2010年2月7日日曜日

藤村志保さんに惚れました。

   朝早く目が覚め、洗濯をし干してから、

   京橋フィルムセンターで、アンコール特集:1995-2004年度の上映作品よ
   53年大映東京豊田四郎監督『(44)』
   不忍弁天…谷中王子…湯島天神…上野ヨリ市中望ム…上野東照宮…不忍弁天…(絵葉書のようだ)
   下谷練塀町の裏店、貧しい長屋、おさん(飯田蝶子)が、飴細工をしながら気乗りしない表情のお玉(高峰秀子)に「こんないい話しは、ないよ。確かにお妾だっていやそうだけど、旦那の奥様は、とうに亡くなっているし、直ぐに家に入るのは何かと周りが煩いからと言うだけさ。浜町あたりに立派な呉服屋さんをやってなさるたいした旦那だよ。お玉ちゃんだって前の失敗があるからね、私は済まない気持ちもあって、お玉ちゃんには何とか幸せになって欲しいんだよ。それに何だよ、女は一度傷物になっちまうと、身体にひびの入ったみたいなもんだ。今更夢見たいなこと考えてはいられやしないんだよ。それにおとっつあんだって、いつまでも飴屋なんとやっていられやしないんだよ、一軒家持たして、おとっつあんの面倒を看てくれるって言うんだ…。おとっつあんもいい年だ、親孝行をしておくもんだ。万事あたしに任せておきなよ」「おばさん…」「お玉ちゃん何も泣くこた無いだろ、あたしがいいようにしてやるよ。何なら一度会うだけでもいいじゃないか。池之端の松見屋あたりで、ご馳走でも
食べるだけでもいいじゃないか。いいね、私が上手く段取ってやるから安心おしよ…。そうそう忘れていた。最近は質屋も渋くてね。四十…五銭と…。二銭は、あたしが貰っていくよ。ものには、決まりってものがあるからね」
    おさんが、高利貸しの末造(東野英治郎)のところにやって来て、手招きをする。「あたしがうまく纏めてやったよ。浜町あたりで立派な呉服屋をやってるって言ったから…」「おいおい大丈夫かい」「奥さんはとうに亡くなって…」その時、末造の妻のお常(浦辺粂子)に気がついて、「とうにお返ししている…。じゃあよろしく頼みますよ。あたしの借金棒引きする約束」「上手く行ってからだ」お常「何だい?」「借金を返せない言い訳さ。おめえも、たまには髪に櫛でもいれねえか」「おしげさんのこと何とかしてやれないのかい?女一人で子供五人抱えて、呉服の担ぎ商いして」「五月蝿せえ!商売のことに口出すんじゃねえ」「でも可哀想じゃないか、反物置いて行くって…」「ありゃ、呉服屋から預かっているだけじゃねえか…」所帯やつれし、恨めしそうな顔のおしげ、一本の反物を差し出し「利息代わりに受け取って下さい…」
   帰って来た父の善吉(田中栄三)とお玉が話している「それならば、会うだけ会ってみるか…。今度は子供はいるが、おかみさんは、とうに亡くなっているんなら…。この間みたいに、子供を連れた奥さんが乗り込んでくるなんて、本当に、お前にはすまないと思っているんだ。そうか…ひびの入った身体か…。あの時、お前が井戸に飛び込もうとしたのを見てワシは本当に死にたかった…」痩せた父親の肩と背中に、膏薬を貼るお玉。
   池之端の松見屋、末造がやって来る。待ち構えていたおさんが「旦那遅いじゃないですか、お玉は、女のあたしが見ても、脂が乗って、むしゃぶりつきたくなりますよ。あれ旦那こっちですよ」「ちょっと後から行くよ」
2階の座敷では帝大生たちが、酔って高歌している。「御免下さいまし。石原さん」高利貸しの末造の顔を見て、身の覚えがある連中は、嫌な顔だ。三原(宇野重吉)の隣で飲んでいた岡田(芥川比佐志)は、座敷から中庭に逃げ出した。
   末造は、石原の横に腰を下ろし懐から借用書を出し「先だってご用立てしたお金の期限はとうに過ぎておりやす」「まあ、一杯どうだ」「結構でございます」中庭で飲んでいた岡田と三原を「帰ったよ」と声を掛ける。離れにいたお玉は、庭の岡田と目が合うが、恥ずかしそうに障子を閉める。そこに末造がやってくる。善吉に酒を注ぐ末造。
   棚板を持った末造が無縁坂を上がってくる。家の前で女中のおうめが掃き掃除をしている。「お玉を呼んどくれ」「あい。おかみさん!旦那さんがいらっしゃいました」台所で、末造の酒の肴の支度をしていたお玉。棚板を設え「こんな棚一つ大工に頼めば半日分の工賃を取られちまうんだ」と金槌で釘を打つ末造。

