今日もまたまたまた池袋新文芸坐で加藤泰監督特集。
72年松竹『人生劇場 青春・愛欲・残侠編(228)』尾崎士郎原作。
大正5年三州横須賀、没落した肥料問屋辰巳屋の主人青成瓢太郎(森繁久弥)は息子の瓢吉(竹脇無我)への遺書を残して拳銃自殺をする。見送ったのは、妻おつね(津島恵子)と、出所したばかりの侠客、吉良常(田宮二郎)だけだった。瓢吉は、東京で作家を目指しながらお袖(香山美子)と同棲中だったが、葬儀で帰省するためにお袖を捨てる。
3年後、深川砂村の小金一家に、飛車角(高橋英樹)は、おとよ(倍賞美智子)と匿われていたが、デカ虎一家への出入りの助っ人を買って出る。その間おとよの面倒を頼んでいた兄貴分の奈良平(汐路章)は裏切り、おとよを元の女郎屋に返して金を貰っていたことを知り奈良平を殺す。追われていた飛車角を助けたのは、吉良常だった。だが、飛車角は捕まって前橋の刑務所に。その頃瓢吉は、熊本の女流小説家小岸照代(任田順好/沢淑子)と深い仲になっていた。原稿を書いているホテルにお袖がやって来たが、取り合わない。
大正11年、おとよとお袖(その頃お蝶と名乗っている)は、流れ流れて玉ノ井の鱶野という女郎屋で出会う。お蝶は、瓢吉を忘れられず、彼の小説が乗っている文芸雑誌を大事に持っていた。ある日鱶野に、飛車角の弟分の吉川(渡哲也)が偶然やってきて、おとよと出会う。おとよは、飛車角に似た匂いのする吉川に惚れ、吉川も渡世人の身内の女は抱かないという掟に悩みながらも、おとよに溺れていく。大晦日の夜、吉川とおとよは駆け落ちを決意する。お蝶は手引きし、待ち合わせのおでんやに向かうが、そこに偶然瓢吉が居合わせ、中を覗いて動揺したお蝶は、まだ来ていないので、もう一回りしようと嘘をつく。その時客の話からデコ虎一家の出入りを知り、吉川は慌て戻るが、既に小金親分(田中春男)を初め皆殺しにされていた。結局すれ違いになり、おときとお蝶は除夜の鐘を聞きながら2人で逃げる決意をする。
瓢吉は、世間に認められ始めた照代と上手くいかなくなっていた。そこで、再起を賭け上海に渡るが、着いたその夜に、麻薬と売春で阿漕な商売をしている欧米人をぶちのめして金を巻き上げている吉良常に出会う。再会を喜ぶ吉良常だが、瓢吉は素直になれない。蘇州へ向かう途中の船の中で、2人は酒を飲みながら、お互いの本音を吐露しあうのだった。
いよいよ飛車角の出所の日が来た。出迎えた吉良常は、おとよのことを全て話し、吉川のもとに案内する。頭を下げる吉川に、飛車角は、女のことは笑い飛ばしゃいいが、男として忘れていることがあるだろうと、3人で小金一家の仇討ちに向かう。多勢に無勢だったが、吉川は見事デカ虎を斬るが、死ぬ。
瓢吉の出版記念パーティーが盛大に行われている場所に、中学時代の恩師黒馬先生(笠智衆)が、飛車角からの吉良常危篤の電報を持って現れた。看病していた飛車角が宴席から逃げてきた芸者を助けると、おとよだった。追いかけて来た地元のやくざ達に「こいつは俺の女だ」と言ってぶちのめし、おとよを喜ばすが、飛車角は、まだ許す気持ちになれない。その頃、瓢吉は吉良常の病床で、瓢太郎の墓を作ってくれるよう頼まれていた。更に瓢吉を驚かせたのは、お袖が、辰巳屋を買い取って料理屋にしていた鰻裂きの三瓶(草野大吾)の妻に収まり、女将となっていたことだった。瓢吉、母おつね、お袖、床屋夫婦たちに見守られながら、吉良常は浪曲を一節唸って大往生するのであった。
松竹仁侠超大作。2時間40分を超える。まあ人生劇場を纏めたのたがら長くて当たり前か。まあ原作読んでいないので偉そうなことは全く言えない(苦笑)。学生時代に観た時は、とにかく長いのと、侠客はともかく、ただの作家気取りの主人公が、女にもてやがる上に貢がせやがってという僻み根性と、早稲田なら絶対観ろと言って無理矢理買わされたチケットで、学内で傷だらけの16㎜フィルムかなんかの上映で、どうも大学に馴染めない頃でもあって正直ムカついていた。
