2009年12月12日土曜日

中川信夫vs家城巳代治

   神保町シアターで、目力対決 田宮二郎と天知茂
    59年新東宝中川信夫監督『東海道四谷怪談(696)』 
   浄瑠璃、舞台上には、黒子が、蝋燭を灯した竿を揺らし、人魂を飛ばしている。

  備前岡山、夜道を歩いてくる二人の武士四谷左門(浅野進次郎)佐藤彦兵衛(芝田新)と提灯を掲げ先導する小者、直助(江見俊太郎)。「寒いのう、大寒を明けたというのに…。」行く手に手を付き頭を下げる浪人者(天知茂)。「ご息女おいわさまとの祝言のお願いにあがりました。」「民谷伊右衛門か…。いわとの祝言など、浪人風情のお前に認める訳がない。」左門だけでなく彦兵衛も、乞食侍、追い剥ぎ、野良猫、泥棒と酷い言いようだ。「武士にあまりの屈辱」といきり立つ伊右衛門に、「浪人風情が!!」と尚も罵る二人に思わず、抜刀し、切りかかる伊右衛門。恋しいおいわの父親左門、彦兵衛の二人を斬ってしまい呆然と立つ伊右衛門に直助が「あっしに任せてくれれば、悪いようにはしませんぜ」と囁く。
    四谷左門の位牌の前に、悲嘆にくれる、お岩(若杉嘉津子)とお袖(花沢典子)、美しい姉妹の姿がある。そこに、お袖の許婚で、彦兵衛の息子、佐藤与茂七(中村竜三郎)がやってくる。お岩「父上たちを殺したのは、顔に傷があることを直助が目撃したので、金藏破りに失敗した小沢宇三郎だと分かりました。伊右衛門さまも助太刀をして下さると仰って下さいました。与茂七さまもご一緒して下さいますか」「勿論父上とお袖さまの父上さまの仇です。」
直助を含めた五人での仇討ちの旅、半年が過ぎ、お岩は疲れ遅れがちである。直助は、伊右衛門に耳打ちする「そろそろ半年、早く与茂七をやってしまわないと面倒なことになりやすぜ
」「分かっておる」「裏切るつもりじゃないでしょうね。そんなことしたら、全部バラしますよ」曾我兄弟が仇討ち成就をきがん

「伊右衛門さま、お止め下さい。蛇は神様の使いと言いますし、私は巳年生まれです。」おいわが必死で止めても、蛇相手に刀を振り回す伊右衛門。
本所蛇山町の瑞祥寺

   やっぱり本当に傑作だ。キワモノでも何でもなく、日本映画史に残る作品。

   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
   57年独立映画家城巳代治監督『異母兄弟(697)』
   騎上の陸軍大尉鬼頭範太郎(三國連太郎)がやってくる。3人の歩兵が敬礼をし、満足そうに頷く鬼頭。大きな屋敷の前に馬を止める。下男の太田(島田屯)が慌てて駆け寄り手綱を取るが、殴りつけ「鞍擦れしとるではないか!!」と叱責をし、屋敷に入る範太郎。玄関前に、「お帰りなさいませ」と、婆や(飯田蝶子)が椅子を持って駆け寄り座らせ長靴を脱がせ、「相模屋さんが、新しい女中を連れてきています。」と告げる。玄関には、鬼頭の幼い二人の息子がやってきて、正座をし「お帰りなさいませ」と声を合わせお辞儀をする。
    客間には、相模屋(富田仲次郎)が利江(田中絹代)を連れてきていた。「この娘の父親は、大酒飲みの馬車引きで、わしら運送屋には鼻つまみ者だったが、先日亡くなった。この娘は苦労したから、よく働くし、辛抱強いので、先の女中みたいなことはないですよ…。ほれ挨拶をしろ」「利江でございます。」「うちは代々、藩の剣術指南役を勤め、百五十石を賜っていたので礼儀作法には厳しいのだ。」「では、家内に紹介しよう。」離れた和室に、鬼頭の妻のつた(豊島八重子)は寝付いていた。範太郎の惣領一郎司(浪江孝次)剛二郎(春日井宏往)を紹介する範太郎。
   ある雨の夜、範太郎は鬱々とした表情で、一人杯を傾けている。台所で婆やのマス「旦那さまは、奥様が?年も寝込んでいるのに、外に女ひとつお作りにならない、立派な方だ。」下男の太田は「まあ、したくても、奥様は連隊長のお嬢さんだで…」と笑う。奥から「酒!!」と声が掛かり、利江は酒を運ぶ。範太郎は、馬車引きの娘なら馬の扱い位出来るだろうと鞍擦れの手当てをするように命ずる。雨が降り続き湿気が多いせいか、妻の寝室から、咳が止まらない。範太郎の表情は一層曇る。利江は馬小屋で、馬相手に久し振りに明るい表情を見せていた。範太郎が現れる。「鞍擦れの手当ては済みました」無言で近寄る範太郎。突然利江を抱き締める。利江は驚き抵抗するが、大きく力の強い範太郎に、乾し草の上に投げ出され…。
    相模が来ている。「旦那さま、どうなさいますんで…。」範太郎が利江を睨む「お前が教えたんだな…。」「いや、もっと早く分かっていれば、堕ろせたんですが…」「どうしろと言うのだ」「こちらが伺いたいんです。もう少しすれば、お腹も目立って、噂になります…。」「…」「どっちかですよ。妻になさるか」「馬鹿を言え!!誰が馬車引きの娘と、」「では、宿下がりさせていただいて、どこかで産ませます…」「そうしてくれ」「その場合は、少しまとまったものを頂戴しないと…。」

年内最後の授業

   阿佐ヶ谷ラピュタで、昭和の銀幕に輝くヒロイン[第50弾]叶順子
   60年大映東京木村恵吾監督『痴人の愛(694)』
   熱海の旅館相模屋、波川(多々良純)村上(早川雄三)高田(本郷秀雄)橋本(河原侃二)佐藤(守田学)らが麻雀をしながら話している。「専務はご機嫌だな。」専務の吉岡(三国一朗)は、芸者相手に自慢の小唄を唸っている。「そりゃそうだ。テレビが売れて大儲け。俺たちは、こんな会でお茶を濁されて・・・。」

河合譲治(船越英二)ナオミ(叶順子)杉本忠雄(菅井一郎)看護婦の山田千恵子(岩崎加根子)女中おため(小笠原まり子)
熊谷正雄(田宮二郎)浜田裕太郎(川崎敬三)関口竜三(石井竜一)中村三郎(大川修)
由紀子(紺野ユカ)牧子(柏木優子)るみ子(三木裕子)正子(春川ますみ)
春子(江波杏子)綾子(美山かほる)芳江(愛川まゆみ)亜矢子(角梨枝子)
ぽん太(有明マスミ)芳丸(磯奈美枝)君江(村井千恵子)

