翌日の大学構内、
真杉の恋人(白川由美)は、洋酒喫茶ロリータでアルバイトをしている。刑事の安月給では彼女を養えないと思い、プロポーズ出来ずにいる真杉。彼女は、恋人が刑事だと皆笑うので、今後は、電話はいいが、店には来ないでくれという。店に伊達が来ている。花売りの老婆が客に声を掛けている。伊達は、金を出し全部買ってやると言う。更に、歌って踊れば、もっと大金をやると命ずる。考えていたが、急に珍妙なダンスを踊り始める老婆。悪趣味な座興に、伊達を非難する声が上がる。金をばら撒き、店を出る伊達。金を拾い集める老婆。真杉は、伊達の後姿を見ながら、何かひっかかるものがある。銀座の街を伊達が歩いているとゲイボーイが声を掛けてくる。ウィンドウ越しに、ヤクザの用心棒の哲と安(西村潔)が後をつけているのに気がついた伊達は、止めてあった車にゲイボーイを押し込んで逃走する。タクシーで追跡する哲と安。人気の無い場所で、車を止める伊達。ゲイボーイを盾にして、二人を倒す伊達。使われた弾丸の銃弾痕を調べ、刑事殺しと同じ拳銃が使われたことがわかる。
中央タイムズの記者の遠藤(滝田裕介)は、刑事殺しに関するコメントを小杉教授に貰いに行く。小杉は、自分は忙しいので、代わりに伊達に話させて自分のコメントとして掲載するようにと言う。伊達は、こういう新しい犯罪は、勘にしても科学にしても、今までの経験に基づいた捜査では絶対辿り着かないだろうと言う。真杉が桑島と話している。捜査本部は、ヤクザの縄張り争いに岡田刑事が巻き込まれたとして、決着をつけようとしているが、本当は、ヤクザなどではなく、普通の社会人や学生が犯人ではないかと言う。そこに遠藤記者がやってくる。伊達を取材した記事を読み、真杉と同じ考え方をしていると言う桑島。
遠藤に研究室を聞いて、大学に出かける。しかし、小杉研究室では、伊達の居場所は分からなかった。妙子を探しあてるが、彼女もアパートなどは知らず、女は三回以上は抱かない主義だと言う。彼女は妊娠し、中絶費用のために、医学部で解剖用死体の移動のアルバイトをしている。それでも、射撃か、ドライブか拳闘をしているという彼女の話で、真杉は、ボクシングジムにいる伊達に会うことができた。花売りの老婆を虐待していた男だ。話すうちに、真杉の中では、伊達が真犯人だと確信を持つ。
伊達は、苦学生の手塚に会う。授業料を払えない手塚は大学を除籍になっていた。結核も悪化している。どうせ死ぬならその前に一発花火を打ち上げないかという伊達の提案に肯く手塚。大学の経理課に支払われている入学金を奪わないかと言う提案だ。その夜、電話線を切り大学に忍び込む伊達。手塚は、瀬戸内から入学金を払いに来たが汽車の事故で遅れた学生を装って、経理課に入ることに成功する。伊達は、火のついたダイナマイトを小杉研究室に投げ込み、入学手続きの立会いで泊まり込みだった小杉を含む三人の教授を爆死させる。伊達と手塚は2000万の強奪に成功する。伊達は、手塚に心を落ち着かせるためと称して睡眠薬入りのウィスキィを飲ませて眠らせ、射殺したピストルを握らせ車ごと海に沈めた。
