2009年1月10日土曜日

不景気風邪吹き荒れる

  一度風邪を引くとなかなか治らないなあ。

2009年1月9日金曜日

職安に行き、不景気風邪をひく。

   朝一で、西新宿の職安。そこから大門の睡眠クリニック。
   渋谷シネマヴェーラで官能の帝国ロマンポルノ再入門277年日活神代辰巳監督『壇の浦夜枕合戦記(13)』。奢れる平家は久しからずや。平清盛(小松方正)は、あまりに人の道を外れた行いをした報いか、原因不明の熱病にかかり、源頼朝義経の兄弟を助けたことを後悔しながら死ぬ。屋島での戦いで、まだ幼い安徳帝は母である皇后建礼門院(渡辺とも子)と共に瀬戸内海に身を投じたが、建礼門院は源義経の手の者に捕らえられた。生き残った女官たちには、地獄が待っていた。源氏の田舎侍の慰み者になり、人買い(三谷昇)に売り渡され、女郎としての身の上を過ごすだろう者も。建礼門院とて、懸想する義経(風間杜夫)に言い寄られ続ける。しかし、最後には平惟盛の助命の為、身を任せる。しかし、禁裏しか知らない建礼門院には、体験したことのない女の喜びが待っていた。
  神代辰巳監督が、頼山陽が書いたと言われる春本を原作として、『四畳半襖の裏貼り』に続く春本シリーズとしてオリジナル脚本で撮り、企画段階から大型企画として話題になった。確か脚本を手に入れて読んだ記憶も、当時の自分は大満足だったが、少しは年も取ったので、細かい所で気になる部分もあった。しかし、やはり、限られた製作予算の中で(と言ってもロマンポルノとしては破格な製作費を売りにしていたと思うが)、かなり頑張っている。やはり清盛を小松方正、義経を風間杜夫を起用した点で救われている。風間杜夫も、まだブレイク前で、他にもロマンポルノには出演しているが、何だか怪しい義経を好演、というより怪演か(苦笑)。
  72年日活村川透監督『白い指の戯れ(14)』。電機工場で働くユキ(伊佐山ひろ子)は、渋谷の喫茶店から外を見ている。事故でぺしゃんこになった車がレッカーで引かれていくのを見て涙ぐむ。二郎(谷本一)が「君は感度がよさそうだな」と露骨な言い方で声を掛けてくる。不愉快そうな顔をするが、二郎と一緒に店を出るユキ。 大きな本屋に行くと、二郎はカバンに高そうな美術書を万引きする。洋子(石堂洋子)が寄ってきて、二郎にユキのことを新しい女かと尋ねる。二郎とユキは店を出るが、好きな女とは2度目に会った時に抱くものだと呟いて再会を約束してユキと別れる二郎。洋子の部屋で、二郎と洋子が濃厚なSEXをしている。次の休みに、喫茶店に行くと、洋子に叩かれる二郎の姿がある。ユキに、君のせいで別れたんだと言う二郎。ユキは二郎の部屋に付いていき、処女を失う。しかし、二郎は窃盗で逮捕され一年は刑務所に入らなければならなくなった。ユキが何度警察に面会に行っても会わせてくれない。
   ユキは会社を辞めてしまった。住処が亡くなって困っていると、洋子が自分の部屋に来いと言う。途中何があっても黙っていろと言われると、洋子はエレベーターの中で、財布を掏る。彼女は掏摸だった。洋子は部屋でユキに迫ってくるバイセクシャルだ。受け入れるユキ。
  ある時、タク(荒木一郎)がユキに声を掛けてくる。刑務所で二郎と一緒で、ユキのことを聞いたんだという。タクに惹かれていくユキ。八王子まで行き、タクのスリグループは、銀行でお金を下した男から三百万を盗む。ユキはそのスリルの虜になった。タクは自分の隠れ家に連れて行き、ジャケットの内ポケットから財布を抜く手順を教えて、自分で練習しろと言って消える。何日も帰ってこないタクを待ちながらスリの練習をしていたユキだが、空腹に耐えかねて喫茶店に行き、サンドイッチを奢ってもらう。そこにいた洋子に、タクにとって女は道具にしか過ぎないと言われるが、久しぶりに現れたタクは、スリ仲間にユキを抱かせるような男だが、ユキは離れない。
  久しぶりに旅に出ると聞いて、ユキはうれしい。嬉しくなって、本屋で旅行ガイドを万引きしてしまう。公園で見ていると、男(粟津號)が話しかけてくる。彼氏に連れられて旅行に行くと話すユキ。実は男は刑事だった。そろそろタクたちのグループが動き始めると報告する。ユキは、タクに連れられて、仲間たちが集まるアジトに行くと洋子もいる。バブルバスにして、皆、全裸で踊りまくる。
  実行の日、集合場所の上野駅に向かうタクとユキに刑事の尾行がついている。刑事の顔を見てユキは驚く、公園で話しかけてきた男だった。自分がみんなしゃべってしまったと謝るユキ。タクは刑事に、女を騙すなんて最低だと言って、消える。ユキは、デパートで服を万引きする。歩いているとタクが声をかける。タクが刑事たちに勝ったと喜ぶユキ。タクとユキは、一人の男を尾行し、バスの中で財布を掏る。男は下車する直前に気がつき、タクにお前が盗んだだろうと迫る。しかし、タクは財布を掏るなりユキに渡しているので、もちろん男がいくらタクの体を探しても出てこない。運転手は、交番に向かうと言った。不安そうにタクを見ていたユキが、不意に立ち上がり、男に近づき、掏ったのは自分だと言って、ハンドバックから男の財布を取り出した。バスを降りて、運転手と被害者の男と三人で交番に連れられていくユキ。数日後、タクが横断歩道を渡っていると、いつかの刑事に会う。いつかの女の子はどうしていますかと聞くタク。まだ、自分ひとりでやったと言い張っているよと言う刑事。今度出てきたときには大事にしてやりますよと言うタク。刑事と別れて、笑うタク。
  ロマンポルノの中でも、傑作との呼び声は高いが、個人的には昔見た時から、その評価には、何か引っかかっている。勿論、スクリーンデビューの伊佐山ひろ子は、スタイル、キャラクターともに最高だが、いかんせん、演技経験のなさが目立ち、セリフも棒読み。その後の成長を見ても、素晴らしい原石だったことはわかるし、大好きな女優の一人なのだが・・・。荒木一郎も、中島貞夫の映画に比べて、そんなにエッジが効いているとは思えない。まあ、オッと思わせるカットは随所にあって、村川透のセンスをうかがわせてはいるのだが・・・。
   早起きして、職安に行ったせいなのか、昼過ぎから咳が出始め、夕方にはダルくてたまらなくなり、もう一本見ようと思っていたのをやめて帰ることに。医者に寄って、インフルエンザではないことだけは確認し、咽喉の炎症抑える薬やら、葛根湯やら処方してもらって帰宅。不思議と食欲は落ちず(笑)、家で食べるだけ食べて、早く寝ることにする。