  学校、年内最後の授業。

  神保町シアターで、目力対決 田宮二郎と天知茂
  68年大映東京今井正監督『不信のとき(695)』
 

2009年12月10日木曜日

博華で餃子とビールで忘年会

   池袋新文芸坐で、映画ファンが考えた2本立て
   55年東宝成瀬巳喜男監督『浮雲(691)』
   引揚船が着き、降りてくる引揚者の中に幸田ゆき子(高峰秀子)の姿がある。
ゆき子が、家を探しながら歩いている。一軒の家の前に立ち止まる。表札には富岡兼吾と書かれている。「ごめんください」と繰り返すと、老女(木村貞子)が現れる。「富岡さんのお宅ですか」と尋ねると、奥に引き込み、代わりに妻らしい女(中北千枝子)が顔を出した。「どちら様ですか」「幸田と申します。」不審そうに見る細君の邦子。「農林省から来ました」「農林省?」「農林省から使いで来ました。」「ああお使いで…」ようやく得心した様子で、夫を呼びに下がった。
   富岡(森雅之)が顔を出し、家の外に出て来た。歩き出し、空き地に入り、「元気かね。復員者には、内地は寒いだろう。」「電報は着いたの」「ああ、どうせ東京に出て来ると思った」「戻って、役所は辞めてどうしているの?」「官吏暮らしに嫌気がさしてね。木材の方を業者とやっている。、君はどこにいるの?」「鷺ノ宮の親類のウチに行ってみたら、まだ復員していなくて、荷物だけが着いていたわ。」「支度をしてくるので、どこか行こう。」
  大きな洋館、階段を白いサマードレスで降りてくるゆき子。ここは仏印のダラット、農林省の出張所、所長の牧田(村上冬樹)が声を掛ける。「幸田さん、こっちいらっしゃい。日本から道中長いので疲れたでしょう。こちらは3月にボルネオから赴任した富岡くん。こちらは、タイピストとして着任した…。」「幸田ゆき子です。」富岡は、全く愛想が悪かった。「こうみえても、富岡さんはきっちりしていて、三日に一度は妻に手紙を送る愛妻家です。」と加野事務官(金子信雄)。
  着替えをした富岡がやって来る。復興マーケットと看板が掛かる闇市を歩く二人。連れ込み旅館に入っていく富岡。少し置いて、入るゆき子。「内地も変わったわね。こんなに変わっているとは思わなかったわ」「敗戦したんたがら、何でも変わるさ。」「男はいいわ」「呑気だよ、女は」

  再び仏印、ゆき子の歓迎会らしい。「幸田くんは千葉かい?」「いいえ、東京じゃないの?千葉型かと思ったよ」「東京ですわ」「であれば、葛飾あたりかな」「富岡さんは毒舌家だから、気にしない方がいいですよ」と加野がフォローするが、「いくつ?」「いくつでもいいわ」「24、25かな」「私22です」「年齢を上に見ると貶していると言うのは間違いだよ。仏印のダラットまで来た幸田女史に乾杯しよう。」あまりの言い方に席を立つゆき子。加野が「気にして、行ってしまいましたよ」と咎めると、「若い女が、こんな所に来るのは、好かないねえ」と尚もゆき子に聞こえるように言う富岡。
  翌日、ゆき子が、富岡に声を掛ける「私は今日何をしたらいいでしょう」「所長は言って行かなかったの?」「何もおっしゃいませんでした」「加野は?」「あの方はまだ寝ていらっしゃいますわ、私は何をしたらいいんでしょう」「この先に安何王の墓があるんですが、見物でもしたらどうです」と

 安南人の女中(森啓子)伊庭杉夫(山形勲)ジョオ(ロイ・H・ジェームス)向井清吉(加東大介)おせい(岡田茉莉子)おしげ(中野俊子)アヤ(木匠マユリ)田村事務官(堤康久)登戸事務官(鉄一郎)のぶ(千石規子)

   56年日活川島雄三監督『洲崎パラダイス 赤信号(692)』

   夜の街、男たちを誘う女の嬌声が響いている。しんせいを買い、道を渡り、橋の欄干に佇んでいる男に渡す。二人の所持金は60円しか残っていない。
   蔦枝(新珠三千代)と義治(三橋達也)は、隅田川にかかる勝鬨橋の上で、行く宛もなく途方にくれていた。義治は、どうする?どこに行く?と蔦枝に聞くばかりで全く情けない。あまりの甲斐性のなさと優柔不断さに蔦枝は、そこに来たバスに飛び乗る。勿論義治は後を着いて来るだけだ。
   結局、洲崎弁天町の停留所で下車する蔦枝。慌ててついてきた義治は尋ねる「こんなところに降りてどうする?」「どうする、どうするって、何度同じことを聞くのよ。あんたこそ、ここがどんなところか知ってるでしょう。昼から何も食べていなかったわね」歓楽街を結ぶ橋の手前にある小料理屋千草に入る。ビールを頼む蔦枝。「私たち、この川の手前にいるのね。やっぱりここに来たわ・・・。」
  「女中さん入用」の貼り紙を見て、人の良さそうな女将お徳(轟夕起子)に無理矢理頼んで居着くのだ。義治は元倉庫の伝票付け、蔦枝は、どうも洲崎の遊郭にいたらしい。いきなり洲崎に時化込もうとしていたラジオ屋の落合(河津清三郎)に取り入る。
  翌日お徳は義治に、蕎麦屋だまされ屋の住み込みで出前持ちの仕事を紹介する。騙されてもともとと食べて貰う味自慢の蕎麦屋には、他に珍妙な出前持ち(小沢昭一)と看板娘玉子(芦川いずみ)がいる。義治は、全くやる気がなくぼーっとしている。お徳は、4年近く前に若い女郎と家出したきり帰って来ない夫を待ちながら2人の子供を育てている。亭主の戻りの願掛けで禁酒をし、弁天さまに毎日手を合わせている。
   洲崎に住んで3日目に、蔦枝は、義治に田舎に送るを蕎麦屋から前借り出来ないかと言いだす。勿論そんな金はない。義治は蕎麦屋のから、現金を盗む。千草に行ってみると、既に蔦枝は落合と鮨屋に出掛けたばかりだった。雨でずぶ濡れになりながら、義治は蔦枝の姿を探す。結局見つからず、店に戻った義治に、玉子はお金をそっと戻す。翌朝、蔦枝はきれいな着物を着て帰宅。数日後、落合が探してくれたアパートに引っ越していった。
   義治は、お徳から聞いた神田のラジオ屋の落合ということだけを頼りに、当てもなく探し歩く。神田のラジオ屋は何十軒、何百軒あるのだ。炎天下の中ようやく見つけた落合のスクーターを走って追いかけるが、気を失う。倒れた義治を介抱してくれたのは、道路工事の日雇い人夫たちだ。「あんた腹が減っているんだろう」とくれた半分のおにぎりを食べる義治。結局、義次は、洲崎に戻ってきた。お徳とたまの心からの説得で、義次は、蔦枝への思いを封印して、出前持ちの仕事に専念、表情にも明るさが戻った。戻ったといえば、お徳の夫がふらりと帰って来た。
   千草のまわりに平穏が戻ったが、長くは続かない。蔦枝がひょっこり洲崎に現れる。落合によって安定した生活を得たが、何か物足りなく、落合が仙台に仕事で出かけた義次に会いに来たのだ。この機会に別れろというお徳の説得は通じず、蕎麦屋に行く蔦枝。お茶を出す玉子に、何か自分にないものを感じて苛立つ蔦枝。15分ほど待って出て行ったため、義次とはすれ違いに。その晩、お徳の夫が、女に刺殺された。お徳は愕然として、崩れおちる。付き添って交番に行った義次は蔦枝と再会する。その翌日義次と蔦枝の姿は、洲崎から消えていた。栄代橋の上で思案にくれる二人の姿があった。「今度は、あんたが決めなさいよ。私がついて行くから。」「本当だな。」発車しようとしていたバスに駈け出す義治、後を追う蔦枝。