2000万入りのボストンを持ち下宿に帰ると、伊達の書いた論文が入選し、アメリカの留学費用の免除が決まったという速達が、小杉教授から来ている。手紙を読み笑う伊達。そこに車の停まる音が聞こえる。刑事達は、入学金強奪が伊達の仕業で、金を持っているに違いないと思って踏み込んで来たのだ。間一髪、伊達は逃走し、妙子の下宿に現れる。妙子は、前日伊達の子供を中絶していた。全ての完全犯罪を成し遂げることは伊達にしかできないと思っていたと言う妙子。私を殺しに来たのねと言う。しかし、そこに桑島たちがやってくる。伊達の下宿の捜査令状しか持っていないなら、妙子の部屋に入ると住居侵入で訴えるという伊達。桑島たちは帰っていった。伊達は、2000万入っていたボストンを、結婚する時の持参金にでもしろと言って、妙子に渡す。
伊達の出国の日、羽田空港にいる桑島と真杉。結局物的証拠をあげられずに悔しがり、敗北感に打ちのめされている真杉。しかし、桑島は、国外に出ても電話一本で逮捕することは出来るのだと不敵に笑う。結局、伊達の乗った飛行機は飛び立つ。真杉が、見送っている妙子に気がつく。彼女は、伊達から貰ったボストンを下げている。彼女が蒲田行きのバスに乗ったのを確かめて、車で追跡する二人の刑事。桑島は、妙子を殺さなかったことが、ひょっとすると伊達の失敗だったかもしれないと言う。その頃、機内で、機内食を食べながらスチュワーデスと流暢な英語で会話をしている伊達の表情は、一点の曇りもない。
村川透監督、松田優作主演で1980年公開作品はみている。しかし、この須川栄三・仲代達矢コンビの方が、大藪春彦のオリジナルを読んだ時の感触に近いと言っても、小学校5、6年か、中学1年か、屈折の一番酷かったころだから、40年近い昔の話だ。
新宿角川シネマで増村保造 性と愛。69年大映『千羽鶴(39)』
三谷菊治(平幹二郎)は、鎌倉の円覚寺を訪ねていた。
ちか子と太田夫人は、2年前に亡くなった菊治の父(船越栄二)の愛人だった。父は茶道の家元だった。京都祇園の芸妓だったちか子を落籍した父は、8歳の菊治を連れてちか子の元に通った。ちか子の左胸には、手のひら程の大きさの黒い痣があり、毛が生えている。菊治は子供心に恐怖を感じていた。しかし、父親は、友人で茶道仲間の太田が亡くなった時に、太田夫人の面倒を見つつ愛人になりちか子を捨てた。それ以来ちか子は、自分が今まで苦しめていた菊治の母(新宮信子)に取り入り、太田夫人を目の敵にしている。
今日の茶会は、実はちか子が、菊治と稲村ゆき子(南美川洋子)との見合いが目的だったとちか子から聞いて呆れる菊治。稲村ゆき子は、来る途中に道を訪ねた折り鶴の風呂敷包みを持った娘だった。しかし、茶会では、太田夫人が勝手に菊治に話しかけてくる。帰りがけに太田夫人が待ち伏せしている。話をしたいと言う夫人と料理屋に入り、関係してしまう菊治。帰宅するとちか子が来ている。太田夫人と料理屋で長い時間を過ごしたことまで知っているちか子。お父様と似ているだけで、菊治さんを誘惑する魔性の女だから気をつけろと言うちか子。
数日後、勤めから帰宅した菊治をちか子が待ち構えている。ちか子は、父が使っていた茶室を掃除していたのだと言う。夕食を用意したので一緒に食べようと言われる。稲村ゆき子を呼んできたことに驚く菊治。ゆき子と二人でお茶を立てながら、ちか子を介さずに会っていればよかったかもしれないと言う菊治。
太田夫人との関係は続いていた。菊治へのちか子のおせっかいも露骨になっていく。ちか子の影に怯えながら、太田夫人は徐々にやつれていく。ある日、彼女は他界する。菊治は葬儀には参列できなかったが、数日後、焼香に訪れ、娘の文子と会話をする。
ある日、文子が、菊治の元を訪れる。彼女は、母親の遺品だと言って、志野の茶碗を菊治に進呈したいと言う。太田夫人が普段使いの湯呑にしていたという志野は、太田夫人のように白く滑らかだった。文子は、大磯の屋敷を売却し、慣れない会社勤めを始めた。