2009年1月8日木曜日

ロック高齢化映画2連発。

    朝は、年末抜けた差し歯を入れに大門の歯医者に。しかし、填めていた歯の根っこが割れているので、駄目かもと言われる。両側の歯を詰めたばかりなので、保険がきかないよと更に脅される(笑)。
    有楽町にでて、ヒューマントラスト有楽町シアター2で、スティーブン・ウォーカー監督『ヤング@ハート(11)』。マサチューセッツ州ノーサンプトンにある平均年齢80歳のコーラスグループのドキュメンタリー。レパートリーが凄い、クラッシュやソニックユースやトーキングヘッズ、アラン・トゥーサンやジェイムス・ブラウンやら。82年結成、以来ヨーロッパ、オーストラリア、カナダなどへの海外ツアーまで果たしている。クラシック、オペラ、教会での聖歌隊をやっていた老人たちに、パンクだったり、アフタービートバリバリの難曲を選曲し、リハーサルでしごくボブ・シールマンは53歳。
   メンバーは、そんな年寄りだから、普段は体中が痛むし、酸素吸入器を携帯していたり、何度も死にかけ枕元に牧師が呼ばれたりする普通の老人だ。事実、公演前にステージに上がる予定だった2人が亡くなる。リハで駄目出しをされれば普通に凹むが、ステージで歌う姿は、何と幸せそうなことか。しかも、巧い!勿論味がある!彼らは、お年寄りを大事にしましょうとか保護してもらう老人介護とかの存在ではなく、観客を楽しませ、癒やし、元気づける現役のミュージシャンだ。しかも、みな自分が死んでも、他のメンバーには歌い続けて欲しいと言っているプロじゃないか。
   ちょっと、というより、かなりやられる。こんなことを自分もやりたいのだ。やれるのか。
   有楽町むらからまちから館で、買い物をして、飽きたらず新宿伊勢丹地下にも寄り、
   新宿武蔵野館で、マーチン・スコセッシ監督『シャイン・ア・ライト(12)』。2006年、マンハッタンのビーコンシアターで撮影されたローリング・ストーンズのライブ。それぞれ初来日の時の、ミック・ジャガーのソロとストーンズの東京ドームに行ったきりだが、勿論映画収録があるからかもしれないが、あの頃とは違う100%現役の中高年ロックンローラー(苦笑)。何才の時のライブなのだと思わず疑う。ドームでなく小さな小屋(と言っても二千数百キャパくらいか)のせいかもしれないが、縦横無尽に動きまわるミック・ジャガー。初来日の時はサポートドラムがいた筈のチャーリー・ワッツは一人で叩き続ける。ステージ上でもタバコを吸い続けるキース・リチャーズのポッコリ出たお腹だけが安心材料だ。正直な話、このレベルでのワールドツアーを維持するために、ストイックなトレーニングをしているんだろうが、アッパー系の違法行為をしているとしか思えない。意外にアーカイブ映像を使い、若いころの彼らに、いつまでこのバンドを続けるのかというインタビューシーンを見せ続けるのは、少し狙いすぎの感はあるが、ライブシーンは最高。前方の席で、ノリノリで身体を揺すり、一緒に歌っていて、ふと我に返り、後ろの席を振り向くと、みんな映画の鑑賞スタイルで、じっとスクリーンを見ている。少し赤面。博華で、餃子とビール初め。

