2008年11月28日金曜日

長門裕之と浜村純の映画、このところ何本みたのだろうか。

    池袋新文芸坐でマキノ雅弘監督生誕百年記念上映会
   40年日活京都『続清水港 清水港代参夢道中(323)』。
   劇場の演出家石田勝彦(片岡千恵蔵)は、次の公演「森の石松」の直前になっても、ホンは悪く役者は大根で、苛立って稽古を取り止める。劇場専務(志村喬)は、石松を殺さない話にしたらとか、給料分くらいは働いてくれと言い出す。照明部員(広沢虎造)は、石田の嫌いな浪曲を唸りだし、秘書の黒田文子(轟夕起子)も、ホンがダメなら2人で考えましょうと出過ぎた真似をする。怒鳴り疲れて石田は眠ってしまう。
   目が覚めると不思議な光景だ。江戸時代にいて自分はどうも森の石松になっている。秘書の文子も石松の許嫁のお文になっている。ここは清水の次郎長一家だ。次郎長(小川隆)、お蝶(常盤操子)、大政(上田吉二郎)、小政(団徳麿)は、舞台のキャストと一緒だ。突然公方様の世の中はもうすぐ終わるだの、自分は殺されるなどと言い出した石松の頭がおかしくなったと皆思っている。
   そんな時、次郎長が、静養を兼ねて、四国の金比羅様に自分の代参で詣でてくれないかと言う。清水にいるよりも気が晴れると思ったが、よく考えると四国の帰りに小松村の七五郎のところに寄って都鳥の兄弟たちに石松は殺されるのだ。一度は断ろうとすると、お文が自分が一緒に行けば運命も変わるのではないかとと言って、旅に出る2人。途中、斬りかかったきた勝沼の嘉助(香川良介)を返り討ちに。今和の際の子供芳太郎(沢村アキヲ)を預かってくれという頼みに、3人の旅に。
   無事金比羅さまへの代参も済み、伏見への舟の中で、次郎長一家を褒める浪花節語りの虎造(広沢虎造)に会う。嬉しくなって一家の子分たちの喧嘩の強さの順番を聞く。1に大政、2に小政…と挙げて貰うが、自分の名前が一向に出て来ない。意気消沈する石松。客人は、あっ大事な人を忘れていたと言って、喧嘩が一番強いのは石松だ、あいつは馬鹿だがと余計なことも思い出す。しかし、すっかりご機嫌を直して虎造と打ち解ける石松。いつの間にやら石田も石松並みにお人好しの馬鹿になっているのだ。
   虎造も含め4人で宿屋に泊まろうとしていると、小松村の七五郎がやってきて、水臭いと言う。自分が落ちぶれて貧しい暮らしだから兄弟分の杯を忘れたのかと言う。仕方なしに七五郎の家に行くが、貧しく、酒も肴も無い。女房のお民(美ち奴)に、自分たちの着物を質入れしろと言うが、工面できたのは一升にも満たない酒だ。仕方なしに水を足して出すと、金魚の水の味がする酒になった。布団も無く、褌と襦袢だけの夫婦を見て何も言えない石松。なんちゃら一家が親分の仇討ちに決闘したいとやってくる。七五郎やお文たちに黙って約束の場所に向かおうとする石松。虎造が待ち受け、助っ人は出来ないが、今作った森の石松のくだりを聞いてくれと言う。それを冥途の土産に、斬り込む石松。しかし、都鳥吉兵衛(瀬川路三郎)の騙し打ちだけ避けて、吉兵衛を斬り捨てる。七五郎とお文が石松のもとに走る、走る。
   石松はお文の名を呼びながら斬り合いをしていると、夢が覚めた。無事「森の石松」の舞台の初日が開いた。沢村アキヲとして長門裕之が子役で映画初出演。当時は、誰でも知っている森の石松が一捻りされている分、テンポよくあっという間に見れてしまったんだろうな。さすがに、森の石松は知っていても出てくるヤクザの名前が分からなくなってくると、誰でも知っている前提で端折った部分が分からない。次郎長三国志全巻見ているマキノファンの方々には全く不自由はないだろうが、今年50歳になっての次郎長デビューの私には勉強になることばかりだ(笑)。面白いなあ。轟夕起子、洋装、和装決まっていて、かっこいい女優だ。