   高峰秀子の女優としての凄さと、大映の美術の凄さを思い知らされる映画だ。

   学校で体験入学の講師。二人の予定だったが、北関東の男子一人に、しかし、なかなか賢い子で、楽しい。つい喋りすぎて喉が嗄れる。

   京橋フィルムセンターに戻り、
   67年大映京都三隅研次監督『なみだ川(45)』
   おたふくの面…。
   嘉永年間、日本橋長谷川町、飾り職人の新七親方の家を、島崎の親方の下で働く貞二郎(細川俊之)が訪ねて来た。二階からは長唄が聞こえている。お鷹(若柳菊)「あら。貞二郎さん」「親方は?」「また神経痛」「彫金の仕事に神経痛は大変だな。あんたも大変だな」「姉は長唄の師匠、妹は仕立物」「姉さん!仕立物上がったよ」それを聞いて浴衣姿の姉の志津(藤村志保)が現れるが、定次郎がいることに気がつき、浴衣姿を恥ずかしがって、慌てて階段を駆け上がるが、大きな音を立て、階段を転げ落ちたようだ。暫くして着物に着替えて現れるが、脚を引き摺っている志津。「着飾っても、こんなんじゃ駄目ね」「すごい打ち掛けだな」「大身の大店の祝言だって…」
    志津「着てみようかしら」打ち掛けを羽織り、ウットリとする志津。そこに新七(藤原釜足)が帰ってくる。「貞二郎、何か用かい?」「うちの親方が、長谷川町の得意の図柄だからと言うんです」「仕事をやろうと言う親心か…。やってやれねえことは無いが、拙い仕事はやりたかねえんだよ」「おとっつぁん!」「職人なら誰しも同じよ。じゃあ、また参ります」と貞二郎が帰って行く。志津「馬の耳に虻ね」「それを言うなら念仏よ。それにこういう時に使う言葉じゃないわよ」志津はそわそわし、「私もお花のお稽古に行こうかしら」「貞二郎さんと一緒に行けばいいじゃないの」と笑いながらお鷹。しかし、追いついた志津が声を掛けると「あっしは、他に用がありやすんで…」とつれない貞二郎。見送り溜め息をつく志津。
    薬研坂の花の師匠おてつ(橘公子)が夫の市兵衛(春本泰男)に「あなた、おみなえしを下さいね。」そして志津の方に向き直って「あんたが来るのを待ってたんだよ。縁談の話しなんだよ」顔を赤くして「あらぁ、私は駄目よ」「済まないが、妹のお鷹ちゃんなんだよ。あんたたちもよく知っている信濃屋の若旦那の友吉さんだよ。」「友吉っつぁんなら、お鷹も好きだわ」「でも、友ちゃんのおっかさんが、お鷹さんに言ったら断られたと言うじゃないか。姉のあんたが嫁いでないので、気を使っているんじゃないのかい」「そんなこと・・・。私はお鷹に幸せになってもらえれば・・・」
    その頃、仕立を頼んでいた打ち掛けを取りに来た友吉(塩崎純男)に、「どうして夫婦になってくれないんだい。訳を言っておくれよ」「今は言えないわ。時期が来たら必ず言うから…」友吉が釈然としない顔で帰って行くと、姉妹の兄の栄二(戸浦六宏)がやってきた。「おとっつぁんいるかい?」お鷹「いないわよ。上がらないで頂戴!!何しに来たの?」「したや(?)に行ったら、二年も前に引っ越したっていうじゃねえか。やっと探して来たのよ」「お尋ね者の兄さんのお陰であたしたちはどんだけ苦労したっていうのよ」「そりゃおめえ!ちゃんと刑を務めて、江戸所払いの間、大坂に行ってようやく明けて戻って来たのよ」「兄さんは、禁書の国学の本を持っていただけだっていうかもしれないけど。あたしたちは!!」涙ぐむお鷹「帰って頂戴!姉さんには絶対会わないで頂戴!!」取り付く島もないお鷹に、諦めて「また来るぜ!!」と去る栄二。
