2009年8月21日金曜日

後の祭り

   久し振りにスーツ姿で元の会社へ行き、その後神谷町で、打合せ2件。
    渋谷に寄り、代々幡斎場。彼からは、7月入ってから、ライブの相談を度々受けていた。ちゃんと答えられていたか、今は分からない。切ない。元の会社の何人かと飲み、帰る途中に、彼に繋いでいたバンドのリーダーがら携帯に電話貰う。彼もショックを受けていた。何か出来ることは無かったのかと、あれころ考えても、今更詮無いことだが、手伝わせたいことがあったのに、その我が儘を遠慮して、次に会った時に相談したいことがあると、先延ばしにしてしまったことは痛恨でしかない。今日が、彼の誕生日なのは、どういう意味なのか。自分と同じ、両親と妹という家族構成。親不孝な兄ちゃん。

2009年8月20日木曜日

昭和の黒い陰

  池袋新文芸坐で、世界/戦争/歴史 そして追悼の八月

   81年松竹/俳優座熊井啓監督『日本の熱い日々 謀殺・下山事件(481)』
   1949年昭和24年占領下、労働運動は高揚してピークを迎えていたが、東西冷戦が始まり、アメリカからのドッジラインの指令もあり、国労10万人の首切り案など、労使の対決ムードは高まっていた。7月4日国鉄の下山総裁は第一次の人員整理案として3万7百人の名簿を発表した。それに対する国労のストライキにシベリア帰りの復員兵が合流して、上野駅が人民大会のようになっている現場を取材する昭和日報社会部の遊軍記者矢代(仲代達矢)は、社に電話をすると、下山総裁が行方不明になっているとの話を聞く。
    翌7月6日、深夜に轢断死体が見つかる。官房長官(仲谷昇)は、直ぐに左翼分子によるテロの疑いを発表する。現場を見た監察医の磯島医師が自殺と推定したにも関わらず、政治的な色彩の強い政府談話だった。しかし、遺体を解剖した東大法医学教室の主任教授の波多野(松本克平)は、轢断跡に生命反応が全く無く他殺の可能性を示唆した。しかし、解剖結果を見て、慶応大学法医学教室舘野教授(浜田寅彦)は、自殺との正反対な結論を導き出した。警視庁内部でも、捜査一課は自殺説、捜査二課は他殺説と意見は割れ、マスコミも二分する。矢代はいち早く東大法医学教室に行き鑑定結果を聞き、他殺説を取った。しかし、下山総裁を殺害したのは誰なのか手掛かりはない。事実、亡くなる前日、近辺で下山総裁と全く同じ服装と眼鏡の紳士の目撃証言が17件も出た。近くの旅館では休憩をしたと言う。矢代は若手記者(役所広司)と末吉旅館の女将ふさ(菅井きん)に取材をするが、宿帳は勘弁してくれと言われたとのことで、どうもはっきりしない。その帰り、ホーム立川駅のホームに立っていた矢代を、電車めがけて突き落とす人物がいた。九死に一生を得た矢代は、自分が死んでいたら、下山事件は左翼によるものだと推理し、それで得をするのはと考える。   矢代は再び東大に行き、早く最終結論を発表してくれと頼むが、あらゆる可能性を試しているのだと言われる。しかし、替わりに占領軍のCINと言う組織の現場検証で、列車の進行方向の反対型に下山と同じA型の血痕が見つかったらしいとの情報を得る。矢代は、ルミノール試薬を手に入れる。しかし、7月19日三鷹事件が起きた。社会部長の遠山(中谷一郎)は、矢代に三鷹へ行けと言うが、この血痕を追わせてくれと頼む。三鷹事件は、警察は三鷹と中野電車区の共産党所属の闘争委員長らを逮捕、国労左派と右派は対立、それに乗じた国鉄側により首切りは成功する。
   矢代は、若手記者の小野(橋本功)を連れて、深夜轢断現場に行き、噴霧器でルミノール試薬を撒き、広範囲に血痕があることを発見する。この情報は、他殺説を取る東京地検と捜査二課を勇気付けた。矢代に対して東大法医学教室の特別研究員として、他殺説の検証チームへの参加を要請される。枕木などから採集された血痕の血液型の精密検査に着手する。
大島(山本圭)川田(浅茅陽子)遠山社会部長(中谷一郎)小野(橋本功)伊庭次席検事(神山繁)山岡検事(梅野泰靖)川瀬検事(滝田祐介)奥野警視総監(平幹二朗)波多野法医学教室主任教授(松本克平)丸山(隆大介)堀内(伊藤孝雄)李中漢(井川比佐志)唐沢(大滝秀治)糸賀(小沢栄太郎)下山芳子(岩崎加根子)女将ふさ(菅井きん)

    64年日活熊井啓監督『帝銀事件 死刑囚(482)』
    1948年1月26日月曜日、豊島区の帝国銀行椎名町支店が閉店した15時過ぎ、月曜でもあり精算など大変慌ただしかった。支店長は体調を崩し午後には帰宅、他に5人が欠勤していた。そこに、衛生班という腕章をした男(声は加藤嘉)がやってきて、東京都衛生課、厚生省医学博士の名刺を、小林支店長代理(日野道夫)に出し、近所の伊藤さんの家で集団赤痢が発生したので、GHQのスペンサー中尉と現場に直行、伊藤家の人間がこの銀行に立ち寄ったとの証言があったので、中尉が消毒にくるが、その前に予防薬を飲んでもらうように指示を受けたと言う。
    女行員の正枝(笹森礼子)英子(山本陽子) の二人は、伊藤さんが来店した記憶はなかったが、誰かほかの人に頼んだのかもしれないと言われる。男は行員全員と、住込みの吉岡一家を集め、まず予防薬の液体を下を丸めるように嚥下して、1分後に第2液を飲むように指示し、自分でやってみせた。言われるがまま1液を飲み、次に第2液を飲むが、急に激しい吐き気に襲われ、皆風呂場と台所に言って、水を飲もうとしたが、どんどん倒れ意識を失っていく地獄のような阿鼻叫喚が広がった。正枝が何度も倒れながら、通用口から外に転がり出たことで、事件は発覚した。
   当初、集団感染かと思われたが、現場で取材した昭和新報の新聞記者の武井(内藤武敏)と阿形(井上昭文)は、社会部デスクの大野木(鈴木瑞穂)に殺人事件だと報告した。生存者の男4名女2名は新宿の国際聖母病院に運ばれた。警察、新聞記者、医療関係者、混乱する現場。武井は、白衣を盗み、病室内に潜入する。しかし、青酸化合物を飲まされたらしい患者たちは、悶え苦しんでおり、男2名は亡くなった。
   当初、集団感染とされたことで、事件現場の保存状態は酷いものだった。男が出したとされる名刺もなくなっており、犯人が自ら回収したと推察される。現金16万円と約2万円分の証券が盗まれていた。 
    
