2009年12月19日土曜日

飲んで飲んで呑まれて飲んで

    早起きをして、同居人と築地市場に出掛け、場内で寿司を食いながら、朝からお銚子を3本空けて、鰹節やら海苔を買い、コーヒーを飲む。予想はしていたが、土曜の築地は場内、場外ともに凄い人出だ。

  京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画女優 田中絹代(2)
     53年新東宝田中絹代監督『恋文(714)』

    タクシーが停まる。真弓洋(道三重三)が降りる。女(関千恵子)に送って貰ったようだ。話をしたそうな?だったが、タクシーは急発進し、女はシートに転がり、顔をしかめる。洋は、自分の下宿に歩きながら、近所の主婦たちに「おはよう」「おはようございます」と明るく声を掛ける。「まあ、朝帰り?」「いえ、仕事の途中ですよ」
   下宿の表札には、「真弓洋」と並んで「真弓礼吉」と書かれている。
   「兄さんただいま」兄の礼吉(森雅之)が部屋の中に洗濯物を干している。「少し寝るかい?」「いや、またすぐ出掛けるよ。兄さん随分洗ったね。僕のシャツなんか洗濯屋に出すから良かったのに。それに、外に干せばいいのに」「いいんだよ、こうするとパリみたいだろ。」「どうして、兄さんは結婚しないんだい?兄さんほどの語学力があれば、受験講義録の添削なんてつまらない仕事でなくていくらでもあるだろう。」「コーヒーでも入れるか?」「もう時間がないからいいよ。兄さんが駅でぼーっと立っているのを見たことがあるよ。そうそう、これが兄さんの原稿と、原稿料3000円です。」慌しく着替え、髭を剃って洋は出かけていく。一人残った礼吉、財布からセーラー服姿の女学生(久我美子)の写真を取り出して、見つめる。
  銀座交差点、行き交う人々を目で追う礼吉の姿がある。渋谷ハチ公前に礼吉の姿がある。「真弓!!」突然声を掛けられる。「ああ山路か!!」兵学校時代の友人山路直人(宇野重吉)だ。「心配したぞ。」「会いたかったよ。お袋が死んで、弟と東京に出て来たんだ。」「四日市から出て来たのか。弟はどうしている?」「古本屋を回って、安く買って高く売っている。日に1000円稼ぐんだ。」「逞しいな。真弓!俺の仕事を手伝わないか? 英語フランス語は俺よりもお前の方ができるからな。」
  すずらん通りの自分の店に、礼吉を連れていく山路。「先生!!先生が帰って来たよ。」待っていたオンリーの女(?)の姿がある。女の米兵の恋人へのラブレターの代筆をしているのだ。近くの古本屋の看板娘保子(香川京子)が客の相手をしている。オンリーの女がアメリカのファッション誌を売りに来ている。「550円ね」「やっちゃん!これ、最新号よ」「もうあるわ」「あんた顔に似合わず、しっかりしているわね。」洋「これ下さい。」「えーと○○と○○と・・・1550円です。」保子の母親(沢村貞子)「1700円だろ、しっかりしておくれよ!!」洋「ここは随分アメリカの新しい雑誌がありますね。どこから売りに来るんですか?立川の女たちが売りに来るのさ。普通は一カ月だけど、飛行機で羽田にもってきた男が女に渡すけど、みんなパラパラ見たら売りに来るんだよ。」何事か思いついた風の洋。すずらん横丁のとんかつ屋の外壁を突然測り始める。通行人は洋が何をしているのかと興味津津だ。
   とんかつ屋の中に入り、女主人(花井蘭子)に「そこの壁を貸して欲しいんです」と声を掛ける。「あんなところ何に使うの?」「商売をしたいんです。月々1万円お支払いします」「えっ???」洋の申し出を理解できない女主人。


