大門の睡眠クリニック。月末は混んでいるなあ。
新宿ピカデリーで、廣木隆一監督『雷桜(150)』
山菜採りに向かう二人の村の若者、友蔵(高良健吾)茂次(柄本佑)山に住む天狗の噂をしていると・・・。白馬に乗って炭焼き小屋に戻って来る雷(蒼井優)「親父さま!!」田中理右衛門(時任三郎)「どうした?また村人をからかったのか?」「ああ、山を乱されるのは嫌だ」「また、村人に姿を見られたんだな」
魘され目覚める清水家当主斉道(岡田将生)「榊原!!・・・榊原!!」刀を手に取り、縁側に出ると、小姓榊原秀之助(若葉竜也)は座り込んで眠っている。斉道刀を抜き「榊原!!夜伽のくくせに、居眠りか!!」驚き逃げ出す榊原。庭で榊原を斬ろうとする斉道。小者の助次郎「殿!!畏れながら、人をあやめることは、一大事でございます」と立ちはだかる。斉道の剣をかわし、あくまでも止めようとする助次郎。止めようとする家臣を押しとどめる側用人榎戸角之進(柄本明)。上段に構えた斉道、突然気絶する。「殿!!殿!!」助次郎「これは・・・」
醫の手当てを受ける斉道「戸を開けてくれ」助次郎を従え榎戸「殿は迫観という病なのだ」「心の病でいらっしゃいますか。ご無礼いたしました」「お主は、瀬田の庄屋の倅だったな。これより、正式に清水家の家臣に取り立てる。殿のお側には、お前のような家来がよいかもしれぬ」
庭で、愛鷹力王丸に餌をやる斉道の前に、助次郎を連れた榎戸が現れる。「瀬田助次郎を、殿の夜伽にいたしまする」
幼い日の斉道が毬で遊んでいる。「笑いなさい!笑いなさい!!何で笑わないの!!この小憎らしい子め!!」斉道の母(河井青葉)唾を吐きかけ罵る、その姿は常軌を逸している。魘され目覚める斉道。「殿!!どうなさいました!!?」助次郎が駆け付ける。「何か面白い話しをしろ」「私は田舎の出ですので・・・」「では、その話しをしろ」「瀬田村は、山に囲まれた小さな村でございます。村の外れには草原が広がり見事な狩り場でございます。」「
つまらぬ!!」「村の奥には、瀬田山がございます」「そこでも狩りが出来るのか?」「いえ、瀬田山には天狗がおりまする」「誰がお伽草紙の話しをしろと言った!!」「本当に、天狗はいるのです。いてもらわないと困るのです」
公孫樹と桜が合わさった古木が桜の花を咲かせている。「そんなに好きか?へんてこな木」理右衛門「公孫樹に雷が落ちた日にお前が産まれた。雷が落ちてもお前は笑っていた。その公孫樹に、いつか桜の木が生えたのだ」
江戸城、幕府大老高山仙之介(大杉漣)老中早坂門之助(ベンガル)らの前には、清水家側用人榎戸角之進の姿。「お前の忠義公方様もお認めだ。引き続き斉道公に尽くすのだ。ただ、ご三卿清水家の当主は、いくら公方様の御子とはいえ、うつけの気がこれ以上酷くなるようであれば、将軍家のご威光を傷つけ、片付けざるおえまい。その時は榎戸、お主が切れ。これは、公方様のご意向でもある」「ははっ」沈痛な表情で頭を下げる榎戸。
戻って来た榎戸に斉道が声をかける「老中たちは何を言っていた」「殿のご健康を気遣っておられました」「嘘を申すな。予の病は治るのか。母上と同じように狂ってしまうのか。隠さずともよい。予は恐ろしいのだ。幼い頃から魘され続ける悪夢、これは血か?母上からの血筋のせいなのか?」醫「殿!ご静養なされ。江戸を離れてみてはいかがでしょうか」
榎戸に呼ばれ駆け付ける助次郎「何か御用でしょうか」「この度、殿のご静養にお前の故郷が選ばれた。瀬田村に行くのじゃ。瀬田村の庄屋は、お主の兄者だったな」
騎上の斉道を含め行列が街道を行く。愛鷹力王丸が突然逃げ出す。鷹を追って馬を走らす直道。「殿!!」「殿!!」「お待ち下され!!」口々に呼びながら駆け出す家臣たち。しかし、馬に駆け足、しばらくすると追いかけているのは助次郎一人だ。「殿!!瀬田山に入ってはいけません」
「百姓上がりめ。根性だけはある」一面のレンゲ原に馬から下り、伸びをして横になる斉道。目をつぶって風を感じていると、自分の上を馬が飛び越え、飛び起きる。「無礼者!!」刀を抜き、馬に乗っていた小柄な男と組み合う。男は小斧を手に挑みかかって来る。しかし、刀と斧を落とし、組み合うと体格に優る斉道は男を組伏した。仮面を剥ぐと「女!!」腕にかみつく雷。刀を構えるが気絶する斉道。斧を構え直して近付く雷。「おい!!おい!!」動かない侍に息を確かめ、竹筒の水を飲ませようする。気絶しているので、水を口に含み、口移しに飲ませると、突然抱き締められる。「やめろー」もがく雷に「身体がきもちよい。このままでいてくれ」しばらくじっとしていたが、鷹が空を舞う姿に、白馬に飛び乗り「二度と森に入るな」と去る雷。