昭和新報笠原キャップ(庄司永建)鹿島(木浦祐三)北川(平田大三郎)警視庁キャップ小田(藤岡重慶)平沢貞通(信欽三)志乃(北林谷栄)蓉子(柳川慶子)小林支店長代理()
稲垣刑事部長(平田未喜三)夏堀捜査一課長(小泉郁之助)梨岡一課一係長(伊藤寿章)山藤二係長(高品格)森田東京地検検事(草薙幸二郎)佐伯(佐野浅夫)

  当時のニュース映像を挟み込ながらの展開で、どちらの映画も昭和20年代の日本の熱さをリアルに伝えてくる。熊井啓監督の構築力の素晴らしさだと思う。

   ラピュタ阿佐ヶ谷で、武満徹の映画音楽

    64年大映/昭和映画羽仁進監督『手をつなぐ子ら(483)』
    修学旅行の中高生や、観光客に交じって、社会科見学で奈良を訪れている小学6年生。バスに戻って、松村先生(佐藤英夫)がみんな戻ったなといって声を掛けるとさっき数えた時はみんないたのに、一人足りない。中山寛太(桑原幸夫)がいないのだ。松村先生が探しに行くと、のんびりと地面に絵を描いている寛太。何とか連れてバスに戻る。寛太は、すこしどんくさい。あまり成績もよくないし、ボーッとしていることが多い。
    翌日、先生は、算数のテストをやろうと言う。クラスで一番身体の大きな山田錦三(香西純太)が奇数なのか、偶数なのかという。カンニングを無くすために、半分ずつ教室でやったほうが、覗かれなくていいと言う。先生は、みんな自分自身とカンニングをしないと約束すればいいんじゃないかと言う。

