2009年1月24日土曜日

ナオミの夢

   池袋新文芸坐で、仲代達矢・役者魂。59年東宝須川栄三監督『野獣死すべし(38)』
   居酒屋で桑島(東野英治郎)、岡田(瀬良明)、真杉(小泉博)三人の警視庁1課の刑事たちが飲んでいる。岡田が子供のお土産に買ったロボットの玩具を動かしてみせる。老刑事の桑島には、8人の子持ちで、下の子はまだハイハイしているらしい。桑島は男の子には警官だけにはなるな、女の子には警官とだけは結婚するなと教えている言う。3人で笑うが、皆自嘲的だ。その帰り岡田が夜道を歩いていと、止まっている車の中から岡田の名前を呼ぶものがいる。立ち止まった岡田は撃たれてうずくまる。警察手帳、手錠、ピストルなどを懐中から取り、死体をトランクに入れ車を出す。動き続けるロボットの玩具だけが取り残される。人気のない場所で車を乗り換える犯人(仲代達矢)。
   翌日の大学構内、経理課に咳をする苦学生の手塚(竹内亨)が授業料未納で呼び出しを受けている。延納を認められず、抹籍になると脅かされ肩を落とす手塚の後から、昨夜の犯人の男が窓口に現れる。文学部大学院の伊達邦彦と名乗り授業料を納める。杉原ゼミでは、妙子(団令子)らゼミ生が活発に議論をしている。伊達が遅れて現れた。アメリカ留学帰りの杉原教授(中村伸郎)は、マスコミでも売れっ子だ。伊達は杉原の下で翻訳のバイトなどをしている。真面目で優秀だと、杉原始め教授たちの覚えも高い。ハーバード大への留学を希望、成績は全く問題ないが、苦学生の彼には費用が問題だ。射撃部でも、百発百中の腕だ。連れ込みホテルで、妙子を抱いている伊達。こんなところではなく伊達の部屋に行きたいと言う妙子に、別れを告げる。割り切った関係はお互い了解だった筈だろうと言いながら、逡巡の末承諾した妙子を、最後だと言って乱暴に求める伊達。
   その夜、違法カジノに、外人たちが集っている。そこのボスのチャーリー陳(中村哲)がその日の上がりを詰めたボストンバッグを下げ、用心棒の哲(佐藤允)と一緒に駐車場に向かうと、男が現れ、警察手帳を見せ違法カジノの摘発だと言う。陳に手錠を掛け、哲の頭を殴って気絶させ、カバンを持って逃げる。警視庁の刑事課長は、課員に時代遅れの勘に頼らず科学的捜査をしろと激を飛ばすが、一か月経っても。依然手掛かりも掴めない。
   真杉の恋人(白川由美)は、洋酒喫茶ロリータでアルバイトをしている。刑事の安月給では彼女を養えないと思い、プロポーズ出来ずにいる真杉。彼女は、恋人が刑事だと皆笑うので、今後は、電話はいいが、店には来ないでくれという。店に伊達が来ている。花売りの老婆が客に声を掛けている。伊達は、金を出し全部買ってやると言う。更に、歌って踊れば、もっと大金をやると命ずる。考えていたが、急に珍妙なダンスを踊り始める老婆。悪趣味な座興に、伊達を非難する声が上がる。金をばら撒き、店を出る伊達。金を拾い集める老婆。真杉は、伊達の後姿を見ながら、何かひっかかるものがある。銀座の街を伊達が歩いているとゲイボーイが声を掛けてくる。ウィンドウ越しに、ヤクザの用心棒の哲と安(西村潔)が後をつけているのに気がついた伊達は、止めてあった車にゲイボーイを押し込んで逃走する。タクシーで追跡する哲と安。人気の無い場所で、車を止める伊達。ゲイボーイを盾にして、二人を倒す伊達。使われた弾丸の銃弾痕を調べ、刑事殺しと同じ拳銃が使われたことがわかる。
  中央タイムズの記者の遠藤(滝田裕介)は、刑事殺しに関するコメントを小杉教授に貰いに行く。小杉は、自分は忙しいので、代わりに伊達に話させて自分のコメントとして掲載するようにと言う。伊達は、こういう新しい犯罪は、勘にしても科学にしても、今までの経験に基づいた捜査では絶対辿り着かないだろうと言う。真杉が桑島と話している。捜査本部は、ヤクザの縄張り争いに岡田刑事が巻き込まれたとして、決着をつけようとしているが、本当は、ヤクザなどではなく、普通の社会人や学生が犯人ではないかと言う。そこに遠藤記者がやってくる。伊達を取材した記事を読み、真杉と同じ考え方をしていると言う桑島。
   遠藤に研究室を聞いて、大学に出かける。しかし、小杉研究室では、伊達の居場所は分からなかった。妙子を探しあてるが、彼女もアパートなどは知らず、女は三回以上は抱かない主義だと言う。彼女は妊娠し、中絶費用のために、医学部で解剖用死体の移動のアルバイトをしている。それでも、射撃か、ドライブか拳闘をしているという彼女の話で、真杉は、ボクシングジムにいる伊達に会うことができた。花売りの老婆を虐待していた男だ。話すうちに、真杉の中では、伊達が真犯人だと確信を持つ。
   伊達は、苦学生の手塚に会う。授業料を払えない手塚は大学を除籍になっていた。結核も悪化している。どうせ死ぬならその前に一発花火を打ち上げないかという伊達の提案に肯く手塚。大学の経理課に支払われている入学金を奪わないかと言う提案だ。その夜、電話線を切り大学に忍び込む伊達。手塚は、瀬戸内から入学金を払いに来たが汽車の事故で遅れた学生を装って、経理課に入ることに成功する。伊達は、火のついたダイナマイトを小杉研究室に投げ込み、入学手続きの立会いで泊まり込みだった小杉を含む三人の教授を爆死させる。伊達と手塚は2000万の強奪に成功する。伊達は、手塚に心を落ち着かせるためと称して睡眠薬入りのウィスキィを飲ませて眠らせ、射殺したピストルを握らせ車ごと海に沈めた。
    2000万入りのボストンを持ち下宿に帰ると、伊達の書いた論文が入選し、アメリカの留学費用の免除が決まったという速達が、小杉教授から来ている。手紙を読み笑う伊達。そこに車の停まる音が聞こえる。刑事達は、入学金強奪が伊達の仕業で、金を持っているに違いないと思って踏み込んで来たのだ。間一髪、伊達は逃走し、妙子の下宿に現れる。妙子は、前日伊達の子供を中絶していた。全ての完全犯罪を成し遂げることは伊達にしかできないと思っていたと言う妙子。私を殺しに来たのねと言う。しかし、そこに桑島たちがやってくる。伊達の下宿の捜査令状しか持っていないなら、妙子の部屋に入ると住居侵入で訴えるという伊達。桑島たちは帰っていった。伊達は、2000万入っていたボストンを、結婚する時の持参金にでもしろと言って、妙子に渡す。
  伊達の出国の日、羽田空港にいる桑島と真杉。結局物的証拠をあげられずに悔しがり、敗北感に打ちのめされている真杉。しかし、桑島は、国外に出ても電話一本で逮捕することは出来るのだと不敵に笑う。結局、伊達の乗った飛行機は飛び立つ。真杉が、見送っている妙子に気がつく。彼女は、伊達から貰ったボストンを下げている。彼女が蒲田行きのバスに乗ったのを確かめて、車で追跡する二人の刑事。桑島は、妙子を殺さなかったことが、ひょっとすると伊達の失敗だったかもしれないと言う。その頃、機内で、機内食を食べながらスチュワーデスと流暢な英語で会話をしている伊達の表情は、一点の曇りもない。
  村川透監督、松田優作主演で1980年公開作品はみている。しかし、この須川栄三・仲代達矢コンビの方が、大藪春彦のオリジナルを読んだ時の感触に近いと言っても、小学校5、6年か、中学1年か、屈折の一番酷かったころだから、40年近い昔の話だ。
   新宿角川シネマで増村保造 性と愛。69年大映『千羽鶴(39)』
   三谷菊治(平幹二郎)は、鎌倉の円覚寺を訪ねていた。栗本ちか子(京マチ子)に招かれ、仏日庵で行われる茶会に来たのだ。場所を尋ねるために声を掛けた娘は折り鶴の絵柄の風呂敷包みを持っている。仏日庵にはちか子が待っている。着物を用意しているので着替えろと言う。着替えを手伝いながら、ちか子は太田夫人(若尾文子)が娘の文子(梓英子)を連れて誘いもしないのに来ていると言う。
   ちか子と太田夫人は、2年前に亡くなった菊治の父(船越栄二)の愛人だった。父は茶道の家元だった。京都祇園の芸妓だったちか子を落籍した父は、8歳の菊治を連れてちか子の元に通った。ちか子の左胸には、手のひら程の大きさの黒い痣があり、毛が生えている。菊治は子供心に恐怖を感じていた。しかし、父親は、友人で茶道仲間の太田が亡くなった時に、太田夫人の面倒を見つつ愛人になりちか子を捨てた。それ以来ちか子は、自分が今まで苦しめていた菊治の母(新宮信子)に取り入り、太田夫人を目の敵にしている。
  今日の茶会は、実はちか子が、菊治と稲村ゆき子(南美川洋子)との見合いが目的だったとちか子から聞いて呆れる菊治。稲村ゆき子は、来る途中に道を訪ねた折り鶴の風呂敷包みを持った娘だった。しかし、茶会では、太田夫人が勝手に菊治に話しかけてくる。帰りがけに太田夫人が待ち伏せしている。話をしたいと言う夫人と料理屋に入り、関係してしまう菊治。帰宅するとちか子が来ている。太田夫人と料理屋で長い時間を過ごしたことまで知っているちか子。お父様と似ているだけで、菊治さんを誘惑する魔性の女だから気をつけろと言うちか子。
   数日後、勤めから帰宅した菊治をちか子が待ち構えている。ちか子は、父が使っていた茶室を掃除していたのだと言う。夕食を用意したので一緒に食べようと言われる。稲村ゆき子を呼んできたことに驚く菊治。ゆき子と二人でお茶を立てながら、ちか子を介さずに会っていればよかったかもしれないと言う菊治。
   太田夫人との関係は続いていた。菊治へのちか子のおせっかいも露骨になっていく。ちか子の影に怯えながら、太田夫人は徐々にやつれていく。ある日、彼女は他界する。菊治は葬儀には参列できなかったが、数日後、焼香に訪れ、娘の文子と会話をする。
   ある日、文子が、菊治の元を訪れる。彼女は、母親の遺品だと言って、志野の茶碗を菊治に進呈したいと言う。太田夫人が普段使いの湯呑にしていたという志野は、太田夫人のように白く滑らかだった。文子は、大磯の屋敷を売却し、慣れない会社勤めを始めた。
   菊治がひと月ほどの出張から戻ると、ちか子が会社にやってくる。稲村ゆき子と、文子が結婚したと言う。文子が結婚したと聞いてショックを受ける。数日後、文子が菊治を訪ねてきた。結婚したという話は嘘だった。志野の茶碗を返してほしいという。あまりに粗末なもので恥ずかしくなったと言う。しかし、菊治は、父親の遺品の信楽と比べても悪くないと言う。文子が志野を割る。菊治は文子を抱いた。文子は処女だった。菊治のもとから帰宅する文子を待ち受けているちか子。あなたたち親子は、なんて業が深いのだと文子を罵り、辱めるちか子。
   文子が姿を消した。菊治は、文子の勤め先や下宿先を訪ねるが、しばらく旅にでると言い残して、誰も行き先を知らないと言う。その夜、ちか子が現れ、文子は自分を恥じて自殺したに違いないと言う。
菊治は、胸の大きな黒い痣のように腹黒く醜い女だとちか子を罵り、決別を宣言した。
  川端康成原作。らしいドロドロとした女の不幸と、優柔不断に見えて、女の不幸の上に安住する卑怯な男。周りの女の不幸は、自分と父親がすべて作り出したものと、自覚しながら、その不幸を楽しんでいるかに見える悪魔的な男。自分に関わる女の不幸を創作の源にしている川端康成本人のようだ。
   67年大映『痴人の愛(40)』。製油工場で技師をしている河合穣治(小沢昭一)は、会社ではたばこも酒もギャンブルもやらない堅物だと思われているが、自宅でナオミ(安田道代)という女と同居している。ナオミは、貧しい飲み屋の娘だった。ナオミを磨き上げると称して、自分のペットにし甘やかすうちに、その悪魔的な性格を表していくナオミに、河合は苦しめられていくことになる。ピアノと英語を勉強させ、大人の女にしようとするが、怠惰で享楽的なナオミは努力という言葉をしらないかのようだ。
   大人の女になったら結婚しようと、写真を撮るだけで、肉体関係を自重していた河合だが、ある日、ナオミに求められて彼女を抱き、入籍する。しかし、ナオミにとって、結婚も河合からの搾取を合法化しただけのようだ。英語は嫌いなので、イタリア人の元でイタリア語を学びたいと言って通いだすが、結局、そこで知り合った不良学生熊谷政太郎(倉石功)や浜田伸夫(田村正和)たちと遊びまわっているだけだ。イタリア語教室のパーティーのために、5万円もするカクテルドレスを無断で購入し、数10万の本真珠のネックレスを買えと河合に迫るナオミ。給料の前借りなどではやりくりがつかなくなっており、実家の母に金の融通を頼みに行く河合。パーティーの会場では、酒も飲めずダンスも出来ない河合は、ナオミの付き人のようだ。
   パーティーに社員の弟が来ており、河合と一緒にいたナオミは不良学生たちを食いまわっている淫乱女だと会社でも噂になる。既にナオミに振り回され、河合は、遅刻、早退、欠勤続きで、会社では問題になっていた。しかし、河合は、母が亡くなったことで莫大な遺産を相続した。河合は、会社を辞め、ナオミとも別れ、静かに暮そうと思う。しかし、河合はナオミの肢体を忘れることはできない。熊谷や浜田との姦通を目撃して、追いだしたものの、河合は昼夜、身もだえし苦悩する毎日だ。酔い潰れ、ナオミの裸を撮ったアルバムに囲まれて寝ていると、ナオミが着替えに帰っている。服を全部持って出て行けと河合が強く言っても、毎晩のように河合の家に現れ、着換えては遊びに行くようになっている。結局耐えられなくなった河合は、ナオミの馬になり続けることを選ぶ。
   小沢昭一の馬に乗る安田道代、凄い。腹を蹴り、スリッパや靴べらで叩きながら、部屋を何周もさせる。「自分が欲しいものをすべて買うか」「自分が誰とつきあっても文句を言わないか」「私のいうことを、すべて聞くか」と言いながら最後には、「私にはお前しかいないから」と言う二人は、宇野重吉と京まち子よりも、依存関係として分かりやすく哀しいなあ。
   阿佐ヶ谷でフリーランス見本市の新年会。渋い店。デザイナー、イラストレーター、カメラマン、帽子職人、楽しいなあ。

