2009年1月19日月曜日

弱虫男と蟹工船

   阿佐ヶ谷ラピュタ、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第44弾】
   68年近代映画協会/松竹新藤兼人監督『強虫女と弱虫男(24)』。ほとんどの住人がヤマが廃坑になって失業し生活保護を受けている炭住の一角に、善造(殿山泰司)、フミ子(乙羽信子)の一家が住んでいる。役所の福祉係が来ると、押し入れの中にあるテレビや金目の物を隠す。フミ子は長女キミ子(山岸映子)と、京都に出稼ぎに行き、同郷の山口ヤス江を頼りにネグリジェ・サロン水車を訪ねる。ヤス江は辞めていたが、主任(戸浦六宏)に、その日から働かせて貰うことに。店の制服はネグリジェ、その下にブラジャーと5~7枚重ねのパンティーを履いて、男たちの日常に潤いを提供する公序良俗に従う紳士と淑女の店だ。初日は、店のNO.1ミツ子(川口敦子)にヘルプに呼んで貰うが、ビールの飲み続けで、二人はトイレで吐きながら接客する。その晩は、店から飲みさしのビールを貰って帰り特訓だ。
    早速、フミ子は西陣の織物屋の男(若宮忠三郎)を、キミ子は嵯峨野で11代続く豪農の大山田権兵衛(観世栄夫)と言うご贔屓を捕まえる。権兵衛は、家柄、格式に煩い母、竜(中村芳子)に頭が上がらず、今迄2人の妻を追い出され、36歳にして独身だ。母子は権兵衛の身元を調べた上で、キミ子は店の後、寿司屋~ホテルと流れて処女を捨てる。権兵衛は、翌日からキミ子に焦らされ虜に。毎晩通い、チップを貰う。当然母の竜にばれ、騙されているだけだと叱られても、夢中になった権兵衛は、言うことを聞かない。権兵衛の友人の山野(武周鴨)川原(草野大悟)らも、権兵衛から相談をうけるが、偵察に行くが結局、権兵衛の金で飲んだだけだ。
  善造は、大家で市会議員の熊谷(浜田寅彦)に家の隣に養鶏場を作られ、ステテコ(山村弘三)とフンドシ(宮田勝)と一緒に文句を言いに行くが、妻子が京都に出稼ぎに行っていることや、テレビを隠し持っていることなどを指摘され、生活保護のことを言われ、完全に藪蛇だ。善造と長男の良夫、学校の矢島先生(小川吉信)の3人が京都にやってくる。矢島は良夫を高校に行かせたいが、この家のことはフミ子でないと決められないと言われ付いて来たのだ。フミ子は良夫を高校大学に行かせると宣言し、良夫と矢島を喜ばせた。更に生活保護のために善造とフミ子は偽装離婚することに。いい金蔓を捉まえたフミ子とキミ子は、店で努力賞として表彰された。
   竜はフミ子を呼び出し、10万の金を渡し、キミ子と権兵衛を付き合わせないと約束させる。一筆書けと言われるが、学校に行けなかったので、読み書き出来ないと断るフミ子。それでも、権兵衛は通って来る。事情を知り、キミ子が、店以外で会わなくなったのは母親のせいだと思い、母をなじる権兵衛。権兵衛の使った金は50万を超えた。いよいよ困った竜は、川原に相談。店でキミ子を指名した川原は、寿司屋~ラブホテルに誘い、竜は警察に通報し、売春容疑でキミ子を逮捕させる。キミ子は留置場に何日も泊められる羽目に。店の主任が警察に行きキミ子の釈放を頼み、フミ子に一週間の謹慎を命じる。
   権兵衛はフミ子のもとに行き、竜の行いを謝罪し、改めてキミ子との結婚を申し込むが、フミ子は取り合わない。もみ合っているうちに、権兵衛は近くにあった裁縫鋏で、フミ子を刺してしまう。権兵衛は在宅起訴、もともと原因はフミ子母子のあまりの仕打ちなのだからと大山田家の弁護士は示談を提案するが、フミ子は応じず、結局裁判になる。フミ子は証人として出廷し、竜から10万円貰ったことさえ抜け抜けと否定する。キミ子も、権兵衛とホテルに行っ本たことを否定、哀れ権兵衛は執行猶予付きの実刑判決を受ける。
   ようやく帰宅した母子のもとに矢島先生がヤクザものとやってくる。2人は叩きのめされる。ヤクザは、熊谷の知恵遅れの娘を、夫の善造とステテコ、フンドシの3人でやってしまい妊娠させてしまったと言うのだ。母子は、九州に戻り、善造たちを呼んで詰問する。3人は事実を認めたが、熊谷がやってきた途端、フミ子は3人がやっていないと言い出す。フミ子が否定すれば、3人も肯定はできない。熊谷の娘が夫たちを誘惑したんじゃないかと迄言い出すフミ子。唖然とする熊谷と先生。翌朝早くフミ子とキミ子は九州を離れる。あんた権兵衛に惚れたんじゃないのと言うフミ子に笑い出すキミ子。大阪に行くつもりだったが、逃げたと思われるのは癪だから京都に戻ろう、私たちには、怖いものは何もないとうそぶくフミ子。
