2008年12月6日土曜日

風邪をひいたが、軽く1本の映画。

   風邪気味でだらだらしているのにも飽き、独身美人OLと夫婦50歳割引きの虚偽使用(笑)で、新宿歌舞伎町のシネマスクエアとうきゅうで、ジョニー・トー監督『絆 ~EXILLE(345)』。
  返還間近のマカオ。乳児と女が住んでいる家の前に佇む4人の男がいた。香港からマカオに進出を企てるボスのフェイ(サイモン・ヤム)を襲って逃げたウー(ニック・チョン)を、ブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュー)は殺しに、キャット(ロイ・チョン)とタイ(フランシス・ン)は救うためにウーの家を訪ねたのだ。子供の木馬やテーブルなど家具を車に積み戻ってきたウーの後に付いて、家に入るブレイズとタイ。三人は、撃ち合うが、乳児の泣き声で銃を降ろす。もともと5人は、幼馴染だ。ウーの妻ジン(ジェシー・ホー)を交えて夕食をとり、皆で記念撮影をする。自分たちが生きるためにも、後でウーを撃たなければならないというブレイズ、既に死を覚悟していたウーは妻子のために金を残したいという。4人も協力することになる。ホテルの支配人を務める情報屋にいくつかの話を聞く。選んだのはマカオのボス、キョン(ラム・カートン)の殺害だ。
   キョンを呼び出したレストランに向かうと、そこにいたのは何故かフェイだ。ウーと一緒にいるブレイズに怒るフェイ。ピンチになったブレイズの命をウーが救う。しかし、その代り、ウーは撃たれた。重傷のウーを連れて逃げる4人。ヤミ医者のところで、弾丸を摘出してもらっていると、ヤミ医者のドアが激しく叩かれる。ウーに金玉を撃ち抜かれたフェイが子分とやってきたのだ。激しい銃撃戦の中で、ウーは致命傷を負う。ウーが家に帰りたいというので、家に連れて行く4人。しかしウーは絶命している。4人に拳銃を向け、撃ち続けるジン。彼女は、家の中で、ウーが持ってきた家具を積み重ねて、ウーの死体を焼く。
  逃げた4人の行き場はない。コインの裏表で、方向を決めながら当てもなく走り続ける。途中で車は故障し、乗り捨てることに、しかし、彼らは、近くに観音像をみつけ、情報屋が言っていた、マカオ警察が運搬している1万tの金塊の話を思い出す。銃撃の音が聞こえるので、近づいてみると、ギャングたちと、マカオ警察のチェン軍曹(リッチー・シン)たちが銃撃戦を行っている。結局チェン軍曹しか生き残らなかった。彼を仲間に入れて、金の延べ棒1万tを山分けすることに、桟橋についてチェンが手配した船で脱出しようとした時に、ブレイズの携帯が鳴る。夫の仇を討とうと4人を探していた妻が、フェイたちに捕まったのだ。
  妻子に金を残したいというウーとの約束を果たす為に、指定された場所に向かう4人。チェンは、夜明けまで船を出さずに待っているという。約束のホテルに行き、酒を飲み、子供の時に戻ったかのように、笑いながら、証明写真を撮る。ジンがブレイズを撃つ。ブレイズは防弾チョッキをつけているのだ。フェイの頭を狙えという声に、しかしブレイズの目を見つめて銃を降ろすジン。金の延べ棒を入れたバッグ を投げて、命乞いをするタイ。思わぬ上りに目を細め、裏切り者のブレイズを残して、皆助けてやるというフェイ。ジンとすれ違いざま車のキーを渡して、ウーの分の金塊を積んであるので乗って逃げろというタイ。母子を外に出すと、振り向きざま、レッドブルの缶を蹴りあげたのを合図に、撃ち始めたブレイズたち、敵も味方も入り乱れた銃撃戦だ。缶が床に落ちてきたときには、全てが終わっていた。
  香港ノワール。緻密に作られたと言うよりも、、いかに、ガンアクションをかっこよく、男の友情を渋く描いた香港任侠道映画。餓鬼の頃からの仲間は、死んだ友への友情以外、何も得ることができずに、死んでいくしかない。ありふれているが、男は愚かで、結局馬鹿は死ななきゃ治らないという当り前の普遍的真実。切ないなあ。映画の中で、男たちは、殆ど食事らしい食事を取らない。スコッチのボトルを一本ずつ取って、水のようにラッパ飲みする4人(笑)。いくら酒好きでも、あんな呑み方はできないだろう(笑)。
  独身美人OLと新宿西口のジンギスカン屋。今日もビールは旨い!!大丈夫だ。鼻水だけだ。生ラム美味いなあ。

  
  
  

2008年12月5日金曜日

風邪ひいたかも。

   午前中、佐野眞一『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』読み始めると止まらない。
   池袋新文芸坐でマキノ雅弘監督生誕百年記念上映会。53年東宝『抱擁(343)』。
   あるクリスマスの夜雪子(山口淑子)が銀座の人混みをかき分けるように歩いている。車道に押し出されそうになった雪子をアイマスクをした男がたすける。雪子はその男に話しかけるが人違いだろう、俺は今逃げているところだと言って去る男。雪子は勤め先のバー山小屋に。中では、いつもの店の常連が雪子を待っていた。カストリ雑誌の原稿書きのナベさん(志村蕎)大企業の三代目の山岡(平田昭彦)広告代理店の三平(小泉博)絵描きのサボテン(堺左千夫)詩人のクロちゃん(山本廉)。カウンターに黒百合の一輪差しがある。雪子の為にクロちゃんが買ってきたのだ。礼を言う雪子。彼女は彼らのマドンナだ。三代目が絵画の修業にパリに行くので結婚して一緒に来てくれと言う。他のメンバーも手を挙げる。妻帯者のナベさんが選挙管理人になって選ぼうと言うことになる。
  雪子は、自分が雪の中に行き倒れだった女の子供で、雪女郎として一緒にいる人を不幸にするので、結婚は出来ないと言う。笑いとばす皆に自分の過去を語りだす雪子。バー山小屋のママの夫は画家で山中にアトリエを持っている。そこで雪子は、近くの技師の伸吉(三船敏郎)と親しくなった。ある時2人スキーで山を下ることになり滑っていると、伸吉が黒百合を見つける。雪子のために取ってこようとすると雪崩が起き伸吉は亡くなってしまったのだと。更にここに来る途中、伸吉に瓜二つの男に出会ったことを。数日後、詩人のクロちゃんは自殺する。
   一年後のクリスマス、雪子はクラブ歌手になっている。そこにナベさんがやってきて、みんなで探していたんだと言う。誘われて久し振りにバー山小屋へ行く。三代目は、雪子恋しさにパリ留学から直ぐに帰国してしまったらしい。みな、雪子が幸せになるには、彼と一緒になるのがいいと言う。躊躇いながら頷く雪子。盛り上がって、他のクラブに流れる。踊っていると、雪子は、去年のクリスマスに出会った伸吉と瓜二つの男と再会し、一緒に踊る。男は早川(三船敏郎)といい、同じ組織の人間たちから追われているらしい。雪子は三代目をはじめ常連たちに10分だけ早川と話してきていいかと聞く。頷くなべさん。しかし、早川は組織の男たち(宮口精二)に捕まっている。少しだけ二人で話をさせてくれと頼む雪子。踊っているうちに、早川は雪子に惚れたので、一緒に逃げようという。一瞬の隙をつき、クラブから逃げる二人。雪子から伸吉との話を聞き、二人で山奥のアトリエに行く。しかし警察の追跡は、すぐそこまで来ている。早川は、山荘に雪子を残して逃亡しようとするが、途中まで同行させてくれという雪子。
 二人で山を滑り降りる。しかし、警官たちのライフルは雪子を撃つ。雪子のもとに駆け寄り、早川は雪山に射撃する。激しい雪崩が二人を襲った。
   66年日活京都『日本侠客伝 血斗神田祭り(344)』。
   大正10年、出初め式が終わって、、神田一番組の新纏の新三(高倉健)や松吉(山本麒一)らが組に戻ってくると、関西弁の男竹五郎(藤山寛美)が一番組い入れてほしいとやってくる。銀次(里見浩太郎)は、自分の上半身に入った刺青を見せ、このくらいガマンをしないと駄目だと追い返す。
   それから新三は、出入りの呉服問屋澤清に新年の挨拶に出掛ける。伊勢参りから大旦那清兵衛(高松錦之助)が戻ってきて、出迎える若女将の花恵(藤純子)は、若旦那伸夫(小林勝彦)はいるかと聞かれ、外出していると答えると、前の芸者と旦那の関係ではないのだから、もっと厳しくしておくれと言われて眉を曇らす。花恵は新三に、伸夫が新年早々、店の権利書を持ち出して賭場に出掛け、借金も大分嵩んでいるのだと相談する。事実、伸夫は高利貸しの汐見(遠藤辰雄)に店や家の権利書を渡して借りた1万円で最後の勝負に出て取り戻そうとしていた。しかし、賭場を開いている大貫組の大貫猪三郎(天津敏)と汐見は裏で手を握っており、大貫の賭場でのイカサマで、澤清を乗っ取る腹だ。
   新三は、大貫組の賭場に乗り込み、イカサマを見破って、伸夫を連れ出す。伸夫に、なんで幼馴染の自分に相談しないのだと言うと、花恵が芸者時代に、新三と相思相愛だったことを持ち出す伸夫。
    多額な借金の話を、一番組の鳶の頭の竹田金六(河津清三郎)と小頭の鍛冶政(大木実)に相談する二人。金六と鍛冶政は、やくざに神田を思うようにさせないためにも、1万円という大金を工面しようと言う。金六の努力で信用金庫から金を工面できることになる。
   心を入れ直した伸夫の働きで、澤清の商いも順調に進む。大賑わいの店頭で、刺青を入れてようやく火消しになれた竹五郎が、何で店番をするのかと不満顔だ。松吉と銀次から、火事なんて毎日あるものではないし、万引きを捕まえることで、ご祝儀や飲食の世話になったりして、神田と共に生活するのだと教えられる。竹五郎は、新三、松吉、銀次を、岡場所に案内する。そこには、馴染みの女郎の初枝(中原早苗)がいる。竹五郎の懐具合を考えて、皆姿を消す。
  危機感を感じた汐見と大貫は、イカサマを見破られたお化粧為(楠本健二)に命じて、伸夫を殺させ澤清に火をつける。一番組や消防隊が駆け付けるが全焼する。
   悲嘆にくれる花恵たちに、警官たちは、借金も多い伸吉が自分で火をつけて自殺したという話もあるという。その場合、澤清は、保険金は下りず、店を畳むしか無くなることに。銀次(里見浩太郎)が燃える澤清に飛び込んだ時には既に伸夫は死んでいたが、丸焦げの死体では証明できない。とりあえず、借金だけ返して権利書を取り戻そうと新三が汐見のところに行くと、借金の期限は、1月末ではなく、21日だったという。借用書は伸夫とともに焼けており、死人に口なしだ。
   仇を討ちに殴り込みかねない新三や竹五郎たちを、おれたちはやくざではないと金六は止め、借金を供託して裁判を起こそうと言う。竹五郎は、年期が明けて求婚する初枝に、もう一度前借させて、訴訟費用に差し出す。渡世人の長次は、大貫に呼ばれ金六をやれと言われるが、汚いやりくちの大貫組は侠客の道に反しているのではないかと断る。大坂の淀半の代貸しだった長次は、親分の娘のおその(野際陽子)と出奔したが、おそのは胸を病んでいた。親分への義理立てで指一本触れず、とうはんと呼び続ける長次は筋目を通す侠客だ。神田の長屋に病をおして仕立て仕事に行き、倒れたおそのを親身に面倒をみてくれた一番組に恩義を感じている。
   いよいよ大貫は、手下に命じて金六を刺させる。通りかかった長次に、やった相手のことは自分の手下には教えるなと言う。一命をとりとめた金六だが、しばらく寝たきりだ、河岸一(内田朝雄)ら他の頭取たちが集まって、しばらく小頭鍛冶政に仕切れと言う。頭取たちからは、大貫組との揉め事をこれ以上大きくしないためにも澤清から手を引いたほうがいいのではないかという声も出たが、神田のためにも、組を辞めてでも手を引かないという新三に、加治政も、一番組としてやらせて欲しいと言う。
   裁判は、澤清に有利な方向で進んでいった。追い詰められた大貫は、大番頭の伊助(近藤宏)を拉致し、痛めつけて放火の犯人は若主人の伸夫だという証言書を書かせる。痛めつけた伊助を連れ、花恵と大旦那のもとへ行き、これ以上揉め事を避けたければ、姿を消せと言う。
   翌朝、澤清が夜逃げしていることに気が付く、一番組と長屋のものたち。澤清がいなければ、裁判は続けられない。探し歩く一番組。伊助の死体が、川に上がった。自殺したのだ。新三は、澤清の番頭扇吉(山城新伍)を見つける。その先には芸者にもどった花恵がいる。新三への想いを語る花恵に、澤清再建が大事だと説く新三。大旦那と花恵から裁判に関しての委任を取り付ける。
  長次のもとに、淀半の弟分のおぼろ安(長門裕之)が訪ねてくる。親分から、長次を刺すかおそのを連れ戻すかしろと命じられてきたのだ。長次は、おそのが重い病であること、親分に筋を通す為に夫婦にはなっていないこと、自分には、二人の大恩に報いるためにやらなければならないことがあると伝える。涙ながらに、大阪に帰っていくおその。
  竹五郎が、一番組に帰ってくると、花嫁姿の初枝がいる。頭取夫婦が、1年の年季奉公の話を知って、請け出してくれたのだ。祝言をあげる二人。
  大貫組は、花恵と扇吉を攫い、裁判を取り上げないと扇吉を殺すと花恵を脅す。その時、長次が単身大貫組に斬りこんでくる。扇吉を逃がし、大貫に迫るが、大貫の拳銃の前に、絶命する。新三も、一番組の法被を返して、鳶口ひとつを持って大貫組に、その頃、扇吉の話を聞いた鍛冶政は、一番組の
喧嘩だと皆に声をかける。竹五郎は半鐘を打ち鳴らす。他の組の火消したちも、大貫組に駆け付ける。新三は大貫を斬る。花恵に別れを告げて、大貫組を取り巻く火消したちに見送られて、警官隊のもとに向かう新三。
  何だか、朝の天気予報で今日は昼から天気が崩れて寒い一日と言われて厚着をして出かけると、生暖かい風が吹いて、雨は降るものの、そんなに寒い訳ではない。うっすら汗をかいていたりする内に何だか、風邪っぽくなる。博華で、試しにビール飲むと大丈夫で、途中から絶好調に。
偶然知ったホリエモンのブログに、あったyoutubeリンク。波平が殿山泰司、タマが小池朝雄なのが、最近の映画視聴習慣に合っていて、ちょっと壺に。