2009年1月23日金曜日

生きてるうちが花なのよ死んだら終りなのよ党入党希望

   渋谷シネマヴェーラで森崎東の現在
   85年キノシタ映画森崎東監督『生きてるうちが花なのよ死んだら終わりなのよ党宣言(35)』。
   不良少年少女3人が学校の前でタムロしている。玉枝(竹本幸恵)正(片石隆弘)和雄(久野真平)は、担任の野呂(平田満)が運転する車が学校にやってくる。女教師が持つ百万円を奪い取り、野呂の口にガムテープを貼り、ナイフを突き付けて、車を走らせる。車はカバーを掛けたまま校庭内を暴走した末、逃走する。車を停め、野呂を縛って、玉枝の家、沖縄料理屋波の上の二階の物干し台に連れ込む。玉枝が公衆電話で学校に脅迫電話を掛けている。野呂は首にしたので身の代金なんか払わないと言われる。ヤクザの三下が声を掛けてくるが、玉枝が無視をすると殴られた。そこに宮里(原田芳雄)が通りかかって助けてくれたが、宮里も地元のヤクザの組長の戸張(小林稔持)に、「愛子という娘を敦賀から足ぬけさせただろう。敦賀の親父が激怒しているので、詫びを入れないと殺すぞ」と脅される。
   その日、ヌードダンサーのバーバラ(初江)(倍賞美津子)が、波の上に帰ってきていた。帰るなり、愛子の姿を探して二階に。愛子はいない。夜になり、船長(殿山泰司)と初江が、?(河原さぶ)の弾く三線に合わせて踊っている。そこに宮里が戻ってきた。愛子を結局福井に戻したのかと責めるが、宮里はあいつが勝手に帰ったんだと言う。久しぶりに再会した宮里は布団を敷き初江を求める。何故か布団の上は嫌だと言って物干し台に誘う初江。抱き合いながら、初江は「会いたいよう、淋しいよう」繰り返す。   
  寝返りをすると、初江の足が縛られビニールシートの下に転がされていた野呂の顔に当たる。驚く初江と宮里。猿轡も紐も解かないまま、野呂を連れ、正たちの下に連れて行き、何でこんなことをしたんだと問い質す初江。野呂は川に走り小便をしている。自分達は修学旅行に参加させてもらえなかったので、積立金を返して貰おうと思ったのだと玉江が言った。正が宮里に兄貴と呼んだことで、初江は、宮里は足を洗ったと言ったが、結局ヤクザじゃないかと言って追い出す。そこに学校の教頭の大内(左とん平)が酔っ払ってやってきて、盗んだ金はお前たちにやるから、今後一切学校に来るなと言って帰って行く。事件は未遂だったとして内聞にしたのだ。実は玉枝は妊娠しており、自分のような父なし子は不幸なので、中絶するための金が欲しかったんだと言って、母親の竹子(小林トシ江)と言い争いになる。結局玉枝たちは出て行った。
   翌朝、野呂は橋のたもとで旅支度で泣いている初江を見つける。カバンを持ちましょうかと声を掛ける。結局、野呂は初江のヒモとして、旅をすることに。何カ所かのハコを回って、福井の美浜にやってくる。一軒の家に入り、愛子はと聞くと、一度帰ったが、今は墓にいると言う。愛子が死んだと思い裏山に泣きながら駆け上がる初江。愛子が声を掛ける。愛子の恋人の安次(泉谷しげる)が亡くなり、埋葬したのだ。正、玉江たちも福井に流れて来ていた。この街の歓楽街は、原発ジプシーたちでいっぱいだ。作業員を手配し、金をピンハネするヤクザと、警察もグルだ。原発の作業中に事故死しても、ドラム缶にコンクリート詰めされ、ヘリコプターでいずこかに運ばれていくと言うまことしやかな噂を皆信じている。実は、安次は、原発の事故で大怪我を負ったが、死んだことにして、生きたまま、墓に埋めて隠れていたのだ。
  正と再会した野呂は、正の代わりに原発の作業員として潜り込む。苦しく辛い作業中にも、放射線センサーは鳴りっぱなしだ。愛子と安次は、初江と野呂の媒酌で形ばかりの祝言を墓場で上げ、海伝いに逃げた。しかし、売られてきたジャパゆきのフィリピーナ・マリアと正も連れて逃げた為、宮里に操縦させた漁船に乗ったヤクザの親分に射殺された。バーのママ銀子(乱孝寿)は、死ぬまでこの街で客を取らされるマリアを助けるために、命を捨てるなんてことは止めろと忠告する。
   マリアが客を取らされていた海岸の掘立小屋で、野呂に抱いてくれと言う初枝。躊躇いながらも、抱き締める野呂。しかし、刑事(梅宮辰夫)が現れ、マリアを隠していないだろうなと言って去っていく。野呂を残して、初枝も部屋を出た。実は、部屋の隅に、宮里が隠れていた。宮里は、野呂に、自分と初枝は、ゴザ騒乱の時に、密航して内地に渡ったため、パスポートも住民票もない。そこで、渡りのストリッパーと原発ジプシーになったのだと告白する。宮里の足は、原発事故で負った大きな傷があり、そこは酷く変色している。そこに、気休めに灸を打つ宮里。初枝は可哀そうな女だから、大事にしてやってくれという宮里。
   初江達は命がけで、正とマリアを美浜から逃がす。名古屋に戻り、船長のボロ船で、フィリピンまでマリアを連れて行こうと準備をしていると、戸張たちがやってくる。マリアを出せと初枝に迫る戸張の胸が撃たれた。物干し台にライフルを持つ宮里の姿が。しかし、その宮里も戸張の組の若い衆に撃たれる。刑事たちも、美浜から追いかけてきた。宮里と銃撃戦となる。動けなくなった宮里の代わりに刑事たちを射殺する初江。船長のボロ船が海に出ていく。
    結局、暴力団同士の抗争に刑事も巻き込まれ死人が出たということになった。船長の船は、油を積み忘れていたので、名古屋湾を漂流している。正、玉枝、和男、野呂が乗っている。マリアは不法滞在で強制送還されることになった。名古屋港で見送る初枝に、手を振るマリア。愛子がよく叫んでいた「溢れる情熱、みなぎる若さ、協働一致、団結ファイト!!」という言葉を初枝に叫ぶマリア。再び初枝は、スーツケースを下げて旅に出る。
   人を食った脱力系のタイトルの割には、日本の原発で働く、原発ジプシーと呼ばれる原発の渡り労働者にスポットを当てた社会派的な作品だ。しかし森崎監督らしく、重たいテーマを、底辺に生きる人々の体験、視線から描いている。その分、事態の重さが伝わってくる。我々東京の人間から見えないところに、金をばら撒いて原発が運営されている。そこには搾取される人間以下の人間が存在する。命と引き換えに働く労働者と、そのガス抜きに使われる慰安婦だ。
    池袋新文芸坐仲代達矢役者魂70年東宝にんじんくらぶ篠田正浩監督『無頼漢(36)』。
    水野忠邦の天保の改革で、贅沢、遊興全てが禁じられた頃、遊び人の片岡直次郎(仲代達矢)は、役者になろうと芝居小屋を訪ねては断られている。大口屋の花魁三千歳(みちとせ)(岩下志麻)に、人相見だと言って声を掛けるが相手にされない。その晩、直次郎と同じ長屋の丑松(小沢昭一)が、旅から戻ってくると恋女房のお半と一粒種ちょうが、御用聞きの五斗米市(笈田勝弘)と家主の紋左衛門(春日章良)により借金苦に追い込まれ、お半は首を括り、ちょうは、旅芸人の一座に売り飛ばされたという。更に残った借金を払えというあまりの話に、刀を抜いた丑松は、五斗米市らを追い回す。
   芝居小屋から役者たちが、捕縛され番所に連行されていく。三文小僧(山本圭)は、捕り方に追いかけられているところを、河内山宗俊(丹波哲郎)に助けられる。三文小僧は、大塩平八郎の残党らしい。宗俊は悪名は高いが、城中に出入りする数寄屋坊主だ。水野越前守(芥川比呂志)に茶を出し、江戸市中の様子を聞かれ、天保の改革でみな不満が渦巻いていると答える。
   直次郎は、イカサマ博打で稼いだ金で三千歳のもとに入り浸りだ。三千歳に入れあげている近江商人の森田屋清蔵(渡辺文雄)は、直次郎のせいで待たされて怒り狂う。やっと出てきた直次郎は、森田屋の顔を見て、死相が出ているので、払ってやると嘘をつき、森田屋に四つん這いの格好をさせ、皆の物笑いにした。夜、大きな寺で賭場が開かれている。客の中に森田屋がいる。一人勝ちで帰っていく男の後をつける金子一之丞(米倉斉可年)の姿がある。男を一太刀で斬り捨てると、森田屋が現れる。金子一に約束の金を渡し、腕は衰えていないなと言い、直次郎を斬ることを依頼する。
  直次郎は、三千歳と夫婦になりたいと、母親のおくま(市川翠扇)に言うが、そんな遊郭の女は駄目だと言う。この口うるさいおくまがいる限り、一生うだつが上がらないと思いつめた直次郎は、布団で素巻きにして、大川に投げ捨てる。夜道を、鵙市(陶隆)笛市(北九州男)葦市(山谷初男)三人の座等が、呉服荒らしで盗んだ長持ちを運んでいる。葦市が、血のにおいがするので、近くで何かあると言う。吉原からの駕籠に、直次郎が乗っていると思った森田屋は、金子一にやれと命じる。金子一が駕籠を見ると、何故か宗俊が乗っている。
