2009年10月26日月曜日

生誕100周年。太宰治の容姿が、松本清張だったらと考える。

   阿佐ヶ谷ラピュタで、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第49弾】雪村いづみ
   59年東宝本多猪四郎監督『こだまは呼んでいる(608)』
  (雪村NA)ブドウで有名な甲府盆地。その西のはずれにある小さな駅(韮崎駅)。その駅前から紅葉沢、青霧峠を経て宿木村までのバスが私の担当です。運転手のナベさん・鍋山精造(池部良)は、とても怒りん坊で、怒鳴ってばかり。洗濯物を干している鍋山を笑うバスガールの三好タマ子(雪村いづみ)。買い物があると言うタマ子に、出発時刻に遅れんな!!と鍋山。この辺りのバスガールはメッセンジャー。山中の人々から街での買い物を頼まれるのだ。大荷物のタマ子が、平沢書店に入る。そこの若旦那の健一(藤木悠)は、頼まれていた本と、「妊娠から出産まで」など花嫁読本三冊を出す。「君が読むの?」「いや頼まれものですよ」「はいこれ」健一が奥を窺うようにして、週刊明星をくれる。「先週も、先先週も貰ったし、悪いわ…。」「いいんだよ」バスの営業所に戻るタマ子を店の外まで送り、手を振る健一。
  発車時刻が過ぎていて、鍋山は、「ばっか野郎!!早く来い!!」と怒っている。何とか大荷物を載せて、タマ子「発車オーライ!!」馴染みの三人組の登山客(加藤春哉、重信安宏、大村千吉)や、近在の人々で席は埋まっている。平沢書店の前を通ると、健一が手を振っている。「本屋の息子、おめえのこと好きなんじゃないか?」「そうかも知れないわね。」「ばっか野郎!!自惚れるんじゃねえ!」鍋山は、何でも「ばっか野郎!!」だ(苦笑)。
  登山客たちが、タマ子と盛上っているのを、癪に障った鍋山は、わざと荒い運転をして、席から転げ落ちさせる。紅葉沢の停留所で、半分ほどの客が降りる。近くの子供が、峠に父ちゃんの弁当を届けてくれとタマ子に手渡す。青霧峠までは難コースだ。勿論舗装もされていない、狭い山道を、タマ子はドアを開け、ステップに立って、目視しながら誘導する。青霧峠では、登山客が降りて行く。タマ子は弁当を置く。その先で、上りのバスがやってくる。ギリギリ擦れ違える場所までバックさせるタマ子。
  終点の宿木村に到着だ。集まって来た村の主婦たちに、頼まれていた買い物を配る。花嫁読本の持ち主がいない。主婦たちの後ろから、子供が私よと答える。タマ子が目を丸くすると、後ろにアヤが恥ずかしそうに立っていた。言いだし難くて、妹に受け取らせようとしたのだ。主婦たちは、アヤは、タマちゃんと学校一緒だったんでないのかいと口ぐちに言う。
  タマ子は、鍋山にお昼食べてきますと声をかけ、「良かったらナベさんも、ウチで食べませんか。どうせ、パンを齧るんでしょ。チョンガーは哀しいわね。」と言うが、鍋山は、「うるせー。ばっか野郎!!」と答える。停留所前の籠吉の爺さん(左ト全)が、「やられたのう。」
  タマ子の実家は美男製造所と看板が出ている床屋を菊三(沢村いき雄)おせん(千石規子)が開いている。村の青年団の為さん(由利徹)と勝ちゃん(南利明)が客として来ていた。「おお、タマちゃん。祭りに、京ちゃんが帰ってくるらしいよ。」「いやー、今年はワシが龍神さまをやるから、タマちゃんをパックンしてやるよ。」と勝ちゃん。龍神に頭を咬まれると、幸運が来るという言い伝えなのだ。おせんが、「厚揚げと牛蒡煮たのが戸棚に入っているよ。」ご飯をよそい、タマ子が食べ始めようとすると弟の富雄(伊東隆)が帰ってきて、厚揚げを捕って食べる。「富雄!!!お祭りの時、お小遣いあげないわよ!!」「えーっ!!じゃあ返す。」食べ掛けの厚揚げを食器に戻す富雄。「汚いわね。」タマ子は、お膳に食べ掛けを置く。
  その頃、籠吉では、コッペパンをそのまま齧っている鍋山。鍋山は、ここに下宿しているのだ。籠を編む爺さんに婆さん(飯田蝶子)が「タマちゃんも年頃になったね。19組目の縁談を纏めたいね。わたしゃ、死ぬまで30組の縁談を纏めたいだよ。」「あれ、18組だろ。馬鹿を言うでね。」「そんなことはないよ。19組目がタマちゃんで、20組目が鍋さんだ。」「おめえ、記録を見て見れ。」不機嫌そうに聞いている鍋山に、「早く所帯を持て。35歳にもなって、独りは心配だ。」と言う。「いや、兵隊に行って、その後抑留されていたからしょうがないだろ。」「あんた、カタワじゃないだろうね。」「馬鹿なこと言うなよ。」「兵隊に行っていた人はあるっていうからよ。大丈夫なんだね。安心したよ。あんた、お祭りで、龍神さまに噛んでもらうといいだ。」
  

