2009年2月10日火曜日

瓢人先生になりたいなあ。

    シネマート六本木で新東宝大全集
    53年新東宝新藤兼人監督『女の一生(72)』。京都の千住院の娘白川藤子(乙羽信子)は、すき焼き屋の老舗山崎亭の若旦那真太郎(山内明)と好きあっていた。父の教信(千田是也)は格式をとやかく言うつもりはないが、本山や檀家にとやかく言われるのはなあと反対する。しかし母親満枝(英百合子)と、三高から京大に進んだ兄政夫(宇野重吉)の後押しもあり、結婚は認められた。
   ある日、姑の玉恵(杉村春子)に、お中元の使いに行ってくれと頼まれる。松月楼の春江(花井蘭子)は、一緒に出かけた女中のゆき(日高澄子)の話では舅の徳平(進藤栄太郎)の2号だと言う。本妻が妾に中元を贈るのかとびっくりする藤子。続いて3号の菊粹の菊勇(轟夕起子)のもとにも。そこには、徳平がいてお灸をしてもらっている。春江も、菊勇も、売れっ子の芸妓だったが、徳平が牽かして、店を持たせたのだ。
   藤子は妊娠し、舅、姑、真太郎初め山崎家は皆喜んだ。その年の夏、松月楼の鴨川の床で、大文字の送り火を見ながら宴会をしている。徳平を囲んで、妹夫婦、姑、春江、菊勇に混じり、お腹がかなり目立つようになった藤子がいる。春江は、玉恵を呼び、改装した家を披露している。勿論この援助も玉恵がしたものだ。藤子がゆっくり歩いて帰宅すると言う。予定よりも早く帰宅した藤子が目撃したのは、布団部屋で女中のゆきを抱く真太郎の姿だった。半狂乱になる藤子。徳平も玉恵も、たかが女中に手をつけただけだし、すぐに暇を取らせるなり藤子の気の済むよう取り計らうのでと宥めるが、ゆきは既に妊娠7か月、藤子との挙式の前から関係があったと知って、真太郎を許す気になれない。しまいには、不貞腐れる真太郎。
   実家に戻っている藤子に、仲人の立花夫人(清川玉枝)が、縁なのだから私の顔に免じて今回は山崎家に戻ってほしいと頭を下げる。父の教信は、悪い縁だったら、早めに切った方がいいと言う。その千住院を特高警察がやってくる。藤子の兄の、政夫をアカの容疑で逮捕にきたのだ。心配しなくていいと言って連行される政夫。
   ゆきの父親吉松(菅井一郎)と母親のとら(北林谷栄)は、腹ボテで、奉公先を首になったゆきの相手が若旦那だと聞いて驚く。吉松は、徳平と玉恵のもとを訪ね、もう少し何か誠意を見せて欲しいと頭を下げる。強請りたかりだと激する徳平。そこに現れた、婚家に戻っていた藤子は、真太郎の子供なのだからもう少しちゃんとしてあげてほしいと言う。お前の兄さんがアカで捕まったと言われてどんだけ迷惑しとると思っているんだと言いながら、それでも、ゆきの嫁ぎ先を世話してやることになった。
   藤子は太郎という男の子を産んだ。山崎家の人々は心から跡取りの誕生を喜ぶ。藤子は、数日後にゆきも男の子を出産し、里子に出すという話を聞いて、自分が育てると宣言する。ゆきのもとを訪ね、この子も真太郎の子供だから、次郎と名づけて太郎と分け隔てなく育てるつもりだと言う。涙を流して頭を下げるゆき。藤子は、家の奥と店を切り盛りし、立派な女将となっている。玉枝は、二人の孫に首ったけで甘やかして、藤子から叱られている。徳平は相変わらず2号、3号に入り浸り、真太郎はまたぞろ浮気の虫が起き始めている。しかし、真太郎は手を出した女と一緒に殺される。女の情夫の仕業だった。その殺害現場に、その時ちょうど店を訪れていたゆきと駆けつけた。真太郎の亡骸を前に、呆然と手を握り合って眺める藤子とゆき。成長した太郎と次郎は、共に三高に進むが、学徒出陣で出征する。見送る藤子。
   物資の統制で、店を閉めなければならなくなった。暖簾は畳まずに、あくまで休むだけだと徳平に伝える。姑の三回忌もやってくる。徳平にお灸をしてやり、春江と菊勇への今月分の手当を持たせてやる。その夜、特高警察がやってきて、結核で寝込んでいる政夫を連行していく。その時、春江から電話があり、脳溢血で徳平が倒れたと言う。藤子が駆けつけると、既に舅は事切れていた。徳平にすがって泣く春江と菊勇。
