2008年11月1日土曜日

東京、日本、新宿

   恵比寿ガーデンシネマで黒沢清の『トウキョウソナタ(237)』。46歳の佐々木竜平(香川照之)は健康機器メーカーの総務課長、ある日総務機能を中国にアウトソーシングすることになり、何か他の仕事で会社に貢献するか辞めるか迫られて、退職する。帰宅しても専業主婦の妻、恵(小泉今日子)には言い出せず、翌日以降も普段通りに家を出るが、何もすることがない。野外生活者への炊き出しをしている公園で昼飯を貰って食べていると、高校の同級生黒須(津田寛治)に出会う。建設会社の社員の振りをしていたが、彼もリストラされて3ヶ月を経過していた。竜平の小6の次男、健二(井之脇海)は、授業中に担任(アンジャッシュの児島一哉、意外に好演)に叱られたことに納得出来ず、担任が電車内でエロ漫画を読んでいたことをばらす。それ以来担任の権威は失墜だ。ただ、革命だと大騒ぎしているクラスメイトたちにも納得できないものがある。
  帰り道ピアノ教室の金子先生(井川遥)に目が奪われる、ピアノを習いたくなるが、両親は駄目だと即答した。長男で大学生の貴(小柳友)は、バイトに明け暮れ朝帰りの毎日だったが、突然恵にアメリカ軍に志願したいと言い出した。竜平は職安に通うが、大企業の総務課長をしていたプライドを満足させる仕事は皆無。やっと面接に漕ぎ着けても、若い面接官に「あなたはうちの会社に何の貢献が出来るのか?得意なものをここで披露して下さい」と言われても何もできない。毎日会っていた黒須が公園に現れなくなり、心配した竜平が家を訪ねると、黒須は、一人娘を残し妻と無理心中していた。
  健次は、給食代をごまかしてピアノのレッスンを受けていた。音が出ない拾ったピアノで練習していただけだが、金子は彼の非凡な才能に気付く。給食費を誤魔化していたことが担任から恵に告げられ、ピアノ教室がバレた。恵は行かせてあげると言ったが、偶然金子からの音大の付属中への進学を勧める手紙を読んだ竜平は激怒、親の面子を言い立てる竜平に、恵は失業していることを知っていたと告げる。貴も、竜平の猛反対にも係わらず米軍に入隊する。竜平は渋々ながらショッピングモールの清掃の仕事を始める、家に強盗が入り、恵は顔を見たことで犯人の逃走の人質に、しかしその途中、偶然制服姿の竜平を目撃してしまった。動揺して逃げ出す竜平。彼はトイレの清掃中、大金を見つけてポケットに入れてしまっており、「どうやったら、やり直せる?」と叫びながら、走り続けるのだった。恵も、強盗(役所広司)の失敗続きの人生を聞くうちに、このまま車を走らせ家に帰らなくてもいいと思い始めていた…。
    第2の世界のクロサワ、ケチをつけるのはおこがましいが、小泉今日子スッピン風メイクで頑張っていたが、母の顔には見えなかったし、役所広司ちょっと芝居が大きくて『パコと不思議な絵本』のガマ王子みたいだったし、家出しようとした健二が無賃乗車で捕まって、黙秘して留置場の雑居房に入れられ、翌朝黙秘のまま指紋だけ採集して、不起訴処分で放免になる場面、一応子供だし、それじゃマズいだろ~(笑)。保護者を呼べ~!!。
  とは言え、勿論素晴らしい作品だ。日本社会は近代的家長制(外で夫がサラリーを稼ぎ、家長として妻子を養う)が崩れて、家族の幸せなイメージを共有しづらい時代になった。父親が家長として君臨することと、家族を守ることの難しさ。なんせ自分さえ守れない(苦笑)。勿論他人事ではない自分(更に苦笑)。肉親を、社会を、国を守るとはどういうことか。日本国籍を持った日本人の若者が、日本を守っている米軍に志願兵として参加し、中東に集団で派兵されるという、外人部隊とはだいぶ異なるかなり乱暴なフィクションは、現実に導入されたらそれなりの若者の心を捉えるだろうか。どこぞの漫画総理は、手を叩くかもしれない(苦笑)。しかし、守るという言葉はなんと曖昧なファンタジーなことか。恵の「自分はひとりしかいません。信じられるのはそれだけじゃないですか。」という台詞のほうがリアルだろう。最後に、健二が音大の付属中学の入試の実技で弾くのはドビュッシー。小6が演奏している筈の月の光でいい気持になってウトウトと。
