2009年12月17日木曜日

子供は難しいなあ。

    ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第50弾】叶順子
    60年大映東京田中重雄監督『誰よりも君を愛す(706)』
    共立テレビKTVの本社前に局のハイヤーが停まり、ディレクターの半沢明人(本郷功次郎)が降りてくる。編成局では騒動が持ち上がっている。制作部員たち(早川雄三、杉田康)が騒いでいる。「野郎が盲腸で、番組飛ばすってのは聞いたことはないが、女はよくあるよな。下手すりゃ、盲腸なのに産婦人科に何度も入るのまでいるからな…。弱ったもんだ。半沢はまだ来ていないか?安藤!!」番組プロデューサーの安藤雄三(菅原謙二)「あっ今来ましたよ!!半沢!!江崎美恵子が盲腸で入院だ。」「えっ、盲腸なら薬で散らして…」「無駄だよ。」「あと、本番まで3時間半か。弱ったなあ」そこに、番組スポンサーの志摩化粧品の社長令嬢の志摩美加子(野添ひとみ)がやって来る。「今日のゲストの江崎美恵子が来なくなったんでしょ、局長から聞いたわよ。どう?ピンチヒッターとして私?局長さんにはOK貰ったわよ。」「いくらスポンサーの娘でも…」と半沢。「ねえ!!安藤くん、プロデューサーとして口を聞いてよ!!」既に半沢には心当たりがあるのか、受話器を取り「もしもし、羽田航空事務所?」
    羽田空港、スチュワーデスの森砂江子(叶順子)が同僚の木南優子(江波杏子)と、飛行機を降りてくると、半沢が「森砂江子さんですよね。今から一緒に来てくれませんか?」と突然声を掛ける。砂江子は驚いて「何でしょう?」「あなたはどなた」と優子に尋ねられ名刺を出す半沢。「テレビ局の人ね」「今からテレビの生放送に出て欲しいんです。勿論、会社の了解は貰っています。」「えっ私困るわ。」優子は「何だか知らないけど、行ってらっしゃい。面白そうじゃない。悪いことするような人には見えないし…。」と言って、砂江子の背中を押す。慌てて、砂江子を局のバイヤーに押し込み、局に向かう。「番組は、お色気禅問答というもので…」と説明を始める半沢。「お色気とか困ったわ。わたくし恋愛の経験もないし、そういうのとっても苦手なんです…」半沢、運転手(三角八郎)に「急いでくれよ!!」と声を掛けると、「半沢さんは美人と道行きだからいいけど、私は一人ですからね」と答える運転手。
   「お色気禅問答」の生放送中。スチュワーデスの制服姿の砂江子に西光和尚(左卜全)はご機嫌だ。「近頃イカスなんて言葉が流行っているが、色気とセックスアッピールとはちょっと違う。」「女だけではなく、男の方にも色気と言うのはありますか?」「2枚目と言うのとは少し違うな。では、私のように容姿の悪い年寄りでも、あなたには求愛できると言うことかな」「でも、私古い考え方かもしれませんが、結婚に繋がらない恋愛なんて意味がないと思ってしまうんです。だから、私にとって、恋愛は人生で一回限りです。もし、私の恋愛が破れた時には、一生恋愛とは関係のない生活を送ると思いますわ…。」安藤が「いいじゃないか!!」と独り言を言うと、隣に座っていた美加子が、安藤の腿をつねる。
   喫茶店、砂江子「本当に成功だったのかしら」半沢「お世辞抜きで、太鼓判を押しますよ。僕の目に狂いはなかった。」「そこまで言っていただければ、安心しました。でも、半沢さんは私のこと、どうしてご存知なんですか?」「僕を覚えていませんか?これでも三回お会いしていますよ。」「えっ、お客様だったんですか。」「ひどいなあ」「私、全然覚えてなくて、ごめんなさい。」「上着にコーヒーをこぼしてしまったら、一生懸命拭いて下さったんです。」「覚えていませんわ」「それが、二度目で、一回目からきれいな方だと思っていました。それから仕事で飛行機に乗る度に、あなたに会えないかと思っていました。」