     神保町シアターで、女優 高峰秀子
    41年東宝/映画科学研究所山本嘉次郎監督『(715)』
    岩手県の馬市、大層賑わっている。競りが行われている。人混みの中から一人の少女が出てくる。小野田イネ(高峰秀子)だ。最前列で見ていると、同じ村の佐久間善蔵(小杉義男)の馬は、軍馬御用に選ばれ、450円の高値がついた。陸軍の軍馬購買官(真木順、大崎時一郎)は、最もいい場所で馬を選んでいるのだ。
   日も暮れて、小野田家、父の甚次郎(藤原鶏太→釜足)母さく(竹久千恵子)祖母えい(二葉かほる)長男豊一(平田武)次男金次郎(細井俊夫)妹つる(市川せつ子)たちが夕餉を囲んでいると、イネが帰って来た。さくは叱る「どこさ行ってただ」「馬市見に」「あんだ、おどちゃんもおがちゃも、1日働いて手足が棒みでになってるに、おめひとりかってにあそんでばがり …」「かっちゃ、腹減っだよ」「おめにぐわすもんはねっ!!」祖母のえいが「イネ、こっちゃ来う、こっちゃ来う」と声を掛けてくれるが、さくが「ありゃ、雨っこ降ってぎたべ。みんな手伝え。」甚次郎初め皆慌てて外に干してあった笊や筵を運び込む。「イネ、筵さ、厩さ入れろ。」空いた厩を見て、イネ再び「ごのあだりで、馬っこいねのはうぢだげだべ。」さく「ごの間、馬っこ死んだのを忘れてけつかる。馬っこ飼って得したひとは聞いだごどねっ!」「今日は農林大臣賞さ選ばれた馬っこは1200円、善蔵の家の馬っこは、軍馬御用で450円にもなっただ!!」「いいたって、金がねば馬っこ買えねえだ。」さくとイネの親子喧嘩が終わらないので、甚次郎は、豊一に「とよがず、おめ何やってるだ。暗い中でそっただことやってると、めえ悪くすっぞ。」「バスマッドだあ。学校のせんせえに言われで、県の品評会に出品するんだ。」「早よ、寝れ。」
   そこに、善蔵が一升瓶を下げてやってくる。「おばんでがす」「おばんでがす」「おっがちゃん、酒っこ買ってきたぞ」「善さん、軍馬御用で450円で売れたってな。」「んだっす」「あんだ、450円とはたいしたものだっすな。」「この佐久間善蔵の育てた馬に外れはねえのっす。さあ、飲んでけろ。飲んでけろっちゃ」甚次郎「いんや、おらあ、夜なべ仕事さあるがら・・。」「そっか、そっか、ぢゃ、おがっちゃん呑むか?」「でば、いだだぐっす。」「イネおめものむが?」「バガ言うでね。わらしっこに酒飲ましたら駄目だっぺ」と笑うさく。「おがっちゃ、さっぎ、馬っこ飼って得したひとなんかいねっていったでねえか、おがしいよ」イネは膨れっ面だ。
   翌日、学校の庭で、豊一たちは、藁細工を作っている。山下先生(丸山定夫)がそれぞれの作ったものを見て「オメの作っだ藁靴はでかいな。これじゃ、?さんの仁王さんが履くものだか?」みな笑う。「豊一、おめの作ってるのは、バスマットか。ほう、?の紋様を組みこんだのか、こりゃいい出来だ。」そこに、馬を連れた娘が通りかかる。山下「いい馬っこだなや」「花風って名前だで」「あんれ、お腹さ大きいでねが。サラブレットかい?」「いんや、アングロノルマンだべ」「ノルマンは足腰が強いので軍用にも向いとるからなあ」「冬の間面倒見てくれる人を探しとるだ。」豊一「うちで預からせてもらえねえべか?」
   甚次郎は、組合長に呼ばれる。冬の間花風の面倒をみてくれというのだった。甚次郎は前飼った馬を死なせているので躊躇するが、産まれた仔馬をくれるというので、預かることになった。さく「やっぱ、おら、馬っこ好かねえな・・・。」
   甚次郎が、春風に荷馬車を曳かせていると、向こうから花嫁行列がやってくる。この地方では、馬の上に俵を二つのせ、そこに花嫁を乗せて行くのだ。付き添いの村の衆が、甚次郎を見つけて走り寄る。「甚次郎さ、酒っこ呑め!」「目出度い日だ!飲んでけれ!飲んでけれ!」逃げるが、囲まれて皆からどんどん注がれて飲まされる甚次郎。
   家で甚次郎が寝込んでいる。無理矢理飲まされて酔っ払った甚次郎は後ずさりした花風に下敷きになったのだ。しきりと寒気を訴える甚次郎に布団を何枚も掛けるさく。幼い金次郎とつるは心配そうに見つめる。「だから言っだごどでね。あの馬は疫病神だ!」「おがっちゃ、花は何も悪ぐねっ、おどっちゃが、酒っこ飲まされで、酔っ払ったからいけねえのさ」医者を呼ぶ金がないので、祖母のえいが呼んできた拝み屋が「生霊がついとる。4つ足の生き物だ」「やっぱり馬っこだ・・・。だから、おらは嫌な気がしたんだ」と納得するさく。
  しかし、医師が来て甚次郎を見て、すぐに手術をすることになった。弟や妹を連れて外にいろと言われイネが遊んでいると、盥いっぱい血が出たという。しばらく寝ていれば良くなると医者は言ったが、なかなか甚次郎は起き上がれなかった。
  正月が近付いたが、医者代もかかり、借金が膨らみ小野田家は、正月の準備も出来ない。寝ている甚次郎とさくが困ったと話していると、郵便やが為替を届けに来る。借金の督促状じゃないかと怯える両親に、豊一は判こを貸してくれという。東京の駒澤民芸館というところからの封書を開けると、展示していたバスマットが評判になり、買いたいという注文が殺到し、3月1日までに100枚送ってほしいというのだ。手付け金として30円の為替が入っている。郵便為替など初めてみた一家は大喜びだ。正月を迎えられることになったのだ。

