2009年8月16日日曜日

訃報

   同居人と久し振りに新宿で昼を。調子に乗って少し飲みすぎる。明日で51歳の誕生日だ。
    
    吉祥寺バウスシアターで「色即じぇねれーしょん」を見ようと思ったが、満員で入れない。
    ラピュタ阿佐ヶ谷で、武満徹の映画音楽
    71年東宝/俳優座小林正樹監督『いのち・ぼうにふろう(475)』
    中川と掘に囲まれた100坪の荒地の洲をみな島と呼ぶ。深川吉永町と橋一つで繋がっている島には安楽亭と言う呑み屋がある。そこは治外法権化していて、ご禁制品の密輸入の中継地となっていると言う噂がある。八丁堀の新しい定廻り同心の岡島(中谷一郎)と金子(神山繁)は、下っ引きの?に、中を探って来いと言うが、よそ者が橋を渡って島に入っても生きて帰るものはいないと怯えている。
   その夜、無銭飲食で半殺しにされたお店者の富次郎(山本圭)を連れて橋を渡ろうとする生き仏の与兵衛(佐藤慶)を追い掛けて来た破落戸たちを、知らずの定七(仲代達矢)は次々に川に叩き落とす。安楽亭に連れて入る与兵衛に、安楽亭の主人の幾造(中村翫右衛門)と、その娘おみつ(栗原小巻)、行き場がない住人たち、政次(近藤洋介)、楊枝作りの由之介(岸田森)、髪結いの源三(草野大悟)、吃音のひどい文太(山谷初男)、18歳の仙吉(植田峻)たちが、また生き仏の兄貴が仏心を出したなと言って笑う。定七は、凄腕の浪人だが、文字通り他人には全く関心がない。おみつが「この人を死ぬまでうっちゃっておくの?」と言い、与兵衛は富次郎を運ぶ。富次郎の手当をしてやる与兵衛とおみつ。
    そこに、灘屋の小平(滝田裕介)が現れ、幾蔵に「儲け話がある。13日の晩に、阿蘭陀船がつく。さるお大名家が絡んでいる。ご禁制品の積み荷を降ろして、ここに何日か隠してくれれば、荷降ろしに一人五両出す。」と言う。幾蔵は「俺がやろうたって、若いもんがやると言わなければやらねえぜ。」と答える。「では、五両に色つけたらどうだ。儲け話だぜ。」と食い下がる小平。すると定七が、「うるせえ!!このめえのことを忘れたか!おめえの手引きで受けた仕事で、仲間が二人も殺されたんだ。納得できねえな。」仕方なしに、また来ますよと言って、橋を渡って帰る小平。
   安楽亭の戸が開いて、酔っ払った男(勝新太郎)が入ってくる。おみつが「すみません。うちじゃ、知らない人はお断りしているんです。」と答える。聞こえない振りの男に、安楽亭の男たちが、叩き出す。幾蔵が「あいつは、イヌかもしれねえ。定廻りの役人が変わったところだから用心したほうがいいだろう。」少しして、また男が入ってくる。誰かが「知らないモンは入れねえと言ってるだろ!!」と言うと「俺は、今夜は二度目だぜ。」と答える男。しばらく考えて幾蔵は、おみつに「酒をあげろ。」と言う。一口飲んで、男は笑ったのか泣きだしたのか・・・。
   翌日、サイコロ賭博をやっている。器用な仙吉に、有り金巻き上げられる政次と文太。由之介は黙々と楊枝を削っている。肺病を思わせる咳をする由之介。手先の器用な源三が、紙縒りで女や馬を作っている。「定あにい、何がいい?」「馬がいいな。」「定あにいは、女嫌いだからな。」
   おみつが富次郎と話している。「あんたとあの妙な酔っ払いがここに来たのは、本当に妙な晩だったわ。今日で三日目よ・・・。あそこに、お地蔵さまが10並んでいるでしょう。あれはあたしのお地蔵さまなの。九番目のお地蔵様に花が植わっているでしょう。あれは、今日が九日ということよ。明日は十番目のお地蔵さんに、次からは二本花を植えるの。二十日を過ぎると3本立てるわ。この島は毎日が同じ、いつも訪ねて来る人はいない。いったい何日か分からなくなってしまうの・・・。」
   島を望める場所に、定廻り同心の岡島と金子が立っている。「安楽亭の主人はなかなかの男らしいな。与力の近藤を抱きこんでいたとは。藩の後ろ盾がある舟宿の徳兵衛より、やっかいかもしれないな。」と金子が言うと、岡島は「分別も度を過ぎると、臆病になるぞ。」と言う。絶対ぶっつぶしてやると意気込み、安楽亭を睨む岡島。
   灘屋の小平が今日も幾蔵を訪ねている。「抜け荷に、わけえものに無理強いはしねえのよ。この前、仲間が二人殺されたしな。」「ほかにやりたがっているもんもありますぜ。」「舟宿の徳兵衛じゃねえのか・・・。」あとをついて食い下がる小平に「こっちに上がって来ねえでくれ!」しかし、小平は納屋の二階にある三つ葵の紋が入った布が掛かっている荷に気が付く。血相を変えた幾蔵が、命が惜しかったら見るんじゃねえ!!」と言う。安楽亭から出て橋を渡ってくる小平と、目線を合わせ、合図を送る岡島。