   戦争は終わった。店を締め、息子達が戻るのを待っている藤子をゆきが訪ねてくる。夫は戦死したと言う。闇市に行けば何でも手に入るので、店を復活させようと言うゆき。人目を避け、夜中に大八車を引く藤子とゆき。牛肉だ。貯蔵庫に入れながら、これで店を開けると興奮する二人。暇を出していた従業員を呼び戻し、再び活気が戻った山崎屋。藤子は女将として、きよは仲居として、切り盛りをしている。一人戦地から戻った太郎は、屈折し、二階でパイプをいじっている。太郎が、女中の八重(奈良岡朋子)を呼ぶ。胸騒ぎを覚え二階で太郎を探す。八重の櫛が落ちている。かって夫の真太郎がゆきを抱いていた布団部屋で、太郎は八重を抱いていた。何をするのという藤子に、戦地で死ぬ思いをして帰って来たのだから女の一人や二人どうでもいいかないかという太郎の頬を打つ藤子。出て行ってやると言う太郎を必死で止める藤子。しかし、藤子を突き飛ばして、太郎は家を出ていく。呆然と立ちすくむ藤子。
    10代から45歳までの(45歳なのか・・・。自分よりずっと年上の設定かと思っていた)藤子を演じる乙羽信子が素晴らしい。特に10代の恋をしている娘時代と初々しい花嫁姿の美しいこと。
   50年新東宝阿部豊監督『細雪(73)』。
   昭和12年、上本町九丁目に豪商蒔岡家の屋敷がある。蒔岡家には、美しい4姉妹がいる。
   長女の鶴子(花井蘭子)が貞之助を入り婿にして本家を継いでいる。提之助は銀行に勤めている。子供も多く、広い屋敷の維持費もかかり、生活は楽ではない。しかし、家柄、格式、体面などにとても気遣っている。
   次女の幸子(轟夕起子)は、神戸芦屋に嫁いでいる。三女雪子(山根寿子)は、日本的な美人だが、なかなか結婚が出来ない。四女妙子(高峰秀子)は、人形制作や洋裁をしながら、日本舞踊なども稽古している現代っ子。
雪子が、幸子を訪ねる。義兄の貞之助が骨を折った豊橋の名家との縁談が気が進まないので、鶴子に断ってほしいと頼む。幸子は、こんな損な役回りばかりだ。本家を訪ね、姉夫婦に頭を下げる。どうも、雪子にも妙子にも嫌われてしまったなと言う貞之助。しかし、独身の娘が家にいないのは、外聞が悪いので、帰ってきてほしいと言う。
  妙子の個展が開かれる。高額の人形も売れている。幸子は、女学校の同級生と再会する。彼女は、前回も妙子の人形を買ってくれたらしい。そこに、奥畑商会のけいボンが、カメラマンの板倉を連れてくる。板倉は、かって奥畑家で丁稚をしていたが、苦労の末、6年間アメリカで写真術を習得して帰国、神戸に写真館を開いていると言う。人形を撮影して、プログラムを作るために連れて来てくれたのだ。けいボンは、かって妙子と駆け落ちをして、世間を騒がせた。そのために、当時進んでいた雪子の縁談が壊れ、蒔岡家は大変迷惑した。もし、妙子が今でもけいボンと付き合いがあることが本家に知れたらと思い悩む幸子。しかし、同級生が雪子の縁談の話を持ってきてくれたので、喜ぶ。
  縁談を進めていいかという幸子に、見合いをする前に、相手の人物をよく調べてほしいという雪子。急に貞之助に勤務する銀行の東京への転勤話がある。丸の内支店長としての悪い話ではないのだが、住み慣れた大阪から引っ越すことに気が進まなく、泣く鶴子。しかし、世間体を大事にする貞之助と鶴子にとって単身赴任という選択肢は一切ない。また、本家が東京に転勤するということは、雪子と妙子も、東京に行くことを意味する。二人とも、芦屋の幸子たちとの気安い生活を続けないのだ。またしても幸子が、本家に交渉にいくこととなる。帰宅した幸子は、妙子は人形制作のこともあるので、落ち着いてからでいいが、雪子には、貞之助と一緒に鶴子や子供たちより、一足早く東京に出かけて、家探しまでしてほしいと言うのだ。私の顔をたてて、今回だけは、東京に行ってほしいと、雪子に頭を下げる幸子。