2008年12月4日木曜日

師走の風

   午前中は、歯医者と睡眠クリニック。朝一のメールで、ちょっとその気になっていた求人、年齢を理由にNG。凹みそうになり、昼にカツ丼喰べて胸焼け(笑)。減量も大事だが、気力減退が問題だ。
午後は神保町シアターで日活文芸映画の世界
    56年川島雄三監督『わが町(341)』。明治39年、フィリピンのベンゲットの道路建設はことごとく失敗をしていた。そこで、カリフォルニアの道路で実績があった日本人工夫たちが抜擢された。その親方として佐渡島他吉(辰巳柳太郎)は、数百人の死者を出しながら完成させ、“ベンゲットのターやん”として名を馳せる。そして他吉は帰国し、大坂ガタロウ長屋に人力車を曳いて帰ってくる。長屋中が床山のおたか(北林谷栄)の一人息子敬吉(小沢昭一)が、軍隊から帰ってくるのを待っているところだった。
    隣人の落語家の桂〆団治(殿山泰司)の家に上がり込んでご飯をご馳走になっていると、〆団治が、フィリピンに渡る前に1度だけ関係を持ったお鶴(南田洋子)は、他吉の子供を産み健気にも寄ってくる男には目もくれず、独りで育てているという。驚く他吉。お鶴がいると聞いた夜店に行くと、幼い娘の初枝を連れ、七味唐辛子を売っている。どう声を掛けらいいものか困って初枝を笑わせようとしていると、お鶴は何の便りも寄越さないでと怒って唐辛子を他吉に掛けまくる。くしゃみが止まらない他吉。お鶴が長屋に帰ってくると、寝て待っている他吉。お鶴は、夜なべ仕事の爪楊枝作りを始める。これからは自分が働くと言うと泣き出すお鶴。
    翌朝から人力車の車夫として働き始める他吉。しかしお鶴は長年の無理がたたって肺病を病んでいるようだ。病院に行けと言って、初枝を連れて夜店の場所の割り振りに行くと、早速香具師たちと大立ち回りに。父ちゃん喧嘩止めてという初枝に喜びながら、暴れていると、お鶴の容態が悪化したという知らせが。今わの際に、初枝が独り立ちするまで、フィリピンのことを封印しろと言い残すお鶴。
   初枝は、成長し美しい娘(高友子)になっている。桶屋の倅の曽木新太郎(大坂志郎)といい仲になっていると聞いて新太郎を怒鳴る重吉。家で泣く初枝を見かねて、町内のマラソン大会に新太郎が出場するので、車夫の他吉に勝ったら認めてやれと提案する〆団治。マラソン大会の当日に、配分も考えず走り出す他吉だったが、中盤から、オーバーペースが祟って、フラフラに。結局新太郎が勝ち初枝との祝言を迎える。娘が嫁いだ寂しさに〆団治と酒を飲もうとしていると半鐘が打ち鳴らされる。新太郎が親からノレン分けをした店の隣が出火元で、新婚夫婦は焼け出されて他吉のもとに帰ってきた。
   いきなり躓いて意気消沈する新太郎を、無理矢理フィリピンに送り出す他吉。ふ頭で、新太郎の船が出て行くのを見送っていると、初枝が妊娠していると告白する。その後、新太郎からは元気でやっているという手紙が届いている。初枝は〆団治が出ている寄席で、下女をさせてもらっている。他吉が敬吉の床屋で散髪してもらっていると、郵便配達がフィリピンからの手紙を持ってくる。他吉は文盲なので、誰かに読んで貰おうとするが、敬吉たちは口ごもる。新太郎が赤痢で死んだと書かれていたのだ。重い気持ちで寄席から初枝を呼び出し、手紙を見せる。ショックのあまり、絶命する初枝。しかし、他吉の孫娘君枝は無事産まれた。赤子の世話を甲斐甲斐しくする他吉。
   しかし小学校に上がった君枝は、入学式で名前を呼ばれても返事が出来ないほど内気で他吉は心配する。ある日3日も学校をサボっていたことが知れて激怒する他吉。モグサでお灸を据えようとする他吉。泣き叫ぶ君枝の声に〆団治は、女の子の背中にお灸の跡を残したらいけないと言って自分の部屋に連れて行く。しかし、〆団治の鼾と寝言の酷さに眠れない君枝は、他吉の布団に入ってくる。君枝は学校で親無し子とからかわれて遊んで貰えなく、学校に行きたくなかったのだ。勉強が終わったら、他吉の人力車について走ることに。しかし、子供の足では、直ぐに離される。辻々で止まっては孫を待つ人力車に怒った客を逆に怒鳴りつけて、ひっくり返す他吉。転んでいた君枝を一銭天ぷら屋の息子の次郎が連れてきてくれる。次郎は夕刊配達をしながら何かと君枝に優しい。二人を人力車に乗せ、写真館に飾ってあるマラソン大会での新太郎と初枝の写真を見せ、親なし子ではなく、ここにいるわいと言ってm汁粉をご馳走する他吉。その後の運動会の障害物競争で、1位になる君枝。辺り構わず号泣する他吉。
    社会は、大正、昭和と年号が変わり、太平洋戦争が開戦して終戦した。老人になった他吉が、進駐軍を載せた人力車を曳いているが、速度は上がらない。タクシーから降りてきた客に、サービスについてアンケートをする娘がいる。名刺を見て、君ちゃんじゃないかという客は次郎(三橋達也)タクシー会社のBGは君枝(南田洋子)の成長した姿だった。次郎は潜水夫で、他吉の若いときは体を苛めて働かないとアカンという口癖に従ったのだ。2人は食事をしてブラネタリウムで南十字星を見る。帰宅してブラネタリウムのことを他吉に話すが、偽物の南十字星にお金を払うのは馬鹿馬鹿しいと言う他吉。
   長屋の住人は皆年を取った。床屋の敬吉は、49歳になっても、嫁の来てもなく、おたかの世話に頼りきっている。ある日君枝の帰宅が遅く起こる他吉。君枝は、次郎と交際していて結婚したいと言い出す。他吉は気に入らず、そういうことは順番があるのだと言う。数日後雨の日に君枝を連れて外出する他吉。急にお見合いだと言う。怒る君枝に指差した先には、次郎が上司と待っていた。
    他吉と君枝、次郎が帰宅すると人力車が無い。呆然とする他吉に、人力車がある限り他吉が働くので、〆団治に売りに行って貰い、夫婦2人で他吉に楽隠居させてやると言う君枝。更に君枝の腹には次郎の子がいるので、次郎はフィリピンに沈没船を引き揚げにいく仕事を断ったと聞いて激怒する他吉。他吉が君枝の頬を打つと、君枝も他吉の頬を打って飛び出す。街をさまよう他吉が見たのは、人力車を曳いて、ポン引きをする〆団治。辺りの地回りが2人を袋叩きにする。大怪我をして家で寝ている他吉。床屋の坊主に手紙を代筆させる。君枝は次郎の潜水を手伝っている。2人のもとに他吉からの手紙が届く。君枝と子供の生活費は自分のへそくりを渡すので、次郎にはどうしてもフィリピンに行って欲しいと言うものだった。最後に書いてある南十字星に頼みに行くという一節は解らない。
   ブラネタリウムが終演となるが、一人眠ったように死んでいる老人。彼の顔はとても穏やかだ。
   ええ話やなあ。辰巳柳太郎、こうしたアナクロ頑固親父素晴らしい。しかし一番驚いたのは、この頃の南田洋子の初々しく可憐な姿だ。 こんなに可愛かったとは。
   64年中平康監督『砂の上の植物(342)』。
   化粧品のセールスマンの伊木一郎(仲谷昇)が理髪師の山田欣三(信欽三)のところで散髪をしながら、20年程前に亡くなった父親の思い出を語りあっている。父親は画家で、女と食に関してやりたいだけのことをやって33歳で死んだ。伊木は37歳になった。妻の絵美子(島崎雪子)が17の頃に父の絵のモデルをやっていた当時、2人に関係があったのではないかと疑っている。
   友人の井村誠一(小池朝雄)から友人の木暮が事故で亡くなったという電話を受ける。井村と作家の花田光太郎(高橋昌也)と共に葬儀に参列すると、木暮の妹の保子(福田公子)に会って、少女だった昔からの変貌に驚く。保子は、夫との離婚後、急に太ったという。
   ある日、伊木が、横浜マリンタワーに昇ると、口紅を引いた17歳の女子高生津上明子(西尾三枝子)がいる。相談したいことがあると言う。酒を飲むことになった。ホテルに誘うが拒まれる。翌日、再びタワーに行くと、再び明子がいる。ホテルで明子を抱くと、彼女は処女だった。姉の京子(稲野和子)にひどいことをして、不幸にして欲しいという。京子は明子とは異父姉で、バーで女給をしながら妹を高校に通わせている。妹に純血が大事だと口喧しいくせに、男とホテルに入る所を目撃してしたのだ。
   京子が働く「鉄の鎚」というバーに行く。京子と関係を持つことに、そう時間は必要なかった。京子の肌には男の指の跡が残っている。被虐趣味がある彼女に伊木は溺れる。
   家に警察官がやってきた。驚く伊木に、井村が強姦未遂で逮捕され、身元引受人として伊木の名前を出したのだ。釈放された井村と朝食を共にしながら話を聞く。彼は、先日の木暮の葬儀で出会った保子のことで学生時代の悪癖である電車内での痴漢をしてしまい、下車後も相手の女性をつけたため交番に駆け込まれて逮捕されたと言う。
   山田の理髪店で、再び、妻の絵美子と父親の関係を聞く。山田は否定し、その理由として当時入れあげていた芸者のことを挙げる。その芸者と父親の間の娘は空襲で亡くなったと伊木は思い込んでいたが、実は疎開していて無事で、京子という名前らしい。年齢など津川京子との類似は多く、伊木の胸はざわめく。
   伊木は、花の種子を買ってきて、庭にばらまく。そんな蒔きかたでは芽は出ないという妻。
   鉄の鎚に行くと、井村と花田に会う。その次に行った店で、京子について会話をしていると、最近花田が嵌まっている遊びに連れて行くと言う。旅館の一室で素人の女性が、全裸で自分を慰める行為を、真っ暗な隣室から覗くというものだ。
   山田の店で鰻重を食べている伊木。この鰻屋は、近親相姦の兄と妹がやっていると山田は言う。
伊木と京子の関係はより深いものになっていく。明子がやってきて、姉にひどい仕打ちをすることはどうなったのか教えてほしいと頼む。明子に迫るが、拒絶されて、京子にセーラー服を着せて愛欲に溺れる。京子の腕に緊縛の痣が残っている。この痣が二人の愛の記録のようだ。
   伊木は、食欲もおきず、家では横になっていた。窪んだ目と、伸びた不精ひげで庭に出ると、芽だ出ている。ひとつだけ花をつけている2年草がある。
   明子を呼び出し、旅館に連れて行く。そこには、全裸で縛られた京子の姿がある。驚く京子と明子。抵抗する明子の唇に、乱暴に口紅を塗る伊木。呆然としている明子を家に帰って、睡眠薬でも飲んで寝ろと言う。旅館の部屋の窓を開けると夕焼けの海が広がっている。京子は、「私の前に秋子と関係があったのね。悪いひと」とつぶやくが、非難の声ではない。
   山田のもとに行くと、自分の異母妹は死んでいることが分かったという。伊木は、京子の自宅を訪ねる。質素な一間のアパートに寝ている京子。明子は出て行ったと言う。睡眠薬を飲めと言ったのは、思春期の娘に軽率だったと言う。伊木は、京子に海を見に行こうと言う。海が見えるホテルのレストランで洋食を食べる二人。京子は、こういう場所は緊張して苦手だという。腕の痣を見せる京子。無人だったレストランは、突然にぎやかになる。京子の腕をとり、廊下の人の流れに逆らってエレベーターに乗り込む。エレベーターで他の乗客が降り、二人きりになる。各階に着くたびに、無人のフロアに扉が開閉する。二人は、迷宮に降りていくかのようだ。
   ロリコン、痴漢、SM、覗き、近親相姦、何だか変態性愛のデパートのようだ。吉行淳之介の原作のエロティシズムを、中平康が映像フェティズムで、映画とした作品。10代の頃に見た時の印象は、なんてエロな映画なのだと脳髄が痺れるような思いをしたが、30年経って、少し枯れてきたのかもしれないと危機感を覚えるほど、どうでもいいような、少し過剰に思える技巧が気になってしまう。
   急いで外苑前の粥屋喜々に向かう。元会社の後輩Kと、美人元部下と、その友人の美人ライターに合流する。会社に戻って仕事をするという元部下たちが先に帰る。自分の娘たちは、なんて働きものなんだと、辰巳柳太郎の“ベンゲットのターやん”が娘や孫娘を見るような気持ちになっている(笑)。やばい、ほんま枯れとるなー。しばらくすると、CというTV局の古い友人が食事をしに来た。音楽、放送業界の不況話は尽きない。

