2008年11月23日日曜日

日活文芸映画の世界は続く。

  神保町シアターで、59年日活西村克己監督『不道徳教育講座(308)』
  山城市に文部省次官の相良文平(大坂志郎)がやってくることになった。相良は道徳教育の大家で、道徳教育モデル都市に選ばれると一千万の交付金が貰えるので、市長(松下達夫)、警察署長(天草四郎)、消防署長(高品格)、校長の朝吹(信欣三)らは大騒ぎ、市内の風俗営業は全て閉めさせて何とか誤魔化そうと大わらわだ。
   ちょうどその頃、刑務所を藤村良助(大坂志郎)が出所した。殺し以外は殆ど手掛けた稀代の悪党。大野(植村謙二郎)小島(佐野浅夫)の二人組は復讐しようと付け狙う。山城市に向かう汽車の中で、自分とそっくりな相良を見て、寝台車で寝ているところを気絶させ入れ替わる藤村。狙い通り、相良は二人組に連れられ途中下車して行く。
   寝台車で隣り合わせた人気女優大槻麗子(月丘夢路)と山城駅で降りようとすると大歓迎団が、実は相良の歓迎なのだが、大槻を見た群集は押し寄せパニックに、藤村は逃げ出す。喫茶店でコーヒーを飲んでいると、校長の娘和美(清水まゆみ)が友達と話している。そこに道徳教育反対運動のメンバーがやってくる。そのリーダーの桐野利夫(柳沢真一)は和美と付き合っていたが、校長の娘と言うことで、組合員の突き上げを食らって困っている。上着から名刺を出すと文部次官のもので、仕方なしに相良となのる。
   校長の家に宿泊することになり案内される。朝吹の妻美也子(三崎千恵子)は賛美歌を歌う敬虔なクリスチャンだが、賛美歌の楽譜の隣によろめき小説が置いてある。長男の圭一は、東京の学校を出て市の戸籍係をしている。役所のかな子という美人が気になっているが、自分は東京時代女たらしだったと言う話ばかりしている。次男の康二は、ロカビリーに飽きて推理小説にはまって、友人の作った模造銃で、誰かを殺して完全犯罪をすることに憧れている。
    警察署や学校の視察に連れ回される。生徒の前で何か訓示をと言われて、最近は道理のない犯罪者が多いので、泥棒学校や人殺し学校を作って、駄目な奴をどんどん落第させれば、犯罪者が減ると言う珍妙な話をして生徒たちからは大受けだ。夜は、校長の家で、市長、警察署長らを囲んで夕食会が行われ、藤村は大きな金庫を見つけて思わず鍵を開けて、中の金を盗みだす。その金は教科書業者からの賄賂で、朝吹メモなるリストまで入っていた。ちょうど教科書業者で贈賄がバレてクビになった田沢たちが押し掛けた。校長は金庫に受け取った金やメモなどを隠していると言う。警察署長ら立ち会いのもと金庫を開けると中は空っぽだ。藤村のつもりで、相良を攫った2人組は締め上げても要領を得ないので、山城市にやってくる。
    二人組学校の前で康二に相良との繋ぎを頼む。言われるままに、校長の家に行くと、康二は、相良の部屋を狙撃したので、2人は追い掛けられることに。藤村は、校長の妻の美也子を呼び、朝吹メモの手帳を渡して処分するよう命じて、自分は知らなかったことにするからと言う。昼間、校長の娘の和美は、自分の貞操を賭けたスピード籤を1000円で何人かに売りつけていた。怒りながらも1000円出す桐野。夜和美が待っていると、当り籤を持った藤村と外れ籤を持った桐野が現れる。桐野に当り籤を売ったつもりだった和美は驚くが、藤村は桐野と和美の中を校長夫婦に了解させる。
  狙撃事件のせいで、藤村は校長の家から大槻の山荘に移されることに。女好きの藤村には願ってもない。大槻は固いばかりだと思っていた相良の意外な一面を見て2人は結ばれる。翌朝大講演会が開かれるが、相良は見つからない。駅に行くと、ようやく脱出した本物の相良が現れる。講演会で本物の相良は、この町は素晴らしいと言う。しかし、交付金は1千万ではなく、たった10万円だ。その頃藤村は、大槻と二人きりの生活に向かっていた。
  オープニングとエンディングに原作の三島由紀夫が出演している。非常にコメディとしては良く出来た作品だが、三島は出来上がりを満足していたのか、聞いてみたい作品だ。
    59年日活西村克己監督『風のある道(309)』。
    竹島高秋(大坂志郎)と宮子(山根寿子)には、ファッションモデルの恵子(北原三枝)、華道を嗜む直子(芦川いずみ)、学生の千加子(清水まゆみ)の3姉妹がいた。長女恵子の結婚式の日、ウェディングドレスを届ける直子と千加子のタクシーが、子犬をハネた。急いでいるが、直子は犬を病院に連れて行く。直子は矢田流の跡継ぎ光介(小高雄二)という婚約者がいた。式に着ていた家元は倒れ、直子の手を握りしめた。華道の腕で後を託せるのは直子だということらしい。