2009年8月19日水曜日

もう一つの日本の悲劇

    ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第48弾】星由里子

    67年宝塚映画丸山誠治監督『父子草(479)』
     遮断機が鳴っている。踏切とガード下に囲まれた場所に小笹と言うおでんの屋台がある。そこで、酔っ払ってご機嫌で民謡を歌う労務者の男(渥美清)がいる。女将(淡路恵子)は、少しうんざりとした顔だ。また遮断機が鳴り出すと男「騒がしいなあ。もっと静かな場所に店出せねえのか」と悪態をつく。「いや、このカンカン言っている音も、日によって、嬉しそうに聞こえたり、悲しそうに消えたりするのよ。」
     一人の若者(石立鉄男)が暖簾をくぐり、隅に腰を下ろす。女将ホッとしたように、「あんたの好きなゼンマイ味染みてるわよ」「じゃあ、ゼンマイと大根」男絡む「五月蝿せえなあ」若者は、ご飯だけを詰めたアルマイトの弁当箱の蓋を開け、おでんをおかずに食べ始める。再び、民謡を歌い始める男。女将仕方なしに「いい歌ですね。」 「おべんちゃらを言うな。若僧どうだ?」若者「聞いたことないからわかりません。」「何だと、俺の故郷を馬鹿にしてんのか?」「どちらなんですか?」「佐渡だ。」「佐渡なら、佐渡おけさなら知っているけど、」「佐渡おけさなんて俗なもんじゃなく、佐渡相川音頭ってえんだ。若僧、酎を一杯やらねえか」「これから仕事何です」「仕事でも何でも俺の酒が飲めねえってえのか」つかみかかるが、若者振り解くと、男よろける。女将、間に入り「西村さんはこれからお仕事なんですよ。もう時間だろ、勘定はつけておくから、もうお行きよ」「てめえ、勝負しろ」「しょうがない、売られた喧嘩だから」すぐ前の空き地で、組み合う二人。男を投げ飛ばして、走って勤めに向かう西村。
     翌日雨が降っている。やはり男が座っている。「よく逃げなかったな、飯済ませたら、もうひと勝負だ」と空き地で体を動かし始める。西村は大根と豆腐を頼み「おばさん、最近よく来るのかい?」「夕べが初めてだよ。そこにあるなでしこの鉢だって、危うく割られるところだった。逃げておしまいよ。」「いや、負けやしないよ」結局、今日も投げ飛ばす西村。
    3日目の晩、男が待っているが、西村は現れない。いつも夜働いているなんてろくでもない奴に違いないと言うと、女将は「西村さんは昼間は予備校に通って夜は近くの高校の夜警のアルバイトをしているんですよ。今時立派な若者ですよ。東大を受けて落ちてしまったらしいです。」バハアだ、マズいおでんだと憎まれ口ばかり叩く男に、「これ飲んだら帰っておくれ、あんただってもう若い年じゃないんだから、帰ってお休みゆ」まだまだ絡み続ける絡む男に「こう見えて、あたいは江戸っ子だよ。神田の生まれだよ!帰っておくれ!!」。そこに、美代(星由里子)が鍋を持ってやって来る。「おでんを頂戴。それと人相の悪いおじさんが来たら、今日は来れないって伝言してくれって」女将笑って「このカバみたいな顔をした人よ。」「西村さん、夕べ雨に濡れた後に夜警をしたので、風邪をひいちゃったのよ。」おでんを鍋に入れてやる女将。
     その日、男は千円札を出しておつりを貰おうとしない。佐渡のおけら野郎からこんなに貰えないよと言うが、人のこと下駄やらカバやらいいやがってと静かに帰って行く。喧嘩相手がいなくて寂しいのだろう。
     翌日また男がやって来たが、今日は大人しい。「なでしこか、いじらしい花じゃねえか。しかし、あの野郎いっちょ前に色づきやがって…。」 「ああ、美代ちゃん、あの子もいい子なのよ、西村さんと同じアパートで、お父さんと二人で駅前で小さなお汁粉やをやっているの。」「いらねえ鍋ねえかい。飯場の若い連中にマズいおでんを持ってってやるのよ、焼酎も一本貰うぜ」西村に見舞いに持って行ってやるんだと女将にはわかったが、とぼける男。
    朝日荘と言うアパートに入る男。西村の部屋に声を掛けるが返事がないので、中に入り、「飯場とたいして変わらねえなあ」と言う。西村は、布団も敷かずにゴロ寝をしている。 目を覚まし、「おじさんどうしたんだ」「おいマズいおでん持って来てやったぜ」「ありがとう、お腹空いていたんだ」近くにあったコップを勝手に取って焼酎を注ぎ「おれの分の箸と皿も寄越せ」二人で食べ始めるが元気のない西村。「僕は、もう駄目なんだ。田舎のお袋は、そんなに学問をしたいのなら、一回だけ受けさせてやると言うので東大を受けたけど、落ちてしまった。生活費を自分で稼ぐからと東京に残ったけれど、昼間の予備校と夜のバイト。駄目に決まっているんだ。」風邪を引いてすっかり弱気になった西村に男は、「三回目の勝負をやるぞ。来年の3月、おめえが大学に受かったら、おめえの勝ち、落ちたら俺の負けだ。」そこに美代子が現れる。「あら、変な人が来てるのね」「こまっしゃくれたガキがつべこべ言うな。分かったな!3度目の勝負だ。おめえいくつか?50のおいらと、18の若僧が勝負するんだ。おめえの手は柔らかけえな、ガキの手だ。俺は、土を運んだり、岩を動かしたりしているんだ。俺の手を触ってみろ、こんなゴツゴツした手になるまで努力をしてみろ。 分かったな。よし乾杯だ。」
    翌日、男が再び屋台で飲んでいる。そこに西村が来る。これ返すよ、昨日男がアパートの管理人に預けた一万円を返しに来たのだ。おじさんと僕は勝負をしているんだろ。敵の哀れみは受けないよ。一万円を押し付け夜警のバイトに走って行く西村。
    男は、なでしこの鉢を投げつけ男泣きする。女将、優しく、西村さんが息子みたいな気がするのね。更に激しく泣いて、聞いてくれよと身の上話を始める男。 俺にだって昔は女房と子供はあったんだ。「亡くなったの?」いや。「どこに住んでいるの?」佐渡だ。「生まれ故郷じゃないの…」俺は故郷には帰れないんだ。生きている英霊ってやつさ。兵隊になってあちこち転戦して、最後はシベリアの捕虜収容所に入った。つらかった、何度死のうと思ったかもしれない。でもその度に、女房子供に一目会うまではと頑張った。シベリアから帰れたのは、25年になっていた。新潟駅に着いて、家に迎えに来てくれと電報を打った。港に船が着き、波止場に父親(浜村純)の姿を見つけ、抱き合ってないた。しかし、近くの旅館で、女房は弟と再婚し、子供も幸せに暮らしているとお話しを聞かされた。もう帰る家はないんだ。親父はまとまった金を出した。しかしそれを振り切って、故郷の相川に向かうバスに飛び乗った。バスはだんだん相川に近づく。自分は途中で降りて、戻るバスに乗った。旅館で親父と酒を飲み、泣いた。今でも、出征するとき別れた女房と赤ん坊だった子供の顔を忘れねえ。話を聞いて女将も貰い泣きをした。男の名前は平井義太郎。
     西村がアパートにいると、屋台の女将がやってきた。7万5千3百円を西村の机に置き、平井さんが置いていったのと言う。平井の身の上を話し、この金でアルバイトをしないで勉強に専念しろと言っていたわ。実は、なでしこの花のことをどこかの大学の先生が学生さんと来た時に、なでしこの花の別名が父子草だと言っていたのを聞いて平井さんはおれにくれと言って持って言ったわ。そして大学に合格したら、このなでしこの種を植木鉢にでも播いて花を咲かせてくれって。突き返されるのが嫌で、もう遠い現場に行ってしまったわ…。泣き出す西村。
    ある夜、西村が勉強をしていると美代子が入ってくる。競輪や何やらで身を持ち崩していた父親と夜逃げをすると言う。自分の荷物を暫く預かってくれと美代子。西村が荷物を運んであげている間に、美代子は大学ノートに「西村さんありがとう。わたし大好きでした」と書き残す。あとで、その走り書きを見て西村は窓の外を見つめる。
    遠く離れた現場で、発破をしかけていた鈴木が石の下敷きになって亡くなった。長い間同じ現場を回ってきた平井は寂しくなる。
    雪の夜、おでんの屋台に平井が現れる。驚き喜ぶ女将。今度は千葉の石切場に行くと言う。誰に聞いたか大学ってやつは一つだけではなく、いくつか受けねえとならないらしい。それで金が掛かるらしいじゃねえかと言って八万円なんとか貯めたので、西村に渡してくれと言う。最後の追い込みだ。
    いくつかの大学で、受験している西村の姿。夜の飯場で、佐渡相川音頭を口ずさみながら、荷物の中にある合格祝い平井と書かれた万年筆を取り出し微笑む平井。
    春が来た。屋台に現れる平井。飲んでいる客に尋ねると、女将は近くに水を貰いに行ったと言う。父子草と書いた鉢があることに気がつく平井。いてもたってもいられなくなった平井が踏切に行くとバケツを下げた女将にぶつかる。今日西村が鉢を持って来てくれたのだと言う。今から西村を呼びに行くと言う女将からバケツを受け取り、客たちに俺の奢りだ飲んでくれと平井。息子さんが大学入ったんだね。良かったねと客たち。そこに西村と由美子がやってくる。おめえの勝ちだな。いや、おじさんの勝ちだよ。じゃあ、もう一度勝負をつけるか。再び、空き地で相撲を取り始める二人。揉み合っているうちな、抱き合って二人泣いている。それを眺める女将と由美子、客たちも貰い泣きをする。

     木下恵介脚本の人情話。ハラハラするが、普通にハッピーエンドで、逆にびっくりして拍子抜けする。渥美清と淡路恵子いいなあ。テンポのいいやりとりは二人ならでは。デビューの石立鉄男の痩せた姿を見て、他人事ではないと思う。

