神保町シアターで、目力対決 田宮二郎と天知茂。
59年新東宝中川信夫監督『東海道四谷怪談(696)』
浄瑠璃、舞台上には、黒子が、蝋燭を灯した竿を揺らし、人魂を飛ばしている。
備前岡山、夜道を歩いてくる二人の武士四谷左門(浅野進次郎)佐藤彦兵衛(芝田新)と提灯を掲げ先導する小者、直助(江見俊太郎)。「寒いのう、大寒を明けたというのに…。」行く手に手を付き頭を下げる浪人者(天知茂)。「ご息女おいわさまとの祝言のお願いにあがりました。」「民谷伊右衛門か…。いわとの祝言など、浪人風情のお前に認める訳がない。」左門だけでなく彦兵衛も、乞食侍、追い剥ぎ、野良猫、泥棒と酷い言いようだ。「武士にあまりの屈辱」といきり立つ伊右衛門に、「浪人風情が!!」と尚も罵る二人に思わず、抜刀し、切りかかる伊右衛門。恋しいおいわの父親左門、彦兵衛の二人を斬ってしまい呆然と立つ伊右衛門に直助が「あっしに任せてくれれば、悪いようにはしませんぜ」と囁く。
四谷左門の位牌の前に、悲嘆にくれる、お岩(若杉嘉津子)とお袖(花沢典子)、美しい姉妹の姿がある。そこに、お袖の許婚で、彦兵衛の息子、佐藤与茂七(中村竜三郎)がやってくる。お岩「父上たちを殺したのは、顔に傷があることを直助が目撃したので、金藏破りに失敗した小沢宇三郎だと分かりました。伊右衛門さまも助太刀をして下さると仰って下さいました。与茂七さまもご一緒して下さいますか」「勿論父上とお袖さまの父上さまの仇です。」
直助を含めた五人での仇討ちの旅、半年が過ぎ、お岩は疲れ遅れがちである。直助は、伊右衛門に耳打ちする「そろそろ半年、早く与茂七をやってしまわないと面倒なことになりやすぜ
」「分かっておる」「裏切るつもりじゃないでしょうね。そんなことしたら、全部バラしますよ」曾我兄弟が仇討ち成就をきがん
「伊右衛門さま、お止め下さい。蛇は神様の使いと言いますし、私は巳年生まれです。」おいわが必死で止めても、蛇相手に刀を振り回す伊右衛門。
本所蛇山町の瑞祥寺
やっぱり本当に傑作だ。キワモノでも何でもなく、日本映画史に残る作品。
京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)。
57年独立映画家城巳代治監督『異母兄弟(697)』
騎上の陸軍大尉鬼頭範太郎(三國連太郎)がやってくる。3人の歩兵が敬礼をし、満足そうに頷く鬼頭。大きな屋敷の前に馬を止める。下男の太田(島田屯)が慌てて駆け寄り手綱を取るが、殴りつけ「鞍擦れしとるではないか!!」と叱責をし、屋敷に入る範太郎。玄関前に、「お帰りなさいませ」と、婆や(飯田蝶子)が椅子を持って駆け寄り座らせ長靴を脱がせ、「相模屋さんが、新しい女中を連れてきています。」と告げる。玄関には、鬼頭の幼い二人の息子がやってきて、正座をし「お帰りなさいませ」と声を合わせお辞儀をする。
客間には、相模屋(富田仲次郎)が利江(田中絹代)を連れてきていた。「この娘の父親は、大酒飲みの馬車引きで、わしら運送屋には鼻つまみ者だったが、先日亡くなった。この娘は苦労したから、よく働くし、辛抱強いので、先の女中みたいなことはないですよ…。ほれ挨拶をしろ」「利江でございます。」「うちは代々、藩の剣術指南役を勤め、百五十石を賜っていたので礼儀作法には厳しいのだ。」「では、家内に紹介しよう。」離れた和室に、鬼頭の妻のつた(豊島八重子)は寝付いていた。範太郎の惣領一郎司(浪江孝次)剛二郎(春日井宏往)を紹介する範太郎。
ある雨の夜、範太郎は鬱々とした表情で、一人杯を傾けている。台所で婆やのマス「旦那さまは、奥様が?年も寝込んでいるのに、外に女ひとつお作りにならない、立派な方だ。」下男の太田は「まあ、したくても、奥様は連隊長のお嬢さんだで…」と笑う。奥から「酒!!」と声が掛かり、利江は酒を運ぶ。範太郎は、馬車引きの娘なら馬の扱い位出来るだろうと鞍擦れの手当てをするように命ずる。雨が降り続き湿気が多いせいか、妻の寝室から、咳が止まらない。範太郎の表情は一層曇る。利江は馬小屋で、馬相手に久し振りに明るい表情を見せていた。範太郎が現れる。「鞍擦れの手当ては済みました」無言で近寄る範太郎。突然利江を抱き締める。利江は驚き抵抗するが、大きく力の強い範太郎に、乾し草の上に投げ出され…。
相模が来ている。「旦那さま、どうなさいますんで…。」範太郎が利江を睨む「お前が教えたんだな…。」「いや、もっと早く分かっていれば、堕ろせたんですが…」「どうしろと言うのだ」「こちらが伺いたいんです。もう少しすれば、お腹も目立って、噂になります…。」「…」「どっちかですよ。妻になさるか」「馬鹿を言え!!誰が馬車引きの娘と、」「では、宿下がりさせていただいて、どこかで産ませます…」「そうしてくれ」「その場合は、少しまとまったものを頂戴しないと…。」
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