   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
   55年東京映画久松静児監督『渡り鳥いつ帰る(693)』

    隅田川、艀が行く。鳩の街とアーチが架かっている。昭和29年頃。赤線街の朝、泊まり客が帰り、見送る娼婦たち。花売りの老人(左卜全)が車を引いて来る。サロン藤村、女将のおしげ(田中絹代)が玄関を掃除している。花売り、如何でしょうと声を掛ける。店の花は替えたばかりだとおしげ、「女の子の部屋は?」「ウチの子たちは、まだ寝ているよ」「」

吉田伝吉(森繁久彌)おしげ(田中絹代)大石種子(桂木洋子)民江(久慈あさみ)栄子(淡路恵子)寺田(加藤春哉)佐藤由造(織田政雄)千代子(水戸光子)トヨ子(勝又恵子)街子(高峰秀子)組合長(深見泰三)ゴンドラの女主人おはま(月野道代)鈴代(岡田茉莉子)照子(二木てるみ)田部和市(富田仲次郎)まさ(浦辺粂子)松田(春日俊二)村井(太刀川洋一)武田(植村謙二郎)客の男(中村是好)(藤原釜足)

   いやあ、日本映画の最高だった時代の3本に唸る。いい台本、いい監督、いい役者、三拍子揃ったものを観ていると、正直、今のテレビドラマ見れない。

   元会社の同僚たちと、博華で餃子とビールで忘年会。

2009年12月9日水曜日

渋谷で餃子200円。

   天気も悪く、気分も上がらないので、午前中は本を読みながら二度寝(苦笑)。
   早めの昼を食べ、学校へ。年内の授業も、今日と明後日で自分は終わりだ。一年のイベント実習、出演交渉、完全に遅れている。学生に任せておいて大丈夫だろうか。かなりの不安がよぎる(笑)。まあ、しょうがないか(笑)
   夜は、N氏と飯、色々仕事の話をするつもりが、二人とも飲み食い過ぎて、ダウン。昼間自分が参加出来なかった打合せが盛り上がった話を聞くだけで、酔いは150%アップ。

2009年12月8日火曜日

瀬戸の花嫁。

   午前中は、赤坂のメンタルクリニック。

   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
   54年大映京都溝口健二監督『噂の女(688)』
    京都の島原遊廓、老舗の置屋(茶屋でもあるようだ)、井筒屋の前にタクシーが停まる。降りてきたのは、女将の馬渕初子(田中絹代)と一人娘の雪子(久我美子)。雪子は、東京の音楽学校でピアノの勉強に行っていたが、男に捨てられ自殺未遂を図ったのだ。初子は、入り口で動かない雪子に、「なんや、上がらんかいな。自分ちやないか」お咲(浪花千栄子)は「お嬢はん、お帰りやす。」初子はお春(小林加奈枝)に「的場せんせ呼んで来てんか。あてが東京から帰ったと必ず言うんやで」診療所の青年医師的場を呼びにやらせた。
   女郎たちの部屋、「お嬢はんモダンでキレイやなあ」「そりゃ、そうやろ、音楽学校行ってるゆうし、」相生大夫(阿井三千子)「あてらが働いたお金で行っとんのやで…。」
薄雲太夫(橘公子)「田舎に帰ってみたいなあ、麦が実って、雲雀が啼いて…。妹、どないしとるやろな…。」
    的場謙三(大谷友右衛門)がやって来る。「どうでした?」「それがな…。やっぱり自殺しかけたんやで…。男に失恋したんや。そやそや、これこれ、お土産どすね。」ネクタイピンを箱から出し、的場のネクタイに付ける初子。「いやあ、雪子のことで肩が凝って…。ここ揉んでくれんか…。あー気持ちい。あの子ちょっと見たってんか?でも、勘の鋭い子やし、あてらの事気いつけてや。」

    池袋新文芸坐で、映画ファンが考えた2本立て
    54年松竹大船木下恵介監督『二十四の瞳(689)』
    瀬戸内海で、淡路島に次いで二番目に大きな島小豆島。~石切場、お遍路など~十年ひと昔と言うけれど、この物語の始まりは、ふた昔も前の話です。ここでは、四年生までが岬の分教場、五年生になって初めて、片道5キロの道を歩いて本校に通うことになるのです。
    昭和3年4月4日。五年生たちが、村の鍛冶屋を歌いながら歩いている。突然、おなごせんせ~い!!と呼んで走り出す。小林先生(高橋とよ)は結婚のため退職するのだ。「岬ともお別れ、あなたたちともお別れ。でも、あなたたちは、今日から本校に行くからいいじゃないの」「新しいおなご先生はいい先生?」「いい先生よ。大石先生と言うとってもいい先生よ。」「大きいのかい?」「いや、この間、本校でお会いしたけれど、私の肩位よ。私は小林でも大きいでしょ。」「大石じゃなくて、小石先生だ。」「あんたたち、私の時みたいに泣かそうと思ったで駄目よ。騒いでいても山から降りてきた猿か鳥だと思いなさいって言ったから、さあ学校に遅れるから、急いで!!さようなら!!」「いい嫁さんになれよ~。」
   子供たちが走っていると、自転車に乗った大石久子(高峰秀子)がベルを鳴らし、おはよう~と声を掛け追い抜いて行く。「おなごのくせに自転車に乗っとる。」「ごっついモダンガールやな」「ちょっとちょっと洋服着てた。」洋装で、自転車に乗り「おはようございます」と声を掛け走り抜ける新しいおなご先生は、岬の住人たちを驚かしたようだ。
    大石の自転車に集まる子供たちに、大石が職員室の窓から「みんな、そんなに自転車が珍しいの?乗せてあげようか?」と声を掛けると蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。分教場の男先生(笠智衆)に、「あたしの家は、あの煙突の近くなんです。自転車で50分掛かるのに、あんなに近く見えるんですよ」と気安く声を掛けると、?は、始業式の支度をしないといかんと独り言を言って、併設の官舎に行き水を飲む。妻(浦辺粂子)に「ああ困った。どうも女子高等師範を出たバリバリの先生は、イモ女を出た先生とは勝手が違うわ。」と愚痴る。

