京橋フィルムセンターで東京フィルメックス08 蔵原惟繕監督特集。
60年日活『狂熱の季節(321)』。アキラ(川地民夫)ユキ(千代侑子)マサル(郷栄治)の3人は、渋谷のジャズ喫茶で外人客から財布を盗もうとしたところをカップルに通報され少年鑑別所送りになった。出所した2人は、車を盗み、売春しようとしていたユキを連れて海に出かける。そこで、自分たちをブタ箱に入れたカップルを見つけた。男をハネて女を攫い、アキラは砂浜で女を犯した。しばらくしてジャズ喫茶に行くと、女がいた。女は文子(松本典子)といい抽象画家である。文子はアキラの子を妊娠したという。また、婚約者の柏木(長門裕之)は、全く何事もなかったように週末連絡をしてデートをするが、そのことに文子は耐えられない。
電車が通る度に潰れそうに揺れる線路脇のボロアパートに3人は暮らしている。マサルは関東組に入るという。アキラは刹那的に衝動に任せた生活を送っている。文子の個展に行き、観客をからかったり、脅したりするアキラ。また文子の家に行くと彼女の芸術仲間がいた。スノッブな連中を煙に巻くアキラ。再びアキラとユキの前に現れる文子。紳士的で聖人君子の柏木を自分と同じように貶めてくれと頼む。そうしないと元の対等な2人に戻れないと。ユキは電車の中で柏木を誘惑し寝る。待っていた文子に聖人君子でも何でもない。売春なんて仕事は父親がムショに入っていなければ、誰がやるもんかと言う。
柏木と文子のデートの場にやってきて、高級レストランで下品極まりない食べ方をするアキラ。柏木は、社に戻らなければいけないと言って、文子を置いて逃げ去る。ユキが柏木の子を妊娠した。マサルはどっちの子でも生んで結婚しようという。よろこぶユキ。ジャズ喫茶でユキに寝てくれとギル(チコ・ローランド)が迫ったが、ユキは黒人は嫌だと言う。アキラはジャズを作ったのは黒人で、白人は盗んだ。日本人は物まねしているだけだから最低だという。ジャズに浸っているアキラ、ユキ、ギルの前に文子が現れる。彼女の話に耳を傾けないアキラに、文子はいきなりレコードを止める。ジャズの音が途絶えると、空気が無くなったかのように、文子に飛びかかろうとするアキラ。ギルが押し止める。2人で海に行く。笑いながら泳ぎ続ける2人。
数日後、アキラは文子の家にガラスを割って侵入し、隣家の鶏を締めて羽を毟って丸焼きにして食べる。満腹で寝ているところに、柏木と文子が帰宅する。2人はようやく元の関係に戻ったようだ。文子がガスストーブの栓を開け、酔ったアキラがガス事故で死んだように見せかけて殺してしまおうと提案する。しかし、アキラが寝返りを打つとレコードが鳴りだして、失敗した。
対抗勢力の親分を殺しに行ってマサルは死ぬ。3日間泣き通してから、ユキは中絶をしにアキラを連れて産院に行く。待合室には、柏木と文子の姿が。あんたたちも堕ろしに来たんだと言うユキ。ふとアキラはユキと文子を入れ替え、文子の子の父親はアキラ、ユキの子供の父親は柏木だと言って笑い出す。
フィルメックスなので、外国人の観客も。終演時に拍手が起きる。確かに、全編流れるジャズと相まって動きのあるカメラ、スピード感あるし、溢れ出る若者の衝動と無軌道な行動をスタイリッシュに描く、日本発のヌーベルバーグとして誇るべき作品なんだろうな。しかし、ちょっと新聞記者の柏木と抽象画家文子は、少し分かり易すぎるというか、なんとも理屈っぽさが典型的過ぎるというか。まあ、スピード感を優先させるために、説明的な演出を排して、単純なキャラクター付けしたのだろう。それこそがヌーベルバーグなんだろうが、ちょっと物足りないと思ってしまう50歳の餓鬼であった。
