2009年8月15日土曜日

8月15日だ。

   京橋フィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで 2007-2008
   54年大映東京西村元男監督『君待船(470)』
    港に佇み、海を眺める男(林成年)がいる。重い足取りで盛り場を歩く。船員と喧嘩をしている流し田崎義男(田端義男)。男は止めに入る。揉み合う内に、船員を殴ってしまう。警官たちにみな逮捕される。
   翌朝、警察署長の河原(見明凡太郎)と田崎の妹京子(南田洋子)が話していると、義男が連れられてくる。「京ちゃんが貰い下げに来てくれて、身元保証人になってくれたからだぞ」と義男に説教する署長。あの喧嘩を止めてくれた人は?と尋ねると中里って男は、無職、住所不定だから、直ぐには出せないのだと答える署長。署長は、中里を呼び、君は殺人で、3年服役していたんだなと言う。中里精一、25歳…、3年ねえ…、長いなあ。煙草を勧め、差し支えなかったら、事情を話して貰えないかと言う署長。
   遠い目で昔を思い出す中里。早くに両親を亡くした中里は、粟島の大野屋と言う船主の家に引き取られた。成長した中里は大野丸で、船員をしている。港に戻って来ると、明子(藤田佳子)が待っていた。家に戻る途中、明子は増田屋の息子が私を嫁に欲しいと言ってきたけど、どうしたらいい?と言う。増田辰吉(中条静夫)は、札付きの不良だが、母親は増田屋に借金もあり、悪くない話だと言っているのだ。もうすぐ忠士さんが帰って来るからと励ます精一。兄さんなら私の気持ちを分かってくれるわと言う明子。途中辰吉たちと出会う。東京から洋服の生地が届いたので、持って行くよと声を掛けるが、頼んだ覚えはないわとつれない明子。
    帰宅すると、忠士が明日帰ってくることになったと母の志乃(村田知英子)が言う。忠士が大野丸の船長になるので、私は店周りをやらせていただきますと精一。翌日精一と明子は、忠士(品川隆二)を迎えに出る。正は、明子が大人っぽくなった、早く精一に貰ってもらえと言う。照れる明子。忠士と志乃が明子の縁談のことで言い争っている。辰吉は、両親に明子と結婚出来たら心を入れ替えて働くと涙を零したと言う志乃。絶対反対だ。明子は想い合っている精一と結婚することが幸せなんだと忠士。
    しかし、数日後夏祭りの晩に事件が起こった。辰吉と忠士が、明子のことで決着をつけるんだと港の方に言ったと聞いて駆け付ける精一。止めに入り、揉み合ううちに辰吉を殴りつける。とうとう辰吉はナイフを取り出した。
   そして出所して粟島に帰ったが、忠士は大野丸の難破で命を落とし、大野屋は潰れ、志乃も明子も行方が知れず、東京に出たと噂を聞いたので、東京へ出て来て探し歩いているのだと答える。
   警察署を出て来た精一を田崎兄妹が待っていた。喧嘩を止めてくれた恩義があると言って、朝食を誘う。仕事を探していると言うが、今日泊まるところもない精一を心配して、自分の部屋にいろと言う義男。
   京子は、リリアンというバーをやっている。義男はこのあたりで評判の流しだ。リリアンの客の山田が、自分の勤める川西製菓の配達課の仕事を世話してくれた。
    初日、中里の運転するトラックの助手席に川西俊作(高松英郎)が乗り込んできた。川西はしきりと、お茶を飲まないかとか、アイスを食べないかと誘惑するが、主任さんに急いで届けるよう言われていますので、と乗ってこない中里。結局、途中の店の主人が川西の友人で、そのまま下車する川西。
   ボースン頭の権藤(江川宇礼雄)が道で、車を拾おうとするが、なかなか捕まらない。そこに中里の車が通り掛かる。新橋まで乗せてくれと助手席に乗り込む権藤。リリアンに行って京子と飲もうと言う権藤に、今日は店は休みですと中里。僕の就職祝いを家でやってくれるんですと言うと、そりゃ目出度い、自分も参加すると勝手な権藤。実際、就職祝いの食事も、一番飲んで盛り上がっているのは権藤だ。権藤の指名で、義男が「君待船」を歌う。自分の境遇にそっくりで、あまりに切ない歌に、部屋を出て物干し台でボーっとしている中里。京子が来て、何か気に障ったことがあったの?と尋ねる。いや、としか言わない中里に、涙を流して、いつも中里さんは何も言わない、言って貰わないと私たちだってどうしていいのか分からないわと叫んで走り去る。