   中村不動産、かね(沢村貞子)、正面のガラス戸に貼ってある物件の案内を張り替えている。砂江子「ただいま。」「遅いわね、さっきまで、進藤さんあんたを待っていたんだよ。」「仕事の後、お友達と銀座に行ったの。はい、お土産。」二階の自分の部屋に上がり、鼻歌を歌いながら、ラジオのスイッチを点ける。「誰よりも君を愛す」のメロディーが流れる。「うっふっふっふ」思い出し笑いをする砂江子。「コーヒーを上着に零して…」半沢の言葉を思い出して「おかしい人、うふふっ。」
   昼間のホテルの一室。進藤恭次郎(川崎敬三)と片桐のり子(左幸子)がベッドの中にいる。「いつまでも、こうしていたいわ」「親父にバレるとヤバいぜ」中村不動産に電話をし「では、今晩。必ず砂江子さんを連れてきて下さいよ」と話すのを聞いてのり子「砂江子さんって誰?」「スチュワーデスさ」「美人そうね」「スペシャル美人さ」服を着始めるのを見てのり子「ねえ、帰るの?」「君だって会社に帰らなきゃならないだろ。昼休みは終わったぜ。君に付いていられちゃ、俺の計画はパアだ。泣いてくれよ」札を放り投げ、「これでおしまいだ。じゃあな」
    進藤、長谷川宝石店に入る。マダムの池令子(角梨枝子)「この頃ちっとも来てくれないじゃないの」「マダムも体を持て余しているみたいだな」と体を弄る進藤。女店員たち、顔をしかめる。「お店の示しがつかないじゃないの」「もうバレちまったんだからいいじゃないか」と声を掛け抱き寄せ、キスをする進藤。令子を抱いている隙に、店に飾ってあった大振りのダイヤの指輪を自分のポケットに入れる進藤。
   ナイトクラブに、半沢が局長の遠山(北原義郎)に連れられやって来る。「君にとって悪い話ではないじゃないか。志摩化粧品の一人娘。君の前途は約束されたようなもんだ。結婚相手は大事だぞ。私なんか、つまらない恋愛で結婚してしまったから・・・。」別のテーブルに西光和尚がいて大勢のホステスに囲まれてご満悦だ。遠山は「ちょっと、ご機嫌伺いに行ってくる。」
   他のテーブルには進藤とかねがいる。かねは、テーブルの下で、靴を脱ぎ捨て、足が痒いのか、左右をこすりあわせている。「下田に鉄道が走るのは決まっていますから、値上がり確実な物件なんですよ…。」「砂江子さんは本当に来るんでしょうね。」「そりゃ勿論ですとも、勿論ですとも!」「で、幾ら必要なんです。」「5万6千坪ありますので、四千万を、お父様にご融資いただけますと…。」そこに砂江子がやってくる。「砂江子、遅かったじゃないか。いえ、この子は恥ずかしがっているだけですよ」進藤、いきなり指輪を出して、「君のために作らせたんです。」「いえ、こんな高いものいただけませんわ。」「あらあ、これはダイヤモンドじゃございませんですこと。素晴らしいわ!」自分の指に嵌め、うっとり眺めながら、「砂江子、頂戴しておきなさい。」「貰って下さい」「いただけません!」「では、あたくしが代わりに頂きますわ。いっいえ、あたくしがお預かりしておきますわ。」進藤は、強引に冴子をダンスに誘う。「僕はあなたを愛している。だから結婚して欲しい。」
   抱き寄せようとする進藤と必死に抵抗する砂江子。二人が踊る姿を見て、気が気でなかった半沢は「失敬じゃないか」と声を掛ける。「まあ」地獄に仏の砂江子、「失礼します。」と進藤に言って店を出て行ってしまう。砂江子を追って出ていく進藤と、不安になって後を追う半沢。車の行き交う道を渡る砂江子を追って車道に出る進藤。車に撥ねられそうになり、「危ない!!」と叫んだ半沢は、進藤を止めて歩道に転ぶ。「邪魔しやがって!」と忌ま忌ましそうに吐き棄て、進藤は去った。
  すると、砂江子が現れる。半沢「いたんですか?」「すいません、あたしのために・・・。」「君が誤ることないんです。」「あら血が・・」平気ですという半沢の怪我をした手に、ハンドバックから取り出した白いハンカチを捲く砂江子。「わたくし、感動しているんです。それなのに、あの人ったら助けていただいたのに、お礼も言わないで・・・。」「いいんです。それよりも歩きませんか?」一人取り残されたかねは帰ろうとするが、靴が見当たらない。ボーイに「私の靴がないんですよ。私の靴が」当惑するボーイ。