   小学生時分に、学校推奨映画として見たんだろう。ひねくれたガキにこんな長い映画落ち着いて鑑賞しろと言われても無理と言うものだ。更に、第1回文部省推奨映画と言うだけで、強い拒否反応だ。しかし、ようやく、しみじみとこの映画の良さを味わうことができた。50を過ぎて、やっと大人になりかけた哀しい自分。木下恵介と高峰秀子の凄さは、やっと判り始めたんだなあ(苦笑)。

   60年近代映画協会新藤兼人監督『裸の島(690)』
   瀬戸内海にある島々。段々畑が覆い尽くしている。
   ……耕して天に至る。……乾いた土。……限られた土地…「裸の島」……
   凪の海を漕いでくる小舟。櫓を漕ぐのは男(殿山泰司)、女(乙羽信子)も乗っている。薄暗い。舟をモやって、二人共、天秤棒に桶を下げ、陸に上がる。田圃の用水路から水を汲み上げ、舟に戻る。遠くで鶏が啼いている。帰りは女が漕いでいる。日が昇ってくる。進む先には、小さな島がある。岩だらけで、切り立っている。小さな男の子が二人走り回っている。木を集め釜を炊き、木の葉を山羊に与え、家鴨に餌をやる。両親の舟が見えたので、食事の支度を大急ぎで始める。
   夫婦は、水桶を担いで陸に上がる。天秤棒が撓り肩に食い込む。足元が悪く急な斜面を一歩一歩確かめるように登って行く。一旦家の前に起き、女は水瓶に水を移し、家族は質素な食事を取る。食器を片付けをするのももどかしく、上の子供はランドセルを背負い、舟への斜面を駆け降りる。妻は、空の水桶を下げて舟に戻り、漕ぎ始める。大きな島の小学校に子供を送り、自分は再び水を汲みに行くのだ。その頃、すでに夫は、島の天辺にあるさつま芋畑に、大事そうに一杯一杯水を撒く。乾いた土に、水は瞬く間に吸い込まれていく。夫婦の毎日は、大きな島に水を汲みに行き、小さな島の斜面を重い天秤棒を担いで登り、水を撒く。ひたすらこの気が遠くなるような繰り返しだ。

  これも海外の映画祭で賞を取った名作だと言って、見せられても、ガキには分からない。しかし、言葉さえ必要ない毎日の繰り返しが生活であること、40年振りに見ると味わい深いんだなあ。

2009年12月7日月曜日

目力対決なら、勝新太郎。

   神保町シアターで、目力対決 田宮二郎と天知茂

   63年大映東京井上梅次監督『わたしを深く埋めて(683)』
   夜の銀座を走るタクシー。客席の男(田宮二郎)が、窓の外を嬉しそうに眺めるので、運転手(小山内淳)が「お客さんは、どちらからいらしたんですか?」「いや、東京だけど」「あまりに嬉しそうに窓の外をご覧になっているので」「九州に出張していたんだけど、あまりに寂しくて、半月の予定を一週間で帰ってきてしまったんだ。」「そういうもんですかね。わたしだったら、温泉にでも行けたら、一月でも二月でものんびりしていますがね。」「いや、僕は駄目なんだ。東京で何かあったかい?」「株が暴落して、首括ったり大変な騒ぎですよ。」
   タクシーの男がマンションの自分の部屋に戻って来る。何故かドアの鍵が開いている。不思議に思い中に入る。ソファーの陰から女の足が出る。裏を覗くと、黒いスリップ姿の女(浜田ゆう子)がブランデーを飲んでいる。
  「誰?おいおい、何だい、君は?」「あら、お帰りなさい、遅かったわね」「早かったんだけとね。何か間違えていないかい?」「中部さんでしょ?名前だけで、何をしている人かは知らないけど…。」「僕は弁護士だ。」「今夜は安心して、このミッチーに任せてよ。」訳知りな顔の女だが中部には全く心当たりはない。女は寝室へと誘う。いい香りだと言うと、彼女はディザスター災難と言う名の香水だと答えた。
キスをされたところにドアが開き、管理人が入ってきて失礼しましたと出て行った。ハンドバッグの中に、ここの住所を書いたメモが入っていたので、中部は、友人の芥川のたちの悪い悪戯だと思った。女は、ブランデーを飲もうとしきりと誘うが、中部は「僕はブランデーは嫌いだ」と答える。飲み過ぎたのか、女はベッドで鼾をかきながら眠ってしまう。中部はハイヤーを呼ぶ。するとドアのブザーが鳴る。外にはカメラマンを連れた男が立っていて、さあスキャンダラスな写真を撮りましょうと言う。とにかく帰ってくれと言って追い返し、やってきたハイヤーの運転手に寝てしまった女を適当に載せて、下ろしてくれと金を渡す。部屋に帰ると、突然男がやって来て、ミッチーをどこに隠した?と言う。部屋を探しまくり、ソファーに女の香水の残り香を見つけ、嘘を言ったら許さないぞと捨て台詞を吐いて帰って行く。何が何だかわからない騒ぎが落着した中部は、シャワーを浴び、睡眠薬を飲んで眠った。