2008年12月3日水曜日

受け身志向の団塊世代(12/3日経夕刊)

    神保町シアターで日活文芸映画の世界。
    65年鈴木清順監督『悪太郎伝 悪い星の下でも(337)』。
    昭和の初め、鈴木重吉(山内賢)は河内の八尾中学の4年。貧しい水呑百姓で博打と闘鶏好きの父(多々良純)と母(初井言栄)と暮らしている。中島牛乳で牛乳配達をしている。ある時商売敵の上村牧場に乱暴される。仕返しに行こうとする皆を止め、結局警察から上村牧場が営業停止になることで、お得意を増やす。また社長に新しい得意先を増やしたら1軒1円の報奨金を提案する。
   学校では、5年の風紀委員がのさばっている。落第して1つ年上の同級生三島(平田重四郎)が従姉の娘と歩いていたことで、大岡(野呂圭介)たちに制裁を受けたことが、従姉にラブレターを出して断られた逆恨みと聞いて、上級生の大岡を制裁する。下級生にやられた大岡は自らを恥じて退学する。三島の家は旧家で、同級生たちを集め医学書の女性器などを見せたりしている。同級生たちは大騒ぎだが、重吉は不愉快だ。憮然と帰ろうとした時に玄関で、三島の妹鈴子(和泉雅子)に出会い、一目惚れする。
    祭りの夜、神社の境内では多くの若い男女が抱き合っている。その中に三島と、鈴子の同級生で従姉の山賀種子(野川由美子)が、キスをしているのを見つけ注意をするが、逆に婚約者同士がキスをしてなにが悪いと言い負かされる重吉。しかし、自分を見下した態度の三島に腹をたて、二人を殴る。三島が中島牛乳に重吉が配達する牛乳を取らないと電話をしてくる。配達を止めると、鈴子が、重吉が届けてくれる牛乳を楽しみにしているので、止めないでくれと言う。数日後、重吉のもとに鈴子からラブレターが届く。有頂天になる重吉。指定の八尾駅に行くが鈴子は現れない。種子は鈴子からの伝言だと言って宝塚に連れて行く。ラブレターは種子が書いたものだった。積極的な種子の誘惑に勝てずに、2人で入浴し関係してしまう重吉。それ以降も、種子からの誘いに断れず、時鳥(ほととぎす)という料理屋で逢瀬を重ねる2人。
   子供の頃から利発な重吉に何かと気にかけ、八尾中から京都の三高に進学し大きな人間になれと諭す天台院の和尚(三島雅夫)は、若い内は何をしてもいいが、質屋の娘の種子は身持ちが悪いので考えろと忠告する。父は博打仲間の仲造(谷村昌彦)に誘われてちょっとした規模の賭場に出掛ける。金が無いので、重吉の牛乳配達の自転車を盗んで質入れする2人。賭場の会場は時鳥、空いた部屋がないかと女将と談判する種子と重吉を目撃して驚く重兵衛。しかし、仲造はイカサマが見つかって揉め事を起こし、仲間だと思われた重兵衛共々、袋叩きに。重兵衛から手をかけたヤクザの2人の名前を聞いて重吉は1人金神組に殴り込む。匕首などを隠し割ったガラスを土間に撒いて、呼び出しを掛ける重吉。素人独りにきりきり舞いをさせられて金神組の面子は丸潰れだ。
   天台院に匿ってもらう重吉。ある日、祖母の墓前で泣いている鈴子を見かける。自分の気持ちを鈴子に伝えるが、種子とのことをすべて聞いていると鈴子は頑に拒む。走り去る鈴子を呆然と見送る重吉。三島が殴り込みの犯人が牛乳配達をしている重吉だと金神組に密告し、面子をつぶされた二人組が、重吉の家に押し掛ける。重吉は、妙子に質草の中から小太刀を持ってきてもらった上で別れを告げる。両親を逃がした後に、二人組はやってくるが、重吉の悪知恵には敵わない。ボロボロにされて戦意喪失したところで、重吉は足を刺した。
   村人たちが、正当防衛だと言いたてる中、重吉は、名誉ある八尾中を汚した自分は退学すると、学校に電話する。駐在巡査に捕縛され、留置所に入れられる。質屋が火事になり無一文になった妙子が、淡路島の叔母の家に行くと言って別れを告げに来る。無言の重吉。天台院の和尚は、身元引受人となりながら、重吉が自分で結論を出すまで、いく度となく通った。最後に、重吉は、目の前に壁があるから、乗り越えなかあかん、と宣言して出所する。鈴子の家に行くと、前日に嫁いだと婆やに告げられる。鈴子から預かったと、婆やは重吉に高女のバッジを渡す。
   重吉は、仕事を求めて親元を旅立つ。途中中島牛乳の者に会う。牛乳を飲み、空き瓶に鈴子のボタンを入れて、橋のたもとに埋める重吉。これで思い残すことはない。最後に、船員姿の重吉。
   やっぱり、青春三部作あたりが、個人的に鈴木清順の壺だなあ。
   66年鈴木清順監督『河内カルメン(338)』。
   露子(野川由美子)は、河内の山奥から自転車に乗り坂田製綿工場に通っている。露子は、工場の跡取り息子で大学生の彰(和田浩治)が好きだった。工場の帰りに彰から好きだと言ってキスをされて喜ぶ露子。しかしそれを目撃していた源七(野呂圭介)ら、露子に懸想していた地元の若者に輪姦されてしまう。やっとの思いで帰宅すると家の外で父(日野道夫)が酒を呑んでいる。家の中では、母(宮城千賀子)が、不動院の破道坊主の良厳(桑山正一)と姦淫の最中だ。良厳と寝た金で、一家は生活しているのだと母はうそぶく。露子は家を出る。
    地元の先輩の雪江(松尾嘉代)の勧めで大阪のキャバレー、クラブダダで働き始めた。初日、男たちへの過激なサービスに戸惑う露子。その晩に着いた客の勘造(佐野浅夫)の出身が河内の醤油屋という嘘に盛り上がり、酔った勢いで一夜を共にしてしまう。。徐々に慣れ人気者になる露子。暫くすると勘造は、店に入らず通用口で待つようになる。気味悪がる露子。しかしある雨の日濡れそぼって立ち尽くす勘造に、傘を差し掛ける露子。勘造は、使い込みがばれて会社を首になり行く当てもないと言う。 一晩泊めるつもりが、いつの間にやらヒモになり、甲斐甲斐しく露子の身の回りの世話をする勘造。
   ある日、クラブダダの慰安旅行でホテルのプールで泳いでいると、ファッションモデルをしている幼馴染の稲代(和田悦子)に会う。稲代の紹介でモデル事務所の社長鹿島洋子(楠侑子)にスカウトされ、モデルとなる露子。鹿島に言われ、勘造と別れ、鹿島の家に住み込む。しかし、鹿島はバイセクシャルだった。誠二(川地民夫)という愛人はいるが、露子に迫ってくる。慌てて逃げ出し、誠二の部屋に居候となる。
   そんなある日、バスの中で、彰に再会する。彰の親がやっていた紡績工場は倒産し、生駒の山中で温泉を掘り当てるという夢に取りつかれている彰。しかし初恋の人と一緒になることが幸せだと、彰のバラックで同棲する露子。温泉話に出資してくれる人間は見つからず、荒んでいく彰。露子の服も全て僅かな金に換えてしまい、酔い潰れる彰。露子は、誠二から聞いた高利貸しの大金持ちの斎藤長兵衛(嵯峨善兵)の妾になろうかと彰に持ちかけると、温泉を掘り当てるまでの間だと言われる。マンションを買ってもらうが、長兵衛は、手も出さず、全裸で歩かせて、露子を辱しめる。彰は長兵衛のもとに出資の依頼に行くが、笑われる。
   長兵衛は、江戸時代のセットのような場所で着物を着せられている。そこに忍んできた忍者は彰だった。僅かな金のために、襲いかかる彰。長兵衛は、別室でカメラを回している。ブルーフィルムの撮影をしているのだ。露子は誠二に、マンションの売却を頼んでいた。長兵衛と別れる決心をしていたのだ、金を彰に貢ぐために。しかし、現在の彰の姿に失望する露子。更に、香港に行こうとしていた長兵衛が飛行機事故で死ぬ。父親が亡くなったという報に、実家に久し振りに帰る露子。葬式も出さずに良厳に読経してもらっただけだと母から聞いて50万の金を渡して葬式を出せと言うが、あんな男に葬式なんてもったいないという母。妹の仙子(伊藤るり子)が良厳と関係を持っていると知って、良厳を問い詰めると、良厳とのセックスを面倒くさくなった母が仙子とやれと言ったと聞いて驚く。最初は拒んでいた仙子も今では進んで良厳のもとへ通っていると。絶望する露子。生駒山中に温泉が出るという話で、山奥の滝に、良厳を誘う露子。露子の身体に舌舐めずりし、また、険しい山道で動きが取れないことをいいことに、露子が嵌めていた80万円の指輪を奪う、煩悩まみれの良厳。しかし、足を踏み外して滝の中にまっさかさまに落ちる。
   まともな男を探しに東京に出るという露子の手紙を読む誠二。
   鈴木清順の壺をもう少し詳しくいうと、63年の「野獣の青春」「悪太郎」から「関東無宿」「花と怒涛」「肉体の門」「俺たちの血が許さない」「春婦傳」「悪太郎伝 悪い星の下でも」と来て、「刺青一代」「河内カルメン」「東京流れ者」「けんかえれじい」「殺しの烙印」とくると、ただの日活時代の中期以降全部だな(苦笑)。日活以降の「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」も、とか挙げると、結局鈴木清順好きなただの映画オタクだな(苦笑)
   68年神代辰巳監督『かぶりつき人生(339)』。
   ストリッパーの笑子(丹羽志津)が駅で娘の洋子(殿岡ハツエ)を出迎える。母が、ようやく家持ちの男と結婚し、旅館をやっているので、名古屋での仕事を辞めて手伝いに来たのだ。役場で婚姻届を提出する笑子。しかし、結局男勝っちん(玉村駿太郎)は、香具師の大将で、笑子と勝っちんは、ストリップの巡業にひと月出るので、射的屋の店番をさせられる洋子。