    神保町シアターで、男優・佐田啓二
    54年俳優座/東宝澁谷實監督『勲章(480)』
    ドーベルマンの訓練をしている岡部雄作(小沢栄→栄太郎)。屋敷に帰ってくる。母の菊子(岸輝子)と妹の辰子(東山千栄子)が、雄作のことを悪し様に謗っている。「中将だか大将だか知らないが、穀潰しで何の役にもたたない。」「ほんと兄さんに、犬の番をさせてやっているのに、訓練代を厚かましくも、求めてくるし」「あたしの隠居所の筈の離れを只で住まわせてやっているのに…。」雄作の娘のちか子(香川京子)は、つらそうに聞いている。今日は、辰子の一人娘で、ちか子の従妹でもある久美子(岩崎加根子)の結婚式なのだ。
    ちか子は、父の雄作の支度を手伝いに離れに行く。雄作は風呂に入りたいなと言うが、ちか子の叔父さまが入っていらっしゃいますとの声に仕方ないなと呟く。お前も今日は母屋が忙しいだろうから、私は自分で着替えるからと雄作。母屋に戻ろうとするちか子は、弟の憲治(佐田啓二)を呼び止める。僕はバイトがあるからと、久美子の式をサボろうとしているので、あたしたちの立場ってものを考えてと言うちか子。憲治は母屋へ行き、辰子や久美子に声を掛ける。高島田の久美子に、あんた昔鎌倉で私を、いとこ同士は鴨の味だからって言って口説いたわねと言われる。でも結婚しちゃえば女の値段はタダになるのさと憎まれ口を言う。
    離れでは、田舎から親類が来て雄作と話している。雄作が勲章を出して見せ、これが金鵄勲章ですよ。終戦があと一年先だったら、あんたが山形出身の2人目の大将になっておったのになと言う。憲治が、どうせ披露宴は賑やかな方がいいのだから、一人位は勲章をつけている親類がいたほうが、叔父さんたちも誇らしいでしょうと、からかうと、その気になった雄作は、モーニングに付け始める。辰子から何を考えているんですか、そんな格好は止めて下さいと言われて、拗ねてワシは行かんと駄々をこね始める。そんな父親を周りに気を使いながら、宥めて式場へ連れて行くちか子。
   披露宴の会場で、雄作は、かって自分の副官だった寺位新平が帰国したことを知る。警察予備隊の幹部となった参謀の黒住康三(松本克平)から、自分と三島の近況を聞かれたが、知らないと答えたと聞いて、三島の件は自分でなんとか解決するので、寺位が現れたら、自分に連絡をくれるよう頼む。
   雄作、ちか子、憲治三人で、車で帰る途中、急に雄作は降ろしてくれと言う。憲治も直ぐに降りてバイトに行ってしまう。雄作は、陸士で同期だった三島善五郎(千田是也)の家を探す。貧しい長屋の一角にある洋傘の修理と大判焼きという暖簾が掛かる店で、三島に再会する。三島は、かっての自分の家の女中だった若い娘お葉(菅井きん)と暮らしていた。お葉は、三島の子供を妊娠していた。身重のお葉に、何度も頭を下げ、酒を買いに使いを出す三島。雄作は、三島の身代りに戦犯になった寺位が帰国したと伝える。お前を殺すと言っていた寺位だぞ。と言う雄作に、三島は、60になって、お葉に初めて自分の子供が宿った、この平凡な生き方を守りたいのだと言って、もう一度お国のためにお役に立てると信じて、恥を忍んで東京にいるのだという雄作は絡む。あまりの五月蠅さに、お葉は怒るが、結局二人酔い潰れて、一つの布団で寝る。
  一方、憲治は、アルバイト先の寄席に行く。憲治は大学の落語研究会の所属で、マネージャーの金子(小沢昭一)に、いくら真打ちだからって、遅すぎるぜと怒られる。時間繋ぎに、客席にいた元芸者の小松浅子(東恵美子)が手踊りで舞台に上がっている。元芸者だけに客席の男たちの野次をいなして、踊る浅子。金子の出囃子に合わせて、憲治が高座に上がる。憲治の玄人はだしの軽妙な喋りは、会場を沸かす。金子に浅子が、この後呼べるかいと話す。マネージャーと込みで2千円ですと答えると、マネージャーはいらないと言われる金子。浅子の家、憲治が一席振って帰ろうとすると、飲んで行きなさいなと誘う浅子。ギャラだけ取って帰ろうとする憲治に、浅子は今時の学生はと言う。憲治だって、あの家には帰りたくないのだ。飲めないと言っていた酒を呷る憲治。
   翌朝、甲斐甲斐しくお湯の入った洗面器を浅子に用意させる憲治の姿。披露宴の翌日、散歩ができす吠えまくるドーベルマン2匹。雄作も憲治も外泊したことで、菊子から嫌みを言われるちか子。帰ってきた雄作に、寺位新平(東野栄治郎)が現れる。慌てる雄作に、自分は、日本の再軍備のために東亜さくら会という団体を作って活動しているという。そのためには、岡部中将が会長になってもらうことが最善だと頭を下げる。初めは固辞していたものの、人のいい雄作は寺位の話に乗る。自分が纏めていた再軍備案が世の中に問われる機会だと思ったのだ。

   何だか一昨日見た「日本の悲劇」と対になるような映画だ。勿論「日本の悲劇」の母親は、古臭く、愚かな母親が子供たちに捨てられてしまう何の救いもないことに比べると、陸軍中将としての過去の栄光を復活させて、うまく立ち回った人間たちを見返してやるつもりで、結局全てを失う雄作は喜劇的である。更に、娘と息子の二人に捨てられてしまい絶望して発作的に死を選ぶ春子に比べて、娘のちか子は、雄作が押しつけようとして男ではなく、自分の愛する人間との生活を選ぶが、戦後に生きる場所の残っていない父親を心配しているだけ、より悲惨な結末だが救われる気もする。
   しかし、敗戦で、簡単に生き方と信じるものを変えて生きたのが日本人だと思っていたが、路線変更できず、淘汰された人たちも多かったんだろう。そんな転向を他人事のようにとぼけて、もう一度雄作を担いでひと儲けしようと言う卑劣漢が跋扈していることを思う。蟹工船よりも、今見直されるべき映画ではないのか。

2009年8月17日月曜日

51歳の誕生日。

  神保町シアターで、男優・佐田啓二
  52年松竹大船澁谷実監督『本日休診(476)』
  三雲八春(柳永二郎)の独白「私が、この街に開業してから18年になる。戦後、甥の伍助に院長を譲り再出発して1年・・・。」
  三雲医院では、明日の休診日を前に、どう過ごすか揉めている。箱根の温泉に行きたいという看護婦の瀧さん(岸恵子)たちに、三雲伍助(増田順二)は通俗的だなあと言うが、結局看護婦2人と伍助は結局箱根に出かけて行った。八春と婆やのお京(長岡輝子)は「本日休診」の札を掛けて、のんびり昼寝をして過ごそうと留守番だ。
  表が騒がしいお京の息子の勇作(三國連太郎)は、復員してきたが、頭がおかしくなって今も軍隊にいると錯覚している。通行人相手に軍人勅諭を復誦させようとして、喧嘩になっているのを何とか、抑える八雲とお京。
     やれやれと思っていると、警官の松木(十朱久雄)がやってきた。婦女暴行の被害者の治療をしてやってほしいと言う。泣いて病院に入るのを躊躇っている娘。松木の言うには、津和野愁子(角梨枝子)は、昨日大阪から知り合いの男性を訪ねてこの街にやってきたと言う。住所の男性の家を探すが、見つけられない。途方にくれて駅の近くで、男女に声を掛けられ、全く正反対を探していたと案内してくれたと言う。彼女のボストンバックを持ってあげると言った女は、しかし、踏切でいきなり逃げ出した。電車が通り過ぎて男と探すが見つからない。突然男は態度を変え、愁子に襲いかかったのだ。かわいそうにと八雲は治療をしようとするが、拒絶する愁子に、自分で治療しなさいと薬と使い方を教えて、診察室を出るのであった。
    そこに一人の女性(田村秋子)が現れて、お京と押し問答をしている。本日は休診だと言っても、休診だからやって来たのだと言う。女が湯川三千代だと名乗るのを聞いて、ああ懐かしいと中に入れる。湯川三千代は、18年前に開業した際の初めての患者だった。難産で帝王切開の手術をしたのだ。その時の子供は八雲に名付け親になってもらい、春三という名の青年は18歳になったと言う。外で待っていると言う。窓の外を見ると、春三(佐田啓二)がお辞儀をする。三千代はその時の治療代240円を支払いに来たのだと言う。俊三は、会社勤めをしているが、手紙きちがいで、誰からともなく手紙を書くのだと言う。自分宛の手紙を開けると、ローマ字でタイプ打ちをしているもので、18年前の感謝の手紙だった。うれしそうな八雲。そこに、電話が来て、産後の日だちがよくないので、往診してくれという話だ。
  
