2009年10月24日土曜日

俳優 佐藤慶。

   阿佐ヶ谷ラピュタで、俳優 佐藤慶

  68年大映東京増村保造監督『大悪党(602)』
 ボーリング場、ヤクザの安井一郎(佐藤慶)の視線の先は、ボーイフレンドの大学生(森矢雄二)と別れ話をする太田芳子(緑魔子)の姿がある。芳子は洋裁学校に通う二十歳、長野の有名高校の校長を父に持ち、いつまでも身体を許さない芳子に男は耐えられなくなったようだ。一人残った芳子に、安井が声を掛ける。
  5ゲーム程一緒にボーリングを楽しんだ後、安井は芳子をバーに誘う。お酒は飲めないと言う芳子にバーテンの男(三夏伸)は、そうしたご婦人にとカクテルを勧める。しかしバーテンは安井とグルだった。「安井さん上玉ですね」「狙って1ヶ月掛かったんだ。組が無くなって、金を稼ぐのが面倒になった」「自分は、こんなザマですよ。」飲まされたカクテルのせいで、フラフラになった芳子を、安井は自分のマンションに連れ込み、服を脱がし、処女を奪う。翌朝、目を覚ました芳子は、自分が全裸で、安井の隣で寝ていることに気付いた。慌てて服を探し、ハンドバッグの中に、学生証があることを確認し、安井に気付かれないように逃げ帰った。
 そんな出来事を忘れようとするように、一心不乱にミシンを踏む芳子の姿がある。下宿のドアを叩く音がし、入ってきたのは安井だ。「探したぜ」と口を開き、下宿の管理人に縁談の身元調査だと偽り、学校や長野の親のことを聞き出したと言った上で、芳子の裸の写真を取り出す。驚いて破る芳子に、ネガがあるので何枚でも焼けるから無駄だ、ネガまで返して欲しければ一回だけ、自分の言うことを聞けと脅す安井。
   あづさプロダクション。「ブルー・トランペット」がヒットし人気スターになった島輝夫(倉石功)のマネージャー(内田朝雄)は殺到する電話を断っている。事務所に安井が現れ、島に声を掛ける。周囲に気を使うように、別室に安井を案内する島。「人気者は大変だな。3万円で女を世話してやる。」「いいですよ。」「へんな商売女だと思っているのかもしれねえが、洋裁学校のお嬢さんだぜ。」「女の世話はいらないので、金だけ払います。」「お前、偉くなったな。俺に金を恵んでくれるのか…。新人時代、どれだけウチの組がお前のバックアップしたか忘れたのか。」「そんなことないですよ」「暴力団が表に出られ無くなって、俺も苦労しているんだ…。」「分かりました」「じゃあ、今夜10時に、地図のマンションの603号室に来てくれ。これが鍵だ。」
    その夜赤坂スカイハイツに入って行く、サングラスの島の姿がある。部屋に入ると、芳子がいる。「思ったよりも、君は上等だな」島は明るいまま、芳子を抱こうとする。「灯りを消して下さい。」「俺は客だ。俺は明るいのが好きなんだよ。」芳子を無理矢理ベッドに押し倒し、のしかかる島。
   「気に入ったよ。また頼むよ。」「私はそんな女じゃありません。」そこに、8mmカメラを廻しながら、安井が入ってくる。「これはなかなかいい、白黒ショウが撮れた。」「安井さん!俺を騙したのか」「そいつは俺の女だ。人気スターが、ヤクザの女とやっているブルーフィルムは高く売れるだろう。」