   巡業先のストリップ小屋は、直ぐに刑事が踏み込んで笑子は捕まる。保釈金5万円の無心に洋子の所に勝っちんがやって来る。貯金など無いと言うと、駅前の喫茶店に洋子を勤めさせて、前借りしていく。母が帰ってきた。しかし、家に行くと勝っちんの本妻が一年振りに帰ってきている。奇妙な三角関係と同居していることに耐えられず家を出る洋子。
   結局、洋子は名古屋の劇場でヌードダンサーになっている。マネージャーの恭やん(名取幸正)からプロポーズされるが、演出家の倉さんと寝る洋子、彼女は処女だった。笑子はストリッパーを続けている。笑子の手伝いをしていた少女(新田紗子)が洋子を訪ねてくる。洋子に憧れているという。洋子は冷たくする。付きまとう少女は、洋子が道の向こう側にいる警官に声をかけようとした途端、走ってくる車に突き飛ばす。
   幸い、洋子は軽傷だった。雑誌のトップ屋の阪本(中台祥浩)が取材に来る。洋子は有名になるチャンスだと思う。坂本は、親子ストリッパーの話などを持ちかけて来たが、洋子は、かって名古屋の喫茶店で働いていたときに、やくざの男と付き合っていた。その男が堅気になったら一緒になろうと約束していたという話を書いてくれないかという。坂本は作り話風の美談と笑い飛ばすが、洋子が、その後、いつのまにやら他人に結婚を誓った大手企業の男がいるという話になってしまっている。というと掲載してくれる。  
   坂本は、話題性充分の洋子をピンク映画の世界に売り込む。坂本は、洋子に、今もストリップの舞台に上がっている笑子に会いに行かないかと誘われる。一度は同意したものの、雨の降る中、車の中で、笑子は、サングラスを掛け、客の男たちの視線を盗み見ながら、自分の快楽のために、一人になっても踊っているのだという話を聞くうちに、親子でなければ親友になれたが、無理だと言って車を降りる。雨の中歩いている洋子を再び車に乗せる坂本。急に坂本に結婚してくれと頼む洋子。教会の神父の前で誓い合う二人。一躍人気者になる洋子。きれいなマンションに住み、立派な家具に囲まれた生活、更に少女と共演をさせようとする坂本が、だんだん嫌いになる洋子。坂本を憎みつつ、ピンク女優であることを辞めたいが、今の生活を維持したいという矛盾した悩みをもつ洋子。坂本は洋子に、今もストリップで舞台に上がっている笑子に会いにいかないかと誘われる。一度は同意したものの、雨の中車で向かう途中、母が、一人でサングラスを掛け、客の男たちの視線を覗きみながら、自分の快楽のために踊っていると坂本が話すうちに、車を降りる。ある日、布団の移動乾燥業を営むレーサーの男(水木達夫)に出会う。坂本の殺人を依頼する。坂本と洋子の住むマンションの前の喫茶店で打ち合わせをし続けるが、結局、阪本と一緒に夜の富士スピードウェイでレーシングカーで発散する洋子。
   洋子たちピンク女優たちが、ストリップ小屋での営業をしている。オープンカーで町内を練り歩くピンク女優たち。楽屋にいると知り合いが訪ねてきていると言う。外に出てみると、週刊誌に語ったやくざの男(市村博)が来ている。一緒になろうという男に、別の喫茶店で働いていた時の話だと冷たく言う洋子。男は、仲間と賭けてきたと言う。金が欲しいならやるという洋子に、賭けにまけたペナルティはこれだと言って、洋子をナイフで刺す。急いで救急車を呼ぶ坂本。救急車の中で、私が死んだら、50万円ある預金を富士スピードウェイにいるレーサーに渡してほしいと言う。しかし、坂本と救急隊員は、足を刺されただけで死なないという。自分に運が回ってきたと、ヌードダンサーになって以来幾度となくつぶやいてきた言葉を繰り返す洋子。洋子を刺した男は警官隊に追われ、女児を人質に取ったりするが、結局撃たれる。洋子の乗った救急車に同乗させられる男。気を失ったのを見て、男がバーテンの経験があった筈だから、バーをやらせようか、自分はまだ当分女優を続けたいからと言う洋子。
    ほとんどノーネームの役者たちで、ドキュメンタリー的な撮影方法が効いていて、どこまでが、フィクションで、どこからがノンフィクションなのかと思えてしまう非常に巧みに構築されたフィクション。
   昔見た時も判らなかったが、50になっても判らないなあ(苦笑)。ストーリーではなく、女というものがだ。エンディングに流れる「男は、お~とこ~」という間延びした歌が、不思議な疲労感を覚える。妙な余韻が魅力の映画だ。
   56年中平康監督『狂った果実(340)』。
   虚脱と狂気の眼差しをした少年がモーターボートを走らせている。鎌倉駅から無賃乗車で乗り込んだ滝島夏久(石原裕次郎)と春次(津川雅彦)の兄弟。逗子で下車する際に、春次が垢抜けた美人を見つけた。逗子で水上スキーを楽しむ2人。夏久の友達のフランク(岡田真澄)のヴィラには手塚(島崎喜美男)、相田(木浦昭芳)、島(加茂嘉久)、道子(東谷瑛子)らがいる。みな日常に退屈している。ポーカーをしているうちに、各自がナンパした女をパーティーに集めて、各自のカードとして勝負をしようとまとまる。その後、彼らはフランクのクラシックオープンカーで遊びに出掛ける。フランクが以前道子を攫ったチンピラたちに因縁をつけられる。フランクは道子ならどうでもいいと言うが、退屈しのぎの夏久たちは、チンピラを叩きのめす。(石原慎太郎と長門裕之が打ちのめされる役でカメオ出演)
   翌朝再びモーターボートを出す夏久と春次は、沖を独りで泳いでいる女を見つける。声を掛けると、昨日の美人だった。彼女を送る2人。名前を聞き忘れたが、彼女の水泳キャップが残っている。喜ぶ春次。翌日逗子駅で、春次は外人と一緒の女を見つける。彼女の名は恵梨(北原三枝)、水上スキーを教える約束をする。彼女に水上スキーを教える春次。岩場で休んでいるときに、緊張している年下の少年に愛情を感じる恵梨。家まで送ると言う春次に母親が厳しいと頑なに拒む恵梨。フランクの家でのパーティーに招待し承諾してもらい有頂天になる春次。恵梨の姿は、明らかに周りを圧倒する。春次は、自慢に思いながらも、恵梨を見る兄たちの視線に、ドライブに誘う。フランクの車を走らせ、海岸に行き、キスをする二人。
   春次の帰宅は遅かった。翌日夏久、フランクたちは横浜に新しくできたクラブに行く。そこで外人と踊っている恵梨がいる。恵梨を問いただす夏久。恵梨は20歳で、踊っていた外人は夫だった。春次を愛しており、結婚する前の恋愛として体験しておくことを今春次と過ごしているという恵梨に、急に激情を催し、恵梨を抱きしめる夏久。それから、恵梨の家にたびたび通っては関係を持つ夏久。
   家で、春次と一緒にいると苛立っている夏久の変化を感じる春次。恵梨とドライブに行き、大人になる春次。その話を聞き、自分を抑えられなくなってきている夏久。春次が恵梨とフランクのヨットを借りて、宿泊旅行を計画する。春次が不在の時に恵梨からの速達が届く。夏久が勝手に開封すると、外出が難しいので日程を1日早めてくれないかというものだった。その手紙を破り、強引にフランクのヨットを借り出す夏久。待ち合わせの場所にヨットに乗ってやってきたのは夏久だ。強引に恵梨を載せてヨットを出す夏久。外出から春次が帰ると、机の上に破かれた恵梨の手紙がある。ヨットハーバーに行くとフランクがいる。止めたが夏久は恵梨を連れて出かけた。恵梨はそんな女だと言うが、春次は耳を貸さずにモーターボートを出す。探し続ける春次。一度戻るが、ガソリンを持ち出して再び海に出る。夜が明ける。二人が乗ったヨットを見つけ、周りを旋回し続ける春次。夏久が負けたよと言う。恵梨は海に飛び込んで春次の方に泳ごうとしたその時、春次のモーターボートは、スピードを上げて恵梨に、続いて夏久ののったヨットに突っ込んで、そのまま走り去る。凪いでいる海には、ヨットの残骸だけが漂っている。
   なんど見ても複雑な思いがする。中平康監督のデビュー作にして非凡な才能を世界に知らしめた作品だとか、頭では思うのだが、太陽族というものが気に入らない(苦笑)。1956年、敗戦後高度成長がスタートして、ほんの一握りだが、富裕層が現れ、親たちから、欲しいものを全て与えられた若者たちにあるのは、モノではなく、刺激のある精神的なものが誰からも与えられないだけの受身の退屈だ。
モータボート、ヨット、水上スキー、別荘、家政婦、マイカー、その頃どれだけの日本人が享楽できたものだろうか。ほとんどの日本人は、精神的な刺激どころか、生活に必要なものが足りなかったのではないか。「草を刈る娘」が61年、「キューポラのある町」が62年、「非行少女」は63年・・・。アメリカドラマの想像もつかないような贅沢な家庭を見て憧れたように、太陽族に、屈折のないかのような石原裕次郎に熱狂した日本人たちは、戦後をどうしても終わらせたかったんだろうか。しかし、なかったことにしてしまった先達は、こんな日本を作ってしまった。ちょうど、今日の日経の夕刊に泉谷しげるのインタビューの見出しは、受け身志向の団塊世代だ(笑)。