   南田洋子可愛いなあ。

   56年大映齋藤寅次郎監督『弥次㐂多道中(471)』
   神田八丁堀、溝板横丁の長屋に人だかりがしている。噂好きな江戸っ子たちは何が起こったかと大騒ぎだが、借金取りが集まって、弥次郎兵衛(市川雷蔵)と喜多八(林成年)が溜めに溜めたツケを今日こそ取り立てようとやってきたのだ。酒屋(大国八郎)魚屋(越川一)米屋(石井富子)初め大騒ぎだ。戸をドンドン叩いていると、大家の佐兵衛(中村是好)は、ワシの地所なんだから止めてくれと言う。家賃も何か月も溜めているのだ。二人は困って中に籠る。表も裏も固められているのでどうしようと喜多八が言うとモグラ作戦だと弥次郎兵衛。二人は、床下に穴を掘り、隣の寺の墓地に出た。和尚(武田徳倫)は、墓石が揺れ始め、地面から手が出て来たので、腰を抜かして経を読む。

   銀座シネパトスで、日本映画レトロスペクティブーPART2ー」~戦争と人間 良心の重さ~
   59年松竹小林正樹監督『人間の條件 第3部(472)』

   59年松竹小林正樹監督『人間の條件 第4部(473)』

    子供の時分に映画館で見た後、幾度となくテレビの一挙上映で見てきた映画だ。今回第1部と第2部は、みられなかったが、自分の記憶しているストーリーはスタンダードサイズ。実際はシネスコだったんだ。満州の国境近くの寂寥感はやはりシネスコだな。テレビ放送のためにサイズを4:3にした人間の責任でもなく、そこで切られてしまう部分に大事なものが映っている。

   谷崎×エロス×アウ゛ァンギャルド 美の改革者 武智鉄二全集
   64年松竹/第三プロ武智鉄二監督『白日夢(474)』
   谷崎潤一郎と武智鉄二の前書きが出る。「初め、武智くんはこの作品をオペラにしたいと言って来た。・・・・・この映画になったが、武智君のシナリオは完ぺきにこの作品の世界を描いている。また、当時検閲などで書けなかった部分も、書き足してくれた気がする・・・。主演の路加奈子くんにも会ったが、原作のイメージ通りだ・・・。云々 谷崎潤一郎」協賛の一社消されている。
   歯医者。激しい金属音。老人(小林十九二)の歯型を取る助手の女(松井康子)。歯科医(花川蝶十郎)は女の患者の虫歯を削っている。倉橋純一(石浜朗)やってきて診察券を出し、待合室に座る。少し経って、葉室千枝子(路加奈子)やはり診察券を出し、斜め前の席に座る。まず葉室千枝子の名前が呼ばれ、次に倉橋の名前が呼ばれる。
    智恵子の口腔内を調べ治療する歯科医。千枝子の顔は苦痛に歪みレースのハンカチーフを握り締めた手は震え、豊かな胸と腹部は上下を繰り返している。フェチズムとサディズムが混じったエロチックな光景である。倉橋は隣の女が気になっている。倉橋の虫歯は悪く、抜歯をしようと歯科医は言う。麻酔を肩に注射される倉橋。遠くなる意識の中で、隣りの女が失神する。服を緩め、麻酔ガスを吸わせる助手。歯科医は、女の胸を露出させ、乳房の上を噛み歯型を付けている。倉橋は、完全に眠ってしまっている。ベンチを持った歯科医に抵抗しているようだが、簡単に歯を抜かれる。
    赤坂のナイトクラブ月世界で、千枝子が歌っている。客席にはだれもいない。油絵を持った倉橋が店にやって来て、この絵をマネージャーに届けに来たと言う。千枝子が歌っていることに気づく倉橋。いつの間にやら、客席に正装した歯科医がただ一人座っている。歌い終わり一人拍手をする歯科医。
    千枝子の楽屋、千枝子と歯科医がいる。天井から倉橋が覗いている。歯科医が言う「そう、いつものところに行くよ」「今夜は行けません」「あなたはきっと来ます」「ここてお話しをするだけではいけないんですか」「ただ顔を見るだけじゃつまらんじゃないか」「後生ですから、今夜は堪忍して」「車で待っていますよ」と言い残して先に部屋を出て行く歯科医。千枝子は泣いている。倉橋が降りてくる。倉橋の気配に気付いた千枝子が振り向く。「智恵子さん、僕はあなたを救いに来ました。さあ早く逃げましょう。」千枝子は涙を拭いて「あの人が待っています。どうか、そっとしておいて下さい」「あいつは悪魔なんだ。あいつに関わっていたらあなたは堕落するばかりだ。」「もう堕落してしまいましたわ」と言って出て行く千枝子。
    歯科医と千枝子の乗った車がホテルの前に着く。二人が中に入ると、車の屋根から倉橋が降りる。中に入るが、部屋がわからなかったのか、再び出てくる倉橋。4階位の部屋に明かりが点いている。ベランダに登って窓から中を見る倉橋。中では、歯科医が縄を出し、千枝子の手首を縛り、鴨居に掛けた縄を引く。腕を引き上げられ呻く千枝子の着衣を、鋭利なメスとハサミで切り始める歯科医。

   松竹の富士山マークが出て驚く。更に、谷崎の推薦文、石浜朗まで出演だ。路加奈子がもう少しいい女であれば・・・。子供の頃、通っていた歯医者の苦痛と恐怖が甦ってきた。今の歯医者は随分変わったんだなあ。

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