2008年12月4日木曜日

師走の風

   午前中は、歯医者と睡眠クリニック。朝一のメールで、ちょっとその気になっていた求人、年齢を理由にNG。凹みそうになり、昼にカツ丼喰べて胸焼け(笑)。減量も大事だが、気力減退が問題だ。
午後は神保町シアターで日活文芸映画の世界
    56年川島雄三監督『わが町(341)』。明治39年、フィリピンのベンゲットの道路建設はことごとく失敗をしていた。そこで、カリフォルニアの道路で実績があった日本人工夫たちが抜擢された。その親方として佐渡島他吉(辰巳柳太郎)は、数百人の死者を出しながら完成させ、“ベンゲットのターやん”として名を馳せる。そして他吉は帰国し、大坂ガタロウ長屋に人力車を曳いて帰ってくる。長屋中が床山のおたか(北林谷栄)の一人息子敬吉(小沢昭一)が、軍隊から帰ってくるのを待っているところだった。
    隣人の落語家の桂〆団治(殿山泰司)の家に上がり込んでご飯をご馳走になっていると、〆団治が、フィリピンに渡る前に1度だけ関係を持ったお鶴(南田洋子)は、他吉の子供を産み健気にも寄ってくる男には目もくれず、独りで育てているという。驚く他吉。お鶴がいると聞いた夜店に行くと、幼い娘の初枝を連れ、七味唐辛子を売っている。どう声を掛けらいいものか困って初枝を笑わせようとしていると、お鶴は何の便りも寄越さないでと怒って唐辛子を他吉に掛けまくる。くしゃみが止まらない他吉。お鶴が長屋に帰ってくると、寝て待っている他吉。お鶴は、夜なべ仕事の爪楊枝作りを始める。これからは自分が働くと言うと泣き出すお鶴。
    翌朝から人力車の車夫として働き始める他吉。しかしお鶴は長年の無理がたたって肺病を病んでいるようだ。病院に行けと言って、初枝を連れて夜店の場所の割り振りに行くと、早速香具師たちと大立ち回りに。父ちゃん喧嘩止めてという初枝に喜びながら、暴れていると、お鶴の容態が悪化したという知らせが。今わの際に、初枝が独り立ちするまで、フィリピンのことを封印しろと言い残すお鶴。
   初枝は、成長し美しい娘(高友子)になっている。桶屋の倅の曽木新太郎(大坂志郎)といい仲になっていると聞いて新太郎を怒鳴る重吉。家で泣く初枝を見かねて、町内のマラソン大会に新太郎が出場するので、車夫の他吉に勝ったら認めてやれと提案する〆団治。マラソン大会の当日に、配分も考えず走り出す他吉だったが、中盤から、オーバーペースが祟って、フラフラに。結局新太郎が勝ち初枝との祝言を迎える。娘が嫁いだ寂しさに〆団治と酒を飲もうとしていると半鐘が打ち鳴らされる。新太郎が親からノレン分けをした店の隣が出火元で、新婚夫婦は焼け出されて他吉のもとに帰ってきた。
   いきなり躓いて意気消沈する新太郎を、無理矢理フィリピンに送り出す他吉。ふ頭で、新太郎の船が出て行くのを見送っていると、初枝が妊娠していると告白する。その後、新太郎からは元気でやっているという手紙が届いている。初枝は〆団治が出ている寄席で、下女をさせてもらっている。他吉が敬吉の床屋で散髪してもらっていると、郵便配達がフィリピンからの手紙を持ってくる。他吉は文盲なので、誰かに読んで貰おうとするが、敬吉たちは口ごもる。新太郎が赤痢で死んだと書かれていたのだ。重い気持ちで寄席から初枝を呼び出し、手紙を見せる。ショックのあまり、絶命する初枝。しかし、他吉の孫娘君枝は無事産まれた。赤子の世話を甲斐甲斐しくする他吉。
   しかし小学校に上がった君枝は、入学式で名前を呼ばれても返事が出来ないほど内気で他吉は心配する。ある日3日も学校をサボっていたことが知れて激怒する他吉。モグサでお灸を据えようとする他吉。泣き叫ぶ君枝の声に〆団治は、女の子の背中にお灸の跡を残したらいけないと言って自分の部屋に連れて行く。しかし、〆団治の鼾と寝言の酷さに眠れない君枝は、他吉の布団に入ってくる。君枝は学校で親無し子とからかわれて遊んで貰えなく、学校に行きたくなかったのだ。勉強が終わったら、他吉の人力車について走ることに。しかし、子供の足では、直ぐに離される。辻々で止まっては孫を待つ人力車に怒った客を逆に怒鳴りつけて、ひっくり返す他吉。転んでいた君枝を一銭天ぷら屋の息子の次郎が連れてきてくれる。次郎は夕刊配達をしながら何かと君枝に優しい。二人を人力車に乗せ、写真館に飾ってあるマラソン大会での新太郎と初枝の写真を見せ、親なし子ではなく、ここにいるわいと言ってm汁粉をご馳走する他吉。その後の運動会の障害物競争で、1位になる君枝。辺り構わず号泣する他吉。