2008年12月2日火曜日

切ない一日。

    午前中に、渋谷で散髪と赤坂でメンクリ。久しぶりに、手作りおばんざい5品を独身美人OLにお届けして、昼を元会社の同僚たちと済ませ、午後イチに市ヶ谷のエージェントで面接。あぁ、そろそろ失業者も飽きたなあ。どこかから、そこそこの給料のおもろい仕事を持って、白馬の王子様かサンタクロースが現れないものか(笑)。
    朝久しぶりにスーツを着て家を出ようとすると、寒くなっていて、慌ててコートを探す始末。家と映画館と飲み屋の外では、冬になってたのだな。師走である。アークヒルズにあった本屋が先月末で閉店。ブブカなどの恥ずかし雑誌と、時代小説の書き下ろし文庫を買っていた老夫婦と息子さんの3人の町の本屋。大型書店だとあれもこれも欲しくなってしまう病気なので、普段使いの本屋の絶滅は由々しき問題だ。
    新宿バルト9で、ジョン・ウーレッドクリフ(336)』。
    うぅ、何だかなあ。前後編に分けたのはどうなんだろうか。大作を見たというよりも「300」を半分みた感じになる。起承転結の起承で、来年 4月まで、お楽しみに~っ!という感じかよ、そりゃないぜ。
    そもそも、冒頭の「むかしむかしあるところに悪い将軍がいました……」的前置きの15年前のテレビゲームみたいなCG、歴史的な背景の説明にも、これから始まる物語の前提の三国志のお勉強をしましょう、にしても中途半端じゃないか。ジョン・ウーサイドには相談なしに、日本で作って入れたというから、何だか日本の観客の文化レベルをアピールしているみたいで恥ずかしい(苦笑)。更に人名など殆どの漢字には、最初から最後まで振り仮名入っているし、と名前を出そうとしても、携帯では全然変換出来ない。なんせ所轄公明だからなあ(笑)。日本人のボキャブラリーは、どう贔屓目にみても、携帯の漢字変換よりも小さいだろうから、振り仮名つきはしょうがないのかと弱気に。テレビにも字幕入っているし、やっばり邦画か日本語吹替版の時代なのか。 まあ、この映画も元々、日本資本みたいだしな。なら、最初の制作段階からすり合わせておいて、三国志初心者バージョンのオープニング作ってもらえばよかったのにという気がしなくもない。
  個人的に気になったことをいくつか、初戦の勝利を喜ぶ兵士たちの中に、MAX松浦そっくりな兵士がいたが、まさかカメオ出演?(笑)。もひとつは、この映画加藤泰が撮ったら面白かっただろうなということ。ついでにもう一つ、日本の役者で、アジア資本ハリウット映画に出るやつは。中村獅童しかいないのか・・・。現代劇ならともかく時代ものだと線が細くて無理なのか。男優が駄目なら、女優、どんどん出て行った方がいいと思うがなあ。
   時計のベルト交換で、東急ハンズに行く。しかし新宿高島屋6時過ぎなのに、あまりに閑散とした感じヤバい。HMVも、火曜なら水曜発売の店着日なのに、店員と同じ位か、それ以下のお客さん、ギガんと切なス。古すぎるか(苦笑)。かかりまくるEXILEのラストクリスマスが物悲しい。
   日本経済が復調しないと私の仕事は!?まんが総理が辞めただけじゃ何も変わらない気がするが…。明治政府以来の官僚機構はもういい加減変えないとどうしようもないのじゃないか。と、映画のあらすじ書かないとぎも、無駄に長いブログになるのであった。切なくなって博華で餃子とビール

