神保町シアターで、浪花の映画の物語。
66年今村プロ今村昌平監督『「エロ事師たち」より 人類学入門(220)』
とある郊外の駅で、男女に声をかける男。ハイキングコースを登り、人気を見て準備を始める。学生服とセーラー服に着替える男女は素人。4台ずつ纏めた8㎜カメラにフィルムを入れ、合計8台のカメラを同時に回し始める。ブルーフィルムの撮影だ。男の名は、緒方(小沢昭一)。ブルーフィルム、エロ写真、非合法だが世間の男たちの幸福のために活動するエロ事師だ。
緒方は、松田理髪店の未亡人の春(坂本スミ子)の二階に下宿していたが、情の深い春と内縁関係になっていた。春には、長男の光一(近藤正臣)と長女恵子(佐川啓子)がいる。光一は、春に甘やかされ予備校生の今でも、母親の布団に潜り込んでくるようなマザコンだ。勿論、緒方には強い屈託を持っている。一方、恵子は小学生の時、夜中に緒方と春が同衾しているのを見てしまい、そのことで、交通事故に遭ったことを、緒方は今でも気にしている。そのこともあって可愛がる緒方に、恵子もなついていた。
春は、夫が亡くなる前に自宅前の川で釣り上げた鮒を飼っている。巨大に成長した鮒は、夫の春に対する未練が宿っており、何かある度に跳ねるのだ。元々心臓が弱かった春は、知り合いのおたけ(西岡慶子)に生駒さんのお札を貰ったり、祈祷を頼んだりしている。おたけは、緒方との関係が、夫を成仏させず、このままだと良くないことが起こると言う。
東銀座の映画会社で打合せのち、
シネマート六本木で、新東宝大全集。
55年新東宝内田吐夢監督『たそがれ酒場(221)』
開店前の店内で専属歌手の丸山健一(宮原卓也)が、師匠の江藤(小野比呂志)の伴奏で、「菩提樹」を歌っている。3コーラス目で音程を間違え怒られながらも必死についていく。
ここは「たそがれ酒場」という酒、食事に加え、歌やレコード、ストリップなどの娯楽を供する
会社員、学生たち庶民の憩いの店だ。ユキ(野添ひとみ)たち、女の子たちが出勤してくる。
支配人谷口(有馬是馬)に言われて開店の準備を始める。常連の梅田(小杉勇)は、実は元従軍画家で先生と呼ばれているが、絵筆を折り現在はパチンコで生計を立てている。煙草を谷口に買って貰っているのだ。
客がやってき始める。旦那と妾が月々の手当のことで揉めている。小判鮫と陰口を叩かれている常連客の汲島(多々良純)は、毎晩やってきては、他の客から酒をせびったり盗み呑みしている。
競輪で大穴当てたとホクホク顔の岐部(加東大介)が特級酒を持ってこいと注文する。岐部は、卵丼を食べようとしている男(東野英治郎)を見つけ声を掛ける。「鬼塚大佐どの、北支の軍隊でご一緒させていただいた曹長の岐部であります」酒代にも事欠くしがない不動産ブローカーをしている鬼塚は、岐部に御馳走になってご機嫌だ。サルトルを語る学生たちに毒づき、レコードを軍歌に替えさせる。
愚連隊の森本(丹波哲郎)たちが現れた。鱒見(宇津井健)とユキのことで争っている。ユキと鱒見は愛し合っているが、森本はユキに執心なのだ。店でも、金を払わない森本にはいい顔をしないが、札束を出して、ユキにビールを持ってこさせる。
ステージでは、健一の「カチューシャ」や「丘を越えて」などを歌う。次にユキが歌い始めると鱒見がやってきて、フォークで森本の手を刺し、二度とユキの周りをうろつくなと言い金を取り上げた。この金を持って今晩ユキと大阪に行こうと思うので10時半に東京駅に来てくれと梅田に伝言した。
ユキの歌が終わったところでユミの妹の由美子が泣いているのを店のものが気が付く。ユキは父親が戦死し、深川の家も焼けたため、母親が人足をしながら、ユキと由美子を育てて来たのだ。
その母親が怪我をし、働きに出られなくなり、米も一粒も残っていないというのだ。ユキは来月分の給料の3千円を前借りさせてくれと支配人に頼むが、支配人もオーナーから禁じられているので出来ないのだ。見かねた梅田は、自分が今晩中に返すからと、借りてユキに渡し、ポケットから金を出して、ユキと由美子にラーメンでも食べろと言う。
ステージでは、客によるのど自慢などが行われている。小判鮫が上がって浪曲を歌う。
ストリッパーのエミー・ローザ(津島恵子)がやってくる。彼女もバレエをやっていたが、生活のために酔客の前で肌をさらしているのだ。
客からのリクエストで健一が歌うコーナーだ。その時、新日本歌劇団の中小路龍介(高田稔) たちが来店する。それを認めた梅田は、健一にカルメンの闘牛士の歌をリクエストする。
場末の飲み屋で歌う健一の実力に驚く中小路。梅田は、小判鮫とカルメンを踊って見せながら、
その隙にユキを東京駅に向かわせる。