  51年松竹大船澁谷実監督『自由学校(477)』
   外苑の絵画館前に佇む南村五百助(佐分利信)。「自由、自由か。」海岸に立つ妻の駒子(高峰三枝子)「ふんっ」後ろで若い男女(佐田啓二、淡島千景)が踊っている。
    駒子忙しげにミシンを踏んでいる。「行かなくていいの?11時7分過ぎよ。」返事はない。「あなた眠ってんの?9分過ぎたわよ。」縁側の五百助、パジャマ姿で横になっている。「ちょいと、ちょいと、いい加減にして!あんた、そうやって落ち着き払っていれば、優秀だと思っているんじゃないの?いい加減にしなさい!!」スーツ、ワイシャツ、靴下、ネクタイを放り投げる駒子。「定期券と紙入れ。300円入れておいたわよ。」再びミシンを踏み始めた駒子。ふと気が付いてみると、着換えた五百助が膝を抱えて座っている。「出かけないの?あんたは、東京通信社の社員じゃないの。」「ひと月前から行っていないよ。」「首になったの?どうしてそれを黙っていたの?」「いや自分で辞めたんだよ。」「どうしたの?どうして辞めたの?」「自由が欲しくって。」「何?何ですって?自由?」笑いだす駒子「あなた、どうして身の回りのことから、生活費まで、全部私におんぶになっていて自由ですって?」「伺うわ?参考のために、戦後、君が働きだしたのはいいが、戦前の封建亭主のように威張りだして、暗闇から引っ張り出されて、牛みたいに働いているのがいやになったんだ。」「勝手にひと月前に辞めて、ぶらぶら遊んでいるの?300円ずつ私から小遣いまで貰っていて。」「退職手当だって使った。」「退職手当まで猫ババしていたの?出てけ!!!」「ではさよなら。退職手当の残りは、机の中にあるよ・・・。」そのまま、家を出る五百助。そこに、米屋の平助(笠智衆)が米の配給ですよと現れる。
   神宮の絵画館の前のベンチで昼寝をしているた五百助。財布がない、やられたのだ。「大変だなあ、自由を認めるってことは。」目の前で若い二人がキスだけして、ではまた明日と声を掛けて去っていく。ふと目の前に防空壕がある。マッチに火を点けて中に入ると、「うん、これはいいところだ。」草臥れて眠る五百助。おい!と声を掛けて起こされる。「ははあ、てめえだな、毎晩おれの飯を盗んでいる奴は。」五百助が「一晩泊めてくれないか。家を追い出されて困っているんだ。」と言うと、「俺といっしょだと、ルンペンの長谷川金次(東野栄治郎)はシケモクを勧めてくれた。「女に気を許しちゃいけねえ、取るばっかりで、くれやしねえ。女と見たら泥棒だと思って間違えはないんだ。」と金次。