    66年大映東京田中徳三監督『脂のしたたり(684)』
   兜町、八代線証券の調査役仲田浩(田宮二郎)が社に戻ってくると、課長の池内(小山内淳)が、「仲田くん、どこへ行っていた?」「繊維関係回っていました。」「君は調査役だから、外出してもらって構わんが、行き先は黒板に書いておいてくれたまえ。」何か機嫌が悪いのか嫌みを言う。若手社員の?が、「ちょっと情報があるんです。明昭工機を、難波証券が一万株づつ2回買いを出しているんです。」「農機具の地味な会社だよな。」
そこに、黒い服にサングラス姿の女(冨士真奈美)がやってくる。「あの女、仲田さんが化学株回してやった客じゃないですか」「あの女は、名和雪子と言う名前以外、住所も何も明かせないと言うんだよ。」仲田が相手をしようとすると、池内がすかさず「こちらにどうぞ」と案内する。「仲田さん。上客は課長が全部独り占めですね」と苦笑する?。しかし、名和雪子は、出来るだけ沢山明昭工機株を買いたいと言いながら、身分は明かせないとの一点張りだ。
仲田は、雪子の跡をつけ、高級外車に乗り込む直前に声を掛けるが、つれない返事だ。仲田は、直接、明昭工機の株式課に伊勢課長(春本泰男)を訪ねる。カマを賭ける仲田に、業績は相変わらず冴えないままだと言う。しかし、「買占めをしている妙なニュースがある」と言うと伊勢は仲田をお茶に誘った。しかし、世間話に終始する伊勢。来客がと言って席を外した伊勢は、蛇のような男(成田三樹夫)にペコペコ頭を下げている。
  仲田が会社に戻ると、後輩の?が難波が明昭30万株買ったという情報で2万7千株を押さえておいたと言う。仲田は、学生時代からの友人で資金運用を任されている野崎の口座で、3千株を追加して買ってくれと頼む。更に、明昭1万8千株の買いが入った。ニューパールホテルのロビーに株券を届けてくれとの依頼に、仲田は自ら向かった。そこには、蛇のような男がいた。仲田は名刺を渡し、情報を取ろうとしたが、全く相手にされない。しばらく張っていると、黒いドレスの女がやってきた。仲田はホテルのボーイに、「あそこの二人は泊り客か」と尋ねる。ボーイは断るが、金を渡すと「泊り客ではないが、男の方はよくこのロビーを使う」と答えた。また二人が来た時に連絡をくれれば、三千円を渡すと言って、札を握らせた。ホテルを出て、車に乗り込んだ男と女。「奥さん、まっすぐお屋敷にお帰りになりますか。」「桂、監視役も御苦労さまね。お前とは、昔どこかで会った気がするわ・・・。」
  桂が、クラブのマダム小倉敏子(久保菜穂子)に「今月も赤字だ。銀座で10年もやってきたというからマダムにしたのに、なんてザマだ。」「私だけのせいではありませんわ。」「男がいるそうだな。今あんたを世話しているのは、あんまり評判がいい男ではないらしい。」敏子が店に出ると、仲田と後輩の男がいる。ついているホステス(沖良美)が仲田を指し「こちらママの凄いファン」と言う。「めずらしいわね。」「すっかりママの貫録が着いたようだ。4年振りか・・・。」「何の用?」「風間に会わせてくれないか。一緒にいるんだろう。」「勝手に会えばいいじゃない。」「俺が会いたいと言っていたと伝えてくれ。情報屋風間銀介と仕事をしたいんだ。」と名刺を預ける。
  敏子が酔って帰ると、風間(鈴木瑞穂)が来ていた。「あらいらしてたの?めずらしいわね。」「酔っているな。」「(店の支配人の)桂って嫌なヤツ。」「君の店のオーナーは三国人だったな。」「李石尚という男だけど、全く顔を見せないの・・・。そういえば今日、仲田が来たわ。」「えっ、そうか君を束縛するつもりはない。」「いえ、そんなんじゃないわ、あなたと仕事をしたいって言っていたわ。」「今日は帰るから、ゆっくり休め。」「いえ、今日は泊って・・・。でないと私・・・。」
  とありホテルのレストランで、風間と仲田は再会する。二人は、明昭工機を狙っていることで一致し、手を組むことにする。仲田は金を手にするために、風間は情報屋としてのプライドを賭けて。風間は、李石尚や難波たちのグループは軍に関係した秘密組織に関わっていたらしい。大阪の滝沼一郎と言う男も仲間らしいので、探ってくれないかと仲田に頼む。
  羽田空港に李石尚(金子信雄)が帰国する。迎えの車を運転する桂三郎と話す李「今回の話は、香港の連中も大賛成だ。取引はうまくいった。ところで、株のことだが、難波と相談してやってくれ。」仲田は、大阪の滝沼不動産で、滝沼(守田学)に日東タイムスの名刺を出し、戦争中の秘密結社について取材をしていると告げた。「日東タイムスというと、営業部長は小松さんでしたね。」「ええ、そうです。」「ボロを出したな。この名刺は偽物だな。てめえは何者だ。」痛めつけられる仲田。

難波修(須賀不二男)