    67年表現社篠田正浩監督『あかね雲(603)』
    昭和12年8月10日、福知山歩兵連隊駐屯地。起床ラッパが吹かれる。哨兵交代の時刻だ。清川誠と三枝数男、二人の二等兵は脱走した。山中の民家で私服を奪い着替えてから、二人は舞鶴線を別の駅から乗って合流しようと約した。三枝が乗った汽車が黒谷駅に着く。しかし、彼が見たのは4人の憲兵に取り囲まれ、逃げる清川(織本順平)の姿だ。追い詰められ、反対から来た機関車に飛び込む清川。
   輪島にある旅館さのや。そこに19才の女中二木松乃(岩下志麻)が働いている。近くのカフェの女給の律子(小川真由美)は、気に入った客をさのやに連れて来る。身寄りもなく食べるために春をひさぐようになった律子は、純真で人を疑うことを知らず、病身の父親のために健気に働く松乃を妹のように可愛がっていた。
  ある日松乃を兄の勇(河原崎長一郎)が訊ねてくる。召集令状が来たので、神経痛に苦しむ父親たちのことを頼むと会いにきた兄に、一円少ししかない有り金全てを渡し、両親のことは心配するなと送り出す松乃。父親の治療費のことで悩む松乃に、自分は、生きるために好きな男たちと寝る自分を淫売と言って軽蔑するさのやの女将たちや、輪島の街が嫌になったので、山代温泉に行って芸者になるのだと言う。山代の旅館の女中なら、今より給金が増えるだろうと松乃も誘うが、松乃は決心がつかない。
   ある日、松乃は、山代に出た律子からの誘いの手紙をさのやの女将に見つかり、叱られていた。そこに、缶詰会社の外交員だと言う小杉稲介(山崎努)が、さのやに客として訪れる。知り合いから山代温泉に来ないかと誘われていて悩んでいると打ち明け今3円しか貰っていないと言う松乃に、小杉は北陸三大温泉の山代に出れば7円でも、8円でも貰えるだろうと言う。山代の旅館なら知っているところも多いので自分が紹介してやってもいいと言う。誠実そうな小杉の言葉に、一銭でも多く仕送りをしたい松乃は、輪島を出る決意をする。
  踊りの師匠のところから、置屋の山野屋に戻ってきた律子を、松乃が待っていた。松乃の決意を喜ぶ律子。小杉が紹介すると言う旅館くらやにも、文句はなかった。しかし、律子はその夜から馴染みのご隠居と出掛けなければならなかったので、翌日松乃は独りで、くらやに小杉を訪ねる。
  小杉は、実家にお金を沢山送りたいのだったら、女中よりも仲居になったほうがいいと言う。綺麗な着物を着て、客にお酌をするだけで、何倍もお金が貰えると聞いて頷く松乃。小杉は直ぐに仲居置屋の里見に連れて行く。女将の里見チカ(宝生あやこ)は、若く美しい松乃を見て喜ぶ。小杉は里見から、三十円程の紹介料をせしめたようだ。
   帰って来た律子は、松乃の話を聞いて激怒する。仲居と芸者は、同じように着物を着て化粧をするが、踊りや歌、三味線など芸を売る芸者と違って所詮、女を売る仕事だ。旅館の女中から頼まれれば、客と一夜を共にしなければならないのだ。更に里見の仲居たちは、男を金で品定めするようなところがあり、評判が悪いのだ。世間知らずな松乃と、そんな松乃を騙して仲居に売った小杉に文句を言いに、律子は松乃を引きずるように出掛け、松乃を神社に待たせくらやに乗り込んだが、朝一番で発っていた。神社で、天涯孤独な自分が妹のように思っている松乃の身の上を思って泣く律子。自分も姉のように慕っている律子が、小杉のことを悪く言うので、どうしていいか泣き出す松乃。
   ある日、田舎の母親から手紙が来る。父親の神経痛がヒドくなり入院させなければならなくなったので、金を送ってくれないかと言うのだ。女将に相談したが、既に今月は、一度前貸ししているし、着物代や食費などを足すと、売上よりも上回っていると断られる。困っている松乃にお座敷が掛かる。行ってみると、小杉がいる。お世話になっている久能川市次(花柳喜章)に抱かれてくれないかと頭を下げられる。その代わり、久能川は百円のお金を出してくれると言う。小杉のためになるのかと尋ねると、頷く小杉に、松乃は、律子に相談しようと置屋に行くとお座敷だと言う。
  困った松乃は、小杉に抱かれるつもりで、久能川に抱かれると小杉に伝える。
郵便局から田舎の親に90円を送った松乃を、律子が待っている。くらやの女中に聞いたが、小杉が連れてきた久能川と言う男に水揚げされたと言うのは本当かと尋ねる律子に、どうしてもお父ちゃんの入院費のために大金が必要な自分に、久能川を紹介してくれたんだと答える松乃。水揚げ代が百円と言うのは安すぎる。絶対ピンハネしていると怒り狂う律子に、小杉さんは大金が必要な私に力を貸してくれた親切な人だと言い張る松乃。
   ある日、松乃は抱輩の徳子と金沢に出掛ける。嘘をついて、松乃は、北日本食品に小杉を訪ねる。久能川は、小杉が何日も休んでいる、松乃が気に入ったので、またお座敷に呼ぶと言う。久能川に聞いた宿に小杉を訪ねる松乃。小杉は、自分は脱走兵だと告白し、松乃を久能川に売ったのは自分だと言い、しきりと詫びるのだった。
   数日後、里見を憲兵隊少尉の猪股久八郎(佐藤慶)が訪ねてくる。小杉は脱走兵の三枝数男だと言う。久能川が、小杉を売ったのだ。脱走兵だと知りながら、いいように使って、密告して捨てる。酷い男だ。松乃が金沢に行った際に、北日本食品を訪ね、小杉の宿を聞いて出掛けたこと、久能川に百円で水揚げされたことまで、猪股は知っていた。女将は、勝手に水揚げをし、百円貰ったことなど、里見のせいにしたとされ、当局から目を付けられることを嫌い、直ぐに松乃をクビにする。
   一方、律子は、鴨下刑事(野々村潔)に、小杉が松乃にしたことを洗いざらいぶちまけて、松乃を食い物にした酷い男だと訴えた。
   猪股は、小杉を脱走兵として捜索すると軍部の恥になるので非公開で調べているが、実効性がないので、世間知らずの若い娘を食い物にする人身売買の卑劣漢だと、新聞にリークする。
  クビになった松乃は、実家を訪ねる。父親の角三郎(信欣三)は、松乃が送った金で、電気療法を受け、すっかりよくなっていた。角三郎と母親のぎん(赤木蘭子)は、松乃に心から礼を言う。名前の無い封書が届いていると言う角三郎に、松乃の胸がときめく。


