池袋新文芸坐で、映画ファンが考えた2本立て。
55年東宝成瀬巳喜男監督『浮雲(691)』
引揚船が着き、降りてくる引揚者の中に幸田ゆき子(高峰秀子)の姿がある。
ゆき子が、家を探しながら歩いている。一軒の家の前に立ち止まる。表札には富岡兼吾と書かれている。「ごめんください」と繰り返すと、老女(木村貞子)が現れる。「富岡さんのお宅ですか」と尋ねると、奥に引き込み、代わりに妻らしい女(中北千枝子)が顔を出した。「どちら様ですか」「幸田と申します。」不審そうに見る細君の邦子。「農林省から来ました」「農林省?」「農林省から使いで来ました。」「ああお使いで…」ようやく得心した様子で、夫を呼びに下がった。
富岡(森雅之)が顔を出し、家の外に出て来た。歩き出し、空き地に入り、「元気かね。復員者には、内地は寒いだろう。」「電報は着いたの」「ああ、どうせ東京に出て来ると思った」「戻って、役所は辞めてどうしているの?」「官吏暮らしに嫌気がさしてね。木材の方を業者とやっている。、君はどこにいるの?」「鷺ノ宮の親類のウチに行ってみたら、まだ復員していなくて、荷物だけが着いていたわ。」「支度をしてくるので、どこか行こう。」
大きな洋館、階段を白いサマードレスで降りてくるゆき子。ここは仏印のダラット、農林省の出張所、所長の牧田(村上冬樹)が声を掛ける。「幸田さん、こっちいらっしゃい。日本から道中長いので疲れたでしょう。こちらは3月にボルネオから赴任した富岡くん。こちらは、タイピストとして着任した…。」「幸田ゆき子です。」富岡は、全く愛想が悪かった。「こうみえても、富岡さんはきっちりしていて、三日に一度は妻に手紙を送る愛妻家です。」と加野事務官(金子信雄)。
着替えをした富岡がやって来る。復興マーケットと看板が掛かる闇市を歩く二人。連れ込み旅館に入っていく富岡。少し置いて、入るゆき子。「内地も変わったわね。こんなに変わっているとは思わなかったわ」「敗戦したんたがら、何でも変わるさ。」「男はいいわ」「呑気だよ、女は」
再び仏印、ゆき子の歓迎会らしい。「幸田くんは千葉かい?」「いいえ、東京じゃないの?千葉型かと思ったよ」「東京ですわ」「であれば、葛飾あたりかな」「富岡さんは毒舌家だから、気にしない方がいいですよ」と加野がフォローするが、「いくつ?」「いくつでもいいわ」「24、25かな」「私22です」「年齢を上に見ると貶していると言うのは間違いだよ。仏印のダラットまで来た幸田女史に乾杯しよう。」あまりの言い方に席を立つゆき子。加野が「気にして、行ってしまいましたよ」と咎めると、「若い女が、こんな所に来るのは、好かないねえ」と尚もゆき子に聞こえるように言う富岡。
翌日、ゆき子が、富岡に声を掛ける「私は今日何をしたらいいでしょう」「所長は言って行かなかったの?」「何もおっしゃいませんでした」「加野は?」「あの方はまだ寝ていらっしゃいますわ、私は何をしたらいいんでしょう」「この先に安何王の墓があるんですが、見物でもしたらどうです」と
安南人の女中(森啓子)伊庭杉夫(山形勲)ジョオ(ロイ・H・ジェームス)向井清吉(加東大介)おせい(岡田茉莉子)おしげ(中野俊子)アヤ(木匠マユリ)田村事務官(堤康久)登戸事務官(鉄一郎)のぶ(千石規子)
56年日活川島雄三監督『洲崎パラダイス 赤信号(692)』
夜の街、男たちを誘う女の嬌声が響いている。しんせいを買い、道を渡り、橋の欄干に佇んでいる男に渡す。二人の所持金は60円しか残っていない。
蔦枝(新珠三千代)と義治(三橋達也)は、隅田川にかかる勝鬨橋の上で、行く宛もなく途方にくれていた。義治は、どうする?どこに行く?と蔦枝に聞くばかりで全く情けない。あまりの甲斐性のなさと優柔不断さに蔦枝は、そこに来たバスに飛び乗る。勿論義治は後を着いて来るだけだ。
結局、洲崎弁天町の停留所で下車する蔦枝。慌ててついてきた義治は尋ねる「こんなところに降りてどうする?」「どうする、どうするって、何度同じことを聞くのよ。あんたこそ、ここがどんなところか知ってるでしょう。昼から何も食べていなかったわね」歓楽街を結ぶ橋の手前にある小料理屋千草に入る。ビールを頼む蔦枝。「私たち、この川の手前にいるのね。やっぱりここに来たわ・・・。」
「女中さん入用」の貼り紙を見て、人の良さそうな女将お徳(轟夕起子)に無理矢理頼んで居着くのだ。義治は元倉庫の伝票付け、蔦枝は、どうも洲崎の遊郭にいたらしい。いきなり洲崎に時化込もうとしていたラジオ屋の落合(河津清三郎)に取り入る。
翌日お徳は義治に、蕎麦屋だまされ屋の住み込みで出前持ちの仕事を紹介する。騙されてもともとと食べて貰う味自慢の蕎麦屋には、他に珍妙な出前持ち(小沢昭一)と看板娘玉子(芦川いずみ)がいる。義治は、全くやる気がなくぼーっとしている。お徳は、4年近く前に若い女郎と家出したきり帰って来ない夫を待ちながら2人の子供を育てている。亭主の戻りの願掛けで禁酒をし、弁天さまに毎日手を合わせている。
洲崎に住んで3日目に、蔦枝は、義治に田舎に送るを蕎麦屋から前借り出来ないかと言いだす。勿論そんな金はない。義治は蕎麦屋のから、現金を盗む。千草に行ってみると、既に蔦枝は落合と鮨屋に出掛けたばかりだった。雨でずぶ濡れになりながら、義治は蔦枝の姿を探す。結局見つからず、店に戻った義治に、玉子はお金をそっと戻す。翌朝、蔦枝はきれいな着物を着て帰宅。数日後、落合が探してくれたアパートに引っ越していった。
義治は、お徳から聞いた神田のラジオ屋の落合ということだけを頼りに、当てもなく探し歩く。神田のラジオ屋は何十軒、何百軒あるのだ。炎天下の中ようやく見つけた落合のスクーターを走って追いかけるが、気を失う。倒れた義治を介抱してくれたのは、道路工事の日雇い人夫たちだ。「あんた腹が減っているんだろう」とくれた半分のおにぎりを食べる義治。結局、義次は、洲崎に戻ってきた。お徳とたまの心からの説得で、義次は、蔦枝への思いを封印して、出前持ちの仕事に専念、表情にも明るさが戻った。戻ったといえば、お徳の夫がふらりと帰って来た。
千草のまわりに平穏が戻ったが、長くは続かない。蔦枝がひょっこり洲崎に現れる。落合によって安定した生活を得たが、何か物足りなく、落合が仙台に仕事で出かけた義次に会いに来たのだ。この機会に別れろというお徳の説得は通じず、蕎麦屋に行く蔦枝。お茶を出す玉子に、何か自分にないものを感じて苛立つ蔦枝。15分ほど待って出て行ったため、義次とはすれ違いに。その晩、お徳の夫が、女に刺殺された。お徳は愕然として、崩れおちる。付き添って交番に行った義次は蔦枝と再会する。その翌日義次と蔦枝の姿は、洲崎から消えていた。栄代橋の上で思案にくれる二人の姿があった。「今度は、あんたが決めなさいよ。私がついて行くから。」「本当だな。」発車しようとしていたバスに駈け出す義治、後を追う蔦枝。
京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)。
55年東京映画久松静児監督『渡り鳥いつ帰る(693)』
隅田川、艀が行く。鳩の街とアーチが架かっている。昭和29年頃。赤線街の朝、泊まり客が帰り、見送る娼婦たち。花売りの老人(左卜全)が車を引いて来る。サロン藤村、女将のおしげ(田中絹代)が玄関を掃除している。花売り、如何でしょうと声を掛ける。店の花は替えたばかりだとおしげ、「女の子の部屋は?」「ウチの子たちは、まだ寝ているよ」「」
吉田伝吉(森繁久彌)おしげ(田中絹代)大石種子(桂木洋子)民江(久慈あさみ)栄子(淡路恵子)寺田(加藤春哉)佐藤由造(織田政雄)千代子(水戸光子)トヨ子(勝又恵子)街子(高峰秀子)組合長(深見泰三)ゴンドラの女主人おはま(月野道代)鈴代(岡田茉莉子)照子(二木てるみ)田部和市(富田仲次郎)まさ(浦辺粂子)松田(春日俊二)村井(太刀川洋一)武田(植村謙二郎)客の男(中村是好)(藤原釜足)
いやあ、日本映画の最高だった時代の3本に唸る。いい台本、いい監督、いい役者、三拍子揃ったものを観ていると、正直、今のテレビドラマ見れない。
元会社の同僚たちと、博華で餃子とビールで忘年会。
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