平沢健一(藤木悠)孝子(沢村貞子)

  池尻大橋のIさんの事務所で打合せの後、飯田橋の出版社に、4コマ漫画の企画提案。
  神谷町の元会社で、百周年企画の打合せ。
  渋谷のライブハウスの社長との打合せ。
  何だか久しぶりに仕事をしている気分だなあ。

  新宿ピカデリーで、根岸吉太郎監督『ヴィヨンの妻  ~桜桃とタンポポ~ (609)』
   激しい津軽訛りで女中のキエ(小林麻子)が、「譲治さん、この円盤を回転させて、少しでも逆に回るとその人は地獄サ堕ちるっていう…」。幼少の譲治廻す。逆に戻る円盤。「いゃあ、強く回しすぎだわ」もう一度回してみるが、やはり、少し逆に回る円盤。
   昭和21年(1946年)12月、成人の大谷譲治(浅野忠信)が、何者かから必死で逃げている。大谷譲治と表札が掛かる一軒の家に走り込む。襖が開き、妻の佐知(松たか子)が顔を出す。「起きていたんですか。」「いえ、今目が覚めました。」「坊やは」「少し熱があります。」「医者に診て貰った方がいいでしょう」「医者にかかるお金が無いのです。お金をお持ちですか。」「何で?」「久しぶりにお帰りですので…。食事を召しあがっていないんでしょう。戸棚にお握りが入っています。」
   外で、  「先生!いい加減にしてください。返して下さらないと、警察に届けますよ」と女の声がする。「こんなちゃんとしたお宅があるのに、あんたはひどい人だ。泥棒だ!!」と男の声もする。「何を言うんだ。失敬な事を言うな。ここは、お前たちの来るところでは無い。帰れ! 帰らなければ、僕のほうからお前たちを訴えてやる」と息巻く大谷。
   戸を開けると、吉蔵(伊武雅刀)と巳代(室井滋)の夫婦だ。「あんたは、酷い人だ。もう警察に届けるしかない!!」何を言うんだ!!と懐から、ペーパーナイフのような刃物を振り回し、逃げていく大橋。追い掛けようとする夫婦を押し留め、大橋の妻の佐知だと名乗り、主人が大変ご迷惑をお掛けしているようで、申し訳ありませんが、ご事情をお聞かせ下さいと、家に二人を上げる佐知。
  火の気は全くなく、赤貧洗うような部屋を見渡して、おいくつですかと尋ねる?。「主人は30才で、私は4つ下です。」と聞いて、この窶れた女の年齢に驚く。二人は、中野で小料理屋椿屋をやっている。昭和19年の春、どこかでこの店は闇酒を扱っていることを聞きつけた大谷がやってきた。焼酎を飲み、百円札を出し、お釣りをと言うと、預かっておいてくれと言う。しかし、それ以降、3年間、一度も何だかんだ言って勘定を払ったことはなく今日はことあることか、巳代が仕入れ先への金を計算していたら、五千円を奪って逃走したのだと言う。やっとのことこの家を調べてやってきた夫婦に、何度も頭を下げ、翌日、自分が店までお金を持っていくので、警察に届けるのを一日待って貰った。
  翌日になっても、5千円の当てなどないまま、佐知は、息子の直治(榎本陸)を負ぶって、中野新王マーケットにある椿屋を訪ねる。佐知は苦し紛れに嘘をつく。今日中にお金が届く当てがついたが、それまで、自分が人質となって、店を手伝うと。掃き溜めに鶴のような、佐知の美しさに、椿屋の客たちは、大喜びだ。さっちゃん!さっちゃん!と呼んで、酒をお代わりし、彼女を目当てに長居をし、彼女にチップを渡す。武蔵小金井の家で、子供を育て、夫を待つだけの生活だった佐知は、喜びをかみしめる。
   そこに、クリスマスの帽子とマスクをした大谷が、毛皮を着た女、環(山本未来)と一緒にやってくる。女は、吉蔵を連れ外に出て、5千円を支払った。佐知は、吉蔵に、大谷の借金は大負けに負けて幾らになるかと尋ねて、その2万円を払うまで、ここで働いて返すことにする。


  根岸吉太郎、田中陽造による太宰治、何の文句があろうか・・・。物凄く楽しみにしていただけに、最後まで物足りなさが残る。カメラか、美術か、役者か・・・。うーん、我々の世代には、昭和の映画は作れないのかもしれないな。プログラムの中に、成瀬巳喜男の「浮雲」を、かなり研究したと自慢げに書いてあったが、哀しすぎる。

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