   栄二は、お志津に声を掛ける。「お志津!!」「兄さん!」「久し振りだな」「江戸にいるの?」「うん、まあ。飯でも奢るぜ」鰻屋に上がり「10両ばかり都合付けてくれよ!」「えっ!そんな大金。あたしたちにお金なんかないわ。おとっつぁんは、神経痛で働けないので、あたしの長唄とおたかの仕立てでやっと食べているのよ」「でも、おめえなら、何とか都合つけてくれるだろ」思い詰めた表情のお志津「・・・・分ったわ。ただ、その10両で二度と私たちの前には現れないと約束してくれる?親子、兄弟の縁を切ってちょうだい!!ちゃんと証文を書いてくれる?」「わかったよ。じゃあ明後日、本所大井の?屋に忠吉って名で泊っているから、そこに来てくれ。まあ、せっかくの鰻を食いな」
   帰宅した志津は、お鷹に「薬研坂のお師匠さんから、聞いたわよ。稲荷町相模屋のおかみさんに、友吉さんとの縁談を断ったって・・・。あたしのこと気にしなくていいのよ。あんたが好き合った友吉さんと幸せになってくれたら、姉さん、どんなに嬉しいか」涙を流し「栄二兄さんのことがあるじゃないの・・・。いつ戻って来るか。姉さん会った?」「会っていないわよ。」
   翌日、志津は鶴村屋の大旦那の宇吉(安部徹)に長唄の出稽古をしていた。「では、今日はここまでにしましょう・・・。ねえ甘えていいかしら」「何でえ、水臭えぜ」「おとっつぁんは、もう仕事が出来ないし、妹のお鷹を嫁がせたくても仕度のお金がないの。十両ばかり貸して貰えませんか」「おれは、いつでも面倒みてやるぜ。一軒建てて、親父さん共々世話してやるぜ」「そんなことしてもらったら、あたしばっかり得して悪いわ」「おめえ、世話になるって・・・」「お妾になれっていうの?」「俺は、十両ぽっちで恩を着せるつもりはねえぜ。ただ、本心からおめえさんに惚れているのよ」「・・・分りました。ただ、そのお話は、お鷹の祝言が済んでからでいいですか」「勿論よ」「これは頼まれていた島崎の貞次郎の鏡だぜ。嬉しい」「おめえさんは貞次郎に惚れてるんだね。まあいい。十両だ。約束したぜ」
   本所に出向き、栄二に会うお志津。「ありがとうよ」「待って!約束通り一筆書いて頂戴」「わかったよ。私栄二は、新七一家とは縁もなき候、二度と現れないで候・・・。天地神明に誓って・・・」「不動明王に懸けてとしてくれる?」「お安い御用だ。不動明王に懸けて・・と。栄二。これでいいか」「いいわ」「ありがとうよ」栄二の誓書を大事そうに仕舞うお志津。
   花の師匠おてつと、信濃屋の大旦那の弥助(花布辰男)お絹(町田博子)夫婦を訪ねているお志津。「そういうことかい。そういう兄さんがいたのかい」おてつ「包み隠さずお話したほうがというお志津さんと参りました」「よく言ってくれた。しかし、そんな兄さんが、これらちゃ、私たちも・・・」「それは、大丈夫です。今後は一切現れないという誓書があります」とお志津が出した誓書を読んで「あんたは、妹のためにそこまで・・・」涙を流すおてつとお絹。「そういうことなら、私たちはお鷹さんを嫁に迎えますよ。仕度のことなどは一切心配しなくていい。式は11月には挙げたいね」「友吉や!!」「何だい?おっかさん」「あんたの縁談が決まったよ」「えっ?お鷹が了解してくれたのかい?」「どうなんだい・・・?」「それはまだ・・・」「お鷹は一度こうと決めたら・・駄目じゃないのかい?」「そうだよ、お鷹は大丈夫かい?」少し考えていたお志津。「名案があります。目黒のお不動さんに二人で出掛けて、必ず承諾させてみます」志津を信用できない友吉。
   江戸の外れ、目黒の不動尊


茶店の老爺(寺島雄作)茶店の老婆(本間久子)島崎来助(水原浩一)島崎の内弟子(美山晋八)あさり売り(木村玄)刀屋の番頭(玉川良一)富山の薬売り(越川一)若い衆(黒木現) お由(香山恵子) 


   素晴らしい!!溜息が出る。素晴らしい脚本、素晴らしい監督、素晴らしい役者。市川雷蔵の相手役での彼女は、少し物足りない気がしていたが、志津役は最高だ。なんて美しく、健気でかわいい女性だろうか。惚れました。

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