   50年東横映画『殺陣師段平(324)』。
   大正初め、一世の名優沢田正二郎(市川右太衛門)は、新しい演劇を目指して劇団新国劇を立ち上げた。そこで頭取(役者の束ねみたいな仕事らしい)をしている市川段平(月形龍之介)は、今度の出し物が国定忠治だと聞いて張り切った。彼はかって殺陣師をやっていたのだ。しかし稽古の場でやってみせると、沢田は、そういう歌舞伎の型のような殺陣ではなく、リアリズム、写実的な殺陣をやりたいのだと言う。文字も読めない段平には、沢田が言っていることはさっばり解らない。
   張り切って出掛けたのに落ち込んで帰宅した段平に、髪結いをしている妻のお春(山田五十鈴)と住み込みの弟子おきく(月丘千秋)は優しい。8年連れ添ったお春は夫に気の置けないやり取りをするが、しっかり立てるよくできた女房だ。お春は誰とも知らない父親と亡くなった母親の間の子で身寄りがなく段平が連れてきた。なかなか沢田の意図するものが解らない段平。沢田がある時今人気の殺陣師と繋いでくれと言われた時には、従ったものの流石に落ち込んだ。かって自分が殺陣を教えた人間だったからだ。泥酔した段平はチンピラと喧嘩をする。駆け付けた沢田は柔道でチンピラをやっつける。見かねた兵庫市(杉狂児)らは、段平に殺陣を付けさせてくれと頼む。
   苦悩の末出来上がった段平の殺陣が入った国定忠治は大当たりした。連日の大入り袋で、お春も嬉しそうだ。国定忠治に続いて、月形半兵太、新撰組と次々に段平の殺陣は冴えわたる。東京進出が決まり、意気揚々と上京する筈が、どうも忠治の反応が今一で会社が殺陣をやりたがらないらしい。お春は肺病で健康が思わしくないが、段平を送り出す。沢田が一命をかけて上演することになる。湧き上がる観客たち。新国劇は日本全国で一世を風靡した。何度も京都からはお春の容態が思わしくないとの速達が届くが、段平は劇団を離れない。新しいトライアルとして沢田たちは殺陣の芝居を組まなくなっている。段平は沢田らと口論の末、劇団を飛び出す。ちょうとその時にお春が亡くなったとの電報が届いた。
   数年がたち、新国劇が京都南座で国定忠治をやることになった。段平は、その頃中風にかかっていたが、兵庫市に舞台を見たいという。天井桟敷で見ながら、もどかしげな表情の段平。帰宅するなり、兵庫市が持ってきた日本酒を飲み階段から転げ落ちる段平。兵庫市、おときに、沢田の中風の忠治は、リアリズムじゃないと言う。兵庫市に、沢田のもとに出向いて、殺陣を30円で買って貰って来いという段平。
   翌日、開演時間が迫っても段平は現れない。仕方なしに幕を開けようとした。そこにおときが駆け付けた。迷った末、沢田は観客に時間の猶予を貰う。おときの動きを見つめる沢田たち。段平が死に際につけた最後の殺陣はまさに、リアリズムに溢れたものだった。終演後舞台上でおときを囲む団員たち。殺陣の30円は、おときからの仕送りをこつこつ貯めた50円と合わせ、劇団を飛び出した時に懐に入っていた金の返金だという。沢田は、おときの父親は本当は段平だったに違いないと言う。おときの目に涙が。
   時代劇の殺陣を作った立役者のような人だったんだなあ。山田五十鈴、テンポのいい関西弁を操って、お春を好演。いいなあ。12月の神保町シアターの山田五十鈴特集。通いたくなってしまう。やばいなあ。
   京橋フィルムセンターで東京フィルメックス08で藏原惟繕監督特集~狂熱の季節~。
  59年日活『われらの時代(325)』。
