2008年11月19日水曜日

温故知新

   午前中大門の歯科で、抜けた差し歯入れ。渋谷に出て、
   シネセゾン渋谷東京テアトル長澤雅彦監督『天国はまだ遠く(295)』。都会のOL山田千鶴(加藤ローサ)は、自殺しようと京都の北、天橋立がある宮津までやって来た。何でも自殺の名所メガネ橋というものがあるらしい。駅からタクシーに乗って運転手(宮川大助)に、人がいない、とにかく北の方まで行ってくれと頼む。運転手は、「絶景の宿 民宿たむら」に車を付けた。そこには、田村遙(チュートリアル徳井)が独りで、鶏を飼い、畑を耕し、漁をし自給自足で暮らしている。その夜、千鶴は大量の睡眠薬を飲んだ。ふと目が覚めると昼だった。36時間眠っていたのだ。死ぬことも出来ずに落ち込む千鶴。
   しかし、ゆっくりと時間が過ぎていく宮津の生活と、フランクな話し方の中に優しさのある田村によって、癒されていく。
   何だか、みんな誰かに癒して貰いたがっているんだなあ。主演の二人のストーリーを分かりやすくするために、シチュエーションや脇役は平坦に極めて分かりやすく観念的になっている。何だか歯がゆい感じがする。田村の亡くなった恋人ゆかりが、そのまま千鶴に重なる合成の完璧さには、妙に感心してしまったが(苦笑)。加藤ローサでローザじゃなくてローサだったんだなあ(苦笑)。散髪して、
   ユーロスペースで深川栄洋監督『真木栗ノ穴(296)』。鎌倉の切通しを抜けた先にあるボロアパートに住む作家の真木栗勉(西島秀俊)は、連載小説が終わり困窮していた。ある日中華料理屋で夕食を取り銭湯に行こうとすると年増の店員(キムラ緑子)が声をかけてきた。自分の部屋の風呂に入らないかと言うのだ。真木栗が狭いユニットバスに浸かっていると女が入ってくる。実は、女は独り者の男を誘惑している間に、相棒の男が独り者の部屋で盗みを働くという窃盗グループだった。帰宅してぐちゃぐちゃになった部屋に驚く真木栗。しかし、積み上げた本が崩されたことで、部屋の壁に穴があることに気が付く。片方の部屋は無人だったが、他方には若いボクサー姿の男がいる。他人の生活を盗み見することで興奮を覚える真木栗。
   数日後、馴染みの中華料理屋で、窃盗団の取材に来た週刊リベラの編集長(利重剛)と部下浅香(木下あゆ美)に出くわす。嫌がりながら仕方なしに取材を受ける。しかし、編集長は、作家が失踪して穴が開いた官能小説の執筆依頼をするのだ。慣れぬ官能小説に苦悩する真木栗。しかし、ある日アパートを見上げる長い髪の女を見かけ、女宛の宅急便が届いたことで、真木栗のペンは動き始める。
   古いアパートに住む男が、壁に開いた穴から隣室の美しい女の生活を覗き見する連載小説は、読者たちの評判を呼ぶ。しかし、真木栗が書いた内容が、隣室で現実のものとなりはじめる・・・・。
    乱歩の「屋根裏の散歩者」か。しかし、加藤泰の「陰獣」観た翌日では分が悪い。乱歩や夢野久作を彷彿させるというより、彼らの文章の一部を取り出してまとめた感。矮小化というとあまりに、酷い言い方か・・。ロケ先も、なかなか、味のあるアパートを見つけてきたと思うが、其処に積み上げる古書の山。古びたハードカバーを集めたようだが、こだわりはそこまでなのか。意味ありげにアップにするのが、角川書店文庫版の江戸川乱歩、横溝正史では、ネタばらしなのではないか。隣室の女を演じる粟田麗は、何だか不幸な山口智子といった感じ。傴儘の不動産屋の主人も悪趣味だ。
   何だか、2作品とも悪い訳ではないのだが、全く物足りない。バランスよく作られているのだが、突出した感じがない。製作費のバジェットが少ないのを苦心してカバーしているのだが、全ての経費を平均的に削って、そこそこの映画を作るノウハウのみが、邦画バブルを支えているような気がして複雑な心境に。
    神保町シアターで54年日活山村聰監督『黒い霧(297)』。井上靖原作、菊島隆三脚本を、山村總が、主演・監督。
   国鉄総裁の秋山が、行方不明の翌日、綾瀬で轢断死体で発見された。他殺、自殺両説が渦巻く中、各新聞社が他殺説をセンセーショナルに書き立てる中で、かって妻が人気歌手と心中した後、マスコミのあることないこと興味本位の報道に心に傷を負った毎朝新聞社会部デスクの速水卓夫(山村總)は、無責任に断定して煽り立てるのでなく、捜査本部の刑事たちと自分たちが掴んできた事実だけを記事にしようとする。
   当時の政府は、秋山が国鉄の10万人近い大量首切りを決定したことに対する労働組合や左翼勢力による赤色テロであるとした方が都合がいい。唯一他殺説に与しない毎朝社会部長山名(滝沢修)と担当デスク速水に対する内外の圧力は強まる。更に三鷹駅で無人の車両が暴走して大惨事が発生することで、更に左翼陰謀説が決定的になったかに見える。そんな中、真夏の暑い日差しの下で死に物狂いの社会部員たちの取材によって、捜査本部が自殺説と断定し、記者発表することに決まったという特ダネを掴み、速水たちは勝ったと思われた。しかし、当日巨大な権力によって、捜査本部の発表は中止、速水も福岡支局に飛ばされることになった。
   下山事件の時の毎日新聞の記者たちの話が元になっているらしい。自分も松本清張の「日本の黒い霧」を子供のころに読んだので、アメリカの特務機関陰謀説を今まで信じていたが(苦笑)。なんと真実を知るということの困難なことか。大事件の新聞社の社会部記者たちの話は、今夏公開された「クライマーズハイ」を連想する。事実、その新聞の方向性を決定する担当デスクの苦悩など同じだ。変わらないものなんだろうな。
   夜は、外苑前の粥屋喜々で自分の企画の飲み会。20名以上集まり、久々の人も多数来てくれたのでご機嫌に酔っぱらった。

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