2009年2月11日水曜日

お化け煙突ってあったなあ。

  昼は、父親の78歳の誕生日で会食。この年になって、ようやくこういう世間並みのことに恥ずかしくなくなった気がする。50になった不肖の息子だから遅すぎることこの上ない(苦笑)。
    六本木に出て、シネマート六本木で新東宝大全集
    53年新東宝/スタジオ8五所平之助監督『煙突の見える場所(75)』
   北千住に見る場所によって4本にも3本、2本、1本にも見える、おばけ煙突と呼ばれている煙突がある。日本橋の問屋に勤める緒方隆吉(上原謙)は、荒川沿いの2階建ての借家に妻の弘子(田中絹代)と住み、2階の2部屋を役所で税金の取り立て係をする久保健三(芥川比呂志)と、上野の商店街の街頭放送でアナウンス嬢をしている東仙子(高峰秀子)に格安で貸している。大家は隣家に住む梅干し法華婆さん。その隣は7人の子沢山の北ラジオ商会だ。妻の弘子は終戦前の空襲で夫を亡くした戦災未亡人で、3年前に結婚。貧しいながら夫婦仲はいい。緒方と弘子がキスをしているところに仙子が帰ってくる。仙子は、見られる方も困るだろうが、見ている方がもっと困ると健三に言う。襖一枚しか隔てていない二間だが、健三の書いた「仙子さんに気を取られずに、勉強に専心せよ」という貼り紙を見て微笑み、割と上手い字ねと言う仙子。これでも役所での毛筆は僕が頼まれるんですと自慢する健三だが、
んたも出世しないわねと返されてしまう。税金の滞納者の取り立て先で買った鯛焼きを仙子に渡す健三。
   弘子は、夫に内緒で競艇場の車券の立ち売りのアルバイトをしていて、緒方の勤め先の川村に会ってしまう。お互いに緒方には黙っていようと話す。ある日、緒方が帰宅すると、弘子が外出している。仙子に聞くと医者に行くと言って出たと言う。懐妊したのかと、帰宅した弘子に尋ねると、歯医者だと言う。痛み止めの薬を取ってあげようと言って弘子のカバンを探すと、緒方名の預金通帳がある。自分に内緒でアルバイトをしていたことで、少なからずショックを受ける緒方。
   ある日、競輪場の仕事を紹介してくれた野島加代子(浦辺粂子)が、弘子の住所を聞いている40歳位の赤ん坊をおぶった男がいたので、用心した方がいいと教えてくれる。その日も、捨て子の場内放送が競輪場であるような時代である。川向こうに肉屋が開店セールをやっていて、肉を買いにいくと、健三に会う。そこから見た煙突は2本である。
    帰宅すると赤ん坊が泣いている。先に帰っていた緒方も、弘子が預かったのかと思っていた。交番に届けようとすると、塚原忠次郎(田中春男)と名前がある手紙を見つける。塚原は弘子の死んだ筈の前夫の名前だ。中には、「これは重子と言い、弘子の子供だ。証拠に戸籍謄本を添付する」と書いてある。確かに、夫が塚原忠次郎、妻弘子、娘重子とある。緒方は混乱し、君は僕を騙していたのかと言いながら、家に2人の戸籍謄本があったことを思い出す。比べて見ても、どちらも正式なものだ。緒方が六法全書を括ると、刑法184条重婚罪だ。お前が悪いんだ、あたしを責めるのと2人は言い争いになる。赤ん坊は火のついたように泣き続けている。泣き声に、ラジオ屋の亭主が家を覗く。とりあえずミルクを買いに行く弘子。隣の法華婆は、不信心な緒方家に神様が忠告しに来たのだと夫(浜村純)言って念仏を唱える。
   重子は夜泣きが酷く、皆完全に寝不足だ。特に緒方はことあるごとに弘子を責め立てる。ただ共に眠れない健三と仙子の距離は近付いて行く。ある日、一晩子守をし続けて、ノイローゼのようになった弘子が、家を出ると言って亡霊のように歩いていく。緒方、健三、仙子が追うと、川に入っていく。必死に引き止めると、我に返って泣き出す弘子。健三は、仕事を休んでも塚原を探し出すと言ってしまう。
    塚原の本籍地から転居先を訪ねて歩く健三。なかなか見つからない。疲れ果てて戻ってくると、弘子と顔を合わせたくないのでパチンコをしているんですと景品の山を持った緒方に会い、こんな無意味なことを引き受けるんじゃなかったと仙子に愚痴る健三。しかし無意味なことは無いと言われて再び探し始める。