  丑松は、芝居小屋に息子のちょうのことを聞いて回っている。とんぼを切るのがうまくて、とんぼと呼ばれていたらしいことは分かるが、行方はつかめない。思いつめた丑松は、子供を攫う。その子供は、とんぼを切ることがとてもうまい。ちょうだと聞くが子供はとんぼだと言う。自分の子供になれば何でも買ってやるという丑松に、死神の面が欲しいというとんぼ。人ごみの中に入ると、突然子供は、このおじさんは人さらいだと叫び始める。追いかけられ、逃げる丑松。川に逃げていくと、おくまを見つける。長屋に連れて来て、身体を温め蘇生させる。そこに、直次郎に惚れた三千歳が現れる。三千歳に託し丑松は去る。息を吹き返したおくまと三千歳は意気投合する。母親を殺した後悔で酔っ払った直次郎が長屋に帰ってくると、おくまと三千歳がいて腰を抜かす直次郎。丑松は、神社で首をくくろうとしているところを、金子一に助けられる。どうせ死ぬんだったら、自分たちを手伝えと言われる。天保の改革で職を失ったものたちが、打ちこわしをしようと計画しているのだ。
   直次郎が湯屋に行くと、森田屋や、金子一、宗俊らがいる。上州屋(藤原釜足)と番頭の直助(倉田爽平)が、娘、浪路(太地喜和子)が、松江出雲守(中村敦夫)の屋敷に腰元として上がったが、浪路の美貌に執着して側室にしようとして返してもらえず困っているというのを聞きつけて、宗俊が二百両くれれば、娘を助け出してやると声を掛ける。宗俊の悪名に、直助はやめたほうがいいと言うが、毒は毒を持って制すという言葉もあり、すがるつもりで宗俊に掛けたのだという上州屋。
   松江家の屋敷では、刀を振り回す出雲守と、逃げ惑う浪路。そこに、家臣宮崎数馬(蜷川幸雄)が、松江家の名誉のため出雲守を諌めようと間に入る。しかし、この醜聞を隠そうと家老の北村大膳(垂水悟郎)は、数馬と浪路の不義密通だとして、出雲守に斬り捨てるよと進言する。しかし、そこに上野の山の御使僧北谷道海が屋敷を訪れる。勿論河内山宗春が化けている。上州屋が上野の住職に相談したことで、浪路を返さなければお上に話し、松江家にどんな禍が起きるか分からないと脅す。浪路を駕籠に乗せ、直次郎が上州屋に送り届けた。しかし、賄賂の金を受け取ったのち帰る宗春を、大膳は見破り、取り囲まれる。宗春は、金子一と逃げた。
   しかし、徳川家の菩提寺である上野山を騙った宗春に捕り方が迫る。金子一と三文小僧たちが率いる百鬼夜行たちは、番所に焼き打ちにし、江戸市中を騒がせる。天保の改革で禁じられている花火を打ち上げる丑松たち。しかし、その頃、宗春、金子一、三文役者たちは、捕らえられ、斬られていく。丑松は最後の一発で自らを打ち上げる。直次郎は、三千歳の間に入って邪魔をするおくまを再び縛り捨てに行こうとしている。何度川に捨てても戻ってくると毒づくおくまに、今度は山に捨てにいってやると言う直次郎。空には、丑松が打ち上げた花火が・・。 .
   66年草月会勅使河原宏監督『他人の顔(37)』。
ある会社の常務をしていた奥山(仲代達矢)は、新設工場での点検の際に顔に大火傷を負ってしまう。頭部を包帯でぐるぐる巻きにしている奥山。彼の屈折は、永年連れ添った妻(京マチ子)は苦しませるばかりだ。友人で共同経営者の専務(岡田英治)からは、ゆっくり休めと言われるが、素直に聞くことは出来ない。専務秘書(村松英子)にも、つまらないことで絡んでしまう。
   精神科医の祝宏三(ほうりこうぞう)(平幹二郎)は、身体の一部を欠損した患者に精神治療の一環として、精巧な義手や指、耳なとを提供している。ある日奥山は祝に顔面のマスクを作ってくれと依頼する。それも元の顔とは違うマスクを。医者としての倫理的に始めは拒絶していた祝だが、自分の医学的な好奇心には勝てず、奥山から脅迫を受けたと自らを納得させ、承諾した。石膏で焼けただれた顔面のマスクをとり、街で見つけた男(井川比佐志)に一万円を払って顔面の型を取った。奥山は新しい人格の生活の場としてアパートを準備する。管理人の男(千秋実)は、愛人を連れ込んでいるらしい。その間知恵遅れの娘洋子(市原悦子)は、外で遊ばされている。その部屋を借りることに決める奥山。
   数日後、奥山の新しい顔が完成した。妻には、一週間関西に出張すると偽って入院する。看護婦(岸田今日子)に手伝わせ、奥山に新しい顔を貼り付けていく、時間を掛けた調整の末、そこに新しい人物が誕生した。皮膚呼吸が出来ないため12時間しか着用できないことと、毎日出来事を報告することを約束する。祝と街出ることに、最初は目元を隠すためサングラスを掛けている。新橋ミュンヘンと言うビアホールで乾杯する2人。想像以上の出来映えだ。祝と別れ、夜の街を歩く奥山。新しい顔で、再びアパートを訪れる。今日も管理人は女を引き込んで、洋子は外で遊んでいる。1階上の部屋を借りることにする。管理人は全く気がつかない。
  翌日、奥山は外出し、京王百貨店で、新しい服やベッドカバー、ヤカンなど生活用品を購入する。荷物を持って帰宅すると、管理人の娘洋子に会う。同じアパートの老女(南美江)が愚鈍な娘に躾けようと手の届かない所に放り投げたヨーヨーを取ろうとしている洋子に、思わず、ヨーヨーを買ってやると言う。新しく借りた部屋で着替え、マスクを外し、包帯顔で最初に借りた部屋に移る。しかし、洋子は、包帯の顔の奥山にヨーヨーはいつ買ってくれるのかと尋ねてくる。初めて洋子に、マスクを見破られてショックを受ける奥山。祝医師は、犬は嗅覚で奥山を理解しているから、愚鈍の娘も犬と同じだろうと言う。
  奥山は会社を訪ね、専務秘書に会う。彼女は、奥山だとは全く分からなかった。やっと自信を持った奥山は、別人のマスクを作る本当の目的だった妻を誘惑するという計画を実行に移す。渋谷の街で声をかけ、喫茶店に二人で入る。奥山は、妻をアパートに連れて行った。妻はあきらかに興奮していた。行為を終えた奥山は、妻に対する憎悪の気持で告白しようとするが、妻は最初から夫だとわかっていたと言う。火傷を負って以来、遠ざけていた妻への愛情のために、仮面舞踏会で踊る夫婦のように誘惑し関係を持ったのだと思っていたと告げる妻。どれだけ、醜く変わった夫の顔を耐えていたことを分かっているのかと告げ、夫を買い被っていた自分への絶望を告げて走り去る。
   奥山が自宅を覗くと、泣いている妻がいるが、彼女は決してドアを開けようとはしなかった。奥山の中で何かが壊れた。今の自分は何者でもないのだと言い、夜道を歩く若い女性に襲い掛かった。警察に捕らえられた奥山のポケットから病院の診察券が出てくる。警察からの問い合わせに、祝は自分の病院の入院患者が逃走したのだと言い、迎えに行く。自分は狂人ではないと言い張る奥山を連れて警察から出る祝。歩道を歩く二人の向こうから、顔を隠した群衆がやってくる。「君だけが孤独なのではない。誰もが孤独なのだ。君は自由なのだ」と祝が言うと、倒れた。路上で絶命する祝の背には、奥山が刺した包丁がある。自分は自由で何者でもないと言いながら去っていく奥山。
  インサートされるサイドストーリーがある。レターボックスのように上下に黒が入っているのと、奥山が映画を見たと祝に話すところがあるので、映画のストーリーかもしれない。道を歩く美しい娘(入江美樹)を、若者たちが声をかけるが無視されて、さらにくどく絡む。娘が振り返り、反対側の顔を覆っている髪を掻きあげると大きなケロイドがある。絶句する若者たち。娘は精神病院に入っていく。彼女はそこで、患者たちの服を洗濯している。屋上で洗濯物を干していると、のどかな顔をした老人が話しかけてくる。急に襲いかかる老人。逃げる娘。帰宅した娘は、兄と何かの製品を作っている。兄妹の家内制手工業のような単純な製品だ。娘は、兄に、戦争はいつ起こるのだろう。今この瞬間か、明日に起きたら社会が変わってしまうのにとつぶやく。
  兄妹は、海岸を歩いている。そこは、警察の射撃訓練場だ。海で遊ぶ兄妹。旅館にいる二人。風呂上がりらしい浴衣姿の妹は、兄に奥さんお湯はどうでしたかと聞かれちゃったと話す。食事を済ませ、並んだ布団に寝ている兄妹。兄に私は結婚できないだろうと言う妹。泣きながら抱きついてくる妹のケロイドの顔にキスをする兄。翌朝、妹の布団は畳まれ、その上に兄上さまへという手紙が置いてある。兄は泣き続けている。窓の外を見ると、白いワンピース姿で、今までケロイドのある側の髪を下ろしていた娘が、髪をあげ、リボンで結んでいる。そして、海に入っていく娘。
   今まで、最も好きな映画と聞かれると、邦画では、勅使河原宏監督、安倍公房原作脚本の「砂の女」を挙げていた。この映画も同じコンビだ。「砂の女」も20年以上観ていない。もう一度見直さないと分らないが、ひょっとすると、「砂の女」よりも好きかもしれない。何で今まで観ていなかったんだろうと考えても分らない。このマスクを被った主人公は、何か表情の無い仲代達矢しかできないかもしれない。また、京マチ子の素晴らしさ。ケロイドがある美しい女のストーリーが並行して進んで行くことで、自分の絶望感が昇華されていく気がする。何度も見たいなあ。
  ミッドタウンのデザインリエゾンセンターで、WIRED主催の「IPTVセミナー」に参加。