   安楽亭で源三、仙吉がおっかさんの話をしている。「定あにいのおっかさんはどういう人だったんだい?」と声を掛けると、定七の表情が一変する。「おふくろのことだけは言うな!!俺のキセルに触るんじゃねえ!!!」激怒して荒々しく外に出ていく定七。幾蔵が「あの煙管と煙草入れはおっかさんの形見なんだ。外にやられて、おっかさん会いたさに15年経って帰って再会すると、おっかさんは女郎になっていた。叩き斬って江戸に出てきたんだと酔って話すのを聞いたことがある。たぶん人違いだと言ったんだがよ・・・。」と言う。川面を眺めている定七。雀の雛が巣から落ちたのか水の中で必死に羽ばたいている。
   また夜になった。いつぞやの男がまたやってきて飲んでいる。「5年前、おれはこの近くに住んでいたんだ。安楽亭のこともよく知っているんだ」泥酔して大きな声を出す男。定七が「けえれ!けえってくれ!!」と叫び、懐に手を入れる。定七が懐に入れたドスを投げると百発百中だ。幾蔵が「定!」と止める。男に「ここに来る以上、見ず、言わず、聞かずですぜ」と釘をさす幾蔵。
   翌日、地蔵の上に源三が編んだ馬が乗っているのをみて微笑むおみつ。馬を手に取り、富次郎が休んでいる部屋の入口に置く。店の戸に武士の影がある。戸が開いて入って来たのは、同心の岡島が入ってくる。「主人を呼んでくれ!!」幾蔵が現れる。「おめえが幾蔵か・・・。」「この島のことは、与力の近藤さまに全てお任せしてありますから。」「今日からはそうはいかねえぞ。近藤の事は諦めろ。近藤は城詰めに変わった。」「すべて、与力の近藤様がおわかりでございます。」「この間、さるところで悪党を二人叩き斬ってやった。俺は甘くねえぜ。」
   幾蔵は湯呑に酒を出し。「ここにいるやつらは、悪党ではありません。悪党というよりも山の獣のようなものでございます。山の獣が人里に下りてきて色々な目に遭わされているうちに、世間様を信用できなくなってしまった可哀そうな奴らでございます。ここで、少しは人の心を取り戻させてやりたいと思っているんでございますよ。」「俺は、お前たちのことは皆知っているんだぞ。呉服橋はずれの灘屋を通じてご禁制の品を捌いていることも。」「ということは、灘屋の先にある御政道筋の皆さまのこともご存じでしょうな。御政道筋と灘屋は安泰、全て安楽亭に押し付けられて潰されたんじゃ割があいませんぜ。」すると時計がなった。「ほう、一膳飯屋風情に時計があるとは信じられねえな。見せろ!」「あれはお預かりしているものでございます。」
   岡島はどんどん裏の部屋に入る。「旦那、お止しになった方が・・。危のうございますよ。」無視して納屋に向かう岡島。幾蔵の「定!!」という声を合図に、安楽亭の男たちが現れる。それぞれの名前と年を問いただす岡島。最後に定七が、知らずの定七というと、定七の頬を打つ岡島。定七が懐に手を入れると、やはり「定!!」と止める幾蔵。懐から手を出して「やさがしを始めねえんですかい?」と定七。定七に、呼子を見せ、「念のために言っておくが、外は大勢で取り囲んでいるんだぜ。」岡島は次々に納屋の荷を改め始める。
  三つ葉葵の紋が入った荷の上に掛けられた茣蓙を矧がそうとした時に、定七の短刀が投げられ、背中に刺さる。即死だった。念を押すように押し込む定七。岡島の手に下がっていた呼び子を加え吹く定七。安楽亭の中から男たちが萱に隠れて外を窺う。何も起きない。納屋に入ってきた源三が「なんだ、呼び子を吹いたのは定あにいか、脅かさねえでくれよ」「八丁堀は甘えんだよ」と定七。
   島を出ようとした富次郎を捕まえる定七。みなの前で訳を話し出す富次郎。富次郎は11から奉公に出て、13年も勤め上げた。来年年季も明けるので、暖簾分けをしてもらい幼なじみのおきわを嫁に貰おうと思っていた。しかし、七日前におきわ(酒井和歌子)が訪ねてきた。「私売られるの。」おきわのおっかさんがおととい死んだ。夏から身体を壊して寝込んでいたのだ。「おとっつあんは酒を飲んで愚痴を言うばかり、結局、薬代やら何やらの借金でどうしようもなくなって、夕べ、おとっつあんから身売りの相談をされたわ。」「って、おめえ」「時次郎さんのお嫁さんになることに子供の頃から憧れてきた。でも、きっと適わないことだとも思っていたわ」

