2010年12月19日日曜日

黒澤2本。

    京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督黒澤明

   49年新東宝/映画芸術協会黒澤明監督『野良犬(153)』
   荒い息をする野良犬の顔のアップ。その日は恐ろしく暑かった。「何!?ビストルを摺られた?」「すみません!」「コルトだったな」「弾は7発入っています」係長中島主任警部(清水元)を前に固まっている村上(三船敏郎)。
   警視庁殺人課の新人刑事の村上は、徹夜明けでとても疲れていた。ピストルの射撃訓練が終わり、同僚たちから「早く帰って今日はよく眠れよ」と声を掛けられながら、一人帰宅する。超満員のバス車中、ぴったりくっ付いた中年女の安物の香水の強烈な匂いに辟易する村上。停留所に停まり、多数の乗客が降りる。ふと背広のポケットに入れたビストルが無いことに気づき、慌てて下車する村上。一人の男が村上に気づき、走りだしたのを、追跡する。炎天下の中、走る二人の男。間は縮まってきたものの、未舗装の道路に足を取られ転倒する村上。直ぐに立ち上がったものの男を見失い肩を落とす村上。
   殺人課の場面に戻る。「自分は、どんな処分も受けます。自分は…」「自分はばっかり繰り返しやがって、ここは軍隊じゃねえ」「取り敢えず、餅は餅屋だ。掏摸担当の刑事に聞きに行け」捜査三課の市川(河村黎吉)を訪ねる村上。「顔を覚えたって言ったな。鑑識に行ってハコ師のリスト見せてもらいな」「ハコ師!?」「乗り物の中でやる奴をそう言うんだ」
   