2009年1月22日木曜日

岡本喜八はすごいなあ

   池袋新文芸坐で、仲代達矢 役者魂。68年東宝岡本喜八監督『斬る(32)』。
   天保四年3月、上州小比木領下、荒れ果てた野々宮の宿に、田畑半次郎(高橋悦史)という食いつめた浪人がやって来た。番屋の役人に問い質され、次席家老の鮎沢多宮(神山繁)が腕の立つ浪人を集めていると聞いてやって来たのだと言う。5日間水しか飲んでいないと言うと、その先に飯屋があると教えられる。しかし、中では主の老婆が首を吊っていた。外に出ると痩せ細ってはいるが、鶏がいる。捕まえて食おうとすると、渡世人とぶつかった。渡世人の名は源太。城代家老溝口佐仲の悪政で領内は荒れ果て、2ヶ月前に、侠客の正五郎親分の助けを借りて百姓一揆が起きたが正五郎始め、主だった農民も晒し首にされ、ヤクザも住めなくなったので、出て行こうとしていたのだ。結局2人とも痩せ鶏は捕まえられなかった。
   そこに、笈川哲太郎(中村敦夫)がやって来る。哲太郎は、藩の志を一つにする仲間と、家老の溝口を義の為に斬ろうと計画していた。ひょんなことから、哲太郎の持っていた握り飯を半次郎と源太は2つずつ貰うことになった。七人の若侍が集まった。そこに馬に乗った松尾新六(土屋嘉男)が駆けつける。確かに溝口は江戸に向かったと言う。次席家老の鮎沢も若侍の義挙を支持すると言っていると言う。自分も加わると言う新六に、城内との繋ぎの大事な役目なのだから戻ってくれと言う哲太郎。
果たしてしばらく後、溝口の一行がやってきた。若侍たちは死闘の末見事に家老を討ち取った。傷を負ったものもいるが、七人全員が無事だ。鮎沢と新六への連絡を誰がするかと言うことになったが、下手な動きをせず、真法寺で沙汰を皆で待つことにし、一宿一飯の義理で源太が向かうことになった。その頃半次郎は、鮎沢の屋敷の道場で、滅茶苦茶な剣だが腕っ節の強さだけは認められ侍になるコネだけは付けることが出来た。鮎沢と新六のもとに源太が現れ、哲太郎からの伝言を伝える。鮎沢は、半次郎に源太を切ってしまえと命じた。
真法寺に向かう途中、源太は後を付けてきた半次郎に、鮎沢が今回の話が他藩などに漏れるとよくないのであの流れ者を斬れと言われて来たのだろうと声を掛ける。驚く半次郎に、侍なんていつでもそうだと言う。実はそんな侍が厭になって、渡世人になったのだと言う源太。百姓がほとほと嫌になって、田畑を売り、刀を買った半次郎には、そんな源太の言葉が理解できないが、源太を斬れない半次郎に、斬ったと報告してしまえ、お前は斬ろうとするより、突けと言う。
   真法寺に、新八がやってきた。江戸にいる藩主に直訴しに向かうことになった。それまでの間、7人は、藩境にある砦山に身を隠すことになった。必ず7人一緒にいろと言って、馬を走らす新八。真法寺の道信和尚(今福正雄)と源太が花札で手慰みをしていると、哲太郎の許嫁の千乃(星由理子)が現れた。ケガ人が出たと聞いて居てもたってもいられなくてやって来たのだ。砦山に向かったと聞いて、後を追う。それまで、女と酒さえなければ、仲間割れを起こさないだろうと言っていた源太も心配になる。
    その夜、源太が鮎沢邸に忍び込むと、江戸に向かった筈の新八と鮎沢が密談をしている。既に30人の討ち手を向かわせており、更に翌朝、20名ほどの浪人たちを向かわせ、若侍と浪人たちが戦ったのち、彼らの私闘として、全員撃ち手の鉄砲と弓矢で片付けるという計画なのだ。その後、身を隠そうとしている新八を、百姓一揆を支援して打ち首になった政五郎の子分武助(樋浦勉)の手助けで生けどりにする。
   その頃、半次郎たち、浪人組は、鮎沢に、明日に備えて酒と女でも楽しめと言われて金を与えられていた。半次郎は組長の荒尾十郎太(岸田森)を誘うが、十郎太は自分は金が惜しいのでいかないが、ひさごという女郎屋のおよう(田村奈巳)に金を渡して4、5日の辛抱だと伝えてくれと言う。おようを自分の妻だと言う十郎太。ひさごに行き、他の浪人に買われていたおようを、得意の馬鹿力で横取りした。十郎太が自分を妻だと言ったと聞き、涙を流すおよう。かって、二人は許嫁だった。おようの父が切腹をすることになり、母子は生活苦になり、母が病になったのでおようは身を売ったのだ。十郎太から預かった金を渡し、4、5日これで客を取らずに十郎太を待てと言う半次郎。半次郎は、おように、酒と、土の匂いのする女を紹介してくれと言って、自分の金をおように預ける。やってきたトミ(鈴木えみ子)は、白粉臭く放っておかれたが、明け方、トミの手を見て自分と同じ百姓の手だと思い、化粧を落とさせて抱いた。
    新八を縛り、着物を自分のものと変えさせて砦山を登っている源太と武助。しかし、途中で浪人組に追いつかれる。新八を隠し、浪人組への入隊を希望して待ち受けていたと偽り加わる源太。砦山のアジトでは、千乃が駆け込んできたことで、7人の関係が崩れ始めていた。美しい千乃は、藩士たち皆が争った末、哲太郎が許嫁の座を射止めたという経緯があったのだ。更に、怪我の治療用に秘蔵されたいた焼酎を見つけたことで、一触即発の状況だ。
    浪人組が砦山に登り、源太が斥候として、アジトを見てくることになった。源太は、哲太郎と斬り合うふりをしながら、新八が裏切りものであったが、山を登る途中、亡くなったこと。浪人組と若侍たちを私闘として処理する鮎沢の陰謀を伝えた。浪人組と若侍の斬り合いになるが、撃ち手からの銃弾で、浪人組の二人が負傷した。十郎太たちは、間違えて撃たれたのだと思い、撤退する。しかし、怪我をした二人が治療のため下山しようとした時に、殺されるのを見て、自分たちもまた標的にされていることに気がつく。しかし、十郎太は、おようを請け出すために、若侍を一人斬るごとに10両という金が必要なのだ。まずは、翌朝総攻撃をかけて若侍たちを斬ろうと命ずる。アジトの中では、新八の裏切りに関して意見が割れたが、吉田弥平次(地井武男)を江戸に向かわせるということになった。しかし、アジトの前には、篝火が焚かれている。そこに、源太が弓で篝火を倒し消し、弥平次の逃走を助ける。更に襲いかかる目付たちを斬った。弥平次に、山の下で武助が馬を用意しているので、一気に走れと言う。そこに、十郎太が現れる。油断のない構えだが、殺気はない。源太は、かってある藩に、兵頭弥源太という目付がおり、義挙で家老を討った親友を藩命により斬り、侍がほとほと嫌になって2年前に侍を捨てたらしいという話をする。お主のことだろうと十郎太が言い、しかし、自分にはどうしても30両が必要なので、いざとなったらお主を斬るという。源太も、若侍を救うために、いざとなったら自分も十郎太を斬ると言う。二人に通いあうものがあった。一人で鮎沢を討ちに山を降りた源太のことを半次郎に伝え、居眠りをして半次郎の脱走を黙認する。
   鮎沢たちにより、源太が捕らえられ、幕府の隠密か、誰かの狗ではないかと疑われ、拷問を受けている。半死半生で、牢に入れられているところを、半次郎は救い出し、ひさごに連れていく。牢に一緒に入れられていた反鮎沢の次席家老の森内兵庫も一緒だ。森内は、初めて女郎屋に入れて喜んでいる。変な爺だと毒づいていた半次郎は、源太から家老だぞ、と教えられ平伏する。
   片手足を骨折し、酷い状態の源太は、森内に火箸を鋭利に研いでもらい、それを唯一の武器に鮎沢邸に向かう。鮎沢邸では、ものものしい戦支度だったが、彼岸の中日で、経を上げにきたと、道信和尚が訪れる。仕方なしに、道信を招き上げ、家内全員を仏間に集め法事が執り行われることに。読経の間に、真法寺から和尚を迎えにきたと駕籠がやってくる。案内しているのは、武助だ。駕籠から抜けだした源太は、茶室に潜む。法事も終わり、茶室に戻ってきた鮎沢の手を火箸で刺す。殺さないつもりだったが、斬りかかってきた鮎沢を討つ。その頃、半次郎の報せで山を降りた若侍たちも、鮎沢邸に斬り込んできた。討ち手を率いていた目付の金三郎は半次郎に討たれ、もう一人の島田源太夫(天本英世)は、親友哲太郎の思いに兵を引いたのだ。その戦いの最中、十郎太たち浪人組は、討ち手によって半次郎を残し討ち死にした。
  江戸に向かっていた弥平次が、戻ってきた。藩主に報告し、もう直ぐ大目付がやってくるという。哲太郎たち若侍の戦いは終わった。屋敷の外では、何年も祭りをできなかった民百姓が盆踊りを始めている。その騒ぎの中、源太は姿を消した。探し回る半次郎と武助。
