2008年11月4日火曜日

久松静児遺作、増村保造処女作。

  午前中は赤坂でメンタルクリニック。早く終わったので、一件用事を済ませ、
  神保町シアターで、65年東京映画久松静児監督『花のお江戸の法界坊(247)』。久松監督の遺作らしい。法界寺の法界坊(フランキー堺)は、初代法界坊(榎本健一)に命じられ、江戸で鐘堂の建立の寄進を募ってくることになった。江戸の町の掃き溜め長屋で、占者の七面堂九斉(有島一郎)や辻居合い抜きの松井玄水(田崎潤)駕籠かきの権三(山田吾一)弥六(谷晃)、キン婆(菅井きん)、茶屋の娘お菊(岡田茉莉子)と元岡っ引きの佐吉で実は木鼠小僧(平幹二郎)の兄妹たちと貧しく賑やかに暮らしている。ある時、札差永楽屋の一人娘おくみ(榊ひろみ)を匿う。おくみは、家に要之助という侍(三木のり平)が待っており、ぜひ嫁にとしつこく迫るのを嫌がっていたのだ。父である永楽屋松右衛門(伴淳三郎)は、娘を探させるが見つからない。今江戸中を義賊木鼠小僧が騒がせている。要之助が伴っている浪人青山喜平治(山茶花究)は、佐吉お菊の父が残した鯉の屏風を狙っている・・・。
   岡田茉莉子の着物姿は、先日の柳生武芸帳の“りか”よりも数段いい。演技がよくなったというだけでなく、武家の娘の秘めた演技よりも、町娘のちゃきちゃきしたセリフの方があっていると思う。時代劇は合わないと思っていたが、直ぐに撤回。
   阿佐ヶ谷ラピュタ、62年松竹大船篠田正浩監督『涙を、獅子のたて髪に(248)』。水上三郎通称サブ(藤木孝)は、横浜港の港湾労働者を管理する会社の木谷哲郎(南原宏治)に可愛がられているチンピラである。サブは戦災孤児で、4歳の時に空襲から自分を守るために足が不自由になった木谷を信頼しきっている。
  ある時労働者たちは賃金のアップを求めてサボタージュする。木谷は首謀者の林(高野真二)に交渉しようと誘い出し事故死に見せかけて殺す。社長の松平(山村聡)に相談して、一応賃金は少し上げて。松平の妻玲子(岸田今日子)は、かって木谷の恋人だった。性的不能者の松平に玲子をあてがって自分の道具にしたのだ。連日、松平と玲子はパーティーやクルージングなと社交しているが、労働者たちは虐げ、搾取され、中島(永田靖)や若い加賀(早川保)たちは、何とかして組合を作ろうとしていた。
  ある時サブは山下公園で野良犬に困っていた娘と仲良くなった。彼女はレストランかもめのウェイトレスのユキ(加賀まりこ)。二人は親しくなり、サブの誕生日にユキが料理を作ってくれることになった。組合結成のリーダー中島を殴って脅せと命じられたサブだが、中島は死んでしまい、ユキの元には行けなかった。加賀は、かもめの常連で、ユキを愛していたが、ユキの気持ちはサブにある。
    木谷に言われて会社の代表として中島の葬儀に行くと、なんと中島はサキの父親だった。それ以来鬱ぎ込んでいるサブを木谷は松平邸のパーティーに連れて行く。戸惑いながらも、木谷に命じられるままロカビリーを歌うサブ。玲子は、そんな純真なサブを誘惑、更に木谷の不自由な足はサブとは無関係であることを告げる。2人の関係は木谷にバレ、目の前に現れる。玲子は、サブが自分を誘惑したのだと言い、恐怖のあまりサブは木谷を殺してしまう。
   その頃、加賀はサブの弟分のトミィ(田中晋司)を締め上げ、中島を殺したのがサブであることを白状させていた。中島から電話で真実を告げられ埠頭に走るユキ。一方サブも、ユキの姿を求めて走っていた。全てを知ったユキの前に現れるサブ。「殺すつもりはなかった。中島がユキの父親とは知らなかった。木谷が悪い人間だとは知らなかった。」と警官に連行されながら、悲痛に叫ぶサブ。海を見続けるサキ。