十条の帽子職人T氏の工房で、I会長と三人で、フリーランス見本市、事務局反省会。十条の渋く枯れた商店街。痺れる(笑)。西荻の次に住むのは十条か。
2010年11月30日火曜日
2010年11月29日月曜日
飯田蝶子の母性愛と“こんな筈じゃなかった”不肖の息子。
午後大手町で糖尿病経過観察。2食抜いていると、目が回るなあ。
神保町に出て遅昼飯を、いもやで天丼食べ、10代からだと思うと35年以上か・・・。天麩羅、天婦羅というより天ぷら、キッチン南海と双璧の膨満メシ。食べログ見たら、どっちも沢山のグルメコメント出ていてびっくり、絶賛するも貶すもそういう店じゃないだろ(笑)。とっても貴重な食い物屋なことは間違いないんだが、若松孝二を巨匠監督というくらいのチンさむだ。
神保町シアターで、小津安二郎の世界。
47年松竹大船小津安二郎監督『長屋紳士録(148)』
戦後間もない東京、長屋に街頭が灯っている。為吉(河村黎吉)が話している。「だから、月を見な。時には雲も懸かるだろ。先は先、今は今だ…。」「ただいま」下宿人の辻占いの田代(笠智衆)が帰って来る。「誰かいたのか?」「いいや」「話していたじゃないか」「いや、何でもない」田代後ろを振り返り「おいで」薄汚れた男の子が現れる。「何でい?」「この子供拾ってきてしまったと言うか、九段から付いて来てしまって、離れないんだ。茅ヶ崎から親と出て来たんだが、はぐれちまったようなんだ。泊めてやって貰えんかねえ」「やだよ。俺は子供は好きじゃないんだよ」「一晩でいいんだよ」「かあやんの所に押し付けちまいなよ」「うぅん、困ったなあ」
向かいのおたね(飯田蝶子)の金物屋に顔を出す田代。「今晩は。ねえおたねさん。子供いらんかね?これを拾ってきてしまったんだ」「えぇ?あたしゃ嫌だよ。子供嫌いなんだよ。田代さん冗談は止めとくれ!!」「一晩だけ頼むよ」とさっさと子供を置いて姿を消す田代。ポケットに手を入れたままの幸平(青木放屁)。「シッ!シッ!」猫を追い払うように手を振り、睨むたね。「めっ!」ペソをかく幸平。翌朝、敷き布団が干してある。俯く幸平を前に睨むたね「こらっ!」団扇を手渡し「扇いでよく乾かすんだよ」敷き布団には寝小便の後がある。為吉に文句を言うたね。「困っちゃったよ。とんでもないモンを押し付けられちゃったよ」「何だい?」「寝小便ですよ。大事な布団が台無しだよ。馬みたいに小便垂れ流し…どうしてくれるんだい!」「文句を言う相手が違うよ。しょうがねえもん拾ってきたもんだ、天眼鏡!」外では幸平が団扇を扇ぎ続けている。
為吉とおたね、染め屋の喜八【かいはちと皆呼んでいる】(坂本武)のところに行き、「困っちまったよ。子供預かってくれないかい」「うちも困ったもんだ。ガキはいるし、この家も狭いし。」「いや、狭いも何も、立派なお屋敷じゃないか。ニ人育てるのも三人育てるのも大して変わらないだろ」「茅ヶ崎から父親と出て来たと言うから、連れて行けば預けられるんじゃねえのか」「誰が連れて行くんだい?」為吉「くじで行こう?なあ、かい八さん。当たったら恨みっこなしだ。×をつけた紙縒を引いた人間が茅ヶ崎だぜ」為吉筆を取り紙縒を作る。引いた紙縒を開いたおたね「あたしが当たったよ。しょうがないね」おたねが出て行くと自分の紙縒を開いた喜八「あれ、俺のにも×がある」「俺のにもあるよ。慌てた奴が損をするんだ。かあやんには内緒だぜ」「勿論だ」
父親(小沢栄太郎)きく(吉川満子)ゆき子(三村秀子)とめ(高松栄子)しげ子(長船フジヨ)平ちゃん(河野祐一)おかみさん(谷よしの)写真師(殿山泰司)柏屋(西村青司)
36年松竹大船小津安二郎監督『一人息子(149)』
「人生の悲劇の第一幕は、親子になったことからはじまっている」侏儒の言葉
1923年信州。ランプ、柱時計が鳴る。街道を歩く、行商の娘(お茶売り?)。貼り紙「春繭 一貫目拾三円 (山に七の屋号)仁田」生糸工場 湯につけた繭から生糸を採る野々宮つね(飯田蝶子)の姿。