  スタジアムの裏のようなところで、「静かね。」「僕はここが好きで、仕事でむしゃくしゃするとここに来るんです。」「とても素敵なところね。」「僕は、学生の頃から人とうまく交流ができなくて孤独でした。“堅物”とあだ名をつけられた程です。同じ大学だった進藤は何かと僕を目の敵にしてからかうんです。」「人とうまく交流できないのは私も一緒ですわ」「そんなこと。」「両親を亡くして、叔母に育てられた私は、友達もいませんでした。いじめた同級生を見返してやろうと思って、スチュワーデスになったんです。私たち、似た者同士ですわね。」「あんな奴にあなたを渡せるものか!!! つい無理なことを言って、失敬しました」「いえ、私うれしいんです。」見つめあい、キスを交わす二人。
  自分の部屋で、砂江子がうっとり昨晩のことを考えていると、かねが上がってくる。「砂江ちゃん、進藤さんからまた届けものがあったよ、いい加減了解してあげなよ」「叔母さん、お金儲けのために、私を結婚させようというんでしょ」「違うよ、あんたの幸せを思って」「なら、お断りして。」「何を言うんだいこの子は。こんな高価なダイアモンドをくださったんだよ」「こんなものいりません」と投げる砂江子。「何をするんだい。ああもったいない」
そこに下から不動産屋の事務員が声を掛ける「お嬢さん!電話ですよ」「はーい。砂江子です。まあ半沢さん!!結構ですわ、私今日お休みなんです」「じゃあ、6時に例の喫茶店で」
電話を置いた半沢に、安藤が「女ってのはな・・」半沢「何度も聞かされていますよ、奥さんにプロポーズした時に、OKしてくれなければ、何をするかわからないっていったんでしょ」爆笑していると制作部員(杉田康)が「おい半沢!局長が呼んでいるぞ!」と声を掛ける。
  局長室「今、志摩さんから電話があって、お嬢さんの誕生日にパーティーがあるので、ぜひお前を招待したいと言ってるんだ」「いつですか?」「今夜だ。仕事なら他の奴に代わってもらって、今夜ののところは、とにかく行ってくれよ、俺の立場もあるし・・」と押し切られる。
  待ち合わせの時間を過ぎても現れない半沢に砂江子が不安になり始めると、ウエイトレスが声を掛ける「森砂江子さまですね。先ほど半沢さまからお電話があって、急用が出来てこれなくなったとのことです」その頃、志摩家を訪ねた半沢。屋敷には美加子しかいない。「パーティじゃなかったんですか?」「パパはお妾さんと箱根の別荘、お母さまも・・・。お客様はあなただけです」ステレオを流し、部屋の灯りを暗くする美加子。
   寂しく喫茶店を出て砂江子が街を歩いていると、「砂江子さ~ん」と呼ぶ声がする。振り返ると、オープンカーに乗った進藤だ。「お乗りになりませんか」「いいえ結構です。「お送りしますよ。半沢のことでお聞かせしたいことがあるんです。」半沢と聞いて、動揺した砂江子を無理やり助手席に乗せる進藤。「今日、半沢は来なかったでしょう。半沢は僕の従妹に呼ばれているんです。恋愛関係にあって、近々婚約することになるでしょう。そんないい加減な奴なんです半沢は!」ショックで呆然自失の砂江子が我に返って「どこを走っているんですか?道が違うわ。降ろしてください!!」「面白いところへご案内しますよ。すぐ近くです。僕の友人たち、怒れる若者たちではなく、イカレタ若者たちですよ。」
  とある屋敷の地下室のようなところに、楽器を演奏する者、ダンスを踊る者、壁にへんてこな絵を描く者など、男女が入り乱れて騒いでいる。進藤が「諸君!!スチュワーデスの森砂江子さん。どうぞ、こちらへ。」ヒューヒューと囃し立てる若者たち。「お酒でもお飲みになりませんか?」「いえ、私は飲めませんの・・」「じゃあ、ジュースでも」「ええ」進藤は、砂江子のコップのコーラに睡眠薬を混ぜて、渡す。若者たちはゲームをしている。「負けた人間は質問に本当のことを答えなければならないんです・・・・。」馴れない雰囲気に飲まれている砂江子。ゲームに負けた娘が真ん中に立っている。「あなたはバージンですか?」「いいえ」「失ったのはいつでしたか?」「16歳の時でした」囃し立てる若者たち。「相手は誰ですか?」「ママの知り合いの学生でした。」「どうでしたか、ママがとても怒って、私を寄宿舎にいれたので、その学生とはそれきりでした。」「次の相手は誰ですか?」「物理の先生です・・」呆れて声も出ない砂江子は、喉が渇きジュースを飲む。その姿を見て、ニヤリとする進藤。