      61年大映京都田中徳三監督『悪名(685)』
      昭和初期、河内八尾中野村の農家の倅、朝吉(勝新太郎)は、隣村の高安から盗んできた軍鶏で闘鶏博打をやっていた。家に帰ると、父親に河内の百姓は軍鶏博打をして身を滅ぼす奴ばかりで、お前は勘当だと激怒され、高安まで返しに行く。妹の千代(中田康子)に念を押す朝吉。朝吉と幼馴染の辰吉(丸凡太)は若いエネルギーを持て余し、女が欲しいが、金などない。軍鶏で揉めた隣村高安の盆踊りに出掛ける。すると千代が誘ってくる。二人が深い仲になるのに時間はかからなかった。実は、千代は男の妹ではなく、妻だった。千代は、朝吉の子を妊娠したと告白し、噂になる前に駆け落ちしようと言う。
    二人は、有馬温泉に逃げ、千代は女中になった。間借りしている筆屋の主人(浅尾奥山)は、自分の妻もかって堂島の売れっ子芸者で、気の進まぬ旦那からの身請け話に、二人で駆け落ちをして、今ではこうなったが、まだ若いのだから故郷に戻ってやり直せと忠告する。お腹の子がなければという朝吉に、筆屋の妻(橘公子)は、とうに流れていると教えてくれた。そのことに納得いかない朝吉は、千代を置いて、有馬から大阪に戻る。
    しかし、大阪駅で、偶然お伊勢参りの帰りの幼なじみの辰吉らに再会する。彼らは、精進落としに松島の遊廓に遊びに行くところだと聞いて、同行する。店に上がり、琴糸(水谷良重)の哀しげな表情に惹かれる朝吉。福岡の炭坑町から売られてきたのだ。
   店では辰吉に付いた女郎白糸(若杉曜子)が、他の客と喧嘩になって大騒ぎが起こる。飛び出して行こうとする朝吉を止める琴糸。酒癖の悪い白糸は、仕舞いには地元のヤクザだと言う男の頭を瓶で殴りつけ気絶させる。翌朝、朝吉と琴糸の部屋に辰吉が現れ、昨夜の吉岡組の連中が待ち伏せしていると言う。朝吉は、全く動ぜず、吉岡組の連中の真ん中を歩いていく。吉岡組の貞吉(田宮二郎)が、モートルの貞と少しは知られた男だが、面子を潰されて黙っている訳にはいかないと襲いかかってくるが、朝吉は滅法強く、貞吉をのしてしまう。貞吉は、朝吉に惚れ込み兄貴分となってくれと言うが、ヤクザは嫌いだと相手にしない。そこに吉岡組の親分吉岡(山茶花究)がやって来て事務所に来てくれと言う。行く当てがなければ、客分として、この組にいてくれと言う。ヤクザは嫌いだと断っていたものの、貞吉が喧嘩の現場から逃げ出した弟分たちに折檻を加えるのを止めたことで、草鞋を脱ぐことに。
   ある日、女郎暮らしを嘆く琴糸に、一緒に逃げてやると約束をする。しかし、貞吉がそこに現れ、千日前の親分の出入りに加勢することになったので、助っ人に来てくれと言う。直ぐに着替えた朝吉は、吉岡組の前で、ダンブカーに乗り込む。すると朝吉を心配した琴糸が店を抜け出して来ていた。これでは足ぬけになってしまうが、吉岡の姉さん(倉田マユミ)に、とりあえず匿ってくれと預けて出入りに向かう朝吉。
    戻ってくると、遊廓を仕切る松嶋組に取り囲まれている。既に姉さんは、琴糸を隣家に逃がしていたが、松嶋組の兄貴分(須賀不二男)に凄まれて、吉岡はうちは全く関係ない、朝吉が戻り次第すぐに松嶋組に行かせると答える。吉岡のあまりの情けなさに、貞吉は盃を返して、朝吉と二人で、吉岡組を出る。琴糸は、隣家の母親が一緒に逃げた後だったが、隣家の娘、お絹(中村玉緒)とお照(藤原礼子)が気に入り、一緒に飯でも食わないかと誘う二人。今から、勤め先の千日前の肉屋“くいだおれ"に出なければ行けないと聞いて、四人で出かけることに。
  しかし、松嶋組の連中が待ち伏せしている。顔を貸せと言われ、一人空地についていく朝吉。ドスを手にしている兄貴分の男に、懐手で、銃を突き付ける朝吉。さすがにピストルにはビビる兄貴分。ピストルを捨てるので、ドスを捨て、手下を帰らせろと言う朝吉。迫力負けした男が言われた通りにすると、男のドスを拾い上げて脅す朝吉。勿論ピストルは嘘で、着物の下の人差し指という子供騙し、しかし、朝吉の度胸は、並の男には通じないのだ。
   くいだおれで、4人で食事するうちに、貞吉はお照が、朝吉はお絹に惚れ、宝塚温泉に。お絹は、一生の妻にするという一筆を入れさせて、惚れた男に女を捧げた。お絹とお照に一旦家に帰すが、なかなか戻ってこない。二人が戻ってきて、大坂では大変なことが起きているという。松嶋組は、吉岡を半死半生の目に合わせ、またせっかく逃げながら、琴糸は朝吉を心配して、大阪に様子を見に来て、松嶋組に捕まって、瀬戸内海の因島に売られてしまったと言う。朝吉は琴糸を助け出しに行くと決めたが、ある程度纏まった金を作っていかないといけないが、手持ちはない。
   思案の末、朝吉は、有馬温泉に行き、筆屋を訪ねる。まだ、千代はそこにいた。帰ってきてくれたんだといいながら、金を作りに来たと聞いて、私がなんとかしようと言う千代。千代は神戸で行われる大規模なボンの世話役をするので、自分が合図を出すので、儲ければよいと言うのだ。イカサマは嫌いな朝吉だったが、背に腹は代えられず、千代の言う通りにすることに。纏まった金を持って、朝吉と貞吉は、因島に乗り込んだ。思案の末、朝吉は、有馬温泉に行き、筆屋を訪ねる。まだ、千代はそこにいた。帰ってきてくれたんだといいながら、金を作りに来たと聞いて、私がなんとかしようと言う千代。千代は神戸で行われる大規模な花盆(?)の世話役をするので、自分が合図を出すので、儲ければよいと言うのだ。イカサマは嫌いな朝吉だったが、背に腹は代えられず、千代の言う通りにすることに。纏まった金を持って、朝吉と貞吉は、因島に乗り込んだ。
    土生の港に上がり、近くにいた男にいい旅館がないかと尋ねると、渡海屋がいいと言う。さっそく渡海屋の部屋に上がり、女中おしげ(阿井美千子)に声を掛ける。おしげは、身持ちも固く、遊ぶなら島内どこにもあるから行ってくればと言う。朝吉と貞吉は、遊廓を流して歩いた上、島からの脱出方法を考えるがよい知恵は浮かばない。宿に戻り、おしげの人柄を見込んで頭を下げ、女を助け出しに来たと告白する。遊廓を縄張りにするのはシルクハットの親分(永田靖)と呼ばれる男。島を脱出する船を頼める信頼おける人間として、おしげのおじである漁師(嵐三右ヱ門)を紹介してくれた。
   貞吉は、女郎屋の大和楼に、琴糸がいることを発見、琴糸には朝吉と二人で助けに乗り込んできたのだと伝え、琴糸を励ました。しかし、琴糸が、大和楼から外出出来るのは、明後日の縁日の日しかない。朝吉は、貞吉と同行していることを隠すため、島内のもう一人の実力者、造船所関係を牛耳る女親分の麻生イト(浪花千栄子)が経営する島内一の格式ある旅館麻生館に移った。
    縁日の日、貞吉と琴糸、朝吉とおしげの二組は歩き回り、途中おしげと琴糸は入れ替わった。裏道を抜け、漁師の家に出向くと、足を怪我している。代わりに漁師の妻が漕ぎ出したが、瀬戸内海途中で潮目が代わり、結局、朝吉らが乗った伝馬船は、因島に押し戻された。ままよと、琴糸を連れ朝吉は麻生館に戻る。シルクハットの親分と子分たちが、麻生館に乗り込んできた。多勢に無勢、取り囲まれる朝吉たち。しかし、朝吉は懐からピストルを出して、親分に迫る。 そこに麻生イトが現れ、シルクハットの親分に、ここがワイの宿と知ってはったら、あんまりな振る舞いやおへんかと迫り、この場は私に預からせてくれと言う。イトの迫力にシルクハットの親分も頷くしかない。
    手打ちの式を行い、琴糸はイトが預かることになった。シルクハットの親分たちが去った後、イトは、ワシは二千人から子分がいるさかい、シルクハットの何ちゃらみたいには甘うあらしまへんでと言う。このまま琴糸と別れるのはと言う朝吉に、イトは、一週間だけあんさんにやるさかい必ず戻してくるんやでと念を押した。
    大阪に琴糸を連れて戻る朝吉。くいだおれの店に行く。そこには、勿論お絹とお照がいる。無事で帰ってきてと涙ぐむお照とお絹。お絹は、琴糸に朝吉の妻ですと挨拶をする。切ない顔になる琴糸。お照と貞吉は、久しぶりの再会にすぐ消えた。琴糸は、今から一人で因島のイトの下に戻ると言う。朝吉は、あんな嫌な所に戻ることはないと言うが、お絹と別れることは出来ない。とりあえず、朝吉、お絹、琴糸と言う三人で京都見物に出掛ける。嵐山で、朝吉は、琴糸に東京へ行って幸せに暮らせと言い、独りで因島のイトの下に戻る。
    イトは、二人で逃げて戻らぬように因果を含めたつもりが、のこのこ一人で戻ってきた朝吉に、女だと思って舐めているのかと怒りに震える。どうにでもしてくれと言う朝吉を連れて海岸に行き、持っていたステッキで、朝吉を打ち据える。意地でも、その苦痛に耐える朝吉。容赦なく打ち続けながら、イトはあんたは大きな人間になって名を上げるだろうと言って、このステッキ付いてどこでも行けと子分たちを引き連れて帰っていく。朝吉は、ステッキをへし折り、なんぼ名前を上げる言うても、所詮悪名や。なんも嬉しくはないわい。とにかく琴糸は自由になったんや。ワイは勝ったんや。砂浜で横になり、空を見上げる朝吉。