    社会は、大正、昭和と年号が変わり、太平洋戦争が開戦して終戦した。老人になった他吉が、進駐軍を載せた人力車を曳いているが、速度は上がらない。タクシーから降りてきた客に、サービスについてアンケートをする娘がいる。名刺を見て、君ちゃんじゃないかという客は次郎(三橋達也)タクシー会社のBGは君枝(南田洋子)の成長した姿だった。次郎は潜水夫で、他吉の若いときは体を苛めて働かないとアカンという口癖に従ったのだ。2人は食事をしてブラネタリウムで南十字星を見る。帰宅してブラネタリウムのことを他吉に話すが、偽物の南十字星にお金を払うのは馬鹿馬鹿しいと言う他吉。
   長屋の住人は皆年を取った。床屋の敬吉は、49歳になっても、嫁の来てもなく、おたかの世話に頼りきっている。ある日君枝の帰宅が遅く起こる他吉。君枝は、次郎と交際していて結婚したいと言い出す。他吉は気に入らず、そういうことは順番があるのだと言う。数日後雨の日に君枝を連れて外出する他吉。急にお見合いだと言う。怒る君枝に指差した先には、次郎が上司と待っていた。
    他吉と君枝、次郎が帰宅すると人力車が無い。呆然とする他吉に、人力車がある限り他吉が働くので、〆団治に売りに行って貰い、夫婦2人で他吉に楽隠居させてやると言う君枝。更に君枝の腹には次郎の子がいるので、次郎はフィリピンに沈没船を引き揚げにいく仕事を断ったと聞いて激怒する他吉。他吉が君枝の頬を打つと、君枝も他吉の頬を打って飛び出す。街をさまよう他吉が見たのは、人力車を曳いて、ポン引きをする〆団治。辺りの地回りが2人を袋叩きにする。大怪我をして家で寝ている他吉。床屋の坊主に手紙を代筆させる。君枝は次郎の潜水を手伝っている。2人のもとに他吉からの手紙が届く。君枝と子供の生活費は自分のへそくりを渡すので、次郎にはどうしてもフィリピンに行って欲しいと言うものだった。最後に書いてある南十字星に頼みに行くという一節は解らない。
   ブラネタリウムが終演となるが、一人眠ったように死んでいる老人。彼の顔はとても穏やかだ。
   ええ話やなあ。辰巳柳太郎、こうしたアナクロ頑固親父素晴らしい。しかし一番驚いたのは、この頃の南田洋子の初々しく可憐な姿だ。 こんなに可愛かったとは。
   64年中平康監督『砂の上の植物(342)』。
   化粧品のセールスマンの伊木一郎(仲谷昇)が理髪師の山田欣三(信欽三)のところで散髪をしながら、20年程前に亡くなった父親の思い出を語りあっている。父親は画家で、女と食に関してやりたいだけのことをやって33歳で死んだ。伊木は37歳になった。妻の絵美子(島崎雪子)が17の頃に父の絵のモデルをやっていた当時、2人に関係があったのではないかと疑っている。
   友人の井村誠一(小池朝雄)から友人の木暮が事故で亡くなったという電話を受ける。井村と作家の花田光太郎(高橋昌也)と共に葬儀に参列すると、木暮の妹の保子(福田公子)に会って、少女だった昔からの変貌に驚く。保子は、夫との離婚後、急に太ったという。
   ある日、伊木が、横浜マリンタワーに昇ると、口紅を引いた17歳の女子高生津上明子(西尾三枝子)がいる。相談したいことがあると言う。酒を飲むことになった。ホテルに誘うが拒まれる。翌日、再びタワーに行くと、再び明子がいる。ホテルで明子を抱くと、彼女は処女だった。姉の京子(稲野和子)にひどいことをして、不幸にして欲しいという。京子は明子とは異父姉で、バーで女給をしながら妹を高校に通わせている。妹に純血が大事だと口喧しいくせに、男とホテルに入る所を目撃してしたのだ。