  同じころ、半沢は、美加子に「好き!!」と抱きつかれていた。抵抗しながらも、スポンサーのお嬢さんに「今夜は泊って行って!!女の私に、ここまで言わせて平気なの」とまで言われて動揺する半沢に無理矢理キスをする美加子。すると突然灯りが点き、進藤と仲間たちが、歓声を上げて入ってくる。半沢は、その中に、砂江子の姿を見つけて愕然とする。進藤に「こんな茶番を考えたのは君だろう馬鹿にするな!!!」と怒鳴って家を出て行く。その時、既に砂江子は、進藤に飲まされた睡眠薬が効いてフラフラだった。怒りに燃えた半沢は気がつかなかった。気を失った砂江子を寝室に運び、鍵を閉める進藤。ベッドには、砂江子の着ていた服が散乱している。
  翌日、羽田の更衣室、鏡の前に立つ砂江子の顔色は青白く、苦悩に満ちている。外から入ってきた優子が「あんたの彼氏来てるわよ。どうしたの何かあったの?」会いたくはなかったが、半沢の前に立つ砂江子。「心配で、僕は眠れなかったよ。どうして君はあの場所にいたんだ。納得できるような話を聞きたいんだ。」「納得できるお話ができなくなってしまったの・・・。」泣く砂江子。「どうしたんだ。何があったんだ。」泣く砂江子を尚も問い詰める半沢。「わたし、喫茶店であなたの伝言を聞いたわ・・・。帰ろうとして歩いていたら、進藤さんに声を掛けられて・・・。そのあとは、何が何だか自分でもわからないの・・・」「それじゃ納得できないよ」「納得してもらえないわ。私には、あなたにあげられるものが何もなくなってしまったわ・・・」泣き崩れる砂江子。「後の祭りさ、いうことは何もないよ」半沢帰って行く。
  進藤コンツエルンの会長室、進藤が来ている。会長秘書ののり子が入ってくる。「久し振りだな」「妊娠したのよ、私」「本当か!!」「びっくりするのね、あなたでも」「冗談はやめろよ」「本当よ、今度は・・・」「じゃあ、これでいいだろ」とポケットから金を出し放り投げる。「今度は、私下ろさないわ、この4千円が父親の責任って訳?」「父親なんてそんなもんだろ」その時会長の進藤竜太(武田正憲)が入ってくる。「また小遣いのおねだりか」机に放り投げてあった金を慌てて隠す進藤。「いつまでもブラブラしていないで、ちゃんと働きなさい」「パパ、今日はいい話を持って来たんだ。今度、伊豆に鉄道が通る別荘地があるんだ・・・」
   酔った半沢を連れて例のクラブに連れてくる安藤。「彼女がそんな人だとは思えないけどなあ。」ホステス「何だか、こちら荒れてるわね。」「この店のサービスが悪いって文句を言っていたんだ。」「あらまあ、こっちにとばっちり?そうそうニューフェイスを紹介するわ。こちらのり子さん」「よろしくお願いします。」会長秘書だったのり子だった。
  タクシーが止まり、隅田川に駆け寄って苦しい息をする半沢。駆け寄ってきて「気分が悪いの?大丈夫」と背中をさするのり子。「帰れよ!」「心配だわ。」「臭い川だな。私の向島の出身なの。大川の臭い、懐かしいわ・・・。あなたの気持ち、私、判るわ・・・。私、進藤に捨てられたの・・・。子供が出来たからよ。進藤はそんな男、砂江子さんの体だけが目当てよ。傷つく砂江子さんかわいそうだわ。」「砂江子と進藤の話はやめてくれ」「私帰るわね。わたし・・・これでも元はタイピストよ、落ちたものね・・・」
   進藤が令子の宝石店に入ってくる。「駄目よ、駄目、お店じゃいけないわ」店内であからさまに令子を抱きながら進藤は「あーあ。この顔見飽きた。その点、砂江子は新鮮でいい・・・」と考えている。令子「ねえ今夜会えない?」「忙しいんだ。」真珠のネックレスをポケットに入れようとする進藤。「駄目よ、お店の品物よ。この間、大きなダイヤの指輪持って行ったでしょう。大変だったんだから。でも、そのネックレスをいいわ、あげるわ」「なんで?」「インビテーション!!」「何だ偽物か・・・。」

  池袋新文芸坐で、名匠清水宏
  59年大映東京清水宏監督『母のおもかげ(707)』