つねの家。釜にひよこが2羽いる。石臼をひくつね。息子の良助(葉山正雄)「ねえ、かあやん。今年、組から4人中学に行くんだ。先生がオラにもどうする?と聞いたんだ」「おめ何言っただ?」「言わんかった。銭ねえに決まってんだもん」「中学なんか行かなねえでいい。明日草餅こさえてやる」
「今晩は」おとないを告げる声がする。大久保先生(笠智衆)だ。「いつも良助がごヤッケエになっておりまして」頭を深く下げるつね。「良助くんはよく出来るので、僕は大変嬉しいです。今日学校で聞きましたが、良助くんを中学に行かせてくれるそうで、本当に喜んでいるんです。おっかさんも決心がつきましたか。これからは何をするにも学問無しではやっていけないです。やっぱり学問をするには、何でも東京です。こんな田舎ではどうしようもない。私も東京に行こうと思っているのです」呆然と聞くつね。大久保が帰ると我に返り、「良助!良助!」2Fの蚕棚からゆっくり降りてくる良助。つね、頬を打つ。「何で、嘘つくだ!!中学なんか行ける身分か!!生きて行くので精いっぱいでねえか」夫を亡くし、女親一人で良助を育てているのだ。
女工仲間のしげ(高松栄子)「大久保先生、辞めるんだってな。あの先生はゼッテー東京に行くと思っていただ。いつ行くだ?」「明日の上りだ」大久保先生バンザイという手作りの旗が家にある。意気消沈の良助。「おめえやっぱり中学校に行くだ。かあやんもユンベ一晩考えただ。他の子が中学校に行くのに、級長のおめえが行かねえなんて、かあやんも面白くねえだ」涙を流しながら息子の手をとるつね。「かあやんはどんなに苦労してもいい。東京に行って、偉い人になるだぞ」つねの決意を聞いて涙する良助「ねえ、かあやん。おら偉い人になる」
1935年信州。生糸場。つね、しげと話している「良助も東京で仕事すると言って来ただ。」「あんたも苦労のしがいもあったというもんだ」「春になったら東京に行ってこねばと思ってるだ。27にもなるし、そろそろ嫁のシンペエもせねばなられえから・・・」嬉しそうに話すつね。
1936年東京。蒸気機関車C51が駅に入って来る。都内を走る円タク。成人し背広姿の良助(日守新一)。「夜行じゃ大変だったでしょう。疲れたでしょう」「いや、親切な人が隣に座っていて、弁当を買ってくれたり、随分とありがたかっただ」「これが、隅田川永代橋ですよ。随分大きいでしょう」「でっけえ橋だなあ。」「本当によく出掛けて来ましたね」円タクが止まり、母を下し、風呂敷包みを手に、料金を払う良助。「ねえ、うちはこの原の向うなんです。ぶらぶら歩いて行きましょう。大変な家ですよ・・・。ねえ、かあさん。驚いちゃいけませんよ」「何がさ」「実は、女房をもらっちゃったんです」驚いて良助の後を歩くつね。ゴミゴミとした一角。洗われた糸の束が干してある。メリヤス工場だろうか、絶え間なく音が響いている。一件の平屋の戸に手をかけ「おっかさん。ここです。さあどうぞ」杉子(坪内良子)が出て来て小さな玄関に手をつく。「はじめまして」良助「杉子です」「よくいらっしゃいました」「お初めて。せがれがいろいろごやっけえ様になって」良助、つねを中に案内して「随分汚いでしょう。ねえ、おっかさん、ちょいと・・・」赤ん坊がスヤスヤと眠っている。「去年の暮れに産まれちゃったんですよ。おとっつぁんの名前から一字貰って義一とつけたんですよ」良助、杉子に「お金あるか?鳥を買って来いよ」杉子が出掛けると「洋食屋の娘なんですよ。学校行っていた時分に、下宿してたでしょ。近くの娘なんですよ」「市役所で働いていると聞いたけ」「市役所の方は、半年ばかり前に辞めちゃったんですよ」つねは驚くばかりだ。
夜学の教室。黒板には図形が書かれている。良助は夜学の教師をしているのだ。学生が手を上げる「先生。Fと?が同じという意味が分かりません」「この内円の三角形・・・・。分ったか?これがシルスンゼンの定理(正弦定理?)だ」頭を掻き着席する学生。教室を抜け職員室に行く良助「なごい!すまないけど10円貸してくれないか?」「10円持っていると思うか?」「じゃあ、5円でいいや。すまんなあ、すまん」年配の教員の松村(青野清)に向いて「ねえ、松村さん。済みませんが、5円貸して貰えませんか?」松村黙っている。「給料日には返します。利子を1割つけますので」松村財布から金を出す。結構持っているようだ。「急に、おふくろが出て来てしまったので・・」と言い訳をして、教室に戻る。