    53年松竹大船木下恵介監督『日本の悲劇(478)』
   ポツダム宣言受諾の新聞記事。極東裁判・・・。「戦争が終わって八年。しかも尚政治の貧困・・」23回メーデー、国会前でデモをする労働者。「生活の不安」新聞記事「日毎繰り返される犯罪の数々」新聞記事とニュース映像。「日本人の総てが、この暗黒の墓場に巻き込まれている。この母子の悲劇は挿話ではない。この日本の悲劇は日本中に生い茂っていくかもしれない」
   熱海の温泉街、伊豆荘という温泉旅館の前で、一人「湯の町エレジー」を歌う若い流しの達也(佐田啓二)がいる。二階のお客様いかがですか?と声を掛けるが、一人か地味だなと団体客。しかし女中の井上春子(望月優子)が、上がっていらっしゃいと言う。鳴り物でもないと女中だけじゃ歌も歌えないし、盛り上がらないわよと春子。客もそうだなと言って炭坑節を歌い出す。達也が上がってくると、さっき歌っていた湯の町エレジーが好きだから歌ってちょうだいと春子。
   料理場、花板たち帰っていく。残った煮方の佐藤(高橋貞二)が、女中に文句を言っている。「この料理は温かいうちに食うものなのに、忘れていたんじゃねえのかい。女中も、客も料理の味なんてわからねえ奴らばっかりだ。腕の揮いようもありゃしねえ。」春子やってきて、板わさ二つを注文する。出入り業者の八百政(竹田法一)の姿を見つけ「この間の話は、どうなったんだい。」「相手はまだ若いので結婚したくねえと言うんでさ。」「うちの歌子みたいな器量よし、もったいないのにねえ。」そこに女中が「春さん。ちょっと来ておくれ。客が金が無くなったって言い張るんだ。」「いくらだい?200円。1000円札で按摩さんに払って200円のお釣りを確かにテーブルの上に置いてあったというのよ。」「たった、200円のお金で大騒ぎするなんて、つまらない男だ。」
   女将が、息子さんから電話よと声を掛ける。「清一です。ついさっき着いたばかり。姉さんの処に泊めて貰うつもり。藪いちから掛けています。うん姉さんも一緒です。相談したいことがあるので、会えるかい?」息子の清一からの電話に嬉しそうな春子。藪一で、鍋焼きうどんを食べながら、姉の歌子(桂木洋子)と清一(田浦正巳)が話し合っている。「かあさん、遅くなっても来るから起きていてって。また泣くよ。」「あんたいくつ?」「姉さんの二つ下。姉さんだって、21歳には思えないさ。どう?姉さんの下宿の食事。僕の下宿はひどいんだ。姉さんの英語は上達した?」「所詮、パングリッシュよ。」「姉さん、僕が養子に行くって話、反対かい?」「あんたと昔もうどんを食べたわね。」
   焼け跡の七輪で、うどんを煮ている歌子。お腹が空いた清一は、もう食べようよと言っている。まだ半煮よ。半煮だっていいさ。バラック小屋で、二人で食事をしていると、リュックを背負った春子が帰ってくる。ヤミ屋で母子三人食べているのだ。青空教室、学級委員の選挙をしている。一人の女子が挙手をして、「井上さんが委員になることに反対です。井上さんのおかあさんがヤミ屋をやっているからです。」「君んちだって、うちから米を買っているじゃないか。」と清一、「食べるものがなくて、仕方なしにヤミで米を買う人と、ヤミ屋で儲けているのとは別よ。」歌子の教室、先生が「今まで、国民は騙されていた。これからは本当の歴史を学んで民主的な人になってください」と言う。一人の女子が挙手をして「それでは、先生は今まで、嘘の歴史を教えていたんですか?先生は、私たちを騙していたんですか?」「いや、先生たち、大人たちも騙されていたんだ。これからは・・・。」軽蔑したように笑う歌子。
   再び、新聞記事や、ニュース映像。三鷹事件、下山事件、ストライキ、朝鮮戦争、警察予備隊・・・。ヤミ屋狩りで、警官たちに追いかけられ、必死に走って逃げる春子。
   酔った春子が、歌子の下宿先の下駄屋に来る。二階に上がってくる春子。清一を見て本当に嬉しそうだ。「この服少し小さくなったんじゃないのかい。いつまでいるんだい。ちゃんと食事をしているかい?用って何さ?」何も言わない清一に、歌子が言う。「清ちゃん駄目ね。養子に行きたいんだって。」予想しないことばに愕然とする春子。「どういうことだい。」「開業医のご夫婦がいて、息子さんが戦死して、できれば僕に養子に入ってくれないかと言うんだ。とっても優しい人たちなんだ。」聞く耳を持たない春子。明日、もう一度話を聞くけど、絶対私は認めないよ。」
    春子は、闇屋をするうちにたいそう景気のいい男(多々良純)に声を掛けられる。親切そうに寄って来た男だったが、春子に迫る。一度は拒んだ春子だったが、子供たちのことなど悪いようにはしないと言われて身を任せてしまう。亡夫の弟の一造(日守新一)が、酒屋の免許を使わないでいるのはもったいない。貸してくれてここで商売させてくれれば、二人の子供の面倒をみてやる、こんな時代だからこそ親戚同士助け合おうと言って来た。悩んだ末、自分は小田原の旅館で住み込みの女中として働くことにする。しかし、一造とその妻のすえ(北林谷栄)は、歌子と清一を酷い扱いをする。従兄の勝男(草刈洋四郎)は、美人の歌子に色目を使い、ある日病気で休んでいた歌子にイタズラをする卑劣漢だ。あまりに耐えられずに、小田原に出掛けた姉弟の目の前には、酔って男の客に嬌声を上げる母の姿だった。結局二人は母に声を掛けられず、小田原駅で一夜を明かし東京へ帰った。
   歌子は赤沢正之(上原謙)が開いている英語教室に通っている。赤沢の妻の霧子(高杉早苗)は、夫と歌子の仲を疑っている。事実、婿養子で赤沢家に入り、家庭的な幸福とは程遠い赤沢は、歌子を一目見た時から、この家から、歌子と共に逃走することを妄想して、一方的に熱を上げていたのだ。歌子自身は、従兄の勝男にされたことがトラウマになっており、男への嫌悪感に苛まれていた。
   春子は、板場の煮方の佐藤が、芸者の若丸(淡路恵子)にのぼせ上がっていることが気になってしょうがない。酔って意見をするが、五月蝿がる佐藤。 清一が心配になった春子は東京に出掛ける。清一は新橋まで迎えに来てくれた。亡夫の墓参りに出掛ける。しかし、墓前で、養子になることを認めてくれと言い張る清一と争った末、一人残され泣く春子。
   歌子の下宿には、夫が来ていると思い込んだ霧子が娘の葉子(榎並恵子)を連れてやってきた。娘の服を注文したいのだと言う。押し問答がある。


   重い!!重すぎる!!!直球だ。かなりダウナーな気分に(苦笑)。この母子の不幸はこれから日本中に生い茂って行くと言う言葉が重くのしかかる。53年頃に二十歳位で、愚かな母親を捨てた子供たちは、今75才。歌子と正一は、どういう老後を送っているのだろうか。

   夜は、外苑前の粥屋喜喜で、自分の51歳を祝う飲み会。同じ誕生日には、ロバート・デニーロから、蒼井優、戸田恵梨香、華原朋美。そんなことはどうでもいいが、お盆の時期なのに沢山集まってくれてうれしい夜だった。酔っ払った。酔っ払った。