  雨の中、真法寺の破れ笠を差し、足を引きずりながら源太が野々宮の宿場を出て行こうとしている。やはり空腹のようで痩せ鶏を見つけて捕まえようとするが、勿論逃げられる。そこに、源太の名を呼ぶ声が。裃をつけた半次郎だ。忘れものだと言う。怪訝な顔をする源太に、侍の堅苦しい生活が嫌になったので、一緒に行くと言う。更に、武助も追いかけてきた。3人かというと、まだいるという半次郎。ひさやの番傘を差した女たちだ。家老の森内が、ひさやの女郎たちの借金を払ってくれたというのだ。おようは、十郎太の遺骨を下げており、二人の郷里に帰るという。半次郎のもとに、トミが来た。雨の中、源太たちは、どこに向かうのだろうか・・。
   七人の若侍、笈川哲太郎(中村敦夫)竹井紋之助(久保明)正高大次郎(久野征四郎)庄田孫兵衛(中丸忠雄)藤井功之助(橋本功)西村伝蔵(浜田晃)吉田弥平次(地井武男)。
   岡本喜八らしい、硬軟両方を楽しめる素晴らしい映画。大傑作だ。
  67年東宝岡本喜八監督『殺人狂時代(33)』
  怪しい狂人たちが収容されている精神病院。院長の溝呂木省吾(天本英世)は見るからに怪しい。溝呂木をドイツ人ブルッケンマイヤー(ブルーノ・ルスケ)が訪ねて来ている。ナチス秘密結社に所属するブルッケンマイヤーは、溝呂木が組織する大日本人口調節審議会という殺人集団に3人の依頼をしてきたのだ。3人の名を電話帳から指定するブルッケンマイヤー。まず一人目は、満員電車内で和装の美人を痴漢した男が、女の後をつけてくる。声を掛けて振り向く女は眼帯をしている。眼帯を外すと、悲鳴を上げて絶命する男。また、夜の街を逃げている女がいる。松葉杖の男は、杖を女に向ける。女の悲鳴が響き渡る。
   古いシトロエンがボロアパートの前に止まる。部屋に入ってきて、母親の胸像に声を掛けている牛乳瓶の底のようなメガネを掛けた男の名は、桔梗信治(仲代達也)。大学で犯罪心理学の講師をしているらしい。家の中に彼を待っているマシュマロのお化けのような顔をした男がいる。桔梗に大日本人口調節審議会の間淵謙作という名刺を出す。審議会は、増加しすぎた人間の中から不要な者を選び出し殺すことを目的とした殺人組織だと説明し、桔梗を殺しに来たのだと言い、剃刀を挟んだトランプを投げつける。桔梗は倒れた拍子に、母親の胸像を結んだ紐を引っ張り、頭の上に落としてしまう。哀れ間淵は亡くなる。
   警察で、事件はないかと聞き込みをしている週刊ミステリーの記者の鶴巻啓子(団令子)。そこに、桔梗が人を殺したと自首してくる。警官と啓子を連れて部屋に戻ると死体は消えていた。その晩の出来事を聞く約束で食事をしている桔梗と啓子。桔梗のボロ車が盗まれる。しかし、全くスピードも出ず、エンコしてしまい、盗んだ大友ビル(砂塚秀夫)をすぐに捕まえる二人。車泥棒を黙っているかわりに、組織探しを手伝うことになった。ビルの知り合いで、裏稼業にくわしい人間のもとに行くが、彼らもそんな組織は知らないと言う。あっという間に二人を倒してしまった桔梗の子分となるビル。家に帰らない方がいいということになり、連れ込みホテルで一人シャワーを浴びている桔梗。浴室を出ると、ベッドに全裸の啓子がいる。契約書にサインをしてもらうのを忘れていたと言う啓子。万年筆がないという桔梗に、何もいらないと言う啓子。二人は一夜を共にする。桔梗の肩には大きな傷跡がある。
   その頃、溝呂木は、ブルッケンマイヤーに自白強要薬を使い今回の依頼が、クレオパトラの涙という名の、持ったものに悲劇が訪れると言う伝説のあるダイヤモンドに秘密があることを突き止めた。桔梗は、啓子のアドバイスで変装をする。あまりのダンディ振りに、ビルも一瞬分からなかったほどだ。地下鉄の新宿駅のホームで大日本人口調節審議会が何かを起こすという情報をビルが仕入れてきた。突き落とされた男を目撃する。その犯人は、蝙蝠傘に刃を仕込んだ武器を持つ70歳ほどの老人の殺し屋だった。危ういところを逆に男を倒す桔梗。
   三人に声を掛けてきた男がいる。日本スピリチュアリズム協会の青地という名刺を持った男(江原達治)は、桔梗に不幸な影があるので、会長に見てもらったらどうだと言うのだ。心霊術はまやかしだという桔梗に、だまされたと思って乗ってみようという啓子。結局、啓子とビルが受けてもらい、桔梗は、車のトランクに隠れていることになる。会長の小松弓江(川口敦子)が二人を催眠術に掛ける。桔梗の行先を言えと言われて、啓子は、桔梗を愛していると言い、ビルは車のトランクの中だと話す。青地が車に攻撃してきた、青地を車で轢いて助かる桔梗。しかし、啓子は行方不明になる。桔梗とビルの元に、啓子の殺されるとメモのある名刺を拾ったという女が現れる。眼帯をした女は、自分の車で拾った場所まで案内してくれると言う。ここらで拾ったという女が眼帯を外して桔梗を撃とうとする。しかし、桔梗は目の前でクラッカーを鳴らし、女は自分の手を撃って死ぬ。今際の際に富士の麓と言う。大日本人口調節審議会の溝呂木と名乗る男からバーに呼び出しを受け、拷問を受けている啓子を映した8mmフィルムを渡される。
   女の車にのって、富士に向かう二人。途中で車がエンストして困っている二人の女を拾う。彼女たちの行く先は山中湖畔のマウントフジというホテルだと言う。怪しみながらホテルまで二人を送る。降り際に一人の女の鞄の中身をばら撒き、中に「人口調節・・・」と書いてある封筒があった。ホテルのプールでは、寒い中水着の撮影会が行われている。その中に、先程の二人の女がいる。寒いので部屋に桔梗の部屋に行こうと言われる。そこに松葉杖の男が現れ、よかったら部屋の鍵を貸すと言う。桔梗は、その話に乗って見ることに。部屋に入り、抱いて身体を温めてくれという二人の女、ビルは女の荷物を改めると、封筒に書いてある団体名は違っていた。そこで、それぞれの女と抱き合う。そこに、松葉杖の男が襲ってくる。予期していた桔梗は逆襲して、捕まえる。男にナイフを突き付け運転させ、啓子は、自衛隊の演習場に捕らえられていると吐かせる。迫撃砲による爆破訓練の標的になっているトーチカの中にいいて、演習開始まであと少ししか時間がないのだ。なんとか、トーチカまで辿り着こうとするが、自衛隊員に阻止される。彼らを誤魔化してトーチカに入ると、啓子ではなく、ただのマネキンだった。トランシーバから溝呂木の声が聞こえてくる。すべてここで、溝呂木を殺すための策略だったというのだ。砲弾の飛ぶ中、なんとか脱走する桔梗とビル。
   新宿に戻るバスの中、二人の前に溝呂木が現れ、桔梗を精神病院に連れていく。肩の傷に埋め込まれているクレオパトラの涙というダイヤモンドを渡せと言われる。昭和15年8歳だった溝呂木はナチスドイツに派遣された少年団団員だった。300万ドルするというクレオパトラの涙をリヒャルト・ヒンケル博士がナチスから盗み出し、怪我をして運び込まれた桔梗の肩に埋め込んだのだ。しかし桔梗は、既にダイヤは取り出したが、ガラスの偽物だったと告げ、Zipガンを突きつけて啓子を解放しろと言う。そこに池野という溝呂木の助手が襲いかかる。彼は人間の3倍、ゴリラ並みの力をもった男だ。死闘の末、池野と溝呂木を倒す桔梗。啓子を助け出した。車の中で、抱き締めてほしいという啓子。抱き合いながら指輪に仕込んだ毒針を刺そうとする啓子。危機一髪胸に刺していた造花のカーネーションの中の毒ガスで逆襲する。啓子は溝呂木の娘だったのだ。啓子の亡骸を後に東京に戻る桔梗。
   ビルたちがいるバーに、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけあか抜けない服装の桔梗が現れる。ビルが兄貴と声を掛けると、今回の事件を解決した桔梗は、海外で気ままな暮らしをしている双子なのだと言う。弟は急に帰国し、自分を人間ドックに入れておいて、1週間後退院すると、本物のダイヤモンドを探しに再び旅に出たと言う。本当のはなしかどうか、首をかしげながら、去っていく桔梗を見送るビル。
   新宿ピカデリーで、スティーブン・ソダーバーグ監督『チェ 28歳の革命(34)』。64年ハバナで行われたアメリカ人ジャーナリストのゲバラへのインタビューでのやり取りと、同年12月、国連総会で演説を行うために、アメリカを訪れた時のエピソードを挟み込みながら進行していく。1955年、メキシコで、アルゼンチン人の医師エルネスト・“チェ”・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、バティスタからキューバを解放するというフィデル・カストロ(デミアン・ビチル)と会った。意気投合し、グランマ号に乗り込み、革命を起こすため、キューバにわたった・・・。
   失敗したなあ。スクリーンサイズが違っていて、別々の作品だと言われようが、この映画は、後編と一緒に見るべきものだ。前半見たところで、フィルムトラブルで、上映終了になって、では、また後日にと映画館の人に言われた気分。