菊治がひと月ほどの出張から戻ると、ちか子が会社にやってくる。稲村ゆき子と、文子が結婚したと言う。文子が結婚したと聞いてショックを受ける。数日後、文子が菊治を訪ねてきた。結婚したという話は嘘だった。志野の茶碗を返してほしいという。あまりに粗末なもので恥ずかしくなったと言う。しかし、菊治は、父親の遺品の信楽と比べても悪くないと言う。文子が志野を割る。菊治は文子を抱いた。文子は処女だった。菊治のもとから帰宅する文子を待ち受けているちか子。あなたたち親子は、なんて業が深いのだと文子を罵り、辱めるちか子。
文子が姿を消した。菊治は、文子の勤め先や下宿先を訪ねるが、しばらく旅にでると言い残して、誰も行き先を知らないと言う。その夜、ちか子が現れ、文子は自分を恥じて自殺したに違いないと言う。
菊治は、胸の大きな黒い痣のように腹黒く醜い女だとちか子を罵り、決別を宣言した。
川端康成原作。らしいドロドロとした女の不幸と、優柔不断に見えて、女の不幸の上に安住する卑怯な男。周りの女の不幸は、自分と父親がすべて作り出したものと、自覚しながら、その不幸を楽しんでいるかに見える悪魔的な男。自分に関わる女の不幸を創作の源にしている川端康成本人のようだ。
67年大映『痴人の愛(
大人の女になったら結婚しようと、写真を撮るだけで、肉体関係を自重していた河合だが、ある日、ナオミに求められて彼女を抱き、入籍する。しかし、ナオミにとって、結婚も河合からの搾取を合法化しただけのようだ。英語は嫌いなので、イタリア人の元でイタリア語を学びたいと言って通いだすが、結局、そこで知り合った不良学生熊谷政太郎(倉石功)や浜田伸夫(田村正和)たちと遊びまわっているだけだ。イタリア語教室のパーティーのために、5万円もするカクテルドレスを無断で購入し、数10万の本真珠のネックレスを買えと河合に迫るナオミ。給料の前借りなどではやりくりがつかなくなっており、実家の母に金の融通を頼みに行く河合。パーティーの会場では、酒も飲めずダンスも出来ない河合は、ナオミの付き人のようだ。
パーティーに社員の弟が来ており、河合と一緒にいたナオミは不良学生たちを食いまわっている淫乱女だと会社でも噂になる。既にナオミに振り回され、河合は、遅刻、早退、欠勤続きで、会社では問題になっていた。しかし、河合は、母が亡くなったことで莫大な遺産を相続した。河合は、会社を辞め、ナオミとも別れ、静かに暮そうと思う。しかし、河合はナオミの肢体を忘れることはできない。熊谷や浜田との姦通を目撃して、追いだしたものの、河合は昼夜、身もだえし苦悩する毎日だ。酔い潰れ、ナオミの裸を撮ったアルバムに囲まれて寝ていると、ナオミが着替えに帰っている。服を全部持って出て行けと河合が強く言っても、毎晩のように河合の家に現れ、着換えては遊びに行くようになっている。結局耐えられなくなった河合は、ナオミの馬になり続けることを選ぶ。
小沢昭一の馬に乗る安田道代、凄い。腹を蹴り、スリッパや靴べらで叩きながら、部屋を何周もさせる。「自分が欲しいものをすべて買うか」「自分が誰とつきあっても文句を言わないか」「私のいうことを、すべて聞くか」と言いながら最後には、「私にはお前しかいないから」と言う二人は、宇野重吉と京まち子よりも、依存関係として分かりやすく哀しいなあ。
阿佐ヶ谷でフリーランス見本市の新年会。渋い店。デザイナー、イラストレーター、カメラマン、帽子職人、楽しいなあ。