2009年8月16日日曜日

訃報

   同居人と久し振りに新宿で昼を。調子に乗って少し飲みすぎる。明日で51歳の誕生日だ。
    
    吉祥寺バウスシアターで「色即じぇねれーしょん」を見ようと思ったが、満員で入れない。
    ラピュタ阿佐ヶ谷で、武満徹の映画音楽
    71年東宝/俳優座小林正樹監督『いのち・ぼうにふろう(475)』
    中川と掘に囲まれた100坪の荒地の洲をみな島と呼ぶ。深川吉永町と橋一つで繋がっている島には安楽亭と言う呑み屋がある。そこは治外法権化していて、ご禁制品の密輸入の中継地となっていると言う噂がある。八丁堀の新しい定廻り同心の岡島(中谷一郎)と金子(神山繁)は、下っ引きの?に、中を探って来いと言うが、よそ者が橋を渡って島に入っても生きて帰るものはいないと怯えている。
   その夜、無銭飲食で半殺しにされたお店者の富次郎(山本圭)を連れて橋を渡ろうとする生き仏の与兵衛(佐藤慶)を追い掛けて来た破落戸たちを、知らずの定七(仲代達矢)は次々に川に叩き落とす。安楽亭に連れて入る与兵衛に、安楽亭の主人の幾造(中村翫右衛門)と、その娘おみつ(栗原小巻)、行き場がない住人たち、政次(近藤洋介)、楊枝作りの由之介(岸田森)、髪結いの源三(草野大悟)、吃音のひどい文太(山谷初男)、18歳の仙吉(植田峻)たちが、また生き仏の兄貴が仏心を出したなと言って笑う。定七は、凄腕の浪人だが、文字通り他人には全く関心がない。おみつが「この人を死ぬまでうっちゃっておくの?」と言い、与兵衛は富次郎を運ぶ。富次郎の手当をしてやる与兵衛とおみつ。
    そこに、灘屋の小平(滝田裕介)が現れ、幾蔵に「儲け話がある。13日の晩に、阿蘭陀船がつく。さるお大名家が絡んでいる。ご禁制品の積み荷を降ろして、ここに何日か隠してくれれば、荷降ろしに一人五両出す。」と言う。幾蔵は「俺がやろうたって、若いもんがやると言わなければやらねえぜ。」と答える。「では、五両に色つけたらどうだ。儲け話だぜ。」と食い下がる小平。すると定七が、「うるせえ!!このめえのことを忘れたか!おめえの手引きで受けた仕事で、仲間が二人も殺されたんだ。納得できねえな。」仕方なしに、また来ますよと言って、橋を渡って帰る小平。
   安楽亭の戸が開いて、酔っ払った男(勝新太郎)が入ってくる。おみつが「すみません。うちじゃ、知らない人はお断りしているんです。」と答える。聞こえない振りの男に、安楽亭の男たちが、叩き出す。幾蔵が「あいつは、イヌかもしれねえ。定廻りの役人が変わったところだから用心したほうがいいだろう。」少しして、また男が入ってくる。誰かが「知らないモンは入れねえと言ってるだろ!!」と言うと「俺は、今夜は二度目だぜ。」と答える男。しばらく考えて幾蔵は、おみつに「酒をあげろ。」と言う。一口飲んで、男は笑ったのか泣きだしたのか・・・。
   翌日、サイコロ賭博をやっている。器用な仙吉に、有り金巻き上げられる政次と文太。由之介は黙々と楊枝を削っている。肺病を思わせる咳をする由之介。手先の器用な源三が、紙縒りで女や馬を作っている。「定あにい、何がいい?」「馬がいいな。」「定あにいは、女嫌いだからな。」
   おみつが富次郎と話している。「あんたとあの妙な酔っ払いがここに来たのは、本当に妙な晩だったわ。今日で三日目よ・・・。あそこに、お地蔵さまが10並んでいるでしょう。あれはあたしのお地蔵さまなの。九番目のお地蔵様に花が植わっているでしょう。あれは、今日が九日ということよ。明日は十番目のお地蔵さんに、次からは二本花を植えるの。二十日を過ぎると3本立てるわ。この島は毎日が同じ、いつも訪ねて来る人はいない。いったい何日か分からなくなってしまうの・・・。」
   島を望める場所に、定廻り同心の岡島と金子が立っている。「安楽亭の主人はなかなかの男らしいな。与力の近藤を抱きこんでいたとは。藩の後ろ盾がある舟宿の徳兵衛より、やっかいかもしれないな。」と金子が言うと、岡島は「分別も度を過ぎると、臆病になるぞ。」と言う。絶対ぶっつぶしてやると意気込み、安楽亭を睨む岡島。
   灘屋の小平が今日も幾蔵を訪ねている。「抜け荷に、わけえものに無理強いはしねえのよ。この前、仲間が二人殺されたしな。」「ほかにやりたがっているもんもありますぜ。」「舟宿の徳兵衛じゃねえのか・・・。」あとをついて食い下がる小平に「こっちに上がって来ねえでくれ!」しかし、小平は納屋の二階にある三つ葵の紋が入った布が掛かっている荷に気が付く。血相を変えた幾蔵が、命が惜しかったら見るんじゃねえ!!」と言う。安楽亭から出て橋を渡ってくる小平と、目線を合わせ、合図を送る岡島。
   安楽亭で源三、仙吉がおっかさんの話をしている。「定あにいのおっかさんはどういう人だったんだい?」と声を掛けると、定七の表情が一変する。「おふくろのことだけは言うな!!俺のキセルに触るんじゃねえ!!!」激怒して荒々しく外に出ていく定七。幾蔵が「あの煙管と煙草入れはおっかさんの形見なんだ。外にやられて、おっかさん会いたさに15年経って帰って再会すると、おっかさんは女郎になっていた。叩き斬って江戸に出てきたんだと酔って話すのを聞いたことがある。たぶん人違いだと言ったんだがよ・・・。」と言う。川面を眺めている定七。雀の雛が巣から落ちたのか水の中で必死に羽ばたいている。
   また夜になった。いつぞやの男がまたやってきて飲んでいる。「5年前、おれはこの近くに住んでいたんだ。安楽亭のこともよく知っているんだ」泥酔して大きな声を出す男。定七が「けえれ!けえってくれ!!」と叫び、懐に手を入れる。定七が懐に入れたドスを投げると百発百中だ。幾蔵が「定!」と止める。男に「ここに来る以上、見ず、言わず、聞かずですぜ」と釘をさす幾蔵。
   翌日、地蔵の上に源三が編んだ馬が乗っているのをみて微笑むおみつ。馬を手に取り、富次郎が休んでいる部屋の入口に置く。店の戸に武士の影がある。戸が開いて入って来たのは、同心の岡島が入ってくる。「主人を呼んでくれ!!」幾蔵が現れる。「おめえが幾蔵か・・・。」「この島のことは、与力の近藤さまに全てお任せしてありますから。」「今日からはそうはいかねえぞ。近藤の事は諦めろ。近藤は城詰めに変わった。」「すべて、与力の近藤様がおわかりでございます。」「この間、さるところで悪党を二人叩き斬ってやった。俺は甘くねえぜ。」
   幾蔵は湯呑に酒を出し。「ここにいるやつらは、悪党ではありません。悪党というよりも山の獣のようなものでございます。山の獣が人里に下りてきて色々な目に遭わされているうちに、世間様を信用できなくなってしまった可哀そうな奴らでございます。ここで、少しは人の心を取り戻させてやりたいと思っているんでございますよ。」「俺は、お前たちのことは皆知っているんだぞ。呉服橋はずれの灘屋を通じてご禁制の品を捌いていることも。」「ということは、灘屋の先にある御政道筋の皆さまのこともご存じでしょうな。御政道筋と灘屋は安泰、全て安楽亭に押し付けられて潰されたんじゃ割があいませんぜ。」すると時計がなった。「ほう、一膳飯屋風情に時計があるとは信じられねえな。見せろ!」「あれはお預かりしているものでございます。」
   岡島はどんどん裏の部屋に入る。「旦那、お止しになった方が・・。危のうございますよ。」無視して納屋に向かう岡島。幾蔵の「定!!」という声を合図に、安楽亭の男たちが現れる。それぞれの名前と年を問いただす岡島。最後に定七が、知らずの定七というと、定七の頬を打つ岡島。定七が懐に手を入れると、やはり「定!!」と止める幾蔵。懐から手を出して「やさがしを始めねえんですかい?」と定七。定七に、呼子を見せ、「念のために言っておくが、外は大勢で取り囲んでいるんだぜ。」岡島は次々に納屋の荷を改め始める。
  三つ葉葵の紋が入った荷の上に掛けられた茣蓙を矧がそうとした時に、定七の短刀が投げられ、背中に刺さる。即死だった。念を押すように押し込む定七。岡島の手に下がっていた呼び子を加え吹く定七。安楽亭の中から男たちが萱に隠れて外を窺う。何も起きない。納屋に入ってきた源三が「なんだ、呼び子を吹いたのは定あにいか、脅かさねえでくれよ」「八丁堀は甘えんだよ」と定七。
   島を出ようとした富次郎を捕まえる定七。みなの前で訳を話し出す富次郎。富次郎は11から奉公に出て、13年も勤め上げた。来年年季も明けるので、暖簾分けをしてもらい幼なじみのおきわを嫁に貰おうと思っていた。しかし、七日前におきわ(酒井和歌子)が訪ねてきた。「私売られるの。」おきわのおっかさんがおととい死んだ。夏から身体を壊して寝込んでいたのだ。「おとっつあんは酒を飲んで愚痴を言うばかり、結局、薬代やら何やらの借金でどうしようもなくなって、夕べ、おとっつあんから身売りの相談をされたわ。」「って、おめえ」「時次郎さんのお嫁さんになることに子供の頃から憧れてきた。でも、きっと適わないことだとも思っていたわ」