2009年1月21日水曜日

赤い天使は白い天使。

   東京の西、八高線の箱根ヶ崎と言う駅からタクシーに乗った先にある斎場で告別式。遠いなあ(苦笑)。八高線に乗ったのはいつ以来だろうか。都内で最後にSLが走っており、小学生の頃に同級生と見に来た記憶が微かにある。それ以来だとしたら40年振りだ。乗り継ぎに失敗し、拝島で30分待つ羽目に。まあ、こんなことは失業中で伊達や酔狂でなければ出来ないな。高校の同級生の女子の父上の告別式。彼女とは、高校の文芸部で一緒だった。当時三多摩のサブカル系男子のマドンナだった彼女は、美術系大学を出た後、ロンドンに留学、今では、モダンアートのキュレーターをしている。まあキュレーターと言う仕事も彼女を通じて初めて知ったようなものだ。彼女の30数年来のファンの一人として遠路遥々出張って来たのだ。帰りは帰りで悪戦苦闘。ちょっと遅刻で新宿で人と会って、ランチミ。
    角川シネマ新宿にて、増村保造 性と愛
     67年大映東京増村保造監督『妻二人(30)』。ある晩、永井健三(高橋幸治)は、タクシーが故障して、入ったバーすずらんで、かっての恋人雨宮順子(岡田茉莉子)に再会した。2週間前に上京したという順子は、風邪をひいて熱があった。店もそろそろ看板なので、健三は順子を送って帰る。学生時代、健三は作家志望だった。誰も認めてくれなかったが、BG(OL、ビジネスガール)の順子だけが彼を応援してくれていた。ある日、順子の知人の紹介で、出版社、主婦の世界社の社長永井昇平(三島雅夫)に小説を持ち込む。永井は、編集の人間は作品として認めなかったが、よかったらうちの会社に入らないかと言う。その後、社長秘書でもある永井の娘道子(若尾文子)と結婚したのだ。順子は、小説家志望の男小林(伊藤孝雄)と付き合っているという。首に絞められた痣が残っていて、問い詰めると小林は暴力的でひどい人間らしい。健三が母親の形見の指輪を今でもしている順子。しかし、神戸のバーに勤めていた時に米人に貰ったという護身用のピストルも持っていた。健三が帰ろうとすると、泥酔し、順子の名を呼ぶ小林がやってきた。小林が絡んでくるが、逆に叩きのめす健三。
   瀟洒なマンションに帰宅をすると、妻の道子が出迎えた。道子は、主婦の世界社の事業部長として辣腕をふるい、また「清く明るく美しく」という、会社のモットーの象徴的存在でもある。現在、事業部は、障害児童への募金を大々的に募っている。その事務局には、伯爵御曹司の井上潤吉(木村玄)、美佐江〈長谷川待子)夫婦が担当している。娘婿の健三は、事業部の副部長なのだ。
   ある日、道子の妹の利恵(江波杏子)と小林が知り合う。利恵は奔放な娘だが、すぐに、小林と結婚したいと言ってくる。普段は厳格な父昇平も歯切れが悪い。反対しているのは、道子だけだ。道子が大阪出張にでかけることになった。しかし、大阪へ一旦飛行機で飛びながら、道子は、東京に戻り、小林に会っていた。100万円の小切手を渡し、今後利恵と会わないことを求める道子。しかし一度金を受け取ってしまうと、小林は道子に襲い掛かり乱暴しようとする。もともと、道子を呼び出したのは、こうして乱暴することで、更に金蔓にしようと考えていたのだ。必至に抵抗するうちに、小林の上着の中の拳銃に気が付き、道子は小林を射殺して、貞操を守った。再び道子は大阪に戻った。
   その夜、利恵を手に入れたことで、邪魔になった小林に追い出された順子は、都内を彷徨ったあげく、健三に電話をしてきた。健三は、家に呼び、話を聞く。仙台の実家までお金を貸してほしいという順子に金を貸し、更に何も食べていないという順子にサンドイッチを作ってあげた。帰り際キスをしているところを、ばあやのおトシ(村田扶美子)に目撃される。小林のアパートで利恵は一晩待っていたが現れずに帰宅する。
   翌朝、小林の死体が発見される。利恵のスキャンダルを恐れた昇平は、健三の処に泊っていたと偽証しろと言う。しかし、銃と指輪から順子の存在がばれ、重要参考人として逮捕される。順子のアリバイを証言出来ずに悩む健三。そんな健三を事業部長に昇進させると言う昇平。偽証した飼い犬への褒美だ。健三は、昇進話を断り、警察で、事件の夜、順子が自分と一緒にいたことを証言する。しかし、おトシは、そんな事実はないと言い、警察もかっての恋人を庇ってそんなことを言っているのだろうと信じない。警察で証言した健三に昇平は激怒する。飼い犬に手を咬まれたと公然と吐き捨て、首だと言った。
   順子とキスをしたことを正直に認め、順子を愛しているからというより、真実に忠実である生き方をすることにしたと道子に告白する。健三は、正直に生きることを道子が教えてくれたのだと言い、そのために順子の無実を証明するち告げる。道子は、健三を愛していると答える。健三は利恵に話を聞き、井上夫妻がカギを握っているのではと思い至る。果たして井上美佐江は、ファッションモデルをしていた時から昇平の愛人で、ばれそうになったため、昇平が貧乏貴族の御曹司の潤吉と結婚させたのだ。潤吉は、そのお蔭で酒を飲んで遊んで暮らせるのだと言う。更に、道子の調べで、障害児の募金からの多額の横領が分かった。潤吉は、小林に脅されて困るのは、昇平か道子だろうと言う。
  道子は、昇平に、横領の事実を話し、美佐江の関係も問い詰めると、妻を亡くして10年、後妻も妾も愛人も認めない道子のせいだと言う。利恵が不良になったのも、厳格な道子に反発してのことだと、こうなったのはすべて道子が原因だ、お前は所詮商売のための看板娘で、その分をわきまえないのがいけないのだと吐き捨てる昇平。
  深夜、会社で呆然としている道子のもとに、道子が真犯人だと気がついた健三がやってきた。健三に、すべてを打ち明けて飛び降りようとする道子。引き止める健三。全てを失った今でも、自分を愛しているかと問う道子に、尊敬していると答える健三。道子は正当防衛なのだし、罪を償ってからもずっと一緒にいるからという健三に、警察に行って全てを話すと道子は言う。翌日、健三に付き添われて警察に向かう道子の姿。ようやく釈放された順子に、愛しているが自分は道子と暮らしていかなければならないと言う健三。別れを告げて去っていく順子を見送る健三。
  若尾文子、岡田茉莉子2大女優共演。二人とも、最高だな。もし、配役が逆だったら、もっとドロドロして重苦しいものになったかもなどと想像するのも楽しい。海外の小説を新藤兼人が脚本化、増村監督の演出と合わさって、散漫になりそうな多くの登場人物をうまく描き分けている。
     66年大映東京増村保造監督『赤い天使(31)』。昭和14年5月、24歳の従軍看護婦の西さくら(若尾文子)は、中国、天津の陸軍兵站病院に派遣され、内科担当になった。内科の入院患者のほとんどが結核か精神障害だったが、前線に戻りたくない為の詐病も多く、それを見破るのも看護婦の仕事だと婦長から指示される。退屈な入院患者たちにとって新しい看護婦は興味の対象だ。坂本一等兵(千波丈太郎)という男がさくらの出身地などを聞いてきた。しかし、その晩、巡回していると、坂本一等兵たちに強姦されてしまう。さくらは全てを婦長に報告、坂本は最前線に送られた。天津はまだ平和だった。
  二ヶ月後、さくら達5人の看護婦は、深県の分院に転属になった。そこは地獄のようだ。前線からは、新しい作戦が行われる度に大量の負傷兵が送られてくる。満足な麻酔薬も血液もなく、軍医も少ない中、軍医と看護婦、衛生兵たちは、助かるもの助からないものを区別し、重傷患者は、手足をどんどん切断していく。そこでさくらは、軍医の岡部少尉(芦田伸介)と出会う。岡部は「ここでは、兵隊は人間ではなく、物だ。認識票だと思え」と言う。岡部や西たちは、三日三晩不眠不休で次々に送られてくる兵士たちを捌いていく。その中に、かって自分を犯した坂本が送り込まれた。岡部は見放したが、命乞いをされたさくらは、輸血をしてやってくれないかと岡部に頼む。輸血は将校でないと認められないが、一晩を共にしてくれればよいと言う岡部。うなずくさくら。しかし、輸血の甲斐なく坂本は亡くなった。無駄なことをしたのかと悩むさくらが、その晩岡部の部屋に行くと、「今の自分は医師ではなく、生かす人間と死なす人間をただ振り分ける踏切の番人のようなものだが、急に医師らしいことをしてみたくなったのだ」と言い、モルヒネを打ってくれと言う岡部。軍に徴兵される前は、大病院で外科医として人の命を救っていた岡部は、カタワと死人を作っているのではないかと鬱屈し、モルヒネ無しでは眠れなくなっていた。疲労困憊していたさくらも、深い眠りに落ちた。
   再び、天津の病院に戻されたさくらは、外科病棟の担当になる。そこで、両腕を切断された折原一等兵(川津祐介)に出会う。岡部によって命を救われたという折原は、傷は治っているが、何故か内地に戻されることはない。ある時、折原は、自分たちを内地に戻すと、戦闘の悲惨さを伝え、国内に厭戦的な気分が伝わることを陸軍は恐れているのだと言う。事実、足を切断されていた兵士は、内地に戻されたが、箱根にある機密病院に幽閉され、家族にも知らされていないと言う。岡部の贖罪の気持ちになったさくらは、今まで以上に傷病兵たちの介護に熱を入れる。ある時、折原は、両腕のない自分は男の欲求を処理することが出来ない悩みを打ち明け、手伝ってくれと頼む。手を差し出すさくら。ある公休日、さくらは折原を連れて外出し、ホテルに入る。折原を風呂に入れ、自分の裸身を見せてあげるさくら。しかし、翌日、折原は病院の屋上から投身自殺を遂げる。鉛筆を口で咥えて書いたらしい、さくらへの感謝の遺書を残して。
   1ヶ月後、さくらは、5人の看護婦と共に、再び深県に転属となり、岡部に再会する。岡部は中尉に昇格していた。さくらは、岡部を愛していた。数日の不眠不休での地獄のような治療と、岡部との一夜が復活した。ある日、脊髄を損傷した兵士が運ばれてきた。いつも素早い判断をする岡部が、脊髄に食い込んだ砲弾の摘出を躊躇し、そのまま縫合させた。その夜理由を訪ねるさくらに、損傷していた脊髄は生殖器の神経を司る部位で、十分な施設のある内地の病院で手術を行えば、男性機能を維持できるだろうと判断したからだと答え、自分もモルヒネにより、不能なのだと告白する。
   更に戦闘は激化し、前線での傷痍兵の増加で、岡部に衛生兵と看護婦を連れ前線参加するよう指令があった。さくらは、一緒に死にたいので自分も連れて行けと言う。死ににいくようなものだと拒絶し続けるが、最後には承諾する岡部。しかし、伸びきった日本軍の防衛線は、国民党軍と八路軍の合同作戦でずたずただ。結局、途中のエイリン屯という村落の基地で足止めになる。しかしそこでは、慰安婦にコレラが発病。次々に感染し、倒れ、亡くなっていく。水を大量に飲ませる以外何の治療も出来ない。
さらに、敵に包囲され全滅の危機も迫る。いよいよ最後の晩、さくらはモルヒネを求める岡部に、愛し合いたいので、モルヒネをやめるように言う。不可能だという岡部を縛りあげ、禁断症状で暴れる岡部と格闘すること5時間。やっと平穏が戻る。岡部の身体を慈しむさくらの愛の力で、二人は結ばれる。しかし、最後の時が迫っていた。敵の迫撃砲が霰のように降り注ぎ、次々に死んでいく兵士たち。さくらが連れてきた新人看護婦の津留崎(池上綾子)は、恐怖のあまり錯乱し、塹壕から飛び出し、銃撃された。指揮官が次々なくなり、最後には岡部が指揮をする。さくらのいる塹壕に迫撃弾が炸裂した。
   気がつくと、砲撃は止んでいる。廃材や土砂の下敷きになっていたさくらが立ち上がると、至る所に、中国兵によって武器だけでなく軍服まで剥ぎ取られ半裸になった兵士たちの死体がごろごろしている。その中に、津留崎を見つけ涙するさくら。さくら一人が生き残ったようだ。本部からやってきた偵察兵たちに、コレラと敵の総攻撃で自分以外全滅したことと、軍医と衛生兵を呼び、この一帯を閉鎖してほしいと告げる。最後に岡部の死体も見つけた。昨夜お互いの胸に付けあったキスマークにほほを寄せるさくら。
  バンプ(悪女)の若尾文子の色気もぞくぞくするが、こういう聡明で献身的で天使のように純粋な役も素晴らしい。戦闘シーン、戦場のような前線の医療現場のシーンなど、モノクロのスクリーン上でも凄い。手足の切断など、良く出来てきている。戦闘シーンのリアリティさで「プライベートライアン」が、いつも挙げられるが、40年前のこの作品も負けていないのではないか。「ジョニーは戦場に行った」を思わせる川津祐介との話など、傑作だ。
   博華で餃子とビール。寒いので老酒のお燗も。

