2009年4月4日土曜日

立て万国の労働者

   阿佐ヶ谷ラピュタで、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第46弾】嵯峨三智子
   58年松竹京都倉橋良介監督『忠臣蔵 暁の陣太鼓(222)』
   新潟・新発田藩、藩主溝口信濃守(北原隆)が家臣たちと剣術の試合をしている。指南役の中川主膳(永田光夫)や家老(上田吉二郎)の立ち会いで、家臣たちは手加減をし、信濃守を増長させるばかりだ。馬鹿らしくなった中山安兵衛(森美樹)が去ろうとすると指名され相手をすることになり、手加減をしない安兵衛は信濃守をきりきり舞いさせ、信濃守の不興を買う。その夜、このままではいけないといよいよ殿への建白書を出さなければと爺と話をしていると、頭巾を被った不審者が安兵衛に襲いかかった。返り討ちにして、顔を改めると、指南役の中川主膳だ。爺はこのままでは安兵衛に不利になると、建白書は預かるので、藩を出奔するように勧める。
  浅草浅草寺門前、新潟とは比べものにならない賑やかさに驚きながら歩く安兵衛の姿がある。ルーレットのような賭事をしている香具師がいる。誰も張っていない目にうまいこと矢印が指すのに感心した安兵衛が下を覗くと人がいる。香具師たちは、安兵衛を取り囲み文句があるかと絡んできた。そこに男装の女髪結いの三日月のお銀(嵯峨三智子)が通り掛かりとりなしてくれた。
   三日月のお銀は、男嫌いで通っていた。しかし、何故か安兵衛が気になってしょうがない。お百(山鳩くるみ)に、安兵衛が礼を言いに来たかと尋ねても来ていないという。思わず客(石井冨子)の出来あがりかけた髪を崩し、こんな顔に似合わない髪型にするんじゃないと八つ当たりする。
  to be continued.

      シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪愛欲大決戦!
      61年松竹中村登監督『斑女(223)』
     画家の加賀美(山村聰)が、高台で東京タワーを描いている。そこに着ているものは垢抜けないが美しい女(岡田茉莉子)が現れて視界を塞ぐ、咳払いをすると女は追われているので、匿ってくれと言う。後ろにある電話ボックスに隠すと、若者(佐々木功)がやってくる。尋ねられるが、知らないと答えると走り去った。出てきた女に、特に悪そうな男には見えないが誰だいと尋ねると訳がありそうだ。東京タワーをエッフェル塔に見立てても駄目だなと加賀美は言って、女の話を聞く。タクシーが止まり、派手な若い娘ルリ子(芳村真理)が降りる。加賀美が絵を描いていたあたりに来ると、若い男がいる。このあたりで絵描き見なかったかと聞くと、男も自分も聞きだいことがあると答える。近くの喫茶店、ルリ子は若者にほらやっぱりいた、と声を掛ける。ここまで来る間に若者から事情を聞いていた。美しい女は英子、若者は義弟の浩。北海道での、折り合いの悪い夫との生活を捨てて東京に出て来たのだと言う英子。英子
を慕う浩も着いて来てしまい駆け落ちのようになったが、このままでは良くないと上野駅で、浩を置いて逃げてきたのだと言う。
  加賀美は、中年だが独身主義で、ルリ子を愛人としていた。ルリ子は加賀美に姉弟の部屋など世話して上げる必要があるわねと言って、自分の今までの下宿を譲り、自分は友だちの?子が住む、東京タワーの見えるマンションに住まわせて欲しいと加賀美にねだる。
そして、いつも行くルリ子とカナ子(峯京子)が勤める銀座のクラブ王冠のマスター(佐野浅夫)に英子を紹介する。英子の美しさはマスターも大満足で、直ぐに働くことになる。加賀美は、衣装は店で貸してくれるが、何もアクセサリーを持たない英子に、高価な真珠のネックレスを強引にプレゼントした。ルリ子の住んでいた部屋に、直ぐ引っ越した。大家(沢村貞子)と、大阪から家出してきた彼女の姪が居候をしている。姪の清美(倍賞千恵子)は、浩に興味を持ったようだ。英子は大家に、浩が住み込みで働ける仕事を探してくれるよう頼んだ。その夜、英子を求める浩にあらがいながらも受け入れてしまう英子。
   翌日、英子が店に出ていると、浩から電話があり、近くの中華料理屋の住込みの仕事が見つかったので、今日から引っ越すという。ひとり、帰宅した英子は寂しさを感じる。加賀美が真珠のネックレスを買ってくれた宝飾店の瀬川(杉浦直樹)が店にやってくる。閉店後、話があるので会って欲しいと言う瀬川。胸を躍らせて英子が出向くと、瀬川が連れてきていた外人バイヤーが英子を見染めたので、来日中、専属のホステスとなってくれと言う意外な言葉だった。英子は涙が出てきて、化粧室に行って泣く。瀬川の前に戻ってきた英子は承諾する。

      京橋フィルムセンターで、映画の中の日本文学Part.2
      54年新星映画社山本薩夫監督『太陽のない街(224)』
     大正15年、常雇工36名の解雇から始まった大同印刷の労働争議は長期化していた。闘争本部だけでなく、組合員や家族たちも団結し、よく耐えていた。春木高枝(日高澄子)たち製本女工は行商などをしている。しかし、病気の母親を始め5人の家族を養うためカフェの女給をしているおきみ(岸旗江)を、婦人部の幹部たちは、貞操を売り物にしていると批判的だ。高枝たち、貧乏社宅住まいの女工たちはおきみの味方だ。大川印刷の職人だった高枝の父(薄田研二)は昔気質で、組合だ争議だと言う高枝を恩知らずのキチガイだと罵っている。しかし、父は印刷機で指を2本無くした時に僅かばかりの見舞金でクビにされたのだ。今は寝たきりで18になる妹の加代(桂通子)に面倒をみてもらっているのだ
    加代は父と姉の板挟みに悩んでいたが、争議団の特務班にいる宮地(原保美)が支えになっていた。宮地は会社側のスト破りの摘発など荒っぽい仕事をしている。加代は、宮地の子供を宿していた。ある日、大川社長(滝沢修)の自宅の放火未遂が起き、争議団の幹部たちが次々に捕縛された。実は、放火未遂は争議の進捗にいらいらした宮地が、高級車にふんぞり返って乗っている大川に腹を立てて、やったことだった。ある晩、孝枝が目を覚ますと隣の加代がいない。外のどぶ川に二人がいるのを見てそっと雨戸を閉めると、加代が宮地を連れてくる。犯行を告白する宮路に、孝枝は、逮捕された幹部を釈放させるためにも自首を勧め、加代にご飯を炊かせる。朝ご飯を食べさせ、宮地を送り出す孝枝と加代。
   放火未遂で軽い刑で済むと思ったが、特高刑事たち(西村晃)は、宮路を思想犯として争議団を一網打尽にしようと宮地を激しい拷問にかける。釈放された争議団幹部たちも、会社が雇った暴力団と特高からの監視と妨害を受け、おきみの働くカフェの二階で秘密会議を開いている。石塚(加藤嘉)たち実力行使を主張する者に、臆病者と非難されながらも、組合員を守るため粘り強い説得をする萩村(二本柳寛)。組合員一人一人に暖かいまなざしと穏やかに語る萩村に孝枝は好感を持つ。
    しかし、ある日、孝枝と萩村が食事をしていると、会社側の暴力団(花沢徳栄)たちに、襲われ重体に。孝枝は、不眠不休で看病をする。萩村がようやく意識を取り戻し、温めた牛乳を口にできるようになったところで、近所のおばさん(原泉)が、加代が警察に引っ張られると告げに来た。長屋へと走る孝枝。家の前で、特高刑事たちに連れていかれようとしている加代を助けようと刑事たちに飛びかかった孝枝も一緒に逮捕される。数日後、孝枝は釈放されたが、帰宅すると、孝枝だけでなく、可愛がっていた加代まで取っていた組合への憎悪で、動かない手足で組合の機関紙などを引き裂いている。数日後、加代は返されたが、激しい拷問で弱り切っていた。胎内の子供も、加代も皆の祈りにも関わらず助からなかった。18歳の短い命を絶たれた加代。
   ある晩、工場から火が出た。火事騒ぎの最中に、争議団のメンバーを逮捕するために、大規模な警察がやってきて、主だったメンバーを逮捕していった。勿論、使われていない小屋が燃えただけなことでも分かるように完全に謀略だ。孝枝の目の前で萩村が連行されてく。帰宅すると父親は首を吊っている。
   警官たちの厳重な監視の中、組合総会が開催された。主要幹部が逮捕された今、残された幹部たちは、全員解雇と涙金という、組合完全敗北の会社案を受け入れると一方的に発表する。死んだ仲間まで出した闘争は何だったのかと納得できない組合員も、当然多く、大混乱になる。団旗を取り戻せという声に、会社側のスパイや、警官も加わって、団旗の取り合いになる。しかし、組合員たちは、取り戻した団旗を掲げ、行進をしていく。抜け殻のようになっていた孝枝も、力を取り戻していく。