     「で、おめえはどうしたんだい。」と安楽亭の住人。

     私は主人に言って、奉公の間貯めてきたお金を出して貰おうと思いました。主人は人情深く、道理もわきまえた方です。ただ主人は「そりゃ、その金で娘さんは身請けできて、嫁にも出来るだろう。しかしそんな身を持ち崩した親父さんがいたら、それからずっとことあるごとに金をせびりに来るだろう。賛成は出来ない。酷なようだが、その娘のことは諦めるんだ。」主人のいうことは正しい。自分でもそう思うが、だった十二両の借金で女郎になるおきわのことを考えると諦められなかった。
    そこで、自分が年季明けで貰える筈の十五両の店の金に手を付けて、おきわの家に駆け付けた。しかし、既におきわはいない。おきわの父親はいい気なもんで、女衒の鍾馗の権六と呑んでいた。どこに売られたと尋ねても教えてくれない。奉公一筋できた時次郎は岡場所のことも分からない。そこで辻駕籠に乗り、あっちの遊廓、こっちの遊廓と尋ね歩くが、そんなことで見つけられ訳がない。あと二両しか手持ちが無くなってしまい、誘われるままに呑み屋に上がった。女と酒を呑んでいるうちに、懐にあった筈の二両も消えていて、無銭飲食だと袋叩きにあっていたのだ。