2009年1月7日水曜日

小さな新年会

     午前中は、糖尿病の経過観察。今まで通っていた溜池のクリニックが入るビルが改築らしく、休院になり、大手町まで。東京駅から近いし、かなり大規模なクリニックなので、採血もうまいし、快適ではある。遅い昼を済ませ、神保町まで、徒歩。
    神保町シアターで、女優・山田五十鈴
    53年北海道炭労/キヌタプロ亀井文夫監督『女ひとり大地を行く(10)』。
    冒頭に北海道の全炭坑組合員が33円ずつ出し合ってこの映画が製作されたというテロップが出る。昭和4年秋(1929年)アメリカウォール街で起きた大恐慌は直ぐに日本を直撃。東北地方は不作と重なり身売りなと悲惨を極めた。秋田県横出、山田喜作(宇野重吉)サヨ(山田五十鈴)夫婦も二人の幼い子供を抱えて、借金を返せない。喜作は、北海道の抗夫募集に応募した。旅賃を渡そうとするサヨに、歩けばいいと無一文で出発する喜作。
   喜作が入った炭坑のたこ部屋には、だった30円で売られてきた男たちでいっぱいだ。喜作が入った翌日にも、逃げ出そうとした男(浜村純)が捕まり、見せしめの為に火に焼いた鉄棒でいたぶられた上殺された。男を埋める穴を掘らされる喜作。抗内の仕事も、抗夫たちは虫けらだ。しかし、弱いものを守ろうとする喜作の姿は目を引いた。ある晩、脱走した男を助けてやる。番人は、お前は抗夫にしておくには惜しいと言って、見逃す。しかし、その日、ガスが出て、延焼を恐れた抗長は、まだ抗夫が残ったまま、抗道を埋める。深い抗道にいた喜作は、その日以来姿を消した。
   全く便りもないまま、2年が過ぎた。サヨは、借金の方に遊郭へ行かされそうになるが、子供を連れて夜逃げして、喜作が働いていると聞いた北海道の炭坑に行く。しかし、喜作は、2年前のガス事故で死んだと言われる。呆然とするサヨに、親切な、お花(北林谷栄)は、小さな子供を抱えるサヨに同情して飯場の飯炊きの仕事を世話する。しかし、サヨは、死んだ夫が働いた現場であり、子供の学資のためにもより給金のいい抗内の仕事を望んだ。
    父親のいない喜一がいじめられているところを抗夫の金子(沼崎勲)が声をかけ、自分が父親だと言って、喜一を肩車する。金子はアカだと噂がある。強制連行されてきた中国人のレイ・シチュウ(加藤嘉)が、満足な食事を与えられないため脚気になっていて倒れ乱暴されているところを助ける。しかし、しばらく後、金子は徴兵され、戦死した。日本は敗戦する。中国人の集団が長屋にやってくる。恐る恐る戸を開けると、レイがいて、金子に助けられたお礼を言いに来たという。金子は戦死したと聞いて肩を落とすが、喜一に、立派になって戦争を止めてくれと言って帰国していく。
  サヨの必死の働きで、長男の喜一(織本順吉)は、炭坑で選炭所の仕事を、次男の喜代二(内藤武敏)は、昼間は札幌で組合の事務の仕事をしながら、夜間の工業高校に通うまで育て上げた。しかし、喜一は、ある時働いた金は全部自分で使いたいと、お花の娘文子(桜井良子)と駆け落ちする。その頃サヨは、長年の無理が祟って寝込む。喜代二は、札幌の夜間高校を退学して、炭坑で抗夫の道を選ぶ。喜代二は正義感が強く弱いものに優しかった金子のようになりたいと言う。組合の委員長河村(中村栄二)の娘孝子(岸旗江)と惹かれあっている。サヨは、喜一が千歳で警察予備隊の制服を着ていたのを見掛けたと言う話を聞いて、病を押して探し歩く、文子(桜井良子)と同居している部屋を探し当てるが、サヨの目の前で警官に踏み込まれる喜一。
   ある日、会社側の月産7万トンの要請に、怪我人が続出する状況に管理人に文句を言う喜代二。しかし、翌日、会社側は、喜代二たち5人の入抗を拒否する。喜代二たちは組合に問題を持ち込む。初め冷ややかだった抗夫たちも、若い抗夫(丹波哲郎)や、炭坑を逃げて蟹工船や満州から帰国した喜作の言葉に組合に結集する。、組合総会で、5人の抗夫の問題ではなく、無理に月産7万トン体制を強行する会社側の問題だと言う喜作に、会場はみな賛同する。焦った会社は、バーの女将(朝霧艶子)に入れあげ身を持ち崩していた河村に大金をやって、送電線を切らせ、抗内の排水ポンプを止め、その犯人は喜代二だと、借金漬けの喜一に偽証させ、逮捕する。
   弟を売ってしまった喜一は、良心の呵責から酒に溺れ、河村に止められるが、そのやり取りを孝子は聞いてしまった。警察と衝突しそうな組合員のデモを前にして、真犯人として父親の名を告白する孝子。喜作は、18年振りに、妻サヨのもとに行く。サヨは息子の喜一を追いかけ、自転車とぶつかって盲目となっていた。喜一、清次、隣人たちに囲まれて、息子を喜作に渡せてよかったという言葉を残して息絶える。サヨの死は、労働者たちの結束を更に強いものとした。喜代二は、孝子に、労働者が幸福に働ける社会を作るのだと言う。
   ドキュメンタリー監督として名高い亀井文夫の劇映画。12月京橋フィルムセンターで特集を組まれていて、見ようと思っていたが、時間が合わなかった。53年の製作だし、組合の資金援助による独立プロなので、教条的なメッセージも多いが、当時の炭坑で働くものたちの生活を丁寧に描いている。「女ひとり大地を行く」という素晴らしいタイトルでと、よく使われるいきいきとした表情の山田五十鈴のスチール写真で、もっと強い生き方をした主人公なのかと思い込んでいたが、抗内で、息子を育て上げるために石炭を掘っている時期を過ぎると、息子や周囲の人の不幸に悩み、寝着いたり、やつれた姿で喜一を探し求めたりと母子ものの印象だ。後半は、喜代二と孝子の話がメインになっていく。二人は、恋愛関係というよりも同じ職場で働く同志という関係に近いところが、教条的な感じがするが、「蟹工船」といい、虐げられた労働者たちが、自らの力で世の中をよくしていくには、団結することしかないのだという主張は、100年に一度の大不況という現在の世界に訴えうるものだと思った。
    神保町を古本屋覗きながら、ダラダラと歩き、赤坂へ。嫌がる後輩Kを無理矢理誘い(笑)、赤坂大衆居酒屋の老舗正駒で飲む。世の中は、まだ新年会なんだな。私の仕事始めはいつになるか(苦笑)