2009年4月3日金曜日

日本映画の宝。

     午前中は、大門の睡眠クリニックから歯医者。
     神保町シアターで、浪花の映画の物語
     66年今村プロ今村昌平監督『「エロ事師たち」より 人類学入門(220)』
     とある郊外の駅で、男女に声をかける男。ハイキングコースを登り、人気を見て準備を始める。学生服とセーラー服に着替える男女は素人。4台ずつ纏めた8㎜カメラにフィルムを入れ、合計8台のカメラを同時に回し始める。ブルーフィルムの撮影だ。男の名は、緒方(小沢昭一)。ブルーフィルム、エロ写真、非合法だが世間の男たちの幸福のために活動するエロ事師だ。
     緒方は、松田理髪店の未亡人の春(坂本スミ子)の二階に下宿していたが、情の深い春と内縁関係になっていた。春には、長男の光一(近藤正臣)と長女恵子(佐川啓子)がいる。光一は、春に甘やかされ予備校生の今でも、母親の布団に潜り込んでくるようなマザコンだ。勿論、緒方には強い屈託を持っている。一方、恵子は小学生の時、夜中に緒方と春が同衾しているのを見てしまい、そのことで、交通事故に遭ったことを、緒方は今でも気にしている。そのこともあって可愛がる緒方に、恵子もなついていた。
     春は、夫が亡くなる前に自宅前の川で釣り上げた鮒を飼っている。巨大に成長した鮒は、夫の春に対する未練が宿っており、何かある度に跳ねるのだ。元々心臓が弱かった春は、知り合いのおたけ(西岡慶子)に生駒さんのお札を貰ったり、祈祷を頼んだりしている。おたけは、緒方との関係が、夫を成仏させず、このままだと良くないことが起こると言う。

    東銀座の映画会社で打合せのち、

     シネマート六本木で、新東宝大全集
     55年新東宝内田吐夢監督『たそがれ酒場(221)』
     開店前の店内で専属歌手の丸山健一(宮原卓也)が、師匠の江藤(小野比呂志)の伴奏で、「菩提樹」を歌っている。3コーラス目で音程を間違え怒られながらも必死についていく。
      ここは「たそがれ酒場」という酒、食事に加え、歌やレコード、ストリップなどの娯楽を供する
会社員、学生たち庶民の憩いの店だ。ユキ(野添ひとみ)たち、女の子たちが出勤してくる。
支配人谷口(有馬是馬)に言われて開店の準備を始める。常連の梅田(小杉勇)は、実は元従軍画家で先生と呼ばれているが、絵筆を折り現在はパチンコで生計を立てている。煙草を谷口に買って貰っているのだ。
   客がやってき始める。旦那と妾が月々の手当のことで揉めている。小判鮫と陰口を叩かれている常連客の汲島(多々良純)は、毎晩やってきては、他の客から酒をせびったり盗み呑みしている。
競輪で大穴当てたとホクホク顔の岐部(加東大介)が特級酒を持ってこいと注文する。岐部は、卵丼を食べようとしている男(東野英治郎)を見つけ声を掛ける。「鬼塚大佐どの、北支の軍隊でご一緒させていただいた曹長の岐部であります」酒代にも事欠くしがない不動産ブローカーをしている鬼塚は、岐部に御馳走になってご機嫌だ。サルトルを語る学生たちに毒づき、レコードを軍歌に替えさせる。
愚連隊の森本(丹波哲郎)たちが現れた。鱒見(宇津井健)とユキのことで争っている。ユキと鱒見は愛し合っているが、森本はユキに執心なのだ。店でも、金を払わない森本にはいい顔をしないが、札束を出して、ユキにビールを持ってこさせる。
    ステージでは、健一の「カチューシャ」や「丘を越えて」などを歌う。次にユキが歌い始めると鱒見がやってきて、フォークで森本の手を刺し、二度とユキの周りをうろつくなと言い金を取り上げた。この金を持って今晩ユキと大阪に行こうと思うので10時半に東京駅に来てくれと梅田に伝言した。
    ユキの歌が終わったところでユミの妹の由美子が泣いているのを店のものが気が付く。ユキは父親が戦死し、深川の家も焼けたため、母親が人足をしながら、ユキと由美子を育てて来たのだ。
その母親が怪我をし、働きに出られなくなり、米も一粒も残っていないというのだ。ユキは来月分の給料の3千円を前借りさせてくれと支配人に頼むが、支配人もオーナーから禁じられているので出来ないのだ。見かねた梅田は、自分が今晩中に返すからと、借りてユキに渡し、ポケットから金を出して、ユキと由美子にラーメンでも食べろと言う。
    ステージでは、客によるのど自慢などが行われている。小判鮫が上がって浪曲を歌う。
    ストリッパーのエミー・ローザ(津島恵子)がやってくる。彼女もバレエをやっていたが、生活のために酔客の前で肌をさらしているのだ。
     客からのリクエストで健一が歌うコーナーだ。その時、新日本歌劇団の中小路龍介(高田稔) たちが来店する。それを認めた梅田は、健一にカルメンの闘牛士の歌をリクエストする。
場末の飲み屋で歌う健一の実力に驚く中小路。梅田は、小判鮫とカルメンを踊って見せながら、
その隙にユキを東京駅に向かわせる。
    梅田に声を掛ける男がいる。かって南方戦線の同じ報道部にいた毎朝新聞の山口(江川宇禮雄)だ。久し振りの再会に喜ぶ二人。
  一方、健一も、中小路に呼ばれ、自分たちの歌劇団に参加しないかと誘われ、明日朝事務所に来て、その夜出発する北海道公演に参加したのだ。喜んで師匠の江藤に話す健一。しかし、江藤は行くなと言う。口には出さないが、中小路は江藤にとって洋行帰りの新進音楽家として、一度は成功を修めた自分から全てを奪った男だった。
    その騒ぎの中、江藤は人を刺し、刑務所に入ることになったのだ。エミーは、健一のまたとないチャンスを認めてやってくれと頼み、ステージに上がる。喜ぶ客席。しかし、ステージ終盤、陰気な顔でショーを待っていた男が、急にドスを抜き、エミーに襲いかかる。最初は演出かと拍手を送っていた客たちも、慌てて取り押さえる。幸い、腕に傷をつかられただけだったが、エミーと支配人も警察署に、参考人として連れていかれた。
   梅田は、山口に自分の絵を3000円で買ってくれないかと言う。承諾すると、店に貼ってあったポスターの裏側に山口の似顔絵を描く梅田。いい記念になったと喜ぶ山口。支配人が戻ってくると、その3000円を返す梅田。
   閉店だ。客を送り出し、片づけをする。ユキがいないことに気が付いて少し騒ぎになるが、梅田は何人かの娘に訳を話して、自分が明日改めて支配人に話すのでそっとしておいてやれと話す。全ての酒に封印し、一升瓶の残りの量にしるしをつける厳重さだ。梅田は残り、江藤に一杯の酒を渡し、中小路の来店をしり、健一に闘牛士の歌を歌わせたのは自分だと告白し、全てを奪った怨讐はあるかもしれないが、我々老芸術家は、若い者に未来を託すことではないのかと語った。静かな時が流れる。涙を流した江藤は、健一に明日は早起きをして、新世界歌劇団に出かけなければならないのだから、そろそろ休もうと声をかけ、しばらく、梅田に聞いてもらえなくなるのだから、最後に1曲贈ろうじゃないかと言う。江藤の伴奏で健一は「?」を歌う。ユキが店に戻ってきた。鱒見に会えなかったのかいと梅田が尋ねると、会ったけどお別れを言ってきたの、こんなに愛する人は二度と現れないかもしれないが、私よりも、母や妹がもっと可哀そうだからと言うユキ。梅田は優しくユキの肩に手を置き、店の寮まで送って行こうと言う。二人が店を出ていく。歌い続ける健一。
   内田吐夢、いいなあ。グランドホテルスタイルというのだろうか、梅田を中心に据えながらも、店に現れる多くの人々が抱えている人生を描きだす。感傷的なエンディングだが、ひねくれた自分でも、鼻につくというより、深く味わえた。いろいろ事件が起きながら、ゆったりとした時間が流れていく。しかし94分。泣け泣けと言わんばかりに大きな音で音楽を流し続ける最近の映画とは、やはり演出の力が圧倒的に違う。この後、今日まで公開の新作邦画を2本見ようかと思っていたが、この充実した気分を大事にしようと思いなおし、西荻に戻って、博華で餃子とビールであった。

2009年4月2日木曜日

全然大丈夫。本当に大丈夫?