良助の家。つね「で、学校の方ではいくら貰っているんだい」杉子「ほんの僅かですの。でも何とかやっていけますわ」
帰宅した良助。「教師は勝手に休めないものですから・・・。おいお茶入れろよ」「大久保先生はどうしているかの」「明日訪ねてみましょう。先生も喜ぶと思いますよ」
翌日、とんかつという旗が風に揺れている。無精ひげで割烹着姿の大久保。良助とつねの姿を認めて「やあ、ご無沙汰しております。信州はどうですか・・・」・・・・・・・良助「今では戸隠山のほととぎすの声か聞けるんですから・・・」小学生の息子(爆弾小僧)が帰って来るなり泣きだす。「こいつが次男です」良助「二郎くん、二郎くん」小遣いを貰うなり泣きやんで出て行ってしまう。つね「おいくつ?」「六つです。なりばかり大きくていかんです」良助「先生、お忙しいんじゃありませんか?」大久保「東京に来てこんなことになろうとは思いませんでした。まあ、なるようにしかならんもんです」そこに、大久保の細君(浪花友子)が帰って来る。「愚妻です。こいつが四男です。結構なものをいただいたよ」「それは、ありがとうございます」「ああ、こないだ話した夜泣きのおまじないだがね」「これですか?」「そう、これを逆さまに貼るんじゃよ」
映画館に良助とつねの姿がある。「これがトーキーというものですよ」スクリーンでは、「未完成交響楽」(33年独・墺)が上映されている。居眠りし、小さな鼾をかくつね。その姿を見て微笑む良助。
良助と杉子の会話「お隣が騒がしくて、お母さん休めるかしら」「しょうがないよ。これで3円安いんだから。明日からどうしよう。借りたお金もあらかた使ってしまったし・・・」そこに銭湯からつねが戻って来る。「どうでした?混んでいましたか?」「いえ、いい湯だったよ」良助「肩をお揉みしましょう」お茶を運んできた杉子「お疲れじゃありませんか」「いや、楽しかった。浅草から上野に廻って、九段でお参りも出来て」「お袋は、雷門の提灯が大木のでびっくりしたんだ」「そりゃあ大きいもんで驚いただ」チャルメラの音がする。「おかあさん。支那そばを食べませんか。珍しいもんですよ」良助ゲタを履いて外に出る。代りにつねの肩を揉む杉子。良助、屋台の若者に「ラーメン3つ。チャーシュー沢山入れろよ!」そのまま、窓の開いた隣家を覗く。「富坊勉強してるか」おたか(吉川満子)が女手一つで富坊(突貫小僧)君子(小島和子)を育てている。「お母さんいらしているんでしょ」「ええ、急に出て来てしまって・・・」その時屋台の男から声がかかり「じゃあまた!」ラーメン鉢を三つ持って家に入る良助。つね、杉子とラーメンを食べる。「どうです。なかなかのものでしょう。つゆがまたいけるんですよ」
翌日、近所の原っぱで、つねが孫をあやしている。そこに富坊が来る「おばあちゃん、信州から来たって本当?」「ホントだ」「信州の県庁所在地は長野。僕は全部言えるんだ」得意に関東の県名と県庁所在地を言い始めるが、直ぐにわからなくなる。「信州の名産は生糸」頷いて微笑むつね。「富ちゃん!富ちゃん!!」おたかが呼んでいる。鍋を手にしているのを見て「また、豆腐買いに行かされるんだ」家の中、「ねえ、お母さんをどこかに連れて行って差し上げて下さいまし。孫の子守りでは申し訳ないわ」といって金はない。原っぱを歩く良助とつね。何本も煙突が建っている。「あれが東京一のゴミ焼却場ですよ。東京はゴミの量だって半端じゃない。」近くに腰を下ろす2人。「ねえ、おっかさん。僕何になっていると思いましたか?がっかりしてるんじゃありませんか。僕も時々、東京に出てこなければよかったと思うことがあるんです」少し置いて「おめえはこれからだと、ワシは思っているだ」「僕もそう思っていますよ。でも、小さい双六の上がりなんじゃないかと思う時もあるんです」「おめえ、そんなのんきなこと言っちゃ困るじゃないか」「僕は、おっかさんと田舎で暮らしていたかった。そりゃあ、僕も立派な人になろうとしたんです。でも夜学の先生にしかなれなかった」「東京は人が多すぎるんです。「かあちゃんにしてみりゃ、お前にそうあっさり諦めてもらいたくねえだよ」余りに情けない息子の言葉にショックを受けるつね。