   結婚式の後、矢田流の発表会がある。奇をてらった光介の作品に違和感を感じる直子。メインの作品の蝶のオブジェを知能障害の子供茂太が取ってしまう騒ぎが起きる。児童養護施設の小林(葉山良二)が茂太に、何が悪いかをキチンと教えながら謝罪する姿に直子は好感を持つ。小林が働くみどり学級を訪ねる直子。子供に誠実に向きあう小林の力になれればと思う。恵子の結婚の支度などで疲れが溜まっていた母と高原に旅行すると、何故か光介が現れた。母が教えたらしい。夜ホテルのバーで3人で飲んでいると、千加子から電話があり、小林から速達が届いているという。気になりながらも、光介とダンスを踊る直子。酔った直子に激しいダンスを強要、目の回った直子を自室に連れ込む光介。
  高秋と宮子は、小さな言い争いが絶えない。この夫婦には、何かのわだかまりがあるのだ。ある日、直子は小林を家に招いた。やはり、なぜか光介が現れる。光介が、矢田流のアメリカでの展覧会のために、直子と渡米したいと言いだすと、用事があると言って小林は帰る。千加子は、小林に気があるようで、大学で専攻している児童心理のために、手伝わせてくれないかと頼む。数日後、小林を訪ねる宮子。小林の父親のことをそれとなく触れる宮子、何か事情がありそうだ。矢田流の矢田会館が出来上がった。対外的な宣伝の場であり、海外進出など事業欲を、直子に語る光介。矢田会館オープンパーティの日、小林の父親の命日だった。宮子が墓参りに行くと、小林に会った。実は小林の父雄之助(芦田伸介)は、かって宮子の恋人だった。日本人の起源は蒙古にあるという主張の民族学者。家の経済的な事情で、満州に渡るという雄之助に付いていくことなく、竹島と結婚したのだ。そして、その選択が今でも宮子は苦しませている。
  渡米前に、婚約発表を大々的に行うことになった。記者会見の場に小林が現れ、騒ぎになる。仲人の慶子の義母(細川ちか子)に、釘を刺される宮子。小林は、園の発表会でも出し物に茂太を出演させるかで悩んでいた。園長の近藤(信欣三)からは慎重にと言われていたが、強引に出演させたところ、茂太の父で区会議員の大川源三郎(高田仲次郎)は自分の息子を曝しにものにしたと怒り、今までの援助を打ち切るか、小林を首にするかどちらかにしろと言う。近藤は小林にブラジルに渡って児童教育を続けないかという。
  光介と直子の渡米と、小林のブラジル渡航の日がやってきた。玄関で直子に父は、本当に光介でいいのか?と聞く。羽田空港に向かうタクシーで、両親と、直子と千加子と2台に分乗。羽田と横浜港の分岐点で千加子は、直子に聞く。直子は横浜行きを選ぶ。しかし、埠頭に着いたとき、既に出港していた。呆然としている直子の前に、小林が現れる。直子が現れなかったので下船してしまったのだと。
  川端康成原作。気持ちが優しくて、みなの気持ちを慮って、何も決められずに、ぐずぐず悩む直子。
芦川いずみにぴったりの役だが、あまりにはっきりしなくて、魅力はもう一つ。くりくりと動く瞳と、はっきりしたもの言いが魅力的な三女千加子役の清水まゆみがいい。『不道徳教育講座』の女子高生役も可愛かったが、こっちのほうがはるかにかっこいい。
    62年日活西村克己監督『草を刈る娘(310)』。
   津軽では、長い冬の前に、馬に食べさせる草を刈りに出掛ける。そこは、他の部落の若い男女の見合いの場でもある。そで子婆さん(望月優子)は姪のモヨ子(吉永小百合)を、隣の部落のため子婆さん(清川虹子)は、分家の息子の時造(浜田光夫)を連れてきている。モヨ子も時造も草刈りは初めてだ。モヨ子の部落の娘たちが川で野菜を洗っていると、煙草が流れてきた。誰か男がいると行ってみると、千種という白馬を洗っている時造がいた。下で飲み水を取っているので、駄目だというと謝って去って行った。娘たちは、裕次郎に似た若い男の出現に大騒ぎだ。草刈りが始まった。2人の婆は、モヨ子と時造を2人で草刈りするように命ずる。その思惑通り親しくなる2人。
    オールドミスのはま子(小園蓉子)は10万円以上貯金をしているらしい。ちょっと頭の弱い庄吉は、はま子に毎日ラブレターを渡して求愛している。去年の草刈りで夫婦になった左吾治(山田吾一)とヤス子(安田千永子)は今もラブラブだ。モヨ子の幼なじみで、東京にぶらりと出て何年も音信不通だった一郎(平田大三郎)が突然帰ってくる。モヨ子にイミテーションだが真珠のネックレスを渡す。