   池袋新文芸坐で、ケラリーノ・サンドロウ゛ィッチ監督『グミ・チョコレート・パイン(216)』
   2007年5月、37歳の大橋賢三(大森南朋)は会社をクビになり、転勤で3年働いていた青森から東京のはずれにある実家に戻ってきた。母親(高橋ひとみ)は相変わらずだが、久しぶりに会う父親はアルツハイマーかボケて賢三のことが判らなくなっている。母親が溜まっている郵便物の束を渡す。去年のものまである。その中に高校の同級生だった山口美甘子からの封書がある。甘酸っぱい気持ちになりながら、封を切ると、「あなたのせいなのだから」とだけ書いてあり、驚く賢三。母が学校の近くの空き地から、あなたが埋めたバッグが出てきて、届けてくれたので、机の上にあると言う。addnis(笑)の白いスポーツバッグを開けると、雑誌のGOROやエロ本に混ざって、山口美甘子の赤いブルマーが入っている。賢三は高校時代の友人のカワボン川本良也(マギー)に電話をする。AV監督となっているカワボンは、美甘子が、去年自殺したと言う。撮影中のカワボンと夜待ち合わせて電話を切る。
   1986年5月、黒所高校二年、仲良かったカワボン(森岡龍)とタクヤ小久保多久夫(金井勇太)とは別のクラスになってしまい、話が合う人間が誰もいなかった。その頃の賢三(石田卓也)は、昼飯代を倹約しての名画座通い、家では、おにゃんこクラブのレコードとGOROのグラビアでオナニー三昧、夜は、小久保電機の二階に集まって、タコハイを呑みながら三人で、夜通し音楽と映画の話をするのが常だった。ある日、タクヤが輪ゴムを10分以上噛んでいると、空腹止めに飲む水道水が甘く感じると言い出した。その時、隣の蛇口で水を飲む同じクラスの美少女・山口美甘子(黒川芽以)に賢三は一目惚れする。更に、名画座に行くと偶然美甘子が、ジョン・カーペンタ-監督の「ニューヨーク1997」のポスターを見ているのを目撃し、俄然ボルテージが上がる。

   レコード屋のシーンで、担当していた女性アーティストのアルバムが飾られていたので、この時代は既にレコード会社の宣伝担当だった頃だ。80年代は青春時代というよりもDon't Believe Over 30'sのカウントダウンだっだが、なかなか懐かしい。70年代、飯を抜いての名画座通いも思い出す。周りの人間と自分は違うと自意識過剰に思っていても彼女も出来ず、音楽と映画とオナニーしかない10代の男子、切ないなあ。同じケラの監督作の「罪とか罰とか」も悪くはないが、圧倒的にこっちだな。タイトルは自分の時代は「グリコ・チヨコレイト・パイナツプル」だったが…。

   藤田容介監督『全然大丈夫(217)』
    ホームレスの女が、川でゴミを拾っている。満足そうに自分のねぐらに戻ってくると、集めたゴミでオブジェを作り始める。女のねぐらの周囲はそうしたものでいっぱいだ。アートを作るホームレスと言うか、ホームレスのアーティストと言うか、ヌー(白川加代子)は聾唖者である。ホームレス仲間のナガやん(大久保鷹)が、オジヤを朝食だと差し出した。ヌーは、ナガやんにしきりと丸い物が欲しいとジェスチャーをする。
    植木屋(田口主将)が河原で、たち小便をしていると、近くで、ヌーたちを双眼鏡で観察している女(木村佳乃)がいる。何故か女は竹輪を握りしめ食べながらホームレスを見ているのだ。「バードウォッチング?」と尋ねる声に女が顔を上げると、植木屋の股間は出したままだ。女は異様な声を上げて瞬く間に逃げ去った。しばらく後、アートホームレスの女のねぐらの脇に、大小、各色のセロテープ、ガムテープを何本も置く女の姿がある。女はヌーのサインがセロテープのことだとわかっていたのだ。薄暗いアパートの一室で、クレパスでヌーの絵を書き続ける女がいる。部屋中、ヌーの絵が何枚も貼られている。
     その頃、植木屋は後輩の若い男と昼の弁当を取っている。若い植木職人は、古本屋を営む英太郎(蟹江敬三)の長男で、30歳目前の遠山照夫(荒川良々)である。照夫の幼なじみの小森久信(岡田義徳)は、病院の清掃を請け負う会社デラックリンに勤め、大病院に常駐し清掃員たちのマネージャーをしている。清掃員たちは勤務中も酒臭いアル中の男(鈴木卓爾)や寡婦の豊原(根岸季衣)がいる。豊原は、若い小森に何かと話かけてくる。豊原によれば、やはり常駐の事務員、梅沢(江口のりこ)は絶対小森に気があると言うのだ。
    照夫が帰宅すると本屋で店番をしている父親英太郎の様子がおかしい。鬱々として、何を話し掛けても、上の空だ。具合がよくないので、店番を変わってくれと言う英太郎に、自分は終日肉体労働をしてきたのだから、嫌だとこたえるが、夕食に上寿司の出前を条件に店にでる。 閉店後、照夫の部屋に小森たち友達が来ている。彼らは自主映画を作り、照夫は人を驚かすことが大好きだ。
      小森はバイトの面接をすることになる。履歴書を見ると木下あかり。ホームレスの絵を描いていた女だ。何か履歴書の写真からはマイナスのオーラが出まくっている。しかし、当のあかりは病院に行くまでの間に、東京タワーをバックに写真を撮ってくれと上京カップルに言われ、断ることも出来ず、あれこれ注文されている内に、極度の緊張状態になり、カメラを落として壊してしまう。病院に着いた時には、泥だらけのコートと破けまくったジャケット、鼻血まで流して酷い有り様なあかり。しかし、小森は治療をしてやる。小森は、あかりを採用したが、段ボールを組み立てガムテープで止めることも出来ない。終いには高価な医療器具にぶつかって倒してしまい、即クビだ。

   シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪愛欲大決戦!
   65年東宝木下亮監督『肉体の学校(218)』

   神保町シアターで、浪花の映画の物語
   60年松竹大船大島渚監督『太陽の墓場(219)』
   寄せ松(伴淳三郎)の娘の花子(炎加世子)は、大阪港湾地区で元衛生兵の村田(浜村淳)を使って売血をやっている。一人300円。人集めはヤス(川津祐介)やポン太(吉野憲治)が担当し、このあたりをシマにしているヤクザ大浜組(清水元)や愚連隊の信栄会の信(津川雅彦)の目を盗んでの大胆なシノギだ。花子に使われているのも嫌気がさしたヤスとボン太、タケシ(佐々木功)は信栄会の仲間に入れてもらいに行く。
    ドヤ街に、帝国陸軍の元士官だったと言う動乱屋(小沢栄太郎)が現れた。食うものもすむところもないくせに偉そうに、来たる対ソ戦のための武装資金が必要だと言う動乱屋を仲間に入れ、父親の寄せ松のドヤに住まわせてやる花子。しかし、弁舌巧みな動乱屋は、寄せ松の手下だった桂馬と香車や、村田を手懐け、売血のシノギを乗っ取ってしまう。タケシは、さらってきた女たちに売春をさせている信栄会のシノギがどうも好きになれない。直ぐに逃げ出して食堂の店員になるが、信栄会の副会長マサ(戸浦六宏)や竜(松崎慎二郎)たちに見つかり、愚連隊を抜けることは出来ないと袋叩きにあう・・・。

  夜は下北沢。本当に久しぶり。昔よく行っていた店が無くなっていたり、結構変わっていて驚く。下北沢の駅に降りたのは、一年振りとは言わないが、半年以上、下北沢で飲まなくなって随分たつ。80年代は、よく通っていたのになあ。「兵庫のおじさん」て知り合った作家のSさんの店スロコメ。コピーライターの畏友(田中康夫か(苦笑)…)T氏のお誘い。温泉アートイベントやらG20のサミットやらの涼音堂茶舗星憲一郎さんのトークライブ。といっても居酒屋の隣の席の客たちの話を立ち聞きしてたら、滅法面白くて、聞き入ってしまった感じのユルいシチュエーションとトークにはまった。