2009年1月20日火曜日

女は男のふるさとかあ・・。

    午前中は赤坂でメンタルクリニック。独身美人OLに差し入れに行くと風邪で休んでいた。元同僚とお好み焼きを食べ、少し胸焼けしつつ、渋谷へ。
渋谷シネマヴェーラで森崎東の現在
  71年松竹大船森崎東監督『喜劇・女は男のふるさとョ(26)』。満員の山手線の中で大学生(佐藤蛾次郎)が痴漢をしようと手を伸ばす。触られた女性は大声で「学生さん、せっかくやから、もっとよう触り~」と言う。乗客みなが大笑いの中恥ずかしそうな大学生。
   新宿芸能社は、しっかりものの金沢竜子(中村メイ子)と、ちょっと軽薄で朝トルコが日課の父さん(森繁久彌)が、ストリッパーの派遣業を家族的に経営している。ストリッパーたちは、金沢夫婦をお父さんお母さんと慕っている。山手線の中にいた女笠子(倍賞美津子)が7年振りに帰ってきた。彼女もムササビの笠子またの名をアンジェラと言うストリッパーだ。笠子は帰るなり、結婚したいと言い出す。相手は、男を見る目が確かなお母さんが認めたなら誰でもいいと言う。2人は向かいの菊さん(犬塚弘)はどうかと話す。数日前に妻を亡くしたばかりだ。しかし、父さんが隣家に行くと、店を手伝いに来ていた亡妻の末妹に手をつけてしまったと相談される始末だ。
   お座敷ストリップに笠子と行った村枝(園佳也子)から、笠子が関西弁のヤクザらしい男に連れて行かれたと電話が入る。隣のバイク屋の時夫(山本紀彦)にハイヤーだと叫んで、バイクの後ろに載せて貰って、笠子が連れ込まれたというバーコスモスに乗り込んでいく父ちゃん。しかしその店は関西の暴力団今里組の暴力バーで、女の子が飲んだ酒代だと、懐の一万円だけではなく、靴下に隠してあった虎の子の一万まで取られてしまう。更に殴られ怪我をさせられてしまう。さっぱり頼りにならない警察(花沢徳衛)や地回りのヤクザに、竜子は時夫に手伝わせ、糞尿を入れたバケツをバーコスモスにぶちまけ、営業出来なくする。勿論ヤクザたちも新宿芸能社に落とし前をつけにやって来る。笠子の大阪時代のヒモも、その一人だ。しかし、ヤクザに鋼鉄入りのハンドバッグで一発お見舞いする竜子。糞尿攻撃で暴力バーは営業不能になった。
   責任を感じて笠子は、またふらっと出て行った。石巻劇場で踊る笠子。毎日笠子目当てに通う気の弱そうな自動車修理工の男照夫(河原崎長一郎)がいる。気味悪がっていた笠子だが、公演を終えて暖かい南の小屋に行こうとしていると照夫に会い、考えを変える。潰れた小屋主から貰ったボロマイクロバスを男に修理させ、運転手としてただ働きさせようと思ったのだ。照夫は、笠子を先生と呼びマイクロバスを、キッチン、シャワー、水洗トイレ、寝室付きの完璧なキャンピングカーに改造、これでホテル代を節約出来ると笠子は大喜びだ。
   笠子が出た後、トンボと言う体の柔らかい娘が客の財布を盗んだ上借金を踏み倒して逃げた。肩を落とす母ちゃんの元に、風采の上がらない娘星子(緑魔子)が笠子の紹介だと言ってやってきた。あまりに不景気な顔に、ストリッパーは無理だと料亭の女中の仕事を紹介するが、女将にお客の言うことにはすべて従えと言われ、セックスさせてほしいという客に、部屋がないためトイレで相手をし、クビになって金沢夫婦の元に返された。皆困ったが、片方ずつ二重まぶたに整形し、村枝の指導もあり、何だかさまになってくる。近所でケチで有名なケチ権(伴淳三郎)が星子を気に入り、50の年の差を顧みず嫁に欲しいと言ってくる。
   笠子と照夫のキャンピングガーでの旅も順調だ。熱海から東海道を西に、岡山から四国高松に渡り、高知から九州宮崎へ。笠子は照夫の指導のお陰で、無事運転免許も取得、最終目的地の鹿児島の南国ヌードセンターの公演が終われば、照夫は石巻に帰ることに。笠子との別れが辛い照夫は、笠子の舞台を見て笠子には会わずに鹿児島駅に。土砂降りの雨の中、舞台を引けた笠子がキャンピングガーに戻ると置き手紙が。照夫は鞄を忘れている。中には、石巻で毎月1万、2万と貯めた預金通帳が入っていた。しかし、笠子と会った日以降90万の預金が引き落とされている。笠子は、初めてこの車が放置されていたボロマイクロバスではなく、照夫が別の車を買って改造したのだと知る。照夫は忘れた鞄を取りに戻ってくる。笠子は、照夫に結婚しようと言う。
  笠子が照夫と新宿に現れた。おかあさんおとうさんの前で結婚したいから戻ってきたという笠子。新宿芸能社のオフィス兼住居で、ささやかながら幸せな結婚式を行う。笠子と照夫に2階の部屋を譲り、1階の一部屋に金沢夫婦、もうひと部屋に、村枝、礼美、星子が寝ている。初夜を思い出し、竜子の布団に父さんが入ってきたモゾモゾし始めた頃、2階から怒り狂った笠子が降りてくる。実は、照夫の実家は農家だったが、万博用地になったことで、億万長者になり、家族が金の亡者になって、嫌気がさした照夫は蒸発し、石巻で自動車修理工をやっていたと言うのだ。父さんは照夫と一緒に大阪に行き、口べたな照夫を助けて、財産分与と離婚を片付けてきた。しかし、笠子が怒ったのは、照夫に妻子がいたということだった。そんな笠子の気持ちを、実親に捨てられた竜子は99が本当でも1が嘘なら許せないのだと夫に説明した。
  ある日、警察からの電話が入り、星子が逮捕されていると言う。時夫のハイヤーで慌てて警察に行く竜子。新宿の警察は、ケチな犯罪者で溢れている。調書を読み上げる刑事(山本麒一)。星子は、線路にかかる陸橋で思いつめた表情の若者に出会った。声をかけると、山梨の受験生で、大学の合格発表を見に上京したが、落ちていたと言う。来年頑張ればと言うと、父親が亡くなったのでそんな余裕はなく、母親に合わせる顔がないので、死のうかと思っていたと答えた。そんな思いつめた若者にセックスの喜びを教えてあげたら、思いなおすのではないかと考えた星子はそこで若者を抱きしめ、公然猥褻の現行犯で逮捕されたのだ。売春の容疑もあるという刑事に、絶望した若者を慰める手段が肉体しかない貧しい女の哀しさを分からないのかと詰め寄る竜子。留置所にいる星子の元に行くと、お母さんの顔に泥を塗ってしまったと竜子に詫びる。そんなことはないから、一緒に帰ろうと優しく言う竜子。
   星子が、ケチ権と結婚することになった。中華料理屋で行われた披露宴は、ケチ権だけにとても倹しい。しかし、星子の親族がやってきた。兄たち、兄嫁たち、甥、姪、凄い人数だ。兄弟がたくさん来てくれてよかったねという竜子に、星子は笠子姉さんに一番祝って欲しかったという。
   森崎東らしいというのだろうが、猥雑な社会の片隅で生きる人たちの笑って泣ける喜劇。倍賞美津子、緑魔子は、もちろんいい。しかし、中村メイ子が、森繁久弥の軽妙なサポートもあって光っている。
    神保町シアターで男優・森雅之
    49年新東宝島耕二監督『グッドバイ〈女性操縦法〉(27)』。銀座の交差点をフラフラと出てくる男がいる。交通巡査に呼ばれ注意される。男は婚約者に何の前触れもなくグッドバイされたショックだと語る。交番の前に、雑誌「オベリスク」6月号のポスターが貼ってある。「私は何故に男と別れたのか」といった内容の見出しがある。雑誌「オベリスク」の編集長の田島周一(森雅之)の部屋。小説家の山崎夏子(清川玉枝)が、自分はお金についてあれこれ言うのは好きではないが、今回の原稿料はあまりに安すぎて侮辱しているんではないかと、田島に文句を言っている。更に女事務員の持ってきたお茶は熱く、火に油を注ぐことに。田島は女事務員や編集員たちを呼んで謝罪をさせ、二人になったところで、山崎を懐柔する。田島は美男子で口もうまい。改めて山崎と会食をすることで、追い返す。
   オベリスクの社長の関根建造(江川宇礼雄)が出社してくる。この会社の経営状態はあまりよくないらしい。有力な金主である大資産家船越恭平(斎藤達雄)から電話があり、あわてて関根が飛んでいくと、田島のことを聞かれる。船越の娘が、どういう訳か田島を見染めたのだという、ぜひ見合いをということになる。しかし、現在田島には4人の愛人がおり、その関係を清算しなければならず、困ったことに。4人それぞれとても美人だが、それ以上の美人の妻でも連れて行かないとグッドバイということにはならないのではないかと思う。
   そんな思案中の田島に、声を掛けてきた娘がいる。普段の乞食のような格好とは正反対の正装をしていたので全く見違えてしまったが、雑誌の紙の手配をしてもらってつきあいのある担ぎ屋の永井きぬ子(高峰秀子)だ。彼女はひどいズーズー弁だが、何も喋らせなければ深窓の令嬢のようだ。事情を話し、契約を結ぶことに。まず、田島はきぬ子を連れ、一人目の愛人の美容院のマダム青木蘭子(霧立のぼる)の元に。きぬ子と結婚したのだという田島に蘭子はグッドバイすることを承諾する。次に、芸妓の鈴竜(藤間紫)のもとに。更に飲み屋の内儀たま子(清川虹子)は、焼酎を何杯飲んでも変わらないきぬ子を気に入って田島との別れを承諾した。
   あと一人を残すだけになったある夜、田島は、きぬ子が借りているアパートを、高いウイスキーを持って訪ねる。何もなく殺風景な部屋で、田島はきぬ子と一緒に酒を飲もうと言う。つまみはないかと聞かれて本場もののカラスミがあると言う。無造作に切って出されたカラスミをうまいと田島が言うと、これは商売物だから金を払えと言う。唖然としながらも、仕方なしに支払う田島。酒を飲みながらきぬ子を口説いてくる田島。危ういところを非常ベルを押して、逃れるきぬ子。4人目のカフェの女給の水原啓子(三村秀子)は、二人が店にやってくる前に、グッドバイと書いた手紙を残し、姿を消した。きぬ子を食事に誘う田島。きぬ子が好きになってしまったので結婚したいと言い出す田島。そもそも、見合いをするために身辺を整理するために自分と契約したのだろうと言うきぬ子。更に、別れ際、見合いをして気持ちが変わらなければ、自分の部屋に来てくれと言うきぬ子。
   いよいよ、見合いの日がやってきた。関根に連れられ、船越の邸宅を訪れる田島。変わりものの娘として紹介された絹代は、きぬ子と瓜二つである。驚く田島が、こっそりアパートに電話をかけると、管理人の取次ぎできぬ子が出た。安心する田島。絹代の部屋に案内される。絹代が今一番凝っていると父親が言った油絵は、抽象画で首をひねるようなものだ。ピアノを弾く絹代。曲は、きぬ子の部屋を訪れたときに、どこからか聞こえてきた「月光」だ。絹代を称賛し、甘い言葉で口説く田島。しかし、急に外出すると言って出かけてしまう絹代。何だか狐につままれたような田島は、きぬ子のアパートを訪ねてみる。管理人は、既にきぬ子は部屋を引き払ったと言う。更に田島本人かと尋ねた上で、蓄音器を掛けると、船越邸からの電話できぬ子がしゃべった言葉が流れてきた。きぬ子は絹代の自作自演だったのだ。
  しばらく後、絹代は、友人の啓子の部屋を訪ねる。4番目の女、カフェの女給の啓子は、絹代の女学校時代の親友だった。そこに、田島の姿がある。友情のため、田島に仕返しをしようと自分が手伝ったことは何だったんだと啓子をなじる絹代。啓子は、絹代のたくらみに傷ついた田島が、雨に打たれて自分のもとにやってきたときに、それでも田島を愛している自分に気がついたのだと言う啓子。
  絹代は、些細なことで別れを告げた許嫁の多田啓太(若原雅夫)に会いたいと電話をする。お互いを求めて走り出す二人。銀座の交差点で、二人は再開する。交通巡査は交通違反だと注意をする。しかし、幸せそうな二人に、苦笑いをしながら、あちらに行けとウィンクをする巡査。
    49年大映東京木村恵吾監督『痴人の愛28)』。サンエス電機工業の技師川田譲治(宇野重吉)は、同僚たちからは、独身で聖人君子の面白みの全くない男と思われている。しかし、彼には秘密がある。数年前神戸に出張した時に、カフェの女給ナオミ(京マチ子)に出会い、彼女を身請けし一緒に暮らしている。ナオミは、家事は一切せず、浪費家で、譲治が身につけさせようとしている英語もピアノも全く努力をしないので、無学で無教養だが、肉体的には譲治の理想と合致し、ナオミの肉体に譲治は溺れる。
   ナオミはスクーターを買ってくれと言って聞かない。それでなくとも浪費家のナオミのせいで、譲治の家計は大変だ。スクーターは絶対駄目だ、不満なら出ていけと譲治が突っぱねるとナオミは出て行く。学生のボーイフレンドたちと夜遊びをして結局帰宅するのだが、ナオミを失うことを怖れる譲治は、帰宅したナオミに全て許し、ナオミの馬になるとまで言うのだ。そんな譲治の足元を見て、ナオミの我が儘は無限に増長し、ボーイフレンドたちとの火遊びも目に余るものになっていく。
   鎌倉に海水浴に2人で出掛け、平日は休めない譲治が出社し、最終電車で帰る予定が、都合で早く帰れて、夜の浜辺で、酔って卑猥な踊りをしていることと、熊谷(森雅之)と2人で会っていることを知り、怒って帰宅すると家の合い鍵を別の男に渡していたことを知った譲治は、流石に言い訳も聞かず叩き出した。
   暫くの間、ナオミは夜毎遊んでいたが、次第に所持金は尽き、着替えも無くなって街を彷徨うようになった。ボーイフレンドたちが、自分のことを白痴美で、真剣に付き合うに値しないと噂をしているのには流石に傷ついた。そこに現れた熊谷に結婚しようと言うが、親に決められた結婚相手がいると言われた。行くあての無くなったナオミは、穣治の元を訪ねる。冷たく突き放す穣治。強がっていたナオミも最後には、穣治の前に跪き許しを乞う。最後には穣治の馬になるとまで言う。ナオミの上に座った穣治は、ナオミを許すのだ。
    銀座シネパトスで燃やせ!俺たちの70'sジャパニーズ・グラインドハウス魂!。80年石井聰互監督『狂い咲きサンダーロード(29)』。幻の街サンダーロード。ストリートファイヤーに、“ドクロ”"ホンキートンク”“ドッグファイト”"魔墓呂死”など各暴走族の幹部たちが集まっている。警察からの圧力で、各暴走族は解散、エルボー同盟に一本化して"市民に愛される暴走族”を目指そうというのだ。そこに、覆面をした一団が現れ、幹部たちを滅多打ちにして去って行った。覆面をした一団は、暴走族“魔墓呂死”の特攻隊長のジン(山田辰夫)たちだ。“魔墓呂死”のリーダーの健(南条弘二)たちは、クロコダイルで飲んでいる。そこに、ジンたちが現れる。権力にしっぽを振って日和ることは嫌だと言って、健たちとの決別を宣言するジン。店でバイトをしている典子(北原美智子)は、私のために足を洗ったんでしょうと健に言う。
    暴走し続けるジンたちの天下になったが、他の暴走族たちの怒りも最高潮となり、頭を痛める健たちのもとに、8年前に“魔墓呂死”を作ったOBで、現在は右翼の幹部になっている剛(たけし)(小林捻侍)が現れた。自分がジンたちを預かると言う。ジンたちがアジトに戻ってくると、君が代を歌う剛がいる。熱く説く剛だが、ジンたちは何を言っているのかわからない。自分の名刺を置いてひとまず引き揚げる剛。朝帰りの忠(戎谷広)、栄二(中島陽典)、幸男(大池雅光)を“ドクロ”の特攻隊が襲う。幸男がさらわれてしまう。幸男を返して欲しければ、翌朝、デスマッチ工場跡に来いと言う。待ち受けているのが“ドクロ”だけではなく、全暴走族が集まっていると聞いて、皆逃げ出す。助っ人を頼みに行った茂を除き、結局、ジン、忠、栄二のたった3人で突っ込んでいく。多勢に無勢でやられているところに、健と剛たちが現れた。剛は、ジンたちを預かると言って連れ帰った。剛たち右翼団体で、忠、栄二、茂たちは軍事教練を受けている。そこにジンがやってくる。結局ジンも加わることに。
   しかし、ジンは、右翼団体の兵士として飼いならされることはなく、飛びだす。ジンを慕って後を追う忠と栄二。たった3人になったが、彼らは走り続ける。ジンたちの暴走行為は、剛のメンツを完全に潰した。顔を隠した戦闘服の男たちが、3人を襲う。ジンは片腕と片足を切られ、2度とバイクに乗れなくなった。更に、忠は植物人間になってしまった。栄二は、この街を出て行った。
   いらつくジン。どれだけトルエンを吸っても薬をやっても、走れないジンの気持ちは休まらない。ジンは、シャブ中の子供つっぱりの小太郎(大森直人)と武器つくりのおっさん(吉原正皓)のもとを訪ねる。ジンは全身武装の殺人マシーンとして蘇り、暴走族たちと、剛たち右翼団体に宣戦布告する。おっさん、小太郎の助けもあり、次々に倒していくジン。最後に、かっての仲間で右翼団体の幹部になった茂と剛を倒し、無理やりバイクにまたがり、爆走していくジン。

