午後大手町で糖尿病経過観察。2食抜いていると、目が回るなあ。
神保町に出て遅昼飯を、いもやで天丼食べ、10代からだと思うと35年以上か・・・。天麩羅、天婦羅というより天ぷら、キッチン南海と双璧の膨満メシ。食べログ見たら、どっちも沢山のグルメコメント出ていてびっくり、絶賛するも貶すもそういう店じゃないだろ(笑)。とっても貴重な食い物屋なことは間違いないんだが、若松孝二を巨匠監督というくらいのチンさむだ。
神保町シアターで、小津安二郎の世界。
47年松竹大船小津安二郎監督『長屋紳士録(148)』
戦後間もない東京、長屋に街頭が灯っている。為吉(河村黎吉)が話している。「だから、月を見な。時には雲も懸かるだろ。先は先、今は今だ…。」「ただいま」下宿人の辻占いの田代(笠智衆)が帰って来る。「誰かいたのか?」「いいや」「話していたじゃないか」「いや、何でもない」田代後ろを振り返り「おいで」薄汚れた男の子が現れる。「何でい?」「この子供拾ってきてしまったと言うか、九段から付いて来てしまって、離れないんだ。茅ヶ崎から親と出て来たんだが、はぐれちまったようなんだ。泊めてやって貰えんかねえ」「やだよ。俺は子供は好きじゃないんだよ」「一晩でいいんだよ」「かあやんの所に押し付けちまいなよ」「うぅん、困ったなあ」
向かいのおたね(飯田蝶子)の金物屋に顔を出す田代。「今晩は。ねえおたねさん。子供いらんかね?これを拾ってきてしまったんだ」「えぇ?あたしゃ嫌だよ。子供嫌いなんだよ。田代さん冗談は止めとくれ!!」「一晩だけ頼むよ」とさっさと子供を置いて姿を消す田代。ポケットに手を入れたままの幸平(青木放屁)。「シッ!シッ!」猫を追い払うように手を振り、睨むたね。「めっ!」ペソをかく幸平。翌朝、敷き布団が干してある。俯く幸平を前に睨むたね「こらっ!」団扇を手渡し「扇いでよく乾かすんだよ」敷き布団には寝小便の後がある。為吉に文句を言うたね。「困っちゃったよ。とんでもないモンを押し付けられちゃったよ」「何だい?」「寝小便ですよ。大事な布団が台無しだよ。馬みたいに小便垂れ流し…どうしてくれるんだい!」「文句を言う相手が違うよ。しょうがねえもん拾ってきたもんだ、天眼鏡!」外では幸平が団扇を扇ぎ続けている。
為吉とおたね、染め屋の喜八【かいはちと皆呼んでいる】(坂本武)のところに行き、「困っちまったよ。子供預かってくれないかい」「うちも困ったもんだ。ガキはいるし、この家も狭いし。」「いや、狭いも何も、立派なお屋敷じゃないか。ニ人育てるのも三人育てるのも大して変わらないだろ」「茅ヶ崎から父親と出て来たと言うから、連れて行けば預けられるんじゃねえのか」「誰が連れて行くんだい?」為吉「くじで行こう?なあ、かい八さん。当たったら恨みっこなしだ。×をつけた紙縒を引いた人間が茅ヶ崎だぜ」為吉筆を取り紙縒を作る。引いた紙縒を開いたおたね「あたしが当たったよ。しょうがないね」おたねが出て行くと自分の紙縒を開いた喜八「あれ、俺のにも×がある」「俺のにもあるよ。慌てた奴が損をするんだ。かあやんには内緒だぜ」「勿論だ」
父親(小沢栄太郎)きく(吉川満子)ゆき子(三村秀子)とめ(高松栄子)しげ子(長船フジヨ)平ちゃん(河野祐一)おかみさん(谷よしの)写真師(殿山泰司)柏屋(西村青司)
36年松竹大船小津安二郎監督『一人息子(149)』
「人生の悲劇の第一幕は、親子になったことからはじまっている」侏儒の言葉
1923年信州。ランプ、柱時計が鳴る。街道を歩く、行商の娘(お茶売り?)。貼り紙「春繭 一貫目拾三円 (山に七の屋号)仁田」生糸工場 湯につけた繭から生糸を採る野々宮つね(飯田蝶子)の姿。
つねの家。釜にひよこが2羽いる。石臼をひくつね。息子の良助(葉山正雄)「ねえ、かあやん。今年、組から4人中学に行くんだ。先生がオラにもどうする?と聞いたんだ」「おめ何言っただ?」「言わんかった。銭ねえに決まってんだもん」「中学なんか行かなねえでいい。明日草餅こさえてやる」