   苦労の末、ようやく塚原に会う。塚原は、子供と自分を捨てて出て行った妻の勝子(花井蘭子)に、子供を引き取るように言ってくれないかと言う。小料理屋で働く勝子に会うと、だらしなくて最低の塚原に騙されて暮すようになり、生みたくない子を妊娠し、中絶費用さえ競輪につぎこんでしまうような男の子は嫌なのだと言う。帰宅した健三は、仙子に、赤ん坊の両親は見つかったが、最低の親だ、あんな親に返しても子供が幸せになるとは思えないと言う。あなたは、裁判官のようにこの人間は駄目だとか言っているが、そんなことはないと言う。
   しかし、その時、重子は高熱を出していた。緒方が連れてきた医者は、自分の子供をこんなになるまで放置しておく二人には、親の資格はないと言う。医者としての良心の限りの治療はしたが、もう手遅れだと言われる。弱っていく重子を前に、呆然としている緒方と弘子。仙子に聞かれて、もう手遅れだと医者からも見放された可哀そうな子だと言う二人に、仙子は怒りだす。この子が一生懸命病気と闘っているのだから、できる限りのことをするべきだと言い、健三に氷を買いに行かせ、自分は、別の医者を探しに行く。
   翌朝、うたた寝をしている弘子は、重子の熱が下がっていることに気がつく。隣で寝ていた緒方も、泣き始めた重子を見て安心する。そこに客がある。重子の母親の勝子が、子供を返してもらいに来たのだ。看病しているうちに、愛着がわいてきた緒方と弘子は、健三から聞いていた塚原と勝子の話では自分の子供ではないと言ったそうだがと言う。重子を置いて家を出れば、心を改めるかと思ったが、塚原は前妻の所に捨て子をするような最悪な男だ。嫌いな男の欲しくもなかった子供でも、愛してしまう女の悲しみは分かるかと言う勝子。結局、勝子に子供を返すことにする。緒方と弘子の間に平穏が戻った。また、健三と仙子は結婚し、二階で一緒に住むと言う。家賃を下げてあげようと話し合う緒方と弘子。
   お化け煙突のように、物事はいろいろな角度で見え方が変わってくるということだろう。個人的には、花井蘭子の、「女の一生」での京都の芸妓上がりの妾、「細雪」の本家を継いだ長女、「生きている画像」の貧乏画家を支える妻、この映画でのたくましく生きる貧しく品がない酌婦、という全く異なる4つの顔がインパクト大だ。この映画では、健三と塚原を前に啖呵を切るところと、子供を取りに行ったが、追い返され、片足の鼻緒が切れて、怒りながら土手を歩いて行く姿が素晴らしい。
   銀座シネパトスで、燃やせ!俺たちの70'sジャパニーズ・グラインドハウス魂!
   69年日活長谷部安春監督『野獣を消せ76)』
   大型の米軍軍用輸送機がひっきりなしに離着陸する基地の街、ジープとバイクの男たちが、一人の娘を追いかけている。獲物を狩ることを楽しむ獣のように。娘を殴り気絶させ、暴行する男たち。笑いながら去る男たち。涙をこらえ、コーラの瓶を叩きつけて割り、手首を切り自殺する娘。米兵と、舶来ウイスキーの横流しをしている男たち。
   羽田空港にライフルを抱えた男が降り立つ。入国審査で、プロハンターですねと聞かれる。男の名は浅井徹也(渡哲也)。基地のある街に戻ってきた。伯父の小野田信造(鶴丸睦彦)が経営するオノダモータースの二階。レイプされ自殺した妹の里子(吉岡まり)と自分が写った写真を見ている徹也。犯人たちは捕まっていないのかと尋ねる徹也に、この街では、女を回すような奴らは、アメ公から不良たちまでいくらでもいるからと言う信造。ひどい街だ、昔と少しも変わっていないと呟く徹也。タロウ(ケン・サンダース)は、徹也のバイクをずっと手入れをしてくれていたらしい。バイクで街を流す。里子が死んだ現場に行き、ライフルを出す。銃声がしてコカコーラの古い看板が倒れる。
   不良たちの溜まり場に、緑と白のシトロエンが止まり、同色の服をきた山室恭子(藤本三重子)が降りる。店に入りコーラを注文する。不良たちに絡まれる。そこに徹也が現れ、逃がしてやる。ライフルの射撃場に行く徹也に恭子はついてくる。バーにいる二人。徹也は、ずっとアラスカの雪と氷の中で独り、トナカイなどの動物の個体数の調整などのためにハンターをしていたと言う。厭な結婚を強いる父親に反発して家出をしてきたという恭子。