   篠田正浩の凄さを思い知らされる作品。モノクロの計算されスタイリッシュな映像の中に、港湾労働者達の群像が成立している。それは、埠頭を俯瞰で捉えたサボタージュする労働者たちのショットや、貨物船の荷積みの最中に、怒りに燃えた集団がトミィを吊し上げるシーン、秘密集会に、一人づつ集まってくるシーン、逆に松平邸のパーティーに集う人たちが薄っぺらな表情で空虚な会話をしているシーンとは全く対照的だ。独立した台詞のない役まで、ちゃんとした役者を使っているのは勿論だ。個人的には、加賀まりこが、横浜の街を全力疾走しているシーンと、パーティーで、藤木孝が「地獄の恋人」という曲を自分の手拍子だけで歌いきるシーンが最高だった。藤木は、ウェストサイド・ストーリーのジョージ・チャキリスを思わせる。脚本は篠田正浩、水沼一郎、寺山修司。
   57年大映東京増村保造監督『くちづけ(249)』。 大学生の宮本欣一(川口浩)は、選挙違反で捕まった父親(小沢栄太郎)の面会で拘置所にやってくると、面会室から泣きながら出てくる娘(野添ひとみ)を見かけた。父親は3度目の逮捕で虚勢を張っているが、小声で10万円の保釈金を用意してくれと言う。帰り際、差し入れの売店で手持ち金が足りなくて困っている娘に、自分の金を出して、「返さなくていいから。」と去る。娘はそう言う訳には行かないと追い掛けて来る。   
   2人意地の張り合いだったが、そのお金を競輪に掛けて、穫ったら1日遊ぼうと欣一は提案する。娘の生まれ月を賭けると大穴が来て、2人で終日過ごすことになった。娘は白川章子といい、母親が結核で長患いになり、官吏の父親が、入院費のために役所の経費を使い込んで逮捕されており、使い込み額の10万を返せば、保釈になりそうだという。入院中の母のためにも、父を保釈させたいが、10万円という金額は章子には大金である。その日は、競輪の配当金で、カレーライスを食べ、友人からバイクを借りて江ノ島に遠出する。海水浴、ローラースケートなど二人は楽しむが、章子がモデルをしている画家の道楽息子大沢がちょっかいを出してきて、欣一は殴られてしまう。結局、些細なことから江ノ島で別れて帰ることに。
 欣一は、江ノ島で3年ぶりに母親(三益愛子)に会った。父親の政治狂いに愛想をつかして出て行った母は、結構優雅な生活を送っているようだが、父親の保釈金を出すつもりはないと言う。車のナンバープレイトで、母親の住所を調べて訪れる欣一。母は驚くが、欣一自身を担保にするなら1年間10万円を欣一に貸してもいいと言って小切手をきってくれた。
 父親の弁護士のもとに行くが、既に選挙違反3回目の父親の保釈は、相当先になるだろうという。考えた末、章子に小切手を渡そうと決心する欣一。しかしその頃、章子は、大沢に貞操を捧げることで、10万円借りようとしていた。交換した住所も無くし、途方に暮れる欣一だが、苦心の末、章子のアパートにたどりつく。今しも大沢の手にかかるところであった。欣一はかなり殴られるが、最後に捨て身になった欣一を前にして、大沢は捨て台詞を吐いて逃げていく。小切手を貰う理由がないという章子、欣一は章子に口づけをして「これで理由が出来ただろ」と言う。素直になれない欣一に、章子は「何で私を愛しているから」と言えないんだと責める。欣一は、やっと章子が好きなんだと告白して口づけをするのであった。
  増村保造のデビュー作。才能の片鱗は隋所にあり、充分楽しめる映画だが、過大評価はどうかなー。野添ひとみ可愛い。でも、その後に川口浩と結婚、三益愛子は川口浩の実母、原作の川口松太郎は、大映の役員にして三益愛子の夫で、川口浩の父。「増村君。色々事情のある映画でよければ、一本撮らせてやる」ということか。まあ、どこにもよくありがちな話である。

0 件のコメント: