東京の西、八高線の箱根ヶ崎と言う駅からタクシーに乗った先にある斎場で告別式。遠いなあ(苦笑)。八高線に乗ったのはいつ以来だろうか。都内で最後にSLが走っており、小学生の頃に同級生と見に来た記憶が微かにある。それ以来だとしたら40年振りだ。乗り継ぎに失敗し、拝島で30分待つ羽目に。まあ、こんなことは失業中で伊達や酔狂でなければ出来ないな。高校の同級生の女子の父上の告別式。彼女とは、高校の文芸部で一緒だった。当時三多摩のサブカル系男子のマドンナだった彼女は、美術系大学を出た後、ロンドンに留学、今では、モダンアートのキュレーターをしている。まあキュレーターと言う仕事も彼女を通じて初めて知ったようなものだ。彼女の30数年来のファンの一人として遠路遥々出張って来たのだ。帰りは帰りで悪戦苦闘。ちょっと遅刻で新宿で人と会って、ランチミ。
角川シネマ新宿にて、増村保造 性と愛。
67年大映東京増村保造監督『妻二人(30)』。ある晩、永井健三(高橋幸治)は、タクシーが故障して、入ったバーすずらんで、かっての恋人雨宮順子(岡田茉莉子)に再会した。2週間前に上京したという順子は、風邪をひいて熱があった。店もそろそろ看板なので、健三は順子を送って帰る。学生時代、健三は作家志望だった。誰も認めてくれなかったが、BG(OL、ビジネスガール)の順子だけが彼を応援してくれていた。ある日、順子の知人の紹介で、出版社、主婦の世界社の社長永井昇平(三島雅夫)に小説を持ち込む。永井は、編集の人間は作品として認めなかったが、よかったらうちの会社に入らないかと言う。その後、社長秘書でもある永井の娘道子(若尾文子)と結婚したのだ。順子は、小説家志望の男小林(伊藤孝雄)と付き合っているという。首に絞められた痣が残っていて、問い詰めると小林は暴力的でひどい人間らしい。健三が母親の形見の指輪を今でもしている順子。しかし、神戸のバーに勤めていた時に米人に貰ったという護身用のピストルも持っていた。健三が帰ろうとすると、泥酔し、順子の名を呼ぶ小林がやってきた。小林が絡んでくるが、逆に叩きのめす健三。
瀟洒なマンションに帰宅をすると、妻の道子が出迎えた。道子は、主婦の世界社の事業部長として辣腕をふるい、また「清く明るく美しく」という、会社のモットーの象徴的存在でもある。現在、事業部は、障害児童への募金を大々的に募っている。その事務局には、伯爵御曹司の井上潤吉(木村玄)、美佐江〈長谷川待子)夫婦が担当している。娘婿の健三は、事業部の副部長なのだ。
ある日、道子の妹の利恵(江波杏子)と小林が知り合う。利恵は奔放な娘だが、すぐに、小林と結婚したいと言ってくる。普段は厳格な父昇平も歯切れが悪い。反対しているのは、道子だけだ。道子が大阪出張にでかけることになった。しかし、大阪へ一旦飛行機で飛びながら、道子は、東京に戻り、小林に会っていた。100万円の小切手を渡し、今後利恵と会わないことを求める道子。しかし一度金を受け取ってしまうと、小林は道子に襲い掛かり乱暴しようとする。もともと、道子を呼び出したのは、こうして乱暴することで、更に金蔓にしようと考えていたのだ。必至に抵抗するうちに、小林の上着の中の拳銃に気が付き、道子は小林を射殺して、貞操を守った。再び道子は大阪に戻った。
その夜、利恵を手に入れたことで、邪魔になった小林に追い出された順子は、都内を彷徨ったあげく、健三に電話をしてきた。健三は、家に呼び、話を聞く。仙台の実家までお金を貸してほしいという順子に金を貸し、更に何も食べていないという順子にサンドイッチを作ってあげた。帰り際キスをしているところを、ばあやのおトシ(村田扶美子)に目撃される。小林のアパートで利恵は一晩待っていたが現れずに帰宅する。
翌朝、小林の死体が発見される。利恵のスキャンダルを恐れた昇平は、健三の処に泊っていたと偽証しろと言う。しかし、銃と指輪から順子の存在がばれ、重要参考人として逮捕される。順子のアリバイを証言出来ずに悩む健三。そんな健三を事業部長に昇進させると言う昇平。偽証した飼い犬への褒美だ。健三は、昇進話を断り、警察で、事件の夜、順子が自分と一緒にいたことを証言する。しかし、おトシは、そんな事実はないと言い、警察もかっての恋人を庇ってそんなことを言っているのだろうと信じない。警察で証言した健三に昇平は激怒する。飼い犬に手を咬まれたと公然と吐き捨て、首だと言った。