   京子が働く「鉄の鎚」というバーに行く。京子と関係を持つことに、そう時間は必要なかった。京子の肌には男の指の跡が残っている。被虐趣味がある彼女に伊木は溺れる。
   家に警察官がやってきた。驚く伊木に、井村が強姦未遂で逮捕され、身元引受人として伊木の名前を出したのだ。釈放された井村と朝食を共にしながら話を聞く。彼は、先日の木暮の葬儀で出会った保子のことで学生時代の悪癖である電車内での痴漢をしてしまい、下車後も相手の女性をつけたため交番に駆け込まれて逮捕されたと言う。
   山田の理髪店で、再び、妻の絵美子と父親の関係を聞く。山田は否定し、その理由として当時入れあげていた芸者のことを挙げる。その芸者と父親の間の娘は空襲で亡くなったと伊木は思い込んでいたが、実は疎開していて無事で、京子という名前らしい。年齢など津川京子との類似は多く、伊木の胸はざわめく。
   伊木は、花の種子を買ってきて、庭にばらまく。そんな蒔きかたでは芽は出ないという妻。
   鉄の鎚に行くと、井村と花田に会う。その次に行った店で、京子について会話をしていると、最近花田が嵌まっている遊びに連れて行くと言う。旅館の一室で素人の女性が、全裸で自分を慰める行為を、真っ暗な隣室から覗くというものだ。
   山田の店で鰻重を食べている伊木。この鰻屋は、近親相姦の兄と妹がやっていると山田は言う。
伊木と京子の関係はより深いものになっていく。明子がやってきて、姉にひどい仕打ちをすることはどうなったのか教えてほしいと頼む。明子に迫るが、拒絶されて、京子にセーラー服を着せて愛欲に溺れる。京子の腕に緊縛の痣が残っている。この痣が二人の愛の記録のようだ。
   伊木は、食欲もおきず、家では横になっていた。窪んだ目と、伸びた不精ひげで庭に出ると、芽だ出ている。ひとつだけ花をつけている2年草がある。
   明子を呼び出し、旅館に連れて行く。そこには、全裸で縛られた京子の姿がある。驚く京子と明子。抵抗する明子の唇に、乱暴に口紅を塗る伊木。呆然としている明子を家に帰って、睡眠薬でも飲んで寝ろと言う。旅館の部屋の窓を開けると夕焼けの海が広がっている。京子は、「私の前に秋子と関係があったのね。悪いひと」とつぶやくが、非難の声ではない。
   山田のもとに行くと、自分の異母妹は死んでいることが分かったという。伊木は、京子の自宅を訪ねる。質素な一間のアパートに寝ている京子。明子は出て行ったと言う。睡眠薬を飲めと言ったのは、思春期の娘に軽率だったと言う。伊木は、京子に海を見に行こうと言う。海が見えるホテルのレストランで洋食を食べる二人。京子は、こういう場所は緊張して苦手だという。腕の痣を見せる京子。無人だったレストランは、突然にぎやかになる。京子の腕をとり、廊下の人の流れに逆らってエレベーターに乗り込む。エレベーターで他の乗客が降り、二人きりになる。各階に着くたびに、無人のフロアに扉が開閉する。二人は、迷宮に降りていくかのようだ。
   ロリコン、痴漢、SM、覗き、近親相姦、何だか変態性愛のデパートのようだ。吉行淳之介の原作のエロティシズムを、中平康が映像フェティズムで、映画とした作品。10代の頃に見た時の印象は、なんてエロな映画なのだと脳髄が痺れるような思いをしたが、30年経って、少し枯れてきたのかもしれないと危機感を覚えるほど、どうでもいいような、少し過剰に思える技巧が気になってしまう。
   急いで外苑前の粥屋喜々に向かう。元会社の後輩Kと、美人元部下と、その友人の美人ライターに合流する。会社に戻って仕事をするという元部下たちが先に帰る。自分の娘たちは、なんて働きものなんだと、辰巳柳太郎の“ベンゲットのターやん”が娘や孫娘を見るような気持ちになっている(笑)。やばい、ほんま枯れとるなー。しばらくすると、CというTV局の古い友人が食事をしに来た。音楽、放送業界の不況話は尽きない。

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