   71年日活小沢啓一監督『関東破門状(604)』
    
  関東浜野組若衆頭、寺田組組長の寺田次郎(渡哲也)が、浜野組舎弟頭、総長代理の岩井(加原武門)の叔父貴を刺した。関西の西田会の進攻に、浜松の組を一家を見殺したことに義憤を感じたのだ。寺田の代わりに、沢木(藤竜也)が自首をした。
  浜野組幹部会が開かれている。岩井の後任には、長谷川(山本麟一)がなった。沢木の処遇を決めるにあたって、幹部組長の投票で、寺田を殺ることに反対票を投じたのは、中桐組組長中桐徹(佐藤慶)だった。「中桐の・・・。またおめえさんかい。」「あの筋目をつける寺田が、あそこまでやったということには、それ相応の理由があるんじゃねえですかい。岩井の兄貴のやり方には、俺にもあんまりだと言う思いがある。ことと場合によっちゃ、寺田ではなく、俺がやっていたかもしれねえ。」「中桐の。それじゃおめえは!!」「まあ、待て!中桐の言うことにも一理ある。寺田は無期限の処払い。寺田組は解散。縄張(シマ)は、本家直轄とする。寺田の身柄は中桐に預ける。」と総長の浜野吉太郎(佐々木孝丸)がとりなして幹部会は終わった。苦虫を潰した表情の長谷川。
  寺田組事務所、荷物を運び出し、書面を燃やしている。「沢木は、5年位は出て来れねえだろう。確か沢木には妹さんがいただろう。紘二(郷鍈治)!この金を届けてくれ。残りはみんなで分けろ。看板を取ってくれ」看板を燃やす寺田に、泣く組員たち。
  長野県の上諏訪駅に降り立った寺田を出迎える中桐組若頭の田村(長谷川明男)とタケシ(岡崎二朗)。中桐組の事務所に草鞋を脱ぐ寺田。恐縮する寺田に客分としてゆっくりしてくれと言って小遣いまで渡す中桐。
   その頃、ポンコツな車が長野の手前でお釈迦になっていた。紘二、さとる(武藤章生)、敏夫(長浜鉄平)が乗っている。三人は、渋谷の松木組に預けられたが、寺田を慕ってやってきたのだ。諏訪湖畔のレストランに辿り着いて、寺田に何と話をしようか相談をしていると、店のウェイトレスのミドリ(夏純子)に、入ってきたチンピラたちが絡み始めた。「おお姉ちゃん。付き合ってくれよ。チンピラのタケシといちゃいちゃしても、俺たちとは付き合えないっていうのか?」白井(榎木兵衛)たちがあまりにしつこいので、見かねた紘二たちが止めに入る。「お前ら、どこのモンだ?俺たちが共栄会と知ってのことか?」「知らねえなあ。表に出ろ!!」共栄会のチンピラたちを袋叩きにする元沢田組の三人。ミドリは、タケシに電話をしている。
  その頃、湖畔荘という旅館で、中桐組の賭場が開かれている。中桐が沢田に「こんな田舎の盆茣蓙で申し訳ないが、良かったら遊んでいってくれ。」「いえ、そんな・・・。」そこに、京栄会の会長の神崎(曽根晴美)が、派手に包帯を巻いた子分たちを連れてやってきた。「おお神崎の・・・。遊びに来たわけじゃねえみたいだが・・・。」「中桐の・・・、おめえのところの客分の沢田の子分が、うちの連中に大怪我させやがったので、どんな魂胆だと聞きに来たのよ。」

  筋目を通し、寺田を支援する組長役の佐藤慶。いつもの冷徹な、でなく、暖かい眼差しだが、どうしても最後の最後まで、渡哲也を裏切るんではないかと思ってしまうのは、凡人の哀しさだ(笑)。何だか、観たことがある気がしていたが、このあたりは、東映と日活で同名異作があったんだな。小沢啓一監督と小沢茂弘監督も混同しやすいし・・・。

奥二重。

   シネマヴェーラ渋谷で、東宝青春映画の輝き

  68年東宝恩地日出夫監督『めぐりあい(601)』
  江藤努(黒沢年男)は、川崎にあるオリエンタル自動車で働く22才の組立工。定年前の父親順平(桑山正一)と母親きよ(菅井きん)、受験生の弟・宏(黒沢清)と妹友子(工藤富子)と一緒に、2DKの団地に住んでいる。父親は、3ヶ月で定年の筈だが、満州時代からの知人が専務なので、あと2、3年は働けると言っているが、弟の大学の学費は到底まかなえないので、努の肩に掛かって来ざるを得ない。4年前、努は進学を諦め、働き始めたのだ。明るい努でも、将来を考えると屈託がある。
   今井典子(酒井和歌子)は、金井ベアリング商会に勤める18才の女事務員。数年前父を亡くした後、母親の雅子(森光子)が、保険外交員をして、典子と弟の一郎(池田秀一)を育てて来た。雅子に叔父の正二(有島一郎)がプロポーズをしたらしい。叔父は嫌いではないし、母の幸せを祈る気持ちはあるが、亡父を思うと素直になれない。
   ある朝、通勤の途中、努は典子を突き飛ばして転ばせる。大丈夫と戻ってきた努の態度に、わざとらしいものを感じた典子は、努の頬を打つ。その日の昼休み、工場の食堂で、努はミスオリエンタル、石川綾子(進千賀子)の向かいの席に座る。会社が終わったら踊りに行かないか?と声を掛けるが断られる。退社時間に工場の門で待っていると、綾子が出てきたが、大卒のホワイトカラーの白井(田村亮)と一緒だ。綾子に嗤われ傷つく努。
  しかたなしに、努は、仲間の工員の佐々木(当銀長太郎)松本(木波茂)吉田(木下陽夫)らに誘われて駅前の雀荘にいると、窓の下を歩く典子を見つけ追い掛ける。川崎駅で追い付いたが、「あなた、いつもああして女の子を突き飛ばして、ナンパしているの?」「いや、違うよ、怪我させたと思って心配していたんだ。」「あっ電車が来るよ。走ろう。」…「遅いなあ。行っちゃったじゃないか。」「あなたに転ばされた足が痛かったからよ…。」「名前を教えてくれるかい?」「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものよ」「ほら」定期か社員証を出した努に、「江藤努、ありふれた名前ね。」「お前だって、今井典子、ありふれているじゃねえか。踊りに行かないか。」「今日は駄目よ。」「じゃあ明日は」「明日も駄目」「じゃあ、今度の土曜日」

おばさん(赤木春恵)部長(川辺久造)関口(丸山謙一郎)井上(峰岸隆之介)渡辺(佐田豊)前田(柴田昌宏)前田の女友だち(佐川亜梨)青線の女(深井聰子)