   不良たちが、その店の裏口から入ってくる。リーダーの矢田(藤竜也)とその情婦マリ(集三枝子)、黒い革の上下の佐土(川地民夫)、ナイフを出す野呂(尾藤イサオ)、マル(鈴木俊夫)ビル(山野俊夫)。支配人(長弘)を暴行し、米軍横流しのウィスキーを高額で売りつける。店に出て、それまでジャズを演奏していたバンドに合図を出し、R&Bに切り替えさせるマル。マリは音楽に合わせ踊りだし、革ジャンを脱ぎ、上半身裸になる。カウンターに座るマリに中年の客(玉村駿太郎)が声を掛けてくる。野呂、マル、佐土は、取り囲み、財布を取り上げる。矢田と佐土が、徹也と恭子がいることに気がつく。絡んでくる野呂を叩きのめし、恭子を逃がす。オノダ・モータースに戻り、恭子には家に帰れと言う。夜更け恭子の車は消えている。徹也とタロウは気になり探しに出かける。
  恭子は、閉店しているガソリンスタンドで、無理に給油しようとクラクションを鳴らす。しかし、集まってきたのは、矢田たちだ。徹也たちは、恭子のシトロエンを捨てようとしている給油所の親父を見つける。矢田たちに命じられただけで何も知らないと言う。矢田たちのアジトに連れ込まれた恭子は、父親への復讐で、自分の父親は大室剛平(清水将夫)という大物代議士なので、身代金を取ったらどうだと言う。徹也は矢田たちのアジトを突き止め、ライフルを持って乗り込む。しかし、恭子の首にナイフを突き付けられているのを見て銃を捨てる。
  大室剛平に1時間以内に1000万を用意しろという脅迫電話をする。警察にも通報し、逆探知もし、警官たちが見張る中、トランシーバーを渡して、金の強奪に成功する矢田たち。しかし、アジトに戻ってきた矢田たちは、鞄に入っていたのは、囮の10万円だけで、残りは古新聞だった。お前の親父は、娘の値段を10万と付けたのだと言って、子分達に暴行させる。その後、酒盛りを始める矢田たち。明け方、付近を自転車でパトロールしていた警官が、矢田たちの車やバイクを見つける。アジトのドアを叩く警官。野呂はナイフで警官を刺殺する。マリに徹也と恭子を見張らせ、矢田たちは、警官の死体と自転車を埋めに行く。スキをついて、マリを気絶させ、逃走する徹也と恭子。
   オノダモータースに戻り、徹也は、武器を自作している。あいつらは野獣なんだから、関わらないほうがいいという伯父に、「おじさん、俺の獲物は獣なんだぜ」という徹也。恭子はシャワーを浴びている。恭子に眠って全てを忘れてしまえという徹也。何もかも忘れたいので私を抱いてという恭子。翌朝、一緒に連れて行ってほしいという恭子を連れ、矢田たちのアジトに向かう。
   矢田たちは、完全武装をしている。徹也のライフルの音に色めき立つ矢田たち。野呂とマルとビルを表に誘き出す。ビルは徹也が仕掛けた罠に足を挟まれる。野呂とマルは慌てて、小屋の中に戻るが、野呂が乱射したピストルでマルは射殺される。野呂を確実に仕留める徹也。外に置いてあった佐土のバイクが燃え上がる。罠だという矢田にかまわず興奮して外に走り出る佐土。一発で倒される。マリは泣き続け、矢田を苛立たせる。矢田は、マリを引きずってジープに乗り、アジトの小屋に突っ込もうとする、その際、罠にはまって動けなくなっていたビルを轢き殺す。運転席の矢田の額を打ち抜く。そのまま暴走し。突っ込んだジープの客席で動かない矢田とマリ。
   小屋から這い出てきた徹也とマリ。そこに米軍のMPがサイレンを鳴らしやってくる。ライフを上げ投降する徹也。私は、父のもとに帰って闘うわと言う恭子。
   高校時代に見たときには、非常に興奮して長谷部安春は、日活アクションの正しい承継者だと思ったきがするが、改めて見ると、やはり69年の邦画界の敗戦濃厚な時代を反映してアラが目立つ。脚本のブラッシュアップが足りない上に、代議士令嬢のはずの、藤本三重子どうも安っぽい。川地民夫、尾藤イサオたちは、不良少年というには、少し若さ足りなくなっているんじゃないか(苦笑)。藤竜也は、かっこいいんだけど・・・。ストーリー、キャスト60年前後の蔵原惟膳監督とかのノアール作品に比べると、制作現場の金と時間の制約大きくなっていたのかと痛感する。あと音楽も!!。もったいないなあ。

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