所にいる鍋島直樹(?)という男を連れてくる麻理。庭でキャッチボールをしながら、あまり小説は読まないという鍋島に、自分の小説は読んだ事はあるかと聞くと、今度読んだが、あまりピンと来なかったと正直に答える。鍋島がフランスに書記官として赴任する日が急に決まる。慌ただしく結婚式をすることになる。挙式の前夜、千鶴子は、岩谷の部屋で眠りたいと言う。もう、麻理が自分でさいころを振ったのだから、自分は心配しないと言う岩谷。さいころを振りそこなってもベソをかくな、自分と千鶴子だって、14年かかって初めて本当の夫婦の幸せを共有することが出来たのだからと娘に話す。
   式を終え、フランスに発った麻理。小田原の家で、女中から郵便物が渡される。麻理からは相変わらず、無事に着いたという便りがない。あいつは!!と麻理を心配している自分に気が付き、もう心配しなくてもよくなったのだと考えなおす岩谷。
   16歳から24歳までの麻理を演じる星由里子が、本当に美しい。華やかな岡田茉莉子とは、また違った日本人離れした涼しげに整った顔。やばい、またおっかけたくなる女優が増えてしまった。
    47年東宝谷口千吉監督『銀嶺の果て(70)』。
    3人組の銀行強盗が、長野に逃げ、冬の北アルプスに潜伏した。新聞記者が警察で話を聞いている。鹿の湯温泉方面の電話線が切断された痕跡があり、そちらに向かった可能性が高い。鹿の湯通りは一本道で、冬山を越えることはかなり熟練した登山家でなければ不可能なので袋の鼠だと言う署長(深見泰三)。とりあえず捜索隊を組んで鹿の湯温泉に向かう。鹿の湯温泉に泊まり客は、10人以上で、酒を持って登ってきた団体客(花沢徳衛)と、二人連れの学生(石田鉱、笹井利夫)。そこに人相の悪い3人組がやってくる。宿のラジオも、銀行強盗の報道がされて直ぐに真空管を盗まれ配線が切断された。電話も不通になっている。
     学生の一人は探偵小説ファンで、3人組が強盗犯だと言う証拠を見つけてやると張り切る。3人組の1人は、小指と薬指がないとラジオで聞いたので、彼らが温泉に行くのを部屋から見張ることにする。2人が温泉に行ったが指は揃っている。最後の男が行く前に2人は先回りすることにする。しかし用心深いその男は普段は手袋を必ず嵌め、温泉でも手拭いで巧妙に左手を隠している。大胆にも学生の1人が手拭いに引っかかったふりをして確認する。学生は、得意のスキーで下山し通報しようとスキー靴を履いているところを拳銃を突き付けられる。宿のものと学生を縛り上げた上、宴会の男たちの服を脱がせた。犬の吠える声がする。
   しばらく後、やってきた警官隊は、露天風呂に入っている集団を見つける。男たちは、服を剥がれたので風呂に浸かって助けを待っていた。銃を持った3人の男たちは、犬の吠える声に逃走したと言う。男たちは、更に山を登った営林所の山小屋に逃げ込む。男たちは、リーダー格の野尻(志村喬)、一番年配の高杉(小杉義男)若くギラギラとした野獣のような目を持つ江島(三船敏郎)の3人。今自首すれば何年食らうだろうと言い出し、江島にジジイいい加減にしろとどやされている高杉。
      とりあえず金を分けようと、野尻が札束を配る。3人組と報道されているので、早く別れたほうがいいと言い出す江島に、体力に自信のない高杉は、一緒に動こうと言う。もともと、ほとぼりが冷めるまで、温泉でひと冬ゆっくり温泉に連れて来たお前のせいだと、高杉を罵る江島。いい加減にしねえかと野尻が言った時、犬の声がして、再び夜の雪山を登り始める男たち。徐々に高杉は遅れだす。しばらくすると高杉と追っ手の先頭にいる犬との差は詰まってきた。恐怖のあまり犬を撃つ高杉。しかし銃声は雪崩を引き起こした。必死に逃げる野尻と江島、また警官隊と新聞記者たち。結局高杉は雪崩に巻き込まれ、行方不明になる。