   ほぼスッピンで、奥二重の酒井和歌子が超かわいい。笑って、怒って、泣いているだけだが、熱演。

   午後から、学校2コマ。

   夜は麹町で、後輩Kと、映画系のセミナー。なかなか感じ入る。

2009年10月22日木曜日

1000本でも人参。

   神保町シアターで、川本三郎編 鉄道映画紀行 思ひ出は列車に乗って
   53年松竹大船川島雄三監督『新東京行進曲(600)
   飛行機が東京上空を飛ぶ。機内に安井誠一郎東京都知事(本人)がインタビュアー(増田順二)に話をしている。「こうやって空から眺めると、東京もなかなかのものでしょう。」「しかし、地上に降りると、いろいろごちゃごちゃしたものですよ。」「君、しかし東京は二度、焼け野原になったことを忘れているんじゃないのかい?大正12年の関東大震災と、昭和20年の大空襲。」「なるほど、二度の大きな災難にめげず、不死鳥のように立ち直ったんですね…。」「そうだよ。」
    取材の新聞記者の真砂隆(高橋貞二)が、同僚の一ノ瀬文子(小林トシ子)に、「あそこが、自分が出た小学校だ」と泰明小学校を指差す。文子は「江戸っ子なのに、随分おセンチなのね」「田舎者には分からないだろうな」「江戸っ子なんて鯉のぼりよ。威勢はよくても、中身は空っぽだわ。」喧嘩を始めた二人を見て苦笑する都知事。
   日々新聞社会部(実際は毎日新聞らしい…。)、真砂が戻って来て、紙面を見て文子に「何だか写真がやけに大きいなあ。整理部は何も分かっていない。」「記事が甘いから、こうするしかなかったのよ。」「何を!」デスクが、「一ノ瀬君、君はミス職場コンテストの取材を頼む。真砂くんは、銀座の賭博クラブを取材してくれ!」「私に賭博クラブやらせて下さい!!」「女には危険だ。男の?君が昨夜危険な目に遭ったんだ。ミス社会部の何かあったら大変だ。」「大丈夫です。女なら女なりの攻め方があると思うんです。」「しょうがないなあ。じゃあ一ノ瀬君頼む。」「ありがとうございます!!」と飛び出て行く文子。「真砂くん!!君も行ってくれ!一ノ瀬くんの護衛だ。」仕方なしに、跡を追う真砂。
   文子は配送部で、一人の男(三橋達也)にぶつかる。「すみません。左目が不自由なので見えなかったんです。」と頭を下げる男の顔を見て、「カズちゃん!!」と声を掛ける真砂。「タカちゃんか?」と応える男は、霧山一夫、泰明小学校の同級生だった。再会に喜びあいながら、文子を追う真砂。
    文子は友人の勤める洋裁店で着替えて、クラブマンダリンに出向く。そこの別室にある賭博クラブに潜入しようというのだ。ふと見ると、真砂がクラブの女たちに囲まれて鼻の下を伸ばしている。呆れながら、二人の紳士が、婦人用化粧室から出て来たのを見て、駆け寄り、チップを落とし、「私、ここのカジノ初めてなんです。案内して貰えません?」と甘えた声を出す。「いや、私は局長と打合せがあって、出なければならないんです。」と言う紳士は、強引な文子に困って耳打ちをする。
    婦人用化粧室の三番目の個室が秘密カジノの入り口だった。中に入り、どちら様でと尋ねられ、中東建設の…と言うところで言葉に詰まった文子は、電気を消し、混乱したカジノで、二発ストロボを焚く。
   隠し扉から逃げ出すが、男たちに捕らえられる。そこで、真砂が男たちと乱闘の末、クラブから逃げ出した。銀座の狭い路地を縦横無尽に走り、泰明小学校に逃げ込んだ。


  弘兼憲史のキャラクターにホントそっくりの高橋貞二。前から誰かに似ていると思ったが、コミックだったとは・・・。この映画は、表情だけでなく、熱血漢で直線的で、女にもてるところが、まんまだ。島耕作かと思ったが、ハロー張りネズミだなあ。

2009年10月21日水曜日

1000本目は何を見るか・・・。

   学校3コマ。エンタメ1年のクラスのイベント企画は、男子が加わったチームはバランスの取れた実現可能性の高い企画にまとまってきたが、女子ばかりのグループは、迷走の末、逆に面白くなってきている。今月中にまとめなければならないが困ったなあ(笑)。皮肉な表現でなく、嬉しい悲鳴だ。
   乃木坂でちょっと浅草の歌姫の顔を見て、赤坂で東映京都撮影所のTさんと元同僚と待合せ、食事を。三池さんの「十三人の刺客」いいらしい。最近の時代劇の失敗で心配だったが、杞憂だったか、楽しみだ。
   

2009年10月20日火曜日

あと1本で1000本。

   午前中は、渋谷で打合せ一件。バスで、六本木ヒルズに出てTIFF。東映京都のTさん、某放送局事業部のMさん、クールジャパン系フェスティバル事務局ヘッドのSさんら、立て続けに声を掛けられる。Tさんとは明晩飲む約束に。犬も歩けば棒に当たるもんだなあ。
 
     松竹三城真一監督『引き出しの中のラブレター(596)』
    J-WAVEのパーソナリティ(J-WAVEはかってナビゲーターと言っていたが、今はどうなんだろう)の久保田真生(常盤貴子)は、30代。大阪で鉄工所を営む父親(六平直政)とは、4年前自分の仕事に関して言い争いになって距離を置いているうちに、2か月前急死されてしまった。今日は四十九日だったが、仕事を理由に大阪には帰らなかった。海外出張から戻ってきた真生の恋人(萩原聖人)は、タクシーの中でラジオ番組を聞く。運転手稲村太郎(岩尾望)は、妻子を養うために熊本から単身赴任していたが、慣れない東京の地理に悪戦苦闘している。

   かなり、試写の間、席を立つ人も多く、自分もどうしようかと考えながら殆どの時間を過ごしていた。もう少し、脚本絞りこんでもよかったのではないか。ゆったりしたウェルメイドな作品作りの狙いは分かるのだが、局のフロアを提供したJ-WAVE、製作委員会に参加している各地の第2FM(もうこんな表現をしても分からない人の方が多いだろうな(苦笑))にしても、こういう番組作りは少なくなっているのではないだろうか。ラジオが生活の身近にあった時代への郷愁を感じているのは、FM業界の人たちなのかもなあと皮肉な見方をしてしまう・・・。  
  常盤貴子の頬骨と声が大好きな自分でも、集中していられない。
  中島知子が、シングルマザーになろうとする女性役、一時激肥りで世間を騒がせたが、レイジング・ブルでのロバート・デ・ニーロばりの肉体改造だったのかという位、普通の妊婦姿が似合っている。しかし、演技はひどい・・・。彼女だけでなく、岩尾望、関西弁の六平直政など哀しい場面は多いのだが・・・。