  隅田川沿いの公園。子供たち。鳩を飛ばす少年がいる。少年は走って家に戻る。家の向かいの大木豆腐店で豆腐を作っている細君ふで(村田知栄子)が、娘の慶子(南左斗子)に、もうご飯できているんだろ声を掛けな!という。そうねと向かい住む瀬川定夫(根上淳)の部屋を覗くと、定夫が掃除をしている。「私がするわよ。」「天下のファッションモデルにそんなことやらせられないよ。」「いつものことじゃない。ご飯出来てるわよ。お父ちゃんの話どうなの?4お兄さんを決めると30件目だと張り切っているわよ。」「うーん」「道夫ちゃん、早くしないと学校遅れるわよ!」豆腐屋で朝食をとる。定夫と道夫。一足先に済ませた定夫に、「お父ちゃん、待ってよ!!」橋を渡る定夫に追いつく道夫。「お前、お母ちゃん欲しいか?」「僕のお母ちゃんはいるじゃないか・・・」

  隅田川の水上バスの運転手の瀬川定夫(根上淳)は、半年前に妻を亡くし、息子の道夫(毛利光宏)と二人暮らし。向かいに住み、豆腐屋を営む叔父の大木恭介(見明凡太郎)と、ふで(村田知栄子)夫婦と娘でファッションモデルの慶子(南左斗子)に炊事洗濯掃除などやってもらっている。叔父は、定夫の後妻を、仲人30件目にしたいと張り切り、病院の炊事婦の高田園子(が、コブ付きだが、器量も性格もいいのでなんとか纏めたいと、無理矢理その日の夕方に見合いをセッティングする。
    仕方なしに会うだけだと言いながらも、定夫も床屋に行き、園子も一旦帰宅し着替えて喫茶店にやってくる。叔父は、二人でざっくばらんに話せと帰ってしまう。最初は気まずかったものの、おでんやで酒を飲み、寄席で、林家三平の落語を聞くうちに、お互い憎からず思うようになる。園子の家まで送る定夫。病院の調理場で世話になっているお藤夫婦(清川玉枝、南方伸夫)の二階に間借りしているのだ。園子の娘のエミ子(安本幸代)は既に眠っていたが、その寝顔を見て定夫の気持ちは固まる。
   問題は、息子の道夫の気持ちだ。道夫は、亡くなった母ちゃんの写真と、母ちゃんが買ってくれた伝書鳩をとても大事にしている。慶子は、両親から話を聞いて、子供同士の見合いをしたらどうだろうと提案する。自分が出演する最新モードのファッションショーが開かれるデパートに、道夫とエミ子を呼んで、お好み焼屋で食事をする慶子。

  58年大映東京清水宏監督『母の旅路(708)』
   タイガーサーカスのテント。楽隊が街に宣伝しに出掛けて行く。笹井京子(三益愛子)、「しっかりやって来ておくれよ!!」と声を掛ける。京子は、紅梅と言う名前で空中ブランコ乗りだった。娘の泰子(仁木多鶴子)がユリ(紺野ユカ)と空中ブランコをしている。有原清(伊沢一郎)が「やっぱり血は争えないな「父ちゃんいない?」京子「また、神経痛が痛むってさ。」
   考え事をしている晋吾(佐野周二)、京子の夫で、サーカスの団長である。京子「どうしたんだい?」「箱根を越えるのは初めてだ。明日が親父の命日だから、泰子を連れて墓参りをして来ようと思うんだ。」「そりゃいいよ。死に目にも会えなかったんだ。」
    笹井家の墓に行く。晋吾と泰子。「お線香を上げるのは父さんくらいしかいない筈なんだ。」しかし、花が手向けられ、きれいになっている。案内してきた老人は「ああ、命日の度に、伊吹さんの奥さんがいつもいらしています。」と説明する。驚きながらも「泰子、花を供えなさい」と晋吾。寺の本堂で、読経する住職の後ろに、伊吹和子(藤間紫)がいる。やって来た晋吾は和子に軽く会釈をする。
   伊吹邸、和子が晋吾に話している。「お父様が亡くなられてから、随分探したんですが、見つからなかったので、遺言に基づいて、わたくしが今までお預かりしてきましたが、やはり晋吾さんにお返ししなければならないと思うんです。」「いえ、私は放蕩の末、勘当された身の上ですから、今更…。」「しかし、そのことも、元はと言えば、わたくしが悪いのです。」「そんな昔のこと」「私は荒れて、満州の奥で病気になって死にかけていた時に今のサーカスの団長に助けられ、その後、団長の娘と結婚したんです。だから今更…」賑やかな声が聞こえてきて晋吾が隣室を覗くと、和子の娘の光代(金田一敦子)が弾くピアノの合わせて泰子が皿回しをして、光代の弟の春夫(鈴木義広)に見せている。思わず「泰子、止めなさい!」という晋吾。
  