夜、眠れずにつねは火鉢の火種を掘り起こし手を当てていると、良助が目を覚ます。「おっかさん、どうしたんだい」「ん、ちょっと寝付かれないだ」「大層遅いよ。もう寝よう」「ひょっとして、おっかさんは、僕のことで眠れなくなってしまったのかい」「おめえの立身出世を楽しみに、苦労してきたが、そんなことは何の苦労ではねえ。もうお父っつあんが残してくれた家屋敷も桑畑も売って、生糸工場の長屋に住まわしてもらって掃除婦をしているだ。おめはまだ若い」
近所の子供(加藤清一)
うーむ。我が身を重ねキツい映画だなあ(苦笑)。
神保町に出て遅昼飯を、いもやで天丼食べ、10代からだと思うと35年以上か・・・。天麩羅、天婦羅というより天ぷら、キッチン南海と双璧の膨満メシ。食べログ見たら、どっちも沢山のグルメコメント出ていてびっくり、絶賛するも貶すもそういう店じゃないだろ(笑)。とっても貴重な食い物屋なことは間違いないんだが、若松孝二を巨匠監督というくらいのチンさむだ。
神保町シアターで、小津安二郎の世界。
47年松竹大船小津安二郎監督『長屋紳士録(148)』
戦後間もない東京、長屋に街頭が灯っている。為吉(河村黎吉)が話している。「だから、月を見な。時には雲も懸かるだろ。先は先、今は今だ…。」「ただいま」下宿人の辻占いの田代(笠智衆)が帰って来る。「誰かいたのか?」「いいや」「話していたじゃないか」「いや、何でもない」田代後ろを振り返り「おいで」薄汚れた男の子が現れる。「何でい?」「この子供拾ってきてしまったと言うか、九段から付いて来てしまって、離れないんだ。茅ヶ崎から親と出て来たんだが、はぐれちまったようなんだ。泊めてやって貰えんかねえ」「やだよ。俺は子供は好きじゃないんだよ」「一晩でいいんだよ」「かあやんの所に押し付けちまいなよ」「うぅん、困ったなあ」
向かいのおたね(飯田蝶子)の金物屋に顔を出す田代。「今晩は。ねえおたねさん。子供いらんかね?これを拾ってきてしまったんだ」「えぇ?あたしゃ嫌だよ。子供嫌いなんだよ。田代さん冗談は止めとくれ!!」「一晩だけ頼むよ」とさっさと子供を置いて姿を消す田代。ポケットに手を入れたままの幸平(青木放屁)。「シッ!シッ!」猫を追い払うように手を振り、睨むたね。「めっ!」ペソをかく幸平。翌朝、敷き布団が干してある。俯く幸平を前に睨むたね「こらっ!」団扇を手渡し「扇いでよく乾かすんだよ」敷き布団には寝小便の後がある。為吉に文句を言うたね。「困っちゃったよ。とんでもないモンを押し付けられちゃったよ」「何だい?」「寝小便ですよ。大事な布団が台無しだよ。馬みたいに小便垂れ流し…どうしてくれるんだい!」「文句を言う相手が違うよ。しょうがねえもん拾ってきたもんだ、天眼鏡!」外では幸平が団扇を扇ぎ続けている。
為吉とおたね、染め屋の喜八【かいはちと皆呼んでいる】(坂本武)のところに行き、「困っちまったよ。子供預かってくれないかい」「うちも困ったもんだ。ガキはいるし、この家も狭いし。」「いや、狭いも何も、立派なお屋敷じゃないか。ニ人育てるのも三人育てるのも大して変わらないだろ」「茅ヶ崎から父親と出て来たと言うから、連れて行けば預けられるんじゃねえのか」「誰が連れて行くんだい?」為吉「くじで行こう?なあ、かい八さん。当たったら恨みっこなしだ。×をつけた紙縒を引いた人間が茅ヶ崎だぜ」為吉筆を取り紙縒を作る。引いた紙縒を開いたおたね「あたしが当たったよ。しょうがないね」おたねが出て行くと自分の紙縒を開いた喜八「あれ、俺のにも×がある」「俺のにもあるよ。慌てた奴が損をするんだ。かあやんには内緒だぜ」「勿論だ」
父親(小沢栄太郎)きく(吉川満子)ゆき子(三村秀子)とめ(高松栄子)しげ子(長船フジヨ)平ちゃん(河野祐一)おかみさん(谷よしの)写真師(殿山泰司)柏屋(西村青司)
36年松竹大船小津安二郎監督『一人息子(149)』
「人生の悲劇の第一幕は、親子になったことからはじまっている」侏儒の言葉
1923年信州。ランプ、柱時計が鳴る。街道を歩く、行商の娘(お茶売り?)。貼り紙「春繭 一貫目拾三円 (山に七の屋号)仁田」生糸工場 湯につけた繭から生糸を採る野々宮つね(飯田蝶子)の姿。