      井口昇監督『ロボ芸者(597)』
   総裁選に出馬予定の豪徳寺鉄馬(松尾スズキ)は、出馬を断念しないと3分以内に殺すという脅迫を受けていたが、SPに守られ、料亭で芸者?と過ごしていた。突然、芸者は二つに割れ、中から天狗の姿の女が二人現れ、豪徳寺に襲いかかる。天狗女たちに次々に倒されるSPだち。豪徳寺も芸者?の顔に埋め込まれたチェーンソー(じゃないな、回転式円形ノコギリ?なんていうのだろう?)に迫られ、絶体絶命となる。そこに現れたのはロボ芸者(木口亜矢)。間一髪救われる豪徳寺、「君はロボットか?」「ロボット?・・・。少し前まで、私は何者でもなかった・・・。」
   売れっ子芸者菊奴(長谷部瞳)の妹よしえ(木口亜矢)は、地味でどんくさく、置屋(というが、客の座敷があるのでお茶屋か待合だろう)では、女将や姉にイビりまくられていた。今日のお座敷には、影野製鉄の御曹司影野ヒカル(斎藤工)が来ていたが、味のしないおにぎりを食べさせられていたよしえは、障子を倒し、宴席を台無しにしてしまう。怒り狂う菊奴に殴られてた後に電話帳を真っ二つにするよしえを見て、彼女の隠れた才能に目をつける。

  まあ、よくも悪くも井口昇。徐々に製作費もアップし、自主制作映画感は、薄れてきた。城型ロボットがビルを壊し、富士山を登って行くシーンは、東映戦隊ものの合体後を見ているようで、クオリティもいい勝負。相変わらず、いい大人が全力で下らないことをやっている爽快感だ。個人的にいえば、芸者とか、料亭とか、自分も遊んだことはないが(苦笑)、もう少しリアリティ欲しいなあ。ああ、東映京都撮影所で撮らせたい。

 
       大森寿美男監督『風が強く吹いている(598)』
  
    箱根駅伝もの。正直なところコーチもスタッフもいない10人しかいない陸上部が、箱根に初出場してシード権が取れるなんて夢物語だが、大ヒット映画「ROOOKIES」の後味に比べると、比べるのが失礼だと思うほど、映画として成立している。実際の箱根駅伝の映像と、かなりエキストラを集めて手を抜かず丁寧に撮ったロケがうまく繋がれていて成功していると思う。拾い物だ。

      水谷俊之監督『ジャングルハウス3ガス/林家三平(599)』
     うーん。


   三平誘った後輩Kと、六本木一ビールが安い飲み屋へ。因みにサッポロ生180円(笑)。さっと帰るつもりが、気がつくと、自分は最終電車。Kは当てもない。

2009年10月19日月曜日

鈴木・川島

   午前中は、大手町のクリニックで、CT。かなりワクワクしていったのだが、腹部だけなので、あっという間に終わってしまう。

   神保町シアターで、川本三郎編 鉄道映画紀行 思ひ出は列車に乗って
  60年日活鈴木清順監督『くたばれ愚連隊(594)』
   瀬戸内海、鳴門の渦潮。淡路島、淡路松平家、六十二代当主、松平郁代(細川ちか子)が、弟で、分家の溝口勘十郎(小沢栄太郎)に話している。「遅い!!井関が東京に出て半年。まだ見つけられないのか!!何をしておる」「そんなに簡単に定夫は、見つかりませんよ。それも、頼りは背中の痣だけなんて…」「勘十郎!!分家の分際で、松平家の跡取りの定夫を呼び捨てにしたな!!不届きもの!!」「申し訳ございません。ははーっ。」
  東京、助手席の女とキスをしながら、全く前を見ないで運転する男がいる。前方に看板描きの足場があり、車は突っ込み、ペンキ屋の親方相羽大作(紀原耕)が亡くなる。相羽は、孤児たちの面倒を見ていた。兄貴分の定夫(和田浩治)、三平(亀山靖博)、シゲ(杉山元)、竹念(小沢直好)たちが、大作の娘加代子(禰津良子)を慰めながら、竹念の途中までしか覚えていないお経で、通夜を上げていると、事故を起こした極東観光の社長南条の代理人と名乗る男(土方弘)がやってきた。三万円入りの香典を出して、これで示談にしろと言う。さすがに定夫はキレて叩き返す。
   翌日、定夫は極東観光の社長室に怒鳴り込んで、南条(近藤宏)に人の命を何だと思っている!?と暴れ出した。南条の秘書の前原由紀(東美恵子)が止めようとする。結局定夫は、屈強な男子社員たちに取り押さえられた。しかし、このことで、定夫は南条から百万円の慰謝料を引き出すことに成功する。
   ティーンが大企業の社長から百万円の慰謝料を取ったと新聞記事が出ている。それを読んだ、松平郁代から定夫捜しを命じられていた弁護士の井関三四郎(高品挌)は、痣を調べようと、仕事上がりの定夫たちが通う銭湯に潜り込んだ。そして定夫の服に、郁代がかってまだ赤子だった定夫に与えた葵の御紋の入って御守りと背中の淡路島の形の痣を見つけて小躍りする。突然、若様と呼ばれ、死に別れていたと思っていた母親も淡路島で生きていると聞いて、動揺を隠せず、仲間と店の商売を思って、淡路島になんか行かないと言い張る定夫に、仲間たちは、身寄りが生きているなら会ってこいと、暖かく送り出す。仲間たちの熱い友情に目頭を熱くする貞夫。
  淡路島洲本の松平本家の座敷には、郁代により、大勢の親族が集められていた。63代目である定夫の父親が亡くなり跡取りがいなくなったことで、かって父親と淡路の料理屋の娘の交際に激怒をした郁代は、生まれた男児共々家から放逐した。その子定夫が見つかり、お披露目をするというのだ。疑心暗鬼か物見遊山か興味津津で待つ親族たち。
   そこに、井関に連れられ定夫が登場するが、素直になれない定夫。さすがに、井関がみなから偽物を連れてきたと責められるに及んで、諸肌を脱いで淡路島の形をした痣を見せる。楽しみにしていた母親はここにはいないと聞いて元気をなくすが、持ち前の明るさで、井関の娘で郁代の身の回りの世話をする和子(清水まゆみ)と松平家に新しい風を吹き込み始める。   溝口勘十郎は、郁代の弟として松平家の当主の後継にと思っていたが、跡取り定夫の登場に、淡路島を東洋のモナコにしようと企む極東観光の南條や小平(弘松三郎)たちと組んで、別荘や山林を売ってひと儲けしようと狙っていた。