2009年1月6日火曜日

少年A、寺島まゆみと寺島しのぶ。

   午前中赤坂のメンクリ。独身美人OLに惣菜の差し入れ。かぼちゃの煮物に柚子を隠し入れたことをアラフォー美人OL軍団は果たして見破ったか(笑)。元同僚とフィッシュで豆のカレー。
  渋谷に出てヒューマントラストシネマ文化村通り(ネーミングライツ売るにしてももう少し覚えやすい名前に出来なかったものか(苦笑))、
  ジョン・クローリー監督『BOY A(6)』。少年時代に犯罪を犯した若者が仮釈放になり、社会に出てくる。保護官のテリー(ピーター・ミュラン)との話し合いで、ジャック(アンドリュー・ガーフィールド)と言う新しい名前を付け、生まれ変わったのだ。彼は一緒に罪を犯したフィリップ・クレイグの墓に行く。ケリーは自殺したと言うが、ジャックはリンチに遭い首を吊られている悪夢を見る。時には、吊られているのは自分だ。
  ジャックの新しい人生は、とても順調だ。運送会社の上司はとても理解があるし、配送の相棒のクリス(ショーン・エバンス)もとてもいいやつだ。ミッシェル(ケイティ・リオンズ)という彼女も出来た。ある日、配送の途中、崖から車が転落しているのを発見し、クリスと一緒に少女の命を救う。社内の朝礼で皆から拍手され、地元紙から取材も受けた。
   テリーは、ジャックとビールを飲みながら、彼の話を聞くのがとても幸せだ。ジャックの更生プログラムはうまくいっている。ミッシェルとの交際が心の深いつながりになり、自分の犯した罪を告白したくなったジャックに、どんなに信頼している人間にも言ってはいけないと言う。実は、仮釈放になった少年Aには、多額の賞金がかかっている。罪を犯した少年は死んだのだといい聞かせるテリー。
  ジャックは、かってエリック・ウィルソンという名前だった。病の母親からは顧みられず、学校でもいじめられっこだったエリックは、ある時フィリップという少年に会う。家庭で虐待されているフィリップとエリックという二人の孤独な少年はお互い生まれて初めての友達になった。ある不幸な事件が起きてしまうまでは・・・。その事件は、イギリス中の注目を集め、悪魔の少年たちの犯罪と騒ぎたてられ、10年を経てようやく仮釈放となったのだ。
  テリーは仕事にのめり込みすぎて離婚している。別れた妻のもとで育った息子が、同居させてほしいとテリーのもとにやってくる。しかし、息子は家に引きこもり自宅で酒浸りだ。ある夜、テリーは酔い潰れ、ジャックは自分の誇りだと言ってしまう。
  ある日、ミッシェルが姿を消した。更に、運送会社からも首を宣告される。クリスからも絶交だと言われる。テリーの携帯も繋がらない。家の前にはマスコミたちが、張っていて、フラッシュを浴びせかけ、マイクを突き付ける。実は、ジャックが実は悪魔の少年の一人だと密告したのは、テリーの息子だった。問い詰めるテリーに、自分の息子のことは捨てておいて、犯罪者の方が大事なのかという息子。テリーは言葉を失う。ジャックは、何とか家を脱出し、町を彷徨う。しかし、自分の名と写真の載ったタブロイト紙が街中で売られている。ジャックは惹きつけられるように、鉄道に乗り、海辺の終点の町へ。そこで、ミッシェルに会う。彼女は愛していると言ってくれた。しかし、周囲とのことで、前の関係に戻るには、すこし時間がかかるかもしれないと言う。テリーとクリスの留守電に、メッセージを残し、寒い海に身を投げうようとしているジャック。   
  自分の犯した罪を償うことは死ぬことしかないのか。それも特に少年犯罪の場合だ。最近は、加害者の人権よりも、被害者や遺族の人権を唱える声が大きくなっている。目には目を、歯には歯をという理屈は分かりやすい。しかし、それだけでいいのか。とはいえ、自分が被害者遺族だったらと考えると、簡単に罪を憎んで人を憎まずとは言い切れないだろう。しかし、本当の真実はどこにあるのかを、神ではない人間が把握することの難しさ。それを、異質な人間を排斥する快感で、社会が白黒を決めつけることだけは危険だ。そんないろいろなことを考えさせる素晴らしい映画だ。2009年にこぼれてしまったが、2008年洋画に加えなければいけない作品。
     渋谷シネマヴェーラで官能の帝国ロマンポルノ再入門2
     83年日活森田芳光監督『ピンクカット 太く愛して深く愛して(7)』城南大学法学部の4年生友永明(伊藤克信)は、就職試験に連戦連敗中。彼女の女子大生のユカ(井上麻衣)は、恋人に条件が厳しく、友達の彼氏がみんな就職が決まっているのに明だけ決まっていないことに不満顔だ。ある日リクルートカットにしようと近くの床屋のアズサに行く。自分についたマミ(寺島まゆみ)も含め理髪師は皆若い女の子で、制服は超ミニのテニスルックだ。友人の江川巧(佐藤恒治)に勧める明。さっそく江川は、アズサに出かけ、お店のミドリと付き合うことに。明は偶然下北沢の駅でマミに再会。店の2階に住んでいると言う彼女と電話番号を交換する。ある夜、江川がミドリと一緒に明の下宿にやってきて部屋を貸してくれと頼む。断れずに追い出された明は、マミの家に。両親が亡くなり自分が店を継いでいると言うマミ。思わずマミに抱きつくが、拒まれ、ごめんと言って帰って行く明・・・。これ以上書くのは馬鹿らしくなってきたのでやめる(苦笑)