「今晩は」おとないを告げる声がする。大久保先生(笠智衆)だ。「いつも良助がごヤッケエになっておりまして」頭を深く下げるつね。「良助くんはよく出来るので、僕は大変嬉しいです。今日学校で聞きましたが、良助くんを中学に行かせてくれるそうで、本当に喜んでいるんです。おっかさんも決心がつきましたか。これからは何をするにも学問無しではやっていけないです。やっぱり学問をするには、何でも東京です。こんな田舎ではどうしようもない。私も東京に行こうと思っているのです」呆然と聞くつね。大久保が帰ると我に返り、「良助!良助!」2Fの蚕棚からゆっくり降りてくる良助。つね、頬を打つ。「何で、嘘つくだ!!中学なんか行ける身分か!!生きて行くので精いっぱいでねえか」夫を亡くし、女親一人で良助を育てているのだ。
女工仲間のしげ(高松栄子)「大久保先生、辞めるんだってな。あの先生はゼッテー東京に行くと思っていただ。いつ行くだ?」「明日の上りだ」大久保先生バンザイという手作りの旗が家にある。意気消沈の良助。「おめえやっぱり中学校に行くだ。かあやんもユンベ一晩考えただ。他の子が中学校に行くのに、級長のおめえが行かねえなんて、かあやんも面白くねえだ」涙を流しながら息子の手をとるつね。「かあやんはどんなに苦労してもいい。東京に行って、偉い人になるだぞ」つねの決意を聞いて涙する良助「ねえ、かあやん。おら偉い人になる」
1935年信州。生糸場。つね、しげと話している「良助も東京で仕事すると言って来ただ。」「あんたも苦労のしがいもあったというもんだ」「春になったら東京に行ってこねばと思ってるだ。27にもなるし、そろそろ嫁のシンペエもせねばなられえから・・・」嬉しそうに話すつね。
1936年東京。蒸気機関車C51が駅に入って来る。都内を走る円タク。成人し背広姿の良助(日守新一)。「夜行じゃ大変だったでしょう。疲れたでしょう」「いや、親切な人が隣に座っていて、弁当を買ってくれたり、随分とありがたかっただ」「これが、隅田川永代橋ですよ。随分大きいでしょう」「でっけえ橋だなあ。」「本当によく出掛けて来ましたね」円タクが止まり、母を下し、風呂敷包みを手に、料金を払う良助。「ねえ、うちはこの原の向うなんです。ぶらぶら歩いて行きましょう。大変な家ですよ・・・。ねえ、かあさん。驚いちゃいけませんよ」「何がさ」「実は、女房をもらっちゃったんです」驚いて良助の後を歩くつね。ゴミゴミとした一角。洗われた糸の束が干してある。メリヤス工場だろうか、絶え間なく音が響いている。一件の平屋の戸に手をかけ「おっかさん。ここです。さあどうぞ」杉子(坪内良子)が出て来て小さな玄関に手をつく。「はじめまして」良助「杉子です」「よくいらっしゃいました」「お初めて。せがれがいろいろごやっけえ様になって」良助、つねを中に案内して「随分汚いでしょう。ねえ、おっかさん、ちょいと・・・」赤ん坊がスヤスヤと眠っている。「去年の暮れに産まれちゃったんですよ。おとっつぁんの名前から一字貰って義一とつけたんですよ」良助、杉子に「お金あるか?鳥を買って来いよ」杉子が出掛けると「洋食屋の娘なんですよ。学校行っていた時分に、下宿してたでしょ。近くの娘なんですよ」「市役所で働いていると聞いたけ」「市役所の方は、半年ばかり前に辞めちゃったんですよ」つねは驚くばかりだ。
夜学の教室。黒板には図形が書かれている。良助は夜学の教師をしているのだ。学生が手を上げる「先生。Fと?が同じという意味が分かりません」「この内円の三角形・・・・。分ったか?これがシルスンゼンの定理(正弦定理?)だ」頭を掻き着席する学生。教室を抜け職員室に行く良助「なごい!すまないけど10円貸してくれないか?」「10円持っていると思うか?」「じゃあ、5円でいいや。すまんなあ、すまん」年配の教員の松村(青野清)に向いて「ねえ、松村さん。済みませんが、5円貸して貰えませんか?」松村黙っている。「給料日には返します。利子を1割つけますので」松村財布から金を出す。結構持っているようだ。「急に、おふくろが出て来てしまったので・・」と言い訳をして、教室に戻る。
良助の家。つね「で、学校の方ではいくら貰っているんだい」杉子「ほんの僅かですの。でも何とかやっていけますわ」
帰宅した良助。「教師は勝手に休めないものですから・・・。おいお茶入れろよ」「大久保先生はどうしているかの」「明日訪ねてみましょう。先生も喜ぶと思いますよ」