つねの家。釜にひよこが2羽いる。石臼をひくつね。息子の良助(葉山正雄)「ねえ、かあやん。今年、組から4人中学に行くんだ。先生がオラにもどうする?と聞いたんだ」「おめ何言っただ?」「言わんかった。銭ねえに決まってんだもん」「中学なんか行かなねえでいい。明日草餅こさえてやる」
「今晩は」おとないを告げる声がする。大久保先生(笠智衆)だ。「いつも良助がごヤッケエになっておりまして」頭を深く下げるつね。「良助くんはよく出来るので、僕は大変嬉しいです。今日学校で聞きましたが、良助くんを中学に行かせてくれるそうで、本当に喜んでいるんです。おっかさんも決心がつきましたか。これからは何をするにも学問無しではやっていけないです。やっぱり学問をするには、何でも東京です。こんな田舎ではどうしようもない。私も東京に行こうと思っているのです」呆然と聞くつね。大久保が帰ると我に返り、「良助!良助!」2Fの蚕棚からゆっくり降りてくる良助。つね、頬を打つ。「何で、嘘つくだ!!中学なんか行ける身分か!!生きて行くので精いっぱいでねえか」夫を亡くし、女親一人で良助を育てているのだ。
女工仲間のしげ(高松栄子)「大久保先生、辞めるんだってな。あの先生はゼッテー東京に行くと思っていただ。いつ行くだ?」「明日の上りだ」大久保先生バンザイという手作りの旗が家にある。意気消沈の良助。「おめえやっぱり中学校に行くだ。かあやんもユンベ一晩考えただ。他の子が中学校に行くのに、級長のおめえが行かねえなんて、かあやんも面白くねえだ」涙を流しながら息子の手をとるつね。「かあやんはどんなに苦労してもいい。東京に行って、偉い人になるだぞ」つねの決意を聞いて涙する良助「ねえ、かあやん。おら偉い人になる」
1935年信州。生糸場。つね、しげと話している「良助も東京で仕事すると言って来ただ。」「あんたも苦労のしがいもあったというもんだ」「春になったら東京に行ってこねばと思ってるだ。27にもなるし、そろそろ嫁のシンペエもせねばなられえから・・・」嬉しそうに話すつね。
1936年東京。蒸気機関車C51が駅に入って来る。都内を走る円タク。成人し背広姿の良助(日守新一)。「夜行じゃ大変だったでしょう。疲れたでしょう」「いや、親切な人が隣に座っていて、弁当を買ってくれたり、随分とありがたかっただ」「これが、隅田川永代橋ですよ。随分大きいでしょう」「でっけえ橋だなあ。」「本当によく出掛けて来ましたね」円タクが止まり、母を下し、風呂敷包みを手に、料金を払う良助。「ねえ、うちはこの原の向うなんです。ぶらぶら歩いて行きましょう。大変な家ですよ・・・。ねえ、かあさん。驚いちゃいけませんよ」「何がさ」「実は、女房をもらっちゃったんです」驚いて良助の後を歩くつね。ゴミゴミとした一角。洗われた糸の束が干してある。メリヤス工場だろうか、絶え間なく音が響いている。一件の平屋の戸に手をかけ「おっかさん。ここです。さあどうぞ」杉子(坪内良子)が出て来て小さな玄関に手をつく。「はじめまして」良助「杉子です」「よくいらっしゃいました」「お初めて。せがれがいろいろごやっけえ様になって」良助、つねを中に案内して「随分汚いでしょう。ねえ、おっかさん、ちょいと・・・」赤ん坊がスヤスヤと眠っている。「去年の暮れに産まれちゃったんですよ。おとっつぁんの名前から一字貰って義一とつけたんですよ」良助、杉子に「お金あるか?鳥を買って来いよ」杉子が出掛けると「洋食屋の娘なんですよ。学校行っていた時分に、下宿してたでしょ。近くの娘なんですよ」「市役所で働いていると聞いたけ」「市役所の方は、半年ばかり前に辞めちゃったんですよ」つねは驚くばかりだ。
夜学の教室。黒板には図形が書かれている。良助は夜学の教師をしているのだ。学生が手を上げる「先生。Fと?が同じという意味が分かりません」「この内円の三角形・・・・。分ったか?これがシルスンゼンの定理(正弦定理?)だ」頭を掻き着席する学生。教室を抜け職員室に行く良助「なごい!すまないけど10円貸してくれないか?」「10円持っていると思うか?」「じゃあ、5円でいいや。すまんなあ、すまん」年配の教員の松村(青野清)に向いて「ねえ、松村さん。済みませんが、5円貸して貰えませんか?」松村黙っている。「給料日には返します。利子を1割つけますので」松村財布から金を出す。結構持っているようだ。「急に、おふくろが出て来てしまったので・・」と言い訳をして、教室に戻る。