そろそろ映画館通いも卒業しようかと思ってはいるのだが・・・。

    渋谷シアターTSUTAYAで、

    野伏翔監督『初恋 夏の記憶(204)』
    夏の公園を歩く穂波祐介(山田健太)の姿がある。昔を思い出すように、夏の青い空を見上げる。
    祐介が15歳の時に、父親の軍司(石黒賢)は、病弱な妻の美恵子(石村とも子)の健康のために、山梨でペンションを始めるために、一家で引っ越した。ペンションと言われて来てみると、廣月荘という単なる民宿だ。父親の手伝いで、近くのワイナリーにワインを仕入れに行く。成島というその家は、主人が亡くなり、農園は既に人手に渡り、残ったワインを、売っているのだ。残された継母の文(麻生祐未)と娘の梨生(多岐川華子)との間はうまく行っていない。しかし、祐介は二階の窓から見えた梨生の美しさにときめく。
   美恵子の両親(竜雷太、島かおり)がペンションにやってくる。

  寺内康太郎監督『デメキング(205)』
  宇宙を隕石が進んでいる。海岸に、学生服の蜂谷浩一(なだぎ武)が座って、日の丸弁当を食べている。赤いマフラーを首に巻き、天才と書いてある緑色のヘルメットを被り、バイクにまたがる。工業地帯を飛ばす蜂谷。
   万々浜マリンパーク、蜂谷はここでアルバイトをしている。

   内田英治監督『ビートロック☆ラブ(206)』
  ライブハウスGRAPH、ビジュアル系(?)ロックバンドのラブダイビングは、メジャーデビューを夢見てライブをしている。対バンはスクリュー。メジャーデビューしている彼らは、ラブダイビングのリーダーでサイドギターのアキ(荒木宏文)や、世界制覇が口癖のボーカルのシン(武瑠)の目標でもある。先輩のスクリューのボーカル鋲 (びょう)さんの歌を、客席の後ろで聞いている二人。アキは、ふと最後列で、涙を流しながら聞いている音大生七海(山崎真美)の姿を見て惹き付けられる。
   アキは、ジャズのかかる喫茶店でアルバイトをしている。店でのアキは伊達メガネを掛け大人しく、ステージ上とは全く印象が違う。ある日、店に、七海が客としてやってくる。気になって、挙動がおかしくなるアキに、早めにいっておくけど、あなたなんか趣味じゃないからと釘をさす七海。GRAPHのオーナーの熟女正子ちゃんが、昼間、リハにライブハウスを使わせてくれることになる。契約したいというプロダクションも現れ、メジャーデビューが見えてきたと、ベースのレイ(桐山レン)、ドラムの虎太郎(大河元気)サイドギターのRoku(小野健斗)は大喜びしていると、シンが一人で断ってきたという。あんなプロダクション駄目だというシンをみんな勝手だと非難するが、アキはこれからはちゃんと相談して決めろよと言う。正子ちゃんは、アキにちゃんと練習しろ、ジミヘンもキースも努力してギターヒーローになったんだ。そのためにタダでリハをさせてやっているんだ、やらなかったら身体で払って貰うよと寒いことを言う。
   アキのバイト先に、七海はよく来るようになった。しかし、今も冷たい目で見るだけだ。ある日、スクリューのライブで泣いていましたよねと声を掛けるアキ。あのライブに来ていたんだと言う七海に、出演していたからと言いながらも、自信を持って自分のバンドのことを話せないアキ。正子ちゃんが、来月スケジュールの空きがあるので、ラブダイビングのワンマンをやろうと言う。その条件として、ここで予選が行われるタイアップコンテスト(通称タイコン)に出演しろと言う。タイコンで優勝すれば、200万の賞金がもらえて、メジャーデビューも出来ると言う。盛り上がるラブダイビングのメンバーたち。

   シネマート六本木で新東宝大全集
   50年新東宝/瀧村プロ溝口健二監督『雪夫人絵図(207)』
   信州からハマ(久我美子)が、かって信州藩当主だった信濃子爵奥様付きの女中として熱海の別荘にやって来た。ばあやのお銀(浦辺粂子)と書生の誠太郎(加藤春哉)がいる。お銀は、長旅で疲れたろうからと温泉に入れてくれた。ハマは、女学校自分に遠くから、若奥様の雪(木暮実千代)を見かけたことがあった。世が世であれば、姫君。姫様らしい気品のある美しさにときめいたものだ。浴室に案内してくれた誠太郎は、殿様は京都にキャバレーの歌手の綾子(浜田百合子)を妾にしていて、めったにここには来ないと言う。また雪には、本当は想い人があるのだと説明する。風呂から上がったハマに、お銀は、急な用事が出来たと言う。大殿様がみまかったので、東京のお屋敷まで、雪の礼装を届けて欲しいと言うのだ。
    東京の屋敷が分からないと言うハマに、芦ノ湖の山のホテルにいる菊中先生のもとに行き同行させて貰えばいいと言うお銀。山のホテルに行くと菊中方哉(上原謙)が待っていた。先生と言うのが何をしている方ですかとハマが尋ねると、信濃家の書生だと言う方哉。雪が学習院に通っていた時には送り迎えや、乗馬テニスのお相手をしていて、親を継いで雪のお琴の師匠をしていると言う方哉。
    東京の屋敷は通夜で、ごった返している。大殿様の2号、3号らに、当主の直之(柳永二郎)が文句を言っている。直之は山師の口車に乗せられて、多額の借金を作り、信州の家屋敷、山林、田畑全てを手放していた。大殿様は遺言で、遺産分配から直之を外すよう言っていたのだ。しかし、直之が2号3号如きが口出しするな。こんなヤクザの養子はクビだと言うのか、別れられるのなら、別れてみろと雪を呼ぶ。乳母日傘で育てられた雪は、自分の意志で決断することができない。更に、直之は、通夜にも関わらず、雪を寝間に誘い、拒む雪を強引に征服する。直之に抱かれると、雪は捨てないで下さいと懇願してしまう。直之は、生娘のハマに寝間に水を持って来させ、夜具の脇にある雪の乱れた着物を畳ませるのだ。
   熱海の別荘で、お銀は方哉を相手に、直之の荒んだ行いに憤っている。また、それを黙認する雪にも嘆かわしいと言うのだった。誠太郎は、そんな二人の会話を立ち聞きして、ハマに通夜の夜直之と雪の間に何があったのかとハマに尋ねて、叱られている。熱海に戻った雪は方哉に相談している。直之の強引さを受け入れてしまう自分の弱さを嘆き、誰か強く私をさらってくれないかしらと言う。方哉は、雪が自分で解決しなければ駄目だと言う。力強く生きて行かなければと説いても、方哉にすがることばかりな雪。泣き出して抱きついてきた雪を、心を鬼にして、振り払う方哉。

   女子女子over8
   有馬顕監督『やまないカーテンコール(208)』。ナリオ監督『記憶という名のバスと真冬のリディム(209)』。西條雅俊監督『土井さんの不幸(210)』。山田光栄監督『ramily(211)』。鎌田千香子監督『月照の歌(212)』。河本隆志監督『アメリカ女(213)』。酒井建宏監督『街の右側(214)』佐藤良祐監督『ライツオブリトルタウンズ(215)』