   61年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『用心棒(154)』
   山脈(赤城山らしい)を眺める懐手の素浪人(三船敏郎)。荒野の街道を歩いている。道が分かれている。思案顔の末、路傍の枝を投げ、向いた方向に再び歩き始める。男の前に、百姓親子が喧嘩をしながら転がり出る。宿場の博打打ちたちの出入りに加わり名を挙げるんだと言う若者(夏木陽介)は、親(寄山弘)の話しに聞く耳を持たない。男「とっつあん!一杯水を貰うぞ」結局息子を止められなかった父親は、「おっかあ!何でおめえは止めねえだ」機を織りながら母親(本間文子)「今の若いもんたちは、気が違っちまっただ。」………
  「造り酒屋が糸を買い始めたらしい」「だども、絹市が立たなきゃ糸も売れやしないだぞ」「血の臭いに、腹を空かせた野良犬たちが集まってきやがった」男を冷たい目で睨む親父。
   宿場に入る男。人気のない辻。宿場女郎たちの視線。手首を加えた野良犬が通り過ぎる。番屋の番太郎の半助(沢村いき雄)が声を掛ける「金が欲しいなら、女郎屋の馬目の清兵衛か、新田の丑寅のどっちかの用心棒になるがいいぜ。必ず番太郎の半助の紹介だと言っておくんな!紹介料は一朱だ。半助の紹介だって忘れるなよ」
   男は宿場の両端を眺め、番屋の向かいにある飯屋に入る。飯屋の親父権爺(東野英治郎)「酒か?」「いや飯だ」「金は持っているのかい」「いや、これから稼ぐ」「止めとくれ。」この馬目の宿は、女郎屋の馬目の清兵衛(河津清三郎)と、その一の子分の博徒、新田の丑寅(山茶花究)が纏めていた。しかし、駄目な息子が可愛い清兵衛は、その倅与一郎(太刀川寛)に跡目を譲ろうとしたから、我慢の出来ない丑寅は反目、兇状持ちを集めて一色即発なのだ。金目当てで、食い詰めもののチンピラや浪人が野良犬のように集まってくる。更に絹問屋を営む名主多左衛門(藤原釜足)に対し、造酒屋徳右衛門(志村喬)が名主の座を狙って丑寅についた為、代理戦争でもあるのだ。どちらかの用心棒になって金を払うという男に、出て行ってくれと言う権爺。
   隣から桶を打つ音がする。死人が続出するこの宿では、隣の桶屋(渡辺篤)が棺桶作りで儲かってしょうが無いのだ。儲かるのは桶屋だけだと罵る権爺。そこに新しい助っ人を二人連れた丑寅の弟の亥之吉(加東大介)が戻って来た。少し頭は足りないが猪のように暴れたら手が付けられないと説明する権爺。亥之吉が桶屋に声を掛ける「もうかっているか」「へえ、お宅から二つ注文もらいやした」「えっ?!」声を荒げる亥之吉に「でも、清兵衛からは三つ」手の指で比べていたが、どうやら、向こうが多く死人が出ているらしいと分かって喜ぶ亥之吉。飯を食いながら、考えていた男は飯屋を出て行った。
   新田の丑寅の所に行くと、破落戸たちがぞろぞろ出て来た。大男のかんぬき(羅生門綱五郎)亀(谷晃)賽の目の六(ジェリー藤尾)熊(西村晃)瘤八(加藤武)子分(広瀬正一、西条竜介)。凄む破落戸たち。男はあっという間に賽の目の六の腕を斬り落とし、更に二人の凶状持(中谷一郎、大橋史典)を斬った。「いてえ!!!」転げまわる六。
   男は、その足で、宿場の反対側の清兵衛の女郎屋に行き、自分を雇わないかと言う。清兵衛は二階に上げ、「一両でどうだ?」と言う。首を振らない男に、結局50両を出すことになる。半金25両を差しだし、子分を紹介する清兵衛。子分四天王の孫太郎(清水元)孫吉(佐田豊)弥八(天本英世)助十(大木正司)に、馬の雲助(大友伸)、子分たち(桐野洋雄、草川直也、津田光男)。
   しかし、清兵衛の女房おりん(山田五十鈴)は、清兵衛を連れて別の部屋に行ってしまった。男が、女郎たちに静かにしているよう、口に人差し指をあて、盗み聞きしていると、おりんは、50両なんてもったいないので、丑寅一家をやったら、倅の与一郎に「男をやってしまえ」と言う。「殺すのかい?」とびびる与一郎に、「一人も百人も、獄門に上がるのは一緒だ。その位しないと、子分たちになめられる」と言い聞かすのだ。
   そしらぬ顔で、部屋に戻った男に、酒を勧める清兵衛、おりん夫婦。おりん「先生のお名前は?」「うーん、そうだな」窓の外の風景を眺め「桑畑・・・三十郎だ。いや、間もなく四十郎だがな」男はアラ40だった(笑)。そこに、もう一人の用心棒の浪人本間(藤田進)が呼ばれてくるが、屈託ありげに横を向いて座る。清兵衛「本間先生も、ご一緒に」「いや五十両のご仁と、一両二分の拙者では格が違い過ぎるでな」苦笑する桑畑(笑)。「じゃあ、今直ぐに丑寅一家に出入りしましょう」清兵衛が言いだし、子分は皆ためらうが、二人の用心棒で急襲すれば、先ほど3人斬られ怖気づいている丑寅一家は一網打尽だと言う清兵衛。
  へっぴり腰で列び、長ドスを手に手に気勢を上げる清兵衛の子分たち。おりんは、女郎たちを棒で叩きながら蔵に連れて行き、外から鍵を掛け閉じ込める。二階から外を男が眺めていると、先ほどの本間が、塀を乗り越え、逃げ出そうというところだった。男が見ていることに気がつき、笑顔で手を上げる本間。男が笑顔で応えると、走りだした。一両二分では安い命だ。男が清兵衛の子分に呼ばれ、外に出る。男の姿を見て、怖気づく丑寅一家と気勢が上がる清兵衛一家。清兵衛がふと気がついて「あれ本間先生はどうした?呼んで来い」と子分に命じると、男は「あの浪人は逃げた。昼逃げだ」悔しがる清兵衛に「俺も気が変わった。丑寅をやっつけたところで、殺されちゃかなわねえからな。ほら金は返すぜ」25両をおりんに渡し、スタスタと飯屋に入って高見の見物だ。
   
 
   
  卯之助『三ピン、いるか…。地獄の入り口で待ってるぜ』『最期まで向こう見ずのままで死んで逝きやがったぜ。オヤジ、これでここも静かになったぜ』
二人に背を向け去って行く男。

   桑畑三十郎(三船敏郎)新田の卯之助(仲代達矢)小平の女房ぬい(司葉子)用百姓小平(土屋嘉男)八州廻りの足軽(堺左千夫、千葉一郎)八州廻りの小者(大村千吉)

  やっぱり、黒澤の映画は何度見ても新鮮な発見がある。それどころか、50過ぎて、記憶が曖昧な部分がどんどん出て来て、これからは同じことでも“何度でも”発見できるから益々お得だ。老人力バンザイ!!。
   今回は、卯之助の着流しの着物の裾から見える裏地がいい。マフラーとピストルは皆指摘することだが、走る時に裾をまくると見える柄、お洒落だ。表裏どういう色の生地なのか、どこかに記録残っていないのだろうか。

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