61年東京映画杉江敏男監督『黒い画集 ある遭難(342)』
夏の北アルプス、遭難者の遺体が詰められたリュックサックをロープで引き上げる男たち。リュックから木で組まれた担架に移され、下山していく。荼毘に付せられる。遭難者の岩瀬秀雄(児玉清)の母と姉の真佐子(香川京子)が泣いている。しかし、真佐子は、あれだけ山が好きで、慎重だった秀雄が亡くなり、同じパーティーの初心者の浦橋吾一(和田孝)が助かったことに、素朴な疑問を持つ。
山岳雑誌の岳人に、浦橋が書いた手記が掲載された。その記事で登山の様子が回想される。同じ銀行の支店の、支店長代理の江田昌利(伊藤久哉)の家で、ようやく取れた夏の休みに北アルプス鹿島槍ヶ岳の登山計画を立てている。融資係の岩瀬は少し自信があるようだ。同期で出納係の浦橋は初心者だ。岩瀬は浦橋をからかう。酒などを出す江田の妻(松下砂稚子)に、江田さんは山小屋の管理人で、奥さんはその妻だと軽口を叩く。甲斐駒、穂高、八ヶ岳を登ったが口癖の岩瀬。
8月29日新宿から夜行で出発する。江田は今回初心者の浦橋のために自腹を切って、みんなに二等寝台を奢ってくれた。本当の登山の楽しみは床に新聞紙を敷いて寝ていくのだと岩瀬は言うが、岩瀬も浦橋も感謝する。サントリーの角瓶をやりながらも早めに眠る。しかし午前1時過ぎに、浦橋が目覚めると、江田の寝息は聞こえたが、岩瀬の姿がない。ウィスキーも空になっている。連結器の所で風に当たっている岩瀬を見つけ声を掛けると、眠れないのだと返事をする。
翌日バスで大谷原まで行き、そこから登り始めるが、岩瀬は顔色も悪く表情も冴えない。むしろ初心者の浦橋の方が元気だ。息が荒くバテ気味の岩瀬を気遣って、何度かたっぷり休みを取りながら登って行く。休む度に水をがぶ飲みする岩瀬の姿には、素人の浦橋の目にも気になった。通常よりも一時間以上長く掛かって、冷池小屋(チベタヤコヤ?)に着いた。早めに眠って翌朝早く出発しようと決めたが、低い声で登山経験の自慢話をする他の客たちの低い声に、浦橋はなかなか眠れない。横の岩瀬も、寝付けないようだった。翌朝、きれいなご来光を見て、鹿島槍を目指す。途中、諏訪の工場の始業開始のサイレンが聞こえてくる。鹿島槍の頂上に到着したくらいから、ガスが出始め、天候は急速に悪化する。江田は冷池小屋に引き返そうと言うが、3時間掛けて引き返すよりも、30分で行ける八峰ギレットの小屋に行こうと岩瀬が言い張った。時間が掛かっても、引き返す方が安全だと江田は主張したが、後ろから2人組が追い抜いていったので、自分たちも八峰ギレットを目指すことにする。
しかし天候は更に悪化、稜線はほとんど見えなくなり、岩瀬の疲労困憊も極限にきつつあったので、その時点で引き返すことに決める。一時間近く掛かって、鹿島槍の頂上に戻る。ここまで来れば、ガレ場の緩やかな斜面を下り、灌木の林を抜ければ冷池小屋だ。遅れがちになる岩瀬を励ましながら、見覚えのある登山道を引き返し続けるが、なかなか小屋にはたどり着かない。江田は岩瀬のリュックをも、自分が背負う。しかし、恐ろしい事実が判明する。鹿島槍から布引山だと思っていたが、よく似ている牛首山に迷い込んでしまったのだ。登山道ではなく、獣道を歩き続けていたのだ。この先は黒部渓谷の断崖絶壁だ。動けなくなった岩瀬を浦橋に託し、絶対眠らせるな、自分も眠るなと言って、江田は、冷池小屋まで助けを求めに風雨の中を駈けて行った。しばらくして、岩瀬は半狂乱で断崖絶壁に向かって走り出し、亡くなった。そして翌早朝を待って、江田はM大学の山岳部に救援隊として連れてきたのだ。
季節が変わる。銀行にいる江田に電話がある。岩瀬真佐子と名乗る。葬儀で会ったきりの岩瀬の姉だと分かるまでに少し掛かった。一度会って貰えないかと言う。その晩、三笠会館で夕食を一緒にすることになった。そこに浦橋が通りかかる。岳人の手記を読んだが文才があったんだなあと江田。周りでも評判なんですよと少し得意げだが、岩瀬の姉のことは何も知らないと言う浦橋。
その晩、三笠会館に出向くと、テーブルに3名分のセットがある。真佐子は、自分たちの従兄の槙田二郎(土屋嘉男)だと紹介し、今回はいろいろと弟のことで迷惑を掛けたと頭を下げる。そして、弟の墓、つまり遭難場所に花を手向けたいと言うのだ。夏でも厳しいのに、この季節では無理ですよと江田が言うと、勿論自分は登山は出来ないので、従兄の二郎を代わりに行かせるので、同行して貰えないかと頼んだ。二郎は信州の大学を出て山が好きなので、東北の電力会社で働いていると紹介した。帰宅した江田の顔に屈託がある。ウィスキーを呷る。細君はいないようだ。数日後、休みが取れたので、金曜夜から土日なら行けると言う。金曜夜、中央線新宿駅発の夜行で待ち合わせ出発する。
to be continued.