   大学生の靖夫(長門裕之)は、アメリカ人の妾の頼子(渡辺美佐子)のヒモとして生活している。彼の唯一の望みは、今応募している論文が通ってフランスに留学して、日本から脱出することだ。彼は学生運動に熱中する学友たちを醒めた目で見ている。カンパを断ったために殴られていたところを八木沢(神山繁)に助けられる。八木沢の組織にオルグされるが、断った。
  靖夫の弟の滋はクラブでジャズを演奏しているが、正規のバンドの開いた時間を埋めるために出して貰っているに過ぎずクラブのマネージャー大黒(金子信雄)からは、いつも文句を言われている。滋のバンドはクラリネットの真二(山本勝)とドラムの韓国人高(小高雄二)のピアノトリオ。高は差別を受けて育ってきており、朝鮮戦争の時には米兵たちの男娼として同行していたらしい。滋は、トラックが好きで、それを手に入れて旅に出たいと思っているのだ。
   滋がクラブで歌っていた明子(吉行和子)が芸大を受験するので、靖夫にフランス語の家庭教師を頼んできた。頼子の男は、日本人を馬鹿にして、ドブ鼠と呼んでいる。頼子は、男に靖夫のことを弟だと紹介しているが、2人になると私の天使と呼ぶ。靖夫は、そのことに辟易している。
   靖夫と明子が結ばれるのは簡単だった。フランス語を喫茶店で教えていると(2人は水しか頼まないが)激しい雨が降り、傘を持たない2人は、バス停まで走ろうとするが、運動神経のない靖夫は転んでびしょ濡れになり、目の前の連れ込み旅館に入ったのだ。
   滋たちは、マネージャーに仕返しするために、高が朝鮮戦争時代に作っていたという手榴弾作りに熱中するが、マネージャーがオーナーにペコペコしている姿を見て、もっと大物を相手にしたいと考える。財界の大物の車を目標にするが、肝心の所で、真二がビビって失敗する。3人の関係にもひびが入り始める。靖夫の論文が1等に選ばれる。急に力が溢れてくるような気になる靖夫。明子が妊娠を告白した時も赤ん坊と一緒に渡仏しようと言って明子を喜ばす。また頼子の所へ行き、男を殴りつけて頼子との別れを一方的に宣言する。
   八木沢が、アルジェリア独立運動の活動家であるアラブ人を連れてくる。彼は、フランス軍に家族を殺されている。靖男は、自分のフランス行きに差障りがあるので、支援を断るが、アラブ人は握手を求めてくる。拒否しながらも、最後には曖昧に握手に応じる靖男。
   秋子のもとへ行く。夢を語る靖男を前に秋子の表情は固い。妊娠が分かった時に、念のため胸のレントゲンを撮ったら、重度の肺結核に罹っていたことがわかり、中絶しなければ命の保証はないらしい。翌朝ゆっくり考えようと言って、睡眠薬を飲んで寝る二人。靖男が苦しくなって目が覚めると、秋子がガス栓を捻って無理心中しようとしていたのだ。やっとの思いで栓を締め、窓ガラスを割る靖男。自殺を図るような日本的なつまらない女と一緒に死ぬのは嫌だと秋子をなじる靖男。
   高は、朝鮮戦争時代に付き合っていた米兵に再会する。彼は密輸入で作った大金を持っており、高にアメリカに来ないかという。これで日本から脱出できると喜ぶ高。しかし高が友人にトラックを買ってあげる金をくれと言ったら、米人の態度は一変する。東洋人は金に汚いと言いだして、高を民族的に卑しめる。激怒した高は米人を殺す。