     「で、おめえはどうしたんだい。」と安楽亭の住人。

     私は主人に言って、奉公の間貯めてきたお金を出して貰おうと思いました。主人は人情深く、道理もわきまえた方です。ただ主人は「そりゃ、その金で娘さんは身請けできて、嫁にも出来るだろう。しかしそんな身を持ち崩した親父さんがいたら、それからずっとことあるごとに金をせびりに来るだろう。賛成は出来ない。酷なようだが、その娘のことは諦めるんだ。」主人のいうことは正しい。自分でもそう思うが、だった十二両の借金で女郎になるおきわのことを考えると諦められなかった。
    そこで、自分が年季明けで貰える筈の十五両の店の金に手を付けて、おきわの家に駆け付けた。しかし、既におきわはいない。おきわの父親はいい気なもんで、女衒の鍾馗の権六と呑んでいた。どこに売られたと尋ねても教えてくれない。奉公一筋できた時次郎は岡場所のことも分からない。そこで辻駕籠に乗り、あっちの遊廓、こっちの遊廓と尋ね歩くが、そんなことで見つけられ訳がない。あと二両しか手持ちが無くなってしまい、誘われるままに呑み屋に上がった。女と酒を呑んでいるうちに、懐にあった筈の二両も消えていて、無銭飲食だと袋叩きにあっていたのだ。

    「そいつぁ、店の女に摺られたのよ」

    店の金を持ち逃げした以上、奉公先には帰れない。せめて鍾馗の権六を捜して、おきわに一目会って死のうと思ったと言うのだ。時次郎が捜したって見つけられないだろうと誰もが思った。生き仏の与兵衛がまた、仏心を出して夜の街に出て行った。定七は、他人のことなど知っちゃいねえぜと、幾蔵と、同心岡島の死体を捨てに舟を出す。引き潮の時刻に、中川の下流で簀巻きに死体を投げ込む二人。
     与兵衛は一晩帰って来なかった。心配するおみつに、女の所に泊まった可能性もあるし、生き仏に限ってしんぺえはいらねえと定七。また夜が来た。文太が雀の雛を焼いて食べようとしていたことを知って、怒り狂う定七。「掘の石に隠してあった。焼いて喰うと、んまいんだよう」と文太。酔っ払っている男が、子供がいなくなって、おっかさんは狂ったように捜しているだろうなあ…。狂ったように…。おっかさんが見つければ巣に連れて行くだろう。川の近くに置いて分かるようにしたほうがいい…。ただカラスや猫に狙われるから籠でも被せて、見張ってやることだ…。何かを忘れるためか、最近は夜毎現れ飲み続けて泥酔する男、何気にみなの話を聞いているようだ。
    翌朝、男の言うとおりに籠を被せた雛を見張る定七。おみつは、そんな姿を見つけて、そんなに近くで見張っていると来られないわと笑顔で言う。定七が人間的なものを初めて見せたことが、おみつは嬉しいのだ。
    番所で、同心の金子と、灘屋の小平、下っぴきの三人が話をしている。岡島が姿を消して、三日になる。「本当に三つ葉葵のご紋だったのか?」「あれは確かに・・。」「あの島の近くに紀州さまのお屋敷が目と鼻の先だ。紀州様が密貿易なんて、江戸中が大騒ぎになりますぜ。」そう言った岡っ引きを切る金子。「口は災いの元だぜ。おめえもな・・。」灘屋小平が帰ると、金子はつぶやく。「岡島は、脇目もふらず、出世を焦っていたからな。」
    生き仏が帰ってきた。やっと、鍾馗の権六をみつけたのだ。「まだ、おきぬは生娘だったぜ。あと3日は店に出さねえと約束させてきた。20両だ、おれは、灘屋の30両が欲しくなったぜ。」という。定七は、気乗りがしない。翌日、幾蔵の出刃包丁を持って再び島を出ようとする富次郎。金は無くなったが、おきぬを一目見て、鍾馗の権六を刺して自分も死のうと思ったのだ。取り押さえた定七は、生き仏の苦労を無にしようっていうのか、そして、おめえが殺せるわけがねえだろうと言う。そして、安楽亭のみなに、危ねえ話だが、灘屋の仕事を引き受けようと思うんだと言う。富次郎が命を投げ出そうとしたのを見ていて、気が変わったぜという。ここで死ぬのもいいんじゃねえかと思ったのだ。全員が賛成する。何故かその日は、酔っ払い続ける男は現れなかった。仕事を受けにいくと定七が出て行った。幾蔵は、賛成はできなかったが、ここの山の獣のような連中が生まれて初めて、人のために命を投げ出そうと言うのだ。ようやく人間らしい心を取り戻し始めた獣たちに思いをはせる幾蔵とおみつ。
    
     




   このところの小林正樹月間の頂点的作品。山本周五郎の深川安楽亭の原作、仲代達矢の妻で無名塾の戦友宮崎恭子の脚本。20代の自分では違和感しかなかった山本周五郎が、38年経って、他人の為に自分の命を棒に振るという字面だけではない味わいに打ちのめされた。
  打ちのめされて、B級的魅力映画を見ようという気も失せ、静かに家で飲もうと思って帰宅途中に、かっての後輩が亡くなったという電話を貰い愕然とする。先月彼が最近ツアーマネージャーを担当するバンドと一緒にやれないかと、かって自分が関わっていたバンドに打診して欲しいと頼まれて、つないであげたら、いつもブログに書いている餃子とビールの店に連れて行って下さいと携帯で話したのは、つい昨日のような気がする。栗原小巻のおみつが言う「生きてても何にもなりゃしない……、私、そんなこと許せない。みんな、あんたたちのためにいったのよ。定さんたちは死んだかもしれないのよ。あの人たちを 無駄死にさせたいの。生きてても何にもならない人なんてありゃしない。死んじゃいけない、死んじゃいけない、死んじゃいけない。富さんも定さんも与兵衛さ んも……」のシーンがフィードバックする。博華の餃子食ってないのになあ。