2008年12月1日月曜日

「あ、なるほど、なるほどね」「いや、まったく」

  阿佐ヶ谷ラピュタ。昭和の銀幕に輝くヒロイン[第44弾]乙羽信子
  54年近代映画協会新藤兼人監督『どぶ(331)』。
  工員の徳(殿山泰司)は、製鉄所に行く途中に行き倒れの女乞食にコッペパンをやる。京浜工業地帯にある製鉄所はストライキ中。会社が雇った愚連隊が組合員に襲い掛かる混乱の中抜け出し、競輪場でオケラに。東京大空襲の時の命拾いした爆弾の破片の爆弾の神様も無くすし意気消沈して塒に帰る徳。ここはカッパ沼と呼ばれる湿地帯。バラックが数軒寄せ集まって極貧の人々が暮らしている。同居人のイチ(宇野重吉)も摺ったようだ。いきなり昼間の女乞食が現れた。名はツル(乙羽信子)。身の上話をし始めるが、少し頭がおかしいようだ。カッパ沼の住人が集まる中、満州からの引き揚げの途中で身寄りを亡くし、叔父の家から紡績工場に働きに出るが、製糸不況でストライキをしてクビに、そこから男に騙されたりしながら、流れ着いたらしい。一度は追い出そうとした徳とイチだが、ツルが土浦の置屋から逃げる時に千円を盗んで持っていると聞いた途端自分たちの飯を分けてやる。翌日からツルはカッパ沼の住人となった。
   イチ、徳、元役者の忠さん(信欣三)は、イチは学生だが授業料を払えないで困っていると嘘をついて、大場の鹿蔵の飲み屋に芸者として売り飛ばしてしまう。しかし製鉄所の偉い人たちの大事な宴会でツルは、労働者を大切にしろと言って大暴れ、巡査に連れられカッパ沼に帰ってくる。翌日鹿蔵に金を返せと迫られるが、昨晩のうちにカッパ沼の住人たちで豪遊してしまって返す金はない。結局ツルが駅前でパン助をやって返すことに。ツルは毎晩千円以上稼ぎ、借金は5日で返せる計算だ。喜ぶツル。           しかしカッパ沼の住人は、なんやかんやツルから金を借りていく。また嫌な顔一つせず貸すツル。元役者はイヤリングを、イチと徳はネックレスをプレゼントする。
  鹿蔵と地主は、このカッパ沼を競艇場用地にして儲けようと考えている。そのために住人を追い出したいが、一筋縄ではいかない人々。ある時地主の息子が20万円入っている金庫を持って逃げるのを知ったツルが叫ぶのを聞いて、皆水の中まで追い掛けるが、鹿蔵は用地買収資金を使い込んでおり、金庫の中身はヌード写真だった。
   風邪を引くカッパ沼住人。イチが寝込んでいるのを甲斐甲斐しく看病するツル。イチがツルに迫ると、激しく拒絶するツル。イチに出ていけと言われ、住人たちからも嫌みっぼくくしゃみをされて、とぼとぼ出て行くツル。ツルが個人で売春していたことが気に入らないパン助たちのグループがツルを締め上げようとする。揉み合う内に駅前の交番に逃げ込むが、あいにく巡査は席を外していて拳銃を掴むツル。訳もわからず乱射するツル。頭の中を、今までの人生が駆け巡り、更に混乱するツル。駅前は大パニックになり、巡査はツルを射殺した。
  ツルの遺体を囲むカッパ沼の住人たち。ウナギ取りの名人で元医者らしい博士と呼ばれる老人(加藤嘉)が、ツルは男に移された病に罹っており、自分の死を知っていたようだという。イチを拒んだことも愛する男に病を移してはいけないと思っていたからだ。また、弘美は、ツルが書いた小説を見せ、忠さんが読み始める。カッパ沼が人生で最も幸せな場所で、ここの住人を愛する言葉が拙い文字と文章で綴られている。身を捩って慟哭するイチと徳。住人たちはツルを失った悲しみに打ちのめされるのだ。
  乙羽信子、暗愚な娘の役を熱演、しかし、イチと徳が地面に身を投げ出して慟哭する場面、日本人の男で、あんな泣き悶え方をするものは、50年の人生の中で、現実にも映像でも見たことがないので、ただただ驚く。
   山下耕作ノ世界。 76年東映京都『夜明けの旗 松本治一郎伝(332)』。
  明治41年福岡、徴兵検査の場で差別的な嘲笑を受け、検査官の兵士を殴りつけ取り押さえられる男がいた。彼の名は、松本治一郎(伊吹吾郎)被差別部落の出身ということで言われのない差別を受けてきた。兵役は免除になり、父(浜村純)母(毛利菊枝)兄鶴吉(品川隆二)次兄次七(滝田裕介)の家族での食事中、中国大陸に渡るという治一郎。中国からの手紙の度、送金する両親だが、最後に乙種医師となっているという写真の元気な姿に喜んでいる。
  博多座で役者をしている虎松(田中邦衛)が、公園で寝ている治一郎に出会う。大陸でも、部落差別を受け、領事を殴って強制帰国されたのだ。鶴吉の土木作業を手伝うことにする治一郎。治一郎は、すぐに親方として信頼されるようになる。しかし差別は何も変わらない。治一郎は、ある時酒場で絡まれている娘タキ(檀ふみ)を救う。父親が保証人になった借金に苦しんでいると聞いて、金を建て替えてやる。タキは部落出身であることを知った上で、嫁にしてほしいと言う。しかしタキの両親は、部落出身者に娘を嫁がせると村八分になると言って反対する。家を出るというタキに、治一郎は、タキの親の承認がないと、二人の子供は、戸籍上部落出身者の私生児となり、子供が苦しむので一生結婚しないという。
   また半三郎(長門勇)の娘ミヨ(高瀬春奈)は、葉村裕介(岡田裕介)と結婚したが、結核になった途端、離縁して実家に戻された。結局ミヨは亡くなるが、部落の火葬場が故障しているので、地域外の火葬場に持っていくと拒否され、海岸で焼くことになる。そこに裕介が現れる。怒り殴る半三郎だが、勘当されてやってきた裕介を許す。しかし、その葬儀に関して、嘲笑する記事を福岡日日新聞が掲載されたことで、みなの怒りが爆発する。暴動になり、治一郎も逮捕される。
   大正11年京都で水平社が発足、治一郎のもとに、花田慈円(小池朝雄)らが九州水平社を作ろうと訪ねてくる。治一郎の入獄中に九州水平社の結社式が開かれ、治一郎が代表に選ばれた。しかし、父親は出所3日前に亡くなっていた。その遺影の前で、一生を部落解放運動に捧げ、獄中で伸びた髭を剃らず、酒、煙草、女犯などを断つと誓う。
   大正14年、治一郎は全国の水平社の委員長になる。半三郎の息子の清(山田正則)が、徴兵された。軍隊こそ、階級社会であり厳しい差別が残っている。清はその中で差別と闘い懲罰倉に入れられる。残った被差別部落出身者への拷問により自殺者が出る。そのことは、治一郎たちを激しく怒らせた。福岡の連隊に通い、談判する中で、福岡の連隊の責任者である連隊長(山本麒一)を引っ張り出すことに成功し、連隊内で人権講演会を開催することを了解させる。しかし、葉村が全国の水平社に発信したチラシが、在郷軍人会などを刺激する。連隊に激しい圧力があり、約束も反故に。
   水平社が、天皇制のもとでの階級制度に対する重大な脅威だと考えたものたちは、あからさまに、あるいは悪辣な陰謀として妨害工作を行う。部落出身者ではない葉村を特高と検察は拷問にかけ、転向させ、治一郎の自宅に爆弾を隠させる。水平社による博多連隊爆破計画をでっちあげ、治一郎、慈円、半三郎らを含む10数名を逮捕した。
  昭和2年6月6日、いよいよ裁判が始まる。検察側の主張を、理路整然と明解に否定していく治一郎。旗色の悪い検察は、葉村を検察側の証人として立て、爆破事件の共同謀議を証言させようとする。被告席に並ぶ治一郎らを前に真実を語り、謝罪する葉村。正に検察側の証人がでっち上げを認めたことに裁判は大混乱になる。しかし、それでも、裁判官は治一郎たちに実刑判決を下す。控訴審、最高裁でもこの不当判決は覆されることはなかった。
   公園を埋め尽くす水平社の同志たちを前に、差別撤廃への新たな決意を語って、獄に向かう治一郎。治一郎を先頭に力強い行進の列は切れることはない。
   68年東映京都『前科者(333)』。尻斬り常こと杉田常次郎(若山冨三郎)は、大組織の昇竜会がのさばる関西が嫌になって修(菅原文太)を連れて新宿の黒崎組の客人となっている。縄張りの揉め事に手当たり次第突っ込んで行く常次郎を厄介者扱いにする弟の黒崎勇治(小松方正)に兄久造(安倍徹)は秋葉会を潰す時に使えばいいとうそぶく。今日も1人のチンビラを締めている杉田たち。そこにチンピラの兄貴分の小磯(待田京介)がやってくる。派手に殴り合って兄弟の盃を交わす。しかし杉田も修も金を持っていない。杉田を慕って出てきた情婦玉代(春川ますみ)を料理屋に売り飛ばして、キャバレーで飲む杉田たち。小磯から喫茶店やしろが、一筋縄ではいかないと教えられて、店内で暴れる杉田と修。店主の矢代(大木実)は、全く動じない。しかし矢代の妻(宮園純子)が堅気の店ですと言うと、何も言えなくなって店を出る杉田。
 黒川の話で秋葉組に文句をつけに行く杉田だが、秋葉政之輔(嵐寛寿郎)に、、迷惑料として20万現金を貰ったことと、矢代があいさつに来ていることで、秋葉の人物に恐れ入る。矢代は、かって歌之町の7人斬りの健という伝説の男だったが、堅気になっている。秋葉から貰った金を元手に、杉田は、自分の一家を構える。新宿の夜景を見ながら、この街で男を挙げると、小磯に誓う杉田。
 さっそく賭場を開く。杉田自身は全く博打の才能はなく、金をばらまくだけだ。しかし、かなり上がりは出る。ある時、小磯の舎弟の川村(林彰太郎)が黒崎組に寝返った。その情報を売りにきた男がいるが、裏切り者を抱えるつもりはないと言う杉田。しかし、黒崎組が杉田の賭博をサツに垂れ込んだという情報のおかげで、松浦刑事(山本麒一)の裏をかくことができた。杉田は、裏切り者の川村を斬って、2年の懲役を食らう。