  東京に行っていた雪子が、3月3日の桃の節句に、幸子の家にやってくる。幸子の娘の悦子は、大喜びだ。今回は、幸子がセッティングした見合いが目的だった。見合い相手の野村は、兵庫県庁の役人だ。しかし、見合いの席で、急に変調をきたす野村。勿論破談になった。幸子が雪子を慰めている。雪子に向こうから断られたんではなくこっちから断ったことしかないだろうと言うが、周りの人間は、私がまたダメだったんだろうと噂をしているに決まっていると外聞を気にしている。
   雪子が東京に戻り、妙子の日本舞踊の発表会がある。楽屋に妙子の写真を撮りに来る板倉。その年の夏、大雨で、六甲から鉄砲水が置き、芦屋川と住吉川が氾濫して、神戸中に死者、行方不明者が沢山でる大災害となった。その日、妙子は洋裁学校にいっている。そのあたりは特に被害が大きいらしい。娘の悦子をおぶって帰宅した幸子の夫は、妙子を探しに、戻っていく。そこに、けいボンが、白いスーツにパナマ帽でやってくる。妙子を心配しながら、津波見物にきたというような無神経な態度に幸子は顔をしかめる。ずいぶん時間が経ち、夫と、妙子を背負った板倉が戻ってくる。板倉は店と妹が心配なのでと、すぐに帰って行った。妙子が幸子たちに語るのには、玉置洋裁学院にいたら急に水が流れ込んできた。もう死んでしまうと思った時に、流れてくる木材などの中を泳いで、助けに来る板倉の姿が見えた。妙子を励ましながら、写真館まで連れて行き、妹の着物を貸してくれたのだと言う。
    洪水から数日たって、妙子は、板倉の写真館を訪ねる。美しい妹(香川京子)が受付をしている。着物は解いて洗い張りしてから返すと言う妙子。妙子は自分の命も顧みず助けてくれた板倉を愛し始めていた。しかし、同じような境遇で育ち、価値観も近く、家の商売道具のダイヤモンドなどを盗んでプレゼントしたり、高価な服を作ってくれるけいボンとの交際も清算できない。家柄も、学問もない板倉との結婚を勿論反対する幸子と雪子。
   自活するんだと言って、本家に親が自分名義で残してくれている筈の結婚資金を返してもらうよう連絡を幸子に頼む妙子。しかし、貞次郎の返事は、そんな妙子名義の財産は一切預かっていないという。怒った妙子は東京の姉夫婦を訪ねる。おろおろしながら同行する幸子。貞次郎と鶴子は、板倉の話は聞いていないので、妙子が洋裁店をやる費用が欲しいのだと思って、蒔岡家の娘が自ら店に立つなんて外聞が悪いので反対だと言う。そこに、板倉の妹から電話が入る。板橋が危篤だと言う。
   慌てて、姉夫婦の家を後にして、夜行列車に飛び乗る妙子。病院に駆けつけると、急性盲腸炎の手術をした際に、菌が体内に入ってしまったと言う。激しい痛みに悶絶する板倉。医師は手術を勧めたが、田舎から出てきた無教養な両親が、手術に尻込みしていると妹から聞いて、手術を頼む妙子。先程までの苦痛が嘘のように無くなった板倉。しかし、板倉は視界が急に暗くなったと言う。慌てて医師を呼ぶが、板倉は亡くなった。
   医師の橋田と、競馬場の貴賓室で競馬を楽しみ会食する雪子。こんどの見合いはかなりいい感触だ。しかし、ある日、直接雪子宛に橋田から電話がかかり、これから会って食事でもしませんかという誘いを受ける。しかし、殿方から電話を受けたことのない雪子は激しくうろたえて電話にでることも出来ずに、やっと出てもろくに会話も出来ない。その後、橋田から、電話をかけたら、家にいるのに電話口にでることもしないで、やっとでたと思ったら、よく分からない対応をした挙句会えないと言いだすような、人を馬鹿にした娘との縁談はお断りだと言ってくる。妙子は、雪子に、自分の全てを理解して許してくれる人間を待つだけで、努力もなにもしない以上、結婚なんて不可能だと言う。
   板倉の死以来、妙子は、毎夜酒を飲み遊び歩いていた。妙子の為の放蕩で、いよいよ勘当されたけいボンが、アパートを訪ねてくるが居留守を使う妙子。窓か家に入ってきたけいボンが、金の切れ目が縁の切れ目かと言う。たちの悪いバーテンの三好と毎晩飲み歩いているのは止めろと言うが、余計な御世話だと追い出す妙子。その日、けいボンの婆や(浦辺粂子)が幸子と雪子を訪ねてくる。けいボンが店の金を使って、作りまくった服の受け取りを見せながら、文句をつけるというより、ここまで尽くすけいボンと結婚するように妙子に頼んで欲しいと言って頭を下げる。