順子とキスをしたことを正直に認め、順子を愛しているからというより、真実に忠実である生き方をすることにしたと道子に告白する。健三は、正直に生きることを道子が教えてくれたのだと言い、そのために順子の無実を証明するち告げる。道子は、健三を愛していると答える。健三は利恵に話を聞き、井上夫妻がカギを握っているのではと思い至る。果たして井上美佐江は、ファッションモデルをしていた時から昇平の愛人で、ばれそうになったため、昇平が貧乏貴族の御曹司の潤吉と結婚させたのだ。潤吉は、そのお蔭で酒を飲んで遊んで暮らせるのだと言う。更に、道子の調べで、障害児の募金からの多額の横領が分かった。潤吉は、小林に脅されて困るのは、昇平か道子だろうと言う。
道子は、昇平に、横領の事実を話し、美佐江の関係も問い詰めると、妻を亡くして10年、後妻も妾も愛人も認めない道子のせいだと言う。利恵が不良になったのも、厳格な道子に反発してのことだと、こうなったのはすべて道子が原因だ、お前は所詮商売のための看板娘で、その分をわきまえないのがいけないのだと吐き捨てる昇平。
深夜、会社で呆然としている道子のもとに、道子が真犯人だと気がついた健三がやってきた。健三に、すべてを打ち明けて飛び降りようとする道子。引き止める健三。全てを失った今でも、自分を愛しているかと問う道子に、尊敬していると答える健三。道子は正当防衛なのだし、罪を償ってからもずっと一緒にいるからという健三に、警察に行って全てを話すと道子は言う。翌日、健三に付き添われて警察に向かう道子の姿。ようやく釈放された順子に、愛しているが自分は道子と暮らしていかなければならないと言う健三。別れを告げて去っていく順子を見送る健三。
若尾文子、岡田茉莉子2大女優共演。二人とも、最高だな。もし、配役が逆だったら、もっとドロドロして重苦しいものになったかもなどと想像するのも楽しい。海外の小説を新藤兼人が脚本化、増村監督の演出と合わさって、散漫になりそうな多くの登場人物をうまく描き分けている。
66年大映東京増村保造監督『赤い天使(31)』。昭和14年5月、24歳の従軍看護婦の西さくら(若尾文子)は、中国、天津の陸軍兵站病院に派遣され、内科担当になった。内科の入院患者のほとんどが結核か精神障害だったが、前線に戻りたくない為の詐病も多く、それを見破るのも看護婦の仕事だと婦長から指示される。退屈な入院患者たちにとって新しい看護婦は興味の対象だ。坂本一等兵(千波丈太郎)という男がさくらの出身地などを聞いてきた。しかし、その晩、巡回していると、坂本一等兵たちに強姦されてしまう。さくらは全てを婦長に報告、坂本は最前線に送られた。天津はまだ平和だった。
二ヶ月後、さくら達5人の看護婦は、深県の分院に転属になった。そこは地獄のようだ。前線からは、新しい作戦が行われる度に大量の負傷兵が送られてくる。満足な麻酔薬も血液もなく、軍医も少ない中、軍医と看護婦、衛生兵たちは、助かるもの助からないものを区別し、重傷患者は、手足をどんどん切断していく。そこでさくらは、軍医の岡部少尉(芦田伸介)と出会う。岡部は「ここでは、兵隊は人間ではなく、物だ。認識票だと思え」と言う。岡部や西たちは、三日三晩不眠不休で次々に送られてくる兵士たちを捌いていく。その中に、かって自分を犯した坂本が送り込まれた。岡部は見放したが、命乞いをされたさくらは、輸血をしてやってくれないかと岡部に頼む。輸血は将校でないと認められないが、一晩を共にしてくれればよいと言う岡部。うなずくさくら。しかし、輸血の甲斐なく坂本は亡くなった。無駄なことをしたのかと悩むさくらが、その晩岡部の部屋に行くと、「今の自分は医師ではなく、生かす人間と死なす人間をただ振り分ける踏切の番人のようなものだが、急に医師らしいことをしてみたくなったのだ」と言い、モルヒネを打ってくれと言う岡部。軍に徴兵される前は、大病院で外科医として人の命を救っていた岡部は、カタワと死人を作っているのではないかと鬱屈し、モルヒネ無しでは眠れなくなっていた。疲労困憊していたさくらも、深い眠りに落ちた。