良助の家。つね「で、学校の方ではいくら貰っているんだい」杉子「ほんの僅かですの。でも何とかやっていけますわ」
帰宅した良助。「教師は勝手に休めないものですから・・・。おいお茶入れろよ」「大久保先生はどうしているかの」「明日訪ねてみましょう。先生も喜ぶと思いますよ」
翌日、とんかつという旗が風に揺れている。無精ひげで割烹着姿の大久保。良助とつねの姿を認めて「やあ、ご無沙汰しております。信州はどうですか・・・」・・・・・・・良助「今では戸隠山のほととぎすの声か聞けるんですから・・・」小学生の息子(爆弾小僧)が帰って来るなり泣きだす。「こいつが次男です」良助「二郎くん、二郎くん」小遣いを貰うなり泣きやんで出て行ってしまう。つね「おいくつ?」「六つです。なりばかり大きくていかんです」良助「先生、お忙しいんじゃありませんか?」大久保「東京に来てこんなことになろうとは思いませんでした。まあ、なるようにしかならんもんです」そこに、大久保の細君(浪花友子)が帰って来る。「愚妻です。こいつが四男です。結構なものをいただいたよ」「それは、ありがとうございます」「ああ、こないだ話した夜泣きのおまじないだがね」「これですか?」「そう、これを逆さまに貼るんじゃよ」
映画館に良助とつねの姿がある。「これがトーキーというものですよ」スクリーンでは、「未完成交響楽」(33年独・墺)が上映されている。居眠りし、小さな鼾をかくつね。その姿を見て微笑む良助。
良助と杉子の会話「お隣が騒がしくて、お母さん休めるかしら」「しょうがないよ。これで3円安いんだから。明日からどうしよう。借りたお金もあらかた使ってしまったし・・・」そこに銭湯からつねが戻って来る。「どうでした?混んでいましたか?」「いえ、いい湯だったよ」良助「肩をお揉みしましょう」お茶を運んできた杉子「お疲れじゃありませんか」「いや、楽しかった。浅草から上野に廻って、九段でお参りも出来て」「お袋は、雷門の提灯が大木のでびっくりしたんだ」「そりゃあ大きいもんで驚いただ」チャルメラの音がする。「おかあさん。支那そばを食べませんか。珍しいもんですよ」良助ゲタを履いて外に出る。代りにつねの肩を揉む杉子。良助、屋台の若者に「ラーメン3つ。チャーシュー沢山入れろよ!」そのまま、窓の開いた隣家を覗く。「富坊勉強してるか」おたか(吉川満子)が女手一つで富坊(突貫小僧)君子(小島和子)を育てている。「お母さんいらしているんでしょ」「ええ、急に出て来てしまって・・・」その時屋台の男から声がかかり「じゃあまた!」ラーメン鉢を三つ持って家に入る良助。つね、杉子とラーメンを食べる。「どうです。なかなかのものでしょう。つゆがまたいけるんですよ」
翌日、近所の原っぱで、つねが孫をあやしている。そこに富坊が来る「おばあちゃん、信州から来たって本当?」「ホントだ」「信州の県庁所在地は長野。僕は全部言えるんだ」得意に関東の県名と県庁所在地を言い始めるが、直ぐにわからなくなる。「信州の名産は生糸」頷いて微笑むつね。「富ちゃん!富ちゃん!!」おたかが呼んでいる。鍋を手にしているのを見て「また、豆腐買いに行かされるんだ」家の中、「ねえ、お母さんをどこかに連れて行って差し上げて下さいまし。孫の子守りでは申し訳ないわ」といって金はない。原っぱを歩く良助とつね。何本も煙突が建っている。「あれが東京一のゴミ焼却場ですよ。東京はゴミの量だって半端じゃない。」近くに腰を下ろす2人。「ねえ、おっかさん。僕何になっていると思いましたか?がっかりしてるんじゃありませんか。僕も時々、東京に出てこなければよかったと思うことがあるんです」少し置いて「おめえはこれからだと、ワシは思っているだ」「僕もそう思っていますよ。でも、小さい双六の上がりなんじゃないかと思う時もあるんです」「おめえ、そんなのんきなこと言っちゃ困るじゃないか」「僕は、おっかさんと田舎で暮らしていたかった。そりゃあ、僕も立派な人になろうとしたんです。でも夜学の先生にしかなれなかった」「東京は人が多すぎるんです。「かあちゃんにしてみりゃ、お前にそうあっさり諦めてもらいたくねえだよ」余りに情けない息子の言葉にショックを受けるつね。
