神保町シアターで、女優・山田五十鈴。
53年北海道炭労/キヌタプロ亀井文夫監督『女ひとり大地を行く(10)』。
冒頭に北海道の全炭坑組合員が33円ずつ出し合ってこの映画が製作されたというテロップが出る。昭和4年秋(1929年)アメリカウォール街で起きた大恐慌は直ぐに日本を直撃。東北地方は不作と重なり身売りなと悲惨を極めた。秋田県横出、山田喜作(宇野重吉)サヨ(山田五十鈴)夫婦も二人の幼い子供を抱えて、借金を返せない。喜作は、北海道の抗夫募集に応募した。旅賃を渡そうとするサヨに、歩けばいいと無一文で出発する喜作。
喜作が入った炭坑のたこ部屋には、だった30円で売られてきた男たちでいっぱいだ。喜作が入った翌日にも、逃げ出そうとした男(浜村純)が捕まり、見せしめの為に火に焼いた鉄棒でいたぶられた上殺された。男を埋める穴を掘らされる喜作。抗内の仕事も、抗夫たちは虫けらだ。しかし、弱いものを守ろうとする喜作の姿は目を引いた。ある晩、脱走した男を助けてやる。番人は、お前は抗夫にしておくには惜しいと言って、見逃す。しかし、その日、ガスが出て、延焼を恐れた抗長は、まだ抗夫が残ったまま、抗道を埋める。深い抗道にいた喜作は、その日以来姿を消した。
全く便りもないまま、2年が過ぎた。サヨは、借金の方に遊郭へ行かされそうになるが、子供を連れて夜逃げして、喜作が働いていると聞いた北海道の炭坑に行く。しかし、喜作は、2年前のガス事故で死んだと言われる。呆然とするサヨに、親切な、お花(北林谷栄)は、小さな子供を抱えるサヨに同情して飯場の飯炊きの仕事を世話する。しかし、サヨは、死んだ夫が働いた現場であり、子供の学資のためにもより給金のいい抗内の仕事を望んだ。
父親のいない喜一がいじめられているところを抗夫の金子(沼崎勲)が声をかけ、自分が父親だと言って、喜一を肩車する。金子はアカだと噂がある。強制連行されてきた中国人のレイ・シチュウ(加藤嘉)が、満足な食事を与えられないため脚気になっていて倒れ乱暴されているところを助ける。しかし、しばらく後、金子は徴兵され、戦死した。日本は敗戦する。中国人の集団が長屋にやってくる。恐る恐る戸を開けると、レイがいて、金子に助けられたお礼を言いに来たという。金子は戦死したと聞いて肩を落とすが、喜一に、立派になって戦争を止めてくれと言って帰国していく。
サヨの必死の働きで、長男の喜一(織本順吉)は、炭坑で選炭所の仕事を、次男の喜代二(内藤武敏)は、昼間は札幌で組合の事務の仕事をしながら、夜間の工業高校に通うまで育て上げた。しかし、喜一は、ある時働いた金は全部自分で使いたいと、お花の娘文子(桜井良子)と駆け落ちする。その頃サヨは、長年の無理が祟って寝込む。喜代二は、札幌の夜間高校を退学して、炭坑で抗夫の道を選ぶ。喜代二は正義感が強く弱いものに優しかった金子のようになりたいと言う。組合の委員長河村(中村栄二)の娘孝子(岸旗江)と惹かれあっている。サヨは、喜一が千歳で警察予備隊の制服を着ていたのを見掛けたと言う話を聞いて、病を押して探し歩く、文子(桜井良子)と同居している部屋を探し当てるが、サヨの目の前で警官に踏み込まれる喜一。
ある日、会社側の月産7万トンの要請に、怪我人が続出する状況に管理人に文句を言う喜代二。しかし、翌日、会社側は、喜代二たち5人の入抗を拒否する。喜代二たちは組合に問題を持ち込む。初め冷ややかだった抗夫たちも、若い抗夫(丹波哲郎)や、炭坑を逃げて蟹工船や満州から帰国した喜作の言葉に組合に結集する。、組合総会で、5人の抗夫の問題ではなく、無理に月産7万トン体制を強行する会社側の問題だと言う喜作に、会場はみな賛同する。焦った会社は、バーの女将(朝霧艶子)に入れあげ身を持ち崩していた河村に大金をやって、送電線を切らせ、抗内の排水ポンプを止め、その犯人は喜代二だと、借金漬けの喜一に偽証させ、逮捕する。
弟を売ってしまった喜一は、良心の呵責から酒に溺れ、河村に止められるが、そのやり取りを孝子は聞いてしまった。警察と衝突しそうな組合員のデモを前にして、真犯人として父親の名を告白する孝子。喜作は、18年振りに、妻サヨのもとに行く。サヨは息子の喜一を追いかけ、自転車とぶつかって盲目となっていた。喜一、清次、隣人たちに囲まれて、息子を喜作に渡せてよかったという言葉を残して息絶える。サヨの死は、労働者たちの結束を更に強いものとした。喜代二は、孝子に、労働者が幸福に働ける社会を作るのだと言う。
ドキュメンタリー監督として名高い亀井文夫の劇映画。12月京橋フィルムセンターで特集を組まれていて、見ようと思っていたが、時間が合わなかった。53年の製作だし、組合の資金援助による独立プロなので、教条的なメッセージも多いが、当時の炭坑で働くものたちの生活を丁寧に描いている。「女ひとり大地を行く」という素晴らしいタイトルでと、よく使われるいきいきとした表情の山田五十鈴のスチール写真で、もっと強い生き方をした主人公なのかと思い込んでいたが、抗内で、息子を育て上げるために石炭を掘っている時期を過ぎると、息子や周囲の人の不幸に悩み、寝着いたり、やつれた姿で喜一を探し求めたりと母子ものの印象だ。後半は、喜代二と孝子の話がメインになっていく。二人は、恋愛関係というよりも同じ職場で働く同志という関係に近いところが、教条的な感じがするが、「蟹工船」といい、虐げられた労働者たちが、自らの力で世の中をよくしていくには、団結することしかないのだという主張は、100年に一度の大不況という現在の世界に訴えうるものだと思った。
神保町を古本屋覗きながら、ダラダラと歩き、赤坂へ。嫌がる後輩Kを無理矢理誘い(笑)、赤坂大衆居酒屋の老舗正駒で飲む。世の中は、まだ新年会なんだな。私の仕事始めはいつになるか(苦笑)
0 件のコメント:
コメントを投稿