   モヨ子と時造の親密さは増し、千種に2人で乗る。落馬して転がった時造は思わずモヨ子にキスしようとする時造の腕に噛み付いて抵抗するモヨ子。それ以来、ふたりはどうも素直になれない。 
  お祭りがある。のど自慢の舞台に無理やり上がらせられるモヨ子。きれいに澄んだ声のモヨ子は、醤油一升瓶2本もらった。そで子婆さんが湯当たりで倒れた。時造はてきぱきと介抱する。婆を背負って、送り届ける。その帰り、モヨ子と時造が歩いていると、一郎が現れ、モヨ子に、自分が戻ってきたのは、モヨ子を嫁にするためだと言い、時造と自分のどちらを選ぶのかと聞く。困惑するモヨ子。一郎と時造は殴り合いの喧嘩に。倒れた時造に駆け寄るモヨ子。モヨ子は時造に結婚しようと言う。そで子婆と、ため子婆は、思惑通りことが進んだことを喜び、来年の草刈りに、お互い誰を連れてくるか思いを巡らすのだった。
   石坂洋次郎原作。やっぱり、顔がぱんぱんで、明るく健康な吉永小百合の魅力に尽きる。彼女の初主演映画らしい。キューポラのある街が都市の貧しい人々だとすると、田舎で暮らす人々や、故郷を離れて都会で働く人間たちは、当時やはり、この映画を見て、光を見たんだろうな。
     63年日活鈴木清順監督『悪太郎(311)』。
    大正はじめ、今野東吾(山内賢)は、素行不良で神戸の神聖学園を退学になるような問題児で、“悪太郎”と呼ばれていた。手を焼いた母親(高峰秀子)は、城之崎温泉に行くと騙して、横浜の叔父の友人で、豊岡で、中学の校長をしている近藤(芦田伸介)に預ける。豊岡中学4年の編入試験を白紙提出すれば神戸に帰れると思った東吾だが、近藤は、4年の試験が出来ないのなら3年に編入だと言う。これ以上島流しが長引くのは堪らない。慌てて答案を書いて何とか4年に編入した東吾。
   何も無い田舎町だと思っていた東吾だが、ある時、岡村医院の箱入り娘の女学生恵美子(和泉雅子)を見かける。更に彼女が買った本を本屋に聞くと、ストリンドベリの「赤い部屋」だと言う。こんなところに文学を理解する人間がいたなんて。地方の旧制中学の規則に従わない東吾の不遜な態度は直ちに上級生達に目を付けられる。恵美子との交際は、更に深いものに。恵美子の母は肺病で亡くなっており、自分も母と同じ病でなくなるのではという思いが彼女をとても引っ込み思案な性格にしていたが、東吾と付き合ううちに、元気になっていった。
   毎週日曜日、恵美子の友人の丘野芳江(田代みどり)の家の旅館で逢い引きしていたが、恵美子が京都の叔母の家にいくことになった際に、二人で京都に出かけ一線を超える。結局恵美子は叔母の家にいかないまま帰省する。しかし、このことは二人を追い詰める。一旦芳江のところに行くが、それを目撃した上級生たちが、今野を出せと芳江の母に言う。さすが旅館の女将、追い返したが、恵美子の父(佐野浅夫)が激高して現れ、連れ戻した。岡村は学校にも怒鳴り込んで厳格な処分を要求、東吾は、初めて自分の責任を感じ、校長に頭を下げた。母からの援助なしに東京に出て、文学の道に真剣に進もうと決意した。最後に恵美子のもとに行き、一緒に東京へ行こうと言うが、恵美子は頭を下げて泣いた。
   1年が経ち、東吾は昼間荷車を牽いて夜間に通っている。やはり理不尽なことに納得できず、喧嘩をして帰宅、小説を書いたまま寝てしまう。翌朝部屋の入口に芳江からの速達が来ていたことに気が付く。恵美子は肺病で亡くなったとのことだ。1年前東吾の誘いを断ったことを後悔していたが、実は自分の病気に気が付いていて足手まといになることを気にしてのことではないかと。
   やはり鈴木清順は、この時期の青春屈託ものいいなあ。東吾と恵美子が、京都の寺院でお堂の前を切りもなく往復し続けながら、二人の夢を語り合うシーンや、芸者ぽん太(九里千春)とのやり取りをする人形浄瑠璃小屋近くの橋の上が、あたかも舞台上の芝居のように見えるシーン、障子に紅葉の影がゆっくり舞い降りていくシーンなど、きめ細かい演出が素晴らしい。山内賢のぼんぼんらしい厭味のない顔が、東京に出て苦学の一年で、人相が一変しているのも唸る。ひとつだけ余計なことを言えば、和泉雅子があまりに健康的過ぎて、肺病だった母の死の影に怯える深窓の令嬢に見えないことだろうか(笑)。
  博華で餃子とビールの筈が、先日に続いて餃子売り切れ、切ないのう。

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