夜、眠れずにつねは火鉢の火種を掘り起こし手を当てていると、良助が目を覚ます。「おっかさん、どうしたんだい」「ん、ちょっと寝付かれないだ」「大層遅いよ。もう寝よう」「ひょっとして、おっかさんは、僕のことで眠れなくなってしまったのかい」「おめえの立身出世を楽しみに、苦労してきたが、そんなことは何の苦労ではねえ。もうお父っつあんが残してくれた家屋敷も桑畑も売って、生糸工場の長屋に住まわしてもらって掃除婦をしているだ。おめはまだ若い」
近所の子供(加藤清一)
うーむ。我が身を重ねキツい映画だなあ(苦笑)。
2010年11月28日日曜日
昨夜は自宅居酒屋。
昨夜は、久しぶりに自宅居酒屋土曜開催。沢山お越しいただきありがとうございました。女性ゲスト多く誠に嬉しい…ヾ(^▽^)ノ。←ブログ初絵文字。お陰で、新聞代と電気代払えました(苦笑)
自家製ピクルスと、牡蛎のニンニクオリーブオイル漬け、冷蔵庫に入れっぱなしで、出すのを忘れていた。あー。更に美人画家に料理を手伝ってもらいながら、部屋の掃除はともかく、キッチンと冷蔵庫庫内の汚れ半端なく、女子に見られて恥ずかしい。電力ストップ以来手付かずの冷凍庫含め、早急にキッチン大掃除だ。23時過ぎにダウンし、気がつくと4時、友人のカメラマンO氏とデザイナーN氏が残ってくれていたので、水を飲みながら話す。2人を見送ると時事放談だ。
洗濯機だけ回して二度寝。酒は残っていないが、だるい。午後になってもボーっとしたまま、何とか外出だ。顔を出すと安請け合いしていた3件のうち、2件は不義理をする。
昨晩、高校時代の友人のご尊父の訃報が届いていた。。月曜の告別式に参列させて貰うつもりだったがスケジュール微妙で、急遽高幡不動まで通夜に行くことに。全身ほぼ黒だが、普段通りの平服。いい年して少し恥ずかしい(苦笑)。親の世代の訃報は珍しくない50代、親不孝総領息子を来年こそ脱出しないとなあ、我が身の情けなさが身にしみる。さあ、直ぐに12月だ!!
貴田庄著「原節子 あるがままに生きて」読了。小津安二郎「麦秋」と「秋日和」の中でのビール飲み干す原節子と言う記述を読み、そのシズル感にインド料理のつもりがビールで頭いっぱいに。西荻でビールと言うと何故か、生ビールの無い博華で餃子とサッポロ黒ビール大瓶なんだなあ。
博華で龍馬伝最終回の音声を聞きながら、赤瀬川原平著「老人力」話題になった1998年は今読むものじゃないと思っていたが、52歳の今は噛締めて読める、読める。
自家製ピクルスと、牡蛎のニンニクオリーブオイル漬け、冷蔵庫に入れっぱなしで、出すのを忘れていた。あー。更に美人画家に料理を手伝ってもらいながら、部屋の掃除はともかく、キッチンと冷蔵庫庫内の汚れ半端なく、女子に見られて恥ずかしい。電力ストップ以来手付かずの冷凍庫含め、早急にキッチン大掃除だ。23時過ぎにダウンし、気がつくと4時、友人のカメラマンO氏とデザイナーN氏が残ってくれていたので、水を飲みながら話す。2人を見送ると時事放談だ。
洗濯機だけ回して二度寝。酒は残っていないが、だるい。午後になってもボーっとしたまま、何とか外出だ。顔を出すと安請け合いしていた3件のうち、2件は不義理をする。
昨晩、高校時代の友人のご尊父の訃報が届いていた。。月曜の告別式に参列させて貰うつもりだったがスケジュール微妙で、急遽高幡不動まで通夜に行くことに。全身ほぼ黒だが、普段通りの平服。いい年して少し恥ずかしい(苦笑)。親の世代の訃報は珍しくない50代、親不孝総領息子を来年こそ脱出しないとなあ、我が身の情けなさが身にしみる。さあ、直ぐに12月だ!!
貴田庄著「原節子 あるがままに生きて」読了。小津安二郎「麦秋」と「秋日和」の中でのビール飲み干す原節子と言う記述を読み、そのシズル感にインド料理のつもりがビールで頭いっぱいに。西荻でビールと言うと何故か、生ビールの無い博華で餃子とサッポロ黒ビール大瓶なんだなあ。
博華で龍馬伝最終回の音声を聞きながら、赤瀬川原平著「老人力」話題になった1998年は今読むものじゃないと思っていたが、52歳の今は噛締めて読める、読める。
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