    「そいつぁ、店の女に摺られたのよ」

    店の金を持ち逃げした以上、奉公先には帰れない。せめて鍾馗の権六を捜して、おきわに一目会って死のうと思ったと言うのだ。時次郎が捜したって見つけられないだろうと誰もが思った。生き仏の与兵衛がまた、仏心を出して夜の街に出て行った。定七は、他人のことなど知っちゃいねえぜと、幾蔵と、同心岡島の死体を捨てに舟を出す。引き潮の時刻に、中川の下流で簀巻きに死体を投げ込む二人。
     与兵衛は一晩帰って来なかった。心配するおみつに、女の所に泊まった可能性もあるし、生き仏に限ってしんぺえはいらねえと定七。また夜が来た。文太が雀の雛を焼いて食べようとしていたことを知って、怒り狂う定七。「掘の石に隠してあった。焼いて喰うと、んまいんだよう」と文太。酔っ払っている男が、子供がいなくなって、おっかさんは狂ったように捜しているだろうなあ…。狂ったように…。おっかさんが見つければ巣に連れて行くだろう。川の近くに置いて分かるようにしたほうがいい…。ただカラスや猫に狙われるから籠でも被せて、見張ってやることだ…。何かを忘れるためか、最近は夜毎現れ飲み続けて泥酔する男、何気にみなの話を聞いているようだ。
    翌朝、男の言うとおりに籠を被せた雛を見張る定七。おみつは、そんな姿を見つけて、そんなに近くで見張っていると来られないわと笑顔で言う。定七が人間的なものを初めて見せたことが、おみつは嬉しいのだ。
    番所で、同心の金子と、灘屋の小平、下っぴきの三人が話をしている。岡島が姿を消して、三日になる。「本当に三つ葉葵のご紋だったのか?」「あれは確かに・・。」「あの島の近くに紀州さまのお屋敷が目と鼻の先だ。紀州様が密貿易なんて、江戸中が大騒ぎになりますぜ。」そう言った岡っ引きを切る金子。「口は災いの元だぜ。おめえもな・・。」灘屋小平が帰ると、金子はつぶやく。「岡島は、脇目もふらず、出世を焦っていたからな。」
    生き仏が帰ってきた。やっと、鍾馗の権六をみつけたのだ。「まだ、おきぬは生娘だったぜ。あと3日は店に出さねえと約束させてきた。20両だ、おれは、灘屋の30両が欲しくなったぜ。」という。定七は、気乗りがしない。翌日、幾蔵の出刃包丁を持って再び島を出ようとする富次郎。金は無くなったが、おきぬを一目見て、鍾馗の権六を刺して自分も死のうと思ったのだ。取り押さえた定七は、生き仏の苦労を無にしようっていうのか、そして、おめえが殺せるわけがねえだろうと言う。そして、安楽亭のみなに、危ねえ話だが、灘屋の仕事を引き受けようと思うんだと言う。富次郎が命を投げ出そうとしたのを見ていて、気が変わったぜという。ここで死ぬのもいいんじゃねえかと思ったのだ。全員が賛成する。何故かその日は、酔っ払い続ける男は現れなかった。仕事を受けにいくと定七が出て行った。幾蔵は、賛成はできなかったが、ここの山の獣のような連中が生まれて初めて、人のために命を投げ出そうと言うのだ。ようやく人間らしい心を取り戻し始めた獣たちに思いをはせる幾蔵とおみつ。
    
     




   このところの小林正樹月間の頂点的作品。山本周五郎の深川安楽亭の原作、仲代達矢の妻で無名塾の戦友宮崎恭子の脚本。20代の自分では違和感しかなかった山本周五郎が、38年経って、他人の為に自分の命を棒に振るという字面だけではない味わいに打ちのめされた。
  打ちのめされて、B級的魅力映画を見ようという気も失せ、静かに家で飲もうと思って帰宅途中に、かっての後輩が亡くなったという電話を貰い愕然とする。先月彼が最近ツアーマネージャーを担当するバンドと一緒にやれないかと、かって自分が関わっていたバンドに打診して欲しいと頼まれて、つないであげたら、いつもブログに書いている餃子とビールの店に連れて行って下さいと携帯で話したのは、つい昨日のような気がする。栗原小巻のおみつが言う「生きてても何にもなりゃしない……、私、そんなこと許せない。みんな、あんたたちのためにいったのよ。定さんたちは死んだかもしれないのよ。あの人たちを 無駄死にさせたいの。生きてても何にもならない人なんてありゃしない。死んじゃいけない、死んじゃいけない、死んじゃいけない。富さんも定さんも与兵衛さ んも……」のシーンがフィードバックする。博華の餃子食ってないのになあ。

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