     当てのない逃走に疲労困憊した野尻と江島は、明け方スキーの跡を見つける。それを辿る2人。行く手にヒュッテがある。その小屋を守っているのは老人(高堂国典)と孫娘の春坊(若山セツ子)。その時には、登山家の本田(河野秋武)が逗留していた。純真なハル坊と接する内に、生きていれば同じ位の娘がいた野尻は、癒やされ次第に人間的な感情を取り戻していく。江島は、いつ追っ手がくるのか不安で、ハル坊が大切に飼っていた伝書鳩を殺してしまう。早く山を越えて逃げようと言う江島に、老人は無理だと言っているので、焦るなと言う。しかし、イラつく江島。
    本田とハル坊は蓄音機をかける。流れる曲に心を打たれる。曲名を尋ねると「オールド・ケンタッキー・ホーム」だ。西洋も日本も人情は一緒だと聞きほれていると江島は、湿っぽいこんな音楽を掛けるなと怒鳴る。慌てて蓄音機を仕舞うハル坊。
     朝焼けの空を見ている本田。ローゼン・モルゲン。薔薇色の朝。この景色に魅せられ山に登っているのだと言う本田。しかし、そんな本田に拳銃を突きつけ、山越えの案内を強要する江島。断れば春坊たちをどうにかすると脅され、翌日早朝、本田、野尻、江島は山小屋を出発する。本田は3人を縄で結び慎重に登っていく。雪渓、岩場、徐々に難しくなって行く。垂直にそそり立つ岩場で、野尻は足を滑らせ、野尻と江島は絶壁に宙吊りになる。やっとの思いで野尻が這い上がると、必死で縄をよじ登るとら縄を止めるために、身を投げ出したことから左腕を骨折していた。頂上まで来たので、邪魔になった本田を置いて行くと言う江島と野尻はもみ合いになる。拳銃の暴発で銃弾は本田の足を貫通し更に深刻な状態だ。江島は野尻の金を奪い、絶壁から突き落とそうとする。しかし2人は一緒に落下する。1人逃げようと縄を解いていた江島は行方知らずに、2人の落下を薄れる意識の中で、縄の確保をした本田により、野尻は墜落を免れる。
      必死に上がってきた野尻は失神している本田を見つける。そこから野尻の闘いが始まった。本田を背負い、本田にロープの扱いを教わりながら絶壁を下り、雪の中を戻り始める。終いには手を凍傷でやられ、暗い中を山小屋に辿り着く。そこで待ち受ける警官隊に逮捕される。応急処置をされた本田に、何でロープを切らなかったんだと尋ねる野尻。山では、ロープで繋がった人間同士は自分の命を捨てても相手を助けるのが掟なんですと答える本田。野尻は、ハル坊に十徳ナイフを渡す。ハル坊はお爺ちゃんがおじさんは悪い人じゃないと言っていたと言う。微笑む野尻。警官隊に連れられ山を下っていく野尻。本田がハル坊レコードをかけるんだと言う。慌ててオールド・ケンタッキー・ホームをかけるハル坊。穏やかな表情になる野尻。
   銀座シネパトスで、燃やせ!俺たちの70'sジャパニーズ・グラインドハウス魂!。   
   76年東映京都深作欣二監督『爆走パニック大激突(71)』
   名古屋の銀行を白昼堂々と、覆面をかぶった2人の拳銃強盗が現れる。彼らは、大津、京都と同じ荒っぽい手口で成功させた。2人は山中タカシ(渡瀬恒彦)と関光夫(小林稔持)。神戸の第一勧銀三宮支店を下見する。これを成功させて2人はブラジルに逃げる計画だ。店舗に入り、トイレで変装し拳銃を撃って逃走する。鮮やかに決まったかに見えたが、関が車にはねられ死んだことから計画は崩れ始める。関の死体は身元が割れる。更に山中がバーテンをしている店に飛び込んできて、アパートに居着いた娘緑川ミチ(杉本美樹)と別れがたくなっていることが事態を複雑にする。アパートに関の兄と称する男(室田日出男)が現れ、関の香典を寄越せと襲いかかる。何とか逃れるが、ちょうど警官の秦野(川谷拓三)が運転をするパトカーと遭遇し、警官一人が亡くなった。ミチを乗せ逃走する山中。犯人の顔はと周り中から詰問され舞い上がる秦野。そこに秦野の同期だが出世頭でやり手刑事の新田(曽根将之)が、指紋から山中が銀行強盗の片割れだと断定し、指名手配される。テレビのニュース番組で名前と顔が流れる。山中はミチに、別れようと言う。しかし付いて来ようとするミチを捨てられない山中。・・・・・。