    川崎市民ミュージアムで、73年東宝森谷司郎監督『日本沈没(238)』。懐かしいなあ。原作の小松左京がカメオ出演しているが、まだ随分と若い(笑)。今更ストーリーは書かない。CGなど無い時代の特撮だが、丁寧に撮ってあって、去年のリメイクよりもよかったんじゃないか。なによりも、丹波哲郎の総理、見応え充分。まあ、藤岡弘&いしだあゆみと草彅剛&柴咲コウの小野田と玲子は趣味が微妙に分かれると思うが。
    69年創造社大島渚監督『新宿泥棒日記(239)』。葛井欣士郎氏の『遺書』を読んでどうしても見直したかった作品。16、7の時だったから、何だか判らないものや知っている人が出るとスゲー!とびっくりしていただけのような気がしていたが、35年近く経っても大して理解力は変わっていなかった(苦笑)。
  新宿東口、褌姿になる唐十郎たちは、状況劇場の宣伝パフォーマンスをしているようだ。それを見ていた若い男(横尾忠則)は、紀伊国屋に入って、ジャン・ジュネ「泥棒日記」など数冊を万引きしたが、女(横山リエ)に捕まり、社長の田辺茂一(本人)のもとに連れていかれる。田辺は売り物は駄目だから自分が書いた売れない本を上げようと言って、名前を聞くと男は、丘の上鳥男と名乗った。鈴木ウメ子と名乗った女は、また明日来いと言って男を放す。翌日やはり男は数冊の本を盗む。やはり女は捕まえ、田辺のもとに、今度男は金を払う。彼は金に困っている訳ではないらしい。その夜、赤いネグリジェを盗む女を見つけ、男と女はラブホテルに、果たして彼女は処女だった(この部分カラー)。2人はゴーゴー喫茶に行く。いきなり女は店内で投石を始め、逮捕一晩留置される。引受人は田辺だった。田辺は2人を性科学者の高橋鐡(本人)のセックスカウンセリングを受けさせたり、田辺と俳優たちの飲み会(渡辺文男、佐藤慶、戸浦六宏、小松方正、劇作家山崎(正和?哲?)、他)に連れて行ったりする。そこらへんから、カラーモノクロが入り混じって虚実が不確かに。飲み会は、セックスについて論議しているが、絶対本人痛恨の酔っ払い赤面話だ。ただ、急に田辺の書いた「夜の市長」という色話の再現になり、戸浦が女を抱いていると雨が振るが、屋上で雨を降らしているのは、渡辺と佐藤たちだ。それを見ていた鳥男がウメ子に迫り、逃げるウメ子を西口のロータリーあたりで追いかけていると、後ろに渡辺、佐藤が付いてきており、何故か2人は鳥男を気絶させ、ウメ子を犯してしまう。花園神社では、状況劇場のテント公演が行われている。鳥男は、唐十郎に言われて、由井正雪として白塗りで舞台に上がることに。勿論お馴染みの李礼仙や赤麿兒、不破万作、四谷シモンらの姿も。その後、鳥男とウメ子は、紀伊国屋書店に。婦人トイレに隠れたウメ子は、深夜独り店内に。本屋は知と教養の迷宮だ。彼女はアトランダムに書籍のピラミッドを積み上げていく。ジョルジュ・バタイユ、吉元隆明、富岡多恵子、魯迅、スターリン・・・。大島本人含めた朗読の声が際限なく重なっていく。そこに、鳥男と田辺が現れる。ウメ子は、田辺に私を買ってくれと頼むと、田辺は断るがお金をくれた。二人は、赤テントに戻り激しく抱き合う。その夜、新宿は、群衆(その中に、渡辺、佐藤たちも)と機動隊が一触即発の事態に、東口交番が投石され、街の温度はどんどん上がっていく。
   目がキョロキョロ揺れて挙動不審な横尾の演技は、まあ万引き犯だからしょうがないし(笑)、文士劇であるかのように棒読みな田辺の台詞はご愛嬌だが、唐の異様なオーラは、凄い。当時の状況劇場の芝居見たかったなあ。でも10歳の小学生ではどうしようもないことだ(笑)。70年安保の時の新宿の空気を体感出来る作品だ。
   高田馬場にあるライブハウス四谷天窓で、実籾の歌姫小笠原愛の8月以来のライブ。5曲30分の演奏で、アンコールを受けて曲がないので、同じ曲をやっていたが(笑)、昔からのスタッフにサポートして貰って、のびのびと歌っていた。彼女の少しウェットな声に、今のフォーク系の分かり易い曲はとても合っている。中島みゆきさんのような重い歌以外にも、赤い鳥にいた平山泰代とかいい女性歌手いたので、頑張れ小笠原!  団塊世代のアイドルもありだぞ。みんなお金持ってるし。アンコールは、カバーでいいからもう1曲増やそうね(笑)。 何か一杯だけ飲みたくなって、ささら亭で、ポテサラとビール。

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