  その間に、小磯は、落ちぶれた秋葉の杯を受けていた。その話を小磯から聞いて、よくやったと褒める杉田。その日から、秋葉と小磯に恩返しをしようと、黒崎のシマで暴れまくる杉田と修。黒崎勇治が、秋葉のもとに落とし前をつけろと乗り込んでくる。小磯は自分が預かるという。秋葉組の叔父貴には、大倉(本郷秀雄)と梅田(遠藤辰雄)がいるが、二人とも、黒崎の後ろに、関西の昇竜会がいることで、見て見ぬふりをする。小磯が、耐えてくれと言っても暴れ続ける杉田。仲立ちの失敗で、指を詰める小磯。
  いよいよ、昇竜会と黒崎たちは火ぶたを切った。小磯を、秋葉を、次々と射殺する黒崎組。結局、杉田は、修と弘(広瀬義宣)と守の3人になってしまった子分たちと、仇を討とうと殴り込む。新宿中を黒崎たちが徘徊する中で、次々に倒れていく舎弟たち。一人残った杉田は、ダンプカーを黒崎組に突っ込む。倒れていく黒崎の子分たち。警官隊が取り囲む中、駆け付けた珠代が撃たれたことで、黒崎たちを皆殺しにする。松浦刑事の目の前で、ワッパを掛けてくれと両手を出すが、既に意識が遠のいている杉田。
  馬鹿で、アナクロで、純情な3枚目役の若山富三郎いいなあ。
   池袋新文芸坐で、マキノ雅弘生誕百年記念上映会
   48年吉本プロ/大泉スタジオ『肉体の門(334)』。
   戦後まもなく、教会を望む廃墟の中に売春婦たちの塒がある。そこで腕に関東小政と刺青を入れている女、浅田せん(轟夕起子)である。教会では結婚式が行われている。かっぱらいをして逃げ込むが、盗もうとした十字架のペンダントを牧師神山哲夫(水島道太郎)に見つかり返却する少女。牧師は少女にペンダントを渡す。少女はせんの前に現れる。人の物を盗むことはいけないと言うせん。身寄りのない少女は夏目まや(月丘千秋)と名乗る。せんは彼女に山猫まやと名付けて、菊間町子(逢初夢子)、美乃通称ジープの美乃(春名薫)、花江通称ふうてんお六(水町京子)、良子(鈴木俊子)ら仲間に加えた。
  まやは街で男のポケットから金を盗もうとして捕まる。男(田端義夫)は、まやをモノにしようとするが、隙を見て金を盗んで逃げるまや。
  せんは、男に会う。慈愛に満ちたまなざしを持った男は、いつもの客とも刑事たちとも違っていた。躊躇いながらも客だと勘違いして、問わず語りに、迷い込んできた子猫のような山猫まやのことや、ここで暮らす女たちのことを語るせん。しかし、男は、客ではなく近くの教会の牧師だった。売春婦のせんを軽蔑したり、蔑むこともなく、人として対等に、また優しく語る男。チョコレート・キャラメルをせんに渡し、また会おうと言って去る牧師。
   そのあとやってきたのは。刺青を入れた彫師彫留(清川荘司)だ。せんに金の催促をする。まだ、腫れも引かないので商売にも出られないので、手持ちがないというせんに体で払えと迫る彫留。借金のカタに身を売るような真似はしないというせん。ちょうど金を持ったまやが帰ってきたので、その金で彫留を追っ払う。しかし彫留は帰り道強盗に金を入れた鞄を奪われる。警官を連れて彫留がやってくるが、追っ払う。実は怪我をした強盗伊吹新太郎(田中実)を匿っていたのだ。伊吹を含めた奇妙な共同生活が始まった。
   街に出たせんは、戦争中に戦需工場で一緒だった折部はるみ(小夜福子)に再会する。彼女は婦人警官になっていた。女が生きることの苦労を語り合う2人。金がなくとも、ちゃんと女たちが生きていける世の中は来るのだろうか。
   町子が、金がない男(成瀬昌彦)に惚れ、逢い引きをしていることを目撃されていた。金を取らずに男と寝ることはリンチを受け追放されることを意味するのが彼女たちの掟だ。町子は、男に騙されるとも、ここを出て男と一緒に暮らしたいと言う。町子を叩きながら、せんは泣く。それを見ている女たちも泣いている。
   伊吹も出ていくと言う。女たちは送別会をやろうと言う、酒を飲み、踊り続けた。朝になって、まやは、飲めない酒を飲み、伊吹のもとへ行く。二人の間に愛が生まれていた。ここを出て自首しようと思っていた伊吹だが、最後に一度だけ強盗して、二人で逃げてどこかで暮らそうと考えた。しかし、警官たちに追われ、教会の牧師の前で捕まる。牧師は、伊吹に伝えることがあるかと聞くと、自分が戻ってくるまで、この教会にいてくれと。
   その頃、まやは、せんたちとの生活から別れるために自分を鞭打てと頼んでいた。泣きながら、まやを打ちすえるせん。まやは苦痛に耐えながら泣かなかった。仕置きが終わった。まやは、教会に行った。傷だらけの彼女を優しく迎える牧師。その頃、せんは脱力して倒れている。愛してはいけない牧師を愛してしまった苦悩が彼女を貫いている。朝日が射し、窓の桟の影が十字に、せんに重なる。その姿は、まさに十字架にはりつけられたキリストのようだ。
   非常に宗教的な作品だった。せんに町子や、まやを鞭打たれるシーンもリンチというよりも、罰を受ける殉教者のようだ。売春婦せんの苦悩も、人間の原罪ゆえのことのような気がする。まやが持つ、どん底の生活に堕ちても汚されない純粋さは、何の象徴なのだろうか。
  今まで自分が観てきた「肉体の門」は、戦後の焼け跡の売春婦たちが逞しく生きていくというところで、焼け跡の風俗やエロティシズムを強調していたものばかりだったが、どちらが、原作に近いのだろうか。まあそれは、原作を読むことにして。どちらにせよ、どちらがよかったかということではなく、どちらも魅力的だ。このマキノ版の「肉体の門」は、原作を読んだ上で、改めて考えたいと思う。 人間の魂の清らかさを問うようなこの映画に、正直なところショックを受けた。
  年末に、観月ありさ主演、東映京都撮影所で収録されたドラマが放送されるらしい。はたしてどういうものになっていることやら。
   41年東宝東京『昨日消えた男(335)』。
   本所横山町、回向院近くの勘兵衛長屋、大家の勘兵衛(杉寛)は、因業で店子全員から憎まれている。今日も浪人篠崎源左衛門(徳川夢声)の家に訪れ、明日借金を返せなければ、美しい娘お京(高峰秀子)を連れて行くと脅している。長屋の貧乏住人はみなやきもきするが、勘兵衛を殺してやると陰口を言うくらいなものだ。
  因業大家の勘兵衛をぶち殺して、かんかんのうを踊らしてやると文吉(片岡千恵蔵)が言う。辰巳芸者の芸者小冨(山田五十鈴)と文吉は言い争いになる。小冨は、文吉が好きなのだが、素直でない二人の口げんかはしょっちゅうで、小冨は、文吉の言葉で一喜一憂して、病気で寝ている母を呆れさせている。
  他の長屋の住人は、年中焼き餅で、夫婦喧嘩をしている人形師の椿山(鳥羽陽之助)と女房おこん(清川虹子)。居合抜きの松下源蔵(鬼頭義一郎)と、ろくろ首の見世物をやっているおかね(藤田房子)の夫婦。駕籠かきの甚公(渡辺篤)と一公(サトウ・ロクロー)、源左衛門の隣人で、お京と相思相愛の若侍横山求馬(坂東橘之助)、錠前屋の大三郎(清川荘二)、長屋の男たちが集う飲み屋の上州屋(進藤栄太郎)、そして勘兵衛の下男の久助(沢井三郎)
   翌日、源左衛門は、旧友を回って借金の申し込みをして回るが徒労に終わり夜になり帰宅する。 袴の裾の汚れを洗っている源左衛門。父からお前を絶対渡さないと告げられ安堵するお京。甚公、一公らが上州屋で呑んでいると、目明しの八五郎(川田義雄)がやってきた。寒い夜回り、燗酒で身体を暖めていると、人殺しだという椿山の叫び声が。八五郎らが駆けつけると、死体をみつけたという空家から死体は消えていた。酔った椿山の勘違いだったとなりそうだったが、別の場所でかんかんのうの姿で死んでいる勘兵衛。八五郎はただちに、この一帯を包囲させ、長屋を検め始めた。何故か旅立とうとしていた求馬、騒ぎを覗いてから部屋に戻り眠っていたかを装う文吉、源蔵の挙動も怪しい。
   翌朝、長屋の住人は、八五郎に与力原六之進(江川宇礼雄)の取り調べがあると集められる。死因は胸から心臓を一突きした刀傷。六之進は、源左衛門と求馬の刀を改めようとする。人を殺めた刀は、血を拭っても脂が残っている。その時、また死体がという声。ドブにはまったものは、椿山の作った等身大の人形だった。女の人形に嫉妬したおこんが焼き餅を焼いて捨てたことが分かった。刀検めが再開、求馬の刀には、果たして脂が、求馬は犬を斬ったが申し開きはできないだろうと自ら語る。また六之進は、勘兵衛の金庫を大三郎に開けさせる。貯め込んでいる筈の金は消えていた。
   文吉は、なにかと八五郎にからかうようにかまってくる。八五郎は、文吉をどこかで見たような気がするが、思い出せない。八五郎のいる番屋に、文吉名で大三郎に気をつけろという張り紙がある。果たして第二の殺人が起きた。最近金周りがよくなっていた大三郎が、何者かが投げた小柄で殺されたのだ。文吉を捕まえようと、捕り方を大量動員する八五郎。しかし、身軽に身をかわしながら、お京のもとに、お父上と求馬は下手人ではないので安心しろという手紙を投げ込み、小冨から、大三郎から貰ったという櫛を預かるとしばらく身を隠すと言い残して逃げ去った。
   数日後、南町奉行自ら、お裁きをするということで、お白州に呼び出される長屋の住人たち。登場した遠山金四郎を見て、みな驚く。姿は全く違うが、文吉だ。遠山は、今回の事件の謎解きを始めるのだった。
   事件が起き、関係者すべてが怪しく、最後にすべての人間が集められて探偵によって謎解きがされる。ホームズやポアロのようだ。ネット上には、オリエント急行殺人事件の翻案ものだとの指摘もあるが、まあ、真偽のほどは、自分には分からない。しかし、伏線のはりかた、ミスリードさせるような思わせぶりな行動など、非常に巧みな演出だな。戦後に、同タイトルでリメイクしたらしい。
   個人的には、甚公と一公の「あ、なるほど、なるほどね」「いや、まったく」というやりとりの全く下らない繰り返しが、なかなかツボにはまる。いつしか一緒に言っていたりする(苦笑)
   同居人と地元のしんぽで魚と酒。冬の燗酒は格別じゃのう。いや、まったく。

