2008年11月5日水曜日

K

  昨日朝起きると、Kの逮捕の話で持ちきりだ。10年ほど前には、時代の寵児として、あれだけ持ち上げておいて、寄ってたかって大騒ぎ。まあ、かって一世を風靡した有名人の没落は、落差が大きければ大きいほど、この景気も悪く、将来への希望なんて全く持てない日常に、お誂え向きの話題を提供してくれたということだろう。 しかし、そんな刹那的な話題で気を紛らわすよりも、もう少し真剣に考える必要のあることはもっとある筈だが。
  Kは、中学の同級生だった。その頃の自分は、人と違った何か凄い才能を持っている筈だと思いながら、それが何なのか見つからない、世の中でもっとも不幸な人間だと思っていた。そんな頃、友人と組んでいたバンドで、はっぴいえんどや、頭脳警察、はちみつぱい、岡林信康など、独りよがりな選曲で赤っ恥な演奏をしていたが、ピアノの音が欲しいと、Kに頼んで弾いてもらっていたのだ。その後、別々の高校に進学、デビューが決まったとか、だれそれのバックバンドにいるとか風の便りは聞くが、本当に何年かに一回、地元の駅で偶然顔を合せるくらいだった。
  大学を出て、音楽業界の末席に潜り込んで、毎日こき使われているころ、彼のバンドのデビューを知る。しかし、その後、彼の自叙伝に、「ぼくの中学時代は暗黒だった」という一行で片付けられているのを立ち読みして驚く。その後の成功はご存じのとおり。相変わらず音楽業界の末席のままの自分は、幸いにして、ニアミス程度で、彼に暗黒時代を思い出させるには至らなかった。
 盛者必衰の理と一言で片付けられないほど、色々なことがあるのだろう。急に寒くなった夜に、留置場にいるであろうKを考えると、中学生の時の小柄で育ちのよさそうな詰襟姿が思い出された。

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