  伊藤克信だし、「の・ようなもの」の習作のようなものだと思って見ていたら、公開年は逆なんだな。「の・ような」の二番煎じの出涸らしということか・・・。「家族ゲーム」と同じ年。忙しかったんだな(苦笑)。
   76年日活田中登監督『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者(8)』。大正末期、郷田三郎(石橋蓮次)は、親の遺産を継ぎ生活には困っていないが、東栄館と言う下宿で退屈な毎日を送っていた。ある日、郷田は、屋根裏に上がり、下宿の住人たちの生活を覗き見る快感に取り憑かれた。ピエロ姿の道化師のもとには、洋装の貴婦人清宮美那子(宮下順子)が訪れ、道化師を自分の性欲の道具にしている。また救世軍の牧師遠藤(八代康二)は、人には道を説く癖に、下宿の女中銀子(田島はるか)に懺悔しろと言って、女郎屋にいた事や、下宿の主人に金を貰って関係していることを言わせて自ら着物の下に手を入れている。また男装の女流画家美幸(渡辺とく子)は、モデルに怪しい格好をさせ持て遊んでいる。
    貴婦人は、成金の娘で、父親の書生だった夫に変態的な行為を仕込まれた。美那子は、道化師と関係している際に、天井の節穴から覗く郷田の目に気がつき、その視線は彼女の快楽を高めさせ、遂には太ももで首を絞め殺す。郷田は、節穴が、眠っている遠藤の口の上にあるのをいいことに、毒を落として殺すことを思いつく。美那子の運転手蛭田に案内され、清宮邸に行った際に砒素を貰う。美那子は、夫の飲むワインに少しずつ入れていたのだ。蛭田は、人間椅子の中に入って、美那子の体温を感じている。美那子は、椅子の中に油を流し込み焼死させる。遠藤の毒殺も成功、遠藤は聖職者なのに自殺をしたインチキだということになる。
   夫も毒殺した美那子と郷田は、美幸に自分たちの体をキャンバスにして絵を描かせる。二人の異様さにおびえる美幸を郷田は犯し、美那子は太ももで首を絞めて殺す。屋根裏で抱き合う二人。その時、関東大地震が起きる。下宿から見える浅草の十二階も半壊する。東栄館に関わった者は女中以外皆死んだ。廃墟となった東栄館の井戸を汲む女中。いつの間にか、井戸から出てくる水は、血の色になっている。
   銀座シネパトスで三十路オンナの知られざる愛と葛藤の日々
   03年シネカノン廣木隆一監督『ヴァイブレータ(9)』
   雪のホワイトデーの夜。31歳のライター、早川玲(寺島しのぶ)は、コンビニにいる。彼女は、アルコール中毒で食べ吐きになっていた。今日も頭の中で沢山の言葉が渦巻いて、白ワインとジンを買おうと思いながら、コンビニの中を何周もしている。最後には、女性誌の中の牧瀬里穂が話し掛けてくる。玲は人に触れたくなっていた。その時、金髪の男が入ってきて、焼酎と氷を買った。男が、玲の横をすり抜けた時に、玲の革ジャンの中の携帯が振動した。心のスイッチが入ったように、フラフラと外に出る玲。
   トラックの運転席にいる男の手招きに、助手席に乗り込む玲。酒を飲みたいと言う玲に、男は焼酎のロックをくれた。その時警官が来る。トラックのアイドリングが五月蠅いという通報があったからと、すまなそうに言う警官。免許証を出す男の名前は、岡部希寿(たかとし)(大森南朗)。翌朝、建築中のマンションにドアを納品する予定の希寿は、近くにトラックを移動させる。希寿に触りたいと言う玲。見ず知らずの男に恐怖感も感じたが、あくまでも優しい希寿と抱き合う玲。翌朝早くトラックから降りて吐く玲。焼酎とスナック菓子しか出ない。ふと思いついて、希寿を起こし、道行きさせてくれと頼む玲。
   トラッカーの希寿の話は、初めて聞くことばかりだ。トラックの仕事の話、やばい仕事の話、妻子の話、ストーカーの話、トラック無線の話、ぐれていた頃の話。中学途中で組事務所で準構成員になり、悪いことをし続けてきたが、真面目に働こうとトラックを買って、6年が経つと言う。
   新潟への道、酒を飲まずに眠れるようになっていた。しかし、帰路で突然、玲の心身に異変が起きる。身体はOKでも、気持ちが希寿を拒んでしまう。また、急に声が再び聞こえてきて吐き気が玲を襲う。そんな玲にも、希寿は優しかった。定食屋で食事をしながら、玲のことを好きだという希寿。妻子とストーカーの話は嘘だと白状する。
   最初に出会ったコンビニの前で、トラックを降りる玲。「食べるつもりが、食べられてしまった。しかし、自分は少しはいいものになった気がする」玲は、白ワインとジンを買った。コンビニを出た玲の表情は、清々しかった。
  公開当時に見た時は、実は、中盤眠ってしまった。退屈というより、何の映画を見ても寝ていたから、病気だろう(苦笑)。荒んだ表情と肌をした玲が、トラックに乗ってどんどんきれいになり、かわいくなったなあと思ったら、眠ってしまい、次に起きた時は、とても重苦しい表情で定食屋で向き合っているところだった。男が金髪というのを忘れて、髪が真白になったと錯覚して、どんな恐ろしい出来事があったんだろうと思ったくらいだから、今日初めてちゃんと見たことになる(苦笑)。廣木監督うまいなあ。音楽もいいし。しかし、やはり、寺島しのぶが素晴らしい。結婚以来、テレビが多くなって寂しい。