2009年2月8日日曜日

男と女の間には、深くて暗い河がある。(黒の舟歌)

   新宿武蔵野館、独身美人OLと偽装夫婦50歳割引で、キム・ギドク監督『悲夢(67)』
    印章彫刻師ジン(オダギリジョー)は、別れた恋人の車を追う途中、横から飛び出してきた車に激突する。運転手が怪我をして車から這い出してきたが、恋人が気になり、車を出す。しかし次の信号で歩行者を轢きそうになり急ブレーキを踏んだところで夢から覚めた。しかし、余りにリアリティのある夢に、車で事故現場に行ってみると、実際怪我人が救急車で運ばれるところだった。警官が監視カメラの画像のチェックを指示している。轢き逃げ犯の車が判り、発進するパトカーをつけるジン。イ・ラン(イ・ナヨン)の家の前に事故車が止まっている。警官たちは、家で寝ていたランを叩き起こし、連行する。今まで、ずっと寝ていたと言っても、車の破損と、監視カメラに写った運転するランの姿は、動かぬ証拠だと警官は言う。しかし、警察まで、付いて来たジンが、自分がやったのだと言い張り、次の信号での急停車の事実を証言し、警察も判断に困る。ランは夢遊病の治療を受けていた。心理療法士は、ジンの見ている通りにランが行動していると判断し、被害者との示談を勧め、ジンが車の修理など手配をした。
    しかし、それ以降も、ジンの夢とランの夢遊病は続いた。夢の中で、ジンの元カノ(パク・チア)は、現在ランの元カレ(キム・テヒョン)と付き合っている。ジンは彼女のことを忘れられず、ランは嫉妬心の激しい男を嫌悪している。しかし、ランの気持ちと正反対に、彼女に会いたいジンの夢に操られ男の所に行ってしまう。ジンは彼女と愛し合っている夢を見ている。目を覚ましたジンが見たのは、憎んでいる男に抱かれに行ってしまったことをしり、嘆き悲しむランの姿だった。
   ジンとランは、徐々にお互いの想いを共有し、交互に眠ろうとする。しかし、二人の距離は近付いても、ジンの見る夢はエスカレートし、二人を苦しめるのだ。ジンは、ランを手錠で繋ぐが、ある時、ジンは寝てしまい、ランは男を殺害してしまう。ランは、精神病棟に収監される。同室は、かってジンの愛した女だ。ジンは逮捕される前のランに、自分は眠らないと約束した通り、自ら足を金槌で殴り、頭をナイフで刺し、睡魔と闘い続ける。しかし、ランに面会するジンは日々憔悴する。ランは、鉄格子越しにジンの手を握る。ジンが、橋を歩いている。途中身を投げるジン。凍った河に激突するジン。ランは、シーツを綯い、同室の女に笑顔を見せる。女は頷き、壁際に四つん這いになって、ランの台となる。ランはシーツを結び首を括った。ランが結んだシーツに蝶が止まっている。蝶は、病室の外に飛び立つ。凍った河に倒れているジンの頬に留まる蝶。ジンの頬から手に移る蝶。ジンの手としっかりと結ばれているランの手。
   オダギリジョーは日本語を、他のキャストは韓国語を喋る。なかなか卓越なアイディアだが、違和感は残る。むしろ、オダギリジョーの台詞が、こんなこと武田鉄矢しか言わないだろと突っ込みたくなる感じだ(苦笑)。イ・ナヨンいい!!!。オダギリジョーの元カノ役のパク・チア途中からすっぴんになり、最後はランと精神病棟で同室。加害者と被害者同室どうなんだ?と思いつつ、すっぴん精神病みのパク・チアには、いくらオダジョーだって、百年の恋も冷めるだろーという捨て身の役作り。
   途中、オダジョーの自損シーンの激しさに、出ていく女性もいたりして、やっぱりキム・ギドク(苦笑)。
   地元シンポで同居人と飲む。途中から日本酒止まらなくなり、酒は溢すし、箸は落とすし、金は払うし。