   帰ってきた妙子に、自分の稼ぎで作ったと言っていた服は、けいボンから貢いでもらったんではないのかと問い詰める雪子。自分は、バーテンをしている三好と言う男と交際中で、既に妊娠しており、一緒になるのだと答える雪子。結局妙子は勘当された。急に雪子の縁談が決まった。上本町の屋敷で、雪子の花嫁道具を確認している鶴子と幸子。鶴子は、実は妙子宛の財産は自分が預かっていたが、子供たちが次々と病気になった時に、手を付けてしまったのだと告白する。このことは、一切夫は死らないのだという。二人の間にあるお茶に白蟻が浮いている。この家に白蟻がいるのだと言う幸子。妙子は雪子に幸せになってくれと言って、新しい生活のために出て行った。
   48年新東宝千葉泰樹監督『生きている画像(74)』。
  瓢人先生(大河内伝次郎)は、高名な洋画家だが、世俗を嫌い、酒を伴侶として花ばかり描いて暮らしている。しかし、そんな瓢人を慕う門下生は多い。ある日、絵の品評をしているところに、門下生の安斎(藤田進)が酔って乱入し、瓢人が特選だと言った絵を最低だと言い、ナイフで切り裂いてしまう。その絵は安斎が描いたものだった。瓢人は、特選の賞金だと言って自分の財布を安斎に渡し「安い酒を飲んで目を傷めるな」と言う。安斎と同期の田西麦太(笠置衆)は、今回も落選だ。彼は帝展に14回落ち、他の展覧会も含めれば、20回以上落選し続け、師匠の瓢人からは落選と呼ばれている。
瓢人は、品評会の後、芒銀介(江川宇礼雄)鶴井長太郎(杉寛)らを連れて、主人(河村黎吉)が偏屈者のすし徳に行く。自分で燗をつけながら、主人が出したものを食べてこれはなかなかのものだと言う。数日後、すし徳は、芒、鶴井だけでなく、瓢人の話を聞いてやってきた文人や学者たちでいっぱいだ。主人は忙しくてえらい迷惑だと毒づいている。最後に入ってきた瓢人の幼馴染みの大学教授の竜巻(古川緑波)は、もうネタがないと言われながら、他人の握りをつまみながら、これは…と唸って食いまくっている。
     ある日弟子の一人鯉沼(田中春男)が、瓢人を訪ね仲人の依頼をする。自分は独り者だし、挨拶とかやらない主義だと言って竜巻教授に押し付ける。帝展に今年も落選した田西は、モデルになってもらっている青貝美砂子(花井蘭子)に、モデル料をしばらく待って欲しいと頭を下げている。別にプロのモデルではないんだからと言い、田西を励ます美砂子。ある日、自室で美砂子を描く田西。そこに安斎が現れ、美砂子を美しい人だと誉め、田西の芸術ために裸になってくれないかと言い出す。田西も美砂子も断ると、田西に10円貸してくれないかと頼む。5円しかない田西。酒代かと聞くと細君の薬代だと答える安斎。美砂子が5円ならありますと言うと2人から金を借りて出て行く安斎。
     数日後、田西が瓢人のもとを訪ねる。頭を下げる田西に借金かと聞くと仲人だと答える。瓢人は田西に結婚はするなしたら破門だと言う。恩師のあまりの言葉にショックを受ける田西。美砂子が頼みに行くが、あの下手な田西は画家としてモノにはなるまい、結婚しても2人は不幸になるだけだと言われる。海を見つめながら思い詰めた表情の田西と美砂子。尊敬する瓢人から破門されたら生きていられないと言う田西。しかし、死ぬのは嫌だ、結婚しないのも嫌だと言う美砂子。自分の父親は落選の神様だと自称する仏像彫刻家で、死ぬまで評価されず貧乏だった。父は、美砂子の子供を優れた芸術家にしてくれと言い残したのだと言う美砂子。
    数日後、田西は瓢人に呼ばれる。俯いて破門ですねと言う田西に、意外にも、一度だけ仲人をしてやるという瓢人。披露宴が行われる。田西が落選の神様と言われていることや画才がないことを言いながら、田西にとても愛情に溢れた、人生ただ一回のスピーチをする瓢人。祝辞で瓢人のスピーチの含蓄への賛美を述べてから、竜巻と瓢人は、おかめとひょっとこの面をかぶり、お神楽を舞う。それを見ながら涙する田西と美砂子。