翌日、とんかつという旗が風に揺れている。無精ひげで割烹着姿の大久保。良助とつねの姿を認めて「やあ、ご無沙汰しております。信州はどうですか・・・」・・・・・・・良助「今では戸隠山のほととぎすの声か聞けるんですから・・・」小学生の息子(爆弾小僧)が帰って来るなり泣きだす。「こいつが次男です」良助「二郎くん、二郎くん」小遣いを貰うなり泣きやんで出て行ってしまう。つね「おいくつ?」「六つです。なりばかり大きくていかんです」良助「先生、お忙しいんじゃありませんか?」大久保「東京に来てこんなことになろうとは思いませんでした。まあ、なるようにしかならんもんです」そこに、大久保の細君(浪花友子)が帰って来る。「愚妻です。こいつが四男です。結構なものをいただいたよ」「それは、ありがとうございます」「ああ、こないだ話した夜泣きのおまじないだがね」「これですか?」「そう、これを逆さまに貼るんじゃよ」
映画館に良助とつねの姿がある。「これがトーキーというものですよ」スクリーンでは、「未完成交響楽」(33年独・墺)が上映されている。居眠りし、小さな鼾をかくつね。その姿を見て微笑む良助。
良助と杉子の会話「お隣が騒がしくて、お母さん休めるかしら」「しょうがないよ。これで3円安いんだから。明日からどうしよう。借りたお金もあらかた使ってしまったし・・・」そこに銭湯からつねが戻って来る。「どうでした?混んでいましたか?」「いえ、いい湯だったよ」良助「肩をお揉みしましょう」お茶を運んできた杉子「お疲れじゃありませんか」「いや、楽しかった。浅草から上野に廻って、九段でお参りも出来て」「お袋は、雷門の提灯が大木のでびっくりしたんだ」「そりゃあ大きいもんで驚いただ」チャルメラの音がする。「おかあさん。支那そばを食べませんか。珍しいもんですよ」良助ゲタを履いて外に出る。代りにつねの肩を揉む杉子。良助、屋台の若者に「ラーメン3つ。チャーシュー沢山入れろよ!」そのまま、窓の開いた隣家を覗く。「富坊勉強してるか」おたか(吉川満子)が女手一つで富坊(突貫小僧)君子(小島和子)を育てている。「お母さんいらしているんでしょ」「ええ、急に出て来てしまって・・・」その時屋台の男から声がかかり「じゃあまた!」ラーメン鉢を三つ持って家に入る良助。つね、杉子とラーメンを食べる。「どうです。なかなかのものでしょう。つゆがまたいけるんですよ」
翌日、近所の原っぱで、つねが孫をあやしている。そこに富坊が来る「おばあちゃん、信州から来たって本当?」「ホントだ」「信州の県庁所在地は長野。僕は全部言えるんだ」得意に関東の県名と県庁所在地を言い始めるが、直ぐにわからなくなる。「信州の名産は生糸」頷いて微笑むつね。「富ちゃん!富ちゃん!!」おたかが呼んでいる。鍋を手にしているのを見て「また、豆腐買いに行かされるんだ」家の中、「ねえ、お母さんをどこかに連れて行って差し上げて下さいまし。孫の子守りでは申し訳ないわ」といって金はない。原っぱを歩く良助とつね。何本も煙突が建っている。「あれが東京一のゴミ焼却場ですよ。東京はゴミの量だって半端じゃない。」近くに腰を下ろす2人。「ねえ、おっかさん。僕何になっていると思いましたか?がっかりしてるんじゃありませんか。僕も時々、東京に出てこなければよかったと思うことがあるんです」少し置いて「おめえはこれからだと、ワシは思っているだ」「僕もそう思っていますよ。でも、小さい双六の上がりなんじゃないかと思う時もあるんです」「おめえ、そんなのんきなこと言っちゃ困るじゃないか」「僕は、おっかさんと田舎で暮らしていたかった。そりゃあ、僕も立派な人になろうとしたんです。でも夜学の先生にしかなれなかった」「東京は人が多すぎるんです。「かあちゃんにしてみりゃ、お前にそうあっさり諦めてもらいたくねえだよ」余りに情けない息子の言葉にショックを受けるつね。
夜、眠れずにつねは火鉢の火種を掘り起こし手を当てていると、良助が目を覚ます。「おっかさん、どうしたんだい」「ん、ちょっと寝付かれないだ」「大層遅いよ。もう寝よう」「ひょっとして、おっかさんは、僕のことで眠れなくなってしまったのかい」「おめえの立身出世を楽しみに、苦労してきたが、そんなことは何の苦労ではねえ。もうお父っつあんが残してくれた家屋敷も桑畑も売って、生糸工場の長屋に住まわしてもらって掃除婦をしているだ。おめはまだ若い」
近所の子供(加藤清一)
うーむ。我が身を重ねキツい映画だなあ(苦笑)。
2010年11月29日月曜日
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