2009年3月31日火曜日

今年になって203本、会社を辞めて1年で603本。だから?と言われても返す言葉はないが・・。

     池袋新文芸坐で、
     近代映画協会新藤兼人監督『石内尋常高等小学校 花は散れども(200)』
    大正12年頃、廣島県石内村、教室の真ん中で三吉が鼾をかいて眠っている。市川先生(柄本明)は怒って、防火バケツを下げて教室の後ろで立っておれと怒鳴った。級長の良人も副級長のみどりも、教室は勉強をするところじゃから眠ってはいけないと言った。市川先生は、三吉に昨日の夜は何をしていたんだと尋ねた。三吉は、台風が来そうなので、婆ちゃんまで一家総出で山の田んぼの稲刈りをすることになり、学校から帰って夜通し働いていたと言う。それでも三吉の家では米は食えず麦を食っているのだ。市川先生は号泣し、訳を聞かんで立たせたワシが悪かったと三吉を許した。
     運動会だ。騎馬戦、玉入れに続いて、先生対抗リレーだ。市川先生はドタバタ走ってビリだが、バトンを受け取った林直子先生(川上麻衣子)は速くて抜き返す。暫くして、教壇に立った市川先生が、エッヘンと咳払いをして、重大発表があると言う。先生は明日結婚をする。よって明日は自習とする。花嫁を紹介すると言って教室を出た市川先生が連れてきたのは、女子が噂した通り、林先生だ。本当に市川先生は嬉しそうだ。林先生の頬に接吻をする市川先生。林先生は怒って出て行った。翌日、教室で、書道の自習で結婚と書いていると、校長先生(三谷昇)が来て、市川先生から級長の山崎良人に連絡があるので家まで来るようにと言う。良人が、自転車に乗って、先生の家まで行くと、善哉を食べさせてくれ、見たこともないような親類が蟹のように沢山やってきたので、明日も自習だと言う先生。良人が学校に戻って、明日も自習だと言うと、みんな大喜びだ。先生は頭をオールバックにしてポマードを付けているのでトンボの目のように光っていたと報告する。花嫁さんはきれいだったかと女子に聞かれて、それが見当たらんかったと答え、みんな騒いでいると花嫁衣装姿の林先生がやってきて、ちゃんと自習してるか心配だったので、やって来たら、この騒ぎ、明日は自分が夫の代わりに、日本史と、修学旅行の打合せをするので、自習は中止だと言って、結婚式の二次会に戻って行った。マセた女子が、これから市川先生は苦労すると言う。
    奈良の三笠山に修学旅行に来ている。偶然近くで活動写真の撮影隊がロケに来ている。助監督(田口トモロウ)が田舎者は下がっていろと偉そうだ。仇討ちもので、夫婦ものが、仇を見つけ、切りかかるが、夫は返り討ちに遭う。夫の首が空に舞う。本物の首かと思って良人は泡を吹き、みどりに笑われる。先生のパナマ帽が風で、助監督の足元に飛ばされ踏まれてしまう。怒った市川先生は助監督に飛びかかるが、返り討ちに遭い、殴られ延びてしまう。直子は、助監督に映画のタイトルを尋ね、仇討ち奇談返り討ち三度笠と聞くと、廣島に来ても、絶対見てやらんと言い、男子たちに、伸びた市川先生を運んで宿に帰る。監督(原田大二郎)は、あんな女優が欲しいなあと言った。
    中学の受験日、良人が学校にいる。市川先生に、どうしたんじゃと、聞かれて、家にお金がないので、進学は止めたと答える良人。母親(左時枝)も市川先生と良人の前で、田畑、家屋敷、とにかく全て売ってしまったので、全くお金が無いのだと泣いた。良人は母ちゃん帰ろうと声をかける。翌日、良人の母親が亡くなった。葬式の行列に手を合わせる先生とみどり。数日後、赤い自転車に乗った良人に、豆腐を買いに行く途中のみどりが会う。良人も郵便局に行く途中だった。自転車の後ろにみどりを乗せ、校庭や色んな所を回る良人。数日後、みどりが良人の家に行ってみると、蔵には父親が一人住んでいて、良人は広島に住む兄のところに行ったと教えられる。
    30年が過ぎた。石内村の村役場の出納係をしている三吉(六平直政)が、東京池袋にある山崎良人(豊川悦司)の下宿に電話を掛けている。管理人に呼ばれ受話器を取ると、市川先生が還暦を迎え定年を迎えたと言う。22日に6年1組の同級生で、先生を囲んで30年振りに祝う会をやるとのことで、久しぶりに石内に出掛ける良人。
    会場は、藤川みどり(大竹しのぶ)が女将を務める海楽亭。大正14年に卒業以来、32名いたクラスは太平洋戦争を経て16人になっていた。参加した者も、戦争で傷を負っている。今まで必死で堪えてきた苦労を、堰を切ったように話し始める教え子たち。尾形芳枝(角替和枝)は長女だったので、隣村から婿を取ったが戦死、田圃4反のうち半分売ったが生活は苦しいと言う。吉田早苗(リリィ)も、夫がビルマで戦死し、一人で百姓をやっているが、一人の暮しは辛く寂しいという。原爆のケロイドが生々しい藤田芳夫(大杉漣)は徴兵され広島の上陸部隊に配属、ピカドンにやられ、しばらくして実家に帰ってくると、既に戦死公報が届いて、自分の位牌が飾られていた。米を作っていたが、みんな今はパンを食っている。実は百姓を辞めて、村の製材所で働き、自分も今パンを食べていると。田川里子(根岸季衣)は、隣の村に嫁に行ったが、夫が戦死、義弟と再婚したものの召集され戦死してしまったと。教え子の苦労を聞いて、市川先生は涙する。良人は、広島に行った後、丙種合格だったので、国民兵だったが、召集され、掃除部隊に配属、宝塚劇場など、大部隊の宿舎となる場所の掃除、片付けをしていた。その後、脚本家になったが、まだ先生に見て貰うようなものは書けていないと言った。みどりは、好きな人がいて、その人はこの村を出てから何の便りもくれなかった。15年待ったが、連絡も迎えにも来てくれなかった。30歳になった時に、あまりにあの家の娘は何か欠陥があるので結婚できないんだろうと噂されて、以前より求婚してくれていた海楽亭の息子と涙の結婚、鮫島みどりとなった。三吉が、先生が学校の傍に、終の棲家を求めたいと言うので、小さい家を買ったのだと紹介して、宴会となった。みなで校歌を熱唱する。先生を車に乗せ、再会を約して解散した。9時となり、良人は海楽亭に泊ることになった。
   夜、浴衣姿の良人とみどりは、海岸を散歩する。あの時、ウチが自転車に乗りっぱなしだったら、運命が変わっていただろうと言うみどり。旦那は、中華料理の研究と言って大阪に行ったきりで、女がいて戻ってこないのだとみどり。なんで連絡くれなかったの?と尋ねるみどりに、酷い生活で、それどころでなかったんだと呟く良人。みどりは急に手を取り、今でもあんたのことが忘れられない。身も心も振り捨てて私を抱いてといい、海岸にある脱衣所に、良人を導くみどり。抱き合いながら、初めて女になった気がするというみどり。
   翌朝、市川先生の新居に出かける良人、みどり、三吉。まさに池内小学校の正門前にある家では、学校の生徒たちのにぎやかな声が響いている。子供たちの声を聞きながら、ここで晴耕雨読の生活を送るのだと、先生は興奮していた。その夜、良人は、一列車遅らせて、みどりとの時間を惜しんだ。東京に戻った良人が、プロデューサー(大森南朋)を前に、脚本をやり直させてくれないかと言っている。プロデューサーは、家庭に何か悩みでもあるんですかと尋ね、脚本料はいらないという良人に、脚本料を支払ってくれた。
   数年が経つ、みどりの旦那が大阪でやくざに刺殺されたと言う。手紙を書こうとして、急に思い立つ。自分はいつも肝心の時に逃げてばかりいると思い、夜行に乗り、翌早朝に海楽亭の前に立つ。二人は海岸を歩く。その姿をみどりの義父(上田耕一)が見ている。子供を産んだと言う。息子は亡くなったが、孫が出来たと義父は喜んでいると言うみどり。
  それから5年がが経った。良人の前に、プロデューサーが座っている。どうしていたんですかと尋ねられ、アルバイトやら何やらでと答える良人。軽い喜劇を書いてくれませんかと頼むプロデューサー。涙ぐむ良人。市川先生が小学校時代に言ってくれた「君は賢いが、丹力に欠ける。もっとねばれ」という言葉を思い出していた。
   三吉は村長になっている。6日前に市川先生が脳卒中で倒れたと連絡を貰い、石内を訪れる良人。みどりが、5歳の娘良子を連れている。あなたから一文字貰ったのというみどり。賢そうな子供だ。先生の家を訪ねる。声を掛けても返事がない。倒れる音がするので、障子を開けると、動かない身体で先生が縁側に出ようとしていた。ちょうど奥さんも戻ってきた。回らない口で、良人の連続テレビドラマの愛の初旅を観ていると言う。三人で校歌を歌う。歌いながら涙がこぼれる三人。奥さんは、廿日市の娘夫婦の家に引っ越すことにしたと言う。娘婿の運転する軽トラックの荷台に、良人と三吉は運ぶ。教え子たちが集まって来た。石内小学校の現在の校長(松重豊)も「あなたの教育への足跡は永遠です」と言う。集まったみんなに、敬礼をして、「みんな元気でやれよ」と言い村を去る市川先生。村の中をトラックが走ると、道を行く人々は帽子を取って頭を下げた。どうしても帰るの?と言うみどりに、仕事があるんよと答える良人。
   東京で広島県人会が開かれ、各村長まで呼ばれたと言い、三吉が良人の下宿に来ている。うな重を御馳走する良人。今日は、銀ブラをし、資生堂でコーヒー飲んで、千疋屋でメロンを食べたと嬉しそうに話す三吉。先日、海楽亭に寄ったら、みどりが良人と結婚したい、店を辞めてもいいと言いだして、ビールを噴いたと言う三吉。話が聞こえたのか義父は調理中に指を切る。良子はお前の子じゃないかと思っていると言って、寝ているふりをする三吉。
    再び、早朝に海楽亭の前に立つ良人。良子は幼稚園に出かけるところだ。あの海岸にみどりと行く良人。みどりは、良人が赤い自転車に乗って東京からやってくる夢を見たと言う。今のはみんな嘘というみどりに、僕は、決断力がないと市川先生に言われ続けてきたが、今回、僕は、君と結婚することに決めたんだと言う良人。波打ち際まで走り、波をしきりと蹴るみどり。良人の所に戻ってきたみどりは、「良人さん、ありがとう。うち、嬉しかった。お義父さんも、驚くだろうが、良子を育てることを条件に許してくれるでしょう」と言うが、断る。あんたの一筋の道は決まっている。旅館で、蛸や魚をさばくのは良人ではないと言うみどり。良人は、廿日市の市川先生の元を訪ねる。コスモスを持ってきた良人に、道端からもぎ取って来たのかと先生。はい、摘んできましたと良人。花は見られるために美しいんですよと奥さん。市川先生は得心したように、花は美しい、山崎よう来てくれたと言った。肩をおもみしましょうかと良人が言うと、足をさすってくれと先生。気分がいいので、海に連れて行ってくれと言いだす先生。先生をおぶって海岸に連れていくと歩きたいと言う先生。自分に捉まらせて歩かせる良人。歩いたことを先生は喜ぶ。足元を見て、何で蟹は横に歩くと尋ねる先生に、人間も生き物も、みんなそれぞれですねと答える良人。
   三吉から、先生が亡くなったとの連絡を貰う。海が見える小高い丘の上にある市川先生の墓を訪ねる良人、三吉、みどり、良子たち。昭和38年11月7日に66歳で、市川先生が亡くなったのだ。駅のホーム、良子と手をつないだみどりと話す良人。もうしばらく会えないね、ときどき気が向いたら鯛ご飯を食べに来てろいうにみどり。汽車は走りだした。
   大竹しのぶは、今まで、どうも苦手だったのだが、最近力が抜けた表情をするととても良い。豊川悦司とのラブシーン、なかなかだ。しかし、新藤兼人さん、凄いなあ。木村威夫さんと言い、ヤング@ハートだ。ずっと死ぬまで現役でいると言うことは、映画の神様に守られていると言うことだろう。

