2009年10月18日日曜日

東京国際映画祭TIFFに。

   ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第49弾】雪村いづみ
    58年東宝岡本喜八監督『結婚のすべて(591)』
  海岸の小舟で水着姿で激しく抱き合う男女(上村幸之、浅田美恵子)の姿。映画撮影だった。「肉体のよろめき」と言うその映画は、コマ東宝で上映されており煽情的な大看板に惹かれ、沢山の男女が入って行く。

   (NA小林佳樹)今や性の解放は飛躍的に進み、駅には、連れ込み旅館の類いの看板ばかりが飾られ、避妊具の広告が掲げられたパスが市内を走っている。バスの中には、こんな性別不明な人間ばかりだ…。

  パスの中にはシスターボーイ(宇野晃司、岩本弘司)が化粧をして話をし、口を開いて、スカートの裾も気にせず、眠る女など、世も末だ。突然猛スピードで追い抜くタクシーがあり、急停車したパスの中では、ひっくり返った男や女でぐちゃぐちゃだ。
  雷タクシーに、急がせていた乗客は、土井康子(雪村いづみ)。結婚式場の前に停めさせ、中に駆け込むと、姉の啓子(新珠三千代)に、「もうお式終わっちゃったわよ」と声を掛けられた。父親の土井隆蔵(小川虎之助)は「康子は今日くらい芝居の稽古をサボれないものか」と小言をいう。啓子の夫で、大学で哲学を教える垣内三郎(上原謙)は口数の少ない男だ。兄甲一郎(堺左千夫)と久子(上野明美)の披露宴が始まった。甲一郎の勤め先東郷製薬総務部の上司(沢村いき雄)の祝辞は、四字熟語の連発の上、ひどく長い。欠伸をする康子は、姉の啓子に窘められる。
  帰りのタクシーの中、「お兄さんは、お父さまからの跡取りとしてのプレッシャーで、慌てて見合い結婚しちゃったのね。」と康子が言う。垣内は「なかなかいい、花嫁さんだと思いますよ」と言うと、父は「女子大を出て英文タイプの資格を持ち、商事会社に勤めて3ヶ月。家柄もなかなか悪くない。いい条件だと思う。」「古臭いなあ。結婚って男女の恋愛から始まるパッションの発露だと思うわ。」「つまらないことばかり言っていると、直ぐにオールドミスになっちゃうぞ。とにかく次はお前の番だ」と言われてしまう。
  そこで康子は、姉夫妻をお茶に誘い、途中下車する。しかし三郎は、神保町の古本屋を覗きに行くと言う。銀座の喫茶店、久しぶりに姉妹二人で話す。康子から見て、姉夫婦は、両方の親が同郷だと言うだけで、見合い結婚をし、いつでも蝙蝠傘を持ち歩く哲学者で面白みのない相手との結婚生活は信じられない。この店のコーヒーの味はセンブリのようだが、モデルのようなウェイトレスに、最新モードを着せて、おのぼりさんに人気だと言う康子。だから私を連れてきてくれたのねと笑う啓子。そこに近代女性の編集長の古賀俊二(三橋達也)がファッションモデルの志摩京子(白石奈緒美)とやって来る。啓子は家が気になると帰って行った。
  古賀は、啓子を、家庭生活に向いた健康で美しい肉体を意味するホームボディの持ち主で、どうしても取材をしたいと熱望する。また康子に新劇を辞めてモデルをすればいいのにと勧めるが、創造性のないモデルの仕事に自分は満足できないと言う。京子は、そんな康子の言葉に表情一つ変えず、タバコに火を付け、コーヒーを飲む。大きな指輪を見つけ、「これはなんとかと言う会社のなんとかと言う社長が君に二号にならないかと迫ってくれたものだろふってしまったても、貰うものは貰うんだ。」と古賀。「私は何も約束していないわ」「ギリギリのところで、貞操を守る高等技術の持ち主らしいからなあ。」

  家の近所まで帰って来た啓子は化粧品セールスの村田トミ子(若水ヤエ子)に声を掛けられる。担当エリアが変わったので、今後は森永民夫(藤木悠)に引き継ぐと言うのだ。帰宅すると男物の靴が二足ある。女中のサキ(河美智子)に尋ねると、学生が垣内を訪ねて来たと言う。中川浩(山田真二)と大脇秀夫(加藤春哉)だった。哲学の不明な点を訪ねに来たのだ。中川はバーで深夜まで働き大学に通っていた。熱心に垣内に尋ねる中川。