梅田に声を掛ける男がいる。かって南方戦線の同じ報道部にいた毎朝新聞の山口(江川宇禮雄)だ。久し振りの再会に喜ぶ二人。
一方、健一も、中小路に呼ばれ、自分たちの歌劇団に参加しないかと誘われ、明日朝事務所に来て、その夜出発する北海道公演に参加したのだ。喜んで師匠の江藤に話す健一。しかし、江藤は行くなと言う。口には出さないが、中小路は江藤にとって洋行帰りの新進音楽家として、一度は成功を修めた自分から全てを奪った男だった。
その騒ぎの中、江藤は人を刺し、刑務所に入ることになったのだ。エミーは、健一のまたとないチャンスを認めてやってくれと頼み、ステージに上がる。喜ぶ客席。しかし、ステージ終盤、陰気な顔でショーを待っていた男が、急にドスを抜き、エミーに襲いかかる。最初は演出かと拍手を送っていた客たちも、慌てて取り押さえる。幸い、腕に傷をつかられただけだったが、エミーと支配人も警察署に、参考人として連れていかれた。
梅田は、山口に自分の絵を3000円で買ってくれないかと言う。承諾すると、店に貼ってあったポスターの裏側に山口の似顔絵を描く梅田。いい記念になったと喜ぶ山口。支配人が戻ってくると、その3000円を返す梅田。
閉店だ。客を送り出し、片づけをする。ユキがいないことに気が付いて少し騒ぎになるが、梅田は何人かの娘に訳を話して、自分が明日改めて支配人に話すのでそっとしておいてやれと話す。全ての酒に封印し、一升瓶の残りの量にしるしをつける厳重さだ。梅田は残り、江藤に一杯の酒を渡し、中小路の来店をしり、健一に闘牛士の歌を歌わせたのは自分だと告白し、全てを奪った怨讐はあるかもしれないが、我々老芸術家は、若い者に未来を託すことではないのかと語った。静かな時が流れる。涙を流した江藤は、健一に明日は早起きをして、新世界歌劇団に出かけなければならないのだから、そろそろ休もうと声をかけ、しばらく、梅田に聞いてもらえなくなるのだから、最後に1曲贈ろうじゃないかと言う。江藤の伴奏で健一は「?」を歌う。ユキが店に戻ってきた。鱒見に会えなかったのかいと梅田が尋ねると、会ったけどお別れを言ってきたの、こんなに愛する人は二度と現れないかもしれないが、私よりも、母や妹がもっと可哀そうだからと言うユキ。梅田は優しくユキの肩に手を置き、店の寮まで送って行こうと言う。二人が店を出ていく。歌い続ける健一。
内田吐夢、いいなあ。グランドホテルスタイルというのだろうか、梅田を中心に据えながらも、店に現れる多くの人々が抱えている人生を描きだす。感傷的なエンディングだが、ひねくれた自分でも、鼻につくというより、深く味わえた。いろいろ事件が起きながら、ゆったりとした時間が流れていく。しかし94分。泣け泣けと言わんばかりに大きな音で音楽を流し続ける最近の映画とは、やはり演出の力が圧倒的に違う。この後、今日まで公開の新作邦画を2本見ようかと思っていたが、この充実した気分を大事にしようと思いなおし、西荻に戻って、博華で餃子とビールであった。
緒方は、松田理髪店の未亡人の春(坂本スミ子)
春は、夫が亡くなる前に自宅前の川で釣り上げた鮒を飼っている。
東銀座の映画会社で打合せのち、
シネマート六本木で、新東宝大全集。
55年新東宝内田吐夢監督『
開店前の店内で専属歌手の丸山健一(宮原卓也)が、師匠の江藤(小野比呂志)の伴奏で、「菩提樹」を歌っている。3コーラス目で音程を間違え怒られながらも必死についていく。
ここは「たそがれ酒場」という酒、食事に加え、歌やレコード、ストリップなどの娯楽を供する
会社員、学生たち庶民の憩いの店だ。ユキ(野添ひとみ)たち、女の子たちが出勤してくる。
支配人谷口(有馬是馬)に言われて開店の準備を始める。常連の梅田(小杉勇)は、実は元従軍画家で先生と呼ばれているが、絵筆を折り現在はパチンコで生計を立てている。煙草を谷口に買って貰っているのだ。
客がやってき始める。旦那と妾が月々の手当のことで揉めている。小判鮫と陰口を叩かれている常連客の汲島(多々良純)は、毎晩やってきては、他の客から酒をせびったり盗み呑みしている。
競輪で大穴当てたとホクホク顔の岐部(加東大介)が特級酒を持ってこいと注文する。岐部は、卵丼を食べようとしている男(東野英治郎)を見つけ声を掛ける。「鬼塚大佐どの、北支の軍隊でご一緒させていただいた曹長の岐部であります」酒代にも事欠くしがない不動産ブローカーをしている鬼塚は、岐部に御馳走になってご機嫌だ。サルトルを語る学生たちに毒づき、レコードを軍歌に替えさせる。
愚連隊の森本(丹波哲郎)たちが現れた。鱒見(宇津井健)とユキのことで争っている。ユキと鱒見は愛し合っているが、森本はユキに執心なのだ。店でも、金を払わない森本にはいい顔をしないが、札束を出して、ユキにビールを持ってこさせる。