    木村威夫監督『夢のまにまに(201)』
    空襲警報が鳴っている。大きな欅の木の下に、木室創(永瀬正敏)とエミ子(上原多香子)がいる。機銃掃射を脚に受ける木室。足の手当をするえり子。
     目覚まし時計が鳴り、木室創(長門裕之)が目を覚ます。隣には妻のえり子(有馬稲子)が眠っている。そっと起きて、食堂に降りる木室。木室の脚は戦時中の傷が元で不自由だ。食堂で朝ご飯の支度をしていると、手伝いの娘がやってくる。えり子は唇に口紅を引く。夫婦二人の朝食が始まる。今日の夕食は肉か魚どっちと尋ねるえり子に、昨日言ったように今日は会合だよと答える木室。
     京王線に乗り調布まで行く木室。駅のロータリーにある欅の瘤を撫でる木室。歩いているとパチンコの前の行列に教え子の村上(井上芳雄)がいる。そのまま通り過ぎると、村上が学院に出席するつもりでしたが、急に金が必要になってと言い訳をする。木室は、ここ調布にある 映画撮影所の映画美術の講師をしていた。撮影所の食堂で、若い学生たちに昔の撮影所の話をしていると 、村上が割り込んで来る。今朝はすみませんでしたと屈託なく謝る村上。とりあえず一万円稼いだようだ。自分の腕に彫ったモンローの刺青を見せ、イミテーションではないと言う。親から貰った体を大事にせよと言う孔子の教えを知っている村上を見直す木室。
    ミニチュアセットの制作を学生たちに指導している木室。窓から見える煙突を眺めて、あの煙突を絡めて、敗戦直後の焼け跡のオープンセットを作ったことを思い出す。闇市を不自由な足を引きずりながら歩く木室。派手な身なりのパンパン(宮沢りえ)が客を引いている。場面が変わり、その娼婦が闇市の一角に小さな飲み屋を開いている。バクダンを飲み憂鬱な表情の木室。坂口安吾の面影をした男(葛山信吾)と、壇一雄の面影をした男(高橋和也)、女連れ(エリカ)の太宰治の面影をした男(南原健朗)達が、店にやって来て飲み始める。そこに、ボロボロの軍服を着た闇屋(浅野忠信)がやってくる。闇屋は、壇が頼んだ馬肉を持って来たのだ。カウンターに入り、肉を切り、網で焼き肉を始める壇。闇屋は、文士かぶれがと作家たちを罵り、あの戦争で文学は敗北したのだと決めつけ、映画屋だってそうだ、国策映画ばかり作りやがって、そのお陰でこうだと言って、店のカウンターに義足を叩きつけた。女将が今日は楽しく飲みましょうと言う。
   その日は、木室がNK学院の5代学院長の就任パーティーが開かれた。村上たち学生も出席している。木室は、村上に、昔の歌謡曲を歌えるんだってと尋ね、それなら「夜のプラットホーム」を歌ってくるないかとリクエストする。村上の歌を聞きながら、女が娘を里子に出して郷里に帰る時の上野駅を思い出している木室
    木室が学院に行っている間エミ子はピアノを弾く。いつも同じフレーズで引っかかっている。何か戦時中の思い出のように…。エミ子は、出征し亡くなった婚約者の青年将校の写真を今でも持っている。お手伝いの足立雅代(石井晴奈)が干すシーツが大きな風音を立てている。
    夜、木室が寝ていると、エミ子が急に起き上がる。どうしたの?と尋ねると、ピアノの練習をしたいと言うエミ子。30分だけと言うエミ子に、もう夜中だから明日にしようと言って優しく抱きしめる木室。婚約者が死に、全てを失ったと絶望した私と結婚してくれたあなたには感謝しているわと言って涙を零すエミ子。木室は、エミ子の頬に接吻をする。
    学院に行く途中、今日も駅前のイチョウの木の瘤を撫でる木室。腰を下ろしていると、会釈をして通り過ぎる和装の女がいる。かって通った闇市の飲み屋の女に似ている。学院で作品の上映会がある。村上大輔の「多摩川?」とうタイトル品だ。紙袋を被った男や川の情景を撮影した抽象的な作品だ。村上から感想を求められ、残念ながら、まあまあだと言うところだと答える木室。
   撮影所の大ステージで学院のバレエダンサーが踊っている。撮影しているのは、監督鈴木清順、カメラ前田米造だ。北沢は、ダンサーたちに重なって踊るモンローの姿が見えている。知覧特攻平和会館で戦没画学生の作品を見ている村上。同じ年頃の芸術を志す若者が死ななければならなかった戦争を思い憂鬱な村上。学院のデッサンの授業中、講師から真面目に描きなさいと言われている。ビーナス像の顔がモンローだ。君にはこう見えているんだねえと言う木室に、村上は戦没画学生たちの無念を尋ねる。近代日本史を勉強したまえと言う木室。その日以来村上の姿は学院から消えた。
    夕方からのエミ子の日課は、写真や雑誌のグラビアなどを切り、コラージュを作ることだ。木室が帰宅して、エミ子の大事にしているアルバムを捲ると、広島の原爆で亡くなったエミ子の姉の写真が無い。今エミ子が作っているコラージュは原爆のキノコ雲で、その真ん中に姉のポートレイトが貼られている。
   調布駅のイチョウの瘤に、木室が腰をおろしていると、いつぞやの和装の女がスケッチをしている。女は絵を描いていいかと声を掛けてきた。ご自由におやりなさいと答える木室。熊本の実家に帰っていた村上から、学院の木室宛てに封書が届く。村上はあの日、六本木の本屋で日本史の本を万引きし、見つけて取り押さえようとした書店員にカッターを向けたため、逮捕されたのだ。幸い起訴猶予にはなったが、村上は精神を病み入退院を繰り返し、今は6度目の入院中だとあった。かって、才能があると言ってくれた木室の言葉だけが、村上の支えだった。木室は、何度も励ましの手紙を出し、仕舞いには、かっての仲間が九州ロケをするに当たって、美術助手として現場に参加出来るよう話をつけてやった。しかし、症状が安定しない村上は、せっかくの話を活かすことは出来なかった。心身の不調への絶望感が溢れた手紙に、自分の著作と一緒に激励の手紙を送る木室。木室のもとに、銅版画の展覧会の案内状が届く。出掛けてみると、本人は不在だったが、イチョウの木の瘤に座った木室のデッサンを描いていた中埜潤子の作品が飾られている。不在を詫び、木室が描かれている版画が送られてくる。エミ子は、この方は、どういう方?と執拗に尋ねてくる。
   ある日、村上の母ふじえ(桃井かおり)からの手紙が、木室に届く。胸騒ぎがして、封を切ると、村上大輔の死亡を報告する手紙だった・・・。

    シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪愛欲大決戦!
    51年東宝溝口健二監督『武蔵野夫人(202)』
    武蔵野の見渡す限り田んぼが続いている田舎道を、秋山道子(田中絹代)と夫の秋山忠雄(森雅之)が、よろよろと歩いている。東京の方向には黒煙が上がり、高射砲の音が響き、飛行機が飛んでいる。旧家の宮地家の当主で道子の父の(進藤栄太郎)が病床にある妻の?と話している。今回はいよいよ東京は駄目らしい。娘の道子を案ずる妻の?。そこに、道子と忠雄がやってくる。無事を喜び会う親子。近くに住む道子の従兄弟の大野英治(山村聡)と妻の富子(轟夕起子)の家に出掛ける。英治は軍需工場を経営して大層儲けているらしい。to be continued.

     神保町シアターで、浪花の映画の物語81年木村プロ小栗康平監督『泥の河(203)』
     昭和31年の大阪。橋の上に馬車が停まっている。馬糞を片付けている貞子(藤田弓子)。橋の袂、川沿いにうどんや定食を食べさせる“なには屋"がある。主人の板倉晋平(田村高弘)がきんつばを焼いている。息子の信雄(朝原靖貴)が二階から降りてきて、かき氷を食べたいと言う。客で馬車引きのおっちゃん(芦屋雁之助)が自分のを半分やると言う。ありがとうと言いながらも、信雄は、おっちゃんの右耳が潰れているのを気味悪そうに見ている。おっちゃんとお父ちゃんは、おっちゃんが今度中古のトラックを買うと言う話をしている。トラックを買ったら、信ちゃんに馬をやると言う。そこに糞を馬糞を片付けた貞子が戻ってきて、この親子は、冗談を真に受けるから止めてと言う。冗談が通じへんのはお前やと言う父ちゃん。
    代金を払った、おっちゃんが馬車を動かそうとする。クズ鉄などでいっぱいの荷は重く。また車輪が、橋の舗装が剥げているところに嵌って動かない。おっちゃんが、更に鞭を入れると、不幸にして、向こうからトラックがやってきて、馬が驚いて、おっちゃんは、馬車の下敷きになった。信雄は慌てて父ちゃんに教えに行ったが、おっちゃんは助からなかった。父ちゃんと母ちゃんは、馬車のおっちゃんは、10年前にここに店を開いた時の初めての客で、信雄がまだお腹にいた時に、お守りまでくれたのだ。戦争で死ぬ思いをしたけど、死ななかったので、死ぬ気がしないと言っていたのに、あっけなく死んだことは、晋平をひどく打ちのめし、貞子にあるだけの金を出してくれと言って、おっちゃんの家に香典として持っていく。
    翌日、雨が降りしきる中、おっちゃんの荷車を見ている同じ年くらいの少年を、見つける信雄。おこれお金になるやろうなあと言う少年に、おっちゃんのものやからあかんと言うと、それはそうだという少年。河を指さして、お化け鯉知ってるかという少年。確かに大きな魚影がある。これは秘密だから他人に言っちゃだめだという少年。頷きながら笑顔の信雄。新しい友達が出来た。
   しかし、雨の中にいたことで、信雄は風邪をひく。朝ごはんを食べたら学校に行けという母ちゃんに、もう一日寝ていた方がいいと言う父ちゃん。しかし、昼過ぎには、信雄は退屈し、家を抜け出す。昨日の少年に再会する。うちにおいでという少年。少年の家は、信雄の家の川の向こう岸に繋がれた宿船だった。船に渡る前に転んだ信雄の足を、少年の姉は洗い、少年に靴を洗わせてくれた。姉の名は、松本銀子(柴田真生子)、少年の名は喜一(桜井稔)と言った。船の向こう側の部屋に、姉弟の母がいるらしい。母親は、黒砂糖を上げて、あまりここには来ないように言いなさいと銀子に言っている。
to be continued.

2009年3月30日月曜日

色と欲と酒。

    午前中は、赤坂メンタルクリニック。昼に、今立ち上げ中プロジェクトの件で、ある音楽プロダクションに。好反応。うまく纏まるといいなあ。4月から非常勤講師を勤める専門学校から、時間割の連絡。1コマ90分で、水曜3コマ、金曜2コマ。うーん、大丈夫何だろうか(苦笑)

    神保町シアターで、浪花の映画の物語
    64年大映東京増村保造監督『現代インチキ物語 騙し屋(198)』
    人だかりがあり、その真ん中で泣いている学生がいる。工事人夫が輪の中に入ってきて、どうしたんだと尋ねると、沖縄から出てきて、和歌山に就職に行く途中、大阪で掏摸に遭い、全財産無くなったと言う。人夫は懐から百円札を何枚か出し、俺の有り金全部だが持っていけと言う。学生は、パーカーの万年筆を出して、これをお礼に渡すと言うが、人夫は二千円はするから勿体無いと言い、誰か二千円で買ってやらないかと周りの人間に声をかける。義侠心のあるサラリーマンが手を挙げてめでたしめでたしだ。人混みの中に掏摸がいる。男が掏摸の手を抑え、被害者の男と二人通りの端に連れて行く。財布を戻そうとすると掏摸は逃げ出す。被害者の男たちの前に刑事風の男が現れ、お前はまだ、ゆすりたかりをやっているのかと尋ねる。今掏摸の被害者に財布を取り戻してやったのだと答える。被害者の男は急いでいたので些少の礼金を渡して帰って行った。刑事風の男カマキリ(曽我廼家明蝶)と、掏摸を捕まえた男・河豚(船越英二)はグルで、学生服の男・チョコ松(丸井太郎)と人夫風の男・赤とんぼ(伊藤雄之助)も仲間だ。騙し屋、他人が騙されたと思わないまま、若干の金銭を頂戴することを生業にしている男たちだ。
    彼らは次に競馬場に行く。しかし馬券を買う訳ではなく、金持ちそうな客に、穴の馬券を買わせて、大穴を取ったら、おこぼれを貰うと言う誠にセコいやり方だ。しかし16万取った客からカマキリは、1万円頂戴する。赤とんぼは、中小企業の専務(中条静夫)に目を付け、厩舎情報として教えた穴は外すが、子供の正月の着物にする筈の有り金を全てすってしまったと泣いて、千円をせしめた。4人は、更に葬式に参列し香典返しのハガキを貰い換金する。そして、赤とんぼの妻のムツコ(園佳也子)がやっている“ひょうたん”に帰ると、税務署が来ていた。赤とんぼは、高利貸しの借金取りを演じて、税務署員を追い返すことに成功する。うどん屋の松風に天ぷら饂飩五つを注文する。しかし、出前が来ると頼んでいないという。海老の天ぷらの衣は剥がれ、麺が延びていると言って、困っているのなら1つ20円で引き取ってやると言って、海老天うどんにありつく5人。
    翌日、カマキリと赤とんぼは、スーツに厚生委員の腕章をして、古紙回収屋に行き、袋貼りで慈善事業をやるので、古雑誌を貰えないかと頼む。なかなか渋い相手に、勲章が復活したので、推薦すると言って承諾させる。ひょうたんで、古雑誌からグラビアを切りまくる四人。何度も仲間に入れてくれと言って来たが、その都度、お前は戸籍も住民票もあるのだから、生業か自衛隊にでもなれと断っていた胡瓜(犬塚弘)が、新しい雑誌を持ってきた。床屋から持ってきたという胡瓜に、それでは泥棒だ。帰してこいと説教をするカマキリ。赤ちゃんの裸や、相撲の取組み、豚の授乳などのグラビアを焼いて、4人は、街で、酔っ払い相手に、48手の秘蔵エロ写真だと言って売りつける。3万円以上の売り上げだ。赤とんぼが、この金を倍にすると提案した。
   翌日、骨董屋(上田吉二郎)に行き、仏像を見て、これはいいと言って10万円の値段の内3万円を手付けとして支払う。その後に、会社社長を装ったカマキリが店に行き、この仏像なら2絶対欲しいと言う
。しめしめと店主は20万を提示、カマキリは名刺を渡し、ここに届けてくれれば、20万払うからと言って帰る。そのあと、やってきた赤とんぼには、売主が気が変わって、取り返しに来たから売れないと言って、手付け金の倍返し、6万円を渡す店主。
   調子に乗ってきた4人は、カメラ屋で保証金として売値を預けて小型カメラを借り出し、アパートで暮らす2号(弓恵子)が金持ちのボンボンを部屋に連れ込んで宜しくやっているのを、探偵社を装って赤とんぼが2号の部屋を訪ねる。パパさんが素行調査を依頼してきたと勘違いした女は、口止め料2万円を払った上に、女の大事なものをあげると言う。一方、河豚は学生を付け、あの女は飽きたので結婚してやってくれと頭を下げる。親が決めた婚約者もいるし、ただの遊びなので結婚するのは勘弁してくれという学生から3万円をせしめる。
   今度は、大学の入学試験場だ。カマキリは、受験生の親を装う。近くには、奥様然としたムツ子もいる。そこに、白衣を着た赤トンボが通りかかり、兄さんと声を掛ける。カマキリは、あたかもこの大学の教授の赤トンボの家に息子が泊めて貰ったかのように話す。いくら兄さんの息子でも、何も、教えるようなことはしないぞと言う。そこに大学の職員を装った河豚がやってきて、入試採点委員であるかのように赤トンボに声をかけた。そこで、ムツ子が、一人しかいない身内の弟が4浪で、今回受からないと自殺しかねないので、何とか口を聞いてくれないかとカマキリに頭を下げる。弟は、非常に固いので無理だといいながらも、駄目元だと思ってくれと、名刺に受験生の名前と受験番号を書くように言うカマキリ。それを見ていた周りの父兄も我先にと名刺を差し出した。合格発表の日、チョコ松が、預かった受験番号で合格している受験生を確認。カマキリは自宅を訪ね、口止めをしながら、合格線上にいた数十人の中から拾い上げたのだと言って、謝礼を手にする。