 その夜、寝室で、三郎に自分たちの初夜の思い出について語りかける啓子。眠いからと聞き流す三郎。甲一郎と久子は、泊まった旅館の隣の部屋が、団体客の宴会で、いつまで掛かっても炭坑節が唄われ、一向に終わる気配が無かった。久子が隠れて読んでいる本を無理矢理取り上げると新婚初夜の心得と言う本だった。カンニングだなと甲一郎。
  翌日垣内がカントについての講義を行っている。最前列には中川の姿がある。窓際の席に座る大脇が外を見ると、学生結婚しているカップル(男は毒蝮三太夫か?)がキスをしている。
   大脇の後ろの席の渡辺冴子(柳川恵子)は悪趣味だから止めろと怒る。高い授業料を払っているのだから、ちゃんと聞かないと勿体無いと注意する。垣内が区切りのよいところで講義を止めようとすると、高い学費を払っているのだから、チャイムが鳴るまで、ちゃんと教えてくれと文句を言う冴子。
    大学のキャンパスでは、近代女性の撮影をしている。康子と志摩京子たちモデルを見て賑やかな学生たち。モデルが来ているので行ってみようと言う大脇に、あなたは頭と顔が悪いのだから、もっと真剣に人生を考えた方がいいと言う冴子。ただ、あなたは利殖の才能はあるらしいので、教えてくれと言う。冴子が読む書籍が資本論だと知って、自分も読んだが、全く解らなかったと大脇。
    垣内が中川と話しながらキャンパスを歩いていると、近代女性の車から康子が降りる。中川にコーヒーを飲まないかと誘うが、日比谷図書館で勉強すると断られてしまう。しょげる恵子に、以前中川が頭が回る女性だと誉めていたと垣内。啓子は姉夫婦の家を訪ねる。三郎と啓子の間には、殆ど会話がない。啓子が、家計の帳尻が合わないんですと言っても、新聞を読んでいる三郎は関心がないようだ。沈黙を破るように時々康子は、劇団の本公演での唯一の台詞「奥様ですか…。お二階です」を言い出して夫婦を驚かす。どうもピンと来ないらしい。啓子が「あなたの台詞は、それだけなの?」と言うと、研究生が劇団の本公演に出て、一つ台詞を貰っただけでも凄いことなのよと康子。
    電話が鳴る。康子が出ると、古賀からだった。古賀は、どうしても啓子のホームボディの出演を諦められないようだ。古賀は、入稿日らしく、慌ただしい編集部から電話をしている。啓子は取材は受けないと断った筈だし、電話には出ない、お腹が痛いので、もう眠ったと言ってくれと言う。嘘だろと言う古賀に、「これじゃ共同で騙さないと駄目ね」
    ということで、バー・パットブーンで待ち合わせすることに。パットブーンのカウンターでは、中川がバーテンをしている。私を誉めてくれたみたいね。議論をしようと言うが、改めてにしようと中川。そこには、弓子が働いていた。あなたもここで働いていたの?オールスターキャストね!?と目を丸くする康子。パットブーンは満員だ。どんどん客が入って来て、康子はカウンターで席を変わってばかりだ。「やはり今日は忙しくていけない」と古賀からの電話を受けている間、店のマダムの花子(藤間紫)は、康子の席を入って来た男客(田崎潤)に座らせてしまう。中川も忙しくなり、飲み代を古賀につけて帰ることにする康子。 
    啓子が研究生をしている劇団素顔座のレッスン室。暗い表情の大島弓子(森啓子)に研究生の男が、「目の下真っ黒だな。バーでのバイトだけの疲れじゃないな」と声を掛ける。隣の男は近代女性の志摩京子のグラビアを見て溜め息をついている。「よく知っているけど、外見だけの女よ」と康子が言っても、「知り合いなら紹介してくれ」と言う反応だけだ。研究生のくせにレッスンをサボっているのはとダンス講師に怒られる三人。
    康子が近代女性編集部を訪ねると、偶然中川が古賀のツケの回収に来ていた。今度の日曜日一緒に議論しようと言われ、喜ぶ康子。
    数日後劇団素顔座本公演の「ジュディスの恋」立ち稽古。演出家(三船敏郎)が、情夫役の男優(中丸忠雄)に迫られる人妻役の女優(宮田芳子)に激しく駄目出しをしている。男の研究生に志摩京子に会いたいと言われ、京橋の翁と言う寿司屋に行けばそこの娘だから会えると答えている。どうも中川のことで、心ここに有らずな康子は、唯一の台詞の出番が来ても気がつかず、怒られてしまう。
  日曜に日比谷図書館の前で康子が待っていると、中川は中から出て来た。朝から勉強をしていたと言う。運動をしたいと言う中川をボーリングに誘う。
   その日、康子と約束をしていた啓子は銀座の喫茶店にやって来た。しかし、それは康子の策略で、待っていたのは、古賀とカメラマン(堤康久)だった。6月号のトップ記事は啓子以外考えられないと言う古賀。自分たちの家庭の平穏に踏み込んで来ないでくれと言って席を立つ啓子。喫茶店を出た啓子に「あなたは、19世紀の遺物だ。空に向かって胸を張って、太陽を睨んで生きるんです!!」と、思わず叫ぶ古賀。

