2008年10月23日木曜日

加藤泰、鈴木清順。日本には何人凄い映画監督がいたんだろう。

   池袋新文芸坐で加藤泰監督特集。新しくなってから初めて。学生時代には随分通った。椅子や設備が凄くよくなっていて、昔オールナイトでは、狭くスプリングが弱り気味の椅子で朝には身体中バリバリになっていたのが、懐かしく思い出される。今より40Kg近く痩せていても駄目だったから現在は10分持たないだろう。
   61年東映京都『怪談 お岩の亡霊(212)』。勿論原作は鶴屋南北の『東海道四谷怪談』で加藤泰自身の脚本。民谷伊右ヱ門(若山富三郎)は、外道の御家人。辻斬りをしたことで妻お岩(藤代佳子)に実家に逃げられている。お岩の父は次女のお袖(桜町弘子)を年季奉公に出して金を貰うが、本当は女郎にさせられる。お袖の恋人与茂七(沢村訥弁)が、友人の助けで女郎屋まで追い掛け2人は結ばれる。与茂七が参勤交代で藩に戻って親の許しを得て江戸に戻る一年間辛抱することを誓い合う。民谷の悪仲間の直助(近衛十四郎)はお袖に惚れ、民谷と図り、お岩の父と与茂七を殺し、その敵討ちを理由にお岩と復縁し、お袖に近付くことに成功した。お岩を取り戻した民谷だったが、金もないことでお役に付くこともできず、生活は再び荒れ始める。そんな民谷を薬種問屋の娘が街で見初め、親バカな薬種問屋は民谷に妻子がいることを承知の上縁談を持ち込む。民谷はお岩が邪魔になった。そこに、薬種問屋は策略を持ってお岩に顔が醜く崩れ落ちる毒薬を飲ませるのだった。そこからはご存知の通り。最後のお袖が与茂七と直助の助太刀で父と姉の敵を討つ殺陣シーンなど見所多数。
    64年東映京都『幕末残酷物語(213)』(ネタバレでし)甲州の若い郷士、江波三郎(大川橋蔵)が新撰組の入隊試験を受けるが、木刀での勝負で三人破ったら、仮入隊というもので、死人続出で、度胸のない江波は立ち合うことも出来なかった。ただ、門を出た所で隊士たちにからかわれて、腹立ち紛れに腹を切ったことで気に入られ、入隊を許される。気を失っていた江波を看病したのは、宿舎の下働きの美しい百姓の娘のさと(藤純子)だった。脱走者や隊則を破ったものへの処分は切腹または斬首という過酷なものだった。江波は斬首役を志願することで近藤局長(中村竹弥)山南副局長(大友柳太郎)土方副局長(西村晃)らの信頼は厚くなって行った。沖田総司(河原崎長一郎)は、肺病だけでなく、芹沢鴨を勢力闘争の為に騙し打ちにしたことなど近藤らに屈託がある。政情はとても不安定であり、また近藤、土方と、山南との路線対立もおき、隊内に動揺は広がっている。脱退しようとした山南他隊士は次々と斬殺されていく。そんな中、さとは変わっていく江波を心配しているが、薩長との戦の前夜に二人は結ばれる。いよいよ夜が明け、本懐を果たし無事帰還した時には一緒になろうと江波がさとと別れを惜しんでいると、局長に呼ばれる。実は、江波は芹沢鴨の甥で、復讐のため、倒幕派の間者として潜入していたことが露見したのだ。近藤、土方たち新選組幹部を前に、近藤体制の非人間性を非難し、隊士たちと壮絶な戦いを行う。最後に沖田によって斬られ、さとに看取られ命を落とすのだ。やはり殺陣の素晴らしさは言うまでもないが、ローアングルだけでなく、自由自在なカメラアングル。江波が隊員たちと斬り合うシーンは本当に凄い。藤純子の初々しさは格別。
  阿佐ヶ谷ラピュタで、65年日活鈴木清順監督『春婦傳(214)』。やはり清順の傑作の一つといってもいい。美術の木村威夫さんも素晴らしい。セット、ロケ、広い大地が広がり、砂でじゃりじゃりする満州を見事に表現している。勿論清順木村コンビの非現実感いっぱいのセットも。天津で裏切った男を傷つけて満州の奥地に流されてきた娼婦はるみ(野川由美子)。千人以上の日本陸軍を13人の慰安婦が相手をする非人間的な場所である。部隊の副官に酷い扱いを受け、ハルミは当てつけに部下の当番兵三上(川地民夫)を誘惑する。次第に三上の純粋さにハルミは心引かれていく。八路軍との戦闘は激しさを増し、三上は前線で怪我をし失神しているところを、戦火をくぐって探しに来たハルミと共に八路軍の捕虜になる。三上は、日本軍人として捕虜になることをよしとせず、戻れば軍法会議にかけられ死刑になることを分かっていても、軍隊に帰っていくのだ。女の側から見た日本陸軍の実情。従軍慰安所の問題は、郷愁を持って語ることは許されないし、現実に、日本の軍隊の組織の一部であることは明確で、どう取り繕っても日本の恥だ。野川由美子は、エネルギーに満ち女としての気持ちのまま行動するハルミを演じきっている。素晴らしい女優!朝鮮人慰安婦が、「日本人はすぐ死んで卑怯だ。生き続けることの方が勇気がいる。絶対死んでは駄目だ。」と吐き捨てるように言うエンディング。ストレートで好き嫌い別れるかもしれないが、ハルミらおんなたちの生き方を見ていると、むしろ強く残った。

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