59年日活『第三の死角(322)』東邦造船に久保会長(東野栄二郎)がやって来た。会社側の一方的な人員整理の通告に反対する組合員たちが抗議を始めたところを芳川(長門裕之)が間に入って組合員を排除する。そのことは、会長始め役員たちに評価される。一方経理課長木村は会社近くの喫茶店で、加治(葉山良二)に極秘の会計資料と引き換えに金を受け取っていた。木村は、その後交通事故死を装って殺される。加治が資料を届けた先は彼がマネージャーを務めるクラブのオーナー青山(森雅之)。彼らは東洋造船の乗っ取りを仕掛けていた。また、東邦造船は、造船局の認可を受ける前にタンカーの建造を始めていたことがバレて作業がストップし多大の損害を被っていた。そのことは造船不況と相まって株価を下げていたのだ。造船局宮地課長(山田蝉二)も、規則を盾に認可を渋っている。それも設計課長杉山(浜村純)から情報を買い、造船課長に圧力をかけている青山たちの仕業である。
芳川は調査部の係長に昇進、専務(小泉郁之助)と牧調査部長(芦田伸介)から、会長の娘秋子(稲垣美穂子)との見合いの話を持ち込まれるに至る。しかし芳川には社内で恋愛関係にあるかず子(渡辺美佐子)がいる。加治は秋子に近づく。本来は娘の名義株の取得だったが、久保の娘として生きて来た秋子と、典型的な会社員で、会社の為に自殺した父親を持つ不幸な2人には、通い合うものがあり、次第に惹かれあう二人。芳川は、木村の死を調べるうちに、加治の近くにいる小泉(深江章喜)というボクサー崩れの男の存在が明らかになる。小泉を追ううちに、芳川は加治に出会う。二人は大学時代の親友で、4年ぶりの再会だった。数日後、加治と秋子が会っているところに出会い3人で飲む。久保を尊敬しているという芳川。
粘り強く調べていくうちに、芳川は、杉山と小泉の接触を見つけて、杉山に迫る。その結果、真相を知り、宮地を脅して、タンカー建造の認可を受けることに成功した。面子を潰され、文句を言う監査課長の嶋(河野弘)に、当然のことをしただけだと冷たくいう芳川。社内の人間は、会社人間の芳川に対して厳しい目を向けている。もっと大切なものがあるのではというかず子、彼女から芳川の子を妊娠したという話を聞いて、すぐに中絶しろという芳川。やはり交通事故で亡くなる杉山。また、かず子が自殺し、更に社内的に苦しい立場に追い込まれる芳川。牧から秋子との見合いの話も白紙になり、株主総会が最後のチャンスだと言われる。
秋子が、自分名義の株券と委任状を持って、加治のもとにやってきた。久保の家を出ると言う。二人で新しい生活をやりなおそうと言う秋子。自分と秋子の住む世界は違い過ぎるのだと言って、秋子を残して出ていく加治。
株主総会が始まった。無事進行するかと思ったところで、加治が挙手、裏帳簿の写しを提示しながら、政治家への献金などこの予算報告は信頼できず、60%の株主として経営陣の退陣を要求する。その頃、久保の自宅を青山が訪れる。株主総会の紛糾を電話で聞いた久保は、流会にしろと言いつつ、青山の提案した裏取引を飲む。会社の屋上で、芳川と加治が話し合っている。下を歩く会社員たちを軽蔑していたが、自分も一緒なんだ。かづ子が言い残したもっと大切なものという言葉が耳をついて離れないと言って、非常階段から飛び降りる芳川。
青山のもとに戻った加治は、この世界と縁を切って、まっとうな人間になるという。引き留めようとした青山だったが、加治の意志が固いのを知って、秋子名義の株券分のお金をもらいたいと言う話を了承する。部屋で小切手を切ろうとして、インクをこぼす青山。インクを持って来いと電話に、やってきたのは、サイレンサー付きのピストルを持った小泉だった。早く始末しろと小泉に言って部屋を出る青山。小泉の銃が火を噴き、加治の右胸を貫くが、反撃する加治。揉み合いの末、小泉を射殺する加治。銃を持ったまま、クラブの店内に行き青山も倒す。意識が薄れる中で、残る力を振り絞って、加治は自分の部屋に電話をした。ちょうど加治の部屋を出ようとしていた秋子が、受話器を取る。加治は、最期に秋子に愛していると伝えたかった。秋子の自分を呼ぶ声を電話越しに聞きながら、加治は倒れた。
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