    61年大映京都田中徳三監督『続悪名(686)』
    満州事変の頃。河内地元の若者が相撲をしている。そこに手拭いをほっかぶりした男が飛び入りする。河内の若者たちは次々に倒される。辰吉(丸凡太)が「お前、頭突きが一番強い朝ヤンを知ってるか。」男は笑い出し、手拭いを取ると朝吉(勝新太郎)だ。みんな、似てると思ったと笑い、今までどうしていたんだと尋ねる。因島にと話し出して、長くなるからと言う朝吉の後ろに、みなお絹(中村玉緒)の姿を見つけて興味津々だ。
朝吉は、お絹を連れ、実家に戻る。母親と姉に紹介したが、みな頑固ものの父親のことを心配する。父親と兄が帰って来たので、お絹を二階に隠す。意外にも、父親は朝吉が、各地で疲弊する農村を見てきたと言うと上機嫌だった。朝吉が花嫁候補を連れて来たと聞いても、まずは会わせろと言い、お絹が従順なよそ行きの挨拶をしたので、ご機嫌で、「直ぐに野良着を持って来い!明日から野良仕事だ。祝言は手に豆を作ってからだ!」二階で、朝吉は、お絹に、「お前がうまいこと言いすぎるからいかんのや。」
  貞がや河内にやってくる。農夫に「おい!おっさん~~村上朝吉っつぁんとこ知っとるけぇ」と声を掛ける。「朝吉?ああ、あそこじゃ」と事もなげに言う農夫に、「おい、おっさん、ワレ先見てものいえよ。親兄弟ならともかく、近所の百姓ごときに、朝吉などと言われるような人やおへんのや。」「お前は誰じゃ!!」「朝吉親分の弟分でモートルの貞ちゅうケチな野郎でござんす。」と仁義を切ると、農夫は激怒し、「わしが、朝吉の親父じゃ!!朝吉!!しょうもない、やくざになんぞなりくさって!!この嫁連れて、出て行きさらせ!!」

  銀座シネパトスで、魅惑の女優列伝Part1ひし美ゆり子
   73年東映京都石井輝男監督『ポルノ時代劇・亡八武士道(687)』
   橋の上で、鑓を構えた4人の武士に囲まれた白い着流しの浪人(丹波哲郎)。鑓をよけ、次々と斬り捨てる。無数の捕り方が御用提灯を掲げて殺到する。しかし、男の相手ではない。「斬るのも飽きた」と呟く男。川に飛び込む。流れ沈みながら、「生きるも地獄、死ぬも地獄か…。」
    男を暖めている二人の裸女に、袢纏姿の男が尋ねる。「どうだ?」股間を覗きこみ「もう少しで、天狗です。」浪人は気がつく。「死ねなかったようだな。」枕元に立つ男(伊吹吾郎)が声を掛ける。「あんさんは、悪名高き兇状持ちの人斬り明日死能(あしたしのう)でしょう。あっしは、吉原遊郭の亡八、白首の袈裟蔵と申しやす。吉原はあんたを必要としているもんでしてね。大門四郎兵衛さまのお指図だ。」
   亡八とは、仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌、という人の八つの徳目を無くした者を言い、転じて遊廓の経営者を言った。その亡八者の仲間に入らねえか、但し試験に通ってからだと、袈裟蔵は言う。それもいいだろうと言う明日死能。
   用心棒として、玉出しの姫次郎(久野四郎)について行くことになる。姫次郎が長屋を歩くと、おかみたちは汚い物を見るように毛嫌いをし物を投げる。姫次郎は「亡八は、感情も無くした者。怒っちゃいけねえんで。ケケケケ。」と言い、磊落した浪人の娘おしの(ひし美ゆり子)を訪ね、「死んだ親父の残した借金、今日こそお前の体で、払って貰うぞ」と脅す。おしのは武家の娘らしく、辱めを受けるなら自害すると抗い、ハサミを喉に当てたが、明日死能は小柄を投げおしのの体の自由を奪い、着ていた着物を真っ二つに斬り、おしのを全裸にした。姫次郎は「ケケケケ餅肌だぜ」と、おしのの体を弄り、下を噛み切ろうとしたので口輪を咬ませ、吉原に連れ帰った。
   おしのは全裸のまま手足を縛られ、2日間男たちに抱かれ続ける達磨抱かせをされると言う。最初の相手は客に競りをさせるのだ。好色そうな僧侶、金持ちなどが舌なめずりをしながら値を釣り上げたが、最後に明日死能が、今日の日当だと渡された50両をおしのの体に投げつけた。しかし、明日死能は、酒を飲み続け、おしのを抱こうとはしなかった。
   実はしのは、女亡八のお紋と言う女だった。明日死能は、試されたのだ。試験には不合格だと袈裟蔵。お紋の着物を持ってきた下女が、「死ぬも地獄、生きるも地獄か知らないが、キザだね。一晩中、聞いているのがきつかったよ」と哄笑する。明日死能が、表情も変えずに居合いを使い、女の耳は吹っ飛んだ。苦痛に呻き騒ぐ女。
     吉原の大門を出て行ってくれと袈裟蔵、大門の外には捕り方で埋め尽くされている。平気で、その中に入って行く明日死能。そこに、吉原総名主大門四郎兵衛(遠藤辰雄)が現れ「お役人衆、手を引いて貰いましょう」同心が「いかに、吉原総名主と言えども、その男は凶状持ち。咎め立てをすると…。」「いや、お奉行様に、いやお奉行様よりも上、ご老中にお尋ね下され。」「今日のところは、四郎兵衛に免じて引かせて貰うが、次はないぞ!!」
四郎兵衛は、明日死郎を座敷に案内する。「試験には失敗したかもしれんが、今日から、お主はワシの客分だ。」
    四郎兵衛は、葵の鈴を取り出し、かって、大納言が江戸城を築いた際、荒くれ者の人足たちが、手をつけられなくなった時に、東海林仁右衛門が女郎200人を連れて参上、それにより騒ぎが収まり、大納言は幕府公認の吉原遊廓を認め、多額の献上金を納めて来た。しかし、時代は移り、ご政道は乱れ、江戸中、岡場所は言うに及ばず、湯女や、飯盛り女、夜鷹まで私娼がはびこっている。大名、旗本、御家人に至るまで、その上がりにたかっている。それに関わる侍たちを成敗してほしいのだと言い、2代目首切り仁左衛門が使ったと言う血塗られ大刀、鬼包丁を預けた。明日死能は依頼を受けるが、袈裟蔵は亡八でない死能に不快感を抱き、拳銃を取り出し、一発触発の事態になる。