  30年以上前にオールナイトで見て、実はDVDも持っているがそれ以来見たことはない。その時の印象が変わるかと言うと変わらない。訳のわからない映画ばかり撮ると日活を首になった鈴木清順作品として、裏読みをしたくなるが、日活プログラムピクチャーとしての平均的な王道映画。
  

  61年東宝川島雄三監督『特急にっぽん(595)』
   東京駅にある日本食堂の寮、特急こだまの食堂車やビュッフェに勤務する大阪支社のウェイトレスたちが泊まっている。リーダー挌の藤倉サヨ子(団令子)が、早く起きてお風呂に入りなさいと言う。ヒロ子(佐羽由子)セツ子(紅美恵子)ヨシ子(中真千子)ケイ子(柳川慶子)キミ子(芝木優子)たちは、わいわいと修学旅行のようだ。自分は風呂はいいと言うサヨ子は、何か屈託がありそうだ。視線の先に、こだま号が停まっている。食堂車にコックの矢板喜一(フランキー堺)ら三人が眠っている。突然目覚まし時計が大きな音を立て皆飛び起きる。もう8時だ。
   慌てて、喜一は、本日の点呼を受けて来ると言って、食材の受取に、日本食堂のビルに向かう。食材を運びながら、サヨ子が返事を聞きたいと声を掛けてくる。サヨ子は、死んだ父親がやっていたカマボコとチキンカツが入った“あいのこ弁当”を、喜一と二人で始めたいのだ。しかし、喜一自身は、コックとして名を挙げたいと言う気持ちが残っている。サヨ子のことは好きだが、特急列車のチーフコックになるか、もう一度一流ホテルで料理を勉強しなおしたいと思っているので、食堂の親父をやることに決心がつかないのだ。チーフコックの渡瀬政吉(森川信)は女の子たちのお尻を押して乗り込むのを手伝ってやる。
  こだまに積み込みが終わったところで、こだまのスチュワーデスの今出川有名子(白川由美)、望月みち子(横山道代)、井上さかえ(小西ルミ)、向井たか子(佐多契子)がやってくる。大坂組の戻りと違って、一等車の客にサービスをする彼女たちは東京からの勤務だ。元華族でミスこだまと騒がれている有名子を初め、垢抜けて、すました彼女たちと、働く関西娘のウエイトレスたちとは、仲が悪い。喜一は有名子に相談があると言われて鼻の下を長くする。その様子を見ていたサヨ子は気が気でならない。
   


   セットで撮影されたと思うこだまの車内で起る沢山のドラマ。ドタバタも含め楽しい。

 その後、横浜まで行き、畏兄Iさんのオフィスへ。結局飯奢って貰い、管を巻いただけだ。情けないなあ(苦笑)

2009年10月18日日曜日

東京国際映画祭TIFFに。

   ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第49弾】雪村いづみ
    58年東宝岡本喜八監督『結婚のすべて(591)』
  海岸の小舟で水着姿で激しく抱き合う男女(上村幸之、浅田美恵子)の姿。映画撮影だった。「肉体のよろめき」と言うその映画は、コマ東宝で上映されており煽情的な大看板に惹かれ、沢山の男女が入って行く。

   (NA小林佳樹)今や性の解放は飛躍的に進み、駅には、連れ込み旅館の類いの看板ばかりが飾られ、避妊具の広告が掲げられたパスが市内を走っている。バスの中には、こんな性別不明な人間ばかりだ…。

  パスの中にはシスターボーイ(宇野晃司、岩本弘司)が化粧をして話をし、口を開いて、スカートの裾も気にせず、眠る女など、世も末だ。突然猛スピードで追い抜くタクシーがあり、急停車したパスの中では、ひっくり返った男や女でぐちゃぐちゃだ。
  雷タクシーに、急がせていた乗客は、土井康子(雪村いづみ)。結婚式場の前に停めさせ、中に駆け込むと、姉の啓子(新珠三千代)に、「もうお式終わっちゃったわよ」と声を掛けられた。父親の土井隆蔵(小川虎之助)は「康子は今日くらい芝居の稽古をサボれないものか」と小言をいう。啓子の夫で、大学で哲学を教える垣内三郎(上原謙)は口数の少ない男だ。兄甲一郎(堺左千夫)と久子(上野明美)の披露宴が始まった。甲一郎の勤め先東郷製薬総務部の上司(沢村いき雄)の祝辞は、四字熟語の連発の上、ひどく長い。欠伸をする康子は、姉の啓子に窘められる。
  帰りのタクシーの中、「お兄さんは、お父さまからの跡取りとしてのプレッシャーで、慌てて見合い結婚しちゃったのね。」と康子が言う。垣内は「なかなかいい、花嫁さんだと思いますよ」と言うと、父は「女子大を出て英文タイプの資格を持ち、商事会社に勤めて3ヶ月。家柄もなかなか悪くない。いい条件だと思う。」「古臭いなあ。結婚って男女の恋愛から始まるパッションの発露だと思うわ。」「つまらないことばかり言っていると、直ぐにオールドミスになっちゃうぞ。とにかく次はお前の番だ」と言われてしまう。
  そこで康子は、姉夫妻をお茶に誘い、途中下車する。しかし三郎は、神保町の古本屋を覗きに行くと言う。銀座の喫茶店、久しぶりに姉妹二人で話す。康子から見て、姉夫婦は、両方の親が同郷だと言うだけで、見合い結婚をし、いつでも蝙蝠傘を持ち歩く哲学者で面白みのない相手との結婚生活は信じられない。この店のコーヒーの味はセンブリのようだが、モデルのようなウェイトレスに、最新モードを着せて、おのぼりさんに人気だと言う康子。だから私を連れてきてくれたのねと笑う啓子。そこに近代女性の編集長の古賀俊二(三橋達也)がファッションモデルの志摩京子(白石奈緒美)とやって来る。啓子は家が気になると帰って行った。
  古賀は、啓子を、家庭生活に向いた健康で美しい肉体を意味するホームボディの持ち主で、どうしても取材をしたいと熱望する。また康子に新劇を辞めてモデルをすればいいのにと勧めるが、創造性のないモデルの仕事に自分は満足できないと言う。京子は、そんな康子の言葉に表情一つ変えず、タバコに火を付け、コーヒーを飲む。大きな指輪を見つけ、「これはなんとかと言う会社のなんとかと言う社長が君に二号にならないかと迫ってくれたものだろふってしまったても、貰うものは貰うんだ。」と古賀。「私は何も約束していないわ」「ギリギリのところで、貞操を守る高等技術の持ち主らしいからなあ。」