ステージでは、健一の「カチューシャ」や「丘を越えて」などを歌う。次にユキが歌い始めると鱒見がやってきて、フォークで森本の手を刺し、二度とユキの周りをうろつくなと言い金を取り上げた。この金を持って今晩ユキと大阪に行こうと思うので10時半に東京駅に来てくれと梅田に伝言した。
ユキの歌が終わったところでユミの妹の由美子が泣いているのを店のものが気が付く。ユキは父親が戦死し、深川の家も焼けたため、母親が人足をしながら、ユキと由美子を育てて来たのだ。
その母親が怪我をし、働きに出られなくなり、米も一粒も残っていないというのだ。ユキは来月分の給料の3千円を前借りさせてくれと支配人に頼むが、支配人もオーナーから禁じられているので出来ないのだ。見かねた梅田は、自分が今晩中に返すからと、借りてユキに渡し、ポケットから金を出して、ユキと由美子にラーメンでも食べろと言う。
ステージでは、客によるのど自慢などが行われている。小判鮫が上がって浪曲を歌う。
ストリッパーのエミー・ローザ(津島恵子)がやってくる。彼女もバレエをやっていたが、生活のために酔客の前で肌をさらしているのだ。
客からのリクエストで健一が歌うコーナーだ。その時、新日本歌劇団の中小路龍介(高田稔) たちが来店する。それを認めた梅田は、健一にカルメンの闘牛士の歌をリクエストする。
場末の飲み屋で歌う健一の実力に驚く中小路。梅田は、小判鮫とカルメンを踊って見せながら、
その隙にユキを東京駅に向かわせる。
梅田に声を掛ける男がいる。かって南方戦線の同じ報道部にいた毎朝新聞の山口(江川宇禮雄)だ。久し振りの再会に喜ぶ二人。
一方、健一も、中小路に呼ばれ、自分たちの歌劇団に参加しないかと誘われ、明日朝事務所に来て、その夜出発する北海道公演に参加したのだ。喜んで師匠の江藤に話す健一。しかし、江藤は行くなと言う。口には出さないが、中小路は江藤にとって洋行帰りの新進音楽家として、一度は成功を修めた自分から全てを奪った男だった。
その騒ぎの中、江藤は人を刺し、刑務所に入ることになったのだ。エミーは、健一のまたとないチャンスを認めてやってくれと頼み、ステージに上がる。喜ぶ客席。しかし、ステージ終盤、陰気な顔でショーを待っていた男が、急にドスを抜き、エミーに襲いかかる。最初は演出かと拍手を送っていた客たちも、慌てて取り押さえる。幸い、腕に傷をつかられただけだったが、エミーと支配人も警察署に、参考人として連れていかれた。
梅田は、山口に自分の絵を3000円で買ってくれないかと言う。承諾すると、店に貼ってあったポスターの裏側に山口の似顔絵を描く梅田。いい記念になったと喜ぶ山口。支配人が戻ってくると、その3000円を返す梅田。
閉店だ。客を送り出し、片づけをする。ユキがいないことに気が付いて少し騒ぎになるが、梅田は何人かの娘に訳を話して、自分が明日改めて支配人に話すのでそっとしておいてやれと話す。全ての酒に封印し、一升瓶の残りの量にしるしをつける厳重さだ。梅田は残り、江藤に一杯の酒を渡し、中小路の来店をしり、健一に闘牛士の歌を歌わせたのは自分だと告白し、全てを奪った怨讐はあるかもしれないが、我々老芸術家は、若い者に未来を託すことではないのかと語った。静かな時が流れる。涙を流した江藤は、健一に明日は早起きをして、新世界歌劇団に出かけなければならないのだから、そろそろ休もうと声をかけ、しばらく、梅田に聞いてもらえなくなるのだから、最後に1曲贈ろうじゃないかと言う。江藤の伴奏で健一は「?」を歌う。ユキが店に戻ってきた。鱒見に会えなかったのかいと梅田が尋ねると、会ったけどお別れを言ってきたの、こんなに愛する人は二度と現れないかもしれないが、私よりも、母や妹がもっと可哀そうだからと言うユキ。梅田は優しくユキの肩に手を置き、店の寮まで送って行こうと言う。二人が店を出ていく。歌い続ける健一。
内田吐夢、いいなあ。グランドホテルスタイルというのだろうか、梅田を中心に据えながらも、店に現れる多くの人々が抱えている人生を描きだす。感傷的なエンディングだが、ひねくれた自分でも、鼻につくというより、深く味わえた。いろいろ事件が起きながら、ゆったりとした時間が流れていく。しかし94分。泣け泣けと言わんばかりに大きな音で音楽を流し続ける最近の映画とは、やはり演出の力が圧倒的に違う。この後、今日まで公開の新作邦画を2本見ようかと思っていたが、この充実した気分を大事にしようと思いなおし、西荻に戻って、博華で餃子とビールであった。
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