午前中は宅急便を待ちながら、雑誌や本、新聞の整理。例によって、出て来た本を読み始めると、全く捗らない。
神保町シアターで、日本文芸散歩。
57年大映東京田中重雄監督『永すぎた春(657)』
本郷の焼け残ったT大の正門前に、古書店の雪重堂がある。主人夫婦、木田敬三(花布敬三)とむつ(滝花久子)、小説家志望の頼りない長男東一郎(船越英二)。古本屋の柱時計は、いつも遅れている。そんな家にも春は訪れる。店から、「二百円はとっても無理です」と言う声が聞こえる。妹の百子(若尾文子)だ。鹿児島弁の学生(早川雄三)は、麻雀に負けて、金を払わなければならない友人が待っているのだと言う。他の店で、180円と値段が付いているので、90円しか駄目ですと言うと、了解する学生。「しかし、噂通りの別嬪でごわすなあ」と言う。店員の春吉(伊藤直保)が、「そんなこと言ってもお嬢さんは駄目ですよ」と言う。百子は電話を取り、「分かったを、すぐ行く!春ちゃん店番頼むわね」と声を掛けて飛び出す。
図書館の前で待つ百子の前に、宝部郁雄(川口浩)が現れる。「どこから電話をしたの?」「図書館の中からさ。」「で、郁雄さん、どうだったの?」「お袋が、大変だった」
あれこれと見合い写真を出す郁雄の母(沢村貞子)。「僕は誰も嫌だよ。」「やっぱり、郁雄さんは、あの古本屋さんの娘がいいのね」「母さんだって、彼女に会って、なかなかいいお嬢さんだって言ったじゃないか」「結婚するとなると、やっぱり家柄とか、釣り合いってものがあるでしょう。」「そりゃてんで古いや。法律的に言っても、僕たちは自由に結婚が出来るんだ。」「まあ、法律的にだなんて…。法科に入れるんじゃなかったわ…。」
郁雄「まあ、それから親父が帰って来て、卒業してからなら結婚してもいいので、婚約は認めて貰えたんだ。」「まあ、卒業まで、一年以上もあるわ。それに私お母さんとうまくやって行けるかしら…」と百子。「大丈夫さ。あれでもお袋は意外とサッパリしているから、考えを変えちゃうと思うんだ。」
料理屋の個室に、郁雄と父(見明凡太郎)と母がいる。そこに、百子と両親がやってくる。婚約の席のようだが、両家の会話は全く噛み合わない。笑いを堪えられなくなった百子が部屋を出ると、郁雄も後を追う。廊下で笑い合う2人。郁雄は婚約指輪を百子に差し出す。
婚約をしたものの、郁雄が試験を終えるまで、会わないと約束していた百子は暇を持て余している。花を活けていた母のむつに、「退屈だわ。古市にでも行こうかしら」「止めておくれ。婚約中のお前が、古本市で大声を出していたことが先様に分かったら、会わせる顔がありません。」と言う。「それはそうかもしれないけれどやっぱり古市に出掛けることにするわ」
古市に百子の姿がある。法制史の本が出品され、客から頼まれていたことを思い出し、競りに参加する百子。どんどん上がって行く指し値。最後にいきなり900円に上がる。驚いて百子が振り返ると、従兄の一哉(入江洋佑)だ。「チータ!!競りは神聖なものよ。冗談はよしましょう」結局、法制史は百子が350円で競り落とした。
郁雄の家の前に、百子と一哉の姿がある。「せっかくここまで来たのに、声を掛けなくていいのかい?」「あの窓の部屋で郁雄さんが勉強をしていると思うだけで、私は満足だわ。帰りましょう。」
百子の部屋に郁雄の姿がある。百子がお茶を持って上がってくる。「郁雄さんどうしたの?試験勉強をしなければいけないんじゃないの」「君は僕の勉強の邪魔をするんだ。勉強中に窓の外を見ると、君が見せつけるように、若い男と談笑をしている。それを見てから、僕は勉強の手が着かないんだ。」「あら、あなたは嫉妬をしたのね。春さん!一哉さんとわたしの関係を話して。」百子と和也は従兄同士で、今日の一哉の服装を説明する春吉。「分かったよ。恥ずかしいな。」郁雄と百子が口付けを交わそうとすると、まだ春吉が見ている。
銀座のショウウィンドウに向かい、ベレー帽を直す百子。今日は久し振りに郁雄と、郁雄の友人で前衛画家の高倉竜二(川崎敬三)の個展を見に行く約束をしていたのだ。最近の郁雄が自分にマンネリを感じているのではないかと思った百子は、絵画の個展に合わせて、郁雄を驚かそうとベレー帽を被ってきたが、何だかしっくりこないまま30分遅れていた。高倉は郁雄に「どうも動員が少ないのは自分の才能のせいではないかと思うんだ」と愚痴を言う。「そんなことはない、僕は面白いと思うよ」と慰める郁雄に、会場にいた商業デザイナーの本城つた子(角梨枝子)が、そんな思いやりはいらないわよと声を掛けてくる。
宝部之一(見明凡太朗)浅香千鶴子(八潮悠子)浅香あき(村田知英子)きくえ(如月敏子)おはま(村田扶実子)中座(守田学)出っ歯の男(伊達正)山崎夫人(岡村文子)横山夫人(耕田久鯉子)藤田夫人(志賀暁子)今井夫人(香住佐代子)辻夫人(楠よし子)森川夫人(目黒幸子川田夫人(新宮信子))
眼鏡をかけた女の子(久保田紀子)多美子(樋口登志子)女学生(小田桐桂子花作の女中(鍵山寿子)
若尾文子と川口浩の若いカップルに、角梨枝子が誘惑するという図式はどこかで見たなあと思うと、同じ田中重雄監督の58年に、同じ大映東京で撮った『愛河』だった。川口は東大生から、早稲田を出て商社に就職した新入社員。数年後のふたりのようだが、今回は在学中に結婚してよかった、よかった。まあ、現代なら結婚式前の“本当の結婚(笑)”に悩んだり、結婚してからの、外での“本当の結婚(笑)”への罪悪感も無くなったと思うので、昨今の結婚の意味について、あまりに日本人の貞操観念の堕落に、原作を書いた三島由紀夫は草葉の陰で切歯扼腕しているかもしれない。
赤坂見附グラフィティで、実籾の歌姫のライブ。
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