片目の勘次(佐藤京一)おけらの金六(原田君事)(福本清三)多門伝八郎(笹木俊志)加田三次郎(深江章喜)お陸(相川圭子)お甲(池島ルリ子)お時(一の瀬レナ)町奉行同心(野口貴史)黒鍬者(川谷拓三)黒鍬の小角(内田良平)夜鳴きそば屋台の老人(浪花五郎)荷馬車の男(畑中伶一)やくざの親分(鈴木康弘)浪人(高並功)(宮城幸生)女郎(小林千枝、北川マキ)島田秀雄(男)小島慶四郎 (湯屋の客侍)田貴リエ(湯女)鈴木康弘(やくざの親分)# 土橋勇(浪人)

2009年12月6日日曜日

目力と母力。

   神保町シアターで、目力対決 田宮二郎と天知茂

    64年大映東京増村保造監督『「女の小箱」より 夫が見た(679)』
    自宅で入浴する人妻(若尾文子)。湯船からあがり、鏡に自らを映す。美しいが表情は憂いに満ちている。体を拭き、寝間着に着替えると、電話が鳴る。夫からだ。「今夜も遅くなる。帰れないかもしれない。」「どうしても帰れないの?」「今会社は大変なんだ。戸締まりをして寝ていなさい。」夫の川代誠造(川崎敬三)は、会社から電話をしている。忙しいから切るよとつれない。ドアを閉めようと外を眺める那美子の眼差しは虚ろだ。ベッドには、夫のパジャマが置かれている。一人ベッドに入る那美子。
   翌日、敷島化工の社長室に、役員と株式課長の川代が集まっている。「社長!!この男ですよ、我が社を乗っ取ろうとしているのは。石坂という30過ぎの若僧ですが、今日も9万株を買って、114万株になりました。発行済み全株式300万株の3分の1は超えました。」「川代くん!この男に、買い戻しの交渉に行ってくれたまえ。そうそう、大株主に直接交渉されるとまずいから、株主名簿を隠しておいてくれよ。」「社長!!厄払いに、赤坂へ行って、ぱっとやりませんか!!」「いいねえ!」二代目社長と役員たちに危機感は薄いようだ。
   石塚興業の事務所、事務員の青山エミ(江波杏子)に「近頃、ぐっと派手になったな。スポンサーでも見つけたのか?」と声を掛ける社長の石塚健一郎(田宮二郎)。そこに川代が現れる。「川代さん、また敵情視察ですか?」「石塚さん、またやりましたね。お陰で、56円だった株価が、240円まであがりましたよ。十分儲けたでしょうから、このあたりで、我々に売りませんか?」「いや、過半数を取るまで、買いつづけてますよ。一度やり始めたら、最後までやるのが、僕の主義ですよ。敷島加工は内容のいい会社ですからね。」
川代は帰り掛けエミに、「今晩7時にいつものところで」と耳打ちする。石塚は、証券会社の谷田勇(中条静夫)を訪ねる。谷田「8万株売りに出ています。」「買ってくれ」「よっぽどいいスポンサーがいるんですね」「もっと買いたいが、大株主の情報を取ってくれよ。敷島化工に出入りしているんだろ。」
    津村産婦人科、院長の津村光枝(町田博子)が那美子の学校の先輩だ。「最近どうなの?」「もう半年もご無沙汰なの。結婚生活にはもう嫌気が差したわ」「それは贅沢と言うものよ。私ノようになっちゃ駄目。」「愛されていない毎日はもういやだわ」「適当に遊びなさいよ。良かったら、一緒にクラブ2,3 にいきましょうよ。そこのママは、私の患者よ。」
    那美子は、知らずに、石塚の経営するクラブに行くことになった。ママの西条洋子(岸田今日子)は、津村から紹介された那美子を、川代の妻が来ていると耳打ちする。調子に乗って、酔った那美子を、石塚は家まで送る。自分を顧みない夫との生活に疲れた那美子は、


   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
    54年大映京都溝口健二監督『山椒大夫(680)』
    これは人が、まだ人として目覚めていない、平安末期の話です。それから数百年、庶民の間に幅広く伝えられて来ました。
  「お母さま、なぜお父さまは筑紫のようなところに行ってしまわれたんですか?」「お父さまは、決して間違ったことはなさっていませんでした。」父平正氏(清水将夫)は、丹波守であったが、領民の窮状を無視できず、将軍の指示に従わなかったことで、筑紫に流されることになった。正氏を慕う領民たちは、落ちていく正氏を見送った。正氏は、まだ幼い厨子王に、「慈悲の心を失っては人ではない。己を責めても人には情けをかけよ。人は等しくこの世に生まれてきたものだ。幸せに隔てがあっていい筈はない」と教えた。
  平正氏の妻玉木(田中絹代)、その子厨子王と安寿の幼い兄妹、女中姥竹(浪速千栄子)の四人

   64年松竹大船桜井秀雄監督『この空のある限り(681)』
    多摩川下流六郷辺りの空撮。高校のグランド、野球部がランニングをしている。プールでは女子水泳部が練習をしている。タイムを計る三谷麻子(中村晃子)。「のりっぺ!!飛ばして!飛ばして!」練習が終わり、シャワーを浴びている麻子や則子(鰐淵晴子)。部長が「夏休み中は、7時半練習開始!!」と言い、みな悲鳴を上げる。
    工場の控え室、則子の母の千枝子(森光子)の手元を覗き込んだ女工員純子(竹田幸枝)が、「おばさん、また詩を書いているのね。ここ字を間違えているけど…。凄いわ、新聞や雑誌に出してみたら?」「工場の時給よりもよっぽどいいよ。」工場のサイレンが鳴る。「潰れそうな工場にしちゃデッカいサイレンだね。」と女工員路江(山本多美)
    高校の図書室、則子が「サブちゃん!お待ちどうさま。これが、原稿用紙、全校一の達筆のサブちゃんに清書してもらえば、鬼に金棒なんだから…。」前田三郎(田村正和)に原稿を見せる。「母の影か…。ノリっぺは河童みたいに泳ぐことしか能がないと思ったら、詩も書くのかー。」「あたしじゃないわ、かあさんが書いたのよ。毎朝新聞なら3万円も貰えるのよ。」

  渋谷シネマライズで、ポン・ジュノ監督『母なる証明(682)』
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  今日の印象だけなら、ボン・ジュノ>溝口健二、キム・ヘジャ>田中絹代と書くと、日本中を敵にまわすだろうか。