三郎(柴田吾郎)国男(浜口喜博)信男(伊藤直保)かおる(南左斗子)佐吉老人(伊達正)里見(花布辰男)松木(大山健二)山村夫人(平井岐代子)田島夫人(耕田久鯉子)瀬長夫人(岡村文子)森田先生(丸山修)谷野先生(穂高のり子)令子(千早景以子)葉子(田中三津子)晶子(水木麗子)町子(三宅川和子)圭子(真中陽子)しげ(町田博子)きよ(本山雅子)みよ(小笠原まり子)来賓客(宮島城司、河原けん二)蕎麦屋のオヤジ(小杉光史)村のお偉方(酒井三郎、杉森麟、佐々木正時)サーカスの女(千歳恵美、西川紀久子)


   京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
    57年歌舞伎座五所平之助監督『黄色いからす(709)』
    鎌倉鶴丘八幡宮~鎌倉の大仏。小学生たちが大仏を写生している。担任の芦原靖子(久我美子)が、吉田清(設楽幸嗣)の描く絵を見て、「あら、吉田くんよく見てご覧なさい。黒と黄色だけでなく、もっと他の色もあるでしょう」清から反応がないので考え直し「いいのよ、いいのよ、何でも自分の思い通りに自由に描いて。」
   生徒のいない教室で、芦原が同僚の村上(沼田曜一)に相談をしている。「どうでしょうか」「確かに変わっているね」「以前は、随分明るい色の絵を描いていたんですが…。」「児童心理学では、父親がいないとか、家庭に問題がある児童が、こうした絵を描く傾向があると書いてあるのを読んだことがあるよ」「でも、吉田清くんは二親が揃っていてそんなことはないんです。昨年お父さん中国から帰って来たんです。」「引き揚げ者か大変だなあ…。」
   前の年のこと、夫が乗った中国からの引き揚げ船が着くことを知り、吉田清と母親のマチ子(淡島千景)が港の近くの旅館に泊まっている。清、母親に甘えている。「お母さん。肩を叩くよ。」「清ちゃん、ありがとう。」「お父さんの船いつ着くの?」「船はもう着いたらしいけど、明日の朝降りて来るの…。」「お父さん、僕に会ったら喜ぶ?」「清ちゃんが、こんなにいい子になっているんですもの、喜んでくれるわよ」隣のおばさんが、「ボン賢いなあ」と声を掛ける。「さあ、清ちゃん寝ましょう」
   翌朝、朝靄の中を、次々と桟橋を歩いてくる引き揚げ者たち。出迎えの人々の中には、勿論、町子と清の姿がある。一郎(伊藤雄之助)の姿を見つけ、「清ちゃん!お父さんよ」と町子が駆け寄る。「あなた!!良かったわ…」と涙ぐむマチ子。「うん…」「大変だったでしょ…」町子我に帰り、「あなた!!清ですよ!!大きくなったでしょう!!」「お前いくつになった?」「あなたが、あっちに行って直ぐ生まれたから、9つですよ」「9つかあ…」「清ちゃん!!お父さんって言ってご覧!!」「…おとうさん…」照れているのか、初めて会う父親に戸惑っているのか小さな声の清。
   祭り囃子が聞こえている。「清!!お神輿担いだことがあるか?」どうも、話は続かない。そこにマチ子が葛餅を出す。「はい、これお父さんの分、もう少しお砂糖いる?」「そうだな。こういうものはあっちでは食べられなかった。」「はい、清ちゃんの分」「お母さん!!僕もお砂糖頂戴!!」「ねえあなた、清ちゃん年齢にしては体大きい方なのよ。あなたみたいに身長高くなるわね」「そうだ、清腕相撲するか?」「清ちゃんやって貰いなさい。」「うん…」「おっ、清はギッチョか?」「直らないのよ…」「そうか、じゃあ、お父さんも左手だ。」「ハッケヨイ、残った!!残った!!残った!」マチ子、夫に負けてあげてと目配せをする。最後は清が両手を使い勝った。「やった!!やった!!お父さんに勝った!!」「清ちゃん、そんなに大きな声でお父さんと言って」涙ぐむマチ子。

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