    60年東宝千葉泰樹監督『がめつい奴(199)』
    大阪釜ヶ崎のとてもディープな一帯、知恵遅れの孤児、テコ(中山千夏)が人形を抱き、珍妙な歌を歌い豆腐屋へおからを1円分買いに来て、ビニールの袋に入れてくれと言う。毎日1円分でビニール袋に入れたんでは赤字だとブツブツ文句を言いながらおからをくれた。家に戻る途中のテコを避けようとして、乗用車とトラックが衝突する。えらいこっちゃと、テコがホテルに戻り、健太(高島忠夫)に報告すると、ホテルの住人は一目散に事故現場に駆け付け、重傷と軽症の運転手をどちらも病院に行かせ、車の部品をバラして盗みに掛かる。あっという間に現場には何も残らない。
   その頃、テコは因業婆の向山鹿(三益愛子)の手伝いで、ホテルの掃除をしている。掃除と言っても、住人たちの布団を上げながら何かないか、また各自の米袋に穴を開け、床に米をこぼし、落ちているものを拾ってネコババするのだ。テコは、鹿に拾われ育てられた。鹿は、人様の物は盗んだらアカン、しかし落ちているモンはホテルの持ち主のワシのモンやと言っている。
    ホテルに戻って来た住人たちは“ポンコツの熊”平熊吉(森雅之)の指示の下、戦利品の数々を車の部品屋やスクラップ屋に手際よく売り捌く。警官がやって来て、交通事故と通報があったけど、病院に運転手がいるだけで、現場に車が影も形もないと言って、お前たちが盗んだんじゃないかと尋ねる。ホテルの中を調べるが何もありはしない。しぶしぶ引き上げていく警官たち。鹿が突然、住人たちに金を寄越せと言い出した。俺たちが取って来た物を何で払わなきゃいけないんだと文句をつける住人たちに、ここで売りさばいただろう、博打だって寺銭1割が常識やと言い、息子の健太に金を集めさせる。業突張りの鹿婆さんは、誰よりも上手だ。
    ホテルとは名ばかりのというよりは掘立小屋に毛が生えたようなものだ。このホテルには怪しげな人間ばかりが住み着いている。このあたり一帯は、かって小山田家の屋敷だった。空襲で両親を亡くし、疎開していた小山田初江(草笛光子)と絹(団令子)の姉妹が戻ってきた時には、下女中だった鹿が、ホテルを建てている。初江は、ホテルに住みながら、ホルモン焼きの商売で生計を立てている。



     美人歌手Iちゃんと美人デザイナーMちゃんの二人と新宿三丁目の大人居酒屋で、近頃ない両手に花状態で会食。途中から美人芸能マネージャーMちゃんまで合流、調子に乗って日本酒飲むと絶好調に。生きてて良かった。

2009年3月29日日曜日

色と欲

シネマヴェーラ渋谷で、昭和文豪色欲大決戦
    59年大映増村保造監督『氾濫(195)』。
    三立化学の研究者真田佐平(佐分利真)は、金属でも何でも接着出来る画期的な接着剤のサンダイトを発明、小さな化学工場に過ぎなかった会社を大企業にし、その功績で、学術賞を受賞、会社の重役にもなった。しかし、真面目にコツコツと実験、研究をするタイプの真田には、調子のいいだけの役員たちの会話には付いていけないものを感じている。また、今までの貧乏生活を取り返すつもりのように、豪邸を建て、華道を習い始めて、師匠(伊藤雄之助)有閑夫人たちに混ざって遊び歩く妻文子(沢村貞子)や大学生活を謳歌する娘貴子(若尾文子)には辟易している。   
   また、昔の知り合いや、学部を出て就職せざる得なかった真田とは違い、大学時代の高分子化学教室の学友で学位を取ったことで官学の教授になっている久我(中村伸郎)が、愛人のバーのママへの手切れ金の工面のために、恩師の還暦祝いや生活苦への援助のために金の無心をして来たり、生命保険や寄付金の勧誘にくることばかりで、気持ちが暗くなるばかりだ。
恩師の還暦祝いの集まりに、私立の東方大学の研究者の種村(川崎敬三)は教授に無理を言ってつれてきてもらう。私学を蔑視し、適当に相槌を打つ久我とは違い、真田は種村の論文を着眼点がよく、実験も的確にしていると励まし、英訳してくれば、学会誌に掲載するよう久我教授に推してあげようと約束をする。
   そんなある日、会社に女性から電話がある。会ってみると、戦時中、真田のいる工場に、勤労動員の女学生を引率してきていた教師の西山幸子(左幸子)だった。実は、工場が空襲を受け焼夷弾が降り注ぐ中、真田は幸子を助け逃げ惑う内に、抱き合い、妻が疎開先の広島から戻ってくるまでの間同棲していたのだ。彼女は、真田と別れて直ぐに結婚、しかし3年前に夫が亡くなり、10才になる子供を育ててきたのだ。かっての研究に没頭し、公私ともに充実していた頃を思い出し、関係を復活させてしまう真田。子供の父親が真田だと言う幸子に、密会の度に、生活費を、更に子供が病気だと言われると治療代を渡す真田。

     67年日活蔵原惟繕監督『愛の乾き(196)』
     松本悦子(浅丘ルリ子)は、夫良輔の死後も婚家に同居し、義父の杉本弥吉(中村伸郎)、長男の謙輔夫妻(山内明、楠侑子)、二人の子供を連れて出戻ってきた浅子(小園蓉子)と、女中の美代(紅千登世)、下男の三郎(石立鉄男)と暮らしている。悦子は、年老いた弥吉に夜毎愛撫を受けている・・・。

    その後の姿とは別人のような石立鉄男・・。to be continued.


   ユーロスペースで、フィリップ・コーリー監督『マリア・カラスの真実(197)』


   渋谷で散髪し、博華で同居人と、餃子でビール。