2009年1月19日月曜日

弱虫男と蟹工船

   阿佐ヶ谷ラピュタ、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第44弾】
   68年近代映画協会/松竹新藤兼人監督『強虫女と弱虫男(24)』。ほとんどの住人がヤマが廃坑になって失業し生活保護を受けている炭住の一角に、善造(殿山泰司)、フミ子(乙羽信子)の一家が住んでいる。役所の福祉係が来ると、押し入れの中にあるテレビや金目の物を隠す。フミ子は長女キミ子(山岸映子)と、京都に出稼ぎに行き、同郷の山口ヤス江を頼りにネグリジェ・サロン水車を訪ねる。ヤス江は辞めていたが、主任(戸浦六宏)に、その日から働かせて貰うことに。店の制服はネグリジェ、その下にブラジャーと5~7枚重ねのパンティーを履いて、男たちの日常に潤いを提供する公序良俗に従う紳士と淑女の店だ。初日は、店のNO.1ミツ子(川口敦子)にヘルプに呼んで貰うが、ビールの飲み続けで、二人はトイレで吐きながら接客する。その晩は、店から飲みさしのビールを貰って帰り特訓だ。
    早速、フミ子は西陣の織物屋の男(若宮忠三郎)を、キミ子は嵯峨野で11代続く豪農の大山田権兵衛(観世栄夫)と言うご贔屓を捕まえる。権兵衛は、家柄、格式に煩い母、竜(中村芳子)に頭が上がらず、今迄2人の妻を追い出され、36歳にして独身だ。母子は権兵衛の身元を調べた上で、キミ子は店の後、寿司屋~ホテルと流れて処女を捨てる。権兵衛は、翌日からキミ子に焦らされ虜に。毎晩通い、チップを貰う。当然母の竜にばれ、騙されているだけだと叱られても、夢中になった権兵衛は、言うことを聞かない。権兵衛の友人の山野(武周鴨)川原(草野大悟)らも、権兵衛から相談をうけるが、偵察に行くが結局、権兵衛の金で飲んだだけだ。
  善造は、大家で市会議員の熊谷(浜田寅彦)に家の隣に養鶏場を作られ、ステテコ(山村弘三)とフンドシ(宮田勝)と一緒に文句を言いに行くが、妻子が京都に出稼ぎに行っていることや、テレビを隠し持っていることなどを指摘され、生活保護のことを言われ、完全に藪蛇だ。善造と長男の良夫、学校の矢島先生(小川吉信)の3人が京都にやってくる。矢島は良夫を高校に行かせたいが、この家のことはフミ子でないと決められないと言われ付いて来たのだ。フミ子は良夫を高校大学に行かせると宣言し、良夫と矢島を喜ばせた。更に生活保護のために善造とフミ子は偽装離婚することに。いい金蔓を捉まえたフミ子とキミ子は、店で努力賞として表彰された。
   竜はフミ子を呼び出し、10万の金を渡し、キミ子と権兵衛を付き合わせないと約束させる。一筆書けと言われるが、学校に行けなかったので、読み書き出来ないと断るフミ子。それでも、権兵衛は通って来る。事情を知り、キミ子が、店以外で会わなくなったのは母親のせいだと思い、母をなじる権兵衛。権兵衛の使った金は50万を超えた。いよいよ困った竜は、川原に相談。店でキミ子を指名した川原は、寿司屋~ラブホテルに誘い、竜は警察に通報し、売春容疑でキミ子を逮捕させる。キミ子は留置場に何日も泊められる羽目に。店の主任が警察に行きキミ子の釈放を頼み、フミ子に一週間の謹慎を命じる。
   権兵衛はフミ子のもとに行き、竜の行いを謝罪し、改めてキミ子との結婚を申し込むが、フミ子は取り合わない。もみ合っているうちに、権兵衛は近くにあった裁縫鋏で、フミ子を刺してしまう。権兵衛は在宅起訴、もともと原因はフミ子母子のあまりの仕打ちなのだからと大山田家の弁護士は示談を提案するが、フミ子は応じず、結局裁判になる。フミ子は証人として出廷し、竜から10万円貰ったことさえ抜け抜けと否定する。キミ子も、権兵衛とホテルに行っ本たことを否定、哀れ権兵衛は執行猶予付きの実刑判決を受ける。
   ようやく帰宅した母子のもとに矢島先生がヤクザものとやってくる。2人は叩きのめされる。ヤクザは、熊谷の知恵遅れの娘を、夫の善造とステテコ、フンドシの3人でやってしまい妊娠させてしまったと言うのだ。母子は、九州に戻り、善造たちを呼んで詰問する。3人は事実を認めたが、熊谷がやってきた途端、フミ子は3人がやっていないと言い出す。フミ子が否定すれば、3人も肯定はできない。熊谷の娘が夫たちを誘惑したんじゃないかと迄言い出すフミ子。唖然とする熊谷と先生。翌朝早くフミ子とキミ子は九州を離れる。あんた権兵衛に惚れたんじゃないのと言うフミ子に笑い出すキミ子。大阪に行くつもりだったが、逃げたと思われるのは癪だから京都に戻ろう、私たちには、怖いものは何もないとうそぶくフミ子。
   40年前のキャバレーってこんなんだったんだなあ。九州の炭坑町から出てきた母子がみるみる垢抜け、九州弁から京都弁に変わっていく。炭坑を出て行った時と、帰ってくるときは別人のようだ。しかし、何も中身は変わっていない。役所の福祉係を見る時も、法廷で裁判官を前にした時も、厚顔で無表情だ。
    新宿武蔵野館で53年現代ぷろだくしょん山村聡監督『蟹工船25)』。世界的な不況に喘ぐ昭和初年のこと、函館港を蟹工船の博光丸がカムチャツカ沖でのタラバ蟹漁の為に出航した。水産会社から全権を与えられた監督の浅川(平田未喜三)は、蟹を穫るためには、漁夫たちの命の一匹や二匹安いものだと豪語し、人間以下の扱いをするだけではなく、一緒に出航したたけし丸が遭難しSOSを打電しているのを救助に向かおうとした船長に拳銃を突き付け黙殺させるなど血も涙もない男だ。
   博光丸には、夕張の炭坑から逃げてきた男ヤマ(浜村純)や、貧農あがりの山形(花沢徳衛)、二度と船には戻るまいと思っていたが、結局今年も乗り込む、商人上がりのタイワン(小笠原章二郎)と土方あがりの倉さ(森川信)や、まだ幼い少年たちも、多い。ほとんどの者は僅かな支度金を函館迄の汽車賃などで使い果たし、既に前借りの状態だ。文士だったが妻子を捨て同棲した浮気な女を殺して警察に追われている松木(山村聡)は、野口と名を偽って乗船していたが、工場長にばれて脅され、彼らのスパイにさせられている。夜も昼も無い重労働の上、酷い飯と風呂にも入らせて貰えない劣悪な労働環境だ。暴風警報の時化の中無理やり漁をする川崎船(蟹穫りの子船)が沈没し漁師が死んだ時も、船頭の三五郎(山田晴生)に人命よりも船を失ったことを責める浅川。過酷な労働に疲労困憊し、体を壊す人間が出てきたが、生産量が減ってきたことを問題にして、更に締め付けを強め、反抗するものは銃殺するとライフルを構える浅川。倒れるものに、雑夫長たちは、容赦なく暴力を振るった。
   蟹が多いソ連の領海侵犯をさせて、ソ連の戦艦が来たら、日本海軍を呼ぶとうそぶき、船長や船員にライフルを突き付ける。中積み船がやってきて、出来上がった蟹缶の積み出しの代わりに、函館からの手紙などが届いて少しは博光丸に平和が訪れたかに見えた。しかし、松木がスパイだと告げた青年を殴って殺してしまう。松木は海に身を投げる。死んだ青年の弔いをさせて欲しいと言う漁夫たちの願いを浅川たちが踏みにじったことで、彼らの怒りは爆発する。男たちは団結し、浅川に詰め寄り人間的な扱いを求める要求書を読み上げる。浅川は明日の朝には回答を出すと言う。
  しかし翌朝、日本軍の巡洋艦がやってくる。自分たちを助けにきたと勘違いしたものも出て皆が甲板に上がると、海兵たちは先導者は前に出ろと銃剣を突き付ける。誰も出なかったが、浅川が一人ずつ前に引っ張り出した。しかし漁夫たちの緊張は切れ、海兵たちに飛びかかった。それに対して下士官は、帝国海軍を愚弄するのかと怒り発砲を命じる。少年を含めた多数の船員が甲板に倒れている。血塗られた旭日旗が翻っている。
   月曜の昼間なのに、超満員。勿論シルバー料金だが、全国の劇場主はうらやましいだろうな。遅れてくる人間の席を取ったり、座席にゴミ残して行ったり、帰りは何で非常口から出られないのは何事だと劇場の若者をどやしつけたり、今の若い奴は何でデモしないんだとか、我が物顔のご老人たちでいっぱい。この人たちを遊ばせていないで使った方がいいと、青二才の失業者のくせに思ったりする(苦笑)。  
  小説では、首謀者たちは連行され、しかし労働者は更に団結しようと決意を語る結末に対して、このペシミスティックなエンディングは違和感を感じる人も多いようだが、労働者の権利どころか、紙より薄い命が消えていった現場は、戦場以外にも沢山あっただろう。朝鮮半島から強制連行された坑夫や、人買いによって、売られて行った貧農や、その妻子たちが、厳しい現場で、女郎屋で、直接間接問わず殺されっていった。しかし、現在になっても、そんな命が世界中にあると思い至ると、憂鬱な気持ちになる。