    すし徳は、瓢人の近くに越してくる。こんな辺鄙なところじゃ客も来んだろうと皆が言うが、忙しいのが嫌なんだと答えるすし徳。すし徳は酒の肴を差し入れるのが日課になっていたが、美砂子が気を使って、食事の支度や洗い物をするようになり、不機嫌になる。美砂子に田西に尽くしてあげなさいと優しく言う瓢人。すし徳は、何やら自分でも絵を書くようになったらしい。店に下手な絵を飾り、スケッチに出掛けて数日留守にすることもある。商売に身を入れないので、細君(清川虹子)は瓢人に愚痴る。
    ある日、瓢人を刑事が訪ねてくる。安斎が瓢人の絵を持ち出し、金に換え、大金を持っていたので、不審尋問に引っかかって、上野署に留置されていると言う。自分の弟子だと言い、釈放には身元保証人が必要だと言うので、上野署まで、引き取りに行ってやる。東京一鍋の旨い店でご馳走してやり、女に入れあげるのもいいが、悪い病気にでもなって君の大切な目を悪くすることは気をつけなさいと言って金を置いて出て行く瓢人。酒をあおり、偽善者めと金を投げる安斎。
   すし徳の酒屋の払いが滞っていると聞いて、内緒で払ってやる瓢人。夫のペンキ塗りを止めさせてもらえないかというすし徳の女将には自分の絵を八枚やる。いくらになるんだいとすし徳に聞いて、一枚売っただけで借金返したうえ1年遊んで暮らせるだろうと言うすし徳に、ただ驚く女将。
   いつものように美砂子の絵を描いていて、少し顔が変わったようだと言う田西。美砂子は夫の目の確かさを誉める。妊娠を告げる美砂子。次の帝展の出品に張り切る田西。
   帝展の発表の晩、芒がすし徳に行くとしょげ返っている。今宵、あまたの画家が泣いているだろうと言う。すし徳も出展していたのだ。田西はやはり落選する。失意で肩を落とす田西に、美砂子は酒とつまみを用意する。私は自分の子が帝展の審査員をしている夢を見たと言う美砂子。しかし、その頃から美砂子は腎臓を患い寝たきりになる。弟子総代の芒が、田西の為に奉加帳を持って、瓢人のところにやってくる。しかし、瓢人は、田西は意外にあれで頑固な男だからプライドを傷つけるようなことは止めなさいと言う。
   数日後、芒は瓢人からの贈り物だと言って、瓢人が描いた一点もののベビー服とベビー布団を持参する。瓢人からの子供だけは落選させるなと言う伝言とともに。ある日、1人の紳士が田西を訪ねてくる。田西の絵を見せてくれと言って、2点買ってくれた。田西の絵が初めて売れたのだ。すし徳が葬式を出すので来てくれと誘う。出掛けるとすし徳は女将が貰った8枚の絵を屏風にしていた。一応香典だよと言われ、包みを開けると、瓢人がすし徳の代わりに払った酒屋の受け取りだった。
    酒を飲み始めると青い顔をした田西がやってくる。美砂子が危ないと言う。医者が母体を守るために胎児を諦めようと言うのに、美砂子は自分の命に代えても赤ん坊を産みたいと言い、無事出産はしたが、美砂子は今晩が峠だと言う。枕元の瓢人に、美砂子は落選させませんでしたと言う。そして瓢人に名前を付けて欲しいと言う。瓢人は、すし徳に紙と硯を借りてきてくれと言う。瓢人は「瓢太」と書き、特選だと言う。うれしそうに、瓢太と声を掛け息を引き取る美砂子。瓢太をおぶりながら、一心不乱にキャンパスに向かう田西。田西の視線の先には、美砂子が座っているかのようだ。
  帝展の発表の日、瓢人を竜巻が訪ねてくる。我が意を得たりという新聞記事が載っていたと言って、記事を読む竜巻。その夜、帝展の会場に酒に酔った安斎がやってくるが、表は既に閉まっている。裏に回り、警備員に止められる安斎。無理矢理中に入り、田西の絵を探す。田西の絵の前には、瓢太をあやす瓢人先生と自分の絵の記事を読んでいる田西がいる。下手くそな絵だと言う第一印象だったが、モデルが語り掛けてくる力強さを絶賛している。安斎は、「おめでとう、自分が探し求め到達できなかったものはこれだ。そして自分が一番恐れていたのは田西お前だ」と言う。筆を折ると言う安斎に、全てを失ったところから、また始めればいいのだ、と言う瓢人。キャンパスの美砂子と彼女の姿が重なっていく。

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