   岡本喜八監督デビュー作。三船敏郎、田崎潤、ナレーションの小林佳樹、などカメオ出演多数。以外にも、キャスティングの数が凄い。大披露宴やら、大学キャンパス、劇団の養成所、喫茶店、バー、かなりの数のエキストラだ。監督デビューを豪華にやらせてやろうと言う周囲の愛情なのか、監督の才覚なのか、人格なのか。まあ、出演者多くて時に見ていて集中力を欠く時もあるが、小気味良いテンポで、その後の喜八作品の片鱗は随所に味わえる。

   阿佐ヶ谷で昼御飯を済ませ、学校で体験入学の講師。
   
   六本木ヒルズで、東京国際映画祭のパスを貰う。安くはない登録料なので、元をとるぞ!!(苦笑)と言うことで、

    ヴォイテク・スマルフスキ監督『ダークハウス/暗い家(592)』
    連帯によるポーランド民主化闘争高まりにより戒厳令が引かれていた1982年2月、雪の中、44才の刑事犯エドロイド・シトロス容疑者の現場検証が行われている。
    1978年(社会主義体制下であったが、初のポーランド人ローマ法王ヨハネパウロⅡ世が就任し、反ソ運動が起きポーランド民主化の波が起った年だ。)、シトロスは、計画農場の畜産技師。公私ともに幸福な生活を送っていたが、、妻が脳溢血で急死してから酒浸りになり、荒んだ毎日に一変した。
  ある時、妻の思い出から逃れるために、遠く離れた計画農場への就職を決め、人生をやり直す決意をした。赴任の為、近くまで来た時にバスが故障、歩き出したシトロスを激しい雨が襲い、日も暮れてしまった。目に止まった一軒家で雨宿りをさせて貰おうとドアを叩くが返事がない。窓に回ると、そこの主婦が半裸で髪を洗っている。窓を叩いても主婦は気がつかない。更に番犬がシトロスの足に咬みついて来た。悲鳴を上げ、中に入ると、主婦は悲鳴を上げ、寝室に逃げ込んだ。困っているシトロスの前に、その家の主人のジャバズが戻って来た。
   現場検証の指揮は、ムルズ警部補だが、立ち会いの検事も、部下たちは揃ってアルコール依存症。部下の?は、破水しかかった妻の?を連れて来ていた。

  アルコール依存症を自覚する人間には強い共感を覚えずにはいられない。強い酒を飲んで回りと薄い膜のようなものを作らないと正気を保てない恐怖感。うーん。二段底、三段底・・どこが底なのか分からない絶望。こんな悪夢のような映画は嫌いではない。

   


   御徒町凧監督『真幸あらば(593)』
   タイトルは、万葉集の有間皇子の歌から取られているらしい。こういう場合にピンと来ないのは、無教養な自分の哀しさだ。
   夏の住宅街を物色して歩く一人の若者。一軒の窓が開いているのを見つけ、忍び込み、金目の物を見つける。一階に降りてくると、男が「誰?何なんだよ?」と声を掛けてくる。思わず台所にあった包丁を手にして、男の胸を刺す。逃げようとした女に飛びかかり猿轡をする若者。
   教誨師が、神の前では、みんな罪人ですと若者に言って聖書を渡す。教会、ファミリーレストランの客席、若者の裁判の傍聴席に一人の女(尾野真千子)の姿がある。
  東京地裁の法廷、南木野淳(久保田将生)の強盗殺人に死刑判決が下される、担当弁護士の野口功(佐野史郎)が、南木野に面会し、「控訴しよう。集団が個人を裁くことは出来ない。直ぐに手続きをするから」と言う。次の面会の時に、野口は教誨師の紹介で、差し入れなどをするボランティアの女性がいるが面会に来ると告げ、承諾を貰う。南木野は、ボールペンで、しきりに手の絵を描いている。消灯時刻以降は禁止されている行為だが、なかなか迫力のある絵に担当の看守は、「哀しそうな手だ。適当にしておけよ」と言って黙認する。
   ある日、野口弁護士の紹介だと言って川原薫と言う娘が面会にやって来た。南木野の裁判を傍聴していた娘だ。「お身体の調子は?」「まあまあです。」「私の名前は…。必要なものがあったら何でも言って下さい。お手紙を書きますね」
   数日後、薫から菜の花畑の絵葉書が届く。看守は「初めての手紙だ。それも女からだ。良かったなあ」と声を掛ける。次の面会の際に、南木野は、自分が殺した高橋さんと鷲田さんのご両親に手紙を届けてもらえないかと頼む。鷲田の家の前で、封筒を握り締めたまま、立ち尽くす薫の姿がある。

   尾野真千子あまり意識していなかったが、泣くシーンの美しさにやられる。どうも女優が好きだと、本が弱くても、かなり大甘の評価になってしまう私 (笑)。ただ、塀の向こうにいる男との結婚のシーン(はっきり言えば、一人オーガニズム)は物足りない。また、せっかく静かに進んできた映画が、終盤、森山直太郎の歌で朗々と歌い上げられてしまって、甘ったるい後味が残るのが勿体ない。冷静に考えると我に返ったのかもしれないが(苦笑)。

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