2009年1月5日月曜日

新年早々、ボケ初め

   新年会のご案内メールを出したらいきなりタイトルが日付を間違った上、忘年会になっている。今年一年が思いやられる幕開けだ。そんな緩みきった精神にカツを入れようと、
   新宿テアトルタイムズスクエアで、62年デビッド・リーン監督『アラビアのロレンス(2)』。文句無し。
   渋谷シネマヴェーラで、官能の帝国ロマンポルノ再入門2
   80年日活黒沢直輔監督『ズームイン 暴行団地(3)』希望が原団地の人妻冴子 (宮井えりな)の夫は競輪選手なので、いつも旅だ。かっての恋人でピアノの調律師をしている中村隆也(志賀圭二郎)がアメリカから帰国していると聞いて会いに行く。冴子の団地から隆也の団地までは近い。傍まで行くと、黒ずくめの男に強姦されてしまう。男が手に持っていたのは、ピアノの調律に使うハンマーピックニードル。隆也の部屋には、誰もいない。しばらくして隆也が帰ってくる。彼との関係は、強姦犯の記憶を薄れさせたが、冴子が数年前に隆也を捨て、競輪選手と結婚して以来、激しく憎んでいたと告白する。
  その頃から、団地では連続強姦殺人事件が起る。残虐な手口で殺し、最後には火をつけるところが共通している。ある時から、冴子は、隆也が犯人ではないかと思う。隆也の後ろ姿にそっくりな黒づくめの男が犯行現場から逃げ出すのを目撃して、その恐怖は確信に変わる。やはり、隆也が犯人ではないかと思った団地の娘(大崎裕子)が、隆也を付け回す。最後には、団地の屋上でもつれ合い、隆也と娘は落下し死亡した。事件も終結したかと思ったのち、冴子と会話を交わした妊婦が全身火だるまになる。逃げ去る黒づくめの男の姿を目撃するが、隆也とは全く異なる人相の男だった・・・。 黒沢直輔初監督にして、ロマンポルノ凡百の映画。
    77年日活藤田敏八監督『横須賀男狩り 少女・悦楽(4)』。
    横須賀の女子高生きっこ(大野かおり)は同級生のミコ(中川ジュン)の家にいる。ミコの母親(絵沢萌子)は、ディスコQを経営しているが、男出入りが激しい。きっこは、このままミコの家に泊まろうと家に電話をするが、何度かけても出ない。結局、きっこは帰宅することに。姉夫婦が電話に出られなかった理由は、出刃包丁と拳銃を持った男(高橋明)が家に押し入り、夫の光夫(矢崎滋)を縛り、姉の八重子(折口亜矢)を強姦していたからだ。男は、八重子が最後には感じていたのだから強姦ではなく和姦だと言い、金を奪って逃げる。家の前で車に乗ろうとする強盗強姦犯ときっこはすれ違う。結局姉夫婦は外聞を恐れ、警察に届けなかった。その日以降姉夫婦がぎくしゃくしていたが、きっこには理由はわからない。
   きっこもミコも、退屈していて遊び歩いている。母の前の男、徳田(蟹江敬三)は、スーパーリアリズムの似顔絵かきだ。春画など客の依頼で何でも書くが、徳田の店で、ジミー加藤という若者と知り合う。ミコは結局ジミーに処女を捧げた。きっこの家は何とか平穏を取り戻していたが、ある日、強盗強姦魔が再びやってくる。八重子が再び感じてしまったことで、夫婦は離婚し、一家はバラバラになった。きっこも高校を辞めることにした。働かせて貰おうとやってきた徳田の店で、強盗強姦魔の似顔絵を見つける。ひと月前くらいに依頼してきた客で、ミコは母の店にも来たことがあるという。男を探すために、しばらく、ミコの母の店Qで働くことにするきっこ。ひと月ほどたったある日、男が現れた。きっことミコは男に復讐するために、男を誘う。しかし、逆に男にモーテルに連れ込まれ、きっこは処女を奪われてしまった。満足げに立ち上がりミコに近づく男の頭を椅子で殴り、気絶させ、身体を縛る二人。部屋にあった鞭で男を殴り続ける。血まみれの男を残し、男の車で海へ行く二人。車の中には拳銃があった。車を撃ち燃やす二人。
   たぶん、台本通りに撮った絵を相当強引に縮めたのかもしれない。急にテロップで、何ヶ月後とか、1年が経ったとか入りだす。女子高生役二人の演技の拙さもあって、正直かなり酷い出来だ。昔みたことがあると思っていたが、未見だったかという気分に。それとも、きれいさっぱり忘却の彼方に行ってしまったのか。
   81年日活東陽一監督『ラブレター(5)』。
   加納有子(関根恵子)は、詩人で53歳になる小田都志春(としはる)(中村嘉葎雄)の愛人。かって都志春の詩でダンスを踊ったことがあり、都志春から誘われ、肌の白さからウサギと呼ばれ女になって6年が経った。しかし、都志春は本宅に妻もおり、気紛れにしか有子のもとにはやって来ない。有子が住む原宿の家の隣には、タヨ(加賀まり子)と言う人妻が、数名の男たちに部屋を貸している。男たちは、隣家の若く美しい有子が気になり食べかすを有子の家の庭に毎晩投げ捨てるせいで、蠅が大量発生し不衛生この上ない。また、夜遅く近くの公園のブランコの物悲しい音が聞こえ、有子を眠らせない。ある日公園に行ってみると中年男(仲谷昇)がブランコを漕いでいる。男はタヨの別れた夫村井で、妻への未練で、彼女に聞かせようてブランコを漕ぐうちに、漕がないと眠れなくなったという。