   金を持った高はクラブに戻って、滋に一緒に逃げようと言って、真二と争いになる。残った手榴弾で、どちらが卑怯かを証明しようということになった。火をつけた手榴弾を間に挟んで先に逃げだした方が、卑怯だというのだ。しかし、その勝負は、二人を爆死させる。靖男を頼ってくる滋。靖男とアラブ人は、アラブ人の宿舎に連れて行く。しかし、滋が寝ている間に、クラブに隠してきた現金が滋の立場を危うくすると考えた二人は急いでクラブに向かう。しかし、目が覚めた滋は、兄とアラブ人が自分を警察に売ろうとしていると思いこむ。彼は、クラブの事務の女の子に隠したお金を持って、ここに助けにきてくれと電話をする。しかし、そのことは更に混乱をさせた。爆弾を持ったアラブ人に滋が監禁されていると警官に訴えたため、パトカーが殺到し、パニックになった滋は、ビルから転落死し、走ってきたトラックの下敷きに。警察でことの経緯を説明し、容疑は晴れて取調室を出る靖男。そこに、大学の関係者とフランス大使館の人間が待っていた。アルジェリアの独立運動家との関係を聞かれる。靖男は、運動を支持すると言って、フランス留学を自ら放棄した。警察には頼子が迎えにきていたが、靖男は拒絶する。また八木沢も、組織に来いという。全く興味がないという靖男を殴る八木沢。八木沢に、君の運動もバイクと同じだと言う靖男。鉄道自殺をしようとするが、その勇気もない靖男。
   自分も15歳くらいから20代は、閉塞感で窒息しそうだった。しかし、本当は、周りの問題というより、自分自身の問題だ。回りを圧倒するほど凄い人間でありたいという願望に自分が到達できないのだと思い知らされる日々への逆恨みだ。悔しいなあ。   
60年日活『ある脅迫(326)』直江津の町にサングラスを掛け、見るからに怪しい男熊谷(草壁幸四郎)が降り立つ。彼は新潟銀行の直江津支店に行き、営業時間外に、通用口から入って用務員(浜村純)を驚かす。次長に用があると言う。
   次長滝田恭介(金子信雄)が本店に栄転するので、送別会が開かれているのだ。芸者も上げた宴会は盛り上がっていた。主賓の滝田は頭取の娘婿であり、本社転勤は役員昇進が約束されたもので、支店長も、露骨におべっかを使っている。滝田と子供の頃からの友人の庶務係の中池又吉(西村晃)は、お燗番をしている。支店長に呼ばれ滝田の本に行くが、如才ない対応とはかけ離れた中池。滝田が大学を出て頭取の娘久美子(小薗蓉子)と結婚したが、中池は地元の中学を出て、かって交際していた久美子を取られたのだ。また、芸者として宴会に出席していた中池の妹の梅葉(白木マリ)は、滝田の愛人で、兄の不甲斐なさをなじる。
   熊木は滝田を脅迫する。かっての不正融資の証拠を握っており、300万を用意しろと言う。灯台下暗しなので、支店長が自分の銀行を襲うことはないと、依りによってピストルを渡して銀行強盗を示唆するのだ。
   悩んだあげく、滝田は決行する。当夜の宿直が中池だと知って、二人で飲んで酔いつぶす。用務員を縛ったところで中池と会う。中池にピストルを突きつけ、金庫を開けさせる。300万を盗んだところで、中池に名乗って、あくまでも防犯訓練だと言う。その後熊木との待ち合わせ場所に行き、1週間待ってくれというが拒否される。しかし、揉み合っているうちに熊木は崖から転落死する。滝田の憂鬱の種は、全てなくなった。
   翌朝、支店の朝礼で、得意げに、防犯訓練としての銀行強盗を語る滝田。当日当直だった中池は、全行員から嘲笑を受ける。滝田のもとに、中池がやってきて、熊木という来客があると告げる・・・。
   プログラムピクチャーとして、2本立て用に作られた70分程度の中編だが。素晴らしい。どんでん返し続きのストーリーもそうだが、滝田の不安感や、支店内の人間関係を、テンポを落とさないまま、深く描写する。うまいなあ蔵原監督。

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