再び、天津の病院に戻されたさくらは、外科病棟の担当になる。そこで、両腕を切断された折原一等兵(川津祐介)に出会う。岡部によって命を救われたという折原は、傷は治っているが、何故か内地に戻されることはない。ある時、折原は、自分たちを内地に戻すと、戦闘の悲惨さを伝え、国内に厭戦的な気分が伝わることを陸軍は恐れているのだと言う。事実、足を切断されていた兵士は、内地に戻されたが、箱根にある機密病院に幽閉され、家族にも知らされていないと言う。岡部の贖罪の気持ちになったさくらは、今まで以上に傷病兵たちの介護に熱を入れる。ある時、折原は、両腕のない自分は男の欲求を処理することが出来ない悩みを打ち明け、手伝ってくれと頼む。手を差し出すさくら。ある公休日、さくらは折原を連れて外出し、ホテルに入る。折原を風呂に入れ、自分の裸身を見せてあげるさくら。しかし、翌日、折原は病院の屋上から投身自殺を遂げる。鉛筆を口で咥えて書いたらしい、さくらへの感謝の遺書を残して。
1ヶ月後、さくらは、5人の看護婦と共に、再び深県に転属となり、岡部に再会する。岡部は中尉に昇格していた。さくらは、岡部を愛していた。数日の不眠不休での地獄のような治療と、岡部との一夜が復活した。ある日、脊髄を損傷した兵士が運ばれてきた。いつも素早い判断をする岡部が、脊髄に食い込んだ砲弾の摘出を躊躇し、そのまま縫合させた。その夜理由を訪ねるさくらに、損傷していた脊髄は生殖器の神経を司る部位で、十分な施設のある内地の病院で手術を行えば、男性機能を維持できるだろうと判断したからだと答え、自分もモルヒネにより、不能なのだと告白する。
更に戦闘は激化し、前線での傷痍兵の増加で、岡部に衛生兵と看護婦を連れ前線参加するよう指令があった。さくらは、一緒に死にたいので自分も連れて行けと言う。死ににいくようなものだと拒絶し続けるが、最後には承諾する岡部。しかし、伸びきった日本軍の防衛線は、国民党軍と八路軍の合同作戦でずたずただ。結局、途中のエイリン屯という村落の基地で足止めになる。しかしそこでは、慰安婦にコレラが発病。次々に感染し、倒れ、亡くなっていく。水を大量に飲ませる以外何の治療も出来ない。
さらに、敵に包囲され全滅の危機も迫る。いよいよ最後の晩、さくらはモルヒネを求める岡部に、愛し合いたいので、モルヒネをやめるように言う。不可能だという岡部を縛りあげ、禁断症状で暴れる岡部と格闘すること5時間。やっと平穏が戻る。岡部の身体を慈しむさくらの愛の力で、二人は結ばれる。しかし、最後の時が迫っていた。敵の迫撃砲が霰のように降り注ぎ、次々に死んでいく兵士たち。さくらが連れてきた新人看護婦の津留崎(池上綾子)は、恐怖のあまり錯乱し、塹壕から飛び出し、銃撃された。指揮官が次々なくなり、最後には岡部が指揮をする。さくらのいる塹壕に迫撃弾が炸裂した。
気がつくと、砲撃は止んでいる。廃材や土砂の下敷きになっていたさくらが立ち上がると、至る所に、中国兵によって武器だけでなく軍服まで剥ぎ取られ半裸になった兵士たちの死体がごろごろしている。その中に、津留崎を見つけ涙するさくら。さくら一人が生き残ったようだ。本部からやってきた偵察兵たちに、コレラと敵の総攻撃で自分以外全滅したことと、軍医と衛生兵を呼び、この一帯を閉鎖してほしいと告げる。最後に岡部の死体も見つけた。昨夜お互いの胸に付けあったキスマークにほほを寄せるさくら。
バンプ(悪女)の若尾文子の色気もぞくぞくするが、こういう聡明で献身的で天使のように純粋な役も素晴らしい。戦闘シーン、戦場のような前線の医療現場のシーンなど、モノクロのスクリーン上でも凄い。手足の切断など、良く出来てきている。戦闘シーンのリアリティさで「プライベートライアン」が、いつも挙げられるが、40年前のこの作品も負けていないのではないか。「ジョニーは戦場に行った」を思わせる川津祐介との話など、傑作だ。
博華で餃子とビール。寒いので老酒のお燗も。
2 件のコメント:
はじめまして。
『赤い天使』
これ、衝撃的な映画ですよね・・・。見たときビックリしました。と、同時に西さくら役を演じきれる女優ってすごいです。
あんず
はじめまして
『赤い天使』
これ、衝撃的な映画ですよね。
と、同時に西さくら役を演じきれる女優はスゴイ、ただスゴイの一言です。
あんず
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