   都志春は、たまに現れて有子を可愛がっていくが、有子が起きるといなくなっており、その後音信不通が続く。有子は睡眠薬を飲んでも眠れない。ある日出版社の男が生活費だけ届けにくる。全集の校正で缶詰めになっていると言う。有子が不眠を訴え、胸を借りるだけでもいいと言うと、男は都志春に知れることを恐れ逃げ出した。しかし、数週間後、耐えられなくなった有子が出版社に電話をすると、都志春は妻が病気でずっとつききりで看病していると言われる。ショックを受ける有子。町を彷徨い、公園まで来たところで、睡眠薬もあり倒れてしまう。有子が目を覚ますと都志春がいる。公園で倒れている有子を見つけたタエが自殺を図ったと連絡したのだ。睡眠薬を吐いたため助かった。医者からは絶対安静と言われていたにも関わらず、都志春は有子を抱く。しばらくの間都志春は有子の傍に付き添った。更に、妻と離婚し、有子を妻とした戸籍を見せる。しかし、また都志春は行方をくらます。
   ある日、タエと歩いていると、公園でブランコに乗った村井に会う。なぜ有子と村井が知り合いなのか怪訝な表情のタエ。しばらくして、有子が映画を見て家に帰ると門の前に都志春が立っている。浮気をしているだろうとしつこく迫る都志春。ブランコの男は誰だと言う。どうもタエが告げ口したらしい。結局体を調べるといって強引に有子の体を求める都志春。更に、有子の白い内股に、“とし”という入れ墨を入れる都志春。有子は妊娠していると告白し、都志春の子供を産みたいと言う。強引に中絶させる都志春。その頃から、有子の精神が病み始める。看病している都志春がタエから電話の取次ぎを受ける。有子が隣家に行くと抱き合っている都志春とタエ。また都志春はいなくなった。不眠が続く有子は村井を誘う。添い寝をしてもらったが、有子の心身は都志春なしでは眠れなくなっていた。有子が隣のアパートの残飯を片付けているとタエが村井を見つけた。泊めてもらっただけだと村井が言ってもタエは信じない。自分が説明するとタエの部屋に上がっていた筈の村井がタエを抱いている。タエがトイレに行くと、中に気が触れた有子の姿が。
   有子は精神病院に入院する。ようやく彼女は安眠することができた。面会だと言われて面会室に有子が行くとタエがいる。都志春が亡くなった新聞を見せるタエ。今日が告別式だが、本妻は入院中だし、余計なもめごとが起きないように、有子を退院させないように周りがしていると教えるタエ。告別式に、喪服姿の有子がやってくる。受付の編集者たちは迷惑顔だ。線香くらい上げさせてくれと無理を言い、霊前に座る有子。顔を見させてほしいという願いはかなわなかった。遺影に向かって、ずいぶん早く地獄にいってしまいましたねと言って涙を見せる有子。
   ブランコに乗る村井と有子。肉体関係を持てば元の関係に戻るかと思ったがそんなことはなかったと言う村井。これからどうするんですかと有子に尋ねる。有子も村井に同じ言葉を返すのだった。二人、夜空を見ながらブランコを漕ぎ続ける。
   関根恵子、美しく可愛く可憐で素晴らしい。ついでに言えば、この時の加賀まり子も女盛りで匂い立つような色気に満ちている。リアルタイムで見た時には、全く魅力を感じなかった映画に、こんなに心が動くのは何故だろうとずっと考えていた。都志春の53歳の年齢にリアリティを感じるからなのか、かなり退色している酷いプリントがフィルターをつけているかのように統一した世界観を醸し出しているからなのか、単純に、この年になると関根恵子が若い娘に見えるからなのか、その前の2本のあまりの出来で、普通の球が豪速球に見えてしまうのか。以前、東陽一について、「サード」までで「もう頬づえはつかない」以降の作品は、全く評価しないと書いた気がするが、すみません、この「ラブレター」は素晴らしい。ポルノ映画を差別する訳ではないが、やはり、いい脚本といい役者といい演出がそろえば、ロマンポルノという括弧は忘れてしまうなあ。それにしても、30年経ってここまで印象が変わるとは・・・。「ラブレター」とは恋文ではなく、愛の文字という意味。昔見た時は、有子の独白が多いので、モデルになった金子光晴と愛人との手紙が元になっているのだと一人合点していた。今回、ようやく分かった。30年かからないと読め取れない自分の読解力は、その程度である。しかし、今回見ていて、「!」と頭の中の電球がついた瞬間、とても幸福な気持ちに。