それから、代々木で、専門学校体験入学講師。少しだけ内容をバージョンアップ。7月に行われる映画と落語のイベントの前売り券を買いに、船堀まで足を延ばす。都営新宿線一本だったが遠い。当然呑むと思うので、当日の帰りが思いやられる(苦笑)。
神保町シアターに再び戻り、
55年新東宝中川信夫監督『青ヶ島の子供たち 女教師の記録(343)』
東京のかなり大きな小学校鉄筋三階建ての校舎と広い校庭は生徒で埋まっている。始業式のようだ。校長の松川(宇野重吉)が段に上がり、新任教師の広江節子(左幸子)を4年2組の担任として紹介する。広江は、学芸大学を卒業してすぐに、この小学校に赴任したのだ。4年2組広江教室と札が出ている。教室内では、節子が生徒たちに挨拶をしている。こんな立派で設備が整っている学校で勉強が出来ることを幸福だと思いましょう、先生は電気も水道もない学校で勉強しましたと言う。先生の田舎はどこですかと尋ねる生徒に、みんなと同じ東京都内だけど、青ヶ島って、知っていると聞かれて、首を傾げる生徒たち。伊豆七島の地図を黒板に書き始め、八丈島の先にあると教えた。東京からの距離は360キロ、船で18時間掛かるが、月に1回しか定期便がないのだと説明する。
職員室に節子が戻ってくる。同じ4年の担任の森先生(中山昭二)が、下宿はどうでしたかと尋ねる。森が紹介したのだ。街中で、少し騒がしいかもしれないが、下宿の女将さんがとてもいい人だからと言う。節子がとても気に入りましたと答えたので、満足そうに頷く森。
節子が担任をしている魚屋の息子と下宿に帰ってくる。魚屋の魚源(田中春男)が息子が言うことを聞かなかったら、どんどん殴ってやって下さいと挨拶をする。広江が下宿する牛乳屋は魚源の向かいだ。北多摩牛乳と看板が出ている。下宿の女将さん山田千枝(杉村春子)に、只今と挨拶をすると、うちの二郎の担任になったそうで良かったと言われる。千枝は、女手一つで牛乳屋を続け、息子二人と娘正子を育てているのだ。そうそう電報が来ていたのを忘れていましたと、節子の母松子からの電報を手渡す。妹の良子が、八丈島に嫁入りするので、夏休みに久しぶりに帰省しないかと言って来たのだ。悪い知らせかと尋ねる千枝に、妹が嫁に行くのだと答える。しかし、長女の自分を高校から東京に出し、妹を嫁に出したら寂しくないかしらと心配し、千枝には、青ヶ島が本当に何もない島で、私が島から初めて大学に行ったのが、町長である父親の自慢なんですと言う。明日、島から中学を卒業した子供たちの出迎えを頼まれたんですと言うと、千枝は布団が足りないけれど、うちに泊まればいいと言ってくれたので、有り難く受ける節子。
翌日、観光バスに乗っている節子と、青ヶ島からの引率教師の安成(沼田曜一)と生徒たちの姿がある。電気も水道もない島を生まれて初めて出た少年少女たちには、皇居もデパートの屋上も想像を超えた場所だ。今度女性の先生が赴任してくると嬉しそうに言う安成。友人の家に泊るという安成以外は、節子の下宿に泊る。千枝が親子丼を作ってくれたが、食べるのも初めてだ。
数日後、広江は、教室で転校生の島田定夫を紹介する。島田は内気で、全く喋らない。体育の授業でも跳び箱を飛ぶ列には並ばず、昼休みのドッジボールにも加わらない。心配になった広江は、家庭訪問をする。島田の父親(佐分利信)と姉で父親の秘書をしているという照子(香川京子)が帰宅し、母親(相馬千恵子)が紹介する。定夫は、姉と年が離れて出来た子供で、父親の仕事の都合で、幼稚園の時から転校を度々していたことがわかる。