2008年11月30日日曜日

嗚呼無情

    京橋フィルムセンターで東京フィルメックス08の藏原惟繕監督特集~狂熱の季節~
     64年日活『黒い太陽(328)』。荒涼とした埋め立て地、盗んだ電線を焼いて中の銅を取り出している男たち。盗んで走り出す若者。彼の名は明(川地民夫)。銅線を売った金で、マックス・ローチのブラック・サンというレコードを買う。高級外車から男女が降りる。明にぶつかり落としたレコードをハイヒールで踏みつける女。金を払えばいいんだろうと言う男に、ジャケットのマックス・ローチに謝れと言って殴りかかる明。2人の車を盗み、怪しげな車屋(大滝秀治)に売りつける明。金は3日後だと言われ、帰りの車として貸してくれたのは、自転車にも追い抜かれるポンコツのオープンカーだ。
   街に戻ってくると人だかりがある。米兵同士が打ち合い、マシンガンを持ったまま兵隊が逃走中らしい。警察とMPが探し回っている。明は空襲で破壊され、廃墟となった教会に、セロニアス・モンクから命名したモンクと言う犬と住み着いている。犬と食べ物を買って帰ると、足を撃たれた黒人兵ギル(チコ・ローランド)がいる。明は、自分が黒人の作ったジャズを敬愛しているので、友達だと伝えたいが、全く言葉が通じないまま、マシンガンを突きつけられる。吠えかかってギルに殺されるモンク。街で外人相手の売春婦をしているユキ(千代侑子)をネグラに連れて来て通訳を頼もうと思うが、ギルはいない。ジャズで騒いで一晩を共にするが、金を持っていない明を罵って帰るユキ。車の後部座席に隠れていたギル。
   チンドン屋のバイトをする2人。白塗りのギルと黒塗りの明。ネグラに戻ると教会跡の取り壊しが始まりネグラが無くなった明とギル。車屋のオヤジの所に行き金を催促するが、約束は3日後だから、明日まで待てと言われ、明は途方に暮れる。ギルが海に行きたいというので、埋め立て地に行く。そこで、ギルの足に残っていた銃弾を取り出してやる明。ようやく2人の間に信頼関係が生まれたようだ。やっと名乗りあう2人。
   しかし、MPと警察の包囲網は確実に絞られていた。取り囲まれる2人。いつしか追い詰められ、倉庫の屋上に。そこにあったアドバルーンを身体に巻き付け飛び上がるギル。さらにロープを撃ってくれと頼むギル。躊躇った末、従う明。飛んでいくギルを見ながら、母親のところまで飛んでいけと叫ぶ明。何十人という警官達に捕らえられる明。
   うーん、ギル飛んでっちゃったか。『狂熱の季節』と出演者もかぶっているが、こっちは、中盤少しダレるかな。冒頭にマックス・ローチ・クァルテットの演奏がある。黛敏郎が音楽を担当した映画のジャズは、他の音楽監督と比べて、エッジが効いている上、映像と、グループの一体感があるような気がするのは気のせいか。
   64年日活『執炎(329)』。
   日本海を望む村の駅に、野原泰子(芦川いずみ)が降り立つ。今日は吉井拓治ときよのの七回忌の法要が行われている。昭和の始めに遡る、海で子供たちが遊んでいると、落馬した少女を見かけて走っていくと、娘は拓治を鼻ペチャという。拓治12歳、久坂きよの10歳2人の出逢いだ。
    網元丸吉の跡取りである拓治(伊丹一三)は20歳の徴兵前にしておきたいことがあった。太平洋を渡る船を作るための木材の買付だ。ある日、山奥で絶好の樹木を見つける。喉が乾き、山深い村落にある家に行くと、美しい娘に成長したきよの(浅丘ルリ子)に再会する。ここは平家の落人部落で、その日は、旧暦の七夕であり特別な日であった。和歌を詠んだり、能が舞われたり、時代を超越した風習に驚きながら、道案内をすると言って聞かないきよの。母(細川ちか子)は、「この子は、辛抱出来ない子だ」と言いながら、父(今欣三)と妹のあやの(松尾嘉代)に内緒にしろと言って許す山の中を歩きながら、初めて会ってからの拓治への思いを素直に話すきよのに惹かれていく。海の若者と山の娘との交際は、かってないことだったが、2人の人柄が、回りの人々からも暖かく迎えられた。しかし、拓治に赤紙が届けられる。汽車の鉄橋の上で、2人は口づける。拓治が出征する。辛抱が出来ないきよのは見送りに行かなかった。50通を超える手紙のやり取りで、お互いの気持ちを深めていく2人。
    3年後除隊とともに祝言を挙げる。山の娘が山以外に嫁ぐことは初めてのことだったが、そうした古い因習を破る二人を回りは暖かく見守る。拓治のいとこの泰子は東京の医専を出た医者だが、海軍将校の野原と結婚をする。第2次世界大戦が起こる。村役場の戸籍係(宇野重吉)は、召集令状を届けにくるので、女たちからは死に神のように恐れられている。若い男たちはどんどん出征していく。
   拓治にも赤紙が来た。必ず帰ると約束して行ったが、あまり手紙は届いていない。南洋で戦っているらしい。戦況の悪化に伴い、戸籍係のもたらすものは戦死の公報だ。ある時、戸籍係がきよのを訪ねて来る。凍りつくみなに戸籍係は、戦死ではなく、怪我で佐世保の病院に送られたという。足の銃蒼をが化膿していて軍医は片足を切断しないと死ぬと言ったが、きよのは生命の責任は自分が負うと言って不眠不休で看病し、足を切らずに済み、医師に奇跡だと言わしめた。除隊した拓治を連れて山深い小屋に二人きりで籠もって、過酷なリハビリをさせるきよの。医師の泰子は見かねて止めるが、自分の祖先は、ここに落ちてきて、源氏に敵を討つために生き延びたのだと言って耳を貸さない。しかし奇跡は起き、拓治は元通りに。命を賭けて自分を救ったきよのの気持ちを組んで、山を下りず、炭焼を始める拓治。
   しかし、若い働き手がみな戦争に取られ、老人と女子供ばかりになった村では、拓治に何かと頼ってくる。反対し続けたが、3日だけ山を下りることを許したきよの。しかし、軍に徴用された船の返却を認めさせた所で、戸籍係が拓治の下へ。弟の戦死かと思うと自分への赤紙だった。3日後には入隊だ。馬を借りてきよのの下に戻るが、なかなか言い出せない。結局不審に思ったきよのは拓治のポケットに入っていた召集令状を見つけてしまう。自分が戦傷を治したために、再び戦場に戻される皮肉に悲しむきよの。戦に出る夫を見送る時に女たちがつけて舞うために、代々伝わる能面をつけて、舞続けるきよの。
駅で拓治を見送るきよの。雪の中をお百度を踏む。徐々に、きよのの精神は病んでいく。夜道を全身びしょ濡れで歩くきよのに出会った戸籍係りは、殴られ、腰を抜かして逃げ去った。拓治が沖縄に向かう途中戦死した6月頃には、童女のように村の周りを彷徨うきょのの姿が見られる。あたかも、現実を受け入れることを拒絶したように。
   8月15日戦争は終結した。数日後、虚脱状態のまま、村では盆踊りが開かれた。きよのの姿を探すあやのと康子。その頃、鉄橋の上で、蒸気機関車の音を聞いて、きよのの精神は正気を取り戻す。拓治の家に戻り、拓治の遺影と遺骨を前にする。馬車に乗り、実家に戻る途中、自分はよる所があるので、歩いて帰ってもらえないかとあやのに言うきよの。きよのは、拓治と暮らした山中の家に行き、二人の幸せな日々を振り返る。実家に帰って来たきよのは、髪を切って仏壇に供えて姿を消す。初めて二人が出会った断崖から身を投げるきよの。
   藏原監督が非常にストレートに女の情念を描いた大作だ。若者たちの日常や、洒脱なサスペンス
などとは違い、日本人の歴史的な精神の奥行きが描かれる。勿論、重厚で落ち着いたモノクロの映像の中には、鉄橋の上で、汽車とすれ違い、ゆきのの手から飛ばされた番笠が、ゆきの自身のように、雪の中を舞いながら、村に落ちていく光景や、色々な表情を見せる日本海の姿など、監督の尖鋭な映像感覚に魅せられる。素晴らしい。女優として、演技が最も充実していた時代ではないかという気がする浅丘ルリ子の熱演も。
   阿佐ヶ谷ラピュタで山下耕作ノ世界。70年東映京都『日本女侠伝 鉄火芸者(330)』。
   シリーズ第3作。大正中頃の深川、辰巳芸者の小しず(藤純子)は、元貴族院議長の牧浦伯爵(伴淳三郎)のお座敷に呼ばれている。伊勢幸の女将から、辰巳芸者の踊りの発表の場、羽織会の止めで、清元の保名を踊らないかと言われる。今まで止めだった仇吉姉さん(弓恵子)を気遣う小しずだが、仇吉も年増で、旦那の安川(安倍徹)が米の買い占めで暴利を貪っているので評判が悪く、小しずを推す声が多いと言う。牧浦伯爵は、小しずに最期を看取って欲しいのだと口説く。そこに、とんぼ(正司照代)がやってきて、安川のお座敷で、半玉を泣かせているので何とか助けてやってくれと頼む。酔った振りをしてお座敷に乗り込む小しず。安川への捌きっぷりなど、芸者の同輩、後輩から慕われる小しずが面白くない仇吉。そこに使いが来て、自分の着物を賭場の借金のかたに出した人間がいると言う。行ってみると、太鼓持ちの金八(玉川良一)だった。小林組の面々に吊るしあげられているところを、小しずと、小林組の組頭の小林由吉(菅原文太)が取り成した。
   小しずの旦那となっている浅井喜一郎(曾我廼家明蝶)は、彼女の器量と気風に惚れて、小しずの後ろ盾になっているが、男と女の関係ではない。小しずには、10年前の半玉時代に、芸者の身の辛さに、身投げしようとしたところを板前修業中の男に止められ、お守りを貰ったことで、名前も知らぬその男への秘めたる思いを持ち続けているからだ。浅井は佐賀町で米問屋浅井喜一郎商店を営んでいるが、大阪から深川に出てきて30年、良心的な価格でコメを卸している。しかし、安川を中心に米価の釣り上げを画策し、巨額の利益を得ている人間たちからは目の敵にされている。今回も、安い米の荷降ろしを川人足たちの親方衆に圧力をかけて、浅井商会をボイコットさせている。しかし、由吉は、大恩ある浅井のために、自分の小林組だけは、荷受け作業を引き受けるのだ。
    安川商会の元秘書をしていて首になった佐山信一(高宮敬二)は、米騒動の扇動をし、安川の外車を焼き打ちにする。安川の手先になっている竹上兼蔵(山本麒一)率いる関東義心会が信一を追っているところを、小しずは匿う。信一は、かっての妹芸者の小いく(佐々木愛)の夫だからだ。しかし、信一がつかまり、小しずは、車の代金を、自宅を担保に金を借りて安川に届けさせる。
   由吉と会った時に、小しずは、想い人ではないかと思う。由吉は、かって深川で板前修行をしていたが、身を崩して生首の由吉という二つ名のやくざになり、人を斬って服役していた。
   浅井企画が朝鮮米を安く輸入しようとしていることに、安川が妨害工作を始めた。輸入を不可能にして、米を安川に譲り渡せというのだ。苦悩するが、きっぱり断る浅井。浅井の窮状に、小しずは、旦那である浅井の出費を考え、羽織会のトメを返上する。小しずの気持ちを汲んで伊勢幸の女将は承諾するが、仇吉は、辰巳芸者なら家を担保に金を工面してでも舞台に立つのが筋だろうと言う。陰で涙する小いく。小しずは、牧浦伯爵のもとに行き、浅井を救ってくれと頼む。しかし、牧浦に身を任せるつもりでやってきたが、思いきれない小しず。鼻白む牧浦に、こころに決めた人がいて、その人へのために命を賭けているといって、自ら簪を腕にさして証とする。辰巳芸者小しずの誠を知って牧浦は、首相にあって、浅井を救う。
  小しずと由吉が歩いている。浅井の家から見番に戻る小しずを由吉が送る途中だった。小しずの気持ちを知りながら、大恩のある浅井の側にいてやってくれと頼む。その頃、今回の浅井の一件をひっくり返した陰に小しずがいるらしいと知った安川と竹上が、伊勢幸で小しずを呼べと息巻いている。女将は、小しずに絶対ここに来ないよう使いを出す。小いくが、安川の座敷に上がる。別室で手籠めにしようとする安川。揉み合っているところに、信一が現れる。激情した信一は、安川を刺し殺そうとして、誤って小いくを刺す。駆け付けた関東義心会に殺される信一。あまりの惨状に悲鳴を上げる女将と芸者たち。安川と竹上が逃げたのち、女将たちを脅す関東義心会。そこに小しずたちが現れた。取り囲んで、巡査が来るまで逃がさない小しずたち。小いくは重体だ。今際のきわに、仇吉に真相を話して、小しずに、保名を譲ってくれと頼む小いく。安川のあまりの悪行に自分の不明を詫びて承諾する仇吉。仇吉と小しずの手を握らせて絶命する小いく。深川に芸者たちの慟哭が響く。
  保名のおさらいをしていると、金八が小しずを迎えに来る。いよいよ、朝鮮米の船が着いたのだ。由吉の指示で荷役作業は進む。作業も終わり、浅井を送る勇吉。二人の目に入ったのは、倉庫に火を点けている関東義心会の姿だ。更に、浅井を刺す男たち。倉庫の米は焼けた。病院で浅井は、小しずに、想い人が由吉であることを知っていることを告げ、由吉と幸せになれと言う。小しずは、由吉に浅井の側にいる決意をしたと告げ、今晩の羽織会の保名を最後に見てくれと言って、10年持っていたお守りを返す。羽織会が始まり、直前に由吉はやってきた。保名を踊る小しず。途中、浅井が亡くなったという知らせが由吉に届く。途中で抜けて、単身で安川たちのもとへ向かう由吉。安川、竹上を討ち、絶命する由吉。二つに割れたお守りを探し、近寄ろうとするが、その手には届かなかった。
  やっぱり男と女の情感の人だなあ。センチメンタルなメロドラマに陥るぎりぎりのところで踏みとどまっている。しかし、小しず、切な過ぎる人生だなあ。想い人由吉と、大きな愛情で包んでいた浅井、二人を同時に失った彼女のこれからの人生はどうなるんだろうか。一人で生きていくのか、あるいは浅井の愛への恩返しのつもりで牧浦伯爵の死に水を取るのか。