  天才子役高峰秀子が女優に生まれかわる瞬間のような作品だ。昨日観た「華岡青洲の妻」といい凄い女優だ。

  銀座で、N氏と1時間ほど打合せをして、
  京橋フィルムセンターに戻り、
  74年東京映画中村登監督『三婆(716)』
  昭和38年初夏、北沢にある武市家の屋敷、早朝に電話が鳴る。武市松子(三益愛子)起きて電話を取る「もしもし武市でございます。まあ、重助さん!!何です、こんな早く。えっ!!旦那さまが倒れた?どこで?ご不浄ですか」お手伝いの花子(小鹿ミキ)寝ぼけ眼でトイレに入ろうとしていたが騒ぎに振り返る。
  武市の妹のおタキ(田中絹代)「えっ兄さんが?北沢の家じゃなくて、あの妾のうちなの?」
  武市の遺体の前で、妾の富田駒代(木暮実千代)が泣いている。葬儀屋(細井利雄)が運び込んで来る祭壇などを押し止める瀬戸重肋(有島一郎)「こちらの奥様が、祭壇は松にと仰ったものですから…」「とにかく帰ってくれ!!」駒代に「世間の常識ってものがありますから…」「ああた、世間の常識って言っても、私は旦那さまとは、30年間お仕えして。月の半分はこちらにいらしていたんですよ。」
   社員が重助に「専務!!ご本宅の奥様がいらっしゃいました」突然君代立ち上がり?を出迎え「まあまあ奥様。この度は私が付いていながら…」「この度は、色々お世話になって、主人に変わってお礼を申し上げますわ。旦那さまは?」「こちらです。いえね、重助さんが慌てて葬儀屋さんに呼んでしまいまして…。私はご本宅でご葬儀を上げるのが、世間の常識だと、何度も申し上げたんですがね…。」唖然として、口をパクパクする重助。仏前でおタキが泣いている。「おタキさん!!」「お姉さん!お風呂に入る前に冷たいビールを飲んだのがいけなかったんですって!」「お風呂場で倒れたの?ご不浄じゃなかったの?重助さん!!」睨まれた重助肩をすぼめる。再び社員が「専務!!大変です」「あとにしなさい!!」「今事務所から電話で、社長が亡くなれば、会社は潰れるだろうから、今のうちにちゃんとしてくれと、債権者が押し掛けて大騒ぎになっているそうです」
   駒代「キミさん!!キミさん!!着替え手伝っておくれ」「喪服ですか」「喪服は通夜の時でいいわよ。奥さん、こんな時にあんないいお召し物着ていらして!!」
   武市の写真に向かって重助「社長!!ずっとお仕えして参りましたが、エラい時に亡くなりましたね。私お恨み申し上げます。あのお三方をどうしたらいいのか、見当もつきません…」
   3ヶ月後の夏。武市の屋敷、
   「本当に重助さんには、ずっとお世話になりっばなしで…」「結構なお庭でございますね。社長の唯一のご趣味でございましたから…」「もう一つありましたわ…」「はあ…」「しかし、渋谷と神楽坂と縁切り出来て、本当にスッキリしたわ。あの人が死んで1ヶ月。私1貫目も太ってしまったの。これから命の洗濯に温泉にでも行って、ゆっくりしながら、これからの自分の人生考えようと思うの」華やいでいる?に呆れながら、「私は、今日の夜行で鳥取に帰らせていただこうと思います。」「ああ娘さんがいたわね」「のんびり余生を過ごそうと思っております」

  邦画低迷期の作品だが、三益愛子、田中絹代、木暮実千代の三婆女優凄いなあ。唸るほど嫌みたっぷりの老醜を楽しんで演じているのは、気持ちがいいほどだ。ゲテモノのような大御所の怪演に、テレビドラマ風の清涼感を出しているのが小鹿ミキだ。原作は当時読んだが、50を過ぎてようやくフラットに笑えるようになった。実際の3人の晩年は三者三様のようだが、本人にとってどうだったかは、天国にいる三人にしか分らないだろう。老人がどこかに収容され集められるのでなく、こうして一緒に暮らす生活はいいなあ。人との口喧嘩も活力だろうし・・・。ただ、自分は我儘放題の三婆に仕える有島一郎的な役割しかできないだろうが(苦笑)

   その後、阿佐ヶ谷で、日本フリーランスクラブの忘年会。よく考えてみると、クラブの会費を払う訳でもなく、見本市に出展する訳でもない。よく言えば客分、まあ普通に言えば、ただ飲み会のみに参加して、人一倍飲む迷惑な奴だ。若いクリエイティブ系の人の名刺は、文字が小さくて本当に読めない。聞いた名前も、すぐ忘れてしまうので、本当に悲しい。もう一軒顔を出すつもりだったが、気がついたら家の近く。酒に溺れる初老のオヤジでしかないんだな(苦笑)

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