ある日の授業で、節子は、作文を各自読むように言って、最初に島田を指す。喋らない島田の代わりに節子が読み始める。鉛筆小僧という題の作文には、島田が3cmくらいの小さい青い鉛筆を大事にしていて、父親に鉛筆小僧と呼ばれているが、学校で失くしてしまったと書いてあった。クラスメイトたちは、島田の鉛筆を探し始める。教室内で見つからないので、校内放送で全校に呼びかける。最後に、鳥小屋の近くで見つかった。万歳をするクラスメイトに、ありがとうと言う島田。ようやく島田は、4年2組の一員として仲間入りしたのだった。
夏休みを迎え、節子は、青ヶ島に帰省する。八丈島経由で青ヶ島に向かう定期船に、八丈島から、妹の結婚相手が乗り込んでくる。沖合に停留する定期船からハシケで島につける。花婿の来島に島は大騒ぎだ。広江家に案内され、慌ただしく祝言を挙げる。久し振りの父親民之助(浅野進治郎)、母松子(滝花久子)、妹良子(池内淳子)との再会もそこそこに、定期船の出航が1時間早まったということで、妹を見送る節子。
to be continued.
8月29日新宿から夜行で出発する。
翌日バスで大谷原まで行き、そこから登り始めるが、
しかし天候は更に悪化、稜線はほとんど見えなくなり、
季節が変わる。銀行にいる江田に電話がある。
その晩、三笠会館に出向くと、テーブルに3名分のセットがある。
to be continued.
それから、代々木で、専門学校体験入学講師。
神保町シアターに再び戻り、
55年新東宝中川信夫監督『
東京のかなり大きな小学校鉄筋三階建ての校舎と広い校庭は生徒で
職員室に節子が戻ってくる。同じ4年の担任の森先生(中山昭二)
節子が担任をしている魚屋の息子と下宿に帰ってくる。
翌日、観光バスに乗っている節子と、青ヶ島からの引率教師の安成(沼田曜一)と生徒たちの姿がある。電気も水道もない島を生まれて初めて出た少年少女たちには、皇居もデパートの屋上も想像を超えた場所だ。今度女性の先生が赴任してくると嬉しそうに言う安成。友人の家に泊るという安成以外は、節子の下宿に泊る。千枝が親子丼を作ってくれたが、食べるのも初めてだ。
数日後、広江は、教室で転校生の島田定夫を紹介する。島田は内気で、全く喋らない。体育の授業でも跳び箱を飛ぶ列には並ばず、昼休みのドッジボールにも加わらない。心配になった広江は、家庭訪問をする。島田の父親(佐分利信)と姉で父親の秘書をしているという照子(香川京子)が帰宅し、母親(相馬千恵子)が紹介する。定夫は、姉と年が離れて出来た子供で、父親の仕事の都合で、幼稚園の時から転校を度々していたことがわかる。
ある日の授業で、節子は、作文を各自読むように言って、最初に島田を指す。喋らない島田の代わりに節子が読み始める。鉛筆小僧という題の作文には、島田が3cmくらいの小さい青い鉛筆を大事にしていて、父親に鉛筆小僧と呼ばれているが、学校で失くしてしまったと書いてあった。クラスメイトたちは、島田の鉛筆を探し始める。教室内で見つからないので、校内放送で全校に呼びかける。最後に、鳥小屋の近くで見つかった。万歳をするクラスメイトに、ありがとうと言う島田。ようやく島田は、4年2組の一員として仲間入りしたのだった。
夏休みを迎え、節子は、青ヶ島に帰省する。八丈島経由で青ヶ島に向かう定期船に、八丈島から、妹の結婚相手が乗り込んでくる。沖合に停留する定期船からハシケで島につける。花婿の来島に島は大騒ぎだ。広江家に案内され、慌ただしく祝言を挙げる。久し振りの父親民之助(浅野進治郎)、母松子(滝花久子)、妹良子(池内淳子)との再会もそこそこに、定期船の出航が1時間早まったということで、妹を見送る節子。
to be continued.