2009年1月4日日曜日

三が日はあっという間だなあ。

   正月気分のまま、読書と惰眠。しかし、三が日テレビの編成は酷いな。窮すれば鈍す。お笑いと再放送とスポーツ。安上がりと言う理由だけで使われる生番組でのお笑い芸人たちの顔を見るだけで切ない。何を見ても眠くなるだけだ。遅昼を同居人と地元の蕎麦屋鞍馬。昼ご飯と言うより、2人で酒飲み。かなりご機嫌で、気がついたら1人で、西荻から東西線。乗り換えるのも面倒臭く、
神保町シアターで、女優・山田五十鈴
  新年皮切りは、57年東宝千葉泰樹監督『下町(ダウンタウン)(1)』。終戦後4年目のまだ寒い早春。葛飾辺りの下町を静岡茶を行商する三十前後の女矢沢りよ(山田五十鈴)。朝から一軒しか売れない。どこからか昼のサイレンが聞こえる。昼ご飯を食べようにも、余りに寒い。荒川沿いに屑鉄屋がある。火に当たらせて貰おうと近づくと、男がいて、親切に招き入れ座る所まで用意してくれる。問わず語りにお互いの身の上話になる。リヨの夫は、シベリアに抑留中だ。2年前にバイカルアスーチンという所からハガキが一枚来たきりだ。男は鶴石芳雄(三船敏郎)。やはりシベリアに2年行っていた。りよがお礼に見本のお茶を入れると、鶴石は鮭の切り身を半分くれ、お茶も2つ買ってくれる。
りよは幼なじみのきく(村田知英子)の家に息子の留吉と間借りしている。幼なじみは、私娼の玉枝(淡路恵子)に部屋を貸し、上がりを取っている。玉枝は、夫を療養所に入れて治療費の為に春をひさいでいるのだ。幼なじみは小金持ちの大西(多々良純)に頼まれ、りよと付き合わないかと言う。気が進まないりよは、ある日留吉を連れて行商に出て、お昼を鶴石の分のコロッケを買って、鶴石のもとに寄る。鶴石は、昼ご飯までの間、留吉を近くの白髭神社の縁日に連れて行ってくれた。また、近くの浅草に行ったことがないと留吉から聞いて次の休みに一緒に行こうと誘ってくれた。帰宅すると近所の人たちが騒いでいる。売春防止法で幼なじみのきくと夫と玉江が警察に連れていかれたのだ。
次の休みに、花屋敷の乗り物でご機嫌な留吉に、六区で映画を見ようと言う鶴石。眠ってしまった留吉をおぶって映画館を出ようとすると雨が降っている。このまま別れ難く、どこか旅館で雨宿りをしてお蕎麦でも食べませんかと誘うりよ。旅館で不味くて高い中華そばを食べ、留吉を挟んで川の字に寝ている三人。鶴石は、復員した時に妻には他の男と暮らしていたと告白する。そちらに行っていいかと尋ねられ断るりよ。女でもキチンとした人はいるんだとヘンな感心の仕方をする鶴石。しかし、二度目に声を掛けた時には、抱きしめていた。初めは拒むが、鶴石の背に腕を回すりよ。翌朝、水溜まりの残る道を歩く三人。もしお腹が大きくなったらと考えてしまったと言うりよに、どんなことでも責任を取ると力強く言う鶴石。
   翌日、行商に出ようとすると吉原の病院に入れられている玉枝宛てに夫が危篤だという電報が届く。玉枝に面会し、田無の療養所まで一緒に行くりよ。結局玉枝は死に目には会えなかった。夫の遺骨を持って郷里に帰るという玉枝を駅まで送る。結局、二日ほど、鶴石のもとに行けなかった。
  数日後、留吉をつれ行商に行く。昼ごはんを鶴石と取ろうと思いながら、コンパクトで自分の顔を見るりよ。しかし、知らない男二人が家の片付けをしている。訳を聞くと、昨日、大宮に鉄屑を運んだ帰りのトラックごと川に落ちて鶴石は死んでしまったという。部屋の黒板に、鶴石の字で、二時まで待った。リヨさまと書いてあった。荒川の土手を、留吉を連れて放心したようにあるいているりよ。
  1時間弱の作品だが、本当によく出来ている映画だな。いい脚本といい役者。最近の撮った映像はみんな使わないと気の済まないような2時間を超える貧乏くさい作品は、時間の無駄だ。三船敏郎の存在感。山田五十鈴の、行商で疲れた顔が、鶴石と出会ったことで、女の顔を取り戻していく演技。溜息をつきながら見るのであった。
   凄い人だ。ほぼ満席、こんなに沢山の人がいるなんて。半年以上通っているが、動員多い方に入ると思う。ここは整理番号順に入れていくのだが、行列を作る訳ではないので、オバハンたちは遥かに後ろの番号でも、なぜか前の方に陣取ろうとするので、殺気立つ。しかし、正月テレビを見てもつまらないせいか、こんな昔の映画を見にわざわざ神保町まで出てくる中高年はこんなにいるのだ。東京ではなく、地方にこそ、多い年寄り。エンタテイメント産業の食べていき方あると思うのだが。