  家の近所まで帰って来た啓子は化粧品セールスの村田トミ子(若水ヤエ子)に声を掛けられる。担当エリアが変わったので、今後は森永民夫(藤木悠)に引き継ぐと言うのだ。帰宅すると男物の靴が二足ある。女中のサキ(河美智子)に尋ねると、学生が垣内を訪ねて来たと言う。中川浩(山田真二)と大脇秀夫(加藤春哉)だった。哲学の不明な点を訪ねに来たのだ。中川はバーで深夜まで働き大学に通っていた。熱心に垣内に尋ねる中川。

 その夜、寝室で、三郎に自分たちの初夜の思い出について語りかける啓子。眠いからと聞き流す三郎。甲一郎と久子は、泊まった旅館の隣の部屋が、団体客の宴会で、いつまで掛かっても炭坑節が唄われ、一向に終わる気配が無かった。久子が隠れて読んでいる本を無理矢理取り上げると新婚初夜の心得と言う本だった。カンニングだなと甲一郎。
  翌日垣内がカントについての講義を行っている。最前列には中川の姿がある。窓際の席に座る大脇が外を見ると、学生結婚しているカップル(男は毒蝮三太夫か?)がキスをしている。
   大脇の後ろの席の渡辺冴子(柳川恵子)は悪趣味だから止めろと怒る。高い授業料を払っているのだから、ちゃんと聞かないと勿体無いと注意する。垣内が区切りのよいところで講義を止めようとすると、高い学費を払っているのだから、チャイムが鳴るまで、ちゃんと教えてくれと文句を言う冴子。
    大学のキャンパスでは、近代女性の撮影をしている。康子と志摩京子たちモデルを見て賑やかな学生たち。モデルが来ているので行ってみようと言う大脇に、あなたは頭と顔が悪いのだから、もっと真剣に人生を考えた方がいいと言う冴子。ただ、あなたは利殖の才能はあるらしいので、教えてくれと言う。冴子が読む書籍が資本論だと知って、自分も読んだが、全く解らなかったと大脇。
    垣内が中川と話しながらキャンパスを歩いていると、近代女性の車から康子が降りる。中川にコーヒーを飲まないかと誘うが、日比谷図書館で勉強すると断られてしまう。しょげる恵子に、以前中川が頭が回る女性だと誉めていたと垣内。啓子は姉夫婦の家を訪ねる。三郎と啓子の間には、殆ど会話がない。啓子が、家計の帳尻が合わないんですと言っても、新聞を読んでいる三郎は関心がないようだ。沈黙を破るように時々康子は、劇団の本公演での唯一の台詞「奥様ですか…。お二階です」を言い出して夫婦を驚かす。どうもピンと来ないらしい。啓子が「あなたの台詞は、それだけなの?」と言うと、研究生が劇団の本公演に出て、一つ台詞を貰っただけでも凄いことなのよと康子。
    電話が鳴る。康子が出ると、古賀からだった。古賀は、どうしても啓子のホームボディの出演を諦められないようだ。古賀は、入稿日らしく、慌ただしい編集部から電話をしている。啓子は取材は受けないと断った筈だし、電話には出ない、お腹が痛いので、もう眠ったと言ってくれと言う。嘘だろと言う古賀に、「これじゃ共同で騙さないと駄目ね」
    ということで、バー・パットブーンで待ち合わせすることに。パットブーンのカウンターでは、中川がバーテンをしている。私を誉めてくれたみたいね。議論をしようと言うが、改めてにしようと中川。そこには、弓子が働いていた。あなたもここで働いていたの?オールスターキャストね!?と目を丸くする康子。パットブーンは満員だ。どんどん客が入って来て、康子はカウンターで席を変わってばかりだ。「やはり今日は忙しくていけない」と古賀からの電話を受けている間、店のマダムの花子(藤間紫)は、康子の席を入って来た男客(田崎潤)に座らせてしまう。中川も忙しくなり、飲み代を古賀につけて帰ることにする康子。 
    啓子が研究生をしている劇団素顔座のレッスン室。暗い表情の大島弓子(森啓子)に研究生の男が、「目の下真っ黒だな。バーでのバイトだけの疲れじゃないな」と声を掛ける。隣の男は近代女性の志摩京子のグラビアを見て溜め息をついている。「よく知っているけど、外見だけの女よ」と康子が言っても、「知り合いなら紹介してくれ」と言う反応だけだ。研究生のくせにレッスンをサボっているのはとダンス講師に怒られる三人。
    康子が近代女性編集部を訪ねると、偶然中川が古賀のツケの回収に来ていた。今度の日曜日一緒に議論しようと言われ、喜ぶ康子。
    数日後劇団素顔座本公演の「ジュディスの恋」立ち稽古。演出家(三船敏郎)が、情夫役の男優(中丸忠雄)に迫られる人妻役の女優(宮田芳子)に激しく駄目出しをしている。男の研究生に志摩京子に会いたいと言われ、京橋の翁と言う寿司屋に行けばそこの娘だから会えると答えている。どうも中川のことで、心ここに有らずな康子は、唯一の台詞の出番が来ても気がつかず、怒られてしまう。
  日曜に日比谷図書館の前で康子が待っていると、中川は中から出て来た。朝から勉強をしていたと言う。運動をしたいと言う中川をボーリングに誘う。
   その日、康子と約束をしていた啓子は銀座の喫茶店にやって来た。しかし、それは康子の策略で、待っていたのは、古賀とカメラマン(堤康久)だった。6月号のトップ記事は啓子以外考えられないと言う古賀。自分たちの家庭の平穏に踏み込んで来ないでくれと言って席を立つ啓子。喫茶店を出た啓子に「あなたは、19世紀の遺物だ。空に向かって胸を張って、太陽を睨んで生きるんです!!」と、思わず叫ぶ古賀。