   40年前のキャバレーってこんなんだったんだなあ。九州の炭坑町から出てきた母子がみるみる垢抜け、九州弁から京都弁に変わっていく。炭坑を出て行った時と、帰ってくるときは別人のようだ。しかし、何も中身は変わっていない。役所の福祉係を見る時も、法廷で裁判官を前にした時も、厚顔で無表情だ。
    新宿武蔵野館で53年現代ぷろだくしょん山村聡監督『蟹工船25)』。世界的な不況に喘ぐ昭和初年のこと、函館港を蟹工船の博光丸がカムチャツカ沖でのタラバ蟹漁の為に出航した。水産会社から全権を与えられた監督の浅川(平田未喜三)は、蟹を穫るためには、漁夫たちの命の一匹や二匹安いものだと豪語し、人間以下の扱いをするだけではなく、一緒に出航したたけし丸が遭難しSOSを打電しているのを救助に向かおうとした船長に拳銃を突き付け黙殺させるなど血も涙もない男だ。
   博光丸には、夕張の炭坑から逃げてきた男ヤマ(浜村純)や、貧農あがりの山形(花沢徳衛)、二度と船には戻るまいと思っていたが、結局今年も乗り込む、商人上がりのタイワン(小笠原章二郎)と土方あがりの倉さ(森川信)や、まだ幼い少年たちも、多い。ほとんどの者は僅かな支度金を函館迄の汽車賃などで使い果たし、既に前借りの状態だ。文士だったが妻子を捨て同棲した浮気な女を殺して警察に追われている松木(山村聡)は、野口と名を偽って乗船していたが、工場長にばれて脅され、彼らのスパイにさせられている。夜も昼も無い重労働の上、酷い飯と風呂にも入らせて貰えない劣悪な労働環境だ。暴風警報の時化の中無理やり漁をする川崎船(蟹穫りの子船)が沈没し漁師が死んだ時も、船頭の三五郎(山田晴生)に人命よりも船を失ったことを責める浅川。過酷な労働に疲労困憊し、体を壊す人間が出てきたが、生産量が減ってきたことを問題にして、更に締め付けを強め、反抗するものは銃殺するとライフルを構える浅川。倒れるものに、雑夫長たちは、容赦なく暴力を振るった。
   蟹が多いソ連の領海侵犯をさせて、ソ連の戦艦が来たら、日本海軍を呼ぶとうそぶき、船長や船員にライフルを突き付ける。中積み船がやってきて、出来上がった蟹缶の積み出しの代わりに、函館からの手紙などが届いて少しは博光丸に平和が訪れたかに見えた。しかし、松木がスパイだと告げた青年を殴って殺してしまう。松木は海に身を投げる。死んだ青年の弔いをさせて欲しいと言う漁夫たちの願いを浅川たちが踏みにじったことで、彼らの怒りは爆発する。男たちは団結し、浅川に詰め寄り人間的な扱いを求める要求書を読み上げる。浅川は明日の朝には回答を出すと言う。
  しかし翌朝、日本軍の巡洋艦がやってくる。自分たちを助けにきたと勘違いしたものも出て皆が甲板に上がると、海兵たちは先導者は前に出ろと銃剣を突き付ける。誰も出なかったが、浅川が一人ずつ前に引っ張り出した。しかし漁夫たちの緊張は切れ、海兵たちに飛びかかった。それに対して下士官は、帝国海軍を愚弄するのかと怒り発砲を命じる。少年を含めた多数の船員が甲板に倒れている。血塗られた旭日旗が翻っている。
   月曜の昼間なのに、超満員。勿論シルバー料金だが、全国の劇場主はうらやましいだろうな。遅れてくる人間の席を取ったり、座席にゴミ残して行ったり、帰りは何で非常口から出られないのは何事だと劇場の若者をどやしつけたり、今の若い奴は何でデモしないんだとか、我が物顔のご老人たちでいっぱい。この人たちを遊ばせていないで使った方がいいと、青二才の失業者のくせに思ったりする(苦笑)。  
  小説では、首謀者たちは連行され、しかし労働者は更に団結しようと決意を語る結末に対して、このペシミスティックなエンディングは違和感を感じる人も多いようだが、労働者の権利どころか、紙より薄い命が消えていった現場は、戦場以外にも沢山あっただろう。朝鮮半島から強制連行された坑夫や、人買いによって、売られて行った貧農や、その妻子たちが、厳しい現場で、女郎屋で、直接間接問わず殺されっていった。しかし、現在になっても、そんな命が世界中にあると思い至ると、憂鬱な気持ちになる。

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