しかし今回は、吉良常、飛車角たちと、おとよとお袖の女2人かなり良かった。年取ったせいなのか。まあ人生50年(笑)。黒馬先生と吉良常が偶然出会って料理屋で無銭飲食で捕まるエピソードでの笠智衆の上半身モーニング、下は汚い褌という飄々とした姿や、瓢太郎の葬式の時の伴淳三郎のこんにゃく和尚など脇役も渋い。何よりも、倍賞美津子と香山美子の堕ちた女の切ない恋、2人とも情感溢れて素晴らしい。
神保町シアターで久松静児監督2作品。62年東京映画『喜劇 駅前温泉(229)』。福島会津にある駅前温泉。吉田徳之助(森繁久弥)と伴野孫作(伴淳三郎)は、旅館の主人同士、とても仲が悪い。徳之助の娘夏子(司葉子)と孫作の隠し子幸太郎(夏木陽介)が交際していることがわかって大騒動となる。2人の結婚を応援する観光協会の次郎(フランキー堺)、芸者の染太郎(池内淳子)、美容院の女主人景子(淡島千景)、他に、徳之助の軍隊時代の部下三木のり平、その妻淡路恵子、三下コンテストの飛び入り客、柳家金語楼、沢村貞子、赤木春江、孫作の異母妹で行き倒れの女菅井きん。脇役も上手いひとばかりで魅せる。芸者役で五月みどり。会津の警察署を舞台にしていた『警察日記』を連想させる、森繁と捨て子の女の子との交流で、余韻をもたせたエンディング。愛する娘を東京に嫁にやる父親の気持ちが伝わってくるいいシーンだなあ。
58年東京映画『みみずく説法(230)』今東光原作。河内の天台院という小さな寺に今野東吾(森繁久弥)という和尚がいた。貧しいながら、檀家や村の人々からは慕われているが、皆貧しく、今野の読経料は一回30円にしかならない。タイトルは、妻が夜更かしばかりする和尚にみみずく和尚と渾名し、朝吉親分(曽我廼家明蝶)から貰った本物のみみずくを飼っていることから来ている。今日は日曜日だが、檀家から頼まれた筈の説法に誰も現れない。果たして闘鶏があり檀家総代の貞やん(山茶花究)は連敗中の高安亭の主(田中春男)と勝負なのだ。皆の前で今年も貞やんは負け、朝吉や貞やんの娘和子(司葉子)たちは悔しがる。負けた軍鶏を締め、寺で鍋にする(苦笑)。
村で困ったことがあると皆和尚を頼りに相談にやって来る。ブラシの製造工場の社長である貞やんのもとに、昔の女に産ませた隠し子貞一郎(加藤春哉)が金をせびりに現れ、ブラシ用の豚の毛工場の豚の毛さん(織田政雄)にお金を貸してもらうことになるが、和尚は貞一郎にお金を渡しながら真っ当な大人になれと説くのだった。また、和子と仙吉(藤木悠)の結婚を貞やんに認めさせる時も、スタンドバーのおふじ(乙羽信子)が別れた夫に絡まれた時も、珍妙な服を着た雑誌の婦人記者(横山光代)が原稿依頼に来た時も、和尚は、しょうがないなあと思いながら、一肌脱ぐのだ。河内の人々と和尚の人間的な交流は、多分今東光の実話に近いものだろう。お嬢さん役のイメージが強い司葉子が、結婚式で、高島田のカツラを重いからと言って脱いでしまったり、足を崩したり、河内弁の快活な庶民的な娘を本当に楽しそうに演じているのが、気持ち良かった。まあ、森繁全盛期の何でも出来ることを思い知らされるこの何日。
新宿ジュンク堂で書籍仕入れ、西荻で、映画会社で自社館のの企画担当をしている友人と飲む。彼が企画した音楽監督林光の特集なかなかいいラインナップ。
1 件のコメント:
一昨日はありがとうございました。存分に楽しませていただきました。しかもリンクまで貼っていただいて感謝です。映画祭はもちろん、また呑みましょう。
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