   岡本喜八監督デビュー作。三船敏郎、田崎潤、ナレーションの小林佳樹、などカメオ出演多数。以外にも、キャスティングの数が凄い。大披露宴やら、大学キャンパス、劇団の養成所、喫茶店、バー、かなりの数のエキストラだ。監督デビューを豪華にやらせてやろうと言う周囲の愛情なのか、監督の才覚なのか、人格なのか。まあ、出演者多くて時に見ていて集中力を欠く時もあるが、小気味良いテンポで、その後の喜八作品の片鱗は随所に味わえる。

   阿佐ヶ谷で昼御飯を済ませ、学校で体験入学の講師。
   
   六本木ヒルズで、東京国際映画祭のパスを貰う。安くはない登録料なので、元をとるぞ!!(苦笑)と言うことで、

    ヴォイテク・スマルフスキ監督『ダークハウス/暗い家(592)』
    連帯によるポーランド民主化闘争高まりにより戒厳令が引かれていた1982年2月、雪の中、44才の刑事犯エドロイド・シトロス容疑者の現場検証が行われている。
    1978年(社会主義体制下であったが、初のポーランド人ローマ法王ヨハネパウロⅡ世が就任し、反ソ運動が起きポーランド民主化の波が起った年だ。)、シトロスは、計画農場の畜産技師。公私ともに幸福な生活を送っていたが、、妻が脳溢血で急死してから酒浸りになり、荒んだ毎日に一変した。
  ある時、妻の思い出から逃れるために、遠く離れた計画農場への就職を決め、人生をやり直す決意をした。赴任の為、近くまで来た時にバスが故障、歩き出したシトロスを激しい雨が襲い、日も暮れてしまった。目に止まった一軒家で雨宿りをさせて貰おうとドアを叩くが返事がない。窓に回ると、そこの主婦が半裸で髪を洗っている。窓を叩いても主婦は気がつかない。更に番犬がシトロスの足に咬みついて来た。悲鳴を上げ、中に入ると、主婦は悲鳴を上げ、寝室に逃げ込んだ。困っているシトロスの前に、その家の主人のジャバズが戻って来た。
   現場検証の指揮は、ムルズ警部補だが、立ち会いの検事も、部下たちは揃ってアルコール依存症。部下の?は、破水しかかった妻の?を連れて来ていた。

  アルコール依存症を自覚する人間には強い共感を覚えずにはいられない。強い酒を飲んで回りと薄い膜のようなものを作らないと正気を保てない恐怖感。うーん。二段底、三段底・・どこが底なのか分からない絶望。こんな悪夢のような映画は嫌いではない。

   


   御徒町凧監督『真幸あらば(593)』
   タイトルは、万葉集の有間皇子の歌から取られているらしい。こういう場合にピンと来ないのは、無教養な自分の哀しさだ。
   夏の住宅街を物色して歩く一人の若者。一軒の窓が開いているのを見つけ、忍び込み、金目の物を見つける。一階に降りてくると、男が「誰?何なんだよ?」と声を掛けてくる。思わず台所にあった包丁を手にして、男の胸を刺す。逃げようとした女に飛びかかり猿轡をする若者。
   教誨師が、神の前では、みんな罪人ですと若者に言って聖書を渡す。教会、ファミリーレストランの客席、若者の裁判の傍聴席に一人の女(尾野真千子)の姿がある。
  東京地裁の法廷、南木野淳(久保田将生)の強盗殺人に死刑判決が下される、担当弁護士の野口功(佐野史郎)が、南木野に面会し、「控訴しよう。集団が個人を裁くことは出来ない。直ぐに手続きをするから」と言う。次の面会の時に、野口は教誨師の紹介で、差し入れなどをするボランティアの女性がいるが面会に来ると告げ、承諾を貰う。南木野は、ボールペンで、しきりに手の絵を描いている。消灯時刻以降は禁止されている行為だが、なかなか迫力のある絵に担当の看守は、「哀しそうな手だ。適当にしておけよ」と言って黙認する。
   ある日、野口弁護士の紹介だと言って川原薫と言う娘が面会にやって来た。南木野の裁判を傍聴していた娘だ。「お身体の調子は?」「まあまあです。」「私の名前は…。必要なものがあったら何でも言って下さい。お手紙を書きますね」
   数日後、薫から菜の花畑の絵葉書が届く。看守は「初めての手紙だ。それも女からだ。良かったなあ」と声を掛ける。次の面会の際に、南木野は、自分が殺した高橋さんと鷲田さんのご両親に手紙を届けてもらえないかと頼む。鷲田の家の前で、封筒を握り締めたまま、立ち尽くす薫の姿がある。

   尾野真千子あまり意識していなかったが、泣くシーンの美しさにやられる。どうも女優が好きだと、本が弱くても、かなり大甘の評価になってしまう私 (笑)。ただ、塀の向こうにいる男との結婚のシーン(はっきり言えば、一人オーガニズム)は物足りない。また、せっかく静かに進んできた映画が、終盤、森山直太郎の歌で朗々と歌い上げられてしまって、甘ったるい後味が残るのが